(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】自動二輪車
(51)【国際特許分類】
B62J 41/00 20200101AFI20220620BHJP
B60C 23/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
B62J41/00
B60C23/00
(21)【出願番号】P 2022044545
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2022-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522109250
【氏名又は名称】佐藤 一成
(74)【代理人】
【識別番号】100143096
【氏名又は名称】山岸 忠義
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一成
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-187041(JP,A)
【文献】特開2003-48588(JP,A)
【文献】特開2013-141974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 41/00
B60C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから発生する熱を利用して、外気を温める熱交換手段と、
前記熱交換手段により温められた外気を、タイヤの左ショルダー部および右ショルダー部の表面に送り出す熱送出手段と
、
前記タイヤの左ショルダー部の表面温度を計測する左側センサと、
前記タイヤの右ショルダー部の表面温度を計測する右側センサと、
前記左側センサによって測定される表面温度と、前記右側センサによって測定される表面温度との差が閾値を超える場合に、表面温度が低いショルダー部に、前記外気を送り出す制御手段と
を備えることを特徴とする、自動二輪車。
【請求項2】
前記熱交換手段は、マフラーに取り付けられており、
前記熱交換手段は、前記エンジンから前記マフラーに送られてくる排気熱を利用して、外気を温めることを特徴とする、請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項3】
前記熱交換手段は、前記エンジンに取り付けられており、
前記熱交換手段は、前記エンジン表面の熱を利用して、外気を温めることを特徴とする、請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項4】
前記左側センサおよび前記右側センサが、前記熱送出手段における外気の出口よりも前側に位置することを特徴とする、請求項
1~3のいずれか一項に記載の自動二輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
サーキットを走る競技用の自動二輪車では、高速でコーナーを曲がる際に、自動二輪車ひいてはタイヤを走行路面側に向けて大きく傾ける。このとき、スリップおよび転倒の防止のために、走行路面に対するタイヤのグリップ力を高くする必要があり、グリップ力の向上には、タイヤの表面温度が大きく影響する。
【0003】
ところで、サーキットは、周回コースを何十周と回ることから、例えば、左回りのコースでは、左コーナーが多くなる。その場合、タイヤの左側部分(左ショルダー部)と路面との接触時間が多くなり、摩擦力によって、左ショルダー部の表面温度が向上し、グリップ力も向上する。一方、反対側の右ショルダー部では、路面との接触時間が少なくなるばかりか、高速移動に伴う風にさらされるため、表面温度が上がりにくく、左ショルダー部と比較してグリップ力が劣る。このため、長い左コーナーリングから右コーナーリングに切り替わる際、左右のショルダー部分のグリップ力の落差が大きくなっており、スリップや転倒が生じやすい。
【0004】
この事態を防止するため、例えば、左右のショルダー部分のタイヤの温度を確認し、警告する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この方法は、自動二輪車を操作するライダーに対して警告するに留まり、スリップ防止のためには、ライダーの操作技術で、タイヤの傾ける角度や速度を調整して対応するしかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動二輪車の操作において、コーナーリング時のスリップを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、下記の発明を提供する。
