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特許7090950精子受精能獲得を判定することによるオスの受精能状態の特定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】精子受精能獲得を判定することによるオスの受精能状態の特定
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20220620BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20220620BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220620BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/92 Z
C12Q1/02
G01N33/50 J
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021085749
(22)【出願日】2021-05-21
(62)【分割の表示】P 2017515227の分割
【原出願日】2015-09-16
(65)【公開番号】P2021121812
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】62/051,536
(32)【優先日】2014-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/051,533
(32)【優先日】2014-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517235188
【氏名又は名称】コーネル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィス,アレクサンダー,ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】パレルモ,ジャンピエロ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0248302(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0037334(US,A1)
【文献】特開平03-111760(JP,A)
【文献】Vimal Selvaraj, Danielle E. Buttke et al.,GM1 dynamics as a marker for membrane changes associated with the process of capacitation in murine and bovine spermatozoa,Journal of Andrology,米国,2007年,vol. 28, no. 4,pp.588-599
【文献】Hiroaki Shibahara,産婦人科検査法,日本産科婦人科学会雑誌,日本,2007年,59巻4号,N29-N39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オス個体の受精能状態を特定する方法であって:
精子サンプルを得ること、ここで、前記精子サンプルは前記個体に由来するものであり、当該精子サンプルは受精能獲得コンディションにさらされ、固定され、GM1パターンのために染色されている;
前記精子サンプル中の総GM1パターンに対する、前記精子サンプル中の先体頂部(AA)及び先体細胞膜(APM)のGM1パターンのパーセンテージを決定すること;及び
個体の受精能状態を判定するために、決定された先体頂部(AA)及び先体細胞膜(APM)のGM1パターンのパーセンテージを、参照と比較すること、ここで、前記参照は受精能閾値であり、当該受精能閾値より低いパーセンテージは、不妊性又は低受胎性の受精能状態を示す、及び/又は、前記参照は不妊症閾値であり、前記不妊症閾値より低いパーセンテージは、不妊性の受精能状態を示す;
を含む方法。
【請求項2】
前記受精能獲得コンディションが、重炭酸イオン、カルシウムイオン、及びステロール流出のメディエーターの一以上にさらすことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステロール流出のメディエーターが、2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、血清アルブミン、高密度リポタンパク質、リン脂質小胞、胎児臍帯血清限外ろ過液、脂肪酸結合タンパク質、又はリポソームである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記精子サンプルが、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド又はそれらの組み合わせを含む固定液で固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記受精能閾値が、既知の繁殖性個体の集団に関する受精能獲得精子における、AA+APMパターンの平均パーセンテージ未満の1標準偏差のAA+APMパターンのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記受精能閾値が、集団の受精能が実質的に増加するのを止めるAA+APMパターンのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記受精能閾値が、集団の50%より多くが繁殖性であるAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記受精能閾値が、集団の60~85%より多くが繁殖性であるAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記受精能閾値が、総GM1パターンの35~40%(上限値及び下限値を含む)の範囲内にあるAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記受精能閾値が、総GM1パターンの38、38.5、39、又は39.5%のAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記不妊症閾値が、既知の繁殖性個体の集団に関する受精能獲得精子における、AA+APMパターンの平均パーセンテージ未満の2標準偏差のAA+APMパターンのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記不妊症閾値が、集団の受精能が実質的に増加し始めるAA+APMパターンのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記不妊症閾値が、集団の50%未満が繁殖性であるAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記不妊症閾値が、総GM1パターンの14~18%(上限値及び下限値を含む)の範囲内にあるAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記不妊症閾値が、総GM1パターンの14、14.5、15、又は15.5%のAA+APMのパーセンテージである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2014年9月17日に出願された米国仮出願62/051,533及び2014年9月17日に出願された米国仮出願62/051,536に基づく優先権を主張し、それらの開示は参照により本明細書に包含される。
【0002】
本研究は、国立衛生研究所の認可番号R01 HD-045664、K01-RR00188、及びDP1-EB016541による財政的支援を受けた。政府は本発明に所定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、一般にオスの受精能の分野に関し、より具体的には、誘発された精子受精能獲得後のGM1ガングリオシド分布パターンに基づいてオスの受精能状態を判定することに関する。
【背景技術】
【0004】
