(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20220620BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20220620BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220620BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220620BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20220620BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220620BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B1/02
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/10
C22B3/44 101A
C22B3/44 101Z
C22B7/00 H
(21)【出願番号】P 2018020078
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000189464
【氏名又は名称】上田石灰製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕介
(72)【発明者】
【氏名】橋口 正一
(72)【発明者】
【氏名】芝田 隼次
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-006020(JP,A)
【文献】特開2009-228030(JP,A)
【文献】特開昭59-185770(JP,A)
【文献】特開昭50-062102(JP,A)
【文献】特開2003-176112(JP,A)
【文献】特開2011-074410(JP,A)
【文献】特開2007-323868(JP,A)
【文献】特開2010-277868(JP,A)
【文献】梅村耕造,種々の雰囲気中でのニッケル,コバルトおよび鉄(II)シュウ酸塩2水和物の熱分解,日本化学会誌,日本,日本化学会,1975年06月10日,Vol.1975, No.6,p.969-975
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C01D 15/00-15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含有する廃棄物に無機酸を加え、有価金属が溶解された溶解液とリン及びスズを含む不純物を含有する沈殿物
を形成し、前記沈殿物を濾過して分離する分離工程と、
前記溶解液にシュウ酸を加えて有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を生成させる有価金属のシュウ酸塩生成工程と、
前記有価金属のシュウ酸塩を焼成して
、リン及びスズの含有量が各々0.1質量%以下である有価金属の酸化物を生成させる焼成工程とを含み、
前記無機酸の濃度は1~2Mであり、
前記有価金属の溶解液のpHは1.5~3.5であり、
前記有価金属はニッケルである有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記無機酸は硫酸、硝酸又は塩酸である請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記溶解液中に含まれる有価金属含有量を予め分析し、有価金属のシュウ酸塩生成工程において溶解液中の有価金属含有量に対して1~3当量のシュウ酸を加える請求項1
又は請求項2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、有価金属のシュウ酸塩の発熱を伴いながら350~800℃で焼成を行う請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属例えばニッケルを含む固体廃棄物や中間廃液からリン、スズ等の不純物を有効に分離でき、有価金属を容易に回収することができる有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ工場等から排出される廃液や廃スラッジ中にはニッケル、銅、亜鉛等の有価金属が含まれている。