(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】波動歯車装置の波動発生器
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220620BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20220620BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220620BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2020557396
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043253
(87)【国際公開番号】W WO2020105187
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】折井 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 修平
(72)【発明者】
【氏名】城越 教夫
(72)【発明者】
【氏名】山崎 宏
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190600(JP,A)
【文献】特開2008-223942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 33/66
F16C 19/06
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車装置の波動発生器であって、
楕円状外周面を備えた剛性の波動発生器プラグ、および、前記楕円状外周面に装着固定されて楕円形に撓められている波動発生器ベアリングを有しており、
前記波動発生器ベアリングは、半径方向に撓み可能な外輪および内輪、および、前記外輪および前記内輪の間に転動可能な状態で挿入されている複数個の転動体を備え、
前記内輪の内輪軌道面には、第1潤滑溝および第2潤滑溝から構成される内輪潤滑溝パターンが形成され、
前記外輪の外輪軌道面には、第3潤滑溝から構成される外輪潤滑溝パターンが形成されており、
前記第1、第2および第3潤滑溝は、直線状、曲線状あるいは波状に延びる線状の溝であり、数十ナノメートルから数マイクロメートルの幅および深さであり、
前記内輪潤滑溝パターンには、前記第1潤滑溝が数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列された第1溝パターンと、前記第2潤滑溝が数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列された第2溝パターンとが含まれており、
前記外輪潤滑溝パターンは、前記第3潤滑溝が、数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列されたパターンであり、
前記内輪軌道面において、前記楕円形の短軸位置を含む短軸側内輪軌道面部分には、前記内輪潤滑溝パターンの前記第1溝パターンが形成されており、
前記短軸側内輪軌道面部分以外の部分である前記楕円形の長軸位置を含む長軸側内輪軌道面部分には、前記内輪潤滑溝パターンの前記第2溝パターンが形成されており、
前記短軸側内輪軌道面部分は、前記内輪軌道面において、前記楕円形の短軸位置を中心として、時計回りおよび反時計回りに、それぞれ、40°から75°の角度範囲の部分であり、
前記内輪潤滑溝パターンの前記第1溝パターンは、前記内輪軌道面の円周方向に延びる前記第1潤滑溝によって構成されており、
前記内輪潤滑溝パターンの前記第2溝パターンは、前記内輪軌道面の幅方向に延びる前記第2潤滑溝によって構成されており、
前記外輪潤滑溝パターンは、前記外輪軌道面の幅方向に延びる前記第3潤滑溝によって構成されており、
前記短軸側内輪軌道面部分においては、その幅方向および円周方向の全体に、前記第1溝パターンが形成されている波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1溝パターンの前記第1潤滑溝は、前記短軸位置から前記長軸位置に向かうに連れて、溝幅および溝深さのうちの一方あるいは双方が、漸増しており、
前記第2溝パターンの前記第2潤滑溝は、前記長軸位置から前記短軸位置に向かうに連れて、溝幅および溝深さのうちの一方あるいは双方が漸減しており、
前記外輪潤滑溝パターンの前記第3潤滑溝は、前記短軸位置から前記長軸位置に向かうに連れて、溝幅および溝深さのうちの一方あるいは双方が、漸増している
