(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】疎水性シリカ粉末及びその製造方法、並びにトナー樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20220620BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C01B33/18 C
G03G9/097 375
(21)【出願番号】P 2017201315
(22)【出願日】2017-10-17
【審査請求日】2020-09-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】河本 宗範
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健一
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-206762(JP,A)
【文献】特開2015-000830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
G03G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性シリカ粉末であって、
(1)疎水化度が50%以上であり、
(2)下記測定方法により測定される、メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、鉱酸イオン
である化合物の抽出量Xが0.1質量%以上であり
、
前記鉱酸イオンは、硝酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、並びに、これらのアルカリ金属の塩、及びアルカリ土類金属の塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩由来の鉱酸イオンであり、
(3)前記Xと、下記測定方法により測定される、水による前記化合物の抽出量Yとが、下記式(I)
Y/X<0.15 (I)
を満たす、
ことを特徴とする疎水性シリカ粉末。
(抽出量Xの測定方法)
メタノール20質量部に、2Mメタンスルホン酸水溶液10質量部、及び疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行う。次いで、69質量部の水を添加して、0.2μmのフィルターでろ過する。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いて
鉱酸イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100質量%に対する抽出量Xを測定する。
(抽出量Yの測定方法)
水99質量部に疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行う。次いで、0.2μmのフィルターでろ過する。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いて
鉱酸イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100質量%に対する抽出量Yを測定する。
【請求項2】
29Si-固体NMRスペクトルがMのピークを有する、請求項1に記載の疎水性シリカ粉末。
【請求項3】
疎水化度が60%以上である、請求項1又は2に記載の疎水性シリカ粉末。
【請求項4】
シリカ粒子の水分散体に、鉱酸イオン
である化合物を添加して、オルガノシラザンで処理する工程を有し
、
前記鉱酸イオンは、硝酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、並びに、これらのアルカリ金属の塩、及びアルカリ土類金属の塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩由来の鉱酸イオンである、
ことを特徴とする、疎水性シリカ粉末の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子の水分散体中の二次粒子の平均粒子径は、5~200nmである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記オルガノシラザンは、ヘキサメチルジシラザンである、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の疎水性シリカ粉末が樹脂粒子に外添されている、トナー樹脂粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性シリカ粉末及びトナー樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機酸化物微粒子が様々な用途で用いられている。特に、シリカ粒子は化粧品、ゴム、研磨剤等の多様な用途で、強度向上、粉体の流動性向上、帯電特性の付与等を目的として、主成分、又は外添剤等の添加成分として用いられている。
【0003】
