(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】空調衣服の服本体及び空調衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/002 20060101AFI20220620BHJP
A41D 13/05 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
A41D13/002 105
A41D13/05 168
(21)【出願番号】P 2018566768
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2017042738
(87)【国際公開番号】W WO2018146915
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2017023369
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592171005
【氏名又は名称】株式会社セフト研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】市ヶ谷 弘司
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/009108(WO,A1)
【文献】実開昭53-005108(JP,U)
【文献】国際公開第2006/098429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンを取り付けるための開口孔と、空気排出部と、を備える服地部と、
少なくとも一部が前記服地部の丈方向において前記開口孔と
重なる位置の前記服地部に備えられ、前記開口孔周辺の前記服地部の膨張を規制し、前記開口孔にファンを取り付け着用した際に、ファンを着用者の身体に密着させる膨張規制手段と、
を備え
、
前記膨張規制手段は、前記服地部の裏面に胴周囲に沿って配置される紐状部材を備え、
前記開口孔は、前記服地部の丈方向において少なくとも一部が重なる位置に2か所形成され、
前記紐状部材は、一端部が右側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された右紐状部材と、一端部が右側の開口孔の近傍において前記服地部に固定され、他端部が左側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された中央紐状部材と、一端部が左側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された左紐状部材と、を含むことを特徴とする空調衣服の服本体。
【請求項2】
前記中央紐状部材は、前記右紐状部材及び前記左紐状部材と比較して、弾性が小さい部材であることを特徴とする請求項
1に記載の空調衣服の服本体。
【請求項3】
ファンを取り付けるための開口孔と、空気排出部と、を備える服地部と、
少なくとも一部が前記服地部の丈方向において前記開口孔と重なる位置の前記服地部に備えられ、前記開口孔周辺の前記服地部の膨張を規制し、前記開口孔にファンを取り付け着用した際に、ファンを着用者の身体に密着させる膨張規制手段と、
を備え、
前記膨張規制手段は、
前記服地部の裏面に胴周囲に沿って配置される紐状部材と、
前記紐状部材を前記服地部の裏面に保持する紐保持手段と、
を備え、
前記紐保持手段は、
前記服地部の前記開口孔の周辺に備えられる開口孔周辺紐保持手段と、
前記服地部の前記開口孔から離間した位置に備えられる開口孔間紐保持手段と、
を含み、
前記開口孔周辺紐保持手段と、前記開口孔間紐保持手段と、は前記紐状部材を挿通可能な開口部を有し、前記開口孔周辺紐保持手段の開口部は、前記開口孔間紐保持手段の開口部と比較して、水平方向の最大径が小さいことを特徴とする空調衣服の服本体。
【請求項4】
前記紐状部材は、弾性を有する材料によって形成されていることを特徴とする請求項
3に記載の空調衣服の服本体。
【請求項5】
前記紐状部材の一端部には第1連結手段が備えられ、前記紐状部材の他端部には第2連結手段が備えられ、
前記第1連結手段と前記第2連結手段とは、着用者の前方において着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項
1から
4のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体。
【請求項6】
前記膨張規制手段は、前記紐状部材の長さを調整する調整手段を備えることを特徴とする請求項
1から
5のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体を備えた空調衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調衣服の服本体及び空調衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、身体を冷却する空調衣服が実用化され、急速に普及しつつある。従来の空調衣服は、通気性の低い素材で形成された服本体と、服本体の後側の下方の開口孔に取り付けられた2つのファンと、2つのファンに電力を供給するための電源装置と、電源装置と2つのファンとを電気的に接続するための電源ケーブルとを備える。
【0003】
ファンを作動させると、大量の空気がファンから服本体内に取り込まれる。取り込まれた空気の圧力により服本体と着用者の身体との間に空気流通路が自動的に形成され、取り込まれた空気は、形成された空気流通路を着用者の身体又は下着の表面に沿って上方に流通し、例えば、襟部や袖部の開口部から外部に排出される。
そして、取り込まれた空気が、服本体と着用者の身体又は下着との間の空気流通路を流通する間に、身体から出た汗を蒸発させ、蒸発する時の気化熱により身体が冷却される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空調衣服では、服本体のファンが取り付けられる開口孔の周辺が、服本体内に外気を取り込むことにより発生する陽圧、大量の空気を服本体内に導入する反動等により大きく膨らんでしまうことがあった。そして、ファンを取り付けた部位が大きく膨らんだ場合、作業の妨げになってしまうことがあった。
【0006】
さらに、ファンを取り付けた部位が大きく膨らむことによって、下記のような問題が生じる。
【0007】
1 体を回転した際に、遠心力によりファンが身体からさらに離れ、周囲にぶつかる確率が増加する。
2 ファンが着用者の身体から離れることにより、ファンに物が衝突したり、使用者が飛び跳ねたりすることによって、ファンに衝撃が加わる可能性が高くなる。そのため、ファンを、その衝撃に耐えることのできる丈夫な構造としなければならず、重量が増加する等の弊害が生じる。
【0008】
本発明の課題は、ファンを取り付けた部位が膨らむことを防止することができる空調衣服の服本体及び空調衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、空調衣服の服本体において、
ファンを取り付けるための開口孔と、空気排出部と、を備える服地部と、
少なくとも一部が前記服地部の丈方向において前記開口孔と重なる位置の前記服地部に備えられ、前記開口孔周辺の前記服地部の膨張を規制し、前記開口孔にファンを取り付け着用した際に、ファンを着用者の身体に密着させる膨張規制手段と、
を備え、
前記膨張規制手段は、前記服地部の裏面に胴周囲に沿って配置される紐状部材を備え、
前記開口孔は、前記服地部の丈方向において少なくとも一部が重なる位置に2か所形成され、
前記紐状部材は、一端部が右側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された右紐状部材と、一端部が右側の開口孔の近傍において前記服地部に固定され、他端部が左側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された中央紐状部材と、一端部が左側の開口孔の近傍において前記服地部に固定された左紐状部材と、を含むことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空調衣服の服本体において、
前記中央紐状部材は、前記右紐状部材及び前記左紐状部材と比較して、弾性が小さい部材であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、空調衣服の服本体において、
ファンを取り付けるための開口孔と、空気排出部と、を備える服地部と、
少なくとも一部が前記服地部の丈方向において前記開口孔と重なる位置の前記服地部に備えられ、前記開口孔周辺の前記服地部の膨張を規制し、前記開口孔にファンを取り付け着用した際に、ファンを着用者の身体に密着させる膨張規制手段と、
を備え、
前記膨張規制手段は、
前記服地部の裏面に胴周囲に沿って配置される紐状部材と、
前記紐状部材を前記服地部の裏面に保持する紐保持手段と、
を備え、
前記紐保持手段は、
前記服地部の前記開口孔の周辺に備えられる開口孔周辺紐保持手段と、
前記服地部の前記開口孔から離間した位置に備えられる開口孔間紐保持手段と、
を含み、
前記開口孔周辺紐保持手段と、前記開口孔間紐保持手段と、は前記紐状部材を挿通可能な開口部を有し、前記開口孔周辺紐保持手段の開口部は、前記開口孔間紐保持手段の開口部と比較して、水平方向の最大径が小さいことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の空調衣服の服本体において