このため、そのような廃液や廃スラッジ中から有価金属を回収するために、中和凝集沈殿法、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法等の分離方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1にはニッケルスラッジからのニッケルの分離方法が開示されている。この分離方法は、ニッケルスラッジに硫酸溶液を添加してpHを4~6に調整して沈殿物と浸出液とに固液分離する浸出工程と、その浸出工程で得た浸出液を濃縮する濃縮工程と、濃縮工程で得た濃縮液を冷却して硫酸ニッケルの結晶を晶析させる冷却工程と、固液分離により硫酸ニッケルの結晶を回収する晶析工程とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1に記載されている従来構成のニッケルの分離方法では、浸出工程、濃縮工程、冷却工程及び晶析工程を経て硫酸ニッケルの結晶を得ている。このため、硫酸ニッケルの結晶を得るまでの工程数が多く、有価金属の回収が煩雑である上に、濃縮や結晶を晶出させる冷却には相当の時間を要し、回収効率が悪い。さらに、ニッケルスラッジにはリン、スズ等の不純物が含まれており、そのような不純物の含有量を簡易に低減させることが難しく、従って有価金属の含有量を十分に向上させることができなかった。なお、ニッケルの酸化物を得るには硫酸ニッケルを1000℃程度の高温で焼成する焼成工程が必要である。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、不純物の含有量を低減させるとともに、有価金属の含有量を向上させ、かつ簡易な方法で有価金属を回収できる有価金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の有価金属の回収方法は、有価金属を含有する廃棄物に無機酸を加え、有価金属の溶解液とリン及びスズを含む不純物の沈殿物に分離する分離工程と、前記有価金属の溶解液にシュウ酸を加えて有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を生成させる有価金属のシュウ酸塩生成工程と、前記有価金属のシュウ酸塩を焼成して有価金属の酸化物を生成させる焼成工程とを含む。
【0008】
このため、分離工程、シュウ酸塩生成工程及び焼成工程という簡単な工程の組合せで有価金属を回収することができる。さらに、分離工程において、有価金属は無機酸の塩となって溶解液中に存在する一方、不純物は沈殿物中に多く含まれるため、分離操作で溶解液から沈殿物が分離される。シュウ酸塩生成工程においては、有価金属がシュウ酸と速やかに反応してシュウ酸塩となって沈殿する一方、不純物はシュウ酸と反応し難く、溶解液中に残る傾向を示す。このため、分離操作により有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を取得することができる。
【0009】
焼成工程では、有価金属のシュウ酸塩が酸化され、目的とする有価金属の酸化物を含む焼成物を350℃の低温で得ることができる。従って、焼成物中の不純物の含有量を低減させることができるとともに、有価金属の含有量を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有価金属の回収方法によれば、不純物の含有量を低減させるとともに、有価金属の含有量を向上させ、かつ簡易な方法で有価金属を回収できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1について、浸出率(質量%)とpHとの関係を示すグラフ。
【
図2】実施例2について、浸出率(質量%)とpHとの関係を示すグラフ。
【
図3】実施例3について、浸出率(質量%)とpHとの関係を示すグラフ。
【
図4】実施例1について、析出時間(h)とpHとの関係を示すグラフ。
【
図5】実施例2について、析出時間(h)とpHとの関係を示すグラフ。
【
図6】実施例3について、析出時間(h)とpHとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における有価金属の回収方法は、有価金属が溶解された溶解液と不純物を含有する沈殿物に分離する分離工程と、有価金属のシュウ酸塩生成工程と、有価金属の酸化物を生成させる焼成工程とを含むものである。有価金属としては、メッキ工場の廃棄スラッジ等の廃棄物中に含まれるニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。また、不純物としては、例えばリン(P)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0013】