シリカをトナー粒子に外添すると、低温低湿下での帯電量を過度に増大させたり、高温高湿下では水分を吸着させるため帯電量を過度に低下させたりすることがある。シリカを外添したトナーの帯電量を制御するため、第4級アンモニウム塩系化合物又は官能基として第4級アンモニウム塩を有する重合体で処理された疎水化度80%以上の疎水シリカ粒子を用いた、電子写真用負帯電性トナーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている疎水シリカ粒子では、予めシランカップリング剤等の疎水化剤により疎水化処理された疎水性シリカ微粒子が用いられており([0010]参照)、上記疎水性シリカ微粒子の表面を、第4級アンモニウム塩系化合物等を用いて表面処理している([0012]参照)。このため、特許文献1に記載されている疎水シリカ粒子は、帯電制御能を有する表面の第4級アンモニウム塩等が脱離し易く、これによりシリカ粒子が凝集して、トナー樹脂粒子に付着させ難いという問題がある。
【0005】
また、トナー樹脂粒子は用途によっては帯電性が高過ぎず、適切な範囲に調整することが要求される。特許文献1では、シリカ粒子が外添されたトナー樹脂粒子の帯電性を適切な範囲に調整することが検討されていない。
【0006】
従って、帯電制御能を有する表面の第4級アンモニウム塩等の帯電制御剤の脱離が抑制されており、且つ、疎水性シリカ粒子が外添されたトナー樹脂粒子に適切な範囲の帯電性を付与することができる疎水性シリカ粉末、及び、当該疎水性シリカ粉末が外添されたトナー樹脂粒子の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、帯電制御能を有する表面の第4級アンモニウム塩等の帯電制御剤の脱離が抑制されており、且つ、当該疎水性シリカ粒子が外添されたトナー樹脂粒子に適切な範囲の帯電性を付与することができる疎水性シリカ粉末、及び、当該疎水性シリカ粉末が外添されたトナー樹脂粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)疎水化度が50%以上であり、(2)メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Xが0.1質量%以上であり、(3)前記Xと、水による上記化合物の抽出量Yとが、下記式(I)
Y/X<0.15 (I)
を満たす疎水性シリカ粉末によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の疎水性シリカ粉末、及びトナー樹脂粒子に関する。
1.疎水性シリカ粉末であって、
(1)疎水化度が50%以上であり、
(2)メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Xが0.1質量%以上であり、
(3)前記Xと、水による前記化合物の抽出量Yとが、下記式(I)
Y/X<0.15 (I)
を満たす、
ことを特徴とする疎水性シリカ粉末。
2.29Si-固体NMRスペクトルがMのピークを有する、項1に記載の疎水性シリカ粉末。
3.疎水化度が60%以上である、項1又は2に記載の疎水性シリカ粉末。
4.シリカ粒子の水分散体に、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を添加して、オルガノシラザンで処理する工程を有することを特徴とする、疎水性シリカ粉末の製造方法。
5.前記シリカ粒子の水分散体中の二次粒子の平均粒子径は、5~200nmである、項4に記載の製造方法。
6.前記オルガノシラザンは、ヘキサメチルジシラザンである、項4又は5に記載の製造方法。
7.項1~3のいずれかに記載の疎水性シリカ粉末が樹脂粒子に外添されている、トナー樹脂粒子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の疎水性シリカ粉末は、帯電制御能を有する表面の第4級アンモニウム塩等の帯電制御剤の脱離が抑制されており、且つ、当該疎水性シリカ粒子が外添されたトナー樹脂粒子に適切な範囲の帯電性を付与することができる。また、本発明のトナー樹脂粒子は、当該疎水性シリカ粉末が樹脂粒子に外添されているので、疎水性の低下が抑制されており、且つ、帯電性が高過ぎず、用途に応じた帯電性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の疎水性シリカ粉末、及びトナー樹脂粒子について詳細に説明する。
【0013】
1.疎水性シリカ粉末
本発明の疎水性シリカ粉末は、(1)疎水化度が50%以上であり、(2)メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Xが0.1質量%以上であり、(3)上記Xと、水による上記化合物の抽出量Yとが、下記式(I)
Y/X<0.15 (I)
を満たす疎水性シリカ粉末である。
【0014】
上記特徴を有する本発明の疎水性シリカ粉末は、メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Xが0.1質量%以上であり、疎水基を十分に有しており、50%以上の高い疎水化度を示すことができる。
【0015】
また、本発明の疎水性シリカ粉末は、上記抽出量Xと、水による上記化合物の抽出量Yとが上記式(I)を満たすので、水により容易に脱離してしまう疎水性シリカ粒子の表面の、帯電制御能を有する第4級アンモニウム塩等の帯電制御剤の脱離が抑制されている。以下、帯電制御剤とは、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を意味している。
