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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ラッチ付きハンドルリング
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017228058
(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公開番号】P2019097588
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】堀 弘二
(72)【発明者】
【氏名】西澤 正祥
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514442(JP,A)
【文献】国際公開第2009/036943(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0105813(US,A1)
【文献】独国特許発明第102011052442(DE,B3)
【文献】特開平8-215219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/00-18
A61C 8/00-02
B25B 13/00-58
B25B 23/00-18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントのコンポーネント等を螺合するために用いる駆動器具(ハンドルリング)であって、
前記ハンドルリングはリング形状であり、
前記ハンドルリングはリングの外周部を直接手指で把持して回転させることで駆動し、
前記ハンドルリングは突出部を有する円弧状のラッチを有し、
前記突出部を有する円弧状のラッチは、ハンドルリングの内径に沿う形状であり、ハンドルリングの外径には接しておらず、
前記ハンドルリングは内径(φ)5mm以上かつ外径(φ)20mm以下であり、
前記ハンドルリングは前記ラッチと一体成型されていることを特徴とするハンドルリング。
【請求項2】
前記突出部の前記ハンドルリングの中心方向の高さが0.5~3.0mmであることを特徴とする請求項1に記載のハンドルリング。
【請求項3】
前記突出部が先細り形状であることを特徴とする請求項1に記載のハンドルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラントシステムのコンポーネントを螺合するために使用する駆動器具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント治療は、ウ蝕や歯周病、又は外傷などによって失われた歯の欠損部位に対して行われる歯科治療の一つである。
【0003】
通常、歯科用インプラントは生体親和性に優れた純チタン又はチタン合金製であり、これを図1及び2に記載のように歯根の代替として歯の欠損部位に埋入、人工歯根として機能させ、歯科用インプラント(A)上部に支台となるアバットメント(B)を装着し、そこへ各種補綴装置を固定することで、口腔機能を回復させる。
【0004】
図1に記載のように歯科用インプラントは一般的にスクリュ形状を有し、駆動器具に装着したインプラント用ドライバ(C)を用いて顎骨に固定するのが一般的である。
【0005】
また、歯科用インプラント(A)へのアバットメント(B)の装着はアバットメントスクリュ(D)を介した螺合であり、駆動器具に装着したドライバでアバットメントスクリュ(D)を固定するのが一般的である(図1参照)。
【0006】
歯科用インプラント(A)の顎骨への固定には、最大許容トルクが設定され、アバットメントスクリュ(D)の固定には推奨トルクが設定されることが一般的であり、これらの最終的な固定には固定するトルクを測定できる駆動器具として電動式骨手術器械(E)であるコントラアングル(F)(コントラアングル用ドライバ(G)併用)(図3及び4参照)又は手動式歯科用インプラント手術器具であるトルクレンチ(H)(ドライバ(10)併用)を使用する(図5及び6参照)。
【0007】
しかし、これら駆動器具はドライバの作用点となる駆動部(13)の中心線(14)とトルクを加える力点(コントラアングルの場合は手指で保持するハンドル部(F1))が異なり、隔たっている。
【0008】
この場合、固定開始初期の低トルク段階は力点となる片手とは別に、残る片手は駆動する方向がずれないように前記中心線(14)近傍を支持しなければ、歯科用インンプラント(A)の顎骨への固定の場合は意図した固定方向とは異なる位置に埋入する又はアバットメントスクリュ(D)の固定の場合はスクリュ山(A1)を潰すリスクが高く、施術の際も細心の注意が必要となる。
【0009】
よって、前記固定開始初期の低トルク段階はドライバ(10)を手指で直接駆動させ、前記リスクを低減していることが一般的である。
【0010】
また、歯科用インプラントシステムのコンポーネント数を少なくするため、手指で駆動させるドライバとトルクレンチ用のドライバは同一であることが一般的であり、ドライバ(10)のハンドル(11)の外径が大きい場合は手指で駆動させる時にトルクが付与し易い反面、トルクレンチを併用する場合、トルクレンチが大きくなり、狭い口腔内での使用が困難になる。
【0011】
特許文献1には、ラッチ(爪セグメント)を含むトルクレンチが単一体で構成され、清掃が簡単である特徴が記載されている。
【0012】
