(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】止血器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/132 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
A61B17/132
(21)【出願番号】P 2022065656
(22)【出願日】2022-04-12
(62)【分割の表示】P 2018097250の分割
【原出願日】2018-05-21
【審査請求日】2022-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518178752
【氏名又は名称】國枝 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100153811
【氏名又は名称】青山 高弘
(72)【発明者】
【氏名】國枝 武彦
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-114048(JP,A)
【文献】実公平1-12815(JP,Y2)
【文献】米国特許第6833001(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第106214212(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B17/132 - A61B17/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧迫面のあるパッドを有する調整圧迫モジュールと
前記調整圧迫モジュールと一体化し、一対のベルトを前記調整圧迫モジュールを挟んで取り付けるモジュール接続部と、
前記モジュール接続部に対して、前記パッドを、前記圧迫面に対して垂直なパッド移動方向に移動させる電気モータと、
振動を電気信号に変換する振動検出部と、
前記振動検出部からの入力信号に応じて前記電気モータを制御する制御部と、を備える止血器具。
【請求項2】
前記制御部は、前記入力信号が所定範囲であるかどうかを判定し、前記所定範囲でないと判定した場合には、前記電気モータに対して前記パッドを移動させる動作を指示する、請求項1に記載の止血器具。
【請求項3】
前記振動検出部は、前記圧迫面の中心から25~35mmの距離の範囲に配置される、請求項1又は2に記載の止血器具。
【請求項4】
前記調整圧迫モジュールは、
前記パッドを一端で支持するコイルバネと、
前記コイルバネの他端に接触し、前記パッド移動方向に移動するバネ押圧部と、を有する
請求項1又は2に記載の止血器具。
【請求項5】
前記調整圧迫モジュールは、前記パッドを前記パッド移動方向に移動させるピニオンを有している、
請求項1又は2に記載の止血器具。
【請求項6】
前記調整圧迫モジュールは、
前記パッドを一端で支持するコイルバネと、
前記コイルバネの他端に接触し、前記ピニオンと共に前記パッド移動方向に移動するバネ押圧部と、を有する請求項5に記載の止血器具。
【請求項7】
前記調整圧迫モジュールが前記モジュール接続部と接続される方向は、前記パッド移動方向と前記一対のベルトが延びる方向との両方に垂直な方向である、
請求項1又は2に記載の止血器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば人工透析においては、血液を血管内から取り出して透析回路を経由して、再び血管内に返すためのバスキュラーアクセス(以下「VA」という。)が必要となる。VAには、自己血管を用いた内シャント(AVF:ArterioVenotus Fistila)、人工血管使用の内シャント(AVG:ArterioVenolis Graft)、及び動脈表在化がある。透析終了時の返血作業では、VAからA側、V側の2箇所の透析用留置針を抜針した後に、穿刺部の止血処置に入ることになる。VAの中でもAVFでは、原則として患者がAVFの腕とは反対の腕でもって圧迫止血(以下「自己止血」という。)を行うことになり、止血しやすい場合においては止血ベルト等を補助的に用いることができる。
【0003】