米国では、カップルの10%が、不妊症に関して医者に予約をし、不妊症の40%は男性に関係している。全世界的には、これは7300万人を超える不妊のカップルに相当する。典型的な男性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)試験は、精子の数、外観、及び運動性を評価する。不運なことに、不妊の男性の半数が、これらの記述的基準のための正常なパラメーターを満たす精子を有し、自然妊娠と、子宮腔内受精(IUI)のような生殖補助技術の両方に繰り返し失敗した後で、「特発性不妊症」であると特定されるだけである。失敗の各サイクルは、カップルに大きな肉体的、感情的及び財政的な損害を与え、米国の医療制度に年間50億ドルを超える負担をかけるため、精子機能の実施試験に対する膨大な需要が存在する。精子機能に関するデータは、臨床医に、妊娠する最善の機会を与える生殖補助技術へと患者を指導することを可能にするであろう。
【0005】
メスの管の中に入った後、精子は直ちに卵を受精させることはできない。むしろ、それらは「受精能獲得」として知られる機能的成熟のプロセスを経なければならない。このプロセスは、それらの細胞膜内での特定の変化による特定の刺激に応答するそれらの能力、すなわち、受精能獲得のための刺激への暴露に応じた、ガングリオシドGM1の分布パターンの変化に依存する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
オスの受精能状態の診断方法が開示される。この方法は、誘発された精子受精能獲得の間、あるGM1分布パターンのみが、オスの受精能状態を示したという知見に基づいている。一つの側面では、本開示は、誘発された受精能獲得に応答する、あるGM1パターンの度数分布(頻度分布)の変化に基づいて、オスの受精能状態を特定する方法を提供する。
【0007】
一実施形態では、前記方法は、個体から精子サンプル(例えば、精液サンプル)を得ること、受精能獲得を誘発できる一以上の刺激に精子をさらすこと、精子を固定液(例えば、アルデヒド固定液)中で固定すること、固定された精子のGM1分布パターンを決定すること、受精能獲得刺激に暴露された際、あるパターンの度数分布に変化があるかどうか、又は、あるGM1パターンの度数分布が、ある所定の(あらかじめ定められた)基準に適合するかどうかを決定すること、及び、度数分布の変化及び/又は分布基準への適合に基づいて、個体の受精能状態を特定することを含む。
【0008】
M1分布パターンに基づいて、個体は、正常な受精能状態又は異常な受精能状態を有すると特定されてもよく、あるいは、受精能カテゴリーを付与されてもよい。例えば、個体は「不妊性」「低受胎性」「繁殖性」であると指定されてもよく、これらの結果は、自然に妊娠すること、IUIを行うこと、又は体外受精(IVF)あるいは卵細胞質内精子注入法(ICSI)に進むことを試みるかどうかについて、患者と彼らの医者に情報を与えるために使用されてもよい。例えば、個体が不妊性と指定された場合、医者は、その個体に自然妊娠及び/又はIUIを続けないよう勧めてもよい。別の例では、個体が低受胎性と指定され、若い女性のパートナーを有する場合、医者はIUIを試みるよう助言してもよい。
【0009】
一つの側面では、本開示は、オスの受精能状態を判定するためのキットを提供する。前記キットは、以下のものを一以上含む:受精能不獲得培地、受精能獲得培地、固定液、GM1パターンの分布を判定するための試薬、受精能状態の判定に役立つGM1パターンの表示、及び前記パターンと受精能状態の間の相関性情報を提供する比較チャートあるいは所定の基準。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、受精能不獲得コンディション又は受精能獲得コンディション下での、正常なヒトの精子と不妊男性の精子における、GM1の局在パターンを示す。
【0011】
図2図2A-2Cは、受精能不獲得コンディション下での正常なヒトの精子(正常な精液-NC:図2A)、又は受精能獲得コンディション下での正常なヒトの精子(正常な精液-CAP;図2B)におけるGM1の異なる局在パターン、及び受精能獲得コンディション下での不妊男性のヒト精子(ICSI-CAP;図2C)におけるGM1の局在パターンの相対分布を示す。正常な精子では、INTERパターンから、APMパターンとAAパターンへのシフトが確認される。これらの正常なデータとの比較のため、未解明の不妊症男性のグループからの精子も、GM1アッセイにかけられた。これらの精子(ICSI-CAP)では、受精能不獲得コンディション下でインキュベートされた正常な精子と比べて、受精能獲得コンディション下のAPM又はAAパターンにはほぼ差が無かった。未解明の不妊症を有するこれらの男性は、すでに、自然妊娠、IUI及び/又は古典的IVFに繰り返し失敗し、彼らはICSIを提示されていた。
【0012】
図3図3は、受精能獲得コンディション、又は受精能不獲得コンディション下での、インキュベーション時間の関数としてのAPMとAAパターンを併せた相対度数(相対頻度)を示す。サンプルが正常又は異常と指定された男性の臨床転帰が、各グループごとに提示されている。
【0013】
図4図4は、受精能獲得を促進する刺激を与えてインキュベートした既知の繁殖性ドナーの精子における、AAとAPMパターンのパーセンテージを示す。平均パーセンテージである41パーセントは、実線で示される。平均値の上下の2標準偏差(それぞれ、55パーセントと27パーセント)は、一点鎖線で示される。この実施例では、平均値より下の2標準偏差が、不妊症閾値として選択された-すなわち、27パーセント率未満にAA及びAPMパターンを示す精子は、不妊症と相関関係がある。
【0014】
図5図5は、低受胎性/不妊性と疑われるドナーから得た精子中のAAとAPMパターンのパーセンテージと、繁殖性男性の統計的閾値を比較する。精子中のAAとAPMパターンのパーセンテージは、受精性獲得コンディション(4mMのシクロデキストリン濃度に群がっている点)と受精能不獲得コンディション(0mMのシクロデキストリン濃度に群がっている点)下の両方で測定された。受精能獲得コンディション下では、精子は、4mMの2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリンとともにインキュベートされた。図4のデータに基づいて、繁殖性男性におけるAAとAPMパターンを有する精子の平均パーセンテージ(41%)は、実線で示される。平均値の上下の2標準偏差(それぞれ、55パーセントと27パーセント)は、一点鎖線で示される。27パーセント率未満にAA及びAPMパターンを示す精子は、不妊症と相関関係がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、所定のGM1分布パターンが、オスの受精能状態に関する情報を提供できるという知見に基づいている。GM1パターンの判定は、米国特許番号7,160,676、7,670,763、及び8,367,313に記載されており、それらの開示は参照により本明細書中に包含される。本開示は、オスの受精能状態を判定するための方法及びキットを提供する。前記方法は、受精能獲得刺激にさらされた際の、所定のGM1パターンの出現頻度(度数)の変化に基づいている。
【0016】
一つの側面では、本開示は、オスの受精能状態を判定する方法を提供する。前記方法は、個体から得た精子サンプルを、受精能獲得コンディション及び受精能不獲得コンディションにさらすこと、受精能獲得コンディションにさらされた際の、所定のGM1パターンの出現頻度の変化を測定し、変化のレベルに基づいて、受精能状態を特定することを含む。
【0017】
用語「受精能獲得」精子とは、受精能獲得のプロセスを促進するコンディション下でインキュベートされた精子を指す。具体的には、これは培地中の重炭酸イオンとカルシウムイオンの存在、及び、血清アルブミン又はシクロデキストリン等のステロール・アクセプターの存在を必要とする。受精能獲得精子は、先体開口分泌(アクロソーム・エキソサイトーシス)を起こす能力を獲得し、過剰に活性化されたパターンの運動性を獲得する。従って、用語「受精能不獲得」精子という用語は、受精能獲得のための上述の刺激の一以上とともにインキュベートされていない精子を指す。そのような精子は、透明体、透明体由来の可溶化タンパク質、プロゲステロン等の生理的リガンドによって誘発される先体開口分泌を起こさない。さらに、受精能不獲得コンディション下でインキュベートされた精子は、過剰に活性化された運動性も示さないであろう。
【0018】