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記長軸側内輪軌道面部分においては、その幅方向および円周方向の全体に、前記第2溝パターンが形成されているか、または、前記幅方向あるいは前記円周方向に沿って、前記第2溝パターンが形成されている溝加工領域と前記第2溝パターンが形成さ
れていない溝未加工領域とが交互に形成されている
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項4】
請求項3において、
前記外輪軌道面において、その幅方向あるいは円周方向の全体に前記外輪潤滑溝パターンが形成されているか、
または、前記幅方向あるいは前記円周方向に沿って、前記外輪潤滑溝パターンが形成されている溝加工領域と前記外輪潤滑溝パターンが形成されていない溝未加工領域とが交互に形成されている
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項5】
剛性の内歯歯車と、
可撓性の外歯歯車と、
請求項1または2に記載の波動発生器と
を有している波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の波動発生器に関し、更に詳しくは、波動発生器プラグによって楕円状に撓められている波動発生器ベアリングにおける内輪軌道面および外輪軌道面の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置は、剛性の内歯歯車、可撓性の外歯歯車および波動発生器を備えている。波動発生器によって外歯歯車を半径方向に撓めて、外歯歯車を内歯歯車に部分的に噛み合わせる。波動発生器を回転させることにより、両歯車の噛み合い位置を円周方向に移動させて、両歯車の間に、それらの歯数差に起因する相対回転を発生させる。波動発生器として、剛性の波動発生器プラグと波動発生器ベアリングを備え、波動発生器ベアリングは、波動発生器プラグの楕円状外周面に装着されたものが知られている。
【0003】
波動発生器ベアリングは、半径方向に撓み可能な外輪および内輪と、これらの間に転動可能な状態で装着されている複数個のボールなどの転動体とを備えている。波動発生器ベアリングは、波動発生器プラグによって楕円形に撓められている。波動発生器ベアリングは、外歯歯車の内側にはめ込まれ、外歯歯車と波動発生器プラグを、相対回転可能な状態に保持している。
【0004】
波動歯車装置を減速機として用いる場合には、例えば、波動発生器プラグが回転入力要素とされ、内歯歯車あるいは外歯歯車が減速回転出力要素とされる。波動発生器ベアリングおよび外歯歯車は、繰り返し半径方向に変位しながら回転する。波動発生器ベアリングの内輪が波動発生器プラグと共に高速回転し、その外輪が外歯歯車と一体となって回転する。内外輪の間に挿入されているボールが、外輪および内輪の軌道面に沿って転動することにより、波動発生器プラグおよび外歯歯車が小さなトルクでスムーズに相対回転可能である。
【0005】
高負荷での運転、低速回転での運転、波動発生器ベアリングの潤滑に低粘度油を用いた場合の運転などのように、特定の条件下での運転時には、内外輪の軌道面とボールとの間の接触状態が混合潤滑となり、摩擦力が増えることがある。また、これらの間の潤滑状態に応じて、摩擦力が不安定となり、回転ムラなどが発生する。このような弊害を解消するためには、内外輪の軌道面とボールとの間を適切な潤滑状態に維持する必要がある。
【0006】
特許文献1には、波動歯車装置の波動発生器において、起振体(波動発生器プラグ)の外周面に装着される起振体ベアリング(波動発生器ベアリング)の内輪に、潤滑剤を保持する潤滑溜まりを設け、起振体軸受が潤滑剤不足になることを抑制している。特許文献2においては、転動体と軌道面との間の油膜形成能力を向上させるために、軌道面に、微細な凹条部を形成している。また、特許文献3においては、軌道面において、転動体の滑りによる動圧が発生しやすい接触通過領域の両側あるいは片側に、油溜まり機能を有する凹条部を形成して、十分な油膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-190600号公報
【文献】特開2005-321048号公報
【文献】特開2009-108901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
波動歯車装置の波動発生器において、波動発生器ベアリングは波動発生器プラグによって楕円形に撓められている。楕円形の長軸両端に位置している転動体は、内外輪の間にタイト状態で挟まれ、内外輪の軌道面と点接触し転動する状態になっている。長軸両端以外の部分に位置している残りの転動体は、内外輪の間において隙間があり転動自在のルーズ状態に保持される。このように、楕円形に撓められた状態の波動発生器ベアリングにおいては、円周方向に沿って、軌道面と転動体との間の接触状態が変化する。内外輪の間においてルーズ状態で転動体が保持されている接触部分において良好な潤滑状態を形成できても、転動体がタイト状態にある接触部分では、潤滑不足が生じやすい。接触状態に応じて、円周方向の各部分を適切な潤滑状態にできることが望ましい。
