(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】静電容量式近接センサ
(51)【国際特許分類】
H01H 36/00 20060101AFI20220620BHJP
G01V 3/08 20060101ALI20220620BHJP
H03K 17/955 20060101ALI20220620BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H01H36/00 D
G01V3/08 D
H03K17/955 A
G01B7/00 102C
G01B7/00 101C
(21)【出願番号】P 2018187946
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000220125
【氏名又は名称】東京パーツ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保 守
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-235961(JP,A)
【文献】特開2017-173121(JP,A)
【文献】特開2017-219393(JP,A)
【文献】特開2017-33844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0276234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 36/00
G01V 3/08
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に用いられる静電容量式近接センサであって、
自動車の下部に略直線状に配された1本の細長いセンサ電極と、
所定の間隔を空けて前記センサ電極に対して略平行に配された1本の細長い接地電極と、を備え、
前記センサ電極は、前記接地電極よりもユーザが通過する領域から遠い側に配され、
前記センサ電極には、ユーザの足部を検知するために高周波信号が入力され、
前記接地電極の設置高さは、前記センサ電極の設置高さ以上である、
ことを特徴とする静電容量式近接センサ。
【請求項2】
前記センサ電極と前記接地電極の水平方向の間隔は、3cm以上12cm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項3】
前記センサ電極と前記接地電極の垂直方向の間隔は、0cm以上12cm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項4】
前記センサ電極と前記接地電極の少なくとも一方は電線からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項5】
前記電線は1往復以上となるように折り曲げられている、
ことを特徴とする請求項4に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項6】
前記電線は同軸ケーブルである、
ことを特徴とする請求項4に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項7】
前記センサ電極は同軸ケーブルであり、前記同軸ケーブルの外部導体に前記高周波信号が入力される、
ことを特徴とする請求項6に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項8】
前記接地電極は同軸ケーブルであり、前記同軸ケーブルの外部導体が接地される、
ことを特徴とする請求項6に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項9】
前記センサ電極と前記接地電極の水平方向の間隔は、3cm以上12cm以下であり、
前記高周波信号の周波数は、200kHz以上1000kHz以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項10】
前記センサ電極の自己静電容量の変化に応じて、前記高周波信号が間欠発振から連続発振に切り替えられ、
前記高周波信号が間欠発振中に、キャリブレーションを実施するか否かのキャリブレーション実施判定が行われる、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項11】
前記キャリブレーション実施判定において、
一定期間中に物体が前記センサ電極に近接していないときの検出電圧が所定値以上変化した場合、もしくは、前記高周波信号の周波数を上げた後と上げる前の検出電圧の差が所定値以下の場合、キャリブレーションのフラグがONされる、