受精能獲得は、重炭酸イオン及びカルシウムイオンのような外部刺激への暴露、及びステロール流出のメディエーター、例えば2-ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、血清アルブミン、高密度リポタンパク質、リン脂質小胞、リポソーム等への暴露によって、インビトロで誘発されてもよい。GM1分布パターンの識別可能な変化は、精子をインビトロでこれらの刺激の一以上にさらした際に観察される。
【0019】
採取後、ヒトの精液サンプルは、典型的には、液化、洗浄、及び/又は濃縮の一以上を含む、何らかの方法で処理される。液化には、室温で又は37℃で(あるいはそれらの間の任意の温度で)、様々な期間(10~60分、典型的には15~20分)サンプルを液化させることが含まれる。液化は、それにより、精漿がゲルから、より流体/液体のコンシステンシーに変換するプロセスである。精漿は、一般的には、何らかの処置を施さずとも液化するが、特に粘稠性のサンプルを用いる場合、又はプロセスを促進したい場合、又は全てのサンプルを取り扱うための一貫した液化手順を作りたい場合、タンパク質分解酵素、還元剤、又は他の粘液溶解薬のような様々な試薬を添加することによってこれを達成することもできる。これらには、α-キモトリプシン、α-アミラーゼ、ジチオスレイトール、膵臓ドルナーゼ、ブロメライン、パパイン、スブチリシン(サブチリシン)、トリプシン、及びスプトリシン(sputolysin)が含まれるが、これらに限定されない。精子は、遠心分離と再懸濁によって洗浄され、及び、精液分析にかけられ、及び/又は以下を含む一以上の選定プロセスにかけられてもよい;頂部への積層、及び密度勾配による遠心分離;頂部への積層、及び密度勾配による遠心分離、その後の精子濃縮フラクションの採取、その後の再懸濁と洗浄;頂部への積層、及び密度勾配による遠心分離、その後の精子濃縮フラクションの採取、及び、その頂部へのより密度の低い培養液(その中へ運動性精子が泳ぎ上がれる)の重層;又はサンプルの頂部により密度の低い培養液を重層し、運動性精子をその中へ泳ぎ上がらせる:
【0020】
最初の処理後、精子をカウントすることができ、及び、所定数の精子を、受精能不獲得又は受精能獲得培地を含む容器(例えば、管)の中に入れて、所望の最終濃度を達成することができる。一実施形態では、精子の典型的な最終濃度は、1,000,000/mLである(最終濃度範囲は、250,000/mL~250,000,000/mLに変更可能)。受精能不獲得及び受精能獲得コンディション下で精子をインキュベートする基本培地は、生理緩衝液であってもよく、生理緩衝液として、例えば、HTF(human tubal fluid)、mHTF(modified human tubal fluid)、Whitten培地;修正Whitten培地;KSOM;リン酸緩衝食塩水;HEPES-緩衝食塩水;トリス-緩衝食塩水;ハムF10;タイロード培地;修正タイロード培地;TES-トリス(TEST)-ヨークバッファー;又はBWW(Biggers, Whitten and Whittingham)培地が挙げられるが、これらに限定されない。基本培地は、生存率を高めるため、又は、受精能獲得を誘発するのを助けるために十分な濃度で、それに添加されるタンパク質又は他の因子(胎児臍帯血清限外ろ過液、プラズマネート(Plasmanate)、卵黄、スキムミルク、アルブミン、リポタンパク質又は脂肪酸結合タンパク質を含む)からなる一以上の規定の又は複合の供給源を有していてもよい。受精能獲得のための典型的な刺激には、以下の一以上が含まれる:重炭酸(典型的には20~25mMで、5~50mMの範囲でもよい)、 カルシウム(典型的には1~2mMで、0.1~10mMの範囲でもよい)、及び/又はシクロデキストリン(典型的には1~3mMで、0.1~20mMの範囲でもよい)。シクロデキストリンは、2-ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリン及び/又はメチル-β-シクロデキストリンを含んでもよい。インキュベーション温度は典型的には37℃(30℃~38℃の範囲でもよい)であり、インキュベーション時間は典型的には1~4時間(30分から18時間の範囲でもよい)であり、ベースラインのサンプルは、インキュベーション期間の開始時(時間0)に得ることができる。
【0021】
M1パターンを生成するために、精子は典型的には、標準基本培地(例えば、リン酸緩衝食塩水、修正Whitten培地、又は他の同様の培地)で洗浄され、検出可能な成分を有するGM1親和性分子とともにインキュベートされる。GM1は、エピトープとしての機能を果たすことができる細胞外糖残基を有するので、細胞を固定する及び透過処理することなく、可視化できる。しかしながら、細胞の固定は、パターン形成に寄与しつつ、より良い検体の保存をもたらし、可視化を容易にし(遊泳精子中のパターンの識別と比較して)、及びより長い可視化時間を可能にする。精子の組織学的研究のために知られている様々な固定液は、当業者の管轄範囲内である。適切な固定液には、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ブアン固定液、及びカコジル酸ナトリウム、塩化カルシウム、ピクリン酸、タンニン酸などを含む固定液が含まれる。一実施形態では、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、又はそれらの組み合わせが使用される。
【0022】
固定のコンディションは、0.01%~1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドが典型的に使用されるが、0.004%(重量/体積)パラホルムアルデヒド~4%(重量/体積)パラホルムアルデヒドの範囲でも良い。一実施形態では、0.005%(重量/体積)パラホルムアルデヒド~1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドが使用される。一実施形態では、リン酸緩衝食塩水中の、4%パラホルムアルデヒド(重量/体積)、0.1%グルタルアルデヒド(重量/体積)、及び5mM CaCl2が使用できる。
【0023】
生存又は固定精子中のGM1の分布パターンは、親和性結合技術を使用することによって得ることができる。GM1ガングリオシドに特異的な親和性を有する分子が使用できる。前記親和性分子は、検出可能標識(例えば、フルオロフォア)に直接連結されることができ、あるいは、その上に検出可能な標識を有する第二の親和性分子によって検出されてもよい。例えば、コレラ毒素のbサブユニットは、GM1に特異的に結合することが知られている。それゆえ、標識化(例えば蛍光標識化)コレラ毒素bサブユニットを、GM1の分布パターンを得るために使用できる。フルオロフォアに連結されたコレラ毒素のbサブユニットの一般的な最終濃度は、10~15μg/mLであるが、濃度は0.1~50μg/mLの範囲でもよい。あるいは、GM1に対する標識化抗体が使用できる。さらに別の代替案では、コレラ毒素bサブユニットに対する標識化抗体が、GM1染色のパターンを可視化するために使用できる。さらに別の代替案では、GM1に直接結合する一次抗体又はコレラ毒素のbサブユニットに結合する一次抗体の、いずれかに結合する標識化二次抗体が使用できる。本明細書中で使用される用語「GM1染色」又は「GM1の染色」又は「標識化する」又は関連する用語は、GM1への標識化親和性分子の結合によって、細胞上又は細胞内で観察される染色を意味する。例えば、蛍光タグ化コレラ毒素bサブユニットが、GM1の位置特定のために使用される場合、シグナル又は染色はコレラ毒素bサブユニットに由来するが、GM1の位置を示している。用語「シグナル」及び「染色」及び「標識化」は、互換的に使用される。検出可能な標識とは、検出可能なシグナルを生じる能力があるものである。そのような標識には、放射性核種、酵素、蛍光剤又は発色団が含まれる。精子中のGM1分布の標識化(又は染色)及び可視化は、標準技術によって実施される。コレラ毒素のbサブユニット以外の親和性分子も使用できる。これらには、ポリクローナル及びモノクローナル抗体が含まれる。GM1ガングリオシドに特異的な抗体は、通常の免疫化手順によって生成でき、又は市場から購入できる(例えば、Matreya社、ステートカレッジ、ペンシルバニア州)。抗体は、GM1に対して産生されてもよく、あるいは、GM1分子の関連エピトープのペプチド模倣体を使用して産生することができる。ペプチド模倣体の特定と産生は、当業者に周知である。さらに、コレラ毒素へのbサブユニットの結合は、小分子によって模倣されてもよい。所定の試薬への類似した結合特性を有する小分子の特定は、当業者に周知である。
