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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ボルトの締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/24 20060101AFI20220620BHJP
   F16B 39/282 20060101ALI20220620BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
F16B39/24 M
F16B39/282 C
F16B43/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022011603
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2021011948
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521042817
【氏名又は名称】月盛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】塩川 純一
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3220888(JP,U)
【文献】特開2017-062040(JP,A)
【文献】特開2015-017657(JP,A)
【文献】特開2016-223523(JP,A)
【文献】特開2015-017658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/24
F16B 39/282
F16B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材を貫通する貫通孔にボルトを挿通してナットを螺合させることにより、複数の被締結部材を締結したボルトの締結構造において、
前記被締結部材と前記ナットとの間に座金が介在され、
前記ナットおよび座金は、互いに対向する対向面に、それぞれ第1の係合部および第2の係合部を備えており、
前記第1の係合部および第2の係合部のそれぞれは、周方向の一方側から他方側に向けて前記対向面からの高さが徐々に高くなる傾斜部が、周方向に沿って段部を介して複数設けられ、互いに対向する前記段部同士の係合により、前記座金に対する前記ナットの緩み方向の回転が阻止されるように構成されており、
前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、第1の段部と、前記第1の段部よりも前記対向面からの高さが低い第2の段部とを備えるボルトの締結構造。
【請求項2】
前記第1の段部および前記第2の段部は、周方向に沿って交互に並ぶように配置されている請求項1に記載のボルトの締結構造。
【請求項3】
前記第2の係合部は、前記第1の係合部よりも高硬度の材料からなり、
前記第2の係合部の前記段部は、第3の段部と、前記第3の段部よりも径方向長さが短い第4の段部とを備える請求項1または2に記載のボルトの締結構造。
【請求項4】
前記第2の係合部の前記段部は、径方向の一端側が前記座金の内縁に接する一方、径方向の他端側が前記座金の外縁との間に間隔を空けて形成されている請求項1から3のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項5】
前記第1の係合部が備える前記段部の数と、前記第2の係合部が備える前記段部の数とが、互いに相違する請求項1から4のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項6】
前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、周方向に不均等に配置されている請求項1から5のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項7】
前記ボルトは、高力ボルトである請求項1から6のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項8】
前記座金は、一の前記被締結部材と前記ナットとの間に介在されると共に、他の前記被締結部材と前記ボルトの頭部との間にも介在されており、
前記第1の係合部および第2の係合部は、前記ナットおよび座金の対向面にそれぞれ設けられると共に、前記頭部および座金の対向面にもそれぞれ設けられている請求項1から7のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項9】
