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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】電気音響変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20220620BHJP
   H04R 7/18 20060101ALI20220620BHJP
   H04R 7/24 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H04R7/02 Z
H04R7/18
H04R7/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018099209
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019205069
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田辺 景
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-104924(JP,A)
【文献】特開2011-166819(JP,A)
【文献】特開平5-137194(JP,A)
【文献】特開昭58-220598(JP,A)
【文献】特開2002-159091(JP,A)
【文献】国際公開第2016/141745(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号と音響信号との間の変換を行う電気音響変換装置であって、
振動板と、
環状の端部を有すると共に、前記振動板の軸方向に見て前記環状の端部が前記振動板の外縁部の内側を取り囲むように、前記環状の端部が前記振動板の外縁部に固着されたボイスコイルボビンと、
前記ボイスコイルボビンに巻き回されたボイスコイルと、
前記ボイスコイルを通る磁束を発生する磁気回路とを有し、
前記振動板は、一枚の、繊維の向きが一方向に揃った繊維強化シート材の形状のみを、当該振動板の軸方向に見て前記繊維の向きが一方向に揃うように変形して形成されたものであることを特徴とする電気音響変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電気音響変換装置であって、
前記振動板の外周側端の部分は、当該振動板の当該外周側端の部分よりも内側の部分の面に沿わない方向に屈曲したリブとなっていることを特徴とする電気音響変換装置。
【請求項3】
請求項1記載の電気音響変換装置であって、
前記振動板の軸方向に見て当該振動板の軸を中心とする環形状を有する、前記振動板の面に固着された制振部材とを有することを特徴とする電気音響変換装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の電気音響変換装置であって、
当該電気音響変換装置は、電気信号を音響信号に変換するスピーカであることを特徴とする電気音響変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換装置の音質向上の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換装置としては、剛性に異方性がある振動板を用いることにより高域での共振ピークの先鋭化を抑制したスピーカが知られている(たとえば、特許文献1)。
ここで、このスピーカの振動板は、形状異方性を有するフィラーが所定の1方向にその長軸を配向させた状態で樹脂内に分散している構造を有する繋ぎ目のない一枚のシート材を成形して製作されている。
【0003】
また、このスピーカは、振動板がコーン形状を有するコーン型スピーカであり、振動板の内周側端部に連結したボイスコイルボビンに巻き回したボイスコイルにオーディオ信号を印加し、磁気回路により発生したボイスコイルを通る磁束との電磁作用により、ボイスコイルボビンを介して振動板を振動させ音を発生させている。
【0004】
このスピーカによれば、共振ピークの先鋭化が抑制され、すなわち共振が分散され、原音と異なる不要音の発生が抑制され、より原音に近い音を再生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6275297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した剛性に異方性がある振動板を用いたスピーカによれば、共振分散による音質向上効果は得られるものの、振動板の非軸対称モードの振動が発生し易くなり、当該振動による出力音の比較的大きな歪みが生じてしまうことがある。
【0007】
そこで、本発明は、剛性に異方性がある振動板を用いた電気音響変換装置において、共振分散による音質向上効果を得つつ、非軸対称モードの振動の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、電気信号と音響信号との間の変換を行う電気音響変換装置を、繊維の向きに異方性のある繊維強化シート材を成形して形成した、剛性に異方性のある振動板と、環状の端部を有すると共に、前記振動板の軸方向に見て前記環状の端部が前記振動板の外縁部の内側を取り囲むように、前記環状の端部が前記振動板の外縁部に固着されたボイスコイルボビンと、前記ボイスコイルボビンに巻き回されたボイスコイルと、前記ボイスコイルを通る磁束を発生する磁気回路とを含めて構成したものである。
【0009】
このような電気音響変換装置によれば、ボイスコイルボビンの当該環状の端部を、前記振動板の軸方向に見て当該環状の端部が前記振動板の外縁部の内側を取り囲むように、前記振動板の外縁部に固着したので、ボイスコイルボビンによって振動板を効果的に補強し、振動板の剛性が小さい方向について振動板の剛性を強化することができる。そのため、共振分散による音質向上効果を得ることができるとともに、振動板の非軸対称モードの振動を抑制することができる。
