(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】生体分子の親和性を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2018509900
(86)(22)【出願日】2016-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2016070119
(87)【国際公開番号】W WO2017032848
(87)【国際公開日】2017-03-02
【審査請求日】2019-06-17
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-02
(32)【優先日】2015-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,オロフ
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】三谷 知也
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】渡戸 正義
【審判官】樋口 宗彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512457(JP,A)
【文献】特表2013-512432(JP,A)
【文献】国際公開第2012/152941(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0252846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子の親和性を決定するための方法であって、
前記生体分子または類似する生体分子の既知特性に基づいて、理論的飽和応答値(Rmax)を決定する(101)ステップと;
リガンドとして前記生体分子をその上に固定化したセンサー表面を準備する(102)ステップと;
前記センサー表面と、前記リガンドと結合することのできる、異なる濃度のアナライトを含有する複数の試料とを接触させる(103)ステップと;
前記アナライトと前記リガンドの結合部位との結合から前記複数の試料の各々についての平衡応答
値(R)を
決定する(104)ステップであって、センサー応答が各々の試料についての平衡応答値
(R)を
決定するステップと;
前記決定された平衡応答値
(R)及び前記理論的飽和応答値(Rmax)を含む平衡応答数列を作製する(105)ステップと;
前記平衡応答数列に基づいて、前記複数の濃度についての解離定数の複数の値を決定する(106)ステップと;
前記解離定数の前記複数の値に基づいて、ゼロ濃度での理論的解離定数を決定する(107)ステップと
を特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法のステップを実施するように構成された、コンピュータに実行されるソフトウェア。
【請求項3】
請求項1に記載の方法を実施するために使用することのできるソフトウェアを保持するコンピュータで読取可能なデータ保存媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の親和性を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子の特性を決定するために使用することのできる分析用センサーシステムは、限定されるものではないが、薬剤研究および新薬開発をはじめとする多様な異なる分野で使用されている。そのようなシステムは、生体分子がセンサー表面に固定化されてリガンドとして機能し、既知濃度のアナライトを含有する試料がセンサー表面の上を通る、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することがある。リガンドとアナライトとの間の相互作用がセンサーによって検出され、複数の相互作用パラメータ、その中でも生体分子の親和性を決定することができる。親和性などの相互作用パラメータを決定するために使用することのできるその他の技術としては、熱量測定、熱泳動、および、用量反応曲線を生成することの可能ないくつかのその他の技術が挙げられる。
【0003】
親和性は、結合定数(KA)または解離定数(KD)として表すことができ、生体分子上の結合部位がアナライトと結合する能力を説明する。しかし、センサー表面の生体分子の配向に応じて、主な結合部位のほかに、アナライトに対して1以上の二次結合部位が存在することがあり、それは異なる親和性に関連していることがある。また、そのアナライトは固定化された分子と乱雑に結合するか(例えば、タンパク質の疎水性表面)、またはセンサー表面と直接に結合し、リガンドの特異的結合部位を避けることも可能である。低い親和性を正確に決定するためには、高い濃度が必要とされる。これらの測定値に関して、異なる結合部位の、多くの場合未知である特性を考慮に入れなければならない。このことは、この領域内での正確な測定値および評価に到達することを難しくする。
【0004】
そのため、これらの欠点のない、生体分子の親和性を決定するための改良された方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、上述の問題を排除するか、または少なくとも最小限に抑えることである。これは、ゼロ濃度での理論的解離定数が決定される、添付される独立クレームに従う生体分子の親和性を決定するための方法によって達成される。それにより、二次結合部位の影響を最小にすることができ、より高い濃度でのアナライトの挙動に関わらず、親和性の信頼できる値が達成される。
【0007】
本発明の一態様によれば、解離定数の複数の値は、解離定数の安定した値が得られるまで繰り返し決定される。この分析は、
平衡応答数列(sequence)に基づいて、平衡応答数列の最大濃度に対応する解離定数を決定すること