特許文献1には、非伸縮性もしくは低伸縮性の繊維、不織布或いはフィルム等からなる帯体の所定位置に硬質ケースを任意の手段で取付け、この硬質ケースの内部に流体を充填することによって膨張可能なバルーンを収容させた圧迫止血ベルトにおいて、上記バルーンに逆止弁を着脱可能に装着させたものであって、上記バルーンと、該バルーンに流体を充填させるための流体供給管および該流体供給管に着脱可能に装着される逆止弁とによって圧迫部を構成し、上記逆止弁を、上記流体供給管の端部に嵌め込みまたはネジ込みによって着脱可能に装着させるとともに、逆止弁と流体供給管との間にパッキン等のシール材を挟み込んだものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、現状、止血しやすい場合を除くAVFと全てのAVGと動脈表在化、動脈直接穿刺においては、医療スタッフによる用手的な圧迫止血が必要となっており、この止血処理には最低でも10分程の時間を要する。特に通常の透析施設では、短い時間差をもって患者の返血作業に順次入るので、結果としてスタッフは同時並行的に複数の患者を受け持つこととなり、返血作業の効率性が失われている懸念がある。
また、近い将来には、透析患者の高齢化に起因した認知症やフレイル・サルコペニア等よる自己止血の困難化、透析年数の長期化に起因したAVFの荒廃・再建困難によるAVGへの移行の増加、心機能低下に伴うAVF閉鎖・動脈表在化への切替の増加が予測され、現行の用手的止血に代わる止血器具が求められている。
【0006】
本開示は、上述の事情に鑑みてされたものであり、穿刺部に対してより適切な圧力で押圧することのできる止血器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の止血器具は、圧迫面のあるパッドを有する圧迫モジュールと、前記圧迫モジュールが接続されることにより、前記圧迫モジュールと一体化するモジュール接続部と、前記モジュール接続部を挟んで取り付けられる一対のベルトと、を備え、前記圧迫モジュールは、前記モジュール接続部に対して前記パッドの前記圧迫面の位置が固定された固定圧迫モジュールと、前記モジュール接続部に対して前記パッドを、前記圧迫面に対して垂直なパッド移動方向に移動させる調整圧迫モジュールと、を有する止血器具である。
【0008】
本開示の止血器具は、圧迫面のあるパッドを有する圧迫モジュールと、前記圧迫モジュールが接続されることにより、前記圧迫モジュールと一体化するモジュール接続部と、前記モジュール接続部を挟んで取り付けられる一対のベルトと、を備え、前記圧迫モジュールは、前記モジュール接続部に対して前記パッドを、前記圧迫面に対して垂直なパッド移動方向に移動させる調整圧迫モジュールである止血器具である。
【0009】
また、本開示の止血器具においては、前記圧迫モジュールが接続される方向は、前記パッド移動方向と前記一対のベルトが延びる方向との両方に垂直な方向とすることができる。
【0010】
また、本開示の止血器具においては、前記調整圧迫モジュールは、前記パッドを前記パッド移動方向に移動させる雄ネジを有していてもよい。この場合において、前記調整圧迫モジュールは、前記パッドを一端で支持するコイルバネと、前記コイルバネの他端に接触し、前記雄ネジと共に前記パッド移動方向に移動するバネ押圧部と、を有してもよい。
【0011】
また、本開示の止血器具においては、前記調整圧迫モジュールは、前記パッドを前記パッド移動方向に移動させるピニオンを有していることとしてもよい。この場合において、前記調整圧迫モジュールは、前記パッドを一端で支持するコイルバネと、前記コイルバネの他端に接触し、前記ピニオンと共に前記パッド移動方向に移動するバネ押圧部と、を有してもよい。
【0012】
また、本開示の止血器具においては、前記調整圧迫モジュールは、前記バネ押圧部を移動させる電気モータを更に有してもよい。この場合において、前記調整圧迫モジュールは、振動を電気信号に変換する振動検出部と、前記振動検出部からの入力信号に応じて前記電気モータを制御する制御部と、を更に有していてもよい。更にこの場合において、前記制御部は、前記入力信号に信号が所定範囲であるかどうかを判定し、所定範囲でないと判定した場合には、前記電気モータに対して前記バネ押圧部を移動させる動作を指示することとしてもよい。前記振動検出部は、前記圧迫面の中心から25~35mmの範囲を含んで移動することとしてもよい。
【0013】
また、本開示の止血器具においては、前記一対のベルトの一方に取り付けられるD環を更に備えることとしてもよい。また、本開示の止血器具においては、前記一対のベルト2はナイロンからなり、前記モジュール接続部はポリカーボネートからなることとしてもよい。
【0014】
上述のような構成により止血器具は、穿刺部に対してより適切な圧力で押圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1の止血器具が円環状にされた際の側面図である。
【
図3】固定圧迫モジュールが接続された止血器具の圧迫モジュール付近について示す斜視図である。
【
図6】調整圧迫モジュールが接続された止血器具の圧迫モジュール付近について示す側面断面図である。
【
図7】調整圧迫モジュールが接続された止血器具の圧迫モジュール付近について示す斜視図である。