本発明[1]は、エンジンから発生する熱を利用して、外気を温める熱交換手段と、前記熱交換手段により温められた外気を、タイヤの左ショルダー部および右ショルダー部の表面に送り出す熱送出手段とを備える、自動二輪車を含む。
【0008】
このような発明によれば、走行中に、左ショルダー部および右ショルダー部のそれぞれに独立して、温められた外気を送りこむことができ、左ショルダー部および右ショルダー部を別々に温めることができる。よって、両ショルダー部の表面温度の差を低減することができ、両ショルダー部のグリップ力の差によるコーナーリングの操作性の違いを低減して、スリップや転倒を抑制することができる。また、ショルダー部に送られる空気は、排ガスではなく、外気であるため、タイヤ表面の汚染を防止することができる。
【0009】
本発明[2]は、前記熱交換手段は、マフラーに取り付けられており、前記熱交換手段は、前記エンジンから前記マフラーに送られてくる排気熱を利用して、外気を温める、[1]に記載の自動二輪車を含む。
【0010】
このような発明によれば、前後方向に長尺に形成されているマフラーに、熱交換手段が取り付けられるため、熱交換手段の配置(前後方向位置)の自由度が高くなり、熱交換手段の搭載が容易である。
【0011】
本発明[3]は、前記熱交換手段は、前記エンジンに取り付けられており、前記熱交換手段は、前記エンジン表面の熱を利用して、外気を温める、[1]に記載の自動二輪車を含む。
【0012】
このような発明によれば、自動二輪車の中で最も高温となるエンジンからの熱を直接利用するため、より高い温度の外気をショルダー部に送ることができる。
【0013】
本発明[4]は、前記タイヤの左ショルダー部の表面温度を計測する左側センサと、前記タイヤの右ショルダー部の表面温度を計測する右側センサとを備える、[1]~[3]のいずれか一項に記載の自動二輪車を含む。
【0014】
このような発明によれば、両ショルダー部の表面温度を計測することができるため、表面温度に応じて、当該ショルダー部に送風する外気を調整することができ、より適切な温度管理が可能となる。
【0015】
本発明[5]は、前記左側センサおよび前記右側センサが、前記熱送出手段における外気の出口よりも前側に位置する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の自動二輪車を含む。
【0016】
このような発明によれば、ショルダー部に送風される外気が、タイヤにおけるセンサの測定箇所に直接当たることを防止することができるため、ショルダー部の温度を正確に測定することができる。
【0017】
本発明[6]は、前記左側センサによって測定される表面温度と、前記右側センサによって測定される表面温度との差が閾値を超える場合に、表面温度が低いショルダー部に、前記外気を送り出す制御手段を備える、[1]~[5]のいずれか一項に記載の自動二輪車を含む。
【0018】
このような発明によれば、両ショルダー部の温度差を所定の範囲内に保持することができ、スリップおよび転倒をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自動二輪車は、タイヤの左右のショルダー部の温度差を低減することができ、コーナーリング時のスリップを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態の自動二輪車の概略図を示す。
【
図3】
図3は、
図1の自動二輪車において、後輪タイヤ、後輪用フェンダー、温度センサおよび熱送出管の配置概略図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態の自動二輪車の概略図を示す。。
【
図5】
図5は、
図4の自動二輪車において、前輪タイヤ、前輪用フェンダーおよび熱送出管の配置概略図を示す。
【
図6】
図6は、本発明の第3実施形態の自動二輪車の概略図を示す。
【
図7】
図7は、
図6の自動二輪車において、エンジンに取り付けられた熱交換器の概略図を示す。
【
図8】
図8は、本発明の第4実施形態の自動二輪車の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1~
図4を用いて、本発明の第1実施形態の自動二輪車(以下、二輪車と略する)1を説明する。第1実施形態の二輪車1は、マフラー6に熱交換器2(熱交換手段の一例)が取り付けられており、後輪タイヤ8を温めるための熱送出管4(熱送出手段の一例)が設けられている。具体的には、二輪車1は、レース向けの二輪車であって、公知または従来の二輪車に加えて、熱交換器2、温度センサ3、熱送出管4、および、制御部5(制御手段の一例)をさらに備えている。なお、
