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特許7090981トンネル施工管理システム、判定方法および施工管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】トンネル施工管理システム、判定方法および施工管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/06 20060101AFI20220620BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G01C7/06
G01C15/06 T
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018046563
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019158637
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】山本 悟
(72)【発明者】
【氏名】三井 善孝
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅之
(72)【発明者】
【氏名】引間 亮一
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-138422(JP,A)
【文献】特開昭58-148909(JP,A)
【文献】特開平09-033255(JP,A)
【文献】特開2010-096752(JP,A)
【文献】特開2003-329442(JP,A)
【文献】特開2009-204449(JP,A)
【文献】特開2011-203090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの施工を管理するトンネル施工管理システムであって、
トンネル内を三次元計測する計測手段と、
トンネル内に配置され、予め計測された位置座標を有する3以上の球状ターゲットと、
トンネル内の1以上の箇所の位置座標を計算する演算手段とを含み、
前記計測手段は、該計測手段に対して施工対象とは異なる、前記3以上の球状ターゲットが配置される側のトンネル内を、計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測し、
前記演算手段は、前記計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測された計測結果に基づいて前記計測手段の位置座標を計算し、計算した前記計測手段の位置座標と前記計測手段が前記施工対象を三次元計測した計測結果とに基づいて前記トンネル内の前記施工対象の1以上の箇所の位置座標を計算する、トンネル施工管理システム。
【請求項2】
前記演算手段は、設計データと比較して施工が必要な箇所を判定する、請求項1に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項3】
前記演算手段は、設計データと比較して施工が必要な箇所の施工量を算出する、請求項2に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項4】
前記施工が必要な箇所を施工する手段を備える車両を含み、
前記計測手段は、前記車両に免震架台を介して搭載される、請求項2または3に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項5】
前記演算手段は、前記車両の移動後、移動前に計算した前記計測手段の位置座標と移動前後のトンネル内の前記施工対象を三次元計測した計測結果とを用いて移動後の該計測手段の位置座標を計算する、請求項4に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項6】
前記演算手段は、トンネル内の前記施工対象を三次元計測した計測結果として得られた移動前後の形状パターンのパターンマッチングにより移動後の計測手段の位置を特定する、請求項4または5に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項7】
前記演算手段の判定結果を表示する表示手段を含み、
前記表示手段は、前記施工が必要な箇所を他の箇所と区別可能に表示する、請求項2~6のいずれか1項に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項8】
前記計測手段は、第1の計測点間隔で、前記3以上の球状ターゲットを含む第1の計測範囲を三次元計測し、
前記演算手段は、前記第1の計測点間隔で前記第1の計測範囲を三次元計測した計測結果に基づいて前記各球状ターゲットの位置を特定し、