【0024】
ヒト精子に関して、7つの異なるパターン(詳細は実施例1参照)が観察された。これらのパターンは、INTER、APM、AA、PAPM、AA/PA、ES、及びDIFFと命名された。GM1パターンを図1に示し、さらに以下に説明する:
・INTER:大部分の蛍光が赤道部分の周りのバンド内にあり、先体を覆う細胞膜内にいくらかのシグナルがある。通常、シグナルに勾配があり、赤道部分で最も大きく、以後、先端に向けて次第に小さくなる。赤道部分にわたるバンド内で、精子頭部の縁でシグナル強度の増加がしばしば見られる。
・APM(先体細胞膜:Acrosomal Plasma Membrane):INTERと比べて、このパターンでは赤道シグナルと頂端の方に向かうシグナルの間の差異がより小さい。すなわち、先体を覆っている細胞膜中のシグナルがより均等に分配されている。APMシグナルは、頂端に向かって動く明るい赤道INTERバンドから観察されるか、又は、それは先端に向けてさらに立ち上がり、より小さい領域内で見られる可能性がある(それがAAとの連続体であるかのように)。
・AA(先体頂部:Apical Acrosome):このパターンでは、蛍光は頂端に向けてますます濃くなり、明るさが増加し、シグナルを有する面積が減る。
・PAPM(先体後方細胞膜:Post Acrosomal Plasma Membrane):シグナルはもっぱら先体後方の細胞膜中にある。
・AA/PA (先体頂部/先体後方:Apical Acrosome/Post Acrosome):シグナルは先体を覆う細胞膜と、先体後方細胞膜の両方で見られる。シグナルは赤道部分には見られない。
・ES(赤道部分:Equatorial Segment):明るいシグナルが、赤道部分にのみ見られる。それは、赤道部分にわたる精子頭部の肥厚を伴うかもしれない。
・DIFF(拡散:Diffuse):拡散したシグナルが、全精子頭部にわたって見られる。
【0025】
INTER、AA、APMパターン、及びこれらのパターンの組み合わせが、正常な精子膜構造及びその結果として受精能を有する生存精子と正に相関する一方、PAPM、AA/PA、ES、及びDIFFパターンは、生存率、正常な膜構造及び受精能と正に相関しないことが観察された。受精能不獲得コンディション下でインキュベートされた場合、正常な膜構造を有する生存精子の大部分は、INTERパターンを示し、このパターンは標識の大部分が赤道部分の近くに存在すること、残りが先体を覆う細胞膜に広がって存在することを特徴とする。受精能獲得のための刺激にさらすと、APM及びAAパターンの出現頻度は増加する。APMパターンは、先体を覆う細胞膜中でより均一なシグナルを示す一方、AAパターンは精子頭部の頂部、先体頂端でシグナル強度の増加を示し、赤道部分に向けて尾側に向かうシグナルは減少した。不妊個体の受精能不獲得GM1分布パターンは、受精能不獲得の正常な個体のパターンと類似していると考えられる。
【0026】
一実施形態では、前記方法は、個体から得た精子サンプルの一定分量(アリコート)を、受精能不獲得コンディションにさらすこと、及び、同じサンプルの別の一定分量又は同じ個体から得た異なるサンプルを受精能獲得コンディションにさらすこと、両方のセットの精子を固定すること、両方のセットの精子を染色してGM1パターンを特定すること、両方において所定のGM1パターンの出現頻度(度数)を測定すること、受精能獲得コンディションにさらした際、所定のパターンの出現頻度に変化があるかどうかを決定すること(受精能不獲得コンディション下の出現頻度と比較することによって)、及びパターンの出現頻度の変化に基づいて受精能状態を特定することを含む。一実施形態では、前記パターンは、AA、APM、及びINTERのうちの一以上である。
【0027】
一実施形態では、前記方法は、個体から得た精子サンプルを、受精能獲得コンディションにさらすこと、前記精子を固定すること、前記精子を染色してGM1パターンを特定すること、所定のパターンの出現頻度を決定すること、所定のパターンの出現頻度をコントロール(すなわち、参照)と比較すること、及び前記比較に基づいて受精能状態を特定することを含む。前記コントロールは、繁殖性の個体由来のものであってもよく、あるいは、低受胎性又は不妊性であることが知られている個体由来のものでもよい。一実施形態では、前記コントロールは、同じ受精能獲得刺激及び固定液にさらされる。一実施形態では、前記コントロール用サンプルは、試験サンプルと平行して試験されてもよい。別の実施形態では、コントロール比較は、繁殖性、低受胎性、又は不妊性のいずれかである男性の集団の精子で見受けられる異なるパターンの相対度数に対して行われてもよい。
【0028】
前記比較の結果に基づいて、オスのサンプルの受精能状態を確立することができる。受精能状態は、様々な受精の手段により妊娠を達成する可能性に関して、前記個体(又は非ヒトのオスの場合は、その所有者あるいは責任のある関係者)に情報を与えるために、臨床医によって使用されてもよい。
【0029】
オスの個体は、ヒトであっても、非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物の場合、受精能状態と相関関係のあるパターンの特定は、本明細書に記載される技術に基づいて実施できる。非ヒト動物には、馬、牛、犬、猫、豚、山羊、羊、鹿、兎、鶏、七面鳥、様々な種の魚、及び様々な動物学的な種が含まれる。
【0030】
一実施形態では、本開示の方法は、オスがおそらく不妊性であると指摘する方法であって、受精能獲得コンディション及び受精能不獲得コンディション下でインキュベートされた前記個体の精子及び正常コントロールの精子中のGM1分布パターンを得て、任意で固定し、そのGM1分布パターンを比較することを含む方法を提供する。正常コントロールでは、あるパターンを示している精子のパーセンテージに統計的に有意な変化が観察されるであろう。もし同じ変化が、試験個体の精子中で観察されなければ、その個体は異常な受精能状態を有していると指摘される。一実施形態では、正常及び異常な受精能状態であると情報を与えるパターンは、パターンINTER、AA及び/又はAPMである。このように、正常な受精能状態を有することが分かっている個体由来のサンプル(コントロールとして使用されてもよい)では、受精能獲得コンディションにさらされた際、AA及び/又はAPMパターンを示す精子の出現頻度の増加、及びINTERパターンを示す精子の出現頻度の減少がある。もし受精能獲得コンディションにさらされた際に、これらのパターンの一以上のパーセンテージに変化が全く観察されない、あるいは有意な変化が観察されない場合、個体は受精能に問題を有すると指摘される。
【0031】
上記実施形態の変形例では、前記コントロールは、不妊性又は低受胎性であることが分かっている個体由来であってもよい。この実施形態では、受精能獲得の際、試験個体のGM1パターンの変化が、INTER、AA及び/又はAPMパターンについて、コントロールと同じであれば、その個体は、低受胎性又は不妊性と見なすことができる。
【0032】
上記実施形態のさらに別の変形例では、試験個体のサンプルは、コントロールとの比較無しで評価されてもよい。もし受精能獲得コンディションにさらされた際に、INTER、AA及び/又はAPM分布パターンの出現頻度に、変化が全く観察されない、あるいは有意な変化が観察されない場合、その個体は異常と見なされてもよく、さらなる検査を行うために指定されてもよく、他方、INTERが減少し、AAが増加し、及び/又はAPMが増加するような変化が観察される場合、その個体は正常な受精能を有すると指摘されてもよい。
【0033】