最大濃度に対応する平衡応答数列の平衡応答値を選択し、前記平衡応答値を除去すること、
平衡応答数列の最大残留濃度に対応する解離定数を決定し、最大濃度に対応する値を再び除去すること、および
解離定数を決定し、平衡応答数列から値を除去するプロセスを、決定された解離定数と最後の繰り返しで決定された解離定数との間の差が収束値よりも小さくなるまで繰り返すこと、および
一番新しく決定された解離定数をゼロ濃度での理論的解離定数として選択すること
によって実施される。
【0008】
それにより、解離定数の値が非常に低い濃度での安定した値に収束するまで計算を繰り返し、この値をゼロ濃度での親和性と見なすことができる。
【0009】
本発明のもう一つの態様によれば、解離定数の複数の値が決定されると、ゼロ濃度での理論的解離定数が外挿によって得られる。この分析は、
平衡応答数列に基づいて、平衡応答数列の最大濃度に対応する解離定数を決定すること、
最大濃度に対応する平衡応答数列の平衡応答値を選択し、前記平衡応答値を除去すること、
平衡応答数列の最大残留濃度に対応する解離定数を決定し、最大濃度に対応する値を再び除去すること、および
解離定数を決定し、平衡応答数列から値を除去するプロセスを、平衡応答数列に残る値が3個未満になるまで繰り返すこと、
各々の決定された解離定数を解離定数の決定で用いた最大濃度に対してプロットして複数のデータポイントを作製し、前記データポイントを曲線に当てはめること、および
ゼロ濃度に対応する、前記曲線に沿った値を、ゼロ濃度での理論的解離定数として選択すること
によって実施される。
【0010】
曲線当てはめを用いて、解離定数の信頼できる値と、それによりゼロ濃度での親和性を達成することができる。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、解離定数の複数の値の各々は、平衡応答数列から値を選択し、その値の両側の間隔を決定し、前記値および前記間隔に基づいて解離定数を決定することによって決定される。それにより、数列のあらゆる値を使用してそれらを1つずつ除去する方法の代わりとして、解離定数の信頼できる値は、1つの時点のたった1つの値と前記値の近傍を用いて得ることができ、従って平衡応答数列の値の中の外れ値の影響を最小にすることができる。
【0012】
本発明によれば、この方法は、好ましくは、特許請求の範囲に記載の本方法を実施するように構成されたソフトウェア、および前記ソフトウェアを格納するように構成された、コンピュータで読取可能な媒体によって実現される。それにより、本方法のステップは、進行中に手動による入力を必要としない、自動化された信頼できる方法で実施することができ、結果は、本発明の使用を増加させるために適した方法で提示することができる。
【0013】
本発明のより多くの利点および利益は、以下の詳細な説明から容易に明らかとなるであろう。
【0014】
本発明は、添付の図面を参照して、以下でさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法のステップの概略図を示す図である。
【
図2】
図1の方法の1ステップによる、異なる濃度での経時的なセンサー応答の図を示す図である。
【
図3】異なる濃度での
図2のセンサー応答を示す図である。
【
図4】
図1の方法の1ステップによる、異なる濃度での解離定数(KD)として表される親和性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に、生体分子の親和性を決定するために、実験は表面プラズモン共鳴(SPR)などのセンサーに基づく技術を用いて実施される。この技術に従って、リガンドとして公知の分析する生体分子がセンサー表面に導入され、その上に固定化される。リガンドと結合することのできるアナライトとして公知のその他の分子を既知濃度で含有する溶液が供給され、センサー表面の特性は、アナライトと結合するリガンドの量によって変化する。よって、センサー表面からのセンサー応答は、リガンドとアナライトとの間の相互作用を示し、これを分析してリガンドの親和性などの情報を得ることができる。以下では、本発明とともに使用されるセンサーに基づく技術は、SPRであると想定されているが、その他の同様のラベルフリー法および熱泳動または熱量測定などの溶液に基づく方法も使用されてよい点に留意されたい。
【0017】
検出器応答(Req(平衡時の検出器応答)と表される)、濃度(C)、平衡応答(Rmax)および解離定数(KD)の関係は、
Req=(Rmax1×C)/(C+KD1)+(Rmax2×C)/(C+KD2)+... 式1
と表すことができ、式ではリガンド上の各結合部位が1つの項を生成し、それ自体の平衡応答および親和性を有する。
【0018】
二次結合部位の項を組み合わせると単純化された発現が得られる:
Req=(Rmax1×C)/(C+KD1)+X 式2
高い濃度では、二次結合部位の検出器応答への寄与は増加し、項の分離は非常に難しくなる。しかし、低い濃度では、最初の項はかなり大きく、残りの項Xは0に向かって小さくなる。固定した平衡応答RまたはRmaxに決めることにより、それによってKDを見出すことができ、平衡応答値Rと関連づけることができる。
【0019】
よって、本発明の好ましい実施形態によれば、主な結合部位の解離定数KDは、ゼロ濃度での解離定数KDの値を理論的に求めることによって正確に決定することができる。この好ましい実施形態による方法を、図面を参照してこれから説明する。
【0020】
本発明の好ましい実施形態による第1のステップ101では、理論的飽和応答値Rmaxが、生体分子または類似する生体分子の既知特性に基づいて決定され、リガンドのあらゆる生体分子がアナライトと結合する状況を理論的に示す。この値は、当の生体分子に関する既知の理論的または実験的なデータから決定することができるが、類似する生体分子の既知特性に基づくものでもあり得る。そのような方法の1つは国際公開第2011/065913号によって示され、その他の方法も当分野で周知である。