図1において、熱交換器2、エンジン18などを見やすくするため、これらを覆っているカウル22を透明な状態にして一点鎖線で示す。
【0022】
熱交換器2は、マフラー6に取り付けられている。熱交換器2は、マフラー6の周囲を覆う中空の筒状に形成されている。熱交換器2の前端には、外気を取り込む取込口11が形成され、その後端は、熱送出管4に連通している。すなわち、熱交換器2は、マフラー6とともに二重パイプ構造をなしており、走行中に正面からの外気が熱交換器2の内側かつマフラー6の外側周囲を通過する可能なように構成されている。これにより、熱交換器2の取込口11から取り込まれた外気は、マフラー6の外側表面によって熱せられた後、熱送出管4に送り込まれる。
【0023】
熱送出管4は、熱交換器2の後側から後輪タイヤ8の周囲に至るように取り付けられている。熱送出管4の前端は、熱交換器2の後端と連通し、その後端は、後輪タイヤ8の左ショルダー部9aおよび右ショルダー部9bに送風可能なように、分岐されている。具体的には、熱送出管4には、左ショルダー部9aに向けて開口する左側送風口12(外気の出口の一例)と、右ショルダー部9bに向けて開口する右側送風口13(外気の出口の一例)と、車体とは反対側に向けて開口する車外送風口14とが形成されている。熱送出管4は、後述する制御部5からの指令によって、左側送風口12、右側送風口13および車外送風口14をそれぞれ開閉できる開閉システム(開閉弁など、図示せず)を備えている。
【0024】
温度センサ3は、後輪タイヤ8の左ショルダー部9aの表面温度を計測する左側センサ15と、後輪タイヤ8の右ショルダー部9bの表面温度を計測する右側センサ16とから構成されている。温度センサ3は、非接触型センサであり、後輪用フェンダー17に固定されている。具体的には、左側センサ15は、左側ショルダー部9aと対向する位置に配置され、右側センサ16は、右側ショルダー部18bと対向する位置に配置されている。また、各温度センサ3は、熱送出管4から直接排出される熱による影響を防ぐため、左側送風口12および右側送風口13の前側に配置されている。
【0025】
制御部5は、車体の中央部に取り付けられている。制御部5は、配線19(
図1では、破線で示される)または無線によって、温度センサ3および開閉システムと電気的に接続されている。温度センサ3から送信される左ショルダー部9aおよび右ショルダー部9bの温度情報を取り込み、これらの温度差に応じて、開閉システムを作動させる。具体的には、温度差が所定の閾値(例えば、30℃)を超えると、低温側のタイヤのショルダー側の送風口(左側送風口12または右側送風口13)を開放し、それ以外の送風口(左側送風口12または右側送風口13と、車外送風口14)を閉鎖する。一方、温度差が所定の閾値以下である場合は、車外送風口14を開放し、左側送風口12および右側送風口13を閉鎖する。
【0026】
このような自動二輪車1であれば、エンジン18で燃焼しマフラー6に送られる排気ガスの高熱を利用して、路面に接触していない側のショルダー部を温めることができるため、グリップ力を向上させ、スリップまたは転倒を抑制することができる。具体的には、エンジン回りの温度は数百度に達する。また、走行中のタイヤの温度は、例えば、コーナーリングが多い側のショルダー部は100℃前後になる一方、コーナーリングが少ない側のショルダー部は50℃前後になる。そのため、上記エンジン回りの熱で、低温側のショルダー部を加温して、両ショルダー部の温度差を低減することができる。また、排気ガスの熱を再利用しているため、新たに加熱装置などを搭載する必要が無く、搭載部品の増加を抑制することができる。さらに、排気ガスを直接利用するのではなく、エンジン周囲以外の綺麗な空気を、熱交換器2で温めて、後輪タイヤ8に送風するため、後輪タイヤ8の汚染を防止することができる。
【0027】
なお、制御部5には、サーキットのコースやその路面状態からシミュレーションされる各ショルダー部9a、9bの予想タイヤ温度情報を入力しておき、その入力情報に基づいて、開閉システムを作動させることもできる。この際、温度センサ3による温度情報は、補足情報または補正情報として利用する。例えば、転倒やアクシデントなどにより、予想した入力情報と、実測値である温度センサ3の温度情報とで大きな誤差などが生じた場合などに、温度センサ3の温度情報を優先して、開閉システムを作動させることができる。
【0028】
<第2実施形態>
図4~
図5を用いて、本発明の第2実施形態の二輪車1を説明する。第1実施形態と同様の構成については省略する。第2実施形態の二輪車1は、マフラー6に熱交換器2が取り付けられており、前輪タイヤ7を温めるための熱送出管4が設けられている。具体的には、二輪車1は、熱交換器2、温度センサ3、熱送出管4、および、制御部5をさらに備えている。
