(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】PCグラウト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20220620BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20220620BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220620BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220620BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20220620BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20220620BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20220620BHJP
C04B 111/70 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B24/26 E
C04B24/38 B
C04B18/14 Z
C04B24/06 A
C04B22/10
E04G21/12 104D
C04B111:70
(21)【出願番号】P 2018048878
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017124882
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】宇部興産建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300003(JP,A)
【文献】特開2006-161496(JP,A)
【文献】特開2008-094679(JP,A)
【文献】特開2005-231981(JP,A)
【文献】特開2006-248887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメント、
ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、セルロース系増粘剤及びシリカフュームを含む水硬性組成物と、水とを含むPCグラウトであって、
ポルトランドセメント100質量部に対して、
ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤
0.08質量部~0.15質量部、セルロース系増粘剤0.30質量部~0.50質量部、及びシリカフューム3.0質量部~4.0質量部を含み、
前記セルロース系増粘剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースを50質量%以上含んでおり、
前記シリカフュームのBET比表面積は15m
2
/g~25m
2
/gであり、
水硬性組成物100質量部に対して、水30~44質量部を含む、PCグラウト。
【請求項2】
無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1つをさらに含む、請求項
1に記載のPCグラウト。
【請求項3】
酒石酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムを含有する凝結調整剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のPCグラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCグラウトに関する。
【背景技術】
【0002】
PCグラウトは、例えば、ポストテンション方式PC(プレストレストコンクリート)のダクト内に配置されたPC鋼材を腐食から保護するためや、コンクリートとPC鋼材を一体化するために、ダクト内に充填されるグラウトである(例えば、特許文献1を参照。)。PCグラウトは、ダクト内にポンプ圧送されて充填される。このため、PCグラウトには、ポンプ圧送可能な流動性を有することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポストテンション方式PCのPCグラウトが充填されるダクトには、下り勾配の傾斜部が存在することがある。その傾斜部にPCグラウトが充填される際に、PCグラウトの鉛直方向における下側部分が、上側部分よりも先行して流動する、所謂「先流れ」が生じることがある。PCグラウトの先流れが生じると、ダクト内に空気が残留することがある。
【0005】
また、ダクトに充填されたPCグラウトが硬化するときに、体積が減少するとダクト内に未充填部が発生し、ダクト内に空気が残留することがある。
【0006】
このように、ダクト内に残留空気が生じると、PC鋼材に、PCグラウトの硬化物により好適に被覆されていない部分が生じる場合がある。その場合、PC鋼材の表面に十分な不動態皮膜が形成されず、PC鋼材に錆が生じることにより、PC鋼材の耐久性が低下する虞がある。しかしながら、先流れやブリーディングの発生を抑制する為に、PCグラウトの流動性を低くすると、PCグラウトを圧送するために要する圧力が高くなりすぎ、PCグラウトを好適に充填することが困難になる場合がある。従って、先流れや体積減少が生じにくく、かつ、圧送性に優れたPCグラウトが求められている。
【0007】
本発明の主な目的は、先流れや体積減少が生じにくく、かつ、圧送性に優れたPCグラウトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポルトランドセメント100質量部に対して、ポリカルボン酸系流動化剤0.06質量部~0.15質量部、セルロース系増粘剤0.30質量部~0.50質量部、及びシリカフューム3.0質量部~4.0質量部を含み、かつ、水硬性組成物100質量部に対して、水30~44質量部を含むPCグラウトは、先流れや体積減少が生じにくく、かつ、圧送性に優れていることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るPCグラウトは、ポルトランドセメント、ポリカルボン酸系流動化剤、セルロース系増粘剤及びシリカフュームを含む水硬性組成物と、水とを含むPCグラウトである。本発明に係るPCグラウトは、ポルトランドセメント100質量部に対して、ポリカルボン酸系流動化剤0.06質量部~0.15質量部、セルロース系増粘剤0.30質量部~0.50質量部、及びシリカフューム3.0質量部~4.0質量部を含む。本発明に係るPCグラウトは、水硬性組成物100質量部に対して、水30~44質量部を含む。