次に、前記各工程について順に説明する。
(分離工程)
前記分離工程は、有価金属を含有する廃棄物に無機酸(無機酸の水溶液)を加えて撹拌し、有価金属が溶解された溶解液と、リン及びスズを含む不純物を含有する沈殿物とに分離する工程である。すなわち、有価金属は無機酸の塩となって溶解液中に存在する一方、不純物の多くは不溶性の沈殿物となる。このため、常法に従って沈殿物を濾過して取り除くことにより、有価金属の溶解液を得ることができる。
【0014】
前記無機酸としては、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、塩酸(HCl)等の無機の強酸が好適に用いられる。無機酸の濃度は、1~2M(モル濃度)が好ましい。このように、無機の強酸を1~2Mの濃度で使用することにより、硫酸ニッケル(NiSO4)、硫酸銅(CuSO4)、硫酸亜鉛(ZnSO4)等を含む溶解液を高濃度で生成させることができる。すなわち、これら硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸亜鉛等は水に対する溶解度が高い。無機酸の濃度が1M未満の場合には、溶解液中に有価金属を十分に溶解させることができないことがある。一方、無機酸の濃度が2Mを超える場合には、溶解液中に不純物であるリンやスズの無機酸塩の共存量が増大することがある。
【0015】
(有価金属のシュウ酸塩生成工程)
前記有価金属のシュウ酸塩生成工程は、前述の溶解液にシュウ酸〔(COOH)2〕を加えて有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を生成させる工程である。有価金属(の無機酸塩)のイオンとシュウ酸とは常温で容易に反応して有価金属のシュウ酸塩が沈殿物となって析出する。析出した有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を常法に従って濾過することにより、不純物を溶解液中に残した状態で有価金属のシュウ酸塩を沈殿物として取得することができる。
【0016】
この場合、前記溶解液のpHは1.5~3.5であることが好ましく、この場合有価金属のシュウ酸塩の析出率を高めて有価金属の純度向上に資することができる。このpHが1.5未満の場合、有価金属のシュウ酸塩の析出に時間を要し、生成効率が低下する。その一方、pHが3.5を超える場合、前記分離工程で溶解液中における有価金属のイオンの含有量が低下する傾向がある。
【0017】
さらに、有価金属のシュウ酸塩生成工程では、予め溶解液中に含まれる有価金属含有量を分析し、その有価金属含有量に対して1~3当量のシュウ酸を加えることが好ましい。このように、溶解液中の有価金属含有量を予め分析し、それに対して過剰のシュウ酸を添加することにより、有価金属のシュウ酸塩を効率良く生成させることができる。シュウ酸の使用量が有価金属含有量に対して1当量未満の場合には、有価金属のシュウ酸塩を十分に回収することができない。その一方、3当量を超える場合には、シュウ酸の添加量が過剰となり、未反応のシュウ酸が多量に残存して無駄が生ずる。
【0018】
溶解液中に含まれる有価金属含有量の分析法としては、誘導結合プラズマ分析法(ICP分析法)、具体的にはICP-AES(ICP発光分光分析法)等が採用される。有価金属のシュウ酸塩としては、例えばシュウ酸ニッケル〔(COO)2Ni〕、シュウ酸銅〔(COO)2Cu〕、シュウ酸亜鉛〔(COO)2Zn〕等が挙げられる。この有価金属のシュウ酸塩生成工程で得られる有価金属のシュウ酸塩は、X線回折法(XRD法)等で分析して金属に特有のピークからその存在を確認することができる。
【0019】
(焼成工程)
前記シュウ酸塩生成工程で得られた有価金属のシュウ酸塩を焼成することにより有価金属の酸化物を生成させることができる。この焼成は、例えば電気炉等を使用し、有価金属のシュウ酸塩の発熱を伴いながら350~800℃の焼成温度で行われる。焼成温度が350℃を下回る場合には、焼成が不十分で、有価金属のシュウ酸塩から酸化物への転換が不足する傾向を示す。その一方、焼成温度が800℃を上回る場合には、焼成が過度となりやすく、有価金属の酸化物の分解が生じたりして好ましくない。有価金属の酸化物としては、酸化ニッケル(NiO、Ni2O3)、酸化銅(Cu2O、CuO)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。