一実施形態では、前記方法は、受精能獲得コンディションにさらされた精子中の、AA及びAPMパターンの出現頻度を特定するための、GM1分布パターンの分析を含む。前記出現頻度は、総計に対する、一以上のGM1分布パターンのパーセンテージとして表すことができる。一実施形態では、受精能は、あらかじめ決定された受精能閾値、例えば、不妊性に分類される個体と低受胎性に分類される個体の間の閾値(すなわち、カットオフ)レベル、あるいは、低受胎性に分類される個体と繁殖性に分類される個体の間の閾値レベルに対して、AA及び/又はAPM分布パターンの出現頻度を比較することによって予測される。閾値は、相対的に高い受精能と、相対的に低い受精能とを区別するためにも使用できる。一例では、AA及びAPMパターンの合計について40%以上の相対的パーセンテージは、受精能を有する見込みが高いことを表し、他方、40未満のレベルは、受精能を有する可能性が低いことを表す。他の実施形態では、受精能閾値レベルは、境界(上限値及び下限値)も含めて35~40(AA+APMの相対的パーセンテージ)の範囲内である。他の実施形態では、受精能閾値は、38、38.5、39、又は39.5である。
【0034】
一実施形態では、同様の閾値を、INTERパターンのため、AA又はAPMパターン単独のため、あるいはINTER、AA又はAPMパターンの任意の組み合わせのために設定することができる。
【0035】
一般に、コントロールは、受精/臨床的妊娠を達成できる可能性が、例えば、3以下のサイクル内で50%より高い場合、繁殖性であると見なされる。個体は、受精/臨床的妊娠を達成できる可能性が、ある分類値より上である場合、繁殖性と見なされてもよい。例えば、受精/臨床的妊娠を達成できる可能性が、3以下のサイクル内で50%より高い場合、個体は「繁殖性」に分類されてもよい。他の実施形態では、繁殖性カットオフ確率は、その境界も含めて50%~85%の範囲内の値であってもよい。
【0036】
他の実施形態では、受精能閾値は、その値にて集団の受精能がAA及び/又はAPMのレベルの増加につれて実質的に増加するのを止める、AA及び/又はAPMの値である。個体は、その個体のAA及び/又はAPMレベルに基づいて、「不妊性」、「低受胎性」又は「繁殖性」と指定されてもよい。
【0037】
複数の実施形態において、異なる受精能を指定するためのカットオフ値(単数又は複数)は、個体の集団についてのAA及び/又はAPM出現頻度と、それに対応する受精成功率(対応する値以上のAA及び/又はAPM値を有する個体の、成功的な受精のパーセンテージ)を含むデータのセットから決定される。例えば、前記データのセットは、AA+APM値40と、40以上のAA+APMを有する個体に関する対応する受精成功率を含んでもよい。前記受精能閾値は、データセット中の、傾向及び/又は中断によって決定されてもよい。例えば、個体の受精成功率が、AA+APMのレベルの増加につれて実質的に増加しない領域が、およそ14.5~18.5レベル未満に存在するかもしれない。この実質的に平らな領域(<14.5~18.5)内のAA+APMレベルを有する個体は、不妊性と分類されることができる。個体の受精能が上昇しはじめるAA及び/又はAPMレベルは、不妊症閾値レベル(すなわち、不妊性に分類される個体と低受胎性に分類される個体を分けるレベル)と見なされることができる。受精能に有意な変化を示す領域は、この不妊症閾値と、受精能が再び横ばいになるおよそ38~39のレベルの間に存在する。この上限値は、受精能閾値レベル(すなわち、低受胎性に分類される個体と繁殖性に分類される個体を分けるレベル)と見なすことができる。このように、受精能閾値レベルは、集団の受精能がAA及び/又はAPMのレベルの増加につれて実質的に増加するのを止める、AA及び/又はAPMの値であってもよい。
【0038】
複数の実施形態において、受精能は、GM1出現頻度のパーセント変化に対して、受精能の変化が、3%、4%、5%、10%、又は15%より大きい場合、実質的に増加すると見なされてもよい。実質的であるとみなされる他の変化は、本開示に照らして、当業者に自明であり、本開示の範囲内と見なされる。
【0039】
他の実施形態では、受精能閾値レベルは、その値にて個体の受精能が60%~85%の範囲内の少なくともある値にある、AA及び/又はAPMの最小レベルであってもよい(ここで、前記値は、繁殖性と分類される個体を示すために選択される)。AA及び/又はAPMのためのパーセンテージ又は範囲について具体的な言及がなされるが、同様の決定が、INTERパターンの変化から、又はINTER、AA及びAPMパターンの一以上の組み合わせから行われてもよいことは自明である。
【0040】
他の実施形態において、受精能閾値は、男性の集団、例えば10人以上の男性(受精能が分かっている)から採取した精子中で見られるパターンの統計的解析によって決定されてもよい。図4に示されるように、73の精液サンプルが、繁殖性と分かっている24人の男性から採取された。彼らの精子は、受精能獲得のための刺激(このケースでは、4mMの2-ヒドロキシ-プロピル-βシクロデキストリン)とともにインキュベートされ、0.01%のパラホルムアルデヒド(最終濃度)で固定された。受精能の獲得を示すパターン(例えば、AA+APM)を有する細胞のパーセンテージが評価された。AA及びAPMパターンを有する精子の平均パーセンテージは41%であり、当該平均値の2標準偏差は27%及び55%と計算された。
【0041】
多くの診断検査において、平均値からの2標準偏差が、正常値と異常値を区別するために使用される。このケースでは、平均値より下の2標準偏差を示す27%の値が、繁殖性(平均値又は上の1標準偏差内にスコアを有するもの)に対して、低受胎性サンプル(平均値より下の1標準偏差である28~34の間のスコアを有するもの)から、不妊性サンプル(すなわち、27以下のスコアを有するもの)を区別するための閾値として選択された。このように、低受胎性サンプルと繁殖性サンプルとを区別するための、代表的な受精能閾値は、AA+APMパターンの平均パーセンテージより下の1標準偏差のAA+APMパターンのパーセンテージとすることができる。他の閾値が選択されてもよい。例えば、不妊性/低受胎性の閾値は、平均値より下の3標準偏差として選択されてもよく、低受胎性/繁殖性の閾値は、平均値より下の2標準偏差であってもよい。
【0042】
受精能状態の医学的評価を求める14人の男性から得た14サンプル中のGM1局在パターンを分析した。AA+APM局在パターンを有する精子の相対パーセンテージを、繁殖性と分かっている男性の集団から特定された統計的閾値に対して比較した(図5)。ベースライン(非刺激、受精能不獲得コンディション)下でインキュベートされたサンプル中では違いが観察されなかった。しかしながら、14人の男性のうち5人は、4mMの2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリンとともにインキュベートした場合、AA+APMパターンを有する精子のパーセンテージが低いサンプルを産生した。これらの5つのサンプルは全て、平均値から2標準偏差を下回った。妊娠するのが難しいカップルの約30~50%が、オス側に要因を有すると考えられる。これらのデータは予期された範囲に入る。
【0043】
一つの側面では、本開示は、オスの受精能状態を判定するためのキットを提供する。このキットは、以下の一以上を含む:受精能獲得のための刺激を与えることができる薬剤、受精能獲得培地、受精能不獲得培地、固定液、GM1パターンの分布を判定するための試薬、受精能状態の判定に役立つGM1パターンの表示、前記パターンと受精能状態の間の相関性情報を提供する比較チャート、検査値と受精能状態の間の相関性情報を提供する所定の基準。一実施形態では、前記キットは、受精能不獲得及び受精能獲得培地、パターンチャート(例えば、図1)、容器等を含む。一実施形態では、前記キットは、受精能獲得を刺激するために4%シクロデキストリンを含有する薬剤を含む。
【0044】
一実施形態では、受精能獲得培地は、最終濃度が3mMとなるように、2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリンを添加した修正ヒト卵管液を含む;受精能不獲得培地は、修正ヒト卵管液を含む;固定液は1%パラホルムアルデヒドである;及び、GM1パターンを判定するための試薬は、コレラ毒素のbサブユニットである(最終濃度:15μg/mL)。他の実施形態では、パラホルムアルデヒドの最終濃度は、0.01%である。
【0045】
代表的なキットは、HEPESで緩衝されたゲンタマイシンを含む修正HTF培地(Irvine Scientific社、90126)を含む。重炭酸-あるいはHEPES-緩衝培地のどちらを使用しても、GM1局在化スコア、生存率又は精子回復率、及び受精能獲得に違いは観察されなかった。それゆえ、重炭酸緩衝培地も使用可能である。HEPES-バッファーの使用は、エア・インキュベーター又は水浴を使用してクリニックで分析を行うことを可能にする(CO2インキュベーターにのみ適合する場合とは対照的に)。同様に、補助タンパク質の添加は、市販品(HTF-SSSTM、Irvine Scientific、又はプラズマネート)であっても、又は粉末化アルブミンであっても、回復率又は生存率を変化させず、受精能獲得状態を順調に高める。