ことを特徴とする請求項10に記載の静電容量式近接センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のリアバンパー内に設置され、ユーザの足部を検出する静電容量式近接センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両ドア(バックドアやスライドドア等)の開閉のために車両の下部に設置された静電センサを用いてユーザの足部を検知し、その検知結果に基づいて車両ドアの開閉を行う技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ユーザの足部を検知する複数の下段静電センサと、ユーザの足部を除く身体を検知する上段静電センサ、を有する車両ドア開閉装置が記載されている。この車両ドア開閉装置では、下段静電センサのセンサ部の1つからの検知信号と上段静電センサからの検知信号が得られた場合に、車両のドアを開駆動又は閉駆動するための駆動信号がドアの駆動装置へ出力される。一方、下段静電センサのセンサ部の2つ以上から検知信号が得られた場合には、駆動信号がドアの駆動装置へ出力されないようにしている。
【0004】
特許文献1の車両ドア開閉装置によれば、下段静電センサの少なくとも2つのセンサ部でユーザを検知すると車両ドアの開閉を開始しない又は停止するため、ユーザの安全性を保つことができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、車両ドアを非接触で作動させるための2つの近接センサを有するセンサユニットが記載されている。このセンサユニットをテールゲートの開閉用として用いる場合には、センサユニットは車両のリアバンパー内に車両の横断方向と平行に配置され、一方の近接センサの検出領域が他方の近接センサの検出領域を越えて突出するようにしている。
【0006】
特許文献2のセンサユニットによれば、少なくとも2つの近接センサによって生成される信号を評価することにより、Y方向の動きと、X方向またはZ方向の動きとを区別することができ、ユーザによる車両ドアの開閉要求を精度良く検出できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-21238号公報
【文献】特表2014-500414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1と特許文献2に記載の装置では、ユーザの身体と足部をそれぞれ個別の静電センサで検出しているため、これらの検出を別々に確実に行うためには、各静電センサの検出領域が重複しないようにする必要がある。
ところが、ユーザの足部を検出してバックドアやスライドドアの開閉装置に用いられる静電センサでは、例えばフロントドアのアウトドアハンドル内に設置される静電センサよりも広い検出領域が要求される。
このため、特許文献1と特許文献2に記載のものでは、車両ドア開閉装置やセンサユニットの設置に必要な面積が大きくなり、車種によっては適用できない問題がある。また、2つ以上の静電センサを用いる必要があるため、コストアップの問題もある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、設置面積が小さく、低コスト化を実現することができる静電容量式近接センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
自動車に用いられる本発明の静電容量式近接センサの一実施態様は、
自動車の下部に略直線状に配された1本の細長いセンサ電極と、
所定の間隔を空けて前記センサ電極に対して略平行に配された1本の細長い接地電極と、を備え、
前記センサ電極は、前記接地電極よりもユーザが通過する領域から遠い側に配され、
前記センサ電極には、ユーザの足部を検知するために高周波信号が入力され、
前記接地電極の設置高さは、前記センサ電極の設置高さ以上である、
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の静電容量式近接センサは、さらなる特徴として、
「前記センサ電極と前記接地電極の水平方向の間隔は、3cm以上12cm以下であること」、
「前記センサ電極と前記接地電極の垂直方向の間隔は、0cm以上12cm以下であること」、
「前記センサ電極と前記接地電極の少なくとも一方は電線からなること」、
「前記電線は1往復以上となるように折り曲げられていること」、
「前記電線は同軸ケーブルであること」、
「前記センサ電極は同軸ケーブルであり、前記同軸ケーブルの外部導体に前記高周波信号が入力されること」、
「前記接地電極は同軸ケーブルであり、前記同軸ケーブルの外部導体が接地されること」、
「前記センサ電極と前記接地電極の水平方向の間隔は、3cm以上12cm以下であり、前記高周波信号の周波数は、200kHz以上1000kHz以下であること」、
「前記センサ電極の自己静電容量の変化に応じて、前記高周波信号が間欠発振から連続発振に切り替えられ、
前記高周波信号が間欠発振中に、キャリブレーションを実施するか否かのキャリブレーション実施判定が行われること」、
「前記キャリブレーション実施判定において、
