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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】撹拌機及び溶湯処理装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/05 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
C22B9/05
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021515772
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043739
(87)【国際公開番号】W WO2020217572
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019085914
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591058792
【氏名又は名称】日本金属化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】大間知 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】片山 菜々子
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178205(JP,A)
【文献】特開平05-112836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/05
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、 前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、
前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである撹拌機。
【請求項2】
前記処理ガスは、前記筐体と前記回転軸の隙間を通じて前記回転羽根の周辺に供給される、請求項1に記載の撹拌機。
【請求項3】
前記開口部は、前記回転羽根に対し、前記筐体の前記基端側に配置されている請求項1または請求項2に記載の撹拌機。
【請求項4】
前記開口部は、前記回転羽根に対向して配置されている請求項1または請求項2に記載の撹拌機。
【請求項5】
前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の撹拌機。
【請求項6】
回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、 前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記複数の羽根の螺旋面は連続面を形成している撹拌機。
【請求項7】
溶融金属を撹拌すると共に、処理ガスを供給することで不要ガスを除去する溶湯処理装置において、
前記溶融金属を収容する処理槽と、
この処理槽上方に配置され、下方に回転駆動軸が突出形成されたガス供給/回転駆動機構と、
このガス供給/回転駆動機構の下端に設けられ、前記処理槽に挿脱可能に設けられた撹拌機を備え、
前記撹拌機は、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、
前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである溶湯処理装置。
【請求項8】
前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている請求項7に記載の溶湯処理装置。
【請求項9】
回転駆動軸に取り付けられ、水又は水溶液を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、 前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、
前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである撹拌機。
【請求項10】
前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている請求項9に記載の撹拌機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物質、例えば、溶融状態のアルミニウム合金やマグネシウム合金等の金属や、各種水溶液等を撹拌する際に用いられる撹拌機及び溶湯処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金やマグネシウム合金を用いた製品は、製品寿命が尽きれば回収され、溶解炉等で溶融されて、他の製品に再利用されることがある。