前記計測手段は、前記第1の計測点間隔とは異なる第2の計測点間隔で、前記第1の計測点間隔とは異なる第2の計測範囲を三次元計測し、
前記演算手段は、前記第2の計測点間隔で前記第2の計測範囲を三次元計測した計測結果に基づいて前記各球状ターゲットの位置座標を計算し、前記各球状ターゲットの位置座標に基づいて前記計測手段の位置座標を計算する、請求項1~7のいずれか1項に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項9】
前記計測手段は、前記第1の計測点間隔および前記第2の計測点間隔とは異なる第3の計測点間隔で、前記第1の計測範囲および前記第2の計測範囲とは異なる第3の計測範囲を三次元計測し、
前記演算手段は、三次元計測した計測結果に基づいてトンネル軸方向を特定する、請求項8に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項10】
トンネル内の施工が必要な箇所を判定する方法であって、
施工対象とは異なる、予め計測された位置座標を有する3以上の球状ターゲットが配置される側のトンネル内を、計測点間隔および計測範囲を変えて計測手段により三次元計測するステップと、
前記計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測された計測結果に基づいて前記計測手段の位置座標を計算するステップと、
トンネル内の前記施工対象を前記計測手段により三次元計測するステップと、
トンネル内の前記施工対象を三次元計測した計測結果と、計算された前記計測手段の位置座標とに基づいてトンネル内の前記施工対象の複数の箇所の位置座標を計算するステップと、
前記複数の箇所の位置座標を、設計データと比較して前記施工が必要な箇所を判定するステップとを含む、判定方法。
【請求項11】
掘削工事の施工管理を行うシステムであって、
施工対象を三次元計測する計測手段と、
予め計測された位置座標を有する3以上の球状ターゲットと、
施工対象の1以上の箇所の位置座標を計算する演算手段とを含み、
前記計測手段は、該計測手段に対して前記施工対象とは異なる、前記3以上の球状ターゲットが配置される側を、計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測し、
前記演算手段は、前記計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測された計測結果に基づいて前記計測手段の位置座標を計算し、計算した前記計測手段の位置座標と前記計測手段が前記施工対象を三次元計測した計測結果とに基づいて前記施工対象の1以上の箇所の位置座標を計算する、施工管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの施工を管理するトンネル施工管理システムおよびトンネル内の施工が必要な箇所を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM(New Austrian Tunneling Method)工法によるトンネルの掘削工事では、トンネル切羽に装薬した爆薬により発破を行い、発破により発生したズリを搬出した後、アタリ取りと呼ばれる、その後の覆工に支障を生じる出っ張り(アタリ)を取り除く作業が行われる。
【0003】
従来、アタリ取りでは、作業員がトンネル切羽直下に立ち入り、設計断面に対して堀り足りていない箇所を目視にて確認し、レーザーポインタ等で指示し、指示された箇所をブレーカー掘削している。これでは、地山の崩落等により作業員に危険を生じ、作業に時間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、作業員による目視判定を不要にし、工期を短縮するべく、三次元スキャナを用いて掘削壁面の計測を行い、基準断面と比較し、比較結果に基づきアタリ取りを行う技術が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-217017号公報
【文献】特開2010-217018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および2に記載された技術では、トンネル内を細かく計測して三次元スキャナの絶対座標を取得するため、その絶対座標の取得までに時間がかかり、その結果、掘削が必要な箇所の判定に時間がかかるという問題があった。また、三次元スキャナを三脚上に設置すると、その位置がアタリ取り作業の支障になる場合、三次元スキャナと三脚を移動して、再度その絶対位置を取得する作業が必要となるため、さらに多くの労力と時間を要するという問題もあった。
【0007】
そこで、トンネル内の掘削等の施工が必要な箇所の判定を短時間で実施することが可能でアタリ取り作業の支障にならないシステムや方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、トンネルの施工を管理するトンネル施工管理システムであって、