前記紐状部材は、弾性を有する材料によって形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体において、
前記紐状部材の一端部には第1連結手段が備えられ、前記紐状部材の他端部には第2連結手段が備えられ、
前記第1連結手段と前記第2連結手段とは、着用者の前方において着脱自在に構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体において、
前記膨張規制手段は、前記紐状部材の長さを調整する調整手段を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の空調衣服の服本体を備えた空調衣服である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ファンを取り付けた部位が膨らむことを防止することができる空調衣服の服本体及び空調衣服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る空調衣服の非着用時における正面図である。
【
図2】第1実施形態に係る空調衣服の着用時における、ファンの上部から下方を見た断面図である。
【
図3A】開口孔の端部付近において開口孔周辺紐保持手段に通された紐状部材が、体と接する形で服地部を引く際の角度等を示す説明図である。
【
図3B】
図3Aにおける直角三角形Aから作成した力のベクトルの直角三角形Bを示す説明図である。
【
図4】第2実施形態に係る空調衣服の非着用時における正面図である。
【
図5】第2実施形態に係る空調衣服の着用時における、ファンの上部から下方を見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態である空調衣服について、
図1から
図5に基づいて説明する。ただし、本発明の技術的範囲は図示例に限定されない。
なお、以下においては、着用者が空調衣服を着用した状態を基準として、着用者の前側を前、着用者の後側を後、着用者の上側を上、着用者の下側を下、着用者の右手側を右、着用者の左手側を左と定めて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る空調衣服100について、
図1から
図3に基づいて説明する。
【0025】
(実施形態の構成)
第1実施形態に係る空調衣服100は、
図1に示すように、服本体1と、ファン2、2と、電源装置(不図示)と、電源ケーブル(不図示)と、を備える。
【0026】
(服本体)
服本体1は、
図1に示すように、服地部11と、開閉手段12と、裾部空気漏れ防止手段13と、膨張規制手段14と、間隔保持手段15、15と、を備える。
【0027】
(服地部)
服地部11は、
図1に示すように、通気性のないシート状素材又はファン2、2による空気の導入によって膨らませることができる程度の通気性を有するシート状素材によって、着用者の胴部及び腕部を覆う形状に形成されている。本実施形態では、
図1に示すように、服本体1をブルゾン型の上衣の形状に形成しているが、服本体1の形状はこれに限られず、例えば着用者の胴部のみを覆うベスト型に形成してもよい。また、つづき服や冬用コートのように下半身も覆うようにしてもよい。この場合、裾部空気漏れ防止手段13は必ずしも必要ではない。
服地部11には、2つの開口孔111、111と、襟部空気排出部112と、袖部空気排出部113、113と、が形成されている。
【0028】
開口孔111、111は、服地部11の着用者の腰の左右に対応する位置に形成された、空調衣服100の着用時において、外部と、服地部11と着用者の身体BDとの間の空間とを繋ぐこととなる孔部である。2つの開口孔111、111は、服地部11の丈方向において略同一の位置に並んで形成されている。そして、開口孔111、111にはファン2,2が取り付けられる。
なお、開口孔111、111が形成される位置としては、上記の位置に限られず、服地部11の側面、前身頃等に形成することも可能である。また、開口孔111が形成される箇所は、2か所に限られず、これより少数又は多数の開口孔111…を形成し、これに対応した数のファン2…を備えてもよい。
【0029】
襟部空気排出部112は、ファン2、2によって開口孔111、111から導入された空気を着用者の身体BD又は下着に沿って流通させた後に排出するため、着用者の首と服地部11の襟部の端部との間に形成された開口部である。
袖部空気排出部113、113は、ファン2、2によって開口孔111、111から導入された空気を着用者の身体BD又は下着に沿って流通させた後に排出するため、着用者の腕と服地部11の袖部の端部との間に形成された開口部である。