一定期間中に物体が前記センサ電極に近接していないときの検出電圧が所定値以上変化した場合、もしくは、前記高周波信号の周波数を上げた後と上げる前の検出電圧の差が所定値以下の場合、キャリブレーションのフラグがONされること」、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の静電容量式近接センサによれば、検出領域を自動車の車体の下方もしくは斜め下方に効果的に限定することができるため、1つのセンサ電極だけでユーザの足部を検出し、バックドアやスライドドアの開閉装置を制御することができる。また、検出用のセンサ電極が1つだけであるため、検出領域の重複を回避する必要がなく、設置面積を小さくできるとともに、センサのコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサの自動車への設置状態を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサおける周波数特性であり、検出物がない状態S
11と検出物がある状態S
X1を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサによる足部の検出状態を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサにおいて実行する検出処理を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサにおけるキャリブレーション実施判定のフローチャートである。
【
図7】キャリブレーション実施判定について説明するためのグラフである。
【
図8】キャリブレーション実施判定について説明するためのグラフである。
【
図9】キャリブレーション実施判定について説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態例を説明する。
【0015】
本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサ1は、
図1のように自動車100の後方下部に位置するリアバンパ101内に設置され、ユーザがリアバンパ101の下側に足部を差し入れる動作をすると、バックドア102の開閉制御を自動的に実現するものである。
【0016】
本例の近接センサ1は、
図2のブロック図に示すように、主にセンサ回路10、検出回路20およびマイコン30で構成されている。
【0017】
センサ回路10は、コイルLとコンデンサCと抵抗Rがこの順で直列に接続されたLCR直列共振回路と、センサ電極11と、接地電極12を備えている。
センサ電極11には、自動車100のユーザの足部を検知するために、高周波信号生成部33から所定の高周波信号S0が入力される。
センサ電極11は、コイルLの下流側で且つコンデンサCの上流側のセンサ電極接続点P1に、コンデンサCと並列に接続されている。このセンサ電極11に人体の足部等が近接すると、センサ電極11の自己静電容量が増加する。
本例のコイルLのインダクタンスは10mH、コンデンサCの静電容量は7pF、抵抗Rの抵抗は470Ωであるが、これらの値は適宜設定することができる。
【0018】
センサ電極11と接地電極12は、リアバンパ101の内側に自動車100の車幅方向(
図1の紙面垂直方向)に沿って互いに所定の間隔を空けて略平行に直線状に配される。
センサ電極11と接地電極12の材料は特に限定されるものではなく、絶縁電線、同軸ケーブル、銅板等の導電性金属板などを用いることができ、絶縁電線や同軸ケーブルを用いる場合には、1往復以上となるように折り曲げて使用することにより容易に電極面積を増して感度調整を行うことができる。
【0019】
本例では、センサ電極11と接地電極12として同軸ケーブルを用いている。そして、センサ電極11では同軸ケーブルの外部導体に高周波信号S0を入力し、接地電極12では同軸ケーブルの外部導体を接地(回路GND)している。センサ電極11と接地電極12として同軸ケーブルを用いることにより、これらを比較的容易に線状に配置することができる。また、同軸ケーブルの外部導体を電極として用いることにより、電極面積を稼ぐことができ、センサの検出能力を高めることもできる。
なお、本例では同軸ケーブルの内部導体を利用していないが、内部導体にも高周波信号を入力したり接地(回路GNDしてもよい。
【0020】
センサ電極11は、接地電極12よりもユーザが通過する領域から遠い側に配される。つまりセンサ電極11は接地電極12よりも車体の奥側(
図1の右側)に配される。一方、接地電極12は、センサ電極11と同等若しくはセンサ電極11よりも高い位置に配される。
このように両電極を配置することにより、ユーザがリアバンパ101の下側に足部(足の甲)を差し入れる動作を行った際、センサ電極11がユーザの足部(足の甲)の近くに位置し、ユーザの足部を検出することができる。一方、ユーザがリアバンパ101の近くを通過しただけでは、ユーザの脚部(脛)の近くに接地電極12が位置することになるため、ユーザの脚部(脛)には反応しない。
【0021】
接地電極12を設けずにセンサ電極11だけであると、検出領域が全方位に拡散するため誤検出を招き易い。具体的には、ユーザの脚部(脛)は足部に比べて静電容量がかなり大きいため、ユーザがリアバンパ101の近くを通過しただけでも脚部に反応し易くなり、誤検出の原因となる。
【0022】