【0021】
第2のステップ102では、センサー技術のセンサー表面が準備され、生体分子がリガンドとして前記表面に固定化される。第3のステップ103では、センサー表面と、リガンドと結合することのできる異なる濃度のアナライトを含む複数の試料とを接触させることにより、希釈系列が作成される。
【0022】
結果として生じるデータは、第4のステップ104で、複数の試料の各々についてアナライトとリガンドの結合部位との結合から平衡応答Rの形でセンサー応答を登録することによって収集され、センサー応答Rを各々の試料について経時的に示すグラフ(
図2参照)の形で示されることができる。登録したセンサー応答は、それにより各々の試料の平衡応答値を形成する。
【0023】
第5のステップ105では、複数の試料の各々の濃度についての平衡応答値Rを用いて平衡応答数列Rseqが作製される。平衡応答値Rは
図3に表示され、計算、曲線当てはめおよび理論的値の決定を実施するためのソフトウェアを使用して本発明を実行する一つの例に関して下でさらに説明される。
【0024】
第6のステップ106では、解離定数KDの複数の値が、前記平衡応答数列Rseqに基づいて複数の濃度について決定され、第7のステップ107では、ゼロ濃度での理論的解離定数KD0が解離定数KDの複数の値に基づいて決定される。
【0025】
第6および第7のステップ106、107は、本発明の異なる実施形態による異なる方法で決定されることができる。一実施形態によれば、第6のステップ106は、繰り返しによって実施され、そこでは各々のステップで平衡応答数列Rseqの最大濃度に対応する解離定数KDが平衡応答数列Rseqに基づいて決定され、決定された解離定数KDを次にその濃度と関連づけることができる。その後、平衡応答数列Rseqの最大値が除去され、残っている平衡応答数列Rseqの値が繰り返しの次のステップに使用される。
【0026】
このように、平衡応答数列Rseqに基づいて解離定数KDを決定し、その後数列Rseqから1つの値を除去するプロセスは、解離定数KDが1つの値に収束するまで繰り返される。これは、収束値を決定し、新しく決定された解離定数KDと前の繰り返しで決定された値との差を比較することによって決定される。前記差が収束値よりも小さい場合、繰り返しを停止し、一番新しい解離定数をゼロ濃度での理論的解離定数KD0に選択する。
【0027】
もう一つの実施形態によれば、ゼロ濃度での理論的解離定数KD0は、上に記載される前の実施形態に従って得られる解離定数KDの全ての値を収集し、それらを濃度に対してプロットし、曲線をプロットに当てはめることによって決定される。当てはめた曲線から、濃度がゼロである場合の曲線の値を用いることによって理論的解離定数KD0を得ることができる。
【0028】
平衡応答数列Rseq全体に基づいて解離定数KDの値の各々を決定する代替法として、平衡応答数列Rseqから1つの時点の1つの値を選択し、前記値の両側の間隔を決定することができる。次に、解離定数KDをその値の平衡応答Rの値およびその値の近傍に基づいて決定する。
【0029】
本方法のステップを実施するために、本方法のステップを実施するように構成されたソフトウェアを使用し、そのソフトウェアを格納するように構成された、コンピュータで読取可能な媒体を提供することが有利である。コンピュータで読取可能な媒体は、数ある中でも、ハードドライブ、USB、CDであり得る。
【実施例】
【0030】
本方法の使用を、これから例を参照して説明する。表面プラズモン共鳴装置を使用して、KM01757(分子量283.3Daの小分子)を、固定化された炭酸脱水酵素II(分子量29kDaのタンパク質)と結合するアナライトとして使用した。平衡応答Rmaxの理論的値は、固定化レベルの知識および分子の分子量に基づいて決定され、44RUであった。装置のセンサー表面でリガンドを固定化し、最低濃度で始めて最大濃度に向かって続いていく、明確に定義された様々な濃度のアナライトKM01757を含む複数の試料を使用して、センサー表面と順に接触させることによって希釈系列を作製した。濃度および対応する応答値は、下の表1に示され、
図2および
図3にも見ることができる。
【0031】
【表1】
表1の応答および理論的飽和応答値Rmaxを含む平衡応答数列Rseqを作製した。次に、数列Rseqに基づいて解離定数KDを決定し、1つの時点の1つの値を数列から除去する繰り返しを最大値から始めた。各々の解離定数KDを後の使用のために保存した。
図4のデータは、Rmax1を44RUに設定して、データを上の式1に当てはめることによって得た。
【0032】
3個未満の値が数列に残ったら、繰り返しを停止し、解離定数KDを濃度に対してプロットし、曲線当てはめ(この例では4変数方程式)を実施した:
y=f(C)=Rhi-(Rhi-Rlo)/(1+((C/A1)^A2))。
【0033】
結果として得られる曲線から、ゼロ濃度の解離定数KDの値をRloから得、それは1.23mMであった。
【0034】
本発明は、本明細書に記載される実施形態および実施例によって限定されるものと見なされるべきではなく、当業者にすぐに分かるように、添付される特許請求の範囲内で変更が可能である。例として、本発明による方法は、SPRに限定されず、数ある中でもバイオレイヤー干渉法、熱量測定または熱泳動などの定常状態データを提供することのできるその他の技術とともに、そして異なる分子とともに使用することができる。また、本明細書に記載される各々の実施形態は、当業者が望む場合にはその他の実施形態と自由に組み合わせることができることにも留意されたい。
【符号の説明】
【0035】
101 第1のステップ
102 第2のステップ
103 第3のステップ
104 第4のステップ
105 第5のステップ
106 第6のステップ
107 第7のステップ