【0020】
焼成後の有価金属の酸化物は、XRD法で金属特有のピークを確認することによってその存在を明らかにすることができる。そして、有価金属の酸化物を含む焼成物を王水に溶解させた後、前記ICP分析法で分析することにより、焼成物中の有価金属の含有量を定量することができる。
【0021】
次に、本実施形態の有価金属の回収方法について作用を説明する。
さて、有価金属を含有する廃棄物から有価金属を回収する場合には、まず分離工程において廃棄物に無機酸溶液を加え、有価金属のイオンを含有する溶解液と不純物を含有する沈殿物とに分離する。このとき、無機酸の濃度や添加量を調整することにより、溶解液中に含まれる有価金属の無機酸塩を増大させるとともに、沈殿物中に含まれる不純物の不溶解物を増大させることができる。
【0022】
続いて、シュウ酸塩生成工程において、溶解液にシュウ酸を加えて有価金属のシュウ酸塩の沈殿物を生成させる。この場合、ニッケル等の有価金属のイオンはシュウ酸との反応性が良く、有価金属のシュウ酸塩が速やかに生成して沈殿物となる。一方、リン、スズ等の不純物はシュウ酸との反応性が低く、前記溶解液中に残存しやすい。このため、有価金属と不純物との分離性を高めることができる。
【0023】
次いで、焼成工程において、有価金属のシュウ酸塩を焼成することにより、有価金属の酸化物を得ることができる。このとき、有価金属のシュウ酸塩から酸化物への反応は容易でかつ発熱反応であることから、弱い強制加熱で速やかに目的とする有価金属の酸化物を得ることができる。
【0024】
以上詳述した実施形態によって得られる効果を以下にまとめて記載する。
(1)この実施形態における有価金属の回収方法では、無機酸により有価金属が溶解された溶解液と不純物を含有する沈殿物に分離する分離工程と、溶解液にシュウ酸を加えて沈殿物を生成させる有価金属のシュウ酸塩生成工程と、有価金属のシュウ酸塩を焼成して有価金属の酸化物を生成させる焼成工程とを含む。このため、分離工程で有価金属と不純物との第1の分離を図り、さらにシュウ酸塩生成工程で有価金属と不純物との第2の分離を図ることができる。
【0025】
従って、この実施形態における有価金属の回収方法によれば、不純物の含有量を低減させるとともに、有価金属の含有量を向上させ、かつ簡易な方法で有価金属を回収することができる。
【0026】
(2)前記無機酸は硫酸、硝酸又は塩酸である。このため、これらの無機の強酸により、有価金属の無機酸塩を容易かつ迅速に形成することができる。
(3)前記無機酸の濃度は1~2Mである。そのため、溶解液中における有価金属の浸出率を高める一方、不純物の浸出率を抑制することができる。
【0027】
(4)前記有価金属の溶解液のpHは1.5~3.5である。従って、溶解液中における有価金属の浸出率を維持するとともに、有価金属のシュウ酸塩の析出時間を短縮することができる。
【0028】
(5)前記有価金属のシュウ酸塩の生成工程において、予め溶解液中に含まれる有価金属含有量を分析し、その有価金属含有量に対して1~3当量のシュウ酸を加える。この場合には、有価金属のシュウ酸塩を十分かつ速やかに生成させることができるとともに、シュウ酸の使用量を適切に設定することができる。
【0029】
(6)前記焼成工程では、有価金属のシュウ酸塩の発熱を伴いながら350~800℃で焼成を行う。このため、少ない強制加熱で焼成を迅速に行うことができるとともに、有価金属の酸化物を容易に取得することができる。
【0030】
(7)前記有価金属はニッケルである。この場合、焼成物中の酸化ニッケルの含有量を高め、不純物としてのリンやスズの酸化物の生成を抑制することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
反応容器内にニッケルの廃棄物であるニッケルスラッジ10gを収容し、そこに下記に示すモル濃度の硫酸を50mL添加して撹拌したところ、硫酸ニッケルを含む溶解液と、不純物を含む沈殿物とが得られた。常法に従って沈殿物を濾過し、硫酸ニッケルを含む溶解液を得た。この溶解液のpHを測定するとともに、溶解液中のニッケルと不純物であるリン及びスズの含有量(浸出率)をICP分析法で分析した。
【0032】
前記硫酸の濃度を0.5M(実施例1-1)、1.0M(実施例1-2)、1.5M(実施例1-3)、2.0M(実施例1-4)、3.0M(実施例1-5)、4.0M(実施例1-6)及び5.0M(実施例1-7)に設定した。