しかしながら、当該トルクレンチはドライバの円心と手指でのトルク伝達する部位(ハンドル部位)との距離に隔たりがあり、片手での操作が困難である問題があった。また、ラッチ機能を有する当該爪セグメントを含む円盤状のハンドルリングを思案する場合、手指で駆動させるドライバを併用できる内径を有し且つ当該爪セグメントを内在させる外径20mm以下の円盤状のハンドルリングを設計することはできず、口腔内での操作性は劣る。
【0013】
特許文献2には、インプラントドライバを装着するピボットハウジング全体が螺旋形状であることでラッチ機能を有する形状について言及しており、トルクレンチが一体成形設計であることでコストの削減及び清掃性が良いことを挙げている。
【0014】
しかしながら、ピボットハウジング全体が螺旋形状であるこのラッチは、ドライバの円心と手指でのトルク伝達する部位(ハンドル部位)との距離に隔たりがあるトルクレンチの場合のみ正確に機能するが、ピボットハウジング自体を手指で駆動する場合、その螺旋に手指の力が加わることで正確なラッチ機能は発揮できず、また螺旋形状を手指で掴むことはその操作性に劣る。
【0015】
特許文献3には、円心外径のツールドライバを装着するレンチのチャンバーの内形が楕円形状を有し、ラッチ機能の締結と解除はそれぞれの中心軸を変えて駆動させることで達成されることを開示している。
【0016】
しかしながら、この中心軸を変える操作は片手では難しく且つ狭い口腔内の操作では細心の注意が必要となる。
【0017】
特許文献4には、小型(スタビー)のラッチ機能付きのドライバについて記載があり、一般工具として広く普及している。しかしながら、このラッチ機構となるカム又はばね等は別体で組み込まれているため、清掃性に劣る。
【0018】
また、トルクレンチを併用せず、高トルクでドライバを駆動させるためにドライバのハンドル径拡張用ハンドル(I)は歯科用インプラントシステムとして広く普及しているが、ラッチ機能はなく、ドライバ(J)の保持機構としてOリング、Cリング又はばね等が別体で組み込まれている製品もあり清掃性に劣る(図7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特許第4801073号公報
【文献】特許第5951805号公報
【文献】米国特許第5996453号公報
【文献】特開2014-622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、清掃性及び操作性を両立するドライバの駆動器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
鋭意研究の結果、本発明者らは、上記課題の解決を図るべく以下の知見を見出した。
1.突出部を有する一体に成形されたラッチを備え、内径(φ)5mm以上かつ外径(φ)20mm以下であることを特徴とする円盤状ハンドルリング。
2.前記ラッチが円弧状であることを特徴とする上記1.に記載のハンドルリング。
3.前記内径の部分が空洞となっていることを特徴とする上記1.ないし2.に記載のハンドルリング。
4.前記突出部の高さが0.5~3.0mmであることを特徴とする上記1.ないし3.に記載のハンドルリング。
5.前記突出部が先細り形状であることを特徴とする上記1.ないし4.に記載のハンドルリング。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高トルクでドライバを駆動させることができるハンドル径拡張用のハンドルリングであり、ラッチ付きの一体成形体であり、清掃性及び操作性が良い。
【0023】
上記の効果は、ラッチ(2)と機能するカム(12)を有することで、その他のドライバの仕様に関わらず得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】駆動器具に装着したドライバを用いて顎骨に歯科用インプラントを固定する施術正面略図である。
図2】アバットメントスクリュを介した歯科用インプラントへのアバットメントの装着時の正面断面図である。
図3】コントラアングルを含む電動式骨手術器械を示す斜視正面図である。
図4】コントラアングル用ドライバの正面図である。
図5】ドライバの正面図である。
図6】ラッチ機能付きトルクレンチの正面図である。
図7】ハンドル径拡張用ハンドル(ラッチ機能無し)とそのドライバを示す平面図である。
図8】本発明のハンドルリングの好適な実施形態の一つの正面断面図である。
図8A】本発明のハンドルリングの好適な実施形態の一つの正面図である。
図8B図8Aに示すハンドルリングの平面図である。
図9】本発明のハンドルリングの好適な実施形態の一つの正面図である。
図10】本発明のハンドルリングの好適な実施形態の一つの正面図である。
図11A図8Bに示すハンドルリングにドライバを装着したときの平面図である。
図11B図8Bに示すハンドルリングにドライバを装着し、ラッチ(2)とカム(12)が嵌め合い状態の好適な実施形態の一つの平面断面図である。
図11C図8Bに示すハンドルリングにドライバを装着し、ラッチ(2)とカム(12)が嵌め合い状態の好適な実施形態の一つの平面断面図である。
図11D図8Bに示すハンドルリングにドライバを装着し、ラッチ(2)がカム(12)から外れている状態の好適な実施形態の一つの平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、その他の任意の構成要素を備え得る。
【0026】
本発明のハンドルリング(1)は、ドライバを入れるドライバ挿入部(4)、ラッチ(2)、突出部(3)及びハンドル(5)部分から成る。(図8図10参照)