トンネル内を三次元計測する計測手段と、
トンネル内に配置され、予め計測された位置座標を有する3以上の球状ターゲットと、
トンネル内の1以上の箇所の位置座標を計算する演算手段とを含み、
計測手段は、3以上の球状ターゲットを含むトンネル内を、計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測し、
演算手段は、計測点間隔および計測範囲を変えて三次元計測された計測結果に基づき、計測手段の位置座標を計算し、計算した計測手段の位置座標と計測手段の計測結果とに基づき、トンネル内の複数の箇所の位置座標を計算する、トンネル施工管理システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工が必要な箇所の判定を短時間で実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トンネル施工管理システムの構成例を示した図。
図2】球状ターゲットの構成例を示した図。
図3】トンネル施工管理システムにより実施される掘削作業の全体の流れを示したフローチャート。
図4】パターンマッチングにより計測手段の位置を特定する作業を説明する図。
図5】球状ターゲットを使用して計測手段の位置を確定する作業の流れを示したフローチャート。
図6】球状ターゲットを使用して計測手段の位置を確定する作業について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、トンネル施工管理システムの構成例を示した図である。トンネル施工管理システムは、トンネルの施工管理、例えばトンネルの形状の把握、情報の収集、工事の安全・安心、重機等の工事車両の姿勢制御のために使用される。トンネルの形状の把握には、切羽側の一次覆工前の掘削壁面におけるアタリ取りのモニタリング等があり、情報の収集には、掘削土量や吹付量等の施工量の情報、ロックボルトや鋼製支保工等の位置の情報等の収集があり、安全・安心には、切羽面や側壁の変位の計測等がある。ここでは、トンネル施工管理システムは、アタリ取りが必要な箇所を判定し、アタリ取りを実施することができるシステムとして説明する。
【0012】
NATM工法によるトンネルは、爆薬による発破や自由断面掘削機等の掘削機を使用し、地山や地中を掘削することにより形成される。トンネル出入口は、トンネル坑口と呼ばれ、掘削方向における掘削面は、切羽10と呼ばれる。一次覆工は、掘削したままの状態では崩落の危険性があるため、アーチ状の鋼製の支保工11を一定間隔で設置し、コンクリートを吹き付け、トンネル壁面を補強する作業である。一次覆工後は、ロックボルト12を打ち込み、防水シートでコンクリート壁面を覆い、二次覆工として、さらに内側にコンクリートの打設が行われる。なお、図1中、「S.L」は、Spring Lineで、トンネル内空断面で、上半アーチの始まる線である。
【0013】
トンネルは、一定距離掘削するたびに一次覆工が行われる。トンネル施工管理システムは、一定距離掘削した後にアタリ取りが必要な箇所を判定し、アタリ取りを実施する。このアタリ取りが完了した後、一次覆工が行われる。すなわち、発破や掘削機による掘削、アタリ取り、一次覆工の繰り返しにより、トンネルが形成される。
【0014】
トンネル施工管理システムは、アタリ取りが必要な箇所を判定し、アタリ取りを実施するため、掘削が必要な箇所を掘削する掘削手段を備える車両を含む。掘削手段を備える車両としては、アタリを削り、取り除く作業(はつり)に用いる鏨(チゼル)を連続的に打撃するブレーカー20を採用することができる。
【0015】
トンネル施工管理システムは、アタリ取りが必要か否かを判定するために、トンネル内を三次元計測する計測手段として、例えば三次元(3D)スキャナ21を備える。3Dスキャナ21は、レーザー光を照射してからレーザー光が返ってくる時間を計測し、距離に換算する。3Dスキャナ21は、レーザー光の照射角度も計測し、換算した距離および計測した照射角度に基づき、3Dスキャナ21に対する計測対象の相対位置の座標を算出する。相対位置の座標は、3Dスキャナ21の座標を(0,0,0)とした場合の計測対象の座標である。3Dスキャナ21は、ブレーカー20の運転席の屋根(ルーフ)上に免震架台を介して搭載される。免震架台は、免震装置を備える架台であり、免震装置としては、積層ゴム、転がり支承、すべり支承を含むものや、これらとダンパーとから構成されるものを用いることができる。
【0016】
3Dスキャナ21は、3つの計測モードを有する。3つの計測モードは、広範囲を低密度で計測する第1モードと、第1モードより狭い特定の範囲を、第1モードより高い密度(中密度)で計測する第2モードと、第2モードよりさらに狭い範囲を、第2モードより高い密度(高密度)で計測する第3モードである。各モードの詳細や各モードの使用方法については後述する。