【0010】
本発明に係るPCグラウトでは、シリカフュームのBET比表面積が15m2/g~25m2/gであることが好ましい。
【0011】
本発明に係るPCグラウトでは、20℃におけるセルロース系増粘剤の1質量%水溶液のせん断速度0.1s-1における粘度が、1Pa・s~20Pa・sであることが好ましい。20℃におけるセルロース系増粘剤の1質量%水溶液のせん断速度30s-1における粘度が、0.001Pa・s~0.015Pa・sであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るPCグラウトが、無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、先流れや体積減少が生じにくく、かつ、圧送性に優れたPCグラウトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るPCグラウトは、例えば、ポストテンション方式PC(プレストレストコンクリート)の作製等に好適に用いることができる。
【0015】
本発明に係るPCグラウトは、水硬性組成物を含むPCグラウト用セメント組成物と、水とを含む。具体的には、本発明に係るPCグラウトは、水硬性組成物を含むPCグラウト用セメント組成物と、水との混練物である。
【0016】
本発明に係るPCグラウトは、ポルトランドセメント、ポリカルボン酸系流動化剤、セルロース系増粘剤及びシリカフュームを含む水硬性組成物と、水とを含み、ポルトランドセメント100質量部に対して、ポリカルボン酸系流動化剤0.06質量部~0.15質量部、セルロース系増粘剤0.30質量部~0.50質量部、及びシリカフューム3.0質量部~4.0質量部を含み、水硬性組成物100質量部に対して、水30~44質量部を含む。このため、本発明に係るPCグラウトは、先流れや体積減少が生じにくく、かつ、圧送性に優れている。
【0017】
(PCグラウト用セメント組成物)
PCグラウト用セメント組成物は、水硬性組成物を含む。
【0018】
(水硬性組成物)
本発明において、水硬性組成物は、ポルトランドセメント、ポリカルボン酸系流動化剤、セルロース系増粘剤及びシリカフュームを含む。
【0019】
(ポルトランドセメント)
好ましく用いられるポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。これらのポルトランドセメントのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0020】
上記ポルトランドセメントのなかでも、本発明に係るPCグラウト用セメント組成物を用いて調製したPCグラウトの硬化特性を良好にする観点からは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントからなる群から選ばれた少なくとも1種のポルトランドセメントを用いることがより好ましい。
【0021】
(ポリカルボン酸系流動化剤)
ポリカルボン酸系流動化剤としては、例えば、ポリカルボン酸系流動化剤、ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、変形ポリカルボン酸系流動化剤等が挙げられる。これらのポリカルボン酸系流動化剤のうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。これらのポリカルボン酸系流動化剤のなかでも、より優れた先流れとより優れたポンプ圧送性を実現する観点から、ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤がより好ましく用いられる。
【0022】
ポリカルボン酸系流動化剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、0.06質量部~0.15質量部であり、好ましくは0.07質量部~0.14質量部であり、より好ましくは0.075質量部~0.135質量部である。ポリカルボン酸系流動化剤の含有量を上記範囲とすることにより、より良好な圧送性を実現することができる。
【0023】
(セルロース系増粘剤)
本発明に係るPCグラウトは、有機系増粘剤として、セルロース系増粘剤を含む。有機系増粘剤として、セルロース系増粘剤のみを用いてもよいし、セルロース系増粘剤に加え、セルロース系増粘剤以外の種類の有機系増粘剤を併用してもよい。その場合、セルロース系増粘剤は、有機系増粘剤100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがより好ましい。また、好ましく用いられるセルロース系増粘剤以外の種類の有機系増粘剤の具体例としては、デンプン系増粘剤、グアーガム系増粘剤、ビニル系増粘剤等が挙げられる。
【0024】
セルロース系増粘剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の少なくとも1種を主成分として含むセルロース系増粘剤を好適に用いることができる。セルロース系増粘剤は、上記セルロースのうちの1種のみを主成分として含んでいてもよく、複数種類を主成分として含んでいてもよい。
【0025】
なお、本発明において、「主成分として含む」とは、50質量%以上含むことを意味する。
【0026】
セルロース系増粘剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、0.30質量部~0.50質量部であり、好ましくは、0.32質量部~0.48質量部であり、より好ましくは、0.34質量部~0.46質量部であり、さらに好ましくは、0.36質量部~0.44質量部である。セルロース系増粘剤の含有量を上記範囲内とすることにより、PCグラウト充填時の先流れをさらに抑制することができる。
【0027】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s-1における粘度は、1Pa・s~20Pa・sであることが好ましく、5Pa・s~15Pa・sであることがより好ましく、7Pa・s~13Pa・sであることがさらに好ましく、8Pa・s~12Pa・sであることがなお好ましい。
【0028】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s-1における粘度を上記範囲とすることで、PCグラウト充填時の先流れをさらに抑制することができる。
【0029】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s-1における粘度は、0.001Pa・s~0.015Pa・sであることが好ましく、0.002Pa・s~0.013Pa・sであることがより好ましく、0.003Pa・s~0.01Pa・sであることがさらに好ましく、0.004Pa・s~0.009Pa・sであることがなお好ましい。