【0033】
次いで、前記溶解液に、ニッケルスラッジ中のニッケル量とほぼ当量のシュウ酸を加えて撹拌し、シュウ酸ニッケルの沈殿物を生成させた。この沈殿物の析出時間(h)を測定した。そして、前記沈殿物を常法により濾過して取得した。続いて、シュウ酸ニッケルを含む沈殿物を電気炉にて700℃で焼成し、酸化ニッケルを含む焼成物を得た。
【0034】
得られた焼成物を王水に溶解し、ICP分析法でニッケルと、不純物であるリン及びスズの含有量(質量%)を定量した。それらの結果を表1に示した。
また、前記溶解液のpHと浸出率(質量%)との関係を
図1に示し、溶解液のpHと析出時間(反応時間)との関係を
図4に示した。
【0035】
【表1】
表1に示したように、硫酸の濃度を1~2Mに設定することにより、溶解液中のニッケルの浸出率を90質量%以上に高めることができる一方、リン及びスズの浸出率をニッケルの浸出率より十分に低く抑えることができた。また、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を15.5h以内にすることができた。さらに、焼成物中のニッケルの含有量を70質量%以上にできるとともに、不純物であるリン及びスズの含有量を各々0.1質量%以下に抑えることができた。
【0036】
また、
図1に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、ニッケルの浸出率を高め、リン及びスズの浸出率を抑えることができた。さらに、
図4に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を短くすることができた。
【0037】
(実施例2)
反応容器内にニッケルスラッジ10gを収容し、そこに1Mの硝酸を50mL添加して撹拌したところ、硝酸ニッケルを含む溶解液と、不純物を含む沈殿物とが得られた。常法に従って沈殿物を濾過し、硝酸ニッケルを含む溶解液を得た。この溶解液のpHを測定するとともに、溶解液中のニッケルと不純物であるリン及びスズの含有量(浸出率)をICP分析法で分析した。
【0038】
前記硝酸の濃度を0.5M(実施例2-1)、1.0M(実施例2-2)、1.5M(実施例2-3)、2.0M(実施例2-4)、3.0M(実施例2-5)、4.0M(実施例2-6)及び5.0M(実施例2-7)に設定した。
【0039】
次いで、前記溶解液に、ニッケルスラッジ中のニッケル量とほぼ当量のシュウ酸を加えて撹拌し、シュウ酸ニッケルの沈殿物を生成させた。この沈殿物を常法により濾過して取得した。続いて、シュウ酸ニッケルを含む沈殿物を電気炉にて700℃で焼成し、酸化ニッケルを含む焼成物を得た。
【0040】
得られた焼成物を王水に溶解し、ICP分析法でニッケルと、不純物であるリン及びスズの含有量を定量した。それらの結果を表2に示した。
また、前記溶解液のpHと浸出率(質量%)との関係を
図2に示し、溶解液のpHと析出時間(h)との関係を
図5に示した。
【0041】
【表2】
表2に示した結果より、硝酸の濃度を1~2Mに設定することにより、溶解液中のニッケルの浸出率を比較的高くすることができる一方、リン及びスズの浸出率をニッケルの浸出率より十分に低く抑えることができた。また、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を14h以内にすることができた。さらに、焼成物中のニッケルの含有量を70質量%以上にできるとともに、不純物であるリン及びスズの含有量を各々0.1質量%以下に抑えることができた。
【0042】
また、
図2に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、ニッケルの浸出率を高め、リン及びスズの浸出率を抑えることができた。さらに、
図5に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を短くすることができた。
【0043】
(実施例3)
反応容器内にニッケルスラッジ10gを収容し、そこに1Mの塩酸を50mL添加して撹拌したところ、塩化ニッケルを含む溶解液と、不純物を含む沈殿物とが得られた。常法に従って沈殿物を濾過し、塩化ニッケルを含む溶解液を得た。この溶解液のpHを測定するとともに、溶解液中のニッケルと不純物であるリン及びスズの含有量(浸出率)をICP分析法で分析した。
【0044】
