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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】吸入粉末剤、その評価方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20220620BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K31/7088
A61K48/00
A61K9/19
A61K9/72
A61K47/18
A61K47/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020550518
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038991
(87)【国際公開番号】W WO2020071448
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018187498
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 知将
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-11588(JP,A)
【文献】特開2018-8942(JP,A)
【文献】特表2002-531240(JP,A)
【文献】国際公開第2018/002756(WO,A1)
【文献】特表2016-534153(JP,A)
【文献】国際公開第2017/103600(WO,A1)
【文献】岡本浩一,吸入特性と遺伝子発現に優れた遺伝子吸入粉末剤の開発,オレオサイエンス,2016年,Vol.16, No.6,p.293-301
【文献】大竹裕子ほか,噴霧急速凍結乾燥微粒子の粒子径および賦形剤が与える気中構造崩壊/保持性への影響,第32回製剤と粒子設計シンポジウム講演要旨集,2015年,p.124-125
【文献】山東史佳ほか,肺での沈着とナノ粒子の再構築に適した吸入粉末剤の開発に向けた基礎研究,日本薬剤学会第32年会講演要旨集,2017年,p.132, 11-5-07
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61P 47/00
A61K 31/7088
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔質中空状の子の少なくとも一部に有効成分を含有し、
前記粒子は、賦形剤としてロイシン、マンニトール及びトレハロースから選ばれる2つ以上を含有し、
マンニトール:トレハロース:ロイシンの質量比が、5以上10以下:1以上5以下:85以上94以下である、吸入粉末剤。
【請求項2】
吸気によって分散・解砕可能であって、かつ、吸湿時に膨潤可能である、請求項1に記載の吸入粉末剤。
【請求項3】
アンダーセン・カスケード・インパクター(ACI)による吸入特性評価において、OE(%)=throat以降からの回収量(mg)/全回収量(mg)×100が、80%以上である、請求項1又は2に記載の吸入粉末剤。
【請求項4】
アンダーセン・カスケード・インパクター(ACI)による吸入特性評価において、FPF5(%)が30%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項5】
アンダーセン・カスケード・インパクター(ACI)による吸入特性評価において、フィルターに回収率のピークを有する、請求項1~のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項6】
前記粒子のアンダーセン・カスケード・インパクター(ACI)による吸入特性評価において、前記フィルターのピークが他のピークより高い、請求項5に記載の吸入粉末剤。
【請求項7】
アンダーセン・カスケード・インパクター(ACI)による吸入特性評価において算出される第1の空気力学的質量中位径及び前記第1の空気力学的質量中位径よりも小さい第2の空気力学的質量中位径を有する、請求項1~のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項8】
前記第2の空気力学的質量中位径を有する粉体の前全粉体に対する比率(質量)が、40%以上である、請求項に記載の吸入粉末剤。
【請求項9】
動的水分吸着測定法において、37℃で50%RH~95%RHまで変化させたとき、70%RHでの質量変化率が1%以下であり、95%RHでの質量変化率が5%以上である、請求項1~のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項10】
前記粒子の幾何学的粒子径分布のピーク粒子径は、1μm以上100μm以下である、請求項1~のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項11】
有効成分として核酸を含む、請求項1~10のいずれかに記載の吸入粉末剤。
【請求項12】
前記核酸は、ネイキッド核酸である、請求項11に記載の吸入粉末剤。
【請求項13】
哺乳類に対する遺伝子発現用である、請求項11又は12に記載の吸入粉末剤。
【請求項14】
哺乳類における遺伝子抑制用で、請求項11又は12に記載の吸入粉末剤。
【請求項15】
噴霧凍結乾燥による、吸入粉末剤の製造方法であって、
有効成分と、少なくともロイシン、マンニトール及びトレハロースから選ばれる2つ以上を賦形剤として含有する液体を液体窒素中に噴霧して凍結させる噴霧凍結工程と、
前記噴霧凍結工程で得られた氷滴を凍結乾燥する凍結乾燥工程と、を備え
マンニトール:トレハロース:ロイシンの質量比が、5以上10以下:1以上5以下:85以上94以下である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、吸入粉末剤、その評価方法及びその用途に関する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月2日に出願された日本国特許出願である特願2018-187498の関連出願であり、この日本出願に基づく優先権を主張するものであり、この全内容が、引用により本明細書に組み込まれるものとする。また、本出願は、2017年5月2日に出願された日本国特許出願である特願2017-91941の関連出願であり、この全内容は、引用により本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
肺は、局所作用薬のみならず消化管吸収性の低い全身作用が期待できる投与経路として注目されている。肺に直接かつ非侵襲的に薬物送達可能な吸入剤は、速やかな作用発現が期待でき、経口投与に比べて投与量も少ないため、全身性の副作用を軽減できるなどの長所を持っている(特許文献1)。そのため、今後は肺癌、肺高血圧症などの疾患への使用も期待されている。
【0003】
吸入剤は吸入エアゾール剤(Metered-Dose Inhaler;MDI)、吸入液剤(Inhalation Solution)、吸入粉末剤(Dry Powder Inhaler;DPI)の3種に分類され、それぞれの吸入器により吸入方法は異なり、良好な治療効果を達成するためには適正に使用することが重要である。DPIでは一般に薬物粉末が患者の吸入努力により気中に崩壊・分散され、呼吸器系治療域へ送達されるため、粉末噴霧と吸入との同調が容易かつ噴射剤が不要で吸入手技が簡便である点及び吸入器が比較的小さく携帯性に優れる点から、近年研究開発が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-522246号公報
【発明の概要】
【0005】
DPIでは、粉末微粒子の分散に一定以上の吸入能力が必要となるため、使用可能な患者に制約があることが問題となる。また、強く吸引することが推奨されるために、結果として、口腔・咽頭などへの薬剤の付着が多い。肺癌、肺高血圧症などの疾患への適応を目指すならば、それらの問題を改善するための製剤設計が必要となる。
【0006】
しかしながら、高い分散性、肺送達性及び沈着性を実現する吸入粉末剤が提供されていないのが現状である。
【0007】
本明細書は、分散性、肺送達性及び沈着性に優れる吸入粉末剤、その評価方法並びにその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、分散性、肺送達性及び沈着性を実現する吸入粉末剤につき、種々の製剤検討及び評価を行った結果、こうした特性を充足できる吸入粉末剤を構成できることを見出した。また、こうした、製剤特性を評価する方法を見出した。本明細書によれば、こうした知見に基づき以下の手段が提供される。
【0009】
[1]吸気によって分散・解砕可能であって、かつ、吸湿時に膨潤可能である、多孔質中空状の球状粒子の少なくとも一部に有効成分を含有する、吸入粉末剤。
[2]アンダーセンカスケードインパクター(ACI)による吸入特性評価において、OE(%)=スロート以降からの回収量(mg)/全回収量(mg)×100が、80%以上である、[1]に記載の吸入粉末剤。
[3]ACIによる吸入特性評価において、FPF5(%)が30%以上である、[1]又は[2]に記載の吸入粉末剤。
[4]ACIによる吸入特性評価において、フィルター及びステージ2~4のいずれか1つにおいて回収率のピークを有する、[1]~[3]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[5]ACIによる吸入特性評価において算出される第1の空気力学的質量中位径及び前記第1の空気力学的質量中位径よりも小さい第2の空気力学的質量中位径を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[6]前記第2の空気力学的質量中位径を有する粉体の全粉体に対する比率(質量)が、40%以上である、[5]に記載の吸入粉末剤。