【0030】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s-1における粘度を上記範囲とすることで、PCグラウトのポンプ圧送性をさらに改善することができる。また、PCグラウト硬化時の体積減少率をより低くすることができる。
【0031】
なお、「ポンプ圧送性」とは、PCグラウトをダクト内に圧送するときに必要となる圧力のことであり、当該圧力が低いほどポンプ圧送性が良好となる。
【0032】
(シリカフューム)
本発明に係るPCグラウトは、無機系増粘材として、シリカフュームを含む。無機系増粘材として、シリカフュームのみを用いてもよいし、シリカフュームに加え、シリカフューム以外の種類の無機系増粘材を併用してもよい。その場合、シリカフュームは、無機系増粘材100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがより好ましい。また、好ましく用いられるシリカフューム以外の種類の無機系増粘材の具体例としては、ベントナイト、カオリナイト、タルク等が挙げられる。
【0033】
シリカフュームの主成分は、シリカである。シリカフュームとしては、アルミニウム含有量が少ないシリカフュームが好ましく用いられる。アルミニウムは水と反応し、膨張作用の大きな水素を発生させるため、PCグラウト硬化物の強度低下に繋がる虞があるためである。
【0034】
シリカフュームの含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、3.0質量部~4.0質量部であり、好ましくは、3.1質量部~3.9質量部であり、より好ましくは、3.2質量部~3.8質量部であり、さらに好ましくは、3.3質量部~3.7質量部である。シリカフュームの含有量を上記範囲内とすることにより、PCグラウト充填時の先流れをより効果的に抑制することができる。
【0035】
シリカフュームのBET比表面積は、好ましくは15m2/g~25m2/gであり、より好ましくは16m2/g~24m2/gであり、さらに好ましくは17m2/g~23m2/gである。シリカフュームのBET比表面積を上記範囲とすることにより、PCグラウト充填時の先流れをより効果的に抑制することができる。また、PCグラウトのポンプ圧送性をさらに改善することができる。
【0036】
(その他の成分)
本発明に係るPCグラウトは、本発明の効果が損なわれない範囲で、ポルトランドセメント、ポリカルボン酸系流動化剤、セルロース系増粘剤及びシリカフューム以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0037】
(無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤、凝結調整剤)
本発明に係るPCグラウトは、本発明の効果が損なわれない範囲で、無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいることが好ましい。無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1種の合量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~8.5質量部であり、より好ましくは0.15質量部~7.85質量部であり、さらに好ましくは0.2質量部~7.2質量部である。
【0038】
(無機系膨張材)
無機系膨張材を用いることにより、高い圧縮強度を有するPCグラウト硬化体を実現し得る。
【0039】
好ましく用いられる無機系膨張材としては、例えば、生石灰-石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等が挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。無機系膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは3質量部~7質量部であり、より好ましくは3.5質量部~6.5質量部であり、さらに好ましくは4質量部~6質量部である。無機系膨張材の含有量を上記範囲とすることで、より高い圧縮強度を有するPCグラウト硬化体を得ることができる。より高い圧縮強度を実現する観点からは、上記無機系膨張材のなかでも、生石灰-石膏系膨張材を用いることがより好ましい。
【0040】
(消泡剤)
消泡剤を用いることにより、より高い圧縮強度を有するPCグラウト硬化体を実現し得る。
【0041】
好ましく用いられる消泡剤としては、例えば、鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系等の合成物質又は植物由来の天然物質等が挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。消泡剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.2質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.25質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.3質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量を上記範囲とすることで、より高い圧縮強度を有するPCグラウトが実現できる。優れた分散性と優れた持続効果を実現する観点からは、ポリエーテル系や鉱油系の消泡剤がより好ましく用いられる。
【0042】
(収縮低減剤)
収縮低減剤を用いることにより、硬化体のひび割れが生じ難いPCグラウトが実現し得る。
【0043】
好ましく用いられる収縮低減剤としては、例えば、低級・高級アルコールアルキレンオキシド付加物やグリコールエーテル誘導体などが挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。収縮低減剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.15質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.2質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化体のひび割れの発生を抑えることが可能となる。PCグラウト硬化物の寸法安定性をさらに向上する観点からは、上記収縮低減剤のなかでもポリエーテル誘導体がより好ましく用いられる。
【0044】
(凝結調整剤)