センサ電極11と接地電極12の水平方向の間隔Wは、3cm以上12cm以下が好ましく、4cm以上10cm以下が特に好ましい。間隔Wが3cm未満であると、検出領域が狭くなり過ぎて、ユーザの足部を検出するのが困難になり易い。一方、間隔Wが12cmを超えると、近接センサ1の設置に必要な面積が大きくなり過ぎてコストアップを招く。
また、センサ電極11と接地電極12の垂直方向の間隔Hは、0cm以上12cm以下が好ましく、2cm以上10cm以下が特に好ましい。センサ電極11が接地電極12よりも高い位置にあったり、接地電極12がセンサ電極11よりも12cm超高い位置にあると、ユーザが自動車100に接近したまま通過しただけでも脚部全体に反応し易くなり、誤検出の原因となり易い。
【0023】
検出回路20は、半波整流用のダイオード21と、ローパスフィルタを構成する固定抵抗22とコンデンサ23、および増幅器(バッファ回路)24を有する。
この検出回路20は、センサ回路10から出力された電気信号に基づいて、センサ電極11の自己静電容量に応じた判定電圧信号S1を出力する。具体的には、検出回路20は、コンデンサCの下流側で且つ抵抗Rの上流側の検出点P3における電気信号に基づいて判定電圧信号S1を出力する。ダイオード21はコンデンサCと検出点P3の間の整流点P2に接続されている。
なお、検出回路20は、センサ電極11の自己静電容量に応じた判定電圧信号S1を出力するものであれば任意の回路構成が可能である。また、抵抗Rの抵抗値を低くすることにより、ノイズの影響を受けにくくすることができる。
【0024】
本例のように、センサ回路10のコンデンサCの下流側で且つ抵抗Rの上流側の検出点P3の電気信号を検出回路20に入力することにより、入力インピーダンスの高い安価な検出回路を用いてセンサ電極11の自己静電容量を検出することができる。具体的には、本例の近接センサ1では、LCR直列共振回路に流れる電流を電圧に変換して検出回路20に入力しており、検出回路20はセンサ電極11に直接、接続されていない。このため、検出回路20によるセンサ電極11の自己静電容量に対する影響が少なく、環境温度変化等によって検出回路20の入力インピーダンスが多少変化しても、センサ電極11の自己静電容量を検出することができる。
【0025】
マイコン30は、ADコンバータ31、制御部32、高周波信号生成部33を有する。
ADコンバータ31は、検出回路20から入力された判定電圧信号S1をA/D変換し、判定信号S2として制御部32に出力する。
制御部32は、詳しくは後述するが、高周波信号生成部33に制御信号S3を出力する他、判定信号S2に基づき人の足部がセンサ電極11に近接したと判断した場合には人の検知信号S4を出力する。
発振手段としての高周波信号生成部33は、詳しくは後述するが、制御部32から入力される制御信号S3に基づき、所定の周波数および所定のデューティ比の高周波信号S0をセンサ回路10に出力する。
【0026】
本例では高周波信号S0として、矩形波状の高周波信号を用いている。高周波信号S0の周波数は、特に限定されるものではないが、本例のように近接センサ1をリアバンパ101内に設置してユーザの足部を検出する用途では、検出領域や検出感度を考慮すると200kHz以上1000kHz以下が好ましい。なお、高周波信号S0としては、矩形波に限らず正弦波や三角波等であってもよい。
【0027】
センサ回路10に入力された高周波信号S0は、コイルLとコンデンサC(およびセンサ電極11の自己静電容量)により歪まされ、立上がりおよび立下がりが遅れた鋸歯状波に近い波形となり、ダイオード21により半波整流される。そして、検出点P3における電気信号は、ローパスフィルタを構成する固定抵抗22とコンデンサ23によって平滑化された後、バッファ回路24を介して直流に近い判定電圧信号S1が出力される。
【0028】
図3は、ある一定の周囲環境下において、センサ回路10に入力される高周波信号S
0の周波数f(横軸)と、判定電圧信号S
1(縦軸)との関係を示している。
図3において、S
11は物体がセンサ電極11に近接していないときのグラフであり、S
X1は人の足部がセンサ電極11に近接したときのグラフである。
図3に示されるように、人の足部がセンサ電極11に近接したときの共振周波数f
X1は、物体がセンサ電極11に近接していないときの共振周波数f
11よりも低い。これは、人の足部がセンサ電極11に近接するとセンサ電極11の自己静電容量が増えることによる。
本例の近接センサ1では、ある一定の周囲環境下において、f
11は約450kHz、f
X1は約445kHzであるが、周囲環境が変わってもf
11とf
X1の差は約5kHzとほぼ一定である。
また、物体がセンサ電極11に近接していないときのピーク電圧(
図3の点P
11の電圧)と、人の足部がセンサ電極11に近接したときのピーク電圧(
図3の点P
X1の電圧)は、周囲環境が変わってもほぼ同じV
PKである。
【0029】
次に、本例における人の足部の検知方法を簡単に説明する。
まず、物体がセンサ電極11に近接していないときの共振周波数f11よりも5kHz低い周波数を検出周波数に設定する。つまり、本例では人の足部がセンサ電極11に近接したときの共振周波数fX1を検出周波数に設定している。