【0030】
(開閉手段)
開閉手段12は、服地部11の前部に備えられ、空調衣服100を着用する際に、服地部11の前部を開閉するためのものである。開閉手段12としては、例えば、ファスナー等が用いられる。
【0031】
(裾部空気漏れ防止手段)
裾部空気漏れ防止手段13は、
図1に示すように、服地部11下部に備えられた、服地部11と着用者の身体BDとの間の空間内の空気が服地部11の裾部から外部に漏れることを防止するための部材であり、例えば、服地部11の下部の端部付近に、ゴム紐等の伸縮性のある部材を、着用者の身体BDを周回するように備えることによって形成される。空調衣服100の着用時においては、裾部空気漏れ防止手段13によって、服地部11の裾部が絞り込まれて着用者の身体BDに密着し、服地部11下部から空気が外部に漏れることを防止することができる。
【0032】
(膨張規制手段)
膨張規制手段14は、服地部11の開口孔111、111が形成された部分の膨張を規制し、ファン2、2を空調衣服100の着用者の身体BDに密着させるためのものであり、
図1及び
図2に示すように、紐状部材141と、開口孔周辺紐保持手段142…と、開口孔間紐保持手段143…と、を備える。
【0033】
(紐状部材)
紐状部材141は、ゴム紐等の弾性を有する材料によって形成された紐状の部材であり、
図1及び
図2に示すように、空調衣服100の着用時において、服地部11の裏面側を、開閉手段12付近を除いて地面と略平行に周回するように備えられている。また、
図1に示すように、紐状部材141は、服地部11の丈方向において開口孔111、111が形成されたのと略同一の位置に備えられている。紐状部材141の形状としては、開口孔周辺紐保持手段142…及び開口孔間紐保持手段143…に通すことができれば、任意の形状を使用可能であり、紐状部材141には、例えば、一定の幅を有する帯状の部材も含むものとする。
【0034】
図1に示すように、紐状部材141の両端部は、開閉手段12の左右において服地部11に固定されている。なお、図中の「・」は、服地部11への固定点を示している。また、紐状部材141は、開口孔周辺紐保持手段142…と、開口孔間紐保持手段143…と、に通されている。なお、紐状部材141の両端部の服地部11への固定位置は、必ずしも開閉手段12の左右近傍である必要はなく、服地部11の前身頃に取り付けられていればよい。
【0035】
(開口孔周辺紐保持手段)
開口孔周辺紐保持手段142…は、紐状部材141を挿通可能な開口部を有し、
図1に示すように、開口孔111、111の周辺において、開口孔111各々の左右と、下部と、において、服地部11に備えられている。
【0036】
開口孔周辺紐保持手段142…としては、紐状部材141を保持し、服地部11の開口孔111、111周辺の膨張を規制することが可能であれば、種々の形状及び材料を使用可能であり、例えば、一般的なベルト通しのように、縦長の布を上下2カ所において縫い付けることにより形成される。
【0037】
また、開口孔周辺紐保持手段142…の開口部は、空調衣服100の着用時における水平方向の最大径が、紐状部材141を通すことができる範囲で、できる限り小さくなるように形成されている。これによって、後述のように、紐状部材141による張力が小さくても、ファン2、2を十分に身体に密着させることが可能となる。
なお、水平方向の最大径とは、例えば、上記の一般的なベルト通しのように形状が変形する場合には、これが水平方向に最大限伸ばされた際の、開口部の水平方向に最も長い部分の長さを指すものとし、例えば、金属等で形成された場合のように形状が変形しない場合には、当該形状における、開口部の水平方向に最も長い部分の長さを指すものとする。
【0038】
(開口孔間紐保持手段)
開口孔間紐保持手段143…は、紐状部材141を挿通可能な開口部を有し、
図1及び
図2に示すように、開口孔111、111から離間し、空調衣服100の着用時において、開口孔111、111の間となる位置において、服地部11に備えられている。
図1及び
図2においては、服地部11後部の開口孔111、111の間の位置と、服地部11左前部の、左側の開口孔111と開閉手段12との間の位置と、服地部11右前部の、右側の開口孔111と開閉手段12との間の位置に備えられた場合について図示したが、開口孔間紐保持手段143…の配置はこれに限られない。
【0039】
開口孔間紐保持手段143…としては、紐状部材141を保持し、服地部11の膨張を規制することが可能であれば、種々の形状及び材料を使用可能であり、例えば、一般的なベルト通しのように縦長の布を上下2カ所において縫い付けることにより形成される。