前記第1の係合部の前記傾斜部は、径方向に沿った断面が円弧状に膨出するように形成されている請求項1から8のいずれかに記載のボルトの締結構造。
【請求項10】
一の被締結部材に形成された貫通孔を介して他の被締結部材に形成されたタップ孔にボルトを螺合することにより複数の被締結部材を締結したボルトの締結構造において、
一の前記被締結部材と前記ボルトの頭部との間に座金が介在され、
前記頭部および座金は、互いに対向する対向面に、それぞれ第1の係合部および第2の係合部を備えており、
前記第1の係合部および第2の係合部のそれぞれは、周方向の一方側から他方側に向けて前記対向面からの高さが徐々に高くなる傾斜部が、周方向に沿って段部を介して複数設けられ、互いに対向する前記段部同士の係合により、前記座金に対する前記ボルトの緩み方向の回転が阻止されるように構成されており、
前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、第1の段部と、前記第1の段部よりも前記対向面からの高さが低い第2の段部とを備えるボルトの締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
被締結部材の挿通孔に挿通したボルトにナットを螺合して被締結部材を締結する際には、ボルトまたはナットの座面と被締結部材との間に座金を介在させることが広く行われている。このようなボルトの締結構造においては、締結後の緩みを抑制するために、ナットの座面と座金との接合面に緩み方向への回転を抑制する機構を設けることが、従来から検討されている。
例えば、特許文献1に開示されたボルトの締結構造は、座金の下面およびナットの座面のそれぞれに複数の噛合部が周方向に沿って形成されており、ボルトに対するナットの締め付けにより、座金およびナットの噛合部同士が密着するように構成されている。各噛合部は、周方向に傾斜する傾斜面の一方側に段部が形成されており、ナットが座金に対して締結方向に回転する際には、傾斜面同士が摺接して段部を乗り越える一方、緩み方向の回転は、段部同士の係合による阻止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-17658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のボルトの締結構造は、座金およびナットに形成された複数の噛合部の段部が周方向に同じ高さで形成されているため、噛合部同士が摺接すると、全ての段部が均等に力を受けて押し潰されることにより、各段部が平坦化されつつ曲面状に変形するおそれがあった。このため、緩み方向への回転の際に段部同士が乗り越え易くなり、十分な緩み止め効果を得難くなるという問題があった。特に、高力ボルトを使用する場合には、高い締結力によって噛合部が大きく塑性変形することにより、上記の問題がより顕著になるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、締結後の緩みを確実に防止することができるボルトの締結構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、被締結部材を貫通する貫通孔にボルトを挿通してナットを螺合させることにより、複数の被締結部材を締結したボルトの締結構造において、前記被締結部材と前記ナットとの間に座金が介在され、前記ナットおよび座金は、互いに対向する対向面に、それぞれ第1の係合部および第2の係合部を備えており、前記第1の係合部および第2の係合部のそれぞれは、周方向の一方側から他方側に向けて前記対向面からの高さが徐々に高くなる傾斜部が、周方向に沿って段部を介して複数設けられ、互いに対向する前記段部同士の係合により、前記座金に対する前記ナットの緩み方向の回転が阻止されるように構成されており、前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、第1の段部と、前記第1の段部よりも前記対向面からの高さが低い第2の段部とを備えるボルトの締結構造により達成される。
【0007】
このボルトの締結構造において、前記第1の段部および前記第2の段部は、周方向に沿って交互に並ぶように配置されていることが好ましい。
【0008】
前記第2の係合部は、前記第1の係合部よりも高硬度の材料からなることが好ましく、前記第2の係合部の前記段部は、第3の段部と、前記第3の段部よりも径方向長さが短い第4の段部とを備えることが好ましい。
【0009】