検知を行う際は、検出周波数fX1の高周波信号S0をセンサ電極11に印加する。だだし、気候や周囲の環境の変化に応じて、物体がセンサ電極11に近接していないときの共振周波数が変化するため、後述のキャリブレーションを実施することによって、検出周波数を再設定している。
【0030】
また、物体がセンサ電極11に近接していないときに検出周波数f
X1の高周波信号をセンサ回路10に入力した際の判定電圧信号(
図3の点P
B1の電圧)を基準電圧V
B、人の足部がセンサ電極11に近接したときに検出周波数f
X1の高周波信号をセンサ回路10に入力した際の判定電圧信号(
図3の点P
X1の電圧)を検出電圧V
PKとしたとき、
V
B<V
th1<V
PK
の関係を満足する第1の閾値V
th1が設定される。
本例では、
V
th1=(V
B+V
PK)/2
に設定している。
【0031】
なお、検出周波数f
X1と第1の閾値V
th1は、近接センサ1が実際に配される自動車を想定して事前に得られた
図3の各データに基づいて決定し、予めマイコン30に初期設定値として格納しておくことができる。
【0032】
本例では、
図4に示すように、ユーザ40が足部41をリアバンパー101の下方に差し入れ、検出領域11aに足部41が入ると、判定電圧信号S
1が基準電圧V
Bから検出電圧V
PKに変化し、第1の閾値V
th1以上になる。この状態が所定時間(もしくは所定回数)連続して検出されると、制御部32は人の検知信号S
4を出力し、バックドア102の開閉制御が行われる。
【0033】
次に、本例の近接センサ1による検出動作を
図5と
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
(ステップS0)
まず、電子キーを携帯したユーザが自動車100に近づくと、車載の認証システムと電子キーとの間で無線通信が行われ、当該自動車の正規の電子キーであることの認証が行われる。なお、この認証は、スマートエントリーシステムにおける公知の認証方法で行うことができる。
正規の電子キーであることの認証が行われると、近接センサ1が駆動する。
【0035】
(ステップS1)
制御部32はセンサーシステムの初期化を実行し、内部レジスタやメモリのクリアを実行するとともに、キャリブレーションのフラグをONする。
【0036】
(ステップS2)
制御部32は、高周波信号生成部33から出力する高周波信号S0の周波数を所定のデューティ比で間欠発振させる。本例では、初期のキャリブレーションで得られた検出周波数fX1(445kHz)の高周波信号S0を出力する。
【0037】
(ステップS3)
検出回路20から入力された最新の判定電圧信号S1をADコンバータ31がA/D変換すると、ADコンバータ31から最新の判定信号S2が制御部32に出力されるが、ここでは最新の判定信号S2が出力されているか否かを判断する。
最新の判定信号S2が出力されている場合はステップS4に進み、最新の判定信号S2が出力されていなければステップS2に戻る。
【0038】
(ステップS4)
キャリブレーションのフラグがONであれば、制御部32は、高周波信号生成部33から出力する高周波信号S0の周波数を所定のデューティ比で間欠発振させ、約300kHzから600kHzの範囲で少なくとも1回走査するように発振制御する。これにより、物体がセンサ電極11に近接していないときの最新の共振周波数が検出される。そして、検出周波数は、この最新の共振周波数よりも5kHz低く設定される。
なお、近接センサ1の駆動初期は、ステップS1においてキャリブレーションのフラグをONにしているため、常にキャリブレーションが行われる。
【0039】
(ステップS5)
キャリブレーションのフラグがONのままであればステップS2に戻る。一方、キャリブレーションのフラグがOFFの場合は、制御部32は、高周波信号S0の周波数を検出周波数とする。
【0040】
(ステップS6)
検出中フラグがONの場合はステップS7に進み、検出中フラグがOFFの場合はステップS8に進む。なお、検出中フラグがONの間は、センサ回路10に出力される高周波信号S0が検出周波数で連続発振となるように制御されている。
【0041】
(ステップS7)
判定電圧信号S1が第1の閾値Vth1よりも低くなったか否かを判定する。
判定電圧信号S1が第1の閾値Vth1より低くなっていれば、検出中フラグをOFFとし、検出解除が行われて連続発振から間欠発振に切り換わり、ステップS2に戻る。
判定電圧信号S1が第1の閾値Vth1以上のままであれば、連続発振のままステップS2に戻って検出が続けられる。
【0042】
(ステップS8)
連続発振中であれば、ステップS11に進む。一方、間欠発振中であれば、ステップS9に進む。
【0043】
(ステップS9)
図6のフローチャートのステップS91からS98を行い、キャリブレーションの実施判定を行う。
【0044】
(ステップS91)