凝結調整剤を用いることにより、硬化時間が適度に長く、適度な可使時間を有するPCグラウトを実現し得る。
【0045】
好ましく用いられる凝結調整剤の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、具体的には、硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩や、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びグルコン酸ナトリウム等の有機ナトリウム塩などが挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。凝結調整剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.1質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化時間が適度に長く、適度な可使時間を有するPCグラウトを実現し得る。
【0046】
(水)
本発明に係るPCグラウトは、水硬性組成物100質量部に対して30質量部~44質量部の水を含む。すなわち、本発明に係るPCグラウトは、100質量部の水硬性組成物と、30質量部~44質量部の水との混練物である。先流れとポンプ圧送性の観点から、水の含有量は、水硬性組成物100質量部に対して、好ましくは32質量部~42質量部であり、より好ましくは質量部34~40質量部である。PCグラウトにおける水の含有量を上記範囲とすることにより、先流れが生じにくく、かつ圧送性に優れたPCグラウトが得られる。
【0047】
(先流れ性)
本発明に係るPCグラウトの先流れは、好ましくは0.1cm~3cmであり、より好ましくは0.1cm~2cmである。
【0048】
なお、PCグラウトの先流れは、下記の先流れ性試験を行うことにより測定することができる。
【0049】
まず、直径が65mmのアクリル管を鉛直方向に沿って配置した状態で、アクリル管に混練直後のPCグラウトを430g充填する。次に、PCグラウトが充填されたアクリル管の下部がアクリル管の上部よりも上となるように水平方向から15°傾けて、PCグラウトの流動がストップするまでアクリル管を静置した。その状態で、PCグラウトの下端部の鉛直方向下端と、上端との間のアクリル管の軸心に沿った距離を測定し、その距離をPCグラウトの先流れとする。
【0050】
(レオロジー特性)
本発明に係るPCグラウトのせん断応力0.1s-1時のレオロジー特性は、好ましくは30Pa~168Pa、より好ましくは32Pa~100Pa、さらに好ましくは35Pa~80Paである。
【0051】
本発明に係るPCグラウトのせん断応力30s-1時のレオロジー特性は、好ましくは70Pa~299Pa、より好ましくは100Pa~250Paである。
【0052】
本発明に係るPCグラウトのレオロジー特性を上記範囲とすることにより、より良好なポンプ圧送性を実現でき、かつ、先流れをより効果的に抑制することができる。
【0053】
なお、PCグラウトのレオロジー特性は、下記の試験を行うことにより測定することができる。
【0054】
Anton Paar社製レオメーターMCR101を用いて、共軸二重円筒治具CC27/P6に混練直後のPCグラウトを充填し、低せん断速度0.1s-1及び高せん断速度30s-1のそれぞれにおいてせん断応力(Pa)を測定し、測定値をレオロジー特性とする。
【0055】
(PCグラウト硬化時の体積減少率)
本発明において、1.5時間後におけるPCグラウト硬化時の体積収縮率は、0.20%以下であることが好ましく、0.17%以下であることがより好ましく、0.15%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
なお、PCグラウト硬化時の体積収縮率は、鉛直管を用いたJSCE-F535に準拠して測定することができる。
【0057】
なお、上記各試験は、20℃、湿度65%RHの条件下において行う。
【0058】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0059】
(比較例1)
下記の表1に示す配合割合で原料(総量16kg)をアイリッヒミキサーを用いて7分間混合し、水硬性組成物を調製した。
【0060】
なお、ポルトランドセメントとしては、具体的には、早強ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4440cm2/g)を用いた。
【0061】
有機系増粘剤としては、セルロース系増粘剤「主成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース」(せん断速度0.1s-1の粘度9.76Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.00678Pa・s)を用いた。
【0062】
無機系増粘材としては、シリカフューム(BET比表面積20.0m2/g)を用いた。
【0063】
流動化剤としては、ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤を用いた。
【0064】
次に、調製したPCグラウト用セメント組成物16kgに水(水道水)6.4kgを加え、20℃、湿度65%RHに維持された恒温恒湿室内において、ケミスターラーを用いて2分間混練することによりPCグラウトを得た。
【0065】
(比較例2)
水硬性組成物の配合割合を表1に示す割合とし、水を5.76kg加えたこと以外は、比較例1と同様にしてPCグラウトを調製した。
【0066】
(実施例1、2)
水硬性組成物の配合割合を表1に示す割合としたこと以外は、比較例2と同様にしてPCグラウトを調製した。
【0067】
(実施例3)
水硬性組成物の配合割合を表1に示す割合とし、凝結調整剤として酒石酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムを1:1の割合で用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPCグラウトを調製した。
【0068】
(評価)
実施例1~3及び比較例1、2のそれぞれで作製したPCグラウトにつき、上記評価方法により、レオロジー特性及び体積変化率を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
なお、ポンプ圧送性に関しては、30s-1時のせん断応力が300Pa以内の材料は○と判断し、300Paを超える材料は×と判断した。
【0070】
上記方法により算出した体積変化率が1.5時間後において0.20%以下であれば○と判断し、0.20%より大きい場合は、×と判断した。
【0071】