【0003】
アルミニウム合金、マグネシウム合金は化学的に活性な金属であるため、溶解炉等において大気に曝されると容易に酸化して多量の酸化物及び酸化物に付着した介在物(以下、「ドロス」という)を形成する。ドロスにはAl,MgO,AlMgO,SiO,珪酸塩、Al・Si・O,FeO,Feなどの酸化物の他に、炭化物(Al、AlC、黒鉛炭素)、ボライド(AlB、AlB12、TiB、VB)、AlTi、AlZr、CaSO、AlN及び各種のハロゲン化物がある。ドロスが懸濁によってアルミニウム溶湯中に混入すると、最終的に非金属介在物となって展伸材、鍛造品、ダイカスト品などの製品の品質低下を招く。このため溶解炉、保持炉、トリベ等の各段階において溶湯からドロスを分離除去する必要がある。
【0004】
溶解炉の回転傾度を変えることによりドロスを溶湯から分離排出し、効率よく回収する技術が開示されている(例えば、日本国特許公開公報 特開平10-227567号公報参照。)。このように溶解工程でドロスを効率よく回収することができるが、Al溶湯中には水素等の不純物ガス成分が含まれているので、さらに再溶解時に脱ガス処理する必要がある。
【0005】
一方、脱ガス処理方法として、処理槽内の溶湯にアルゴン、窒素、塩素等の処理ガスを吹込みガスバブリングする技術が知られている。例えば、ガスバブリング中の溶湯にフラックスを投入する方法(例えば、日本国特許公開公報 特開昭63-183136号公報参照。)、あるいはガスバブリング中の溶湯を回転羽根により撹拌する方法(例えば、日本国特許公開公報 特開平10-306330号公報及び特開昭62-297422号公報、日本国特許公告公報 特公平7-68591号参照。)が知られている。さらに、溶湯にフラックスを投入し、撹拌機で撹拌し、溶湯中に混在する酸化物を改質してドロスを溶湯から容易に分離させる溶湯の処理方法が知られている(例えば、日本国特許公開公報 特開2004-143483号公報参照。)。
【発明の概要】
【0006】
上述した撹拌機及び溶湯処理装置は、次のような問題があった。すなわち、回転羽根で撹拌するとバブルが混ざるだけで、バブルの径を十分に小さくすることができなかった。このため、バブルの単位体積当たりの表面積が小さくなり、しかも、溶湯中における滞留時間が短くなることから、十分に反応しないうちに短時間で大気中に拡散していた。このため、処理ガスの供給量は、例えば、0.3MPaで1分当たり20L程度であり、一般的な処理時間において100L程度の処理ガスを供給する必要があった。このため、処理ガスの使用量が多く、処理コストが高くなる原因になっていた。
【0007】
また、バブルを効率的に発生させようと回転羽根を溶湯の表面近くに配置すると、溶湯表面に大きな渦が発生して大気を巻き込み、酸化物が増えるという弊害があった。
【0008】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、マイクロバブルを発生させることで、溶湯や水溶液中における表面積を大きくし、かつ、長時間、溶湯や水溶液中に滞留させることができる撹拌機及びこの撹拌機を用いた溶湯処理装置を提供することを目的とする。
【0009】
本実施形態に係る撹拌機は、回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである
【0010】
本実施形態に係る溶湯処理装置は、溶融金属を撹拌すると共に、処理ガスを供給することで不要ガスを除去する溶湯処理装置において、前記溶融金属を収容する処理槽と、この処理槽上方に配置され、下方に回転駆動軸が突出形成されたガス供給/回転駆動機構と、このガス供給/回転駆動機構の下端に設けられ、前記処理槽に挿脱可能に設けられた撹拌機を備え、前記撹拌機は、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである
【0011】
本実施形態に係る撹拌機は、回転駆動軸に取り付けられ、水又は水溶液を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体の外側面に形成された開口部を備え、前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記筐体の内周面と前記回転羽根の外周面が形成する間隙の幅が3~10mmである
【0012】
本発明によれば、マイクロバブルを発生させることで、溶湯や水溶液中における表面積を大きくし、かつ、長時間、溶湯や水溶液中に滞留させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る脱ガス処理装置を示す説明図である。
図2図2は、同脱ガス処理装置に組み込まれた撹拌装置及び撹拌機を示す縦断面図である。
図3図3は、同撹拌機に組み込まれた回転羽根を示す斜視図である。