また、開口孔間紐保持手段143…の開口部は、服地部11がファン2、2によって導入された空気の圧力によって膨らみ過ぎることを防ぎつつ、かつ着用者の身体BDとの間に空気を流通させるための適正な間隔を確保するため、空調衣服100の着用時における水平方向の最大径が、開口孔周辺紐保持手段142…と比較して、大きくなるように形成されている。
具体的には、例えば、着用者の身体BDと、服地部11との間の適正な間隔が3cmであるとすると、最大径3.3cm程に形成される。
【0040】
(間隔保持手段)
間隔保持手段15、15は、服地部11と着用者の身体BDとの間に空気を流通させる空間を確保するためのものであり、例えば厚さ数cmほどのフェルトが用いられる。間隔保持手段15、15は、
図1及び
図2に示すように、開閉手段12の左右において、服地部11に備えられている。
なお、
図1及び
図2においては、紐状部材141と間隔保持手段15、15とが同一の高さに備えられ、紐状部材141と間隔保持手段15、15とが接する場合について図示しているが、間隔保持手段15、15は、紐状部材141の張力によって、服地部11の紐状部材141を取り付けた部位周辺が着用者の身体BDと密着することを防ぎ、空気が流通するための空間を確保するためのものであるため、必ずしも紐状部材141と間隔保持手段15、15とが接する必要はなく、間隔保持手段15、15は、紐状部材141を服地部11に固定した部位の近傍に配すればよい。
【0041】
(ファン)
ファン2、2は、
図1及び
図2に示すように、開口孔111、111に取り付けられ、開口孔111、111を通して、服地部11と着用者の身体BDとの間の空間に空気を導入するためのものである。なお、ファン2、2としては、公知の任意の構成を採用可能であるから、詳細な説明は省略する。ファン2、2には、電源装置(不図示)と、電源ケーブル(不図示)と、によって、必要な電力が供給される。
【0042】
(実施形態の効果)
第1実施形態に係る空調衣服100の着用時には、ファン2、2によって、開口孔111、111を通して服本体1の内部に空気が送られ、服本体1内部が陽圧となる。
これによって、服地部11が膨らむこととなるが、服地部11のファン2、2が取り付けられる開口孔111、111の周辺は、膨張規制手段14の紐状部材141の弾性によって、開口孔周辺紐保持手段142…を介して前方に引かれることとなるため、ファン2、2は、略垂直に着用者の身体BDに押し付けられ、密着することとなる。これによって、服地部11の、ファン2、2が取り付けられた部位が大きく膨らむことを防止でき、上記のような弊害を防止できる。
【0043】
また、第1実施形態によれば、紐状部材141は、ファン2、2自体ではなく、開口孔111、111周辺の服地部11を、開口孔周辺紐保持手段142…を介して引くこととなり、かつ、開口孔周辺紐保持手段142…の開口部は、空調衣服100の使用時における水平方向の最大径が、紐状部材141を通すことができる範囲で、できる限り小さくなるように形成されているため、紐状部材141は、開口孔周辺紐保持手段142…を引く際、服地部11に接するか、極めて近接した状態となる。
これによって、以下において説明するように、ファン2、2を着用者の身体BDに押し付けるために要する紐状部材141による張力はごく小さなものとなり、ファン2、2が体に密着することによる不快感が生じることはない。
【0044】
また、このように紐状部材141の張力がごく小さなものでよいため、紐状部材141の一部又は全部に伸縮性を有するゴム紐等を使用した場合、着用者の胴径の違いを吸収することができ、必ずしも紐の長さの調整を必要としない。
【0045】
(紐状部材による張力)
紐状部材141による張力が小さくて済む理由を、
図3A及び
図3Bに基づいて説明する。
なお、ファン2、2により外気を服本体1内に取り込む事により服本体1内が陽圧となることや、ファン2、2の噴射力によりファン2、2が受ける力はごく僅かであり、人が動くとき、特に回転するときの遠心力の方が大きいことは自明であるため、以下においては遠心力のみを考察する。
【0046】
また、以下においては、次の条件の基で計算を行う。
1 胴回りは、円周100cmの円とする(半径159mm)。
2 回転速度は1回転/秒とする(ω=2πx1)。
3 服地の内面のファン2、2の高さを30mmとする。
4 ファン2、2の重量を100グラムとする。
5 ファン2、2の重心はファン2、2の底部から20mmの位置とする。
【0047】
上記の1と5より、ファン2、2の重心位置の半径rは約179mmとなり、遠心力Fは、F=mω^2rから約0.707Nとなる。
【0048】
図3Aは開口孔111の端部付近において開口孔周辺紐保持手段142に通された紐状部材141が体と接する形で服地部11を引く際の角度等を示す直角三角形A、