【0016】
更に、本発明の疎水性シリカ粉末は、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物として抽出される特定の基により疎水化されているので、帯電量が高過ぎず適切な範囲に調整されており、当該疎水性シリカ粒子が外添されたトナー樹脂粒子に適切な範囲の帯電性を付与することができる。
【0017】
疎水性シリカ粉末は、疎水化度が50%以上である、疎水化度が50%未満であると、樹脂粒子に十分な帯電性能を付与できない。上記疎水化度は、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。また、上記疎水化度は高い程よく、上限値は特に限定されないが、100%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、95%以下が更に好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、上記疎水化度は、以下の方法により測定される。すなわち、200mLのビーカーに純水50mLを入れ、疎水性シリカ粉末0.2gを添加し、マグネットスターラーで撹拌して、疎水性シリカ粉末の分散液を調製する。メタノールを入れたビュレットの先端を分散液中に入れ、撹拌下でメタノールを滴下して、疎水性シリカ粉末が完全に水中に分散するまでに要したメタノールの添加量を測定してAmLとし、以下の式に基づいて疎水化度を算出する。
[疎水化度(%)]=[A/(50+A)]×100
【0019】
疎水性シリカ粉末は、メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Xが0.1質量%以上である。抽出量Xが0.1質量%未満であると、疎水性シリカ粉末への添加量が少なく、帯電抑制効果が不十分となる。抽出量Xは、0.15質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。また、抽出量Xの上限は特に限定されず、5質量%程度が好ましい。
【0020】
抽出量Xの測定方法の一例を以下に示す。すなわち、メタノール20質量部に、2Mメタンスルホン酸水溶液10質量部、及び疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行う。次いで、69質量部の水を添加して、0.2μmのフィルターでろ過する。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてテトラメチルアンモニウム(TMA)イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100質量%に対する抽出量Xを測定する。
【0021】
疎水性シリカ粉末は、水による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物の抽出量Yが0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。抽出量Yが上記範囲であることにより、帯電制御剤がシリカ表面に強く結合し、脱離を抑制することができる。上記抽出量Yの下限は特に限定されず、0.005質量%程度が好ましい。
【0022】
抽出量Yの測定方法の一例を以下に示す。すなわち、水99質量部に疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行う。次いで、0.2μmのフィルターでろ過する。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてテトラメチルアンモニウム(TMA)イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100質量%に対する抽出量Yを測定する。
【0023】
疎水性シリカ粉末は、上記抽出量Xと、水による、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物(帯電制御剤)の抽出量Yとが、下記式(I)
Y/X<0.15 (I)
を満たす。Y/Xが0.15以上であると、疎水性シリカ粒子の表面の帯電制御能をもつ表面の第4級アンモニウム塩等が脱離しやすく、安定性が低くなる。Y/Xは、0.15以下が好ましく、0.10以下がより好ましい。また、Y/Xの下限は特に限定されず、0.001程度が好ましい。
【0024】
疎水性シリカ粉末の二次粒子の体積平均粒子径D50vは、5~200nmが好ましく、7~180nmがより好ましく、10~160nmが更に好ましい。二次粒子の体積平均粒子径D50vが上記範囲であると、トナー樹脂粒子に外添した際に、より一層適切な帯電性能を付与することができる。
【0025】
二次粒子の体積平均粒子径D50vは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM 日本電子株式会社製:JSM-6700)により、20万倍の条件で疎水性シリカ粉末中の二次粒子100個以上を観察し、二次粒子の画像解析によって得られた円相当径の累積頻度における50%径(D50v)として求めることができる。