まず、直前のキャリブレーションで設定された検出周波数fxでの現在の判定電圧信号S1と、物体がセンサ電極11に近接していないときの直前の基準電圧VBとの差が、第2の閾値Vth2を超えていればS92に進み、第2の閾値Vth2を超えていなければS94に進む。なお、本例では第2の閾値Vth2は0.5Vに設定されているが、この値は適宜設定することができる。
【0045】
(ステップS92)
タイマTrが0(タイムオーバー)であればステップS93に進み、タイマTrが0でなければステップS95に進む。
【0046】
(ステップS93)
キャリブレーションのフラグをONし、ステップS95に進む。
【0047】
(ステップS94)
所定時間(本例では5秒)のタイマTrをスタ-トさせ、ステップS95に進む。なお、タイマTrは一定時間毎に減算される。
【0048】
上記ステップS91からS94は、キャリブレーションを実施する必要があるか判定する第1段階に相当し、一定期間(本例では5秒間)に物体がセンサ電極11に近接していないときの基準電圧VBが第2の閾値Vth2以上(本例では0.5V以上)変化すると、キャリブレーションのフラグをONにして再度キャリブレーションを行うようにしている。
【0049】
この点について
図7を参照して説明する。
図7は、
図3に示したある一定の周囲環境下での状態から、例えばリアバンパーの近くにセンサ電極11の自己静電容量を増加させる物体が存在する状態に変化した際の高周波信号S
0の周波数f(横軸)と、判定電圧信号S
1(縦軸)との関係を示している。周囲環境が変化した後のグラフは破線で示しており、S
12は人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフであり、S
X2は人の足部がセンサ電極11に近接したときのグラフである。
なお、グラフS
12の共振周波数f
12とグラフS
X2の共振周波数f
12の差は、グラフS
11の共振周波数f
11とグラフS
X1の共振周波数f
X1の差とほぼ同じ約5kHzである。
【0050】
仮に、人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフがS
11からS
12に変化した後も、変化前の検出周波数f
X1で検出を続けると誤検知の原因となる。
具体的には、S
12に変化後に物体がセンサ電極11に近接していない場合であっても、第1の閾値V
th1よりも高い判定電圧信号V
121(
図7の点P
121の電圧)が検出され、制御部32が人の検知信号S4を出力してしまう。
また、S
12に変化後に人の足部がセンサ電極11に近接しても、第1の閾値V
th1よりも低い判定電圧信号V
X21(
図7の点P
X21の電圧)が検出され、人の検出に至らない。
【0051】
このため本例では、上記ステップS91からS94のキャリブレーション実施判定の第1段階において、判定電圧信号の変化に応じて再度キャリブレーションを行うようにしている。
【0052】
(ステップS95)
一定期間(本例では10秒間)が経過していなければステップS10に進み、経過していればステップS96に進む。
【0053】
(ステップS96)
検出周波数を僅かに(本例では2kHz)上げる。
【0054】
(ステップS97)
検出周波数を上げた後の判定電圧信号が、検出周波数を上げる前の判定電圧信号のよりも第3の閾値Vth3以上上昇していればステップS10に進み、第3の閾値Vth3以上上昇していなければステップS98に進む。なお、本例では第3の閾値Vth3は0.5Vに設定されているが、この値は適宜設定することができる。
【0055】
(ステップS98)
キャリブレーションのフラグをONし、ステップS10に進む。
【0056】
上記ステップS95からS98は、キャリブレーションを実施する必要があるか判定する第2段階に相当する。このキャリブレーション実施判定の第2段階について説明する。
【0057】
図8は、
図7と同様に周囲環境の変化の前後における周波数f(横軸)と判定電圧信号S
1(縦軸)との関係を示している。周囲環境が変化した後のグラフは破線で示しており、S
12は人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフであり、S
X2は人の足部がセンサ電極11に近接したときのグラフである。
【0058】
図8の場合、人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフがS
11からS
12に変化した後も、検出周波数f
X1における検出点はどちらも点P
B1となり、判定電圧信号はどちらもV
Bとなって変化は見られない。
このため、キャリブレーション実施判定の第1段階では、
図8のように人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフがS
11からS
12に変化した場合にはキャリブレーションのフラグはONされない。
仮に、人の足部がセンサ電極11に近接していないときのグラフがS
11からS
12に変化した後も変化前の検出周波数f
X1で検出を続けると、人の足部がセンサ電極11に近接しても、第1の閾値V
th1よりも低い判定電圧信号V
X21(