【0010】
また、ボイスコイルボビンによって振動板の外縁部を駆動することにより、振動板の全体の動きを、ボイスコイルボビンの動きに、より忠実に追従させることができるようになり、振動板の非軸対称モードの振動の発生を抑制することができる。
【0011】
また、前記課題達成のために、本発明は、前記振動板の外周側端の部分を、当該振動板の当該外周側端の部分よりも内側の部分の面に沿わない方向に屈曲したリブとしたものである。
【0012】
このような電気音響変換装置によれば、振動板の振動板の外周側端の部分をリブとしたので、振動板の剛性が小さい方向について、その剛性を強化することができる。そのため、共振分散による音質向上効果を得ることができるとともに、振動板の非軸対称モードの振動を抑制することができる。
【0013】
また、前記課題達成のために、本発明は、前記振動板の軸方向に見て当該振動板の軸を中心とする環形状を有する、前記振動板の面に固着された制振部材を設けたものである。
このような電気音響変換装置によれば、振動板に固着した制振部材によって、振動板の剛性が小さい方向について、その振動を減衰させることができ、振動板の非軸対称モードの振動を抑制することができる。また、環状の制振部材を振動板と同軸状に設けているので、異なる新たな非軸対象振動を発生させることなく、制振部材によって振動板の非軸対称モードの振動を吸収して抑制することができる。
【0014】
ここで、以上のような電気音響変換装置は、たとえば、電気信号を音響信号に変換するスピーカであってよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、剛性に異方性がある振動板を用いた電気音響変換装置において、非軸対称モードの振動の発生を抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上の各実施形態は、振動板の形状がドーム形状でない場合にも同様に適用することができる。
また、以上の各実施形態は、電気信号を音響信号に変換するスピーカの他、音響信号を電気信号に変換するマイクロフォンなどの電気音響変換装置にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るスピーカを示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るスピーカを示す図である。
図3】本発明の第3実施形態に係るスピーカを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
図1に、本第1実施形態に係るスピーカを示す。
便宜上、図中に示すようにスピーカの上下前後左右を定めるものとして、図1aはスピーカの上面を表し、図1bはスピーカの前面を表し、図1cはスピーカの下面を表し、図1dは図1aの断面線A-Aによる断面図を表す。
【0018】
また、図1eは、図1dの断面図の部分Bを拡大して示した図である。
さて、図示するように、スピーカは、下端に底を有し上端が開口した円管形状のヨーク1、ヨーク1の内側の底の上に固定された円盤形状の磁石2、磁石2の上に配置された円盤形状のトッププレート3を備えており、ヨーク1と磁石2とトッププレート3で磁気回路を形成している。なお、トッププレート3の上にはサブマグネット4が備えられている。このサブマグネット4は、磁界の方向が磁石2に対して反発する方向となっており、トッププレート3から磁気ギャップに向かう磁束密度を増加させる働きをしている。
【0019】
また、スピーカは、ドーム形状の振動板5、中空の円筒形状のボイスコイルボビン6、ボイスコイルボビン6に巻き回されたボイスコイル7、エッジ8、上端に内向フランジ91を備えた円管形状のトップフレーム9、上端に内向フランジ101を備えた円管形状のサブフレーム10を備えている。
【0020】
サブフレーム10は、内向フランジ101の下面が、ヨーク1の上端の周上に載置された形態で、上下方向に見てヨーク1の上端の開口を囲むようにヨーク1に対して固定されている。また、トップフレーム9は、内向フランジ91の下面が、サブフレーム10の上端の周上に載置された形態で、上下方向に見てサブフレーム10の開口を囲むように、サブフレーム10に対して固定されている。
【0021】
そして、振動板5の外周側縁部はエッジ8の内周側縁部に連結されており、エッジ8の外周側縁部は、トップフレーム9とサブフレーム10に挟持された形態でヨーク1に対して固定されている。
【0022】
次に、振動板5の外周端部には、ボイスコイルボビン6の上端がボイスコイルボビン6が下方に延伸するように固着され、振動板5の外周端部の内側は上下方向にみてボイルコイルボビン6の内側となる。
【0023】
そして、ボイスコイルボビン6に巻き回されたボイスコイル7はヨーク1とトッププレート3の外周側面との間の、磁気回路によって発生する磁束φが通過する空間に配置される。
【0024】
そして、オーディオ信号がボイスコイル7に印加されると、磁気回路から発生する磁束と、ボイスコイル7を流れるオーディオ信号との電磁作用によって、オーディオ信号の振幅に応じて、ボイスコイルボビン6と振動板5が上下に振動し、振動板5からオーディオ信号に応じた音が発生する。
【0025】
ここで、振動板5は、剛性に異方性を備えたシート状の素材を、曲げ加工や真空成形等によってドーム形状に成形することにより製作したものである。このような材料を用いた振動板は、一見バランスが悪いように見える。しかし、共振ピークの先鋭化が抑制され、すなわち共振が分散され、原音と異なる不要音の発生が抑制され、より原音に近い音を再生することができる。
【0026】
