(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】プレス装置
(51)【国際特許分類】
B30B 15/02 20060101AFI20220620BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20220620BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20220620BHJP
B21D 22/20 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
B30B15/02 C
B30B15/00 B
B30B15/28 K
B21D22/20 Z
(21)【出願番号】P 2020085146
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000191353
【氏名又は名称】新明工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】水野 義久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】日毛 毅
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-079699(JP,A)
【文献】特開平04-300099(JP,A)
【文献】特開2014-121717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0322065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/02
B30B 15/00
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドに着脱自在な上型と、ボルスターに着脱自在な下型とを具備し、前記上型及び下型を接近させてワークに対するプレス加工を行いプレス品を生産するプレス装置であって、
前記上型及び下型間の隙間を各々相互に異なる箇所で連続的に計測する複数の計測部と、
前記各計測部によって連続的に計測される前記隙間の変化を変化曲線として記憶する記憶部と、
1サイクルにおける前記変化曲線を、基準変化曲線と比較して、前記プレス品又は当該プレス装置の診断を行う診断部と
、
前記各計測部から得られるそれぞれの変化曲線のうち、複数で基準変化曲線との差が一定の許容範囲を超える場合、その差が特に大きい変化曲線(その差が最大である変化曲線か、その差が最大のものを含めた上位を占める複数の変化曲線)に対応する計測部を特定可能に表示する表示部とを具備したプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置に関する。ここで、本明細書における「プレス装置」とは、プレス機とプレス型からプレス品を生産する装置を指す。
【背景技術】
【0002】
プレス加工を繰り返して行うプレス機自体やプレス加工されたプレス品には、プレス加工の工程でプレス品に亀裂が生じたり、プレス機の故障が生じたりして不良品が生産されたりしてしまう場合がある。その対策として、プレス機やプレス品につき、目視や撮影画像を用いて外観を検査し、不良品の早期発見を図ることが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のような外観に基づく検査では、外観に表れない箇所(内部)に亀裂等が発生している場合、その発見が遅れてしまう恐れがある。また、特に目視による検査には多大な労力及び時間が掛かるという問題もある。
【0004】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、プレス機自体の故障防止やプレス品の品質向上を容易に図ることができるプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るプレス装置は、スライドに着脱自在な上型と、ボルスターに着脱自在な下型とを具備し、前記上型及び下型を接近させてワークに対するプレス加工を行いプレス品を生産するプレス装置であって、前記上型及び下型間の隙間を各々相互に異なる箇所で連続的に計測する複数の計測部と、前記各計測部によって連続的に計測される前記隙間の変化を変化曲線として記憶する記憶部と、1サイクルにおける前記変化曲線を、基準変化曲線と比較して、前記プレス品又は当該プレス装置の診断を行う診断部と、前記各計測部から得られるそれぞれの変化曲線のうち、複数で基準変化曲線との差が一定の許容範囲を超える場合、その差が特に大きい変化曲線(その差が最大である変化曲線か、その差が最大のものを含めた上位を占める複数の変化曲線)に対応する計測部を特定可能に表示する表示部とを具備した(請求項1)。
【発明の効果】
【0006】
本願発明では、プレス機自体の故障防止やプレス品の品質向上を容易に図ることができるプレス装置が得られる。
【0007】
すなわち、本願の各請求項に係る発明のプレス装置では、複数の計測部を設置し、上型及び下型間の隙間の計測値から、プレス装置やプレス品における亀裂等の発生の有無の判断を行えるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るプレス装置の構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】前記プレス装置において得られる変化曲線及び基準変化曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0010】