図4図4は、同脱ガス処理装置による脱ガス処理工程を示す説明図である。
図5図5は、同撹拌機の作用を示す説明図である。
図6図6は、同撹拌機の作用を示す説明図である。
図7図7は、同撹拌機の変形例を示す説明図である。
図8図8は、同撹拌機の作用を示す説明図である。
図9図9は、同撹拌機の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図3は、本発明の一実施の形態に係る脱ガス処理装置(溶湯処理装置)10を示す図である。図1に示すように、脱ガス処理装置10は、処理槽20と、この処理槽20の近傍に配置されたガス供給/回転駆動機構30と、ガス供給/回転駆動機構30に着脱自在に取り付けられた撹拌機50と、処理槽20の近傍に配置されたフラックス投入装置100及びドロス除去装置110を備えている。
【0015】
処理槽20は、耐火性材料で形成されており、1バッチ当り最大1500kgまでのアルミニウム溶湯を脱ガスできる処理能力を備えている。
【0016】
フラックス投入装置100は、処理槽20内のアルミニウム溶湯PにフラックスFを投入する機能を有している。フラックス投入装置100は、フラックスFとしてのアルミニウム除滓剤を収容した複数のホッパ及びシュータ等を有し、所定成分のアルミニウム除滓剤を所定の配合比に配合して所定量だけ処理槽20内に投入する機能を備えている。なお、フラックスFは、後述する処理ガスGに混合してガス供給/回転駆動機構30から供給しても良い。
【0017】
ドロス除去装置110は、掻き寄せ治具及び吸引排出装置から構成されている。掻き寄せ治具は、板状のカーボン、耐火材、セラミック部材からなり、その表面はドロスが付着しないように特殊加工されている。吸引排出装置は耐熱性材料からなるラッパ状の吸引口を有し、吸引ポンプを介して回収ポットに連通している。
【0018】
処理槽20には、溶解炉200が隣接して配置されており、溶解炉200から処理槽20内に非酸化性雰囲気下でアルミニウム溶湯が注湯されるようになっている。溶解炉はドロス分離除去機能を備えており、溶解炉において多くのドロスが溶湯から分離され、除去されるようになっている。
【0019】
ガス供給/回転駆動機構30は、架台31と、この架台31上に鉛直方向に延設され、鉛直方向の軸に沿って揺動するポスト32と、このポスト32に沿って配置された無端ベルト33と、この無端ベルト33に取り付けられたスライダ34と、無端ベルト33を駆動する駆動モータ35とを備えている。架台31内には処理ガスGを供給するガス供給部36が配置され、後述するガス供給ライン46に接続されている。スライダ34には、水平方向にアーム39が取り付けられ、その先端には撹拌装置40が設けられている。したがって、アーム39はポスト32によって旋回・昇降動作が可能となっている。
【0020】
撹拌装置40は、アーム39の先端に取り付けられた架台41と、この架台41に設けられた回転駆動モータ42と、鉛直方向に延設された回転駆動軸43と、回転駆動モータ42と回転駆動軸43の上端部に掛け渡されたベルト44と、回転駆動軸43を気密に軸支する円筒部45と、回転駆動軸43の先端に着脱自在に取り付けられた撹拌機50とを備えている。円筒部45及び回転駆動軸43は金属材製であり、アルミニウム溶湯Pには浸漬しない。
【0021】
円筒部45には、ガス供給ライン46が接続され、前述したガス供給部36から処理ガスGが供給される。処理ガスGは、例えば、アルゴンガスや窒素ガス等の非酸化性ガスである。上述したようにフラックスガスを混合してもよい。円筒部45と回転駆動軸43との間には十分な空間が有り、この空間を通じて、後述する筐体51内に処理ガスGが供給される。なお、処理ガスGが供給されることで、アルミニウム溶湯Pから受けた熱を冷却し、各部品の温度上昇を防ぐ効果がある。
【0022】
撹拌機50は、基端側が円筒部45の下端に気密に結合された筒状の筐体51と、筐体51内部に挿入され、回転駆動軸43に基端側が結合された回転軸52を備えている。回転駆動軸43と回転軸52とは、内部に設けられたネジ構造(上下シャフト接続ネジ)によって接続されている。筐体51内には、回転軸52の先端側に取り付けられた回転羽根53が配置されている。筐体51の回転羽根53の位置より基端側には、6つの長円状の開口部54が形成されている。開口部54の大きさや数は溶湯の種類によって適宜変更してもよい。撹拌機50はアルミニウム溶湯Pに浸漬されるため、耐熱性を有するセラミックス材やカーボン材で形成されている。
【0023】
筐体51と回転軸52との間には十分な空間が設けられており、この空間を通じて、回転羽根53の周辺に処理ガスGが供給される。
【0024】
図3に示すように、回転羽根53は、3つの羽根53aを軸方向に並設させている。各羽根53aは回転軸52の軸方向に離間し、間隙Sが形成されている。各羽根53aの外周面は筐体51の内壁に近接して形成されており、その寸法は例えば3mm~10mm程度に設定されている。各羽根53aの螺旋面53bは右下がりに形成されている。