【0009】
本発明の課題は、この点に鑑みて、波動発生器ベアリングの内外輪の軌道面と転動体との間の接触状態を改善して、これらの間の摩擦係数を低減可能な潤滑構造を備えた波動歯車装置の波動発生器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による、波動歯車装置の波動発生器は、波動発生器プラグと波動発生器ベアリングとを備えている。波動発生器プラグは楕円状外周面を備えており、波動発生器ベアリングは楕円状外周面に装着固定されて楕円形に撓められている。波動発生器ベアリングは、半径方向に撓み可能な外輪および内輪と、外輪および内輪の間に、転動可能な状態で挿入されている複数個の転動体とを備えている。内輪の内輪軌道面には、第1潤滑溝および第2潤滑溝から構成される内輪潤滑溝パターンが形成されている。外輪の外輪軌道面には、第3潤滑溝から構成される外輪潤滑溝パターンが形成されている。第1、第2および第3潤滑溝は、数十ナノメートルから数マイクロメートルの幅および深さの線状の溝であり、直線状、曲線状あるいは波状に延びている。内輪潤滑溝パターンには、第1潤滑溝が数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列された第1溝パターンと、第2潤滑溝が数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列された第2溝パターンとが含まれている。外輪潤滑溝パターンは、第3潤滑溝が、数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列されたパターンである。内輪軌道面において、楕円形の短軸位置を含む短軸側内輪軌道面部分には、内輪潤滑溝パターンの第1溝パターンが形成されており、楕円形の長軸位置を含む長軸側内輪軌道面部分には、内輪潤滑溝パターンの第2溝パターンが形成されている。第1溝パターンでは、第1潤滑溝の配向方向が、内輪軌道面の円周方向に向かう方向成分を含むように、第1潤滑溝が延びている。
【0011】
本発明では、波動発生器ベアリングの内輪軌道面および外輪軌道面には、それぞれ、微細な潤滑溝が微細なピッチで配列された内輪潤滑溝パターンおよび外輪潤滑溝パターンを形成してある。数マイクロメートル以下の幅および深さの微細な潤滑溝を形成することにより、内外輪と転動体の間の馴染みを促進させることができる。また、数マイクロメートル以下の微細な潤滑溝は潤滑剤との濡れ性が良く、効率良く潤滑剤が保持され(担持効果)、高剛性な油膜が形成され、その油膜厚さも増加する(動圧効果)。
【0012】
また、内輪軌道面において、転動体がルーズ状態で接触する短軸側内輪軌道面部分には、その円周方向に向かう方向成分を含むように配向された潤滑溝から構成される第1溝パターンが形成されている。例えば、円周方向に延びる潤滑溝から構成される第1溝パターンが形成される。第1溝パターンに接した潤滑剤は、潤滑溝に沿って円周方向に案内される。短軸側内輪軌道面部分に対して円周方向の両側には、転動体がタイト状態で接触する長軸側内輪軌道面部分が隣接している。第1溝パターンが形成されている部分から、長軸側内輪軌道面部分に形成されている第2溝パターンに向けて積極的に潤滑剤が供給され、第2溝パターンの潤滑溝に保持される。これにより、転動体がタイト状態で内外輪軌道面に接している接触部分に十分な潤滑剤が供給され、そこに保持される。この結果、長軸側内輪軌道面部分において良好な潤滑状態が形成される。
【0013】
よって、楕円形に撓められた状態で回転する波動発生器ベアリングにおける円周方向の各部分の接触状態を良好な状態に維持でき、油膜切れによる焼き付きを防止できる。また、油膜保持能力の向上により、潤滑剤塗布量を削減でき、潤滑剤漏れのリスクが少なくなるという付随効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明を適用した波動歯車装置の一例を示す概略縦断面図、(b)はその概略端面図である。
【
図2】(a)は波動発生器ベアリングを示す概略端面図、(b)はその内輪軌道面に形成した溝パターンを示す説明図、(c)はその外輪軌道面に形成した溝パターンを示す説明図である。
【
図3】(a)~(g)は、溝形成面における微細溝の溝パターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の波動発生器の実施の形態を説明する。以下の説明は、本発明をカップ型波動歯車装置の波動発生器に適用した例である。本発明は、シルクハット型波動歯車装置、フラット型波動歯車装置の波動発生器に対しても同様に適用可能である。