[7]動的水分吸着測定法において、37℃で50%RH~95%RHまで変化させたとき、70%RHでの質量変化率が1%以下であり、95%RHでの質量変化率5%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[8]前記球状粒子は、賦形剤としてロイシン、マンニトール及びトレハロースを含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[9]前記前記粒子の幾何学的粒子径分布のピーク粒子径は、1μm以上100μm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[10]有効成分として核酸を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[11]前記核酸は、ネイキッド核酸である、[10]に記載の吸入粉末剤。
[12]さらに、賦形剤としてアニオン性ポリマー又はそれらの塩であるアニオン性成分、を含有する[10]又は[11]に記載の吸入粉末剤。
[13]前記アニオン性成分は、ヒアルロン酸又はその塩である、[12]に記載の吸入粉末剤。
[14]前記ヒアルロン酸又はその塩の重量平均分子量は、30,000以上70,000以下である、[13]に記載の粉末吸入剤、
[15]さらに、賦形剤として、1又は2以上の疎水性アミノ酸を含有する、[10]~[14]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[16]前記疎水性アミノ酸は、ロイシン、フェニルアラニン及びイソロイシンからなる群から選択される1種又は2種以上である、[15]に記載の吸入粉末剤。
[17]前記有効成分以外の成分である賦形剤として、重量平均分子量が30,000以上70,000以下のヒアルロン酸又はその塩とフェニルアラニンを含有し、これら2成分の総質量に対して、前記ヒアルロン酸又はその塩を、40質量%以上85質量%以下含有する、[10]又は[11]に記載の吸入粉末剤。
[18]哺乳類に対する遺伝子発現用である、[10]~[17]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[19]哺乳類における遺伝子抑制用である、[10]~[17]のいずれかに記載の吸入粉末剤。
[20]吸入粉末剤の製造方法であって、
有効成分と少なくとも一種の賦形剤とを溶解した液体を、吸気によって分散・解砕可能であって、かつ、吸湿時に膨潤可能である、多孔質中空状の球状粒子が得られるように噴霧凍結乾燥する乾燥工程、を備える方法。
[21]前記球状粒子のアンダーセンカスケードインパクター(ACI)による吸入特性評価が、OE(%)=スロート以降からの回収量(mg)/全回収量(mg)×100が、80%以上となるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製する工程をさらに備える、[20]に記載の方法。
[22]前記球状粒子のACIによる吸入特性評価が、FPF5(%)が30%以上となるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製する、[21]に記載の方法。
[23]前記球状粒子のACIによる吸入特性評価において、フィルター及びステージ2~4のいずれか1つにおいて回収率のピークを有する球状粒子が得られるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製する、[20]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]前記乾燥工程は、前記前記賦形剤としてロイシン、マンニトール及びトレハロースを用い、有効成分を含有する液体を噴霧凍結乾燥法にて乾燥する工程である、[20]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25]吸入粉末剤の評価方法であって、
ACIによる吸入特性評価において、算出される第1の空気力学的質量中位径及び前記第1の空気力学的質量中位径よりも小さい第2の空気力学的質量中位径を取得する、方法。
[26]前記第2の空気力学的質量中位径を有する粉体の全粉体に対する比率(質量)を取得する、[25]に記載の方法。
[27]吸入粉末剤の評価方法であって、
動的水分吸着測定法において、37℃で50%RH~95%RHまで変化させたとき、少なくとも70%RHでの質量変化率及び95%RHでの質量変化率を測定する方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アンダーセンカスケードインパクター(ACI)による吸入特性評価の概要を示す図である。
図2】実施例1で調製した吸入粉末剤の電子顕微鏡(SEM)観察結果を示す図である。
図3】実施例1で調製した吸入粉末剤の粒度分布とD50径を示す図である。
図4】実施例1で調製した吸入粉末剤のACI法による各部位での回収率を示す図である。
図5】実施例1で調製した吸入粉末剤の吸入特性の指標を示す図である。
図6】実施例1で調製した吸入粉末剤の空気力学的質量中位径(MMAD)、幾何標準偏差(GSD)、崩壊率(R)を示す図である。
図7】動的水分吸着測定装置による耐湿性及び吸湿性の測定結果を示す図である。
図8】吸入粉末剤の作用態様の概要を示す図である。
図9A】賦形剤としてヒアルロン酸/ロイシンを用いた吸入粉末剤の保存条件と吸入特性評価との関係を示す図である。
図9B】賦形剤としてヒアルロン酸のみを用いた吸入粉末剤の保存条件と吸入特性評価との関係を示す図である。
図10】賦形剤としてヒアルロン酸/ロイシン及びヒアルロン酸のみを用いた吸入粉末剤の保存条件と有効性(マウスに吸引投与時の遺伝子発現)との関係を示す図である。
図11】賦形剤としてヒアルロン酸/フェニルアラニンを用いた吸入粉末剤の遺伝子発現(インビトロ)に及ぼすヒアルロン酸の分子量の影響を示す図である。
図12】賦形剤として重量平均分子量50000のヒアルロン酸(ナトリウム塩)とフェニルアラニンとを各種の比率で用いた吸入粉末剤の遺伝子発現(インビトロ)の評価結果を示す図である。
図13】賦形剤として重量平均分子量50000のヒアルロン酸(ナトリウム塩)とフェニルアラニンを用いたときの沈着率、吸引特性及びMMADの評価結果を示す図である。
図14】賦形剤として重量平均分子量50000のヒアルロン酸(ナトリウム塩)とフェニルアラニンを用いたときの有効性を推測する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、吸入粉末剤、その評価方法及びその用途に関する。本明細書に開示される吸入粉末剤によれば、吸気によって、分散し解砕するため分散性及び肺到達性に優れ、しかも、高湿度環境下で吸湿膨潤して、肺において付着凝集性を発揮できる。
【0012】
また、本明細書に開示される吸入粉末剤の評価方法によれば、分散性、肺到達性及び付着性に優れる吸入粉末剤を評価し、その特性を管理することができる。
【0013】
また、本明細書に開示される吸入粉末剤によれば、肺及びその周辺器官を標的として、肺における疾患、障害の予防及び治療に有用な医薬組成物を提供できる。
【0014】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された「吸入粉末剤及びその評価方法」等を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0015】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0016】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0017】
(吸入粉末剤)
本明細書に開示される吸入粉末剤(以下、単に、本粉末剤ともいう。)は、吸気によって分散・解砕可能であって、かつ、吸湿時に膨潤可能である、多孔質中空状の球状粒子の少なくとも一部に有効成分を含有することができる。以下、こうした本粉末剤の、各種特性及びその評価方法について説明し、次いで、本粉末剤の製造方法について説明する。
【0018】
(本粉末剤の粒子径)
本粉末剤の粒子径は、乾式レーザー回折法にて測定することができる。累積粒度分布曲線から、50%粒子径(D50)を算出することができる。例えば、レーザーマイクロンサイザー(LMS-2000e)又はその同等装置を用いて測定することができる。本粉末剤の50%粒子径は、特に限定するものではないが、飛散性や分散性を考慮すると、例えば、1μm以上100μm以下、また例えば、2μm以上50μm以下、5μm以上20μm以下などとすることができる。また例えば、5μm以上20μm以下、また例えば、5μm以上15μm以下などとすることができる。
【0019】
(本粉末剤の粒子形状)
本粉末剤の粒子形状は、走査型電子顕微鏡で観察することができる。観察にあたっては、例えば、本粉末剤の分散添加に用いられる粉末微粒子添加デバイスを用いて試料台上に噴霧後、SEM観察に適するように、プラチナコーティングを必要に応じて行い、観察する。粉末微粒子添加デバイス及び噴霧方法としては、例えば、後述する実施例において用いるものを採用することができる。
【0020】
本粉末剤の粒子径形状は、特に限定するものではないが、飛散性や分散性等を考慮すると、球状であることが好ましい。また、飛散性や膨潤性等を考慮すると多孔質であることが好ましい。さらに、中空構造を有していることが好ましい。典型的には、本粉末剤は、本粉末剤の有効成分や賦形剤などの構成成分からなる隔壁によって水の昇華によって生じる多数の孔部(中空部)が区画される、多数の孔部(中空部)を有する多孔質球状粒子などとすることができる。
【0021】
(吸入特性)