前記第2の係合部の前記段部は、径方向の一端側が前記座金の内縁に接する一方、径方向の他端側が前記座金の外縁との間に間隔を空けて形成されていることが好ましい。
【0010】
前記第1の係合部が備える前記段部の数と、前記第2の係合部が備える前記段部の数とが、互いに相違することが好ましい。
【0011】
前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、周方向に不均等に配置されていてもよい。
【0012】
前記ボルトは、高力ボルトであることが好ましい。
【0013】
前記座金が、一の前記被締結部材と前記ナットとの間に介在されると共に、他の前記被締結部材と前記ボルトの頭部との間にも介在されている場合、前記第1の係合部および第2の係合部は、前記ナットおよび座金の対向面にそれぞれ設けられると共に、前記頭部および座金の対向面にもそれぞれ設けられた構成にすることができる。
【0014】
前記第1の係合部の前記傾斜部は、径方向に沿った断面が円弧状に膨出するように形成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の前記目的は、一の被締結部材に形成された貫通孔を介して他の被締結部材に形成されたタップ孔にボルトを螺合することにより複数の被締結部材を締結したボルトの締結構造において、一の前記被締結部材と前記ボルトの頭部との間に座金が介在され、前記頭部および座金は、互いに対向する対向面に、それぞれ第1の係合部および第2の係合部を備えており、前記第1の係合部および第2の係合部のそれぞれは、周方向の一方側から他方側に向けて前記対向面からの高さが徐々に高くなる傾斜部が、周方向に沿って段部を介して複数設けられ、互いに対向する前記段部同士の係合により、前記座金に対する前記ボルトの緩み方向の回転が阻止されるように構成されており、前記第1の係合部および第2の係合部の少なくとも一方における複数の前記段部は、第1の段部と、前記第1の段部よりも前記対向面からの高さが低い第2の段部とを備えるボルトの締結構造により達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、締結後の緩みを確実に防止することができるボルトの締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るボルトの締結構造の側面図である。
図2図1に示すボルトの締結構造におけるナットの拡大図である。
図3】ナットを上方から見た平面図である。
図4】ナットが備える第1の係合部を内周側から見た要部展開図である。
図5図1に示すボルトの締結構造における座金を下方から見た平面図である。
図6】座金が備える第2の係合部を内周側から見た要部展開図である。
図7】第1の係合部および第2の係合部の締結途中の一部を模式的に示す図である。
図8】第1の係合部および第2の係合部の締結後の一部を模式的に示す図である。
図9】第1の係合部および第2の係合部の締結後の他の一部を模式的に示す図である。
図10】本発明の他の実施形態に係るボルトの締結構造の側面図である。
図11図10に示すボルトの締結構造におけるボルトの拡大図である。
図12】本発明の更に他の実施形態に係るボルトの締結構造の側面図である。
図13図5に示す座金の変形例を示す平面図である。
図14図3のE-E断面図である。
図15図14に示すナットの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るボルトの締結構造の側面図である。図1に示すボルトの締結構造は、各被締結部材31,32を貫通する貫通孔31a,32aにボルト1の軸部1bを挿通し、軸部1bにナット2を螺合することにより、複数の被締結部材31,32を締結して構成されている。ボルト1の頭部1aと一の被締結部材31との間、および、ナット2と他の被締結部材32との間には、それぞれ座金3,4が介在されている。ナット2および座金4は、互いに対向する対向面2a,4aに、それぞれ第1の係合部10および第2の係合部20が設けられている。第1の係合部10および第2の係合部20は、互いに係合することで、後述するように締結後の緩みを防止する。なお、座金3,4が被締結部材31,32と当接する面は、ショットブラストやヤスリ加工を施す等して摩擦係数を高めてもよい。
【0019】
図2は、図1に示すナット2の拡大図である。図2に示すように、第1の係合部10は、対向面2aから突出するように形成された複数の傾斜部11を備えている。各傾斜部11は、周方向に沿って段部12を介して配置されている。段部12は、第1の段部12aと、第1の段部12aよりも対向面2aからの高さが低い第2の段部12bとを備えている。