【0016】
図1(a)はカップ型波動歯車装置(以下、単に、「波動歯車装置」と呼ぶ。)の全体構成を示す概略縦断面図であり、
図1(b)はその概略端面図である。波動歯車装置1は、環状の剛性の内歯歯車2と、この内側に同軸に配置されたカップ形状の可撓性の外歯歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円状輪郭の波動発生器4から構成されている。
【0017】
外歯歯車3は、胴部31、ダイヤフラム32およびボス33を備え、全体としてカップ形状をしている。胴部31は円筒形状をしており、半径方向に撓み可能である。胴部31の一方の端は開口端34となっており、開口端34の側における胴部外周面部分に、外歯35が形成されている。胴部31の他方の端に連続して、ダイヤフラム32が半径方向の内側に延びている。ダイヤフラム32の内周縁に連続して、円環状のボス33が形成されている。ボス33は、外歯歯車3を他の部材(図示せず)に取り付けるための剛体部分である。内歯歯車2は、外歯歯車3の外歯35を取り囲む状態に配置されている。内歯歯車2の内周面に形成されている内歯21に、外歯35はかみ合い可能である。
【0018】
波動発生器4は、中空ハブ41と、その外周に、オルダム継手42を介して、装着した剛性の波動発生器プラグ43と、波動発生器プラグ43の楕円形のプラグ外周面44(非円形外周面)に嵌めた波動発生器ベアリング45から構成されている。波動発生器4によって、外歯歯車3の胴部31における外歯35が形成されている部分は、初期形状の真円から楕円形に撓められている。外歯35は、楕円形の長軸Lmaxの両端の位置で、内歯歯車2の内歯21にかみ合っている。
【0019】
波動発生器ベアリング45は、半径方向に撓み可能な円形の内輪46および外輪47と、これらの間に転動可能な状態で装着されている複数個のボール48とを備えている。波動発生器ベアリング45は、波動発生器プラグ43によって楕円形に撓められた状態で外歯歯車3の内側に嵌め込まれ、外歯歯車3と波動発生器プラグ43を相対回転可能な状態で保持している。波動発生器プラグ43は高速回転入力軸(図示せず)に連結される。楕円形に撓められた内輪46および外輪47の間に挿入されているボール48が、内輪軌道面46aおよび外輪軌道面47aに沿って転がり運動を行い、波動発生器プラグ43および外歯歯車3が小さなトルクでスムーズに相対回転可能である。波動発生器プラグ43の楕円状輪郭のプラグ外周面44に、波動発生器ベアリング45の内輪46の内周面46bが、圧入および接着剤により固定されている。
【0020】
波動発生器プラグ43によって楕円形に撓められている波動発生器ベアリング45において、その楕円形の長軸Lmaxの両端に位置する複数個のボール48は内外輪46、47の間にタイト状態に挟まれ、内輪軌道面46a、外輪軌道面47aと点接触し転がり運動する状態になっている。長軸Lmaxの両端以外の部分に位置している残りのボール48は内輪軌道面46a、外輪軌道面47aの間において、隙間があり、転がり運動が自在なルーズ状態に保持されている。波動歯車装置1の運転条件に応じて変動するが、ルーズ状態のボール48が位置する部分は、凡そ、次の通りである。角度の正負を、短軸Lminに対して、反時計回りを正方向、時計回りを負方向とする。最大で、短軸Lminを中心として、約-75°から約+75°までの角度範囲の部分である。最小で、短軸Lminを中心として、約-40°から約+40°までの角度範囲の部分である。減速比が大きい程、角度範囲も広くなる。例えば、減速比が30の場合の角度範囲に比べて、減速比が160の場合の方が、角度範囲が広い。
【0021】
波動発生器4が中心軸線1aを中心として回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が円周方向に回転する。この回転によって、外歯35と内歯21の歯数差に応じて、外歯歯車3と内歯歯車2の間には相対回転が発生する。例えば、内歯歯車2を固定し、波動発生器4を高速回転入力要素とすれば、外歯歯車3は減速回転出力要素となり、両歯車2、3の歯数差に応じて減速された回転出力が取り出される。
【0022】
図2(a)は波動発生器4の波動発生器プラグ43および波動発生器ベアリング45を示す端面図であり、
図2(b)はその内輪46に形成された内輪潤滑溝パターンを示す説明図であり、
図2(c)はその外輪47に形成された外輪潤滑溝パターンを示す説明図である。内輪46の外周面には、円弧状に湾曲した断面形状の内輪軌道面46aが形成されている。内輪軌道面46aには内輪潤滑溝パターン5が形成されている。同様に外輪47の内周面には円弧状に湾曲した外輪軌道面47aが形成されている。外輪軌道面47aには、外輪潤滑溝パターン6が形成されている。