図3Bは直角三角形Aから作成した力のベクトルの直角三角形Bを表している。
【0049】
上記遠心力Fの値である0.707Nを得るために必要となる紐状部材141の張力は、次のように計算される。
【0050】
図3Aに示すように、ファン2、2の高さは30mmであり、これが半径159mmの円に接することから、直角三角形Aの斜辺L1は189mm、底辺は159mmである。このとき、角度θ1は約32.7°、θ2は約57.3°となる。
紐状部材141は、両側から開口孔111周辺を引くこととなるため、0.707Nを生むために、紐状部材141の片側が生み出す必要のある張力F1は0.354Nである。したがって、直角三角形Bから、F2*COS57.3=0.354となり、紐状部材141の張力F2はF2=約0.65Nとなる。
【0051】
以上の計算から明らかなように、第1実施形態によれば、服地部11の開口孔111、111周辺と、ファン2、2の着用者の身体BDと接する面と、の着用者の身体BDと垂直な方向の距離が大きいことから、紐状部材141による張力は小さくて済み、僅か0.65Nの張力により、100gのファンを遠心力から守ることができることとなる。この点からも、本実施形態が非常に合理的な方法であることが分かる。
【0052】
(変形例)
紐状部材141は、服地部11に対して着脱自在として、複数種類の紐状部材141から着用者が任意のものを選択できるようにしてもよい。
また、紐状部材141に長さを調整するための調整手段を備え、着用者が紐状部材141の服地部11の膨張の規制に利用される部分の長さを調整することができるようにしてもよい。調整手段としては、例えばコードロックを用い、紐状部材141を、折り畳まれた状態でコードロックに通し、コードロックの固定位置を変えることで、紐状部材141の服地部11の膨張の規制に利用される部分の長さを調整できるようにする。
また、ファン2、2を着用者の身体BDに密着させることのみを目的とするのであれば、開口孔間紐保持手段143…及び間隔保持手段15、15を備えずともよい。
また、紐状部材141の両端部は、服地部11に固定せずに、紐状部材141の一端部に第1連結手段を設け、他端部に第2連結手段を設け、両者を着脱自在とすることで、後述の第2実施形態と同様に、紐状部材の端部同士を、着用者の身体BDの前方において固定することができるようにしてもよい。
その他、服地部11のファン2、2が取り付けられた部位が大きく膨らむことを防止できる範囲で、紐状部材141の形状、配置、弾性の有無及び服地部11への固定方法等、開口孔周辺紐保持手段142…の形状及び配置等並びに開口孔間紐保持手段143…の形状及び配置等については、適宜変更することが可能である。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る空調衣服100Aについて、
図4及び
図5に基づいて説明する。なお、第1実施形態に係る空調衣服100と同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
(実施形態の構成)
空調衣服100Aの服本体1Aは、
図4及び
図5に示すように、服地部11と、開閉手段12と、裾部空気漏れ防止手段13と、膨張規制手段14Aと、を備える。
【0055】
膨張規制手段14Aは、
図4及び
図5に示すように、右側の開口孔111の右に配置された右紐状部材144と、開口孔111、111の間に配置された中央紐状部材145と、左側の開口孔111の左に配置された左紐状部材146と、によって構成されている。
図4においては、右紐状部材144、中央紐状部材145及び左紐状部材146として、一定の幅を有する帯状の部材を用いているが、これに限られず、例えば幅の狭い紐状のものであってもよい。
【0056】
右紐状部材144及び左紐状部材146としては、弾性を有する部材が用いられ、例えば、ベルト状に形成された平ゴム等が用いられる。
また、右紐状部材144は、その一端部が、
図4及び
図5に示すように右側の開口孔111の近傍において、服地部11に縫い付ける等の方法によって直接固定されている。また、他端部には、第1連結手段1441が備えられている。
また、左紐状部材146は、その一端部が、
図4及び
図5に示すように左側の開口孔111の近傍において、服地部11に縫い付ける等の方法によって直接固定されている。また、他端部には、第2連結手段1461が備えられている。
【0057】
第1連結手段1441と第2連結手段1461とは、着脱自在に構成されており、空調衣服100Aの着用時においては、