【0026】
疎水性シリカ粉末は、29Si-固体NMRスペクトルにおいて、M構造に由来するピークを有することも好ましい。より具体的には、疎水性シリカ粉末の表面が、上記M構造を有するトリメチルシリル基で修飾されていることが好ましい。かかる構成を有することにより、疎水性シリカ粉末が優れた疎水性を有することとなる。その結果、トナー粒子への均一な外添が可能になる。
【0027】
また、29Si-固体NMRスペクトルにおいて、M構造に由来するピークは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークとして表わすことができる。M構造に由来するピーク強度は、Q2構造、Q3構造、及びQ4構造のピーク強度の合計に対して、1%以上のピーク強度をもつことが好ましい。
【0028】
なお、本明細書において、上記29Si-固体NMRスペクトルは、4mm HXMASプローブを備えたJNM―ECX400(日本電子株式会社製)を用い、固体NMR試料管 4mm、サンプル量 70μL、測定核種 29Si(79.4MHz)、回転速度 8kHz、温度 21℃、測定モード CPMAX、繰り返し時間 3.10sec、積算回数 2000回、外部標準 シリコンゴム(-22.333ppm)の条件で測定される。
【0029】
本発明の疎水性シリカ粉末は、1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。より好ましくは、ナトリウム、アルカリ土類金属及び重金属類の含有量がそれぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。なお、本発明において、重金属類は、密度が4g/cm3以上の金属元素を示す。アルカリ土類金属及び重金属類の含有量は、金属元素ごとの含有量を意味する。
【0030】
本発明の疎水性シリカ粉末の飽和水分量は、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。飽和水分量の上限が上記範囲であることにより、疎水性シリカ粉末が、樹脂粒子により一層適切な帯電性能を付与することができる。また、飽和水分量の下限値は特に限定されず、0.01%程度である。
【0031】
2.疎水性シリカ粉末の製造方法
本発明の疎水性シリカ粉末の製造方法は、シリカ粒子の水分散体に、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を添加して、オルガノシラザンで処理する工程を有する。
【0032】
シリカ粒子の水分散体中の二次粒子の平均粒子径は、5~200nmが好ましく、7~180nmがより好ましく、10~160nmが更に好ましい。二次粒子の平均粒子径が上記範囲であると、トナー樹脂粒子に外添した際に、より一層適切な帯電性能を付与することができる。なお、上記シリカ粒子の水分散体中の二次粒子の平均粒子径は、動的光散乱で測定される二次粒子の平均粒子径を示している。
【0033】
上記シリカ粒子は、市販のコロイダルシリカに含まれるシリカ粒子を用いることができる。このようなコロイダルシリカの市販品としては、例えば、コロイダルシリカPL-1L、コロイダルシリカPL-2L、コロイダルシリカGP-6H、PL-7、PL-10H(いずれも扶桑化学工業(株)製)が挙げられる。
【0034】
上記シリカ粒子の水分散体は、上記コロイダルシリカ等のシリカ粒子を水に添加することにより調製すればよい。シリカ粒子の水分散体中のシリカ固形分の濃度は、シリカ粒子の水分散体を100質量%として10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法では、上記シリカ粒子の水分散体に、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物(帯電制御剤)が添加される。上記帯電制御剤としては、より一層帯電制御能に優れる点で、第4級アンモニウムイオンが好ましく、中でも、テトラメチルアンモニウム(TMA)イオンが好ましい。
【0036】
第4級アンモニウムイオンを付与する塩として、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム 、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム 、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、帯電制御能に優れる第4級アンモニウムイオンを付与することができる点で、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが好ましい。
【0037】
モノアゾ系錯体としては、サリチル酸の亜鉛錯体、ホウ素錯体等が挙げられる。これらの中でも、帯電安定性を付与することができる点で、ホウ素錯体が好ましい。
【0038】
鉱酸イオンを付与する塩としては、硝酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、これらのアルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、等が挙げられる。これらの中でも、帯電制御能に優れる点で、硝酸、塩酸、硫酸が好ましい。
【0039】