【0020】
図3は、図1に示すナット2を上方から見た平面図である。図3に示すように、傾斜部11は、環状扇形状であり、周方向の一方側から他方側に向けて、対向面2aからの高さが時計回り方向(図3の矢示A方向)に徐々に高くなる一方、径方向には高さが一定となるように形成されている。本実施形態の傾斜部11は、12個が連続して円環状となるように配置されている。
【0021】
図4は、図3に示す第1の係合部10を、ナット2の内周側から見た側面図であり、一部を直線状に展開して示している。図4に示すように、第1の段部12aおよび第2の段部12bは、一の傾斜部11において最も高い位置となる他方端と、これに隣接する他の傾斜部11において最も低い位置となる一方端との間に形成されており、図3に示すように、第1の段部12aと第2の段部12bとが周方向に沿って交互に並ぶように配置されている。
【0022】
図5は、図1に示す座金4を下方から見た平面図である。座金4が備える第2の係合部20は、第1の係合部10と同様に、対向面4aから突出するように形成された複数の傾斜部21を備えている。各傾斜部21は、周方向に沿って段部22を介して配置されている。各段部22は、それぞれ同じ高さとなるように形成されている。
【0023】
傾斜部21は、平面視で環状扇形状であり、周方向の一方側から他方側に向けて、対向面4aからの高さが時計回り方向(図5の矢示B方向)に徐々に高くなる一方、径方向には高さが一定となるように形成されている。本実施形態の傾斜部21は、18個が連続して円環状となるように配置されている。図6に示すように、段部22は、一の傾斜部21において最も高い位置となる他方端と、これに隣接する他の傾斜部21において最も低い位置となる一方端との間に形成されている。各段部22の対向面4aからの高さは、いずれも一定である。
【0024】
第1の係合部10の段部12は、図3に示すように径方向長さがいずれも同じであるのに対し、第2の係合部20の段部22は、図5に示すように、第3の段部22aと、第3の段部22aよりも径方向長さが短い第4の段部22bとを備えている。第3の段部22aおよび第4の段部22bは、周方向に沿って交互に並ぶように配置されている。
【0025】
図3に示す第2の係合部20の段部22(第3の段部22aおよび第4の段部22b)は、径方向の一端側が座金4の内縁4bに接する一方、径方向の他端側が座金4の外縁4cとの間に間隔を空けて形成されている。このように、第2の係合部20が対向面4aに形成される領域を第1の係合部10に対応する領域のみとして、傾斜部21の径方向最外縁を繋ぐ仮想円24の外側を未加工領域とすることで、製造コストの低減が図られている。
【0026】
第1の係合部10および第2の係合部20は、例えばプレス成形等により、ナット2および座金4とそれぞれ一体的に形成することができる。第2の係合部20は、第1の係合部10よりも高硬度の材料により形成されることが好ましく、本実施形態においては、ナット2および第1の係合部10をS35Cの鋼材により一体的に形成し、座金4および第2の係合部20をS45Cの鋼材により一体的に形成している。高力ボルトの締付トルクのバラツキを抑制するため、第1の係合部10の表面には、潤滑処理を施す等して皮膜を形成してもよい。
【0027】
上記の構成を備えるボルトの締結構造は、ボルト1にナット2を締め込むことにより、ナット2の第1係合部10が、座金4の第2の係合部20に接近し、第1係合部10の傾斜部11が、第2の係合部20の傾斜部21に当接する。ナット2を締め込む際には、図7に展開図で示すように、第1係合部10が第2の係合部20に対して矢示C方向に移動し、第1係合部10の傾斜部11が、第2の係合部20の傾斜部21に沿って摺動して各段部22を乗り越えるため、ナット2をスムーズに回転させることができる。
【0028】
ナット2を更に締め込むと、第1係合部10は、第2の係合部20から大きな押圧力を受けることにより、図8に示すように、高さが高い第1の段部12aの近傍が、破線で示す状態から曲面状に変形して高さが低くなる。第2係合部20は、第1係合部10よりも高硬度の材料により形成されているものの、第1の係合部10から押圧力を受けると、段部22についても曲面状に若干変形する。このため、締結後のナット2に振動や外力等が作用して、第1係合部10が第2の係合部20に対して矢示D方向に移動しようとする力が生じると、変形後の第1の段部12aと、第2の係合部20の段部22との間で十分な係止が行われず、互いに乗り越えるおそれがある。
【0029】