【0017】
トンネル施工管理システムは、三次元計測した計測結果に基づき、トンネル内の切羽10上の1以上の箇所の位置座標を計算する演算手段を含む。演算手段は、位置座標の計算に加えて、設計データと比較して施工、例えば掘削が必要な箇所や施工量を判定する。演算手段は、上記の位置座標の計算、設計データとの比較に基づく判定を実施することができる装置であればいかなる装置であってもよく、例えばPC22やタブレット端末等を挙げることができる。PC22は、3Dスキャナ21とケーブルや無線LAN等により通信可能に接続され、ブレーカー20内の運転席に配置される。ここでは、演算手段を運転席から持ち運び自在なPC22として説明するが、演算手段は、運転席に備え付けられたモニタ付きコンピュータ等であってもよい。施工量は、上述した掘削土量や吹付量等である。
【0018】
トンネル施工管理システムは、3Dスキャナ21の位置座標を計算するために、トンネル内に予め計測された位置座標を有する3以上の球状ターゲットを備え、3以上の球状ターゲットは、例えばブレーカー20よりトンネル坑口側に配置される。球状ターゲットは、例えば図2に示すような基準球23であり、球状面24と、内部に再帰反射する反射手段を有する切り欠き部25とを備える。図2(a)は、基準球23を一方の側から見た図で、図2(b)は、その裏側から見た図である。
【0019】
球状面24は、反射機能を高めるためにガラスの粉等を含む特殊な塗料が塗布されている。切り欠き部25は、基準球23の一部に円形に、表面に向けてその径が拡張するようにくり抜かれた部分で、基準球23の中心であって、切り欠き部25の内部に、再帰反射する反射手段としてプリズム26が配設されている。切り欠き部25の開口からプリズム26までの通路27は、光の反射機能を高めるために白色で、滑らかな表面(曲面)とされている。
【0020】
基準球23の切り欠き部25内のプリズム26は、光波測距儀で基準球23の位置を測量するときのみ使用される。3Dスキャナ21で三次元計測する際は、球状面24が使用されるため、球状面24が3Dスキャナ21に向けられるように配置される。
【0021】
基準球23の内部であって、その中心に設けられるプリズム26の位置座標は、予め光波測距儀により測量され、その座標値が与えられている。位置座標は、絶対座標であり、その座標値は、例えば緯度、経度、標高からなる値である。3Dスキャナ21で計測される計測点までの距離は、球状面24までの距離となるが、基準球23の半径が既知であるため、球状面24までの距離に基準球23の半径を加算することで、基準球23の中心までの距離を求めることができ、その距離に基づいて、その中心の位置座標を求めることができる。
【0022】
再び図1を参照して、3Dスキャナ21は、最初に、3以上の基準球23が存在するトンネル坑口側を三次元計測する。そして、PC22は、トンネル坑口側を三次元計測した計測結果と、3以上の基準球23の位置座標とに基づいて3Dスキャナ21の位置座標を計算する。
【0023】
その後、3Dスキャナ21は、切羽側を三次元計測する。PC22は、切羽側を三次元計測した計測結果と、先に計算した3Dスキャナ21の位置座標とに基づいて切羽10上の複数の箇所の位置座標を計算し、それらを点群データとして取得する。点群データは、PC22が備えるHDD等の記憶装置に記憶される。
【0024】
PC22は、記憶装置にトンネルの設計データも記憶する。設計データには、図1に破線で示す設計上の掘削壁面(設計断面)13における各点の位置座標が含まれる。このため、PC22は、取得した点群データを設計データと比較し、トンネルの内側方向に閾値以上に突出する箇所を特定し、その特定した箇所を掘削が必要な箇所と判定する。閾値は、任意に設定することができる。
【0025】
PC22は、表示手段としてのモニタを有し、そのモニタに判定した結果を表示する。具体的には、PC22は、掘削が必要な箇所として判定した部分を、掘削が不要な他の部分とは区別可能に表示し、作業員に対してアタリ取りを実施する箇所を提示する。区別可能に表示する方法としては、その部分に色付けする方法や色を変更する方法等を挙げることができる。これは一例であるため、この方法に限定されるものではない。
【0026】
次に、図3を参照して、トンネル施工管理システムにより実施される掘削作業について詳細に説明する。トンネル内の任意の位置にブレーカー20を停止させる(S300)。このとき、ブレーカー20のエンジンは停止しなくてもよい。エンジンによる振動は、免震架台により吸収することができるからである。ブレーカー20上に搭載された3Dスキャナ21により基準球23をスキャンし、PC22により3Dスキャナ21の位置座標を計算した後、切羽側をスキャンし、切羽10上の複数の箇所を計測し、点群データを取得する(S301)。ここでは、S301の作業を地山計測と呼ぶ。