上記化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
上記化合物の添加量は、シリカ粒子の固形分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。上記化合物の添加量を上記範囲とすることにより、帯電制御剤の脱離をより一層抑制することができ、且つ、樹脂粒子により一層適切な帯電性能を付与することができる。
【0041】
本発明の製造方法は、シリカ粒子の水分散体に、第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び二グロシンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を添加して、オルガノシラザンで処理する工程を有する。
【0042】
上記オルガノシラザンとしては、ヘキサメチルジシラザン;トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のモノシラノール化合物;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン;トリメチルアセトキシシラン等のモノアシロキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、疎水基の脱離をより一層抑制することができ、且つ、樹脂粒子により一層適切な帯電性能を付与することができる点で、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0043】
上記オルガノシラザンの添加量は、シリカ粒子の固形分100質量部に対して5~30質量部が好ましく、10~20質量部がより好ましい。上記オルガノシラザンの添加量を上記範囲とすることにより、疎水基の脱離をより一層抑制することができ、且つ、樹脂粒子により一層適切な帯電性能を付与することができる。
【0044】
本発明の製造方法においては、オルガノシラザンは、上記化合物と必ずしも同時に添加しなくてもよいが、上記化合物と同時に添加することが好ましい。上記化合物と同時に添加することにより、表面からの帯電制御剤の脱離が起こり難いにもかかわらず、疎水化度の高い疎水性シリカ粒子を得ることができる。
【0045】
本発明の製造方法では、上記シリカ粒子の水分散体に、上記第4級アンモニウムイオン、モノアゾ系錯体及び鉱酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を添加して、オルガノシラザンで処理する工程を有する。上記処理は、上述のようにシリカ粒子の水分散体に、上記化合物及びオルガノシラザンを添加した混合液を調製して、当該混合液を従来公知の方法により撹拌すればよい。
【0046】
撹拌の際の混合液の温度は特に限定されず、70~90℃が好ましく、75~85℃がより好ましい。
【0047】
撹拌時間は特に限定されず、100~300分が好ましく、160~200分がより好ましい。
【0048】
上記工程において、混合液のpHは、特に限定されず、8~13が好ましく、10~12がより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法では、上記工程の後に、更に、乾燥工程及び、粉砕工程を経て粉末化することにより疎水性シリカ粉末を製造すればよい。
【0050】
乾燥工程における乾燥方法としては特に限定されず、従来公知の乾燥方法により乾燥すればよい。このような乾燥方法としては、例えば、乾燥器を用いて100~130℃の温度で180~480分間加熱する乾燥方法が挙げられる。
【0051】
粉砕工程における粉砕方法としては特に限定されず、従来公知の粉砕方法により粉砕すればよい。このような粉砕方法としては、ジェットミル等が挙げられる。
【0052】
3.トナー樹脂粒子
本発明のトナー樹脂粒子は、上記疎水性シリカ粉末が樹脂粒子に外添されているトナー樹脂粒子である。
【0053】
トナー樹脂粒子を形成するための樹脂粒子としては、従来公知のトナー樹脂粒子に用いられる樹脂粒子を用いることができる。このような樹脂粒子としては、例えば、ポリエステル系樹脂粒子、ビニル系樹脂粒子等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系樹脂粒子が好ましい。
【0054】
ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上80℃以下が好ましい。
ガラス転移温度が上記範囲であることにより、最低定着温度が維持され易くなる。
【0055】
ポリエステル系樹脂の重量平均分子量Mwは、5,000以上40,000以下が好ましい。また、ポリエステル系樹脂の数平均分子量Mnは、2,000以上10,000以下が好ましい。
【0056】
疎水性シリカ粉末を樹脂粒子に外添させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により外添させることができる。このような方法としては、例えば、通常の粉体用混合機であるヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、レディゲミキサー、ハイブリダイザ一等のいわゆる表面改質機を用いた外添方法が挙げられる。なお、上記外添は、樹脂粒子の表面に疎水性シリカ粉末を付着させるようにしてもよいし、疎水性シリカ粉末の一部を樹脂粒子に埋め込むようにしてもよい。