【0046】
代表的なキットは、さらに細胞分離培地を含むことができる(例えば、Vitrolife社の、Enhance S-Plus Cell Isolation Media,90%、参照:15232 ESP-100-90%)。代表的な試薬、消耗品、手順が、ヒト精子上のGM1の有利な標識化をもたらすために実証された。
【0047】
代表的なキットは、さらに、大きな開口先端を有するピペット(200μLのlarge orifice tip、USA scientific社、1011-8400)を含むことができる。代表的なキットは、さらに、大きな開口を有するトランスファーピペット(汎用トランスファーピペット、スタンダードバルブ参照番号:202-20S. VWRカタログ番号14670-147)を含むことができる。
【0048】
代表的なキットは、さらに、1.5mL管(処理キャップ、キャップなし、CD)(USA Scientific社 14159700)-受精能獲得を刺激するために粉末形態のシクロデキストリンを含むもの、及び培地単独の受精能不獲得コンディション用の空のものを含むことができる。複数の実施形態において、シクロデキストリンが別の管に入っており、それに培地を添加して原液を作ること、それ自体を受精能獲得用の管に添加することが可能である。
【0049】
精漿から精子を単離する場合、ヒト男性病学ラボでは、密度勾配を使用して精子を採取することが一般的である。代表的なキットは、さらに密度勾配用物質及び/又は密度勾配から精漿を除去し、その後新しいトランスファーピペットを使用してペレット状の精子を採取するための説明書を含むことができる。
【0050】
代表的なキットは、さらに、固定液(例えば、0.1%PFA)を含むことができ、及び任意で、配送、保管、又は制御目的に役立つ情報フォーム(例えば、患者の要求フォーム)、ラベル、及び容器/バッグ/パウチ等を含むことができる。例えば、前記キットは、ホイル製パウチ、患者サンプルを郵送するための吸収剤入りバイオハザードバッグ、吸収剤入りの再密閉可能な袋、及び発泡製チューブホルダーを含むことができる。
【0051】
別の側面では、オス個体の受精能を測定する方法が提供される。GM1局在アッセイは、精子が受精能を獲得することができ、それにより卵を受精させる能力を持つようになるかどうかを明らかにすることができる。上述したように、前記アッセイは、精子頭部にGM1局在性の特定パターンを有する形態学的に正常な精子のパーセンテージとしてスコア化されてもよい。APM及びAAパターンは、精子が受精能獲得のための刺激に応答すると、増加する。カットオフは、精液の相対的受精能を識別し、オスの受精能に基づいて精液サンプルをグループ分けするために使用できる(すなわち、繁殖性男性を、低受胎性男性から、不妊性男性から区別する)。しかしながら、精子数、運動性及び形態も、オスの受精能に影響を与え得るため、本開示は、CAPスコアと一以上の相対的精液パラメーター(例えば、数、運動性、及び形態等)を包含するオスの受精能の指数(「オス受精能指数」又は「MFI」)を作成する方法を提供する。CAPスコア(GM1スコアとも称される)は、一以上のGM1分布パターンの出現頻度である。例えば、CAPスコアは、INTER、AA、及びAPMの一以上の出現頻度であってもよい。特定の精液パラメーターを強調する異なる指数を作成することができる。例えば、本開示による指数には、以下のものが含まれる。
・CAPスコア×進行性の運動性を有するものの%×絶対数;
・CAPスコア×形態学的に正常な精子の%×絶対数;
・CAPスコア×総運動性%×絶対数×形態学的に正常な精子の%;及び
・CAPスコアとこれらのパラメーターの他のバリエーション又は他の組み合わせ、又はCASA(コンピューター支援精子解析)を使用して得られるものを含む、他の特定のパラメーター、例えば:VSL(直線速度);STR(直線性);LIN(直進性);VCL(曲線速度);VAP(経路平均速度);%運動性;運動持続時間;LHA(頭部振幅);WOB(ふらつき);PROG(進行);及びBCF(頭部振動数)等。例えば、世界保健機関「WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Sperm」(2010年第5版)参照。
【0052】
オスの受精能指数は、オス個体の受精能状態を測定する方法として、具体化されてもよい。精子サンプルを得る際、当該精子サンプルは測定される個体から得られるものであり、当該精子サンプルの少なくとも一部は、上述したように、受精能獲得コンディションにさらされ、固定液にさらされ、GM1のために染色されている。一以上の精液パラメーターの値が、前記精子サンプルから取得され、この値は、例えば、当該個体の原サンプルの値、及び/又はサンプル精子の濃度、運動性及び/又は形態などである。MFIは、一以上のGM1分布パターンの出現頻度(すなわち、「CAP」スコア)及び、得られた一以上の精液パラメーター値から決定される。本明細書に示す例では、CAPスコアは、3時間目の受精能獲得コンディション下の一以上のGM1分布パターンの出現頻度であるが、CAPスコアの他の変形例が本開示に照らして明らかである(例えば、他の時間間隔での出現頻度、受精能獲得と受精能不獲得におけるGM1パターンの出現頻度の変化など)。
【0053】
一例では、オスの受精能指数スコアが、以下の方程式に従って、AA+APMのCAPスコア、体積、濃度、運動性、形態を使用して、男性のサンプルのために計算された。
【数1】
式中、%運動性は、運動性である精子のパーセンテージであり、%形態は、形態学的に正常な精子のパーセンテージである。前記試験では、3時間目にGM1スコアが40未満である(すなわち、合格/不合格のために、カットオフ値40を使用)26個体の平均MFIは0.37であり、範囲は0.04~0.95にわたった。このグループではたった2つが、0.75以上の値を有していた。3時間目でGM1スコアが39.5以上である(すなわち、合格/不合格のために、カットオフ値40を使用)7個体の平均MFIは、1.02であり、範囲は0.23~2.79にわたった。このグループでは4個体が、0.75より高いスコアを有した。それらのうち、3個体が3サイクル内で繁殖性であり、4個体目は4回目のトライで繁殖性であった。2つのグループの間で、精子数あるいは他の精液解析用パラメーターに有意な違いはなかった(不合格の26個体では107.16ミリオン精子/精液であるのに対して、合格の7個体では127.7ミリオン精子/精液;不合格の個体では平均形態スコアは3.73であるのに対して、合格の個体では3.14;不合格の個体では平均運動性46.89であるのに対して、合格の個体では51.86)。
【0054】
オスの受精能指数は、GM1局在アッセイを解読する研究所によって作成されてもよい。この研究所は、精子サンプル、及び、当該精子サンプルに対応する精液解析を、一以上の施設(例えば、不妊治療院、精子バンク等)から得てもよい。精液解析情報は、GM1局在アッセイキットに付属するカードに含まれていてもよく、研究所に電子的に送られてもよく、及び/又は別のやり方で提供されてもよい。別の代表的な実施形態では、前記研究所は、精子サンプルのCAPスコアを取得し、当該精子サンプルのための精液解析情報も取得する。前記研究所は、取得したCAPスコアと取得した精液解析データに基づいてオスの受精能指数を計算する。
【0055】
ヒトのオス個体の受精能状態を特定するための代表的な方法は、受精能不獲得コンディション及び受精能獲得コンディションに、個体の精子サンプルをさらすことを含む。前記精子は固定され、固定精子中の選択されたGM1パターンの出現頻度が測定される。受精能不獲得コンディション及び受精能獲得コンディションにさらされた精子中の異なるGM1パターンの度数分布(頻度分布)が比較される。受精能不獲得コンディションにさらされた精子を超える、受精能獲得コンディションにさらされた精子中の一以上の選択GM1パターンの度数分布の変化は、個体の受精能状態を示している。選択GM1パターンは、INTER、AA及び/又はAPMであってもよい。
【0056】