図1に示すプレス装置は、スライド(ラム)1に着脱自在な上型2と、ボルスター3に着脱自在な下型4と、上型2及び下型4間の隙間を各々相互に異なる箇所で連続的に計測する複数の計測部(例えば隙間センサ)5と、図外の駆動部(例えばモータ等)、動力伝達機構及び制御装置を具備し、前記駆動部及び動力伝達機構により上型2及び下型4を接近させてワーク(図示していない)に対する絞り加工(プレス加工の一例)を行いプレス品を生産するものである。
【0011】
【0012】
図外の前記制御装置には、前記駆動部の駆動制御を行う駆動制御部と、各計測部5によって連続的に計測される前記隙間の変化を変化曲線として記憶する記憶部と、1サイクルにおける前記変化曲線を、基準変化曲線と比較して、前記プレス品又は当該プレス装置の診断を行う診断制御部(診断部の一例)と、表示部とが設けられている。なお、駆動制御部及び診断制御部は、例えば所定の制御プログラムを実行するCPU等によって具現化される。
【0013】
前記記憶部は、計測部5によって得られる前記隙間の計測値を、スライド1のサイクル運動と関連付けて、例えば縦軸に上下型隙間(隙間の計測値)、横軸にプレス作動時間をとり、プロットして得られる変化曲線としてサイクル毎に記憶する。
【0014】
また、診断制御部が前記変化曲線と比較する基準変化曲線は、正常な(予め亀裂が無いことを確認した状態の)プレス装置を用いてワークのプレス加工を行い、正常な(亀裂が無い)プレス品が得られたときの1サイクルにおける変化曲線か、あるいは2サイクル以上の変化曲線の平均をとった(例えば任意の複数のプレス作動時間における上下型隙間が平均値となっている)変化曲線であり、
図2(A)及び(B)では、実線で示してある。なお、この基準変化曲線は、例えば定期的に又は不定期に更新するようにしてもよい。
【0015】
そして、前記診断制御部は、各計測部5によって得られる変化曲線につき、サイクル毎に基準変化曲線と比較して、曲線の差(あるいは任意の複数のプレス作動時間における隙間の計測値の差)が一定範囲内であるか否かを判断し、一定の許容範囲を超えるものがある場合には前記表示部等を介して警告を行い、上記差が前記許容範囲より広い一定の異常範囲を超えるものがある場合には本例のプレス装置を停止させるように構成されている。前記許容範囲及び異常範囲の具体的な範囲は、実際にプレス装置やプレス品に亀裂等が生じたときの前記隙間の計測値などに基づいて定めればよく、例えば定期的に又は不定期に更新するのが望ましい。
【0016】
具体的に上記差が生じる場合としては、
図2(A)に示すように、破線で示す変化曲線が実線で示す基準変化曲線に対し、全体的に上下方向にシフトし、前記隙間の最小値(上型2と下型4とが最接近した場合の隙間の計測値)が異なる場合の他、
図2(B)に示すように、上型2と下型4とが最接近するまでの過程で前記隙間がスムーズに縮まらない場合などが挙げられる。なお、例えば、プレス品に亀裂が入った場合には、
図2(A)のように変化曲線と基準変化曲線とに差が生じることになる。
【0017】
一般に、プレス装置(プレス機)は、老朽化による剛性変化(亀裂やたわみ等)で所定の加工力が出なかったり、亀裂などが進行して故障したりする恐れがある。この点、本例のプレス装置によれば、複数の計測部5を設置し、金型(上型2、下型4)によるプレス生産状態にて常に、その計測値から荷重変化を読み取り、前述の剛性変化を明確化し、故障の予防やプレス品品質変化対策につなげることができるのであり、斯かる効果は、複数の計測部5を相互になるべく離して配置し、かつ、その数を増やすことによって一層高めることができる。本例では、12個の計測部5を3行4列の行列状に配して用いている。
【0018】
また、本例のプレス装置では、異なるプレス装置に同一の金型を取り付けて基準変化曲線をそれぞれで把握することで、その機差を把握し、各プレス装置にあった金型条件を事前に把握することも可能である。
【0019】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0020】
上記実施の形態では、変化曲線及び基準変化曲線をワークのプレス加工の際に得るようにしているが、例えば、変化曲線及び基準変化曲線を、ワークをプレスしない状態で上型2と下型4とを接近させて得てもよい。すなわち、ワークをプレスしない状態で得られた変化曲線を用いて上記診断を行えば、プレス装置の故障等を診断することができるのであり、この診断と、ワークのプレス加工の際に得られた変化曲線を用いた上記診断とを併用すれば、亀裂等の発生箇所(プレス装置かプレス品か)をより簡易に特定することが可能となる。また、絞り加工型に限らず、抜き型・曲げ型等においても同様な不具合診断が可能である。
【0021】
例えばプレス装置やプレス品に亀裂が発生した場合、その亀裂に近い位置にある計測部5ほど得られる変化曲線と基準変化曲線との差が大きくなる傾向が高いと考えられる。そこで、例えば各計測部5から得られるそれぞれの変化曲線のうち、複数で基準変化曲線との差が一定の許容範囲を超える場合、その差が特に大きい変化曲線(最大のもの一つのみでも、最大のものを含めた上位を占める複数でもよい)に対応する計測部5を容易に特定可能となるように、適宜の表示部等にその計測部5を表示させるようにしてもよく、この場合、その亀裂の位置の特定を迅速に行えるようにすることができる。また、例えば各計測部5の付近にそれぞれ一対一で対応するようにLEDランプ等の警告灯を設けておき、この警告灯を点灯させて上記差が特に大きい変化曲線に対応する計測部5の位置を示すようにしてもよい
【0022】
なお、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0023】
1 スライド
2 上型
3 ボルスター
4 下型
5 計測部
6 しわ押さえ型