本粉末剤は、吸気(口腔から気管支への吸引時のガス流)によって呼吸器に送達されるが、アンダーセンカスケードインパクター(ACI)法により評価することで、その場合の特性(吸入特性)、すなわち、本粉末剤の分散性、送達性や崩壊性を評価できる。分散性、送達性及び崩壊性はそれぞれ独立の特性であるが相互に関連している。
【0022】
(アンダーセンカスケードインパクター(ACI)法による評価方法)
本明細書において、ACI法とは、第17改正日本薬局方第一追補一般試験法6.15吸入剤の空気力学的粒度測定法 5.2 アンダーセンカスケードインパクター法(装置2)に記載の測定装置を用いる。プレセパレーターを適宜用いることができる。測定装置としては、例えば、ローボリウム・エアーサンプラー、アンダーセンタイプ、AN-200型、柴田科学株式会社製の装置が挙げられる。
【0023】
測定装置の概要及び測定方法の一例を図1に示す。図1に示すように、測定装置、導入部分であるデバイス、スロート、ステージ0からステージ7の8段階のステージと最下段のフィルターを備えている。各ステージは、フィルター構造を有し、下方に向かってより小さい空気力学的粒子径の粒子を分級し捕捉できるように構成されている。各ステージで分級される粒子の粒子径(μm)は、吸引量が28.3L/minのときのカットオフ径として、例えば、図1に示す径を採用することができる。図1には、各ステージに対応する呼吸器官部位も併せて記載する。
【0024】
ACI法による本粉末剤の評価は、上記一般試験法5.2 アンダーセンカスケードインパクター法(装置2)の5.2.2吸入粉末剤の測定手順に準ずることができる。すなわち、毎分28.3Lの流量で、空気量4L、として実施することができる。なお、吸入デバイスにより、吸入抵抗も適宜選択される。
【0025】
測定後に、導入に用いたカプセル、デバイス、スロート、各ステージ及びフィルター上の本粉末剤(粒子又は有効成分)の質量を測定する。本粉末剤量の測定は、有効成分を定量的に検出するほか、例えば、評価目的のために粒子に適当な標識を付与してその標識を測定することによっても実施できる。有効成分の定量は当業者であれば必要に応じて実施できるし、こうした標識の利用及び検出についても当業者において周知である。
【0026】
(分散性及び送達特性)
本粉末剤の分散性及び送達性について、以下の式を用いて得られる数値等を指標として評価することができる。なお、本明細書においては、ステージ3以降を吸入剤応用に有効な肺内送達領域とし、ステージ5以降を全身作用が期待できる肺深部送達領域とする。
【0027】
デバイスからの放出率であるOE(Output Efficiency:%)を、以下の式(1)で算出する。
【0028】
また、デバイスから放出された本粉末剤のうちステージ3及びステージ5以降に到達した割合を示すFPFStage3及びFPFStage5(Fine Particle Fraction:%)をそれぞれ式(2)、(3)より算出できる。また、全回収量のうちステージ5以降に到達した割合を示すOE×FPFStage5(%)を式(4)より算出できる。
【0029】
OE(%)=回収量T(μg)/全回収量(μg)×100 (1)
(ただし、回収量Tは、スロート以降からの回収量である。)
【0030】
FPFStage3(%)(FPF3)
=ステージ3以降からの回収量(μg)/回収量T(μg)×100 (2)
【0031】
FPFStage5(%)(FPF5)
=ステージ5以降からの回収量(μg)/回収量T(μg)×100 (3)
【0032】
OE×FPFStage5(%)
=ステージ5以降からの回収量(μg)/全回収量(μg)×100 (4)
【0033】
OEは分散性の指標となり、FPF3は、肺内送達性の指標、FPF5は肺深部送達性の指標値となる。
【0034】
また、各ステージは、呼吸器部位に対応させることができることから、測定装置からの全回収量に対する装置における各部位や各ステージにおける本粉末剤の回収量の割合(回収率%)は、それぞれに対応する呼吸器の部位への送達率の指標として用いることができる。
【0035】
本粉末剤は、ACI法による吸入特性評価において、例えば、OEが80%以上とすることができる。80%以上であると、放出率が良好であるといえるからである。OEは、また例えば同85%以上であり、また例えば同90%以上であり、また例えば同95%以上である。
【0036】
また、本粉末剤は、ACI法による吸入特性評価において、例えば、FPF3が20%以上とすることができ、また例えば、同30%以上、また例えば、同40%以上とすることができる。例えば、40%以上であると肺送達率が極めて良好であるといえるからである。また例えば、同50%以上であり、また例えば、同60%以上であり、また例えば、同70%以上であり、また例えば、同80%以上であり、また例えば、同90%以上である。なお、吸入粉末剤の有効成分や用途によっては、FPF3が20%以上でも十分である場合もある。
【0037】
また、本粉末剤は、ACI法における吸入特性評価において、FPF5が、例えば、10%以上、また例えば、同15%以上、また例えば、20%以上、また例えば、同25%以上、また例えば同30%以上とすることができる。30%以上であると肺深部送達率が極めて良好であるといえるからである。FPF5は、また例えば、40%以上であり、また例えば、50%以上であり、また例えば、55%以上であり、また例えば、60%以上であり、また例えば、65%以上である。なお、吸入粉末剤の有効成分や用途によっては、FPF5が10%以上でも十分である場合もある。
【0038】
本粉末剤は、ACI法による吸入特性評価において、ステージ2~4のいずれかとフィルターとにおいて回収率のピークを備えることができる。かかる回収率特性を有することで、本粉末剤が解砕性ないし崩壊性に優れているほか、吸湿膨潤性に優れており、肺深部送達性に優れているといえるからである。典型的には、ステージ3とフィルターに回収率のピークを備えることができる。また、典型的には、フィルターにおける回収率のピークが他方のピークよりも大きく、例えば、30%以上大きく、また例えば40%以上大きい。
【0039】
(崩壊性)
本発明者らによれば、ACI法によって本粉末剤の崩壊性を評価することができる。本粉末剤の崩壊性は、本粉末剤の崩壊率と空気力学的質量中位径とから求めることができる。
【0040】
こうした特性評価が本粉末剤において有用なのは、本粉末剤は、吸引によって、その一部が崩壊し、当初の大きさの粒子の一部が崩壊した粒子が生じ、当初の大きさの粒子と崩壊粒子とが混在することになるからと推論される。この推論の概要を図8に示す。図8に示すように、当初の大きさの粒子が吸入気流によって一部が崩壊し、比較的大きなままの粒子は、例えば、肺の気管支近傍に付着し、崩壊した小さい粒径の粒子はさらに肺の深部にまで流入することとなる。
【0041】
粉体の粒度分布は経験的に対数正規分布に従い、ステージごとの回収率の積算値をカットオフ径の対数値に対してプロットすると直線が得られ、50%粒子径をMMAD、(84.3%粒子径)/(50%粒子径)を幾何標準偏差(GSD)とすることができる。本粉末剤は、対数正規プロットが直線とならず、曲線となるという特性を有しているといえる。
【0042】
本明細書においては、粒子径が大きい粉体(空気力学的質量中位径MMADc及びその幾何標準偏差GSDcを有する。)と小さい粉体(空気力学的質量中位径MMADf及び幾何標準偏差GSDfを有する。)が比率(1-R):R(崩壊率)で存在すると考え、崩壊率R及び空気力学的質量中位径MMADf,c及びその幾何標準偏差GSDf,cを求める。
【0043】
(崩壊率及び空気力学的質量中位径)
ACI法によって得られた、8つの測定点(ステージ1~フィルター)の回収率(放出量に対する%)の積算値から、各ステージつき、下記A~Dの値を求め,Eが最小になるような、R、MMADc、GSDc、MMADf、GSDfを求める(表1参照)。なお、A~D及びEが最小となるような各数値の算出には、例えば表計算ソフトであるExcel(マイクロソフト株式会社)の下記関数及びソルバー機能などを用いることができる。なお、カットオフ値としては、図1に示す数値を用いた。
【0044】
【表1】
【0045】
A=ステージごとの回収率の積算値(%)をNORM.S.INV関数により変換した確率変数
B=NORM.DIST関数により算出した粒径の大きい粒子(MMADc及びGSDc)の回収率の積算値
C=NORM.DIST関数により算出した粒径の小さい粒子(MMADf及びGSDf)の粉体の回収率の積算値
D=B×(1-R)+C×Rの値をNORM.S.INV関数により変換した確率変数
E=ステージごとに求めた(D-A)2の合計値
【0046】
以上のことから、本粉末剤は、ACI法による吸入特性評価において、上記の条件で算出される空気力学的質量中位径MMADc(第1の空気力学的質量中位径)及び前記第1の空気力学的質量中位径よりも小さい第2の空気力学的質量中位径MMADf(第2の空気力学的質量中位径)を有することができるといえる。
【0047】
また、本粉末剤は、第2の空気力学的質量中位径を有する粉体の質量の全粉体(第1及び第2の空気力学的質量中位径を有する粉体)の総質量に対する比率(%)(崩壊率)が、例えば40%以上とすることができる。40%以上であると肺深部送達率が高いといえるからである。崩壊率は、また例えば、44%以上であり、また例えば、50%以上であり、また例えば、55%以上であり、また例えば、60%以上である。
【0048】
(吸湿性・膨潤性)
本粉末剤は、また、動的水分吸着測定法において、37℃で50%RH~95%RHまで変化させたとき、例えば、70%RHでの質量変化率が2%以下とすることができる。2%以下であると、吸入前において十分な耐湿性を備えるといえるからである。また例えば、質量変化率は1.5%以下であり、また例えば、同1%以下である。
【0049】
また例えば、95%RHでの質量変化率が8%以上とすることができる。8%以上であると吸湿しやすいからである。かかる質量変化率は、また例えば、9%以上であり、また例えば、10%以上であり、また例えば、11%以上である。