【0023】
内輪潤滑溝パターン5は、直線状、曲線状あるいは波状に延びる線状の潤滑溝から構成されている。潤滑溝は、数十ナノメートルから数マイクロメートルの幅および深さであり、数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列されている。内輪潤滑溝パターン5には、第1溝パターン51および第2溝パターン52が含まれている。第1溝パターン51は第1潤滑溝53から構成されている。第1溝パターン51は、内輪軌道面46aの円周方向において、その楕円形の短軸Lminの位置を含む短軸側内輪軌道面部分46A1、46A2のそれぞれに形成されている。第2溝パターン52は、内輪軌道面46aにおける残りの部分、すなわち、長軸Lmaxの位置を含む長軸側内輪軌道面部分46B1、46B2のそれぞれに形成されている。第2溝パターン52は、第2潤滑溝54から構成されている。
【0024】
図2(a)、
図2(b)に示すように、内輪軌道面46aにおける短軸側内輪軌道面部分46A1、46A2のそれぞれは、内輪軌道面46aの円周方向において、楕円形の短軸Lminの位置を中心として、時計回り、および反時計回りに、それぞれ、40°~75°の角度範囲の部分θ(A1)、θ(A2)である。内輪軌道面46aにおいて、残りの角度範囲の部分θ(B1)、θ(B2)は、第2溝パターン52が形成されている長軸側内輪軌道面部分46B1、46B2である。
【0025】
図2(b)には、第1溝パターン51の一部および第2溝パターン52の一部を、それぞれ拡大して模式的に示してある。第1溝パターン51は、潤滑剤を保持すると共に潤滑剤を内輪軌道面46aの円周方向に案内するための第1潤滑溝53から構成されている。潤滑剤を円周方向に案内できるようにするために、第1潤滑溝53の配向方向が、内輪軌道面46aの円周方向に向かう方向成分を含むように、第1潤滑溝53が延びている。本例では、
図2(b)に模式的に拡大して示すように、第1潤滑溝53は、内輪軌道面46aの円周方向に向けて直線状に延びる溝である。第1潤滑溝53は、円周方向に対して傾斜した方向に配向されていてもよい。また、第1潤滑溝53は直線状の溝に限らず、曲線状あるいは波状に延びる溝とすることができる。また、第1溝パターン51は、短軸側内輪軌道面部分46A1、46A2において、その幅方向および円周方向の全体に亘って形成されている。
【0026】
ここで、第1溝パターン51の第1潤滑溝53の溝幅、溝深さ、溝間隔(ピッチ)を各部分において同一とすることができる。また、第1潤滑溝53の溝幅、溝深さ、溝間隔を、その長さ方向に沿って漸増あるいは漸減させることも可能である。一例として、第1潤滑溝53の溝幅、溝深さのうちの少なくとも一つを、短軸Lminの位置において、最も小さくし、長軸Lmaxに向うに連れて漸増させる。これにより、短軸Lminの側の部分に比べて、タイト状態のボール48が位置する長軸Lmaxの側の部分に、より多くの潤滑剤を供給して保持させることができる。
【0027】
次に、長軸側内輪軌道面部分46B1、46B2の第2溝パターン52は、潤滑剤を保持するための第2潤滑溝54から構成されている。第2潤滑溝54の配向方向は、本例では、
図2(b)において模式的に拡大して示すように、内輪軌道面46aの幅方向(ベアリング中心軸線に沿った方向)とされている。第2溝パターン52として、第2潤滑溝54が円周方向、円周方向に対して傾斜する方向に配向されたパターンであってもよい。
【0028】
また、第2潤滑溝54は、直線状の溝に限らず、曲線状あるいは波状に延びる溝とすることができる。また、異なる方向に配向された第2潤滑溝54が交差する状態に形成された網目状に形成することもできる。第2潤滑溝54の溝幅、溝深さ、溝間隔を、その長さ方向に沿って、漸増あるいは漸減させることも可能である。
【0029】
さらに、第2溝パターン52は、長軸側内輪軌道面部分46B1、46B2において、その幅方向および円周方向の全体に亘って形成することができる。この代わりに、幅方向あるいは円周方向に沿って、第2溝パターン52が形成されている溝加工領域と第2溝パターン52が形成されていない溝未加工領域とを交互に形成してもよい。本例においては、
図2(b)に示すように、幅方向の中央に円周方向に延びる一定幅の溝未加工領域を形成し、その両側に、第2溝パターン52が形成された溝加工領域を形成してある。
【0030】
次に、外輪47に形成されている外輪潤滑溝パターン6を説明する。
図2(c)には、外輪潤滑溝パターン6の一部を拡大して模式的に示してある。外輪潤滑溝パターン6は、直線状、曲線状あるいは波状に延びる線状の第3潤滑溝60から構成されている。第3潤滑溝60は、数十ナノメートルから数マイクロメートルの幅および深さであり、数十ナノメートルから数マイクロメートルのピッチで配列されている。