図8の点P
X21の電圧)が検出され、人の検出に至らない。
【0059】
このため本例では、キャリブレーション実施判定の第2段階では、第1段階の後に一定期間(本例では10秒間)が経過した後に、検出周波数を僅かに上げ、上げる前と後の判定電圧信号の差が第3の閾値V
th3以上(本例では0.5V以上)であれば、キャリブレーションのフラグをONにして、再度キャリブレーションを行うようにしている。
具体的には、
図9に示すように、周囲環境の変化後の検出周波数がf
X2であれば、検出周波数を僅かに上げてf
X2+α(本例ではαは2kHz)で検出を行うと、検出点は点P
B2から点P
C2に移り、判定電圧信号はV
BからV
C2に上昇する。一方、検出周波数が周囲環境の変化前の誤った検出周波数f
X1のままであったとすると、検出周波数を僅かに上げてf
X1+αで検出を行うと、検出点は点P
B1から点P
C1に移り、判定電圧信号はV
BからV
C1に低下する。
したがって、検出周波数を上げた後の判定電圧信号が、検出周波数を上げる前の判定電圧信号のよりも第3の閾値V
th3以上上昇していなければ、古い検出周波数を使用していると判断し、再度キャリブレーションを行うようにしている。
【0060】
(ステップS10)
キャリブレーションの実施判定を行った後、近接判定を行う。この近接判定では、検出周波数における判定電圧信号が第1の閾値Vth1以上になると、キャリブレーションのフラグをOFFにするとともに、間欠発振から連続発振に切り替え、ステップS2に戻る。これは、人体の足部がセンサ電極11に近接している可能性があるため、その後は本格的な検出を行うためである。
【0061】
(ステップS11)
ステップ8において連続発振中であれば、検出判定を行う。この検出判定では、ステップS10で近接を検出した後、検出周波数における判定電圧信号が一定時間(もしくは一定回数)連続して第1の閾値Vth1以上であることが検出されると、制御部32は人の検知信号S4を出力し、バックドア102の開閉制御が行われる。
【0062】
以上のように、本例の静電容量式近接センサ1では、自動車100の下部に互いに所定の間隔を空けて配置されるセンサ電極11と接地電極12とを備えている。そして、ユーザ40の足部41を検知するために高周波信号S0が入力されるセンサ電極11は、接地電極12よりもユーザ40が通過する領域から遠い側に配され、接地電極12はセンサ電極11よりも高い位置(もしくは同じ高さ)に設置される。
これにより、検出領域41を車体の下方もしくは斜め下方に効果的に限定することができ、ユーザがリアバンパ101の近くを通過しただけでは反応せず、誤検出を抑制することができる。
【0063】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、センサ電極11の自己静電容量の変化に応じて高周波信号S0が間欠発振から連続発振に切り替えられ、高周波信号S0が間欠発振中に、キャリブレーションを実施するか否かのキャリブレーション実施判定が行われる。また、ステップS91からS94のキャリブレーション実施判定では、一定期間に物体がセンサ電極11に近接していないときの基準電圧VBが第2の閾値Vth2以上変化した場合に、キャリブレーションのフラグをONにして再度キャリブレーションを行うようにしている。また、ステップS95からS98のキャリブレーション実施判定では、一定期間が経過した後に検出周波数を僅かに上げ、検出周波数を上げた後の判定電圧信号が、検出周波数を上げる前の判定電圧信号のよりも第3の閾値Vth3以上上昇していない場合に、キャリブレーションのフラグをONにして再度キャリブレーションを行うようにしている。
これにより、周囲環境が変化しても常に最新の検出周波数で検出を行うことができ、誤検出や検出漏れを防止することができる。
なお、本例では、ステップS91からS94のキャリブレーション実施判定の第1段階の後に、ステップS95からS98のキャリブレーション実施判定の第2段階を行っているが、第2段階の後に第1段階を行ってもよい。
【0064】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態例を適宜に変形できることは言うまでもない。
【0065】
また、上記の実施形態例では近接センサを車両のリアバンパー内に装着した場合を説明したが、本発明の静電容量式近接センサは車両のスライドドアにも適用できるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 静電容量式近接センサ
10 センサ回路
11 センサ電極
11a 検出領域
12 接地電極
L LCR直列共振回路のコイル
C LCR直列共振回路のコンデンサ
R LCR直列共振回路の抵抗
20 検出回路
21 ダイオード
22 固定抵抗
23 コンデンサ
24 増幅器(バッファ回路)
30 マイコン(マイクロコンピュータ)
31 ADコンバータ
32 制御部
33 高周波信号生成部
40 ユーザ
41 足部
100 自動車
101 リアバンパー
102 バックドア
P1 センサ電極接続点
P2 整流点
P3 検出点