【0050】
動的水分吸着測定法とは、設定した温湿度環境における水分の吸脱着に伴う天秤上の試料の質量変化を秒スケールでモニタリングする動的水分吸着測定装置(DVS:Dynamic Vapor Sorption;DVS advantage、Surface Measurement Systems)を用いる方法である。吸入から気道内、そして高湿度の肺深部での耐吸湿性及び吸湿成長の評価が可能である。本明細書においては、吸入前の環境を『温度37℃、相対湿度(RH)50%(絶対湿度:6.903g/m3)』、吸入後の肺内環境を『温度37℃、95%RH(絶対湿度:41.62g/m3)』として、評価することができる。
【0051】
なお、吸湿・膨潤性については、通常の条件(すなわち、乾燥条件、40%RH以下程度)でACI法で評価後、各ステージ上の粒子を乾燥時粒子として採取、その後、加湿空気(例えば90%RH以上)を吸引し、その後、各ステージ上の粒子を加湿時粒子として採取、これらの粒子をそれぞれSEM等で粒子形状を観察することにより、吸湿性及び膨潤性を評価できる。
【0052】
あるいは、ACI法において、デバイスとスロートとの間に、乾湿条件調節のためのボックスを配置し、かかるボックスを乾燥条件及び加湿条件に設定する以外は、同一条件でACI法を実施する。この結果得られる各ステージの回収率を評価することで、粒子の吸湿性及び膨張性を評価できる。
【0053】
さらにまた、走査型電子顕微鏡の試料台に本粉末剤を散布後、37℃の水浴上に短時間(例えば数秒~数十秒以内)曝露し、SEM観察する。水蒸気曝露前後の粒子形状の変化から吸湿性及び膨張性を評価できる。
【0054】
図8に示すように、適切な吸湿・膨潤性を備えることにより、崩壊性を確保できるとともに、吸入時に崩壊後に、気道等において吸湿・膨潤することで肺深部に沈着することができる。
【0055】
本粉末剤は、以上説明した特性の1又は2以上の指標において、有利な特性を備えることができる。こうした本粉末剤は分散性、肺送達性及び沈着性に優れ、吸入粉末剤として有用である。
【0056】
(本粉末剤の組成及びその製造方法)
本粉末剤は、概して、医薬用を意図しており、薬学上許容される賦形剤を含有することができる。かかる賦形剤として特に限定するものではないが、例えば、ロイシン、マンニトール及びトレハロースから選択される1種又は2種以上を含有することができる。好ましくは、3種類を用いる。これら3種の賦形剤は、それぞれ、本粉末剤の、上記した有利な特性に貢献することができる。ロイシン、マンニトール及びトレハロースは、特に限定するものではないが、いずれも天然型、すなわち、L-ロイシン、D-(-)-マンニトール、D-(+)-トレハロースを用いることができる。
【0057】
例えば、ロイシンは、耐吸湿性及び高分散性に貢献することができる。これについては、本発明者らは、既に報告している(Chem. Pharm. Bull. 64, 239-245 (2016))。マンニトールは、崩壊性に貢献することができる。トレハロースは、吸湿・膨潤性に貢献することができる。マンニトールとトレハロースは、高湿度下での吸湿・膨潤性に貢献することができる。したがって、これらの3者を適宜組み合わせることにより、保存時においては耐吸湿性に優れ、吸引時の分散性及び崩壊性が良好で、肺内に相当する高湿度環境下では、吸湿膨潤性に優れる製剤を提供することができる。
【0058】
ロイシン、マンニトール及びトレハロースの本粉末剤における含有量は、特に限定するものではないが、例えば、マンニトール:トレハロース:ロイシンの質量比が、0以上10以下:0以上5以下:85以上100以下などとすることができる。好ましくは、0超10以下:0超5以下:85以上100以下であり、また好ましくは、5以上10以下:1以上5以下:85以上94以下などとすることができる。なお、本粉末剤は、上記した賦形剤のほか、公知の賦形剤を適宜用いることができる。
【0059】
(アニオン性成分)
本粉末剤は、また、賦形剤として、アニオン性ポリマー又はその塩であるアニオン性成分を有していてもよい。ア二オン性成分は、必ずしも明らかではないが、固体物質である有効成分として核酸と併存させることで、核酸の細胞への導入効率を高めることができると推論される。また、核酸を含む本粉末剤を噴霧凍結乾燥などで乾燥するときにおいて併存させることで、核酸の生物活性の維持に寄与することが推論される。こうしたアニオン成分及びその有用性については、本発明者らによる特開2018-11588号公報に開示されている。
【0060】
アニオン性ポリマーとしては、特に限定するものではないが、分子中にアニオン性基を含む、負に荷電された、分子量が500~400万程度の天然由来又は合成ポリマーが挙げられる。アニオン性基は、特に限定しないが、1分子中に複数、好ましくは5個以上有するポリマーを使用することができ、このような官能基としては、例えばカルボキシル基、-OSO3H基、-SO3H基、リン酸基が挙げられる。なお、このようなアニオン性ポリマーとしては、両イオン性ポリマーも含まれる。
【0061】
アニオン性ポリマーとしては、より具体的には、アニオン性基を有する多糖類又はその誘導体;アニオン性基を側鎖に有するアミノ酸残基を含むポリペプチド;カルボキシル側鎖を持つPEG誘導体;アニオン性基を有する合成ポリマー等が挙げられる。
【0062】
アニオン性基を有する多糖類又はその誘導体としては、グルコサミノグリカンが挙げられる。かかるグルコサミノグリカンの分子量は、好ましくは1000~400万、より好ましくは4000~300万である。グルコサミノグリカンは、具体的には、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ケラタン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸等が挙げられる。なかでも、ヒアルロン酸は、核酸導入や保護に優れた寄与が推測される。ヒアルロン酸を始めとする各種グルコサミノグリカンの誘導体としては、ポリエチレングリコール、ペプチド、糖、蛋白質、ヨウ酸、抗体又はその一部などを導入することによって得られるものが挙げられるほか、スペルミン、スペルミジン等を導入し、プラスに荷電した部分を持つ両イオン性の誘導体等が挙げられる。
【0063】
ヒアルロン酸又はその塩は、特にその由来を問わないで、広い範囲の分子量のヒアルロン酸又はその塩を用いることができる。例えば、ヒアルロン酸の平均分子量(典型的には、重量平均分子量)が5,000以下(未満)であっても好適であり、平均分子量が10,000以上であってもよく、20,000以上であってもよく、さらには、30,000以上であってもよい。また、平均分子量は、40,000以上であってもよい。また、上限も特に限定するものではないが、例えば、平均分子量は、200,000以下であってもよく、150,000以下であってもよい。また、例えば、平均分子量が50,000以上110,000以下であっても好適に用いることができる。こうしたヒアルロン酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩)としては、例えば、FCH-SU(分子量5万から11万)やマイクロヒアルロン酸FCH(分子量5000以下(又は未満))(いずれも、キッコーマンバイオケミファ社製)等を適宜用いることができる。
【0064】
ヒアルロン酸の重量平均分子量が、15,000以上40,000以下であることが好適である。こうしたヒアルロン酸又はその塩を用いることで、siRNAなどのネイキッド核酸の導入効率を高めることができる場合がある。
【0065】
ヒアルロン酸の重量平均分子量は、30,000以上70,000以下であってもよく、また、40,000以上60,000以下であってもよい。かかるヒアルロン酸又はその塩を用いることで、有効成分としての核酸の生物活性(例えば、核酸が発現カセットの場合にはその発現量等)を十分に高く発揮できるとともに、適切な吸入特性を発揮することができる。
【0066】
ヒアルロン酸の平均分子量は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーと多角度光散乱検出器を組み合わせる方法(SEC/MALS、例えば、「国立医薬品食品衛生研究所報告」,2003年,121巻,p.30-33)やMorgan-Elson法とCarbazol硫酸法の組み合わせ等により求めることができる(特許文献 特開2009-155486号公報参照)。好ましくは、SEC/MALSを用いる。
【0067】
アニオン性基を側鎖に有するアミノ酸残基を含むポリペプチドとしては、好ましくは500~100万の分子量を有するペプチドが挙げられる。このようなポリペプチドとしては、具体的にはポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸などを例示することができる。
【0068】
カルボキシル側鎖を持つPEG誘導体としては、PEG1分子当たりカルボキシル側鎖を複数、好ましくは5個以上有する、500以上、好ましくは2,000以上、より好ましくは4,000~40,000の分子量を有するPEG誘導体が挙げられる。
【0069】
アニオン性基を有する合成ポリマーとしては、1分子当たり複数、好ましくは5個以上のアニオン性基を有するポリマー又はコポリマーであって、好ましくは500~400万の分子量を有するポリマー又はコポリマーである。このようなポリマー又はコポリマーとしては、具体的には分子量1000~300万のアクリル酸又はメタクリル酸のポリマー又はコポリマー、あるいはポリビニルアルコールの硫酸エステル体、サクシニミジル化ポリ-L-リジン等が挙げられる。
【0070】