これに対し、高さが低い第2の段部12bについては、第2係合部20から受ける押圧力が第1の段部12aの変形により吸収されることで、変形が抑制されるため、図9に示すように、第1係合部10に緩み方向(矢示D方向)の力が作用した場合に、第2の段部12bと第2の係合部20の段部22とが確実に係合可能な状態を維持することができる。この結果、ナット2の締結状態を確実に維持することができる。
【0030】
このように、本実施形態のボルトの締結構造によれば、第1の係合部10の段部12が、互いに高さが異なる第1の段部12aおよび第2の段部12bを備えることにより、高さが高い第1の段部12aが締結時に押し潰された場合でも、高さが低い第2の段部12bを第2の係合部20の段部22に確実に係止させることができ、締結緩みを効果的に防止することができる。本実施形態の段部12は、高さが異なる2種類の段部(第1の段部12aおよび第2の段部12b)を備えているが、高さが異なる3種類以上の段部を配置してもよい。各段部12は、周方向に隣接するもの同士で互いに高さが異なるように配置されることが好ましい。
【0031】
図4に示す第1の係合部10が備える第2の段部12bの高さH2は、第2の係合部20の段部22と係止可能な高さを確保可能であれば特に限定されないが、例えば、0.1~0.3mmであることが好ましく、本実施形態においては、0.1mmとしている。また、図4に示す第1の段部12aと第2の段部12bとの高さの差(H1-H2)は、第1の段部12aの変形後も第2の段部12bの変形を抑制できるように、例えば、0.1~0.5mmであることが好ましい。本実施形態においては、第1の段部12aの高さを0.2mmとして、第2の段部12bとの高さの差を0.1mmとしている。
【0032】
また、図6に示す第2の係合部20が備える段部22の高さH3は、第1係合部10から押圧力を受けた後も、第1の係合部10の段部12と係止可能な高さを確保可能であれば特に限定されないが、例えば、0.1~0.5mmであることが好ましく、本実施形態においては、0.2mmとしている。第2の係合部20が第1の係合部10よりも高硬度の材料により形成されている場合には、第2の係合部20の高さH3が高すぎると、締結時に第1の係合部10の削り量が増加して緩み止め効果が小さくなるおそれがあることから、第2の係合部20の段部22の高さH3は、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.2mmが最も好ましい。
【0033】
第1係合部10における第1の段部12aおよび第2の段部12bは、本実施形態のように周方向に沿って交互に並ぶように配置されていることが好ましく、これによって、各第1の段部12aを均等に変形させて、第2の段部12bによる確実な係止を促すことができる。
【0034】
また、本実施形態においては、第2の係合部20が、第3の段部22aと、第3の段部22aよりも径方向長さが短い第4の段部22bとを備えており、図5に示す傾斜部21の径方向最外縁を繋ぐ仮想円24の内側には、切欠状の逃げ部25が周方向に間隔をあけて形成される。この逃げ部25は、第2の係合部20が第1の係合部10と係合したときに空間部となり、第1の係合部10が備える第1の段部12aの変形を、この空間部に逃がすことができるので、この構成からもナット2の締結状態を良好に維持することができる。本実施形態の逃げ部25は、傾斜部21の径方向外方に形成されているが、傾斜部21の径方向内方に形成してもよい。逃げ部25は、本実施形態のように、第1の係合部10よりも高硬度で変形し難い第2の係合部20に形成することが好ましいが、第1の係合部10の各段部12の径方向長さを変えることで、逃げ部25を第1の係合部10に形成してもよい。あるいは、第1の係合部10および第2の係合部20の双方に逃げ部25を形成してもよい。但し、図13に示すように、第2の係合部20の各段部22は、径方向の長さが全て同じであってもよい。図13に示す各傾斜部21は、例えば、対向面4aを鍛造等により凹ませて形成することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、第1の係合部10の段部12の数と、第2の係合部20の段部22の数とを互いに相違させており、締結後においては、第1の係合部10の段部12と、第2の係合部20の段部22との距離が不均一になるように配置される。したがって、最も近接する段部12,22同士の係止によって、ナット2の緩み方向の回動を最小限に抑制することができる。段部12,22同士の位置関係をランダムにするために、第1の係合部10および第2の係合部20の少なくとも一方における段部12,22を周方向に不均等に配置してもよい。
【0036】