【0057】
本発明のトナー樹脂粒子の体積平均粒子径D50vは、2μm以上10μm以下が好ましく、4μm以上8μm以下がより好ましい。体積平均粒子径D50vが2μm以上であると、トナーの流動性が良好であり、また、キャリアから適切な帯電能が付与される。また、体積平均粒子径D50vが10μm以下であると、高画質画像が得られる。
【0058】
本発明のトナー樹脂粒子の帯電量は、5~45μC/gが好ましく、8~40μC/gがより好ましい。帯電量が上記範囲であることにより、本発明のトナー樹脂粒子がより一層帯電性能に優れる。
【0059】
なお、本明細書において、帯電量は、以下の測定方法により測定される値である。すなわち、樹脂粒子:疎水性シリカ粉末=100:2の割合(質量比)となるように、樹脂粒子に疎水性シリカ粉末を外添し、トナー樹脂粒子を調製する。トナー樹脂粒子10gをアイボーイ広口びん100mL(容量100mLのポリ瓶)へ量り取り、23℃、53%RHの条件下で24時間前処理を行う。次いで、20~25℃、50~60%RHに調節した室内で、吸引式ファラデーゲージ(トレック・ジャパン株式会社製、MODEL 212HS)を用いて帯電量を3回測定し、平均値を帯電量とする。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0061】
(疎水性シリカ粉末の調製)
実施例1
コロイダルシリカPL-1L(扶桑化学工業(株)製、平均一次粒子径11nm、二次粒子径18.6nm、シリカ濃度20wt%)1000質量部に、25wt%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液10.4質量部(シリカ固形分100質量部に対して1.3質量部)、及び、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)100質量部を加え、70~80℃で3時間反応させた。次いで、135℃で8時間乾燥し、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0062】
実施例2
コロイダルシリカとして、コロイダルシリカPL-2L(扶桑化学工業(株)製、一次粒子径23.7nm、二次粒子径48.7nm、シリカ濃度20wt%)を用い、25wt%TMAH水溶液の量を0.8質量部(シリカ固形分100質量部に対して1質量部)とした以外は実施例1と同様にして、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0063】
実施例3
コロイダルシリカとして、コロイダルシリカGP-6H(扶桑化学工業(株)製、一次粒子径61nm、二次粒子径150nm、シリカ濃度30wt%)を用い、25wt%TMAH水溶液の量を2質量部(シリカ固形分100質量部に対して0.17質量部)とした以外は実施例1と同様にして、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0064】
実施例4
帯電制御剤として、30wt%塩化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTMA-Cl)水溶液を25質量部(シリカ固形分100質量部に対して3.8質量部)用いたこと以外は実施例1と同様にして、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0065】
実施例5
帯電制御剤として、30wt%硝酸水溶液を6質量部(シリカ固形分100質量部に対して0.9質量部)用いたこと以外は実施例1と同様にして、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0066】
比較例1
コロイダルシリカPL-1L1000質量部に、HMDS100質量部を添加した。次いで、70~80℃で3時間反応させた。次いで、135℃で8時間乾燥し、疎水性シリカ粉末を調製した。疎水性シリカのシリカ分は95wt%であった。次いで、メタノール1000質量部に、調製された疎水性シリカ粉末20質量部を添加し、更に、25%TMAH水溶液を1質量部添加して、1時間撹拌した。次いで、120℃で3時間乾燥し、TMAHで処理された疎水性シリカ粉末を調製した。
【0067】
比較例2
TMAHを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0068】
比較例3
帯電制御剤として、30%硝酸を0.6質量部用いたこと以外は比較例1と同様に実施して、疎水性シリカ粉末を調製した。
【0069】
(トナー樹脂粒子の調製)
ポリエステル系樹脂の樹脂粒子として、三笠産業株式会社製トナー(平均粒子径9200nm)を100g用意した。当該樹脂粒子及び実施例及び比較例で得られた疎水性シリカ粉末2gを容器に入れ、振とう機(株式会社ヤヨイ製YS-8D)を用いて振とうし、樹脂粒子に疎水性シリカ粉末を外添して、トナー樹脂粒子を調製した。
【0070】
実施例及び比較例で得られた疎水性シリカ粉末の特性を、以下の方法により測定した。
【0071】
<抽出量X>
(実施例1~3、比較例1及び2)