アニオン性ポリマーの塩としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の塩のほか、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩等が挙げられる。用いるアニオン性ポリマーに応じて適宜その塩が選択される。
【0071】
本粉末剤においては、賦形剤として、各種態様(すなわち、ポリマーの種類、分子量、塩の種類等)のアニオン性成分を1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。本粉末剤に用いるアニオン性成分は、後述するように、固体物質としての核酸の安定化、細胞への導入、細胞における遺伝子発現又は抑制などの核酸固有の機能発現等を向上させることができるものであれば適宜商業的に入手し、あるいは必要に応じて人工的に合成し、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0072】
本粉末剤における、核酸とアニオン性成分との配合比率は、特に限定するものではなく、アニオン性成分の種類や後述する分散補助剤的に作用する賦形剤の存否等にもよるが、例えば、核酸1質量部に対して、5質量部以上100質量部以下とすることができる。より好ましくは同5質量部以上50質量部以下である。また例えば、同25質量部以上45質量部以下であり、また例えば、同30質量部以上43質量部以下であり、また例えば、25質量部以上40質量部以下であり、また例えば、同30質量部以上43質量部以下である。
【0073】
(疎水性アミノ酸)
本粉末剤は、さらに、賦形剤として、1又は2以上の疎水性アミノ酸を含有していてもよい。かかるアミノ酸を含有していると、本粉末剤を細胞に供給する際の、分散性、吸入投与に際しての吸入特性などを向上させることができると考えられる。かかる疎水性アミノ酸及びその有用性については、本発明者らによる特開2018-11588に開示されている。
【0074】
疎水性アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、プロリン、アラニン、トリプトファン、フェニルアラニン及びメチオニン等が挙げられる。なかでも、ロイシン及びフェニルアラニンを用いることが好ましい。好適な疎水性で固相として存在する核酸などの有効成分及びアニオン性成分の分散性等を向上させることができると考えられる。例えば、フェニルアラニンは、核酸などの有効成分の好適な細胞導入効率に寄与しているものと考えられる。フェニルアラニンは、ロイシンに替えて用いることもできる。
【0075】
疎水性アミノ酸の、核酸などの有効成分に対する配合比率は特に限定するものではないが、核酸の分散性等を向上させることができる範囲で適宜設定される。例えば、核酸1質量部に対して、5質量部以上100質量部以下とすることができる。より好ましくは同5質量部以上50質量部以下である。また例えば、同4質量部以上24質量部以下であり、同6質量部以上19質量部以下であり、また例えば、同9質量部以上19質量部以下であり、また例えば、9質量部以上24質量部以下である。
【0076】
本粉末剤の組成の一例として、有効成分以外の成分である賦形剤として、重量平均分子量が30,000以上70,000以下、好ましくは、同40,000以上60,000以下のヒアルロン酸又はその塩とフェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸とを含有することができる。この組成であると、有効成分としての核酸の生物活性(遺伝子発現や遺伝子発現抑制など)と本粉末剤の吸入特性の両立性に優れている。さらに、これら2成分の賦形剤の総質量に対して、前記ヒアルロン酸又はその塩を、例えば、40質量%以上90質量%以下、また例えば、50質量%以上90質量%以下、60質量%以上90質量%以下、60質量%以上85質量%以下含有することができる。フェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸は、この残分とすることができる。こうした比率とすることで、核酸の生物活性と吸入特性との両立を図りやすくすることができる。
【0077】
(カチオン性キャリア)
本粉末剤が核酸を含むとき、カチオン性キャリアを含有していないことが好適である。カチオン性キャリアは、一般に、核酸などの細胞への導入に有用であるが、カチオン性キャリアは、カチオン性ポリマーなどの非ウイルス性であっても、カチオン性キャリアは、細胞障害性等を発現する可能性があるため、カチオン性キャリアを含有しないことが好ましい。かかるカチオン性キャリアとしては、特に限定するものではないが、カチオン性基を有するカチオン性ポリマーやカチオン性脂質が挙げられる。カチオン性ポリマーとしては、カチオン性基を有する多糖類、カチオン性基を側鎖に有するポリペプチド、カチオン性基を有する人工ポリマー若しくはこれらの塩等が挙げられる。
【0078】
こうしたカチオン性キャリアとしては、例えば、カチオン性脂質(カチオン性コレステロール誘導体を含む)としては、DC-Chol(3β-(N-(N′,N′-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール)、DDAB(N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド)、DMRI(N-(1,2-ジミリスチルオキシプロパ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド)、DODAC(N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド)、DOGS(ジヘプタデシルアミドグリシルスペルミジン)、DOSPA(N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチルアンモニウムトリフルオロアセタート)、DOTAP(N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)、又はDOTMA(N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0079】
以上説明したように、本粉末剤は、有効成分の他、賦形剤を含むことができる。賦形剤としては、ロイシン、トレハロース及びマンニトールから選択される少なくとも1種のほか、アニオン性成分、さらには、必要に応じて、疎水性アミノ酸を含む態様を採ることができる。さらに、本粉末剤は、遺伝子発現やその抑制を意図したDNAやRNA等を含む組成物に一般的に使用される添加剤を含むことを排除するものではない。
【0080】
本粉末剤には、有効成分を含有することができる。有効成分の含有量は特に限定するものではないが、例えば、全質量に対して0.2%以上15%以下程度とすることができる。
【0081】
有効成分として、特に限定するものではないが、後述する噴霧凍結乾燥法に用いられうるものであればよい。一般的には、有機化合物であり、例えば、核酸も含まれる。
【0082】
核酸は、天然に存在するデオキシリボクレオチド及び/又はリボヌクレオチドの重合体である天然核酸及び少なくとも一部に非天然構造を有するデオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチドを含む重合体である非天然核酸を含むことができる。天然のデオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドは天然塩基を備えている。天然塩基は、天然のDNA及びRNAにおける塩基であって、アデ二ン、チミン、グアニン、シトシン及びウラシルが挙げられる。また、天然のデオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチドは、その2-デオキシリボース及び/又はリボースの5位のリン酸と隣接するデオキシリボース及び/又はリボースの3’の水酸基とがリン酸ジ工ステル結合で連結した骨格を有している。本明細書において、天然核酸としては、DNA、RNA及びデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとのキメラ(以下、DNA/RNAキメラともいう。)であってもよい。また、DNA、RNAはそれぞれ一本鎖であってもよいし、同種の二本鎖であってもよいし、DNAとRNAとがハイブリダイズしたハイブリッドであってもよい。さらには、DNA/RNAキメラが、DNA、RNA又はDNA/RNAキメラとハイブリダイズしたハイブリッドであってもよい。
【0083】
非天然の核酸は、塩基、骨格(糖部分及びリン酸部分)のいずれかにおいて、少なくとも一部に非天然構造を有する核酸をいう。非天然塩基としては、種々の非天然塩基が知られている。また、天然のリボースーリン酸骨格を代替する各種の骨格も提供されている。例えば、糖-リボース骨格に替えて炭素数が3個程度の炭素を有するグリコール核酸、ペプチド核酸等が挙げられる。また、天然の核酸はL-DNA又はL-RNAであるが、D-DNA及びD-RNAの構造を少なくとも一部に備える核酸は非天然核酸に含まれる。非天然の核酸においても、一本鎖、二本鎖、ハイブリッド及びキメラ等の各種態様が含まれる。
【0084】
この種の非天然核酸は、概して、タンパク質をコードするコード鎖や鋳型鎖でなく、例えば、他の機能、例えば、細胞内である種の核酸と相互作用させて、その核酸の機能を変化させるなどに用いられる。典型的には、標的タンパク質の発現阻害や機能阻害という機能発現のために用いられる。例えば、遺伝子発現を介することなく、生体内核酸に直接作用する核酸が挙げられ、具体的には、アンチセンス核酸、センス核酸、shRNA、siRNA、デコイ核酸、アプタマー、miRNA等が挙げられる。この種の非天然核酸は、ヌクレオチドが十数個から数十個程度が重合したオリゴヌクレオチドである場合が多い。
【0085】