図5に示すように、右紐状部材144の服地部11に固定されていない方の端部と、左紐状部材146の服地部11に固定されていない方の端部とを、着用者の身体BDの前方において固定することができる。なお、第1連結手段1441及び第2連結手段1461としては、右紐状部材144の服地部11に固定されていない方の端部と、左紐状部材146の服地部11に固定されていない方の端部とを着脱自在とすることが可能であれば、所定の端子やフック等任意の構成を採用することが可能である。
空調衣服100Aの着用時には、着用者は、第1連結手段1441と第2連結手段1461とを固定することで、右紐状部材144と、左紐状部材146とを接続した後、開閉手段12を閉じることとなる。
【0058】
中央紐状部材145は、弾性のない部材、又は右紐状部材144及び左紐状部材146と比較して弾性の小さい部材であり、
図4及び
図5に示すように、その一端部が、右側の開口孔111の近傍において服地部11に縫い付ける等の方法によって直接固定され、他端部が、左側の開口孔111の近傍において服地部11に縫い付ける等の方法によって直接固定されている。
また、中央紐状部材145は、
図5に示すように、中央紐状部材145が固定された服地部11の2点の間の服地部11に沿った間隔よりも短くなるように形成されている。
【0059】
なお、右紐状部材144、中央紐状部材145及び左紐状部材146の服地部11への固定方法は、これらを服地部11に対して固定可能であれば各種の一般的な方法を使用可能であり、例えば、ボタンやフック等を使用して、服地部11に対して、着脱自在とされていてもよい。
【0060】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態のような紐保持手段を用いることなく、第1実施形態に係る空調衣服100と同様の効果を得ることができる。また、この場合も、右紐状部材144及び左紐状部材146による張力は小さなものでよい。
【0061】
また、中央紐状部材145が、弾性のない、又は右紐状部材144及び左紐状部材146と比較して弾性の小さい部材によって形成されていることによって、右紐状部材144及び左紐状部材146とのバランスにより中央紐状部材145が伸縮して、ファン2、2の間隔が変動してしまうことを防止することができる。これによって、ファン2、2の間隔を最適に保つことが容易となる。
【0062】
また、空調衣服100Aの着用時には、右紐状部材144と左紐状部材146とが、第1連結手段1441と、第2連結手段1461とによって固定される。これによって、右紐状部材144及び左紐状部材146が、前身頃において服地部11に固定されることがなくなるため、服地部11の前身頃が後方へと引っ張られて縒れてしまうことがなくなり、着用時の空調衣服の外見を向上させることができる。また、紐状部材を服地部の前身頃に縫い付ける必要がなくなるため、空調衣服の製造も容易となる。
【0063】
また、中央紐状部材145が、これが固定された服地部11の2点の間の服地部11に沿った間隔よりも短くなるように形成されていることによって、服地部11の当該箇所には、
図5に示すように一定の弛みが形成されることとなる。これによって、着用者の身体BDの背中側に空気の流通路を確保し易くなる。
【0064】
(変形例)
右紐状部材144、中央紐状部材145及び左紐状部材146は、いずれもその長さを調整するための調整手段を備えていてもよい。調整手段としては、第1実施形態の変形例と同様、例えばコードロックを用いることができる。
また、右紐状部材144又は左紐状部材146のいずれかに調整手段が備えられた場合、これによって適宜長さを調整できるため、右紐状部材144及び左紐状部材146は、必ずしも弾性を有せずともよい。
また、右紐状部材144及び左紐状部材146は、連結手段を備えることなく、第1実施形態と同様に開閉手段12の左右において服地部11に直接固定されるようにしてもよい。
その他、服地部11のファン2、2が取り付けられた部位が大きく膨らむことを防止できる範囲で、右紐状部材144、中央紐状部材145及び左紐状部材146の形状、配置及び服地部11への固定方法等については、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、空調衣服の服本体及び空調衣服に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100、100A 空調衣服
1、1A 服本体
11 服地部
111 開口孔
112 襟部空気排出部(空気排出部)
113 袖部空気排出部(空気排出部)
14、14A 膨張規制手段
141 紐状部材
142 開口孔周辺紐保持手段(紐保持手段)
143 開口孔間紐保持手段(紐保持手段)
144 右紐状部材
1441 第1連結手段
145 中央紐状部材
146 左紐状部材
1461 第2連結手段
2 ファン
BD 身体