ヒトのオス個体の受精能状態を特定するための代表的な方法は、受精能獲得コンディションに、個体の精子サンプルをさらすことを含む。前記精子は固定され、固定精子中の選択されたGM1パターンの出現頻度が測定される。異なるGM1パターンの度数分布が、コントロールの度数分布と比較され、ここで、コントロールの精子サンプルは、同じ受精能獲得コンディション及び同じ固定液にさらされたものである。コントロールの変化に対する、一以上の選択GM1パターンの度数分布の変化は、コントロールの受精能状態と前記個体の受精能状態とが異なることを示している。前記GM1パターンは、INTER、AA及び/又はAPMであってもよい。
【0057】
代表的な方法では、前記コントロールは、正常な受精能状態を有することが分かっている個体、又は異常な受精能状態を有することが分かっている個体からの精子サンプルとすることができる。前記コントロールは、複数の個体を含むデータセット、例えば、少なくとも50の個体を含むデータセットから得られた値とすることができる。
【0058】
ヒトのオス個体の受精能状態を不妊性、低受胎性、あるいは繁殖性と特定する代表的な方法は、前記個体の精子サンプルを受精能獲得コンディションにさらすことを含む。前記サンプルのGM1分布パターンが決定される。一以上のGM1パターンの出現頻度が、受精能閾値と比較され、この際、受精能閾値より低い出現頻度は、受精能に問題があることを示す。例えば、受精能閾値より低い出現頻度は、受精能状態が不妊性又は低受胎性であることを示すことができる。前記GM1分布パターンは、INTER、AA及び/又はAPMであってもよい。
【0059】
前記の代表的な方法における受精能獲得コンディションは、i)重炭酸イオン及びカルシウムイオン、及び ii)ステロール流出のメディエーター、例えば、2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、血清アルブミン、高密度リポタンパク質、リン脂質小胞、胎児臍帯血清限外ろ過液、脂肪酸結合タンパク質、又はリポソームへの暴露を含むことができる。代表的な方法において、受精能獲得あるいは受精能不獲得コンディションへのコントロールの暴露は、試験サンプルと平行して行われてもよい。
【0060】
ヒトのオス個体の受精能状態を不妊性、低受胎性、あるいは繁殖性と特定する代表的な方法は、前記個体の精子サンプルを受精能獲得コンディションにさらすことを含む。前記サンプルのGM1分布パターンが決定される。一以上のGM1パターンの出現頻度が、不妊症閾値と比較され、この際、不妊症閾値より低い出現頻度は、受精能に問題があることを示す。例えば、不妊症閾値より低い出現頻度は、受精能状態が不妊性であることを示すことができる。
前記の代表的な方法における受精能獲得コンディションは、i)重炭酸イオン及びカルシウムイオン、及び ii)ステロール流出のメディエーター、例えば、2-ヒドロキシ-プロピルβシクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、血清アルブミン、高密度リポタンパク質、リン脂質小胞、胎児臍帯血清限外ろ過液、脂肪酸結合タンパク質、又はリポソームへの暴露を含むことができる。一以上のGM1パターンは、INTER、AA及び/又はAPMであってもよい。
【0061】
前記の代表的な方法の受精能閾値は、集団の受精能が実質的な増加を止める、AA+APMパターン出現頻度とすることができる。例えば、受精能閾値は、集団の50%より多くが繁殖性であるAA+APMのレベル;集団の60~85%より多くが繁殖性であるAA+APMのレベル;又は境界も含めて35~40(総GM1パターンに対する相対的パーセンテージ)の範囲内のAA+APMのレベルとすることができる。受精能閾値は、38、38.5、39、又は39.5%AA+APM(総GM1パターンに対して)とすることができる。
【0062】
代表的な方法は、さらに、一以上のGM1パターンの出現頻度を不妊症閾値と比較することを含んでもよく、この際、不妊症閾値より低い出現頻度は不妊症であることを示す。例えば、不妊症閾値は、集団の受精能が実質的に増加し始めるAA+APMパターンの出現頻度;集団の50%未満が繁殖性であるAA+APMのレベル;集団の60~85%より多くが繁殖性であるAA+APMのレベル;又は境界も含めて14~18(総GM1パターンに対する相対的パーセンテージ)の範囲内のAA+APMのレベルとすることができる。不妊症閾値は、14、14.5、15、又は15.5%AA+APM(総GM1パターンに対して)とすることができる。
【0063】
ヒトのオス個体の受精能状態を特定するための代表的な方法は、精子サンプルを得ることを含み、この際、前記精子サンプルは前記個体から得られるものであり、当該精子サンプルは受精能不獲得又は受精能獲得コンディションにさらされ、固定され、GM1のために染色されている。精子中の選択されたGM1パターンの出現頻度が測定される。受精能不獲得コンディション及び受精能獲得コンディションにさらされた精子中の異なるGM1パターンの度数分布が比較される。受精能不獲得コンディションにさらされた精子を超える、受精能獲得コンディションにさらされた精子中の一以上の選択GM1パターンの度数分布の変化は、個体の受精能状態を示している。GM1パターンは、AA、APM、INTER、及びそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。
【0064】
オス個体の受精能状態を特定するための代表的な方法は、精子サンプルを得ることを含み、この際、前記精子サンプルは前記個体から得られるものであり、当該精子サンプルは受精能獲得コンディションにさらされ、固定され、GM1の存在ために染色されている。精子中の選択されたGM1パターンの出現頻度が測定される。一以上の異なるGM1パターンの度数分布が、コントロール又は所定の基準からの度数分布と比較される。コントロールの精子サンプルは、同じ受精能獲得コンディション及び同じ固定液にさらされたものである。コントロールの変化に対する、一以上の選択GM1パターンの度数分布の変化は、コントロールの受精能状態と前記個体の受精能状態とが異なることを示している。
【0065】
オス個体の受精能状態を特定するための代表的な方法は、精子サンプルを得ることを含み、この際、前記精子サンプルは前記個体から得られるものであり、当該精子サンプルは受精能獲得コンディションにさらされ、固定され、GM1パターンのために染色されている。サンプル中のGM1分布パターンが決定される。一以上のGM1パターンの出現頻度が不妊症閾値と比較され、ここで、不妊症閾値より低い出願頻度は、受精能に問題があることを示す。
【0066】
オス個体の受精能状態を特定するための代表的なキットは、以下の一以上を含む:受精能獲得培地、受精能不獲得培地、固定組成物、GM1染色パターンを判定するための試薬、比較チャート、所定の基準、比較用のGM1パターンの表示、又は閾値。
【0067】
オス個体の受精能状態を測定するための代表的な方法は、精子サンプルを得ることを含み、この際、前記精子サンプルは前記個体から得られるものであり、当該精子サンプルは受精能獲得コンディションにさらされ、固定液にさらされ、GM1のために染色されている。値は、原サンプルの体積、及び原サンプル中の精子の濃度、運動性、及び形態の一以上について取得される。精子サンプルのCAPスコアは、サンプル中の一以上のGM1分布パターンの出現頻度として決定される。個体のオスの受精能指数(MFI)値は、決定されたCAPスコアと、取得した体積、濃度、運動性及び形態の一以上に基づいて計算される。例えば、MFI値は、CAPスコア、体積、濃度、運動性の値、及び形態の値を乗じることによって計算できる。運動性は、運動性である精子のパーセンテージとすることができる。形態は、形態学的に正常な精子のパーセンテージとすることができる。
【0068】
オス個体の受精能状態を測定する代表的な方法は、サンプル中の一以上のGM1分布パターンの出現頻度として、個体の精子サンプルのCAPスコアを得ることを含む。値は、原サンプルの体積、及び原サンプル中の精子の濃度、運動性、及び形態の一以上について取得される。個体のオスの受精能指数(MFI)値は、決定されたCAPスコアと、取得した体積、濃度、運動性及び形態の一以上に基づいて計算される。
【0069】
本発明は、以下の説明に役立つ実例によってさらに説明されるが、これらは限定的に解釈されるものではない。
【0070】
[実施例1]