本組成物は、核酸として、ネイキッド核酸の状態であることが好ましい。ネイキッド核酸(naked核酸)とは、すなわち、裸の核酸である。より具体的には、例えば、遺伝子発現を意図する場合には、プラスミドを用いた核酸コンストラクト(非ウイルス性ベクター)が挙げられる。また、例えば、遺伝子発現の抑制を意図する場合には、プラスミドDNAなどの非ウイルス性ベクターほか、アンチセンス核酸(アンチセンスDNA又はアンチセンスRNA)、shRNA、siRNA、デコイ核酸、アプタマー、マイクロRNA等が挙げられる。ネイキッド核酸としては、治療目的のための核酸要素を主体とし、あるいは当該核酸のみからなり、細胞への核酸の導入のためだけのビヒクルとしての核酸要素を含まない核酸であってもよい。
【0086】
ネイキッド核酸の形態は、特に限定するものではなく、リニアであってもよいし、サーキュラー(閉環又は開環)であってもよい、また、スーパーコイル状であってもよい。目的に応じた形態を適宜備えることができる。ネイキッド核酸としては、ウイルス由来の要素を有するウイルス性キャリア、リポソームやカチオン性ポリマーなどのカチオン性の非ウイルス性キャリアを有していないことが好ましい。ウイルス性キャリアの危険性のほか、かかる非ウイルス性キャリアについても細胞障害、標的性能、発現効率に関して必ずしも十分でないからである。
【0087】
本粉末剤は、乾燥によりそれ自体粉末の外観を呈した固相であるとともに、粉末を構成する球状粒子の一部に有効成分としての核酸を含有している。本粉末剤において、核酸は、結晶又は非結晶の状態であって固相を形成している状態を有することができる。
【0088】
本粉末剤は、好ましくは、凍結乾燥法によって製造することができ、より好ましくは、噴霧凍結乾燥法によって製造することができる。かかる製造法を採用することで、中空多孔質の球状粒子である本粉末剤を容易に取得できる。
【0089】
以上のことから、本明細書によれば、有効成分を含む吸入粉末剤の製造方法であって、賦形剤としてロイシン、マンニトール及びトレハロースからなる群から選択される1種又は2種以上と、有効成分を含有する液体を、噴霧凍結乾燥法にて乾燥する工程、を備える、方法が提供される。また、賦形剤としては、上記の賦形剤とは別個に又は上記賦形剤と組み合わせて、ヒアルロン酸又はその塩などのアニオン性成分及び/又は疎水性アミノ酸を用いることができる。
【0090】
また、本明細書によれば、上記した本粉末剤の球状粒子の特性、すなわち、有効成分と少なくとも一種の賦形剤とを溶解した液体を、吸気によって分散・解砕可能であって、かつ、吸湿時に膨潤可能である、多孔質中空状の球状粒子が得られるように噴霧凍結乾燥する乾燥工程を実施してもよい。こうした球状粒子が得られる賦形剤その他の条件は本明細書に開示されている。
【0091】
また、かかる乾燥工程のために、さらに、前記球状粒子のアンダーセンカスケードインパクター(ACI)による吸入特性評価が、OE(%)=スロート以降からの回収量(mg)/全回収量(mg)×100が、80%以上となるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製する工程を備えることもできる。さらにまた、前記球状粒子のACIによる吸入特性評価が、FPF5(%)が30%以上となるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製するにすることもできる。また、前記球状粒子のACIによる吸入特性評価において、フィルター及びステージ2~4のいずれか1つにおいて回収率のピークを有する球状粒子が得られるように前記賦形剤を選択して前記液体を調製することもできる。
【0092】
(吸入粉末剤の評価方法)
本明細書によれば、吸入粉末剤の評価方法も提供される。すなわち、本評価方法は、ACI法による吸入特性評価において、既に説明した条件で算出される第1の空気力学的質量中位径及び前記第1の空気力学的質量中位径よりも小さい第2の空気力学的質量中位径を取得する、方法が提供される。かかる方法によれば、吸入粉末剤の特性である到達性が評価できるほか、併せて崩壊性も評価することができる。
【0093】
また、本明細書によれば、第2の空気力学的質量中位径を有する粉体の全粉体に対する比率(質量)を取得する方法も提供される。かかる比率(崩壊率)を取得することで、吸入粉末剤の到達性及び崩壊性も評価することができる。崩壊率は、上記した第1及び第2の空気力学的質量中位径とともに取得してもよい。
【0094】
また、本明細書によれば、動的水分吸着測定法において、37℃で50%RH~95%RHまで変化させたとき、少なくとも70%RHでの質量変化率及び95%RHでの質量変化率を測定する方法も提供される。本測定法によれば、吸入粉末剤の耐湿性並びに吸湿性及び膨潤性を評価することができる。
【0095】
(本粉末剤の用途)
本粉末剤は、有効成分が核酸であるとき、核酸の細胞への導入用として用いることができる。さらには、本粉末剤は、核酸を細胞に導入して当該核酸による種々の効果、例えば、遺伝子の発現(タンパク質の合成)や遺伝子の発現の抑制を意図するものである。
【0096】
本粉末剤に含まれる核酸は、本粉末剤の目的に応じて種々の態様を採ることができる。例えば、核酸が、タンパク質などをコードするコード領域を含む場合には、核酸には、当該タンパク質を発現可能に、プロモーター、ターミネーター等の発現制御領域を同時に含むことができる。例えば、こうした核酸としては、発現カセット、あるいは発現カセットを含むプラスミドベクターや人工染色体が挙げられる。プロモーターやターミネーターを始めとする制御領域やその他の要素は、当業者であれば適宜必要に応じて選択して用いることができる。また、プラスミドベクターや人工染色体は、導入する細胞の種類や導入しようとする核酸のサイズ等を考慮して適宜選択される。
【0097】
また、例えば、遺伝子の発現を抑制する場合には、既述のように、核酸として、センス核酸、アンチセンス核酸(DNA又はRNA等)、shRNA、siRNA、miRNA、デコイ核酸、アプタマー等の態様が挙げられる。また、核酸は、こうしたRNA等を転写によって形成するDNAであってもよい。
【0098】
本粉末剤を適用する細胞は、特に限定するものではないが、動物細胞や微生物細胞であることが好ましい。動物細胞としては、ヒトを含む哺乳類のほか、各種非哺乳類細胞が挙げられる。微生物としては、酵母、細菌、真菌等が挙げられるが、特に限定するものではない。
【0099】
本粉末剤は、ヒトや動物に対する遺伝子治療、核酸医薬、免疫治療、胚作製等及び各種の遺伝子関連研究に好適に用いることができる。すなわち、いわゆるin vivo遺伝子治療のほか、ex vivo遺伝子治療に用いることができる。特に、鼻腔や口腔からの吸入による気管支及び肺における腫瘍など、遺伝子に対する作用が効果的な疾患を予防又は治療するための粉末剤として有用である。
【0100】
本粉末剤は、実質的に水系媒体を利用しないで細胞に供給するための組成物とすることができる。「実質的に水系媒体を利用しない」とは、細胞への適用に際して、本粉末剤を緩衝液などの水を主体とする媒体(本明細書において、水系媒体という。)で溶解又は分散等することなく、という意味である。本粉末剤を適用した先の水(水分)によって、核酸等が溶解することは、「実質的に水系媒体を利用しない」に反しない。
【0101】
固体物質としての核酸を含む本粉末剤は、そのままの状態で、固体物質の核酸を維持して、より好ましくは固相の粉末剤を、インビボの細胞に適用することが好適である。固体物質としての核酸を含む本粉末剤又は固相の本粉末剤を細胞に適用することにより、細胞表面において、核酸の導入に有利な環境が形成されるものと考えられる。例えば、こうした態様の本粉末剤は、生体内における気液界面として存在する細胞表面の水分を媒介して作用し、核酸が細胞内に取り込まれるものと考えられる。
【0102】
また、ヒトを含む動物等において、外部から非侵襲的又はおおよそ非侵襲的にカテーテル等を用いて到達可能な臓器、例えば、鼻腔、眼、口腔、気道、肺、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、膀胱、膣、子宮、心臓、血管等の内表面(粘膜)に対しては、本粉末剤を、適当なガスを介したインジェクションにより、固体物質としての核酸を標的箇所に到達させることができる。例えば、肺粘膜や鼻腔粘膜に対する粉末製剤等の供給は、吸入法等として周知である。また、開腹や切開等によって動物の内部、例えば、皮下、筋肉、腹腔、腫瘍等の病変部に、直接本粉末剤を供給してもよい。なお、本粉末剤の適用にあたっては、標的組織内部、その表面又はその近傍に移殖するなどの手段を採ることもできる。また、ゲル状物、スポンジなどの多孔体、不織布などの表面に本粉末剤を担持させて留置することもできる。
【0103】
本粉末剤が、このように固体物質としての核酸を含む形態で標的箇所又は細胞に供給されることにより、従来のように水系媒体で希釈されることもなく高濃度に標的部位に供給され、当該部位に継続して留まることができる。すなわち、本粉末剤は、本質的に、高濃度に標的細胞に到達させることが可能となっている。その結果、高い取り込み能と核酸による機能発現が可能となっていると考えられる。
【0104】
本粉末剤は、用時に溶解して用いても十分な効果を発揮する。例えば、用時に、本粉末剤を、水、生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液、培地液などの水系媒体に懸濁又は溶解することにより再溶解物を調製して適用することも可能である。再溶解については、本粉末剤を、例えば、例えば、核酸の100~10000倍(重量比)の溶媒を用いて懸濁又は稀釈する。凍結乾燥前と異なる量、異なる種類の溶媒を用いることができるため、従来困難であった比較的高濃度の懸濁液や溶液(たとえば1ml中にDNAを1mg含む液)も容易に調製することができる。
【0105】
本粉末剤は、用時に非水系媒体に核酸を固体物質として含有させた状態であってもよい。例えば、用時に、本粉末剤を、非水系媒体に懸濁してもよい。例えば、凍結乾燥前と異なる量、異なる種類の溶媒を用いることができるため、従来困難であった非水系媒体をベースとして核酸を適用することができるようになる。