【0029】
第2実施形態の熱送出管4は、熱交換器2の前側から前輪タイヤ7の周囲に至るように取り付けられている。熱送出管4では、その一端が、熱交換器2の排出口と連通し、その他端が、前輪タイヤ7の左ショルダー部9bおよび右ショルダー部9bに送風可能なように、分岐されている。具体的には、熱送出管4には、左ショルダー部9bに向けて開口する左側送風口12と、右ショルダー部9bに向けて開口する右側送風口13と、車体の外側(左右方向)に向けて開口する車外送風口14とが形成されている。熱送出管4は、前輪タイヤ7のハンドルを操作可能なように、その一部が可撓性部材21から形成されている。
【0030】
温度センサ3は、前輪用フェンダー20に固定されている。具体的には、左側センサ15は、前輪タイヤ7の左ショルダー部9aの表面温度を計測するために、左側ショルダー部9aと対向する位置に配置されている。右側センサ16は、前輪タイヤ7の右ショルダー部9bの表面温度を計測するために、右側ショルダー部9bと対向する位置に配置されている。
【0031】
このような第2実施形態については、前輪タイヤ7に対して、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0032】
<第3実施形態>
図6~
図7を用いて、本発明の第3実施形態の二輪車1を説明する。第1実施形態と同様の構成については省略する。第3実施形態の二輪車1は、エンジン18に熱交換器2が取り付けられており、後輪タイヤ8を温めるための熱送出管4が設けられている。具体的には、二輪車1は、熱交換器2、温度センサ3、熱送出管4、および、制御部5をさらに備えている。
【0033】
第3実施形態の熱交換器2は、エンジン18に取り付けられている。熱交換器2は、エンジン18の側面に、前後方向に折返し往復するように配置された金属管10(熱伝導性の往復配管)を備えている。
【0034】
金属管10では、前方に、走行中の外気を取り込む取込口11が形成され、後方に、当該外気を排出する排出口が形成されている。取込口11から取り込まれた外気は、金属管10を通過する際において、エンジン18の熱によって熱せられた金属管10によって、温められ、熱送出管4に送風される。
【0035】
このような第3実施形態についても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0036】
<第4実施形態>
図8を用いて、本発明の第4実施形態の二輪車1を説明する。第1実施形態と同様の構成については省略する。第4実施形態の二輪車1は、エンジン18に熱交換器2が取り付けられており、前輪タイヤ7を温めるための熱送出管4が設けられている。具体的には、二輪車1は、熱交換器2、温度センサ3、熱送出管4、および、制御部5をさらに備えている。
【0037】
第4実施形態の熱交換器2は、第3実施形態の熱交換器2と同様であり、第4実施形態の温度センサ3および熱送出管4は、第2実施形態の温度センサ3および熱送出管4と同様である。
【0038】
このような第4実施形態については、前輪タイヤ7に対して、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0039】
<そのほかの実施形態>
第1実施形態および第3実施形態では、後輪タイヤ8のショルダー部9に対してのみ、マフラー6からの熱を送出しており、第2実施形態および第4実施形態では、前輪タイヤ7のショルダー部に対してのみ、マフラー6からの熱を送出しているが、これらを組み合わせても良い。すなわち、前輪タイヤ7のショルダー部9および後輪タイヤ8のショルダー部9の両方に、マフラー6からの熱を送出してもよい。この際、熱交換器2は、前輪タイヤ7に送風するための熱交換器2と、後輪に送風するための熱交換器2とを別々に取り付けられてもよく、また、1つの熱交換器2が取り付けられ、前輪用と後輪用とに兼用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1二輪車 2熱交換器 3温度センサ 4熱送出管 5制御部 6マフラー 7前輪タイヤ 8後輪タイヤ 9a左ショルダー部 9b右ショルダー部 10金属管 11取込口 12左側送風口 13右側送風口 14車外送風口 15左側センサ 16右側センサ 17 後輪用フェンダー 18 エンジン 19有線 20前輪用フェンダー 21撓性部材 22カウル
【要約】
【課題】コーナーリング時のスリップを抑制する自動二輪車を提供する。
【解決手段】自動二輪車1は、エンジン18から発生する熱を利用して、外気を温める熱交換器2と、熱交換器2により温められた外気を、タイヤの左ショルダー部9aおよび右ショルダー部9bの表面に送り出す熱送出管3とを備える。。
【選択図】
図1