【0027】
歯科用インプラントを装着する際、本発明のハンドルリング(1)と併用しうるドライバ(10)は図5のごとく、ハンドル(11)、カム(12)、駆動部(13)及びディスク(15)から構成される。
【0028】
上記ラッチ(2)はハンドルリング(1)と一体成形されており、前記カム(12)と嵌合しうるべく突出部(3)を有している(図8B参照)。
【0029】
ドライバ挿入部(4)つまり円盤状のハンドルリング(1)の内径は、併用しうるドライバ(10)のハンドル(11)の外径と相似し、ハンドル(11)の内径がφ5mm未満の場合はドライバ(10)単体つまりハンドル(11)を手指で駆動させる場合の操作性が劣るため、φ5mm以上であることが好ましい。
【0030】
円盤状のハンドルリング(1)の外径は、大きいほど手指で高トルクを加えることが可能であるが、狭い口腔内での操作性を考慮すると外径がφ20mm以下であることが好ましい。
【0031】
これらの構成を採用することにより、前記ハンドルリング(1)を手指で一方向に駆動(回転)する場合は前記ラッチ(2)と前記カム(12)が嵌め合うことで前記ドライバ(10)にトルクが加わり、逆方向に駆動(回転)する場合は前記ラッチ(2)が前記カム(12)から外れることで前記ドライバ(10)が空転しうる。
【0032】
上記ラッチ(2)は所望の形状を採用しうるが、生産性の観点から円弧状であることが好ましく、そのうち図8Bにて図示のごとくハンドルリング(1)の内径に沿った円弧状であるものがより好ましい。
【0033】
同様に口腔内での操作性を考慮するとハンドルリング(1)の厚みは5mm以上且つ10mm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の上記ハンドルリング(1)は内径の部分の片面がふさがっているもの(図8)、及び図8Bにて図示するような当該部分が空洞のものを採用することができる。
【0035】
前記空洞のものを採用した場合、ドライバ(10)はハンドルリング(1)のドライバ挿入部(4)の上下のどちらからも装着可能となり、この上下からの装着の違いにより、駆動方向に対してラッチ(2)とカム(12)の嵌め合い又はドライバ(10)の空転の組み合わせを選択できる。
【0036】
ラッチ(2)又は突出部(3)の数はそれぞれ適宜組み合わせても良く、機能するそれぞれの数を増やすことでラッチ機構の耐用回数は増加する。一体成形するラッチは上述のような形状のものを採用するハンドルリング(1)の内外径に応じて、近接する位置あるいは一定間隔で複数個備えても良い。また、突出部(3)は例えば図11Cに図示のごとく近接する位置に2個設ける構成を採用してもよいし、一定間隔(例えば、1mm以上の一定間隔)で突出部を複数個設けても良い。
【0037】
突出部(3)の形状は、図11B~Dのような一般的なカム(12)の形状と平面接触又は線接触しうる形状を採用することができる。より好ましくは前記ハンドルリング(1)を手指で一方向に駆動(回転)する場合は前記ラッチ(2)の突出部(3)と前記カム(12)が平面接触で嵌め合うことで高トルクを負荷できる。また突出部(3)の高さはカム(12)とのより良好な嵌め合い又は空転の観点から0.5~3.0mmであることが好ましい。
【0038】
駆動時の遊びをより少なくするため、併用しうるドライバのカム(12)数は多い方が好ましい。
【0039】
ドライバ(10)のカム(12)の形状並びに材質に対応して、ラッチ(2)及び突出部(3)の形状並びに材質を変えることで、一定トルク以上のトルク(例えば、10N・cmや20N・cm)が加わった場合、前記ラッチ(2)が前記カム(12)から外れることで、一定トルク値を制御することが可能である。この場合、突出部(3)の形状は先細りのテーパー状とし、カム(12)と線接触とすることが好ましい。
【0040】
本発明のハンドルリングの材質としてはステンレス鋼、チタン又はチタン合金等の任意の材質で製造することができるが、そのうち、より上記の制御を良くする観点からステンレス鋼が好ましい。
【0041】
また、この一定トルクで設計したハンドルリングをそれぞれコンポーネントとしてラインナップし、症例によって適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
本発明のハンドルリングは切削加工、放電加工又は積層造形等の任意の加工で製造される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のハンドルリングにより、歯科用インプラント治療がより簡便に且つより迅速に施術を行うことが可能となる。また、歯科用インプラントの任意のドライバに適宜合わせることができ、応用範囲も広いため、本発明は歯科用インプラント治療の分野において、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
A 歯科用インプラント
A1 スクリュ山
B アバットメント
C インプラント用ドライバ
D アバットメントスクリュ
E 電動式骨手術器械
F コントラアングル
F1 コントラアングルのハンドル部
G コントラアングル用ドライバ
H トルクレンチ
I ハンドル径拡張用ハンドル
J Oリング
1 ハンドルリング
2 ラッチ
3 突出部
4 ドライバ挿入部
5 ハンドル
10 ドライバ
11 ハンドル
12 カム
13 駆動部
14 中心線
15 ディスク

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D