【
図8】調整圧迫モジュールが接続された止血器具が腕に取り付けられた様子を示す図である。
【
図9】調整圧迫モジュールの第1の変形例を示す図であり、圧迫モジュール付近の断面図である。
【
図10】調整圧迫モジュールの第2の変形例を示す図であり、圧迫モジュール付近の一部断面図である。
【
図11】調整圧迫モジュールの第3の変形例を示す図であり、圧迫モジュール付近の斜視図である。
【
図12】調整圧迫モジュールの第4の変形例を示す図であり、マイクロフォンを有する調整圧迫モジュールが接続された止血器具が腕に取り付けられた様子を示す図である。
【
図13】第4の変形例における調整圧迫モジュールの制御構成について示すブロック図である。
【
図14】制御部による処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の止血器具の構成及び機能について、図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0017】
図1は、本発明の止血器具1の平面図である。
図2は、
図1の止血器具1が円環状に固定される際の側面図である。
図3は、固定圧迫モジュールを用いた止血器具1の圧迫モジュール5付近について示す斜視図である。
図4は、固定圧迫モジュールの側面図である。
図5は、固定圧迫モジュールの底面図である。
これらの図示されるように、止血器具1は、圧迫モジュール5と、モジュール接続部4と、一対のベルト2と、を有している。ここで止血器具1は、一対のベルト2の一方の端に取り付けられたD字型のリングであるD環3、及び一対のベルト2の他方に取り付けられ、他方がD環3を通して折り曲げられた際に重ね合わされて接続することができる面ファスナー21を有していてもよい。
【0018】
圧迫モジュール5は圧迫面512のあるパッド51及びモジュール本体52を有している。モジュール本体52は、スチール等の金属とすることができ、パッド51は弾力性および透明性を有するシリコンゴム等の材料とすることができる。モジュール接続部4は、圧迫モジュール5が接続されることにより、圧迫モジュール5と一体化する。一対のベルト2は、モジュール接続部4を挟んでモジュール接続部4に取り付けられる。
圧迫モジュール5は、モジュール接続部4に対してパッド51の圧迫面512の位置が固定された固定圧迫モジュールと、モジュール接続部4に対してパッド51を、圧迫面512に対して垂直なパッド移動方向(±Z方向)に移動させる調整圧迫モジュールとの2種類を有し、それぞれモジュール接続部4に対して接続可能な構成となっている。このように異なる種類の圧迫モジュール5を有することにより利用者の状態や異なる利用者間で止血器具1を利用することができる。しかしながら、止血器具1は、調整圧迫モジュールのみを有する構成であってもよいし、固定モジュールでなく、複数種類の調整圧迫モジュールを有する構成としてもよい。
また、一対のベルト2はナイロンやシリコン等の柔軟性のある部材からなり、モジュー
ル接続部4はポリカーボネート等の樹脂からなることとしてもよい。これにより、モジュール接続部4を外した止血器具1は、オートクレーブ滅菌や次亜塩素酸による消毒を行って再利用することができる。
【0019】
図3に特に示されるように、モジュール本体52には凸部521が形成され、モジュール接続部4には凹部41が形成されている。凸部521が凹部41に差し込まれることにより圧迫モジュール5は、モジュール接続部4に固定される。圧迫モジュール5が接続される方向は、一対のベルト2が延びる方向を±X方向、圧迫面512に垂直なパッド移動方向を±Z方向とすると、X方向及びZ方向の両方に垂直な±Y方向である。これにより圧迫モジュール5は止血のための圧力の方向とは異なる方向で着脱されるため、止血時において圧迫モジュール5はモジュール接続部4に確実に固定される。
【0020】
図6は、圧迫モジュール5の一つである調整圧迫モジュールが接続された止血器具1の圧迫モジュール5付近の側面断面図である。
図7は、調整圧迫モジュールが接続された止血器具1の圧迫モジュール5付近の斜視図である。これらの図に示されるように、圧迫モジュール5は、モジュール本体52にネジ穴522と、一端がパッド51に接続され、ネジ穴522と螺合するネジ山534を有する雄ネジ532と、雄ネジ532の他端に接続されたダイヤル531とを有している。このような構成とすることにより、ダイヤル531を回転させることで、雄ネジ532はパッド51をパッド移動方向(±Z方向)に移動する。ここでダイヤル531は、雄ネジ532のネジ頭部分としてもよい。
【0021】
図8は、調整圧迫モジュールが接続された止血器具1が腕Aに取り付けられた様子を示す図である。止血器具1は、