本実施例は、ヒト精子で得られるGM1分布パターンを実証するものである。オスのドナーから射精精子を採取し、37℃で20分間液化させ、その後、体積、最初の数、運動性及び形態評価を行った。1mLの精液サンプルを、15mLの円錐管内の1mLの密度勾配(90% Enhance-S; Vitrolife社、サンディエゴ、カリフォルニア、米国)の上に積層した。この管を10分間300×gで遠心分離した。底部の1mLの画分を新しい15mLの管に移し、その後4mLのmHTF中で再懸濁した。これを10分間600×gで遠心分離した。上清を除去し、精子ペレットを0.5mLのmHTF中で再懸濁した。洗浄した精子をその後、濃度と運動性について評価した。同じ体積の精子を、各管の最終体積が300μLとなり、精子の最終濃度が1,000,000/mLとなるように2つの管に添加した。第一の管は、mHTFを含み(受精能不獲得コンディション)、第二の管は、mHTFに加えて2-ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリンを3mMの最終濃度で含んだ(受精能獲得コンディション)。時間の長さを変えて精子をインキュベートしたが、一般的には3時間を使用した。これらのインキュベーションは37℃で実施した。
【0071】
インキュベーション期間の終わりに、各管の内容物を穏やかに混合し、各管から18μLを取り除き、別々の微小遠心管に移した。2μLの1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドを、0.1%の最終濃度を達成するために添加した。別の実施形態では、0.1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドを、0.01%の最終濃度を達成するために添加した。これらの管を穏やかに混合し、室温で15分間インキュベートし、その時点で0.3μLの1mg/mLのコレラ毒素bサブユニットを添加した。2つの管の内容物を再び穏やかに混合し、さらに5分間室温でインキュベートした。各管から5μLを取り除き、蛍光顕微鏡法による評価のためにスライドガラス上に置いた。対比染色を提供し、焦点面の決定を速やかにし、蛍光シグナルの寿命を長くするために、3μLのDAPI/Antifadeを時々添加した。
【0072】
図2に示すように、正常なヒト精子中のGM1の局在パターンは、受精能獲得コンディションに対する応答を反映する。完全な応答は、正常な受精能を持つ男性でのみ観察される;子宮腔内受精(IUI)又は体外受精(IVF)を以前に試みて失敗した未解明の不妊症を有する男性では、前記応答性パターンは、大きく減少するか、観察されなかった。図1は、ヒト精子中のGM1パターンを示す。しかしながら、診断検査の目的のために、PAPM、AA/PA、ES、及びDIFF等の異常性を反映するパターンを、分析を容易にするためにグループ化することも可能である。図2A~2Cは、受精能不獲得コンディション(NC:図2A)、あるいは受精能獲得コンディション(CAP:図2B)下でインキュベートされた正常な精液中の異なるパターンの相対分布を示す。INTERパターンの減少は、CAPにさらされた正常な精液中で観察され(図2B)、他方、AAパターンとAPMパターンの有意な増加も観察される。これらの正常なデータと比較するため、未解明の不妊症を有することが分かっている男性のグループの精子も、GM1アッセイにかけられた。これらの精子では、受精能獲得コンディション下でのAAパターン又はAPMパターンの増加は、ほとんど見られなかった。
【0073】
[実施例2]
本実施例では、34人の患者の病歴を、これまでに妊娠の臨床的証拠を達成した履歴に対して、彼らのGM1アッセイ・スコアを綿密に分析するために研究した。患者カップルが、3以下のサイクルで受精/臨床的妊娠の何らかの証拠(たとえ生化学的証拠あるいは超音波による心拍なしの嚢のみであっても)を達成した場合、男性の患者を「繁殖性」と定義した。
【0074】
これらの34人の患者についてのデータの解析は、3時間の時点で、受精能獲得サンプルのスコアに40%(APM+AA)のカットオフを適用した場合、「合格」(39.5%以上のスコアを有する)である8人のうち7人が「繁殖性」と指定される(87.5%)ことを確認した。「不合格」(39.4以下のスコアを有する)26人のうち、3/26のみが、臨床的妊娠の証拠を示した(11.5%)(以下の表1参照)。
【0075】
カットオフ値を下げる場合、臨床的に低受胎性であるより多くの人が合格スコアを得、アッセイをパスし、且つ3サイクル内の繁殖性である割合は低下すると予想される。興味深いことに、結果は受精能(3サイクル以下の判断基準によって定義される)に関して、スムースな勾配又は連続曲線ではなかった。すなわち、40又は35と規定されたアッセイに不合格の人は、受精確率の有意な変化と相関せず、常に低かった(11.5~14.3%の間)。逆に、35対40でのアッセイの合格は、受精確率における非常に大きな差と一致した(それぞれ、53.8%~87.5%に変動する)。この点を強調し反復すると、併合APM+AAパーセンテージの5%の変化は、受精歴の30%を超える変化に相当した。
【0076】
これらの結果は、オスの受精能が「階段関数」により近いことを示唆し、階段関数では、スコアの小さな変化が対応して小さくなるものの連続的なオスの受精能(臨床的妊娠を達成する確率)の変化と一致するというよりむしろ、オスの受精能分析のスコアの範囲が「繁殖性」「低受胎性」又は「不妊性」の分類と対応する。これらのデータは、およそ38.5~40のスコアが、「低受胎性」又は「繁殖性」の指定の間のカットオフ値であることを強く示唆する。前記データのさらなる検討は、14.5%未満のカットオフが、「不妊性」らしいと指摘するのに使用できることを示唆する。
【表1】
【0077】
平均精液パラメータの観点では全て類似しているこれらの男性のデータを要約すると、以下の範囲(絶対スコアに基づく)が示唆される:不妊性:<14.5、低受胎性:14.5~38.4、繁殖性:≧38.5
【0078】
あるいは、受精能獲得コンディション下のインキュベーション時間にわたるAPM及び/又はAAパターンの相対度数(相対頻度)の変化を比較することによって、又は受精能不獲得コンディション下で観察される相対度数と比較することによって、サンプルの受精能を評価することができる。例えば、受精能獲得コンディション下での3時間のインキュベーション後のAPM+AA相対度数を、インキュベーション開始時のそれらのパターンの相対度数と比較することができる。さらに別の実施形態では、APM及び/又はAA出現頻度の変化を、連続的な時点(例えば、1,2、及び3時間)から得られた結果と比較することも可能である。実際に、Y軸に相対度数を、X軸に時点をプロットし、受精能不獲得コンディション及び受精能獲得コンディション下のINTER、APM及び/又はAAサンプルの一以上の増加する出現頻度の変化の勾配又は割合を評価することが可能である。分析へのこのアプローチを、63人の患者のグループで行ったとき、正常な参照グループに適合するスコアを有する31人の男性が特定され、受精能不獲得培地において17%-22%-28%の、及び受精能獲得培地において26%-31%-38%(それぞれ、インキュベーション1,2,3時間目)のベースラインGM1パターンを有していた(図3参照)。受精能不獲得培地において15%-20%-24%、受精能獲得培地において20%-25%-29%の、参照値未満を有する32人の男性が特定された。数、運動性及び正常な形態%の精液解析パラメーター(厳格なWHO基準を使用)は、2つのグループ間で同等であった。正常な範囲のGM1パターンを有する集団は、45.2%(14/31)の子宮腔内受精(IUI)妊娠率を有し、そのうち8(25.8%)が、少なくとも1度の胎児心音を生み出した。このグループの3つのさらなるカップルは、自身で妊娠に至った。参照未満のGM1パターンを有する男性では、IUI臨床的妊娠率は、わずか6.3%(2/32、p=0.03)であった。このコホートでは、13人がICSIを受け、6人が妊娠に至った(46.2%)。
【0079】
本開示を一以上の特定の実施形態を参照して説明したが、本開示の他の実施形態が、本開示の精神及び範囲を逸脱することなく作られ、そのような他の実施形態が本開示の範囲内であると意図されていることが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5