メタノール20質量部に、2Mメタンスルホン酸水溶液10質量部、及び疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、69質量部の水を添加して、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてTMAイオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Xを測定した。
【0072】
(実施例4)
メタノール20質量部に、2Mメタンスルホン酸水溶液10質量部、及び疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、69質量部の水を添加して、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてDTMAイオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Xを測定した。
【0073】
(実施例5及び比較例3)
メタノール20質量部に、2Mメタンスルホン酸水溶液10質量部、及び疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、69質量部の水を添加して、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いて硝酸イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Xを測定した。
【0074】
<抽出量Y>
(実施例1~3、比較例1及び2)
水99質量部に疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてTMAイオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Yを測定した。
【0075】
(実施例4)
水99質量部に疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いてDTAMイオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Yを測定した。
【0076】
(実施例5及び比較例3)
水99質量部に疎水性シリカ粉末1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った。次いで、0.2μmのフィルターでろ過した。イオンクロマトグラフィー(THERMO FISHER製)を用いて硝酸イオンを定量し、疎水性シリカ粉末100wt%に対する抽出量Yを測定した。
【0077】
<疎水化度>
200mLのビーカーに純水50mLを入れ、疎水性シリカ粉末0.2gを添加し、マグネットスターラーで撹拌して、疎水性シリカ粉末の分散液を調製した。メタノールを入れたビュレットの先端を分散液中に入れ、撹拌下でメタノールを滴下して、疎水性シリカ粉末が完全に水中に分散するまでに要したメタノールの添加量を測定してAmLとし、以下の式に基づいて疎水化度を算出した。
[疎水化度(%)]=[A/(50+A)]×100
【0078】
<29Si-固体NMRスペクトル>
疎水性シリカ粉末の29Si-固体NMRスペクトルを、4mm HXMASプローブを備えたJNM―ECX400(日本電子株式会社製)を用い、固体NMR試料管 4mm、サンプル量 70μL、測定核種 29Si(79.4MHz)、回転速度 8kHz、温度 21℃、測定モード CPMAX、繰り返し時間 3.10sec、積算回数 2000回、外部標準 シリコンゴム(-22.333ppm)の条件で測定した。
【0079】
<帯電量>
樹脂粒子:疎水性シリカ粉末=100:2の割合(質量比)となるように、樹脂粒子に疎水性シリカ粉末を外添し、トナー樹脂粒子を調製した。トナー樹脂粒子10gをアイボーイ広口びん100mL(容量100mLのポリ瓶)へ量り取り、23℃、53%RHの条件下で24時間前処理した。次いで、20~25℃、50~60%RHに調節した室内で、吸引式ファラデーゲージ(トレック・ジャパン株式会社製:MODEL 212HS)を用いて帯電量を3回測定し、平均値を帯電量とした。
【0080】
結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1の結果から、実施例1~5の疎水性シリカ粉末は、メタノール及びメタンスルホン酸水溶液の混合溶媒による抽出量Xと、水による抽出量Yとにより算出されるY/Xが0.15より小さくなっており、疎水性シリカ粉末の内部まで疎水化されているので、帯電制御剤の脱離が抑制されていることが分かった。
【0083】
比較例1及び3の疎水性シリカ粉末は、コロイダルシリカにHMDSを添加して反応させて疎水性シリカ粉末を調製した後、TMAH又は硝酸により表面処理しているので、Y及びY/Xが高くなっており、帯電制御剤が脱離し易いことが分かった。
【0084】
また、比較例1及び3の疎水性シリカ粉末は、疎水性が十分でないため凝集して解砕することができず、樹脂粒子に外添することができないことが分かった。
【0085】
比較例2の疎水性シリカ粉末は、TMAHを用いていないためトナー樹脂粒子の帯電量が高くなり過ぎ、適切な範囲の帯電性を付与することができないことが分かった。