図6及び7に示されるような構成とすることにより、面ファスナー21によりベルト2を腕Aに取り付けた後であっても、ダイヤル531を用いて雄ネジ532を回すことにより、圧迫面512を腕Aの方向又は腕Aから離れる方向に移動させることができ、穿刺部を圧迫する力を調整することができる。また、例えばダイヤル531が目盛りを有し、ベルト2が面ファスナー21による固定される位置、及びダイヤル531の目盛りを利用者が覚えておくことにより、毎回同じ圧迫力で穿刺部を押えさせることができる。したがって、本開示における止血器具1によれば、穿刺部に対してより適切な圧力で押圧することができる。
【0022】
図7及び8に示されるような調整圧迫モジュールは、押圧力調整手段として、ネジ機構そのものを用いる。具体的には雄ネジ532の回転による肢体方面への軸線上の動きから生じる押圧力である。止血対象部位の皮膚には弾性的な性質があるため、後述するコイルバネ54を用いたもの程正確な押圧力を負荷することはできないが、コイルバネ54と同一条件で測定することにより、ある程度の目安を付けることが可能となる。
雄ネジ532の頭部は、調節ダイヤルであるダイヤル531と一体となっており、ダイヤル531には目盛りが付いている。つまり、調節ダイヤルはモジュール頭頂部に位置する。目盛りと雄ネジ532の軸線上の動きは対応しているので、押圧力の近似的な目安とすることができる。後述するバネ式と比較し、構造が簡易となりコストを抑えることが可能となるため、バネ式ほど精密な圧迫力を要しない場合における使用を想定している。
雄ネジ532を回転させて雄ネジ532を軸線上に移動させた場合、ネジ先端部も当然に回転することになるので直接にパッド51に接していると、その間の摩擦によりパッド51にも回転の動きが伝わろうとして、パッド51による止血対象部位がずれてしまうおそれがある。それを防止するために、ネジ先端部にキャップを付す構成としてもよい。これは、全体として軸線方向の一方側が開口された薄型円盤状をなしており、ネジ先端部に覆いかぶさる構造となっている。これにより、ネジ先端部が回転してもパッド51は回転しないことになり、上記の不都合を回避することができる。
【0023】
図9は、調整圧迫モジュールの第1の変形例を示す図であり、圧迫モジュール5付近の
断面図である。この図に示されるように、第1の変形例では、圧迫モジュール5は、
図6及び7と同様に雄ネジ532を有しているが、更にパッド51を一端で支持するコイルバネ54と、コイルバネ54の他端に接触し、圧迫面512の方向に移動させるバネ押圧部533と、を有している。
図9の例においては、パッド51はコイルバネ54に接着等により接続されたバネ受け511により支持されている。ここでパッド51とバネ受け511とは一体であってもよい。本実施形態においては、モジュール本体52にコイルバネ54を配置する穴部523を設けている。このような構成とすることにより、
図6及び7と同様に、止血器具1は、面ファスナー21によりベルト2を腕Aに取り付けた後であっても、穿刺部を圧迫する力を調整することができる。また、穿刺部への圧迫は、コイルバネ54により緩衝されるため、腕A等に振動や動きがある場合においても、所定範囲の圧力を維持して穿刺部を押えることができ、また穿刺部に対して適切な角度で押えることができる。
【0024】
第1の変形例に係る圧迫モジュール5を使用した場合には、パッド51を止血対象部位に密着させた状態で、コイルバネ54を上から肢体方向に圧縮することでバネの復元力が生じる。これにより、バネ先端に付着しているパッド51による止血対象部位への押圧が可能となる。
コイルバネ54を用いることにより、バネの復元力から生じる押圧力をフックの法則より算出することができる。具体的には、止血対象血管の血圧(mmHg)に応じた最適な押圧力での精密な調節を可能とできる。一例としてVAを対象とした止血においては、コイルバネ54を圧縮した場合に生み出される復元力を6.7~33.3kPa(50mmHg~250 mmHg)の範囲で調節できるように、予めコイルバネ54の強度設定が行われている。
コイルバネ54を圧縮する押圧力調整手段として、ネジ機構を用いている。雄ネジ532の回転操作が行われることで、ネジ先端に付着しているバネ圧縮板が、肢体の軸線方向に移動し、コイルバネ54の圧縮割合を変化させる。雄ネジ532の頭部は、調節ダイヤルと一体となっており、その調節ダイヤルには目盛りが付いている。つまり、調節ダイヤルはモジュール頭頂部に位置する。目盛りとネジの軸線上の動きは対応しているので、コイルバネ54の圧縮割合を目盛りにより調節することが可能となる。つまり、押圧力を調節ダイヤルにより調節できるようになる。
【0025】