なお、このような剛性に異方性を備えたシート状の素材としては、たとえば、炭素繊維の向きを揃えた炭素繊維強化プラスチック(CFRP;Carbon Fiber Reinforced Plastics)のシートや、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP;Glass Fiber Reinforced Plastics)などの繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics )を用いることができる。このような、繊維強化プラスチックのシートでは、繊維が向いている方向の剛性が大きくなり、繊維の向きと垂直な方向の剛性が小さくなる。
【0027】
したがって、図1aに示すように、振動板5において繊維が向いている方向がX方向であれば、X方向の剛性が大きく、X方向と垂直なY方向の剛性が小さくなる。そして、この結果、振動板単体ではY方向に進む非軸対称の振動が生じ易くなる。
【0028】
しかし、本第1実施形態では、ボイスコイルボビン6を前記振動板5の振動板5の外周端部に固着したので、ボイスコイルボビン6によって振動板5を効果的に補強し、振動板5の剛性が小さい方向について振動板5の剛性を強化することができ、振動板5の非軸対称モードの振動を抑制することができる。
【0029】
また、ボイスコイルボビン6によって振動板5の外周端部を駆動することにより、振動板5の全体の動きを、ボイスコイルボビン6の動きに、より忠実に追従させることができるようになり、振動板5の非軸対称モードの振動の発生を抑制することができる。
【0030】
なお、共振分散の効果は、材料の特性によるものなので、上記のような補強により共振分散の効果が消失することはない。その結果、「共振分散」と「非軸対象振動抑制」の両立を図ることができる。
【0031】
なお、ボイスコイルボビンを振動板の中心部に固着し、振動板の外縁部の補強手段として別の筒状部品等を用いることも考えられるが、重量増加を招き、高周波数帯域での振動が困難になる。これに対して本実施形態においては、補強手段としてボイスコイルボビン6を利用しており、重量増加が抑制されているので、高周波数帯域での特性が悪化しないようになっている。
【0032】
以上、本発明の第1実施形態について説明した。
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
本第2実施形態に係るスピーカは、図1に示した第1実施形態に係るスピーカにおいて、振動板5の外周縁部を屈曲させるリブ加工を施して、振動板5の外周側端の部分を環状のリブとしたものである。
【0033】
すなわち、本第2実施形態においては、図2aに図1aの断面線A-Aによる断面図を示し、図2bに図2aの断面図の部分Bを拡大して示すように、振動板5の外周端をエッジ8との連結部よりも外側に延伸させている。そして、連結部よりも外側に延伸させた外部分を、上下方向に見て、ドーム形状の振動板5の軸を中心とする一つの円または径の異なる複数の円のそれぞれを曲げ線として、振動板5のドーム形状に沿わない方向に曲げて形成したリブ51を、エッジ8との連結部の外側に設けている。
【0034】
ここで、このようにして設けるリブ51の形状は、たとえば、図2a、bに示した形状の他、図2cに示すような形状などの種々の形状が可能である。
また、リブ51は、必ずしも、エッジ8との連結部の外側に設ける必要はなく、たとえば、図2dに示すように、振動板5の環状のリブ51の部分を連結部として、振動板5とエッジ8を連結するようにしてもよい。
【0035】
以上、本発明の第2実施形態について説明した。
本第2実施形態によれば、振動板5の外終端部分の部分をリブ51としたので、振動板5の剛性が小さい方向について、その剛性を強化することができ、振動板5の非軸対称モードの振動を抑制することができる。
【0036】
また、たとえば、図2dに示したように、リブ51の部分を利用して、ボイスコイルボビン6と振動板5との連結部においてボイスコイルボビン6と振動板5とを、より広い面積で当接させることができ、当該当接した部分を接着することにより、ボイスコイルボビン6と振動板5との連結部の強度を向上することができる。
【0037】
以下、本発明の第3の実施形態について説明する。
本第3実施形態は、図1に示した第1実施形態に係るスピーカにおいて、振動板5に環状のダンパ部材を固着したものである。
すなわち、本第3実施形態は、図3aにスピーカの上面を表し、図3bにスピーカに前面を表し、図3cにスピーカの下面を表し、図3dに図3aの断面線A-Aによる断面図を表すように、振動板5の下面のエッジ8より内周側となる位置に、環状のダンパ部材11を、振動板5と同軸状に接着等により固着したものである。
【0038】
ここで、ダンパ部材11は、硬質ゴム等の剛性と振動吸収性を備えた素材を用いて形成した部材である。
また、図3e1にダンパ部材11の上面を表し、図3e2にダンパ部材11の前面を表し、図3e1にダンパ部材11の右側面を表すように、ダンパ部材11は、上下方向に見て環状形状を有し、上面、下面が、ドームの下面の湾曲に倣って湾曲した形状を有する部材である。
【0039】
以上、本発明の第3実施形態について説明した。
本第3実施形態によれば、振動板5に固着したダンパ部材11によって、振動板5の剛性が小さい方向について、振動を減衰させることができ、振動板5の非軸対称モードの振動を抑制することができる。また、環状のダンパ部材11を振動板5と同軸状に設けているので、異なる新たな非軸対象振動を発生させることなく、ダンパ部材11によって振動板5の非軸対称モードの振動を吸収して抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…ヨーク、2…磁石、3…トッププレート、4…サブマグネット、5…振動板、6…ボイスコイルボビン、7…ボイスコイル、8…エッジ、9…トップフレーム、10…サブフレーム、11…ダンパ部材、51…リブ、91…内向フランジ、101…内向フランジ。
図1
図2
図3