【0106】
このように、適当な液性媒体で溶解又は懸濁した本粉末剤は、生体細胞への核酸、又はその誘導体の導入に通常用いられる任意の方法を用いることができる。
【0107】
本粉末剤の細胞への適用量は、上述した導入方法、疾患の種類、目的などによって異なるが、例えば核酸の量にして、投与部位によって大きく異なるが、腫瘍への局所投与では例えば5~1000μg/cm3・腫瘍、膀胱などの臓器への投与では例えば0.1μg~100mg/臓器、全身投与では例えば0.1ng~10mg/Kg・体重とすることができる。
【実施例
【0108】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0109】
(吸入粉末剤の調製)
本実施例では、モデル薬物として蛍光色素であるフルオレセインナトリウム(FlNa)、賦形剤として以下に示すロイシン、マンニトール及びトレハロースを、以下の表に示す組みあわせで用いた。
【0110】
【化1】
【0111】
【表2】
【0112】
粉末微粒子はSFD(噴霧凍結乾燥法)により調製した。SFD法は、噴霧工程と凍結乾燥工程の2工程からなる。まず、噴霧乾燥機(SD-1000、東京理化器械株式会社)に付属する2流体噴霧ノズルを用いて、試料溶液をノズル先端から15cm下の液体窒素(500mL)中に150kPaで噴霧することにより急速凍結した。試料溶液は5mL/minで送液し、1.5min噴霧を続けた。得られた氷滴を凍結乾燥機(FDU-210東京理化器械株式会社)を接続した角形ドライチャンバー(DRC-1000東京理化器械株式会社)に入れ、真空条件下で24hr乾燥することにより目的の製剤を得た。
【0113】
SFD法操作条件
【表3】
【実施例2】
【0114】
(粉末剤の走査型電子顕微鏡による粒子形状の評価)
調製した粉末微粒子の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM:JSM-IT100LA、日本電子株式会社)で観察した。図2に示す分散添加のための粉末微粒子添加デバイスを用いて、噴霧した。噴霧方法としては、調製した粉末製剤を少量充填した100μLチップに三方活性を介して接続した1mLシリンジ(TERUMO)内で0.25mLの空気を圧縮し、三方活栓を開放した。黒色両面テープを貼付した試料台上に粉末微粒子を分散添加後、30mV、90secの条件でプラチナコーティング(JFC-1600、日本電子データム株式会社)し、SEM観察した。結果を図2に示す。
【0115】
図2に示すように、賦形剤の混合比にかかわらず、中空多孔な球状粒子が得られた。なお、トレハロース単体及びフルオレセインナトリウム単体については、中空多孔粒子を観察できなかった。
【実施例3】
【0116】
(粉末剤のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LMS)ニよる粒度分布評価)
実施例1で調製した製剤の幾何学的粒子径・粒度分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(LMS:LMS-2000e、SEISHIN ENTERPRISE Co.,Ltd.)を使用した。乾式ワンショット測定法で行い、0.4MPaにエアー供給圧を設定して測定を行った。得られた累積粒度分布から50%粒子径(D50)を算出し、粒度分布評価を行った。結果を図3に示す。算出したD50を併せて図3に示す。
【0117】
図3に示すように、調製した粉末剤は混合比にかかわらず単一な粒度分布が観測された。一部の製剤(M0T0、M5T0、M0T1、M5T1、M10T3、M5T3、M0T5)に関しては、100~1000μm付近の製剤が観測された。また、D50は全ての製剤で10μm前後の類似した値が算出された。
【実施例4】
【0118】
(粉末剤のACIによる吸入特性の評価)
吸入特性の詳細なデータを得るため、ACI(ローボリウム・エアーサンプラー、アンダーセンタイプ、AN-200型、柴田科学株式会社)を用いて吸入特性評価を行った。
【0119】
評価方法は、試料約1.0mgを2号HPMCカプセル(クオリカプス株式会社)に充填し、日立ロータリーベビコン(ベビコン、200RC-20C5、日立産機システム株式会社)によって、流量(PFR)28.3L/minにて吸引を行った。吸引時間は10secとした。吸入デバイスにはジェットヘラー(Jethaler(登録商標)、日立オートモティブシステムズメジャメント株式会社)の吸入抵抗の異なるシングル、デュアル、リバースを用いた。
【0120】
(粉末剤の回収率の算出)
デバイス、カプセル、スロート、フィルター、各ステージに沈着した試料をリン酸緩衝液(PBS)50ml又は10mlに溶解した後、FlNaの濃度をマルチプレートリーダー(Enspire、株式会社パーキンエルマージャパン)にて定量(励起波長:490nm、蛍光波長:515nm)し、各パーツにおける回収量及び回収率を算出した。必要に応じて希釈定量を行った。各ステージでの回収率を図4に示す。
【0121】
(粉末剤の各指標の算出)
本実験結果から、OE、FPFStage3、FPFStage5及びOE×FPFStage5を既述の式(1)~(4)から算出した。種々の製剤についてのこれらの指標を図5に示す。
【0122】
(粉末剤の空気力学的質量中位径の算出)
実施例1で調製した粉末剤は、対数正規プロットが曲線となる傾向があったため、粉体の一部が崩壊し,粒子径が大きい粉体(MMAD及びGSDをMMADc及びGSDcとする)と小さい粉体(MMADf及びGSDf)が比率(1-R):Rで生じたと考えた。そこでACI解析で得られた8つの測定点(回収率の積算値)から、Excelの関数を用いて各ステージに下記A~Dの値を求め,Eが最小になるようなR、MMADc、GSDc、MMADf、GSDfをExcelのソルバー機能により求めた。これらの結果を図6に示す。なお、図6には、あわせて、粒子崩壊前後の粉体の解析結果の一例を示す。
【0123】
A=ステージごとの回収率の積算値(%)をNORM.S.INV関数により変換した確率変数
B=NORM.DIST関数により算出したMMADc及びGSDcの粉体の回収率の積算値
C=NORM.DIST関数により算出したMMADf及びGSDfの粉体の回収率の積算値
D=B×(1-R)+C×Rの値をNORM.S.INV関数により変換した確率変数
E=ステージごとに求めた(D-A)2の合計値
【0124】
図4及び図5に示すように、フィルターへの製剤沈着が一番多く20%以上という結果となった。各ステージの回収率で一番高くなったものは、どの製剤でもステージ3であった。また、図5に示すように、特に、マンニトールを含む製剤において、良好な指標(OE、FPF)が得られる傾向があった。
【0125】
図6に示すように、ソルバー機能にて解析した崩壊率RはMan含有率0%で45%程度、5~10%で約50~60%となり、Man添加で増加した。一方、Man添加によりMMADcとMMADfは小さくなった(Man0%:4.3μm程度、Man5~10%:3.5~4.0μm)(Man0%:0.35μm程度、Man5~10%:0.2μm台)。以上のことから、マンニトールが崩壊性に大きく貢献することがわかった。
【実施例5】
【0126】
(粉末剤の耐吸湿性・吸湿性評価)
実施例1で調製した各SFD製剤及び組成の各原末(Leu、Man、Tre、FlNa)について、動的水分吸着測定装置(DVS:Dynamic Vapor Sorption;DVS advantage、Surface Measurement Systems)を使用して、吸入から気道内、そして高湿度の肺深部での耐吸湿性及び吸湿成長の評価を行った。
【0127】
DVSは、試料を天秤型の測定部の片側に充填し、設定した温湿度環境における水分の吸着・脱着に伴った試料の質量変化を秒スケールでモニターすることができる。評価の測定条件を以下の表に示す。吸湿成長評価の条件設定に関して、粉末微粒子が肺深部に到達するまでの温湿度環境変化の再現に向けて、吸入前の環境を『温度37℃、相対湿度(RH)50%(絶対湿度:6.903g/m3)』とし、吸入後の肺内環境を『温度37℃、95%RH(絶対湿度:41.62g/m3)』とした。結果を、図7に示す。
【0128】
DVS測定条件
【表4】
【0129】
図7に示すように、SFD製剤同士を比較するとManとTreの割合が多いほど相対湿度が高くなるにつれて吸湿し、質量変化率が高くなる結果となった。また、Leuの割合が多いほど高湿度においても耐吸湿性を示した。また、Leu、Man及びTre単独の質量変化率は原末(約0.08、0.29、22%)とSFD製剤(約0.14、2.40、41%)とを比較すると、SFD製剤の質量変化率がより高くなる結果となった。
【実施例6】
【0130】
(粉末剤の長期保存試験(耐吸湿性・吸湿性))
本実施例では、モデル薬物としてホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA(吸入特性については蛍光色素であるフルオレセインナトリウム(FlNa)を用いた。)、賦形剤としてL-ロイシン(以下、Leuとも表記する。)及びヒアルロン酸(ナトリウム塩、重量平均分子量50000、以下、LHAとも表記する。)を用いて、以下の組成で、噴霧凍結乾燥用液を調製し、噴霧凍結乾燥した。
【0131】
[1]試料1(FlNa/LHA/Leu)
FlNa1mg、LHA12.5mg及びLeu36.5mg(合計50mg)を含む水溶液
[2]試料2(FlNa/LHA)、
FlNa1mg、LHA49mg(合計50mg)を含む水溶液
【0132】
なお、噴霧凍結乾燥は、実施例1に準じて、噴霧空気圧150kPa、試料溶液流速5ml/分、噴霧ノズル径0.4mm、乾燥時間24時間、最終真空度5Pa以下、最終棚温度10℃で行った。得られた粉末製剤を、5℃/乾燥(シリカゲル)、25℃/乾燥(シリカゲル)及び、25℃/75%RHの3条件で12ヶ月まで保存し、SEM、吸入特性と遺伝子発現との双方を評価した。