【0025】
また、回転羽根53はアルミニウム溶湯Pの熱によって溶解されないようにするため、セラミックス材で形成することが望ましい。セラミックス材は複雑な形状を形成することが難しいため、上述したように羽根53aを軸方向に並設することで、金属材製の羽根のように複雑な羽根形状を実現し、マイクロバブル化、撹拌力及び送出力等の特性を確保する。なお、羽根53aを並設する際、隣接する羽根53a同士の螺旋面53bが連続面を形成するように配置することでバブル径をさらに細かくすることができる。この他、羽根の配置や形状、個数によって、回転羽根53の特性を調整することができる。
【0026】
次に、図4図6を参照しながら本実施形態に係る脱ガス処理装置10による脱ガス処理方法を説明する。なお、図5,6中Rは回転方向を示している。溶解炉200でアルミニウムを溶解した後に、アルミニウム溶湯PをドロスDとともに溶解炉から処理槽20に移す(工程S1)。次いで、処理槽20内に所定成分のフラックスFを投入し、撹拌機50を下降させ、回転羽根53を処理槽20内のアルミニウム溶湯Pの湯面直下に浸漬させる。そして、回転羽根53を回転させてアルミニウム溶湯P、ドロスD及びフラックスFを数分間撹拌する。これによりドロスDが改質され、アルミニウム溶湯Pから分離した状態になる(工程S2)。
【0027】
次いで、撹拌機50をさらに下降させ、筐体51の先端51a側を処理槽20の底部近傍に位置させて、回転羽根53を例えば1000rpmで回転させる。この回転羽根53の作用によって、図5に示すように、筐体51の先端51aから下方へ送られると共に、開口部54近傍のアルミニウム溶湯Pは、筐体51内に引き込まれて循環する。
【0028】
また、ガス供給部36から供給された処理ガスGは、回転羽根53の回転による作用により負圧となった筐体51内に入り、比較的径の大きいバブルB1となって回転羽根53と筐体51内の間隙に入り込む。このとき、図6に示すように、バブルB1は間隙Sに出入りすることで、圧縮と膨張を繰り返す。この過程でバブルB1は破砕され、小径のバブルB2、バブルB3となる。このように、回転羽根53によるせん断作用によってマイクロバブル(径が数μm~50μm)化する。これにより、アルミニウム溶湯P内に処理ガスGが供給・拡散される(ガスバブリング)と、アルミニウム溶湯P中に混在するドロスDと水素等の不純物ガス成分が湯面に浮上する(工程S3)。このときの撹拌力はガスバブリング反応を阻害しない程度の弱いものとする。ガスバブリングを数分間続けた後に、ガス吹込みを停止し、脱ガス処理を終了させる。
【0029】
次いで、撹拌機50をさらに下降させ、筐体51の先端51aを処理槽20の最も深いところに位置させ、アルミニウム溶湯Pを撹拌する。ドロス掻き寄せ部材を下降させ、その下部を湯面に浸漬させ、ドロスDを処理槽20内の特定箇所に集合させる(工程S4)。集めたドロスDを吸引排出装置により処理槽20から吸引排出し、回収ポットに回収する(工程S5)。
【0030】
上述したように、本実施形態に係る撹拌機50及び脱ガス処理装置10によれば、回転羽根53と筐体51の隙間で処理ガスGを圧縮・膨張・せん断することで、マイクロバブルを発生させることができる。このため、金属溶湯中における処理ガスの表面積を大きくし、固溶している水素ガスに反応させやすくすると共に、長時間、溶湯中に滞留させることで、水素ガスへの反応時間を延ばし、十分に水素ガスを除去することができる。また、回転羽根53を収容する筐体51の側面には、回転羽根53の回転に伴う負圧に応じた量の溶湯を吸引するための開口部54が形成されているため、溶湯表面に渦を形成することを防止でき、大気を巻き込んで酸化物が生成されることを防止することができる。すなわち、マイクロバブル化された処理ガスを放出させると共に、溶湯の過剰な撹拌を抑制し、処理ガスの分散を促進することができる。したがって、脱ガスを十分に行うことができ、高品質のアルミニウム合金を得ることができる。
【0031】
図7は、上述した撹拌機50の変形例に係る撹拌機50Aの構成を示す説明図である。なお、図7において図5と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。撹拌機50Aは、基端側が円筒部45の下端に気密に結合された筒状の筐体55と、筐体55内部に挿入され、回転駆動軸43に基端側が結合された回転軸52を備えている。筐体55の先端55aは開口している。筐体55内には、回転軸52の先端側に取り付けられた回転羽根53が配置されている。筐体55の回転羽根53に対向する位置には、6つの長円状の開口部56が形成されている。開口部56の大きさや数は溶湯の種類によって適宜変更してもよい。撹拌機50Aはアルミニウム溶湯Pに浸漬されるため、耐熱性を有するセラミックス材やステンレス材で形成されている。
【0032】