バネ受け511から延びる芯棒58は、コイルバネ54の中心にあり、パッド51から肢体と反対方向に伸びる筒状物であり、コイルバネ54の座屈を防ぐ役割の他、押圧力の上限設定の役割も果たす。つまり、パッド51の芯棒58の長さを調節することにより、それ以上コイルバネ54が圧縮されない限界とすることができるので、コイルバネ54による復元力、つまり押圧力の上限を物理的に定めることを可能とする。
雄ネジ532を回転させて雄ネジ532を軸線上に移動させた場合、ネジ先端部も当然に回転することになるので直接にバネ圧縮板に接していると、その間の摩擦によりバネ圧縮板にも回転の動きが伝わろうとして抵抗となる。それを防止するために、ネジ先端部にキャップを付す構成としてもよい。キャップは、全体として軸線方向の一方側が開口された薄型円盤状をなしており、ネジ先端部に覆いかぶさる構造となっている。これにより、ネジ先端部が回転してもキャップは回転しないことになる。
バネ枠の上面には、厚み方向に貫通する円形の雌ネジが形成されている。ここに雄ネジ532が螺合する際の回転抵抗を大きく取ることにより、雄ネジ532の逆回転を防止する手段を不要とできる。このようにしない場合には、回転規制手段として別途ラチェット爪の機構を設ける必要がある。
【0026】
図10は、調整圧迫モジュールの第2の変形例を示す図であり、圧迫モジュール5付近の一部断面図である。この図に示されるように、第2の変形例では、圧迫モジュール5は、
図9と同様にコイルバネ54及びバネ押圧部533を有しているが、パッド51をパッド移動方向に移動させるラック56及びピニオン57を有している点で異なっている。よ
り具体的には、ラック56及びピニオン57は、バネ押圧部533をパッド移動方向に移動させることにより、コイルバネ54を介してパッド51を移動させる。このような構成とすることにより、ダイヤル531の中心軸をモジュール本体52のXY平面内のいずれかの方向に設けることができる。これにより、ダイヤル531を回した場合であっても穿刺面を回転する力を与えることなく、穿刺部を圧迫する力を調整することができる。なお第2の変形例では、コイルバネ54を有する構成で、ラック56及びピニオン57を用いる構成としたが、コイルバネ54を有しない例えば
図6及び7の構成においてネジ穴522及び雄ネジ532に代えてラック56及びピニオン57を用いる構成としてもよい。
【0027】
第2の変形例において、第1の変形例と異なるのは、コイルバネ54の圧縮する押圧力調整手段として、ラック及びピニオン機構を用いる点である。具体的には、ラック56は肢体に対しモジュールの軸線上に配置され、ラック下端にバネ圧縮板が接着している。ピニオン57の回転によりラック56が軸線上に移動するため、バネ圧縮板も同じく軸線上を移動し結果としてコイルバネ54の圧縮割合も変化することになる。
さらに、ピニオン57と目盛りが付いている調節ダイヤルを、連結または一体とすることにより、調節ダイヤルの目盛りとピニオン57の回転割合を対応させることが可能となり、コイルバネ54の圧縮割合も調節される。つまり、押圧力を調節ダイヤルにより調節できるようになる。
第2の変形例においても、コイルバネ54の構造と位置は基本例と同じであり、バネ圧縮板より上部構造のみが変形となっている。ピニオン57が軸線上に縦に位置している関係上、調節ダイヤルはモジュールの側面に位置することになる。これにより基本例と比較してモジュール全体の高さを抑えることが可能となり、また機構上後述する電動モジュールとの親和性を高めることができる。
バネ枠の側面には、厚み方向に貫通する円形の雌ネジが形成されている。ここに雄ネジ532が螺合する際の回転抵抗を大きく取ることにより、雄ネジ532の逆回転を防止する手段を不要とできる。このようにしない場合には、回転規制手段として別途ラチェット爪の機構を設ける必要がある。
【0028】
図11は、調整圧迫モジュールの第3の変形例を示す図であり、圧迫モジュール5付近の斜視図である。この図に示されるように、第3の変形例では、上述の調整圧迫モジュールのいずれかの構成に加え、ダイヤル531を回転させて、バネ押圧部533を移動させる電気モータ61を更に有している。また、電気モータ61を駆動する電力を供給するバッテリー62、及び電気モータ61の動作を指示するための操作パネル63を有している。このような構成とすることにより、利用者は、操作パネル63の操作という、より簡易な操作で穿刺部を適切な力で圧迫することができる。
【0029】
図12は、調整圧迫モジュールの第4の変形例を示す図であり、マイクロフォン7を有する調整圧迫モジュールが接続された止血器具1が腕Aに取り付けられた様子を示す図である。
図13は、第4の変形例における調整圧迫モジュールの制御構成について示すブロック図である。これらの図に示されるように、第4の変形例では、上述の第3の変形例の構成に加えて、振動を電気信号に変換するマイクロフォン(振動検出部)7からの入力信号に応じて電気モータ61を制御する制御部8を更に有している点で異なっている。