【0133】
(SEM観察)
試料1及び試料2のいずれにおいても、乾燥条件下では、12ヶ月後も中空多孔構造を維持したが、加湿条件(75%RH)では、試料1では、保存開始から1ヶ月、試料2では保存直後~1週間で吸湿し、それ以降は中空多孔構造を実質的に構成できなかった。SEM観察によれば、耐吸湿性は、試料1が試料2よりも優れていた。
【0134】
(吸入特性)
吸入特性については、実施例4に準じて評価した。吸入特性評価にはFlNaを含む粉末剤を用いた。結果を図9A及び図9Bに示す。図9Aに示すように、試料1は、乾燥条件下では、大きな吸入特性の低下を観察しなかったが、加湿条件では、4ヶ月以降FPF3は低下し、MMADは増大した。このことは、吸湿により、初期の球状粒子が凝集していることを示す。また、図9Bに示すように、試料2では、乾燥条件では、保存期間による吸入特性の変化はなかったが、FPF3も低く、MMADも約5~8μmと大きかった。また、加湿条件では、吸湿により測定不可能であった。
【0135】
(遺伝子発現)
試料1及び2の粉末剤をマウス肺内に投与して、遺伝子発現効果を評価した。マウスへの投与及び評価は以下のようにして行った。
【0136】
(1)マウス肺内への投与
前処置としてペントバルビタール(50mg/kg、i.p.)麻酔下、雌性ICRマウス(5週齢)の前歯を自作の固定板に設置し、胸部を垂直にした。ライト(MegaLight100(商標)、ショット日本株式会社)を用いて、胸部に局所的に光を当てながら、マウスの口を開放してピンセットで舌を引き出した。口内で白色の穴として見える気管を確認し、挿管補助器具(Liquid MicroSprayer(商品名、PennCentury, Inc))のスプレーチップ部分を使用)に装着したマウス肺内投与用カニューレ(総長4.0cmのPE-60ポリエチレンチューブ)を3.0cm気管に挿入した。
【0137】
カニューレを気管に残しつつ挿管補助器具だけを引き抜いた後、カニューレから呼気が通ることを確認し、その後、肺内投与用デバイスのチップ先端をカニューレに挿入して、マウスの吸気に合わせて0.25mLの圧縮空気を開放することで予めチップに充填しておいた各粉末剤0.5mg(pDNAとして10μg)を肺内投与した。
【0138】
(2)肺内遺伝子発現効果の評価
ルシフェラーゼ活性に基づく発光をIVIS(商標)を用いて検出・解析することにより評価した。測定時に用いたluciferinはPBSを用いて30mg/mLに調整し、-80°Cで保存したものを使用した。Isoflurane(イソフル、商標、アボットラボラトリーズ)により麻酔し、マウス肺内投与6、12、24、48時間後に、発光基質であるluciferin(30mg/mL、0.05mL/mouse;300mg/kg)を経鼻投与した。luciferin投与10分後にisoflurane麻酔下、exposure time 1分で発光を検出した。肺に相当するregion of interest(ROI;縦1cm、横3cm)を作成して、その発光強度(Total Flux (photon/sec))を遺伝子発現量として求め、遺伝子発現量-時間パターンを解析した。得られた遺伝子発現量-時間パターンより、遺伝子発現量-時間曲線下面積(AUC)及び最大遺伝子発現量(Luc(max))をそれぞれ求めた。結果を、図10に示す。
【0139】
図10に示すように、試料1及び試料2は、乾燥条件下では、初期の遺伝子発現を12ヶ月後も概ね維持したが、加湿条件下では、4ヶ月で顕著に低下した。また、試料2の発現量が試料1に比較して高かった。
【0140】
以上のことから、本粉末剤が、乾燥条件下であれば、その吸入特性及び遺伝子発現特性を維持できることがわかった。
【実施例7】
【0141】
(ヒアルロン酸の分子量と遺伝子発現)
本実施例では、種々の分子量のヒアルロン酸(ナトリウム塩)を用いた粉末剤の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。
【0142】
ヒアルロン酸として、重量平均分子量2000、5000、50000、80000及び350000(それぞれ、HA2などという。)を用い、pDNA(ホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA)1mg(2質量%)、各ヒアルロン酸12.5mg(25質量%)、フェニルアラニン36.5mg(73質量%)の合計50mgを含む噴霧凍結乾燥用液を調製した。ヒアルロン酸は、NaOHによりpH7.0±0.5に調製した溶液を用いた。この溶液を、実施例6と同様の方法により噴霧凍結乾燥して、粉末剤を製造した。
【0143】
製造した各粉末剤につき、ヒト由来肺胞がん細胞であるA549細胞を、細胞播種数を2×102cells/ウエル(気液界面培養系Transwell(登録商標))として4~9日培養後、これらのウエルに対して、0.4~0.6mgを充填した粉末添加デバイスから一定量を添加した。48時間経過後、ウエル内の細胞を凍結融解して破壊後、ピッカジーンを添加しルミノメータで蛍光を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、重量平均分子量が50000のHA50が最も高い遺伝子発現を示した。
【0144】
次いで、重量平均分子量50000のHA50につき、pDNA1mg(2質量%)を固定し、HA量を12.5mg(25質量%)、24.5mg(49質量%)、36.5mg(73質量%)、49mg(98質量%)とし、フェニルアラニンをそれぞれ36.5mg(73質量%)、24.5mg(49質量%)、12.5mg(35質量%)、0mg(0質量%)をそれぞれ含んだ各5mlの4種類の噴霧凍結乾燥用液を調製した。この溶液を、実施例6と同様の方法により噴霧凍結乾燥して、粉末剤を製造し、上記と同様に遺伝子発現を評価した。結果を図12に示す。
【0145】
図12に示すように、HA50を73質量%含み、フェニルアラニンを12.5質量%含む組成物が、最も高い遺伝子発現効果を示した。以上の結果から、遺伝子発現の観点からは、HA50が好適であり、また、フェニルアラニンを併用することが有用であることがわかった。また、遺伝子発現の観点からは、HA50は、全賦形剤中、50質量%以上、また例えば、50質量%以上、また例えば、60質量%以上、また例えば、70質量%以上含むことが好適であり、例えば、90質量%以下、また例えば、85質量%以下、また例えば、80質量%以下含むことが好適であり、これらの下限値及び上限値から選択される組み合わせにより規定される範囲もまた好適である。また、HA50とフェニルアラニンなどの賦形剤とは、HA50 100質量部に対して、例えば10質量部以上、また例えば、15質量部、また例えば、20質量部以上の下限値、例えば、40質量部以下、また例えば、35質量部以下、また例えば、30質量部以下の上限値から、それぞれ選択される下限値及び上限値で規定される範囲において有用であることがわかった。
【実施例8】
【0146】
(ヒアルロン酸とフェニルアラニンを含む粉末剤の吸入特性)
実施例7において良好な遺伝子発現が確認されたヒアルロン酸(重量平均分子量50000)とフェニルアラニンを含む粉末剤の吸入特性を確認した。本実施例では、蛍光色素であるフルオレセインナトリウム(FlNa)を用い、賦形剤としてL-フェニルアラニン(以下、Pheとも表記する。)及びヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量50000、以下、HA50とも表記する。)を用いて、以下の組成で、噴霧凍結乾燥用液を調製し、噴霧凍結乾燥した。なお、HA50は、NaOHによりpH7に調製した溶液として用いた。
【0147】
[1]試料1
FlNa2質量%、HA50 98質量%、及びPhe0質量%(合計50mg)を含む5mlの溶液。
[2]試料2
FlNa2質量%、HA50 73質量%、及びPhe25質量%(合計50mg)を含む5mlの溶液
[3]試料3
FlNa2質量%、HA50 49質量%、及びPhe49質量%(合計50mg)を含む5mlの溶液。
[4]試料4
FlNa2質量%、HA50 25質量%、及びPhe73質量%(合計50mg)を含む5mlの溶液
【0148】
なお、噴霧凍結乾燥は、実施例6に準じて行い、粉末剤を得て、実施例4に準じて吸入特性を評価した。結果を図13に示す。図13に示すように、HA50の質量%が低くPheの質量%が高いほど、高い肺到達性を示した。また、いずれの製剤も良好なMMADも示したが、HA50の質量%が低くPheの質量%が高いほどMMADは小さくなった。
【0149】
なお、こうした吸入特性評価の結果、いずれの製剤も、肺内到達率である「FPF3」や「OE×FPF3」は、20%以上であることがわかった。また、HA25%製剤すなわち、Phe含有量が多い製剤ほど、高い吸入特性が得られることもわかった。また、いずれの製剤も、MMADが1~6μmであることから、吸入剤に適していることもわかった。このように、本実施例によれば、HA50とフェニルアラニンの組み合わせが良好であることがわかった。
【0150】
また、図12に示すインビトロにおける遺伝子発現効果と図13に示す吸入特性の結果から推定できる、HA50とフェニルアラニンとを賦形剤とする吸入粉末剤の有効性を図14に示す。
【0151】
図14に示すように、HA50とフェニルアラニンとは、これら2成分の総質量に対して、HA50が40質量%以上90質量%以下、また例えば、50質量%以上90質量%以下、60質量%以上90質量%以下、60質量%以上85質量%以下、さらに、60質量%以上80質量%以下などとすることで、吸入粉末剤としての高い有効性が見込まれることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14