【0027】
点群データを取得した後、設計データと比較する(S302)。すなわち、三次元計測した切羽10の地山断面と設計断面とを比較する。これにより、アタリ取りの必要がある箇所を判定する。判定した結果を、PC22のモニタに比較結果として表示する(S303)。アタリ取りの必要がある箇所を色付けする等して他の箇所と区別可能に表示することで比較結果を表示する。
【0028】
色付けする等して区別可能に表示された部分の有無により、掘削不足の箇所の有無を確認することができ(S304)、掘削不足の箇所がある場合、モニタ上で確認しながら、区別可能に表示された部分を掘削し、アタリ取りを実施する(S305)。この間、数回程度アタリ取りの動作を停止し、3Dスキャナ21での三次元計測、設計断面との比較を行い、比較結果の表示を更新する。一方、掘削不足の箇所がない場合、掘削を完了し、一次覆工を行う(S307)。
【0029】
ブレーカー20のアームの長さ等の制約により切羽10の全体についてアタリ取りを実施できない場合、ブレーカー20を移動する(S306)。移動後、S300の作業に戻り、アームを下げて動作を停止し、S301の地山計測を行う。
【0030】
S301の地山計測では、初回の計測のみ、基準球23をスキャンし、3Dスキャナ21の位置座標を計算する。ブレーカー20を移動した後の2回目以降の計測では、切羽側のスキャンにより得られた移動前後の形状パターンのパターンマッチングにより3Dスキャナ21の位置を特定し、その位置の位置座標を計算する。
【0031】
図4を参照して、パターンマッチングについて説明する。パターンマッチングは、移動前後でスキャンし、得られた点群データから形成される切羽10の形状パターンの中の同一の特徴部分を抽出し、その特徴部分に基づき、3Dスキャナ21の位置を特定する。具体的には、移動前の3Dスキャナ21の位置座標に基づき、特徴部分の位置座標を計算し、ブレーカー20の移動後、特徴部分の位置座標は変化しないので、その特徴部分の位置座標に基づき、3Dスキャナ21の位置座標を計算する。特徴部分としては、ブレーカー20より切羽側に、一次覆工により設置された支保工11aやロックボルト12a等とすることができる。
【0032】
トンネルの掘削が継続する間は、一次覆工を行い、一定距離掘削した後、再びS300からS306の作業が行われる。
【0033】
次に、3Dスキャナ21の位置を特定する方法を図5および図6を参照して説明する。図5は、3Dスキャナ21の位置を特定する作業の流れを示したフローチャートで、図6は、その作業を説明する図である。
【0034】
この作業では、3Dスキャナ21のモードを第1モードにし、トンネル内を低密度計測し、トンネル軸方向を特定する(S500)。低密度計測では、図6に示すように、ブレーカー20を切羽方向に向けた状態でトンネル内の広範囲を粗く三次元計測する。粗くとは、計測点間隔を大きくし、単位面積当たりの計測点の数を少なくすることをいう。低密度計測では、例えば3Dスキャナ21からの距離が30mの位置で、計測点間隔が水平方向に約60mm、垂直方向に約420mm間隔となるように、ブレーカー20の後方の水平方向に約90°、鉛直方向に約4°の角度の範囲内で方向を変えて三次元計測する。これにより、トンネル軸方向が特定され、どの方向が切羽側か、トンネル坑口側かを特定することができる。低密度計測では、広範囲であるが、計測する箇所がまばらで、その数が少ないことから、短時間(数秒)で計測が完了する。ちなみに、トンネルの中心方向を計測する際にかかる時間は、1~2秒程度である。トンネル軸方向の特定のみであるため、短時間で完了する第1モードが使用される。
【0035】
トンネル軸方向の特定後、ブレーカー20よりトンネル坑口側に配置された基準球23の位置を特定する(S501)。基準球23の位置を特定する際、3Dスキャナ21のモードを第2モードにし、基準球23の球状面24を含むトンネル坑口側を中密度計測する。中密度計測では、トンネル軸方向が特定されているため、図6に示すように、低密度計測より範囲を絞り、基準球23が存在する方向に限定して低密度計測より密に三次元計測する。密とは、計測点間隔を小さくし、単位面積当たりの計測点の数を多くすることをいう。基準球23の直径を、例えば約150mmとすると、1つの基準球23につき、4点以上計測するために、中密度計測では、例えば3Dスキャナ21からの距離が30mの位置で、計測点間隔が水平方向に約50mm、垂直方向に約50mm間隔となるように、トンネル軸に対して水平方向に±12°、水平面に対して鉛直方向に±2°の角度の範囲内で方向を変えて三次元計測する。これにより基準球23の位置が特定される。ちなみに、3つの基準球23の位置を特定するのにかかる時間は、6~7秒程度である。基準球23を検出し、その位置を特定するためには、ある程度の精度が必要となるため、第2モードが使用される。