図13に示されるように、制御部8は、マイクロフォン7及び操作パネル63からの信号を入力し、電気モータ61の動作を制御する指示を出力する。本実施形態においては振動検出部として音声を検出するマイクロフォン7を用いているが音声以外の振動を検出する振動検出部を用いることとしてもよい。ここで制御部8は、主に半導体装置で構成され、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶部、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶部、通信ネットワークに接続されるネットワークインターフェース部等を有する情報処理装置として構成されていてもよい。
【0030】
図14は、制御部8による処理の例を示すフローチャートである。この図に示されるように、制御部8は、まずステップS11においてマイクロフォン7から検知した音声信号を取得する。次にステップS12において音量が所定範囲内であるかどうかを判定する。音量が所定範囲より小さいと判定した場合には、圧迫面512を-Z方向に上昇させる駆動を電気モータ61に指示し、圧迫を緩和してステップS15に移行する。一方、所定範囲より大きいと判定した場合には、圧迫面512を+Z方向に下降させる駆動を電気モータ61に指示し、圧迫を強めてステップS15に移行する。また所定範囲内であると判定した場合にはそのままステップS15に移行する。ステップS15では、操作パネル63から終了指示があったかどうかを判定し、終了指示がない場合には、ステップS11に戻って処理を繰り返す。一方終了指示があった場合には、ステップS16において圧迫が緩和された所定位置となる駆動を電気モータ61に指示し、処理を終了する。
【0031】
このように、マイクロフォン7等の振動検出部を使用した場合には、所謂シャント音を確認しながら圧迫モジュールによる穿刺部を圧迫する力を調整することができる。例えばシャント音が小さい場合には、圧迫する力が大きいため血管が閉塞していると判定することができる。また、シャント音が大きいと圧迫する力が小さく多くの血流が流れていると判定することができる。このように制御部8は、入力信号の値が所定範囲であるかどうかを判定し、所定範囲でないと判定した場合には、電気モータ61に対してバネ押圧部533やパッド51を移動させる動作を指示するため、止血器具1はより適切に穿刺部を押圧することができる。
なお、マイクロフォン7としての振動検出部は、圧迫面512の中心から25~35mmの範囲を含んで移動する構成とすることができる。このような構成とすることにより、例えば透析における止血部位から静脈上の下流の適切な位置でシャント音を検出することができる。また、操作パネル63は、マイクロフォン7としての振動検出部の感度を調整する感度調節部を有していてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る止血器具1によれば、穿刺部に対してより適切な圧力で押圧することができる。
なお上述の実施形態の記載は一例であり、本発明の思想の範疇において、当業者が想到し得る変更及び修正が含まれる場合についても本発明の範囲に属する。例えば実施形態の構成要素に対して代替可能な構成への変更、構成要素の削除を行ったものについても、本発明の思想の範疇である限り、本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0033】
1 止血器具、2 ベルト、3 D環、4 モジュール接続部、41 凹部、5 圧迫モジュール、21 面ファスナー、51 パッド、511 バネ受け、512 圧迫面、52 モジュール本体、521 凸部、522 ネジ穴、523 穴部、531 ダイヤル、532 雄ネジ、533 バネ押圧部、534 ネジ山、54 コイルバネ、56 ラック、57 ピニオン、58 芯棒、61 電気モータ、62 バッテリー、63 操作パネル、7 振動検出部(マイクロフォン)、8 制御部
【要約】
【課題】穿刺部に対してより適切な圧力で押圧することができる止血器具を提供する。
【解決手段】止血器具1は、圧迫面512のあるパッド51を有する圧迫モジュール5と、圧迫モジュールが接続されることにより、圧迫モジュールと一体化するモジュール接続部4と、モジュール接続部を挟んで取り付けられる一対のベルト2と、を備え、圧迫モジュールは、モジュール接続部に対してパッドの圧迫面の位置が固定された固定圧迫モジュールと、モジュール接続部に対してパッドを、圧迫面に対して垂直なパッド移動方向に移動させる調整圧迫モジュールと、を有する。
【選択図】
図1