筐体55と回転軸52との間には十分な空間が設けられており、この空間を通じて、回転羽根53の周辺に処理ガスGが供給される。
【0033】
このように構成された撹拌機50Aを用いた場合でも、上述したような撹拌機50と同様に用いる。この時、アルミニウム溶湯Pの挙動は、図7に示すように、先端55a側からアルミニウム溶湯Pを吸い込んで、開口部56から排出する。ガス供給部36から供給された処理ガスGは、回転羽根53の回転による作用により負圧となった筐体55内に入り、マイクロバブル化される。そして、ガスバブリングを数分間続けた後に、ガス吹込みを停止し、脱ガス処理を終了させる。
【0034】
図8は、上述した撹拌機50,50Aにおける回転駆動軸43と回転軸52との接続における変形例を示す説明図である。回転駆動軸43と回転軸52との接続は、上述した内部のネジ構造に加え、カップリング機構(リジットカップリング)60によっても結合されている。
【0035】
図9に示すように、カップリング機構60は、回転駆動軸43と回転軸52との結合部に配置され、回転駆動軸43及び回転軸52の外周側に配置されている。
【0036】
カップリング機構60は、回転駆動軸43と回転軸52との接合部の外周に配置される内筒部61を備えている。内筒部61の中央はナット61aが形成されており、両端部にはテーパ状で、かつ、雄ネジが外周に形成された一対の変形部61bが設けられている。変形部61bにはスリ割が形成され、その内径寸法を調整できる構造となっている。変形部61bの雄ネジにはナット62,63が螺合している。
【0037】
このように構成されたカップリング機構60が形成されていると、回転駆動軸43と回転軸52との結合力が堅固となり、高回転時(1000rpm以上)の振れ量を抑えることが可能となる。カップリング機構60は、内筒部61に回転駆動軸43と回転軸52との接続部を位置決めし、ナット62,63を締め込むことで、取り付けることができる。
【0038】
なお、上述した金属としてアルミニウム合金を例示したが、マグネシウム合金等、他の金属の溶湯にも適用できる。また、金属溶湯の他、水や水溶液等においても、径が数μm~50μm程度のマイクロバブルを用いることで液中への処理ガスの反応効率を高めることができると共に、反応時間を延ばすことができ、処理ガス量を節約することができる。
【0039】
この他、回転軸52の回転方向や回転速度、開口部54,56の位置・数・大きさ・形状は、上述したものに限られず、撹拌対象やガスの物性に応じて、適宜変更しても良い。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
回転駆動軸に取り付けられ、溶融金属を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、
前記筐体の外側面に形成された開口部を備えている撹拌機。
[2]
前記開口部は、前記回転羽根に対し、前記筐体の前記基端側に配置されている[1]に記載の撹拌機。
[3]
前記開口部は、前記回転羽根に対向して配置されている[1]に記載の撹拌機。
[4]
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている[1]に記載の撹拌機。
[5]
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記複数の羽根の螺旋面は連続面を形成している[1]に記載の撹拌機。
[6]
溶融金属を撹拌すると共に、処理ガスを供給することで不要ガスを除去する溶湯処理装置において、
前記溶融金属を収容する処理槽と、
この処理槽上方に配置され、下方に回転駆動軸が突出形成されたガス供給/回転駆動機構と、
このガス供給/回転駆動機構の下端に設けられ、前記処理槽に挿脱可能に設けられた撹拌機を備え、
前記撹拌機は、基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、前記筐体の外側面に形成された開口部を備えている溶湯処理装置。
[7]
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている[6]に記載の溶湯処理装置。
[8]
回転駆動軸に取り付けられ、水又は水溶液を撹拌すると共に処理ガスを供給する撹拌機において、
基端側が前記回転駆動軸を支持する駆動機構に取り付けられると共に前記処理ガスが供給される筒状の筐体と、
前記筐体内部に挿入され、前記回転駆動軸に基端側が結合された回転軸と、
前記筐体内の先端側に設けられ、前記回転軸の先端側に取り付けられた回転羽根と、
前記筐体の外側面に形成された開口部を備えている撹拌機。
[9]
前記回転羽根は、前記回転軸に沿って複数の羽根から形成され、前記複数の羽根は互いに軸方向に離間して配置されている[8]に記載の撹拌機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9