【0036】
基準球23の位置を特定した後、3Dスキャナ21に対する基準球23の相対座標を計算する(S502)。相対座標は、基準球23の中心座標である。基準球23の中心座標の計算において、3Dスキャナ21のモードを第3モードにし、基準球23の球状面24の周辺を高密度計測する。高密度計測では、図6に示すように、中密度計測より範囲をさらに絞り、基準球23に限定してより密に三次元計測する。高密度計測では、球状面24の周辺を細かく計測するために、例えば3Dスキャナ21からの距離が30mの位置で、計測点間隔が水平方向に約5mm、垂直方向に約5mm間隔となるように基準球23の球状面24の周辺を水平方向に0.6°、鉛直方向に0.6°の角度の範囲内で方向を変えて三次元計測する。これにより基準球23の球状面24の中心までの距離が特定され、基準球23の半径を加算することで、基準球23の相対座標が計算される。ちなみに、3つの基準球23を計測する際にかかる時間は、3~4秒程度である。座標を計算するためには、高い精度が必要となるため、第3モードが使用される。
【0037】
以上のように、第1モード、第2モード、第3モードに順に変えて、トンネル軸方向の特定から3つの基準球23の計測を行うと、その計測時間は、10~13秒程度となる。ちなみに、第3モードの高密度計測で、第2モードの計測範囲を細かく計測すると、190~200秒程度かかることから、このようにモードを切り替えて計測を行うことにより、基準球23の絶対座標を短時間で取得することができる。これらの例では、3Dスキャナ21と基準球23の位置が同程度の高さにあり、離隔が30mの場合としたが、3Dスキャナ21と基準球23の設置高さや離隔に応じて計測密度や計測範囲は任意に設定できる。
【0038】
各基準球23の中心座標を計算した後、各基準球23につき予め計測された位置座標(絶対座標)と、計算した中心座標とに基づき、3Dスキャナ21の位置座標(絶対座標)を計算する(S503)。
【0039】
このように範囲の絞り込みを行って基準球23の中心座標を短時間で計算し、短時間で3Dスキャナ21の位置座標を求めることができ、また、3Dスキャナ21で計測した切羽10上の複数の箇所の座標を絶対座標として計算し、設計データとそのまま比較できるので、掘削が必要な箇所の判定を短時間で実施することが可能となる。
【0040】
また、切羽直下に作業員が入ることなく、アタリ取りを行うことができるため、地山の崩落等による災害を防止できる。また、アタリ取りが必要な箇所について、作業員の目視による確認から、3Dスキャナ21によるスキャンおよびPC22による判定に代わるため、作業員の技量によらず、定量的に掘削を行うことができる。
【0041】
また、どの程度掘削すればよいか、モニタ上で確認しながら掘削できるので、余堀りを低減し、残土搬出量を削減することができる。適切にアタリ取りを行うことができるため、掘削壁面の凹凸が小さくなり、余吹きを減らし、吹付けコンクリート量を削減することができる。
【0042】
上記の定量的な掘削、余堀りや余吹きの低減により、掘削土量、コンクリート吹付け量、余吹き率、掘削出来形、覆工コンクリート打設予定数等の管理も可能となる。
【0043】
3Dスキャナ21で随時三次元計測し、PC22で設計データと比較し、その比較結果の表示を更新することで、切羽10の変状を監視することができ、切羽面の移動量に応じて警報を発することができる。警報は、警報音として、PC22が備えるスピーカーから発してもよいし、別途運転席に設けられるスピーカーから発してもよい。
【0044】
なお、押出し性を有する地山や長期的な劣化が生じる地山等では、変状対策としてトンネル底面を逆アーチ状に仕上げられた覆工部分としてインバートが設けられるが、掘削出来形や壁面の変状の監視等は、インバートに対しても実施することができる。
【0045】
トンネル内の1以上の箇所の位置座標を計算することができるので、重機から近隣にいる作業員までの距離を算出することができる。これにより、重機が作業員に接近していることを検知することができ、接近を防止するために警報を発することができる。また、重機のアーム等の位置座標も計算することができるので、その姿勢を検出することができ、姿勢制御を行うことも可能である。
【0046】
これまで本発明のトンネル施工管理システムにより実施される掘削作業および判定方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0047】
10…切羽
11、11a…支保工
12、12a…ロックボルト
20…ブレーカー
21…3Dスキャナ
22…PC
23…基準球
24…球状面
25…切り欠き部
26…プリズム
27…通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6