【0031】
外輪潤滑溝パターン6では、本例では、
図2(c)において模式的に拡大して示すように、第3潤滑溝60が、外輪軌道面47aの幅方向に直線状に延びている。第3潤滑溝60は、円周方向に対して傾斜した方向に配向されていてもよい。また、第3潤滑溝60は直線状の溝に限らず、曲線状あるいは波状に延びる溝とすることができる。また、異なる方向に配向された
第3潤滑溝60が交差する状態に形成された網目状に形成することもできる。
【0032】
外輪潤滑溝パターン6は、外輪軌道面47aにおいて、その幅方向および円周方向の全体に亘って形成することができる。この代わりに、幅方向あるいは円周方向に沿って、外輪潤滑溝パターン6が形成されている溝加工領域と外輪潤滑溝パターンが形成されていない溝未加工領域とを交互に形成してもよい。本例では、
図2(c)に示すように、幅方向の中央に円周方向に延びる一定幅の溝未加工領域を形成し、その両側に、外輪潤滑溝パターン6が形成された溝加工領域を形成してある。
【0033】
ここで、第3潤滑溝60の溝幅、溝深さ、溝間隔(ピッチ)を各部分において同一とすることができる。また、第3潤滑溝60の溝幅、溝深さ、溝間隔を、その長さ方向に沿って漸増あるいは漸減させることも可能である。一例として、第3潤滑溝60の溝幅、溝深さのうちの少なくとも一つを、長軸Lmaxの位置において、最大とし、短軸Lminに向うに連れて漸減させる。これにより、タイト状態のボール48が位置する長軸Lmaxの部分により多くの潤滑剤を保持できる。
【0034】
なお、上記の内輪潤滑溝パターン5、外輪潤滑溝パターン6は、例えば、フェムト秒レーザーなどを用いたレーザー加工により形成できる。機械加工、エッチングなどの加工法によってこれらのパターンを形成することも可能である。また、第1、第2、第3潤滑溝53、54、60のそれぞれは、矩形断面、半円形断面、V溝など、各種の断面形状とすることができる。
【0035】
(溝の配列パターン)
図3は、内輪潤滑溝パターン5、外輪潤滑溝パターン6として採用可能な配列パターン例を模式的に示す説明図である。以下においては、第1、第2潤滑溝53、54が形成される内輪軌道面46a、第3潤滑溝60が形成される外輪軌道面47aを、溝形成面として説明し、第1、第2、第3潤滑溝53、54、60を、微細溝として説明する。なお、
図3は代表的な配列パターンを例示したものであり、本発明において採用可能な配列パターンが
図3に示す各例に限定されるものではない。
【0036】
溝形成面には、微細溝が、所定のピッチで所定の方向に、直線状あるいは曲線状に延びる配列パターンで形成される。例えば、
図3(a)に示すように、微細溝が、一定のピッチで、溝形成面の円周方向(内輪軌道面46aの円周方向、外輪軌道面47aの円周方向)に、直線状に延びる配列パターンを用いることができる。
図3(b)に示すように、溝形成面において、微細溝が、一定のピッチで、円周方向に波状に延びる配列パターンを用いることもできる。
【0037】
図3(c)に示すように、微細溝が、一定のピッチで、溝形成面の円周方向に直交する幅方向(内輪軌道面46aの幅方向、外輪軌道面47aの幅方向)に、直線状に延びる配列パターンを、溝形成面に形成できる。なお、幅方向に延びる微細溝は、円周方向に向かう方向成分が含まれていない溝であるので、短軸側内輪軌道面部分46A1、46A2に形成される第1溝パターン51を構成する第1潤滑溝53には使用されない。
図3(d)に示すように、微細溝が、一定のピッチで、溝形成面の円周方向に直交する幅方向に波状に延びる配列パターンを、溝形成面に形成できる。また、
図3(e)に示すように、微細溝が、一定のピッチで、溝形成面の円周方向および幅方向に対して傾斜する斜め方向に直線状に延びる傾斜配列パターンを、溝形成面に形成できる。
【0038】
また、
図3(f)、(g)に示すように、同一の溝形成面において、微細溝が、一定のピッチで第1の方向に延びる第1方向配列パターンと、一定のピッチで第1方向とは異なる第2の方向に延びる第2方向配列パターン溝とが交差している交差配列パターンを形成できる。
図3(f)に示す交差配列パターンでは、第1方向配列パターンは、円周方向に直線状に延びる微細溝からなり、第2方向配列パターンは、幅方向に直線状に延びる微細溝からなる。
図3(g)に示す交差配列パターンでは、第1方向配列パターンは、円周方向および幅方向に対して45度傾斜した方向に延びる直線状の微細溝から形成される傾斜配列パターンであり、第2方向配列パターンは、円周方向および幅方向に対して逆方向に45度傾斜した方向に延びる直線状の微細溝から形成される傾斜配列パターンである。さらに、溝形成面に、
図3(a)に示す配列パターンと、
図3(b)に示す配列パターンとが重なった状態の交差配列パターンを形成することも可能である。