本実施形態においては、第1の係合部10よりも高硬度で変形し難い第2の係合部20の各段部22をそれぞれ同じ高さとし、第1の係合部10が、高さの異なる第1の段部12aと第2の段部12bとを備える構成とすることで、締結時に押し潰され易い第1の係合部10の段差を確保する構成としているが、第1の係合部10の各段部12を同じ高さとして、第2の係合部20の各段部22が、第1の段部と、第1の段部よりも対向面4aからの高さが低い第2の段部とを備える構成にしてもよい。更に、第1の係合部10および第2の係合部20の双方が、それぞれ第1の段部と第2の段部とを備える構成にすることもできる。
【0037】
本実施形態においては、第1の係合部10および第2の係合部20が、それぞれナット2および座金4に設けられているが、図10および図11に示すように、第1の係合部10および第2の係合部20を、ナット2および座金4の対向面2a,4aにそれぞれ設けると共に、ボルト1の頭部1aおよび座金3の対向面1c,3aにもそれぞれ設けることもできる。この構成によれば、ナット2および座金4間の係止による緩み止め効果と共に、頭部1aおよび座金3間での係止によるボルト1・ナット2の共回り防止の効果を得ることができる。なお、図10および図11において、図1および図2と同様の構成部分には、同一の符号を付している(後述する図12についても同様)。
【0038】
また、図12に示すように、一の被締結部材31に形成された貫通孔31aを介して、他の被締結部材32に形成されたタップ孔32bにボルト1を螺合することにより、複数の被締結部材31,32を締結したボルトの締結構造において、ボルト1の頭部1aおよび座金3の対向面1c,3aに、第1の係合部10および第2の係合部20をそれぞれ設けることもできる。この構成によれば、締結後のボルト1の緩み方向の回転を抑制することができる。
【0039】
ボルト1の種類は特に限定されず、例えば普通ボルトや高力ボルト等を使用することができるが、高力ボルトの場合には、大きな締付力によって段部12,22が大きく変形し易いため、本発明を採用する効果が特に顕著なものになる。一般に、高力ボルトは、ナットおよび座金と共にセットで使用され、所定の締付トルクで締め付けることにより、設計された軸力で被締結部材を押し付けて所望の摩擦力が生じるように、品質管理されている。本発明によれば、緩めトルクを高めることで、締付トルクよりも緩めトルクが高い状態を容易に維持することができるので、振動等による高力ボルトの緩みを確実に防止することができる。
【0040】
図3に示す第1の係合部10の傾斜部11は、E-E断面を図14に示すように、径方向に沿った断面が直線状に形成されているが、図15に示すように、径方向に沿った断面が円弧状に膨出するように形成してもよい。この構成によれば、傾斜部11の加工精度にバラツキが生じたとしても、第1の係合部10と第2の係合部20との当接位置Tからナット2の中心軸線までの距離Lを略一定にすることができる。この構成は、高力ボルトの締結構造に特に有効であり、トルク係数を一定にして、所望の締め付け軸力を確実に得ることができる。傾斜部11の断面円弧状の曲率半径は必ずしも限定されないが、一例として、M22ナットの場合に15~30mmにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 ボルト
1a 頭部
1b 軸部
1c 対向面
2 ナット
2a 対向面
3,4 座金
3a,4a 対向面
10 第1の係合部
11 傾斜部
12 段部
12a 第1の段部
12b 第2の段部
20 第2の係合部
21 傾斜部
22 段部
22a 第3の段部
22b 第4の段部
31,32 被締結部材
31a,32a 貫通孔
32b タップ孔
【要約】
【課題】 締結後の緩みを確実に防止することができるボルトの締結構造を提供する。
【解決手段】 被締結部材31,32とナット2との間に座金4が介在され、ナット2および座金4は、互いに対向する対向面2a,4aに、それぞれ第1の係合部10および第2の係合部20を備えており、第1の係合部10および第2の係合部20のそれぞれは、周方向の一方側から他方側に向けて対向面2a,4aからの高さが徐々に高くなる傾斜部が、周方向に沿って段部を介して複数設けられ、互いに対向する段部同士の係合により、座金4に対するナット2の緩み方向の回転が阻止されるように構成されており、第1の係合部10および第2の係合部20の少なくとも一方における複数の段部は、第1の段部と、前記第1の段部よりも前記対向面からの高さが低い第2の段部とを備える。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15