前記塩酸の濃度を0.5M(実施例3-1)、1.0M(実施例3-2)、1.5M(実施例3-3)、2.0M(実施例3-4)、3.0M(実施例3-5)、4.0M(実施例3-6)及び5.0M(実施例3-7)に設定した。
【0045】
次いで、前記溶解液に、ニッケルスラッジ中のニッケル量とほぼ当量のシュウ酸を加えて撹拌し、シュウ酸ニッケルの沈殿物を生成させた。この沈殿物を常法により濾過して取得した。続いて、シュウ酸ニッケルを含む沈殿物を電気炉にて700℃で焼成し、酸化ニッケルを含む焼成物を得た。
【0046】
得られた焼成物を王水に溶解し、ICP分析法でニッケルと、不純物であるリン及びスズの含有量を定量した。それらの結果を表3に示した。
また、前記溶解液のpHと浸出率(質量%)との関係を
図3に示し、溶解液のpHと析出時間(h)との関係を
図6に示した。
【0047】
【表3】
表3に示したように、塩酸の濃度を1~2Mに設定することにより、溶解液中のニッケルの浸出率を比較的高くすることができる一方、リン及びスズの浸出率をニッケルの浸出率より十分に低く抑えることができた。また、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を20h以内にすることができた。さらに、焼成物中のニッケルの含有量を65質量%以上にできるとともに、不純物であるリン及びスズの含有量を各々0.1質量%以下に抑えることができた。
【0048】
また、
図3に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、ニッケルの浸出率を高め、リン及びスズの浸出率を抑えることができた。さらに、
図6に示すように、溶解液のpHを1.5~3.5の範囲に設定することにより、シュウ酸ニッケルの沈殿物の析出時間を短くすることができた。
【0049】
(実施例4)
実施例1において、ニッケルスラッジの使用量を133kg、1Mの硫酸の使用量を650Lとした以外は実施例1と同様に実施し、酸化ニッケルの焼成物を得た。得られた焼成物を王水に溶解し、ICP分析法でニッケルと、不純物であるリン及びスズの含有量(質量%)を定量した結果、ニッケル68.5質量%、リン0.06質量%及びスズ0.06質量%であった。
【0050】
従って、ニッケルスラッジの使用量を増大しても、実施例1~3と同様にニッケルの回収率を高め、不純物の含有量を抑制することができた。
(実施例5)
前記実施例1の焼成工程において、シュウ酸ニッケルを含む沈殿物の焼成温度を300~900℃に100℃間隔で変化させるとともに、焼成時間を30~120分まで30分間隔で変化させ、焼成物中のニッケルの含有量(質量%)をICP分析法で定量した。その結果を表4に示した。
【0051】
【表4】
表4に示したように、焼成温度が350℃以上になると焼成物中のニッケルの含有量が70質量%に近くに達し、焼成温度が800℃までニッケルの含有量が増加することがわかる。従って、シュウ酸ニッケルを含む沈殿物の焼成温度は350~800℃が好ましい。
【0052】
(比較例1)
反応容器内にニッケルスラッジ10gを収容し、そこに1Mの硫酸50mLを添加して撹拌したところ、硫酸ニッケルを含む溶解液と、不純物を含む沈殿物とが得られた。常法に従って沈殿物を濾過し、硫酸ニッケルを含む溶解液を得た。この溶解液に、ニッケルスラッジ中のニッケル量とほぼ当量の水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、水酸化ニッケルの沈殿物を生成させた。この沈殿物を常法により濾過して取得した。続いて、水酸化ニッケルの沈殿物を電気炉にて700℃で焼成し、酸化ニッケルを含む焼成物を得た。
【0053】
得られた焼成物を王水に溶解し、ICP分析法でニッケルと、不純物であるリン及びスズの含有量を定量した結果、ニッケル63.4質量%、リン4.3質量%及びスズ3.8質量%であった。この結果から、焼成物中の不純物であるリン及びスズの含有量がそれぞれ0.1質量%を遥かに超える高い値を示した。
【0054】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・前記分離工程の前に、廃棄物中の夾雑物を濾過して除去するなどの前処理工程を設けてもよい。
【0055】
・前記焼成工程の後に、焼成物の粒度を調整するなどの後処理工程を設けることも可能である。
・前記廃棄物中には、複数の有価金属が含まれていても差支えない。
【0056】
・前記有価金属のシュウ酸塩に代えて、有価金属の炭酸塩や有価金属の水酸化物を生成させるように構成してもよい。