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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】水溶性シート状色材
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20220620BHJP
   C09D 5/06 20060101ALI20220620BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20220620BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220620BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220620BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220620BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D5/06
C09D101/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018102386
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019206646
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 充人
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-084955(JP,A)
【文献】特開昭56-159262(JP,A)
【文献】特開昭52-120028(JP,A)
【文献】特開2007-009198(JP,A)
【文献】特開平04-225076(JP,A)
【文献】特開昭58-096661(JP,A)
【文献】特開2014-152145(JP,A)
【文献】特開昭51-056335(JP,A)
【文献】特開2003-026986(JP,A)
【文献】特開平05-309994(JP,A)
【文献】特開2007-302780(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0163644(US,A1)
【文献】特開2017-210505(JP,A)
【文献】中国実用新案第207772758(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜形成性水溶性ポリマー、溶解促進剤、着色剤、および湿潤保持剤を含んでなる、水溶性シート状色材であって、
前記皮膜形成性水溶性ポリマーが、重合度が1,500~5,000であるポリビニルアルコールと、セルロースまたはその誘導体との組み合わせであり、かつ
前記溶解促進剤が、重合度200~1,400のポリビニルアルコール、または脂肪酸金属塩である、水溶性シート状色材
【請求項2】
平均膜厚が5~300μmである、請求項1に記載の水溶性シート状色材。
【請求項3】
前記水溶性シート状色材の総質量を基準として、0.1~20質量%の皮膜形成性水溶性ポリマーを含んでなる、請求項1または2に記載の水溶性シート状色材。
【請求項4】
前記水溶性シート状色材の総質量を基準として、10~70質量%の溶解促進剤を含んでなる、請求項1~のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項5】
前記着色剤が顔料である、請求項1~のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項6】
前記顔料が、酸化チタンを含んでなる、請求項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項7】
さらに体質材を含んでなる、請求項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項8】
前記湿潤保持剤が、ポリオールである、請求項1~のいずれか1項に記載の水溶性シート状色材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。この水溶性シート状色材は、水に溶かすことにより、水彩絵の具や墨汁として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
水彩絵の具としては、液状、またはペースト状のものが一般的であるが、その他の形態として、粉末状、もしくは顆粒状のもの、またはパレット等に固体状態で固定されたものも存在する。さらには、シート状の絵の具についても提案されている(特許文献1および2)。シート状の絵の具は、特に、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが求められており、これらの点の改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-84955号公報
【文献】特開平4-225076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みて、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが可能な、水溶性シート状色材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による水溶性シート状色材は、皮膜形成性水溶性ポリマー、溶解促進剤、着色剤、および湿潤保持剤を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明による水溶性シート状色材は、粘着性が低く、適度な自立性や柔軟性を有し、取り扱い性に優れている。特に、シート状であるために、溶解する前に手でちぎったり、はさみで切るなどして適当量を分取して、濃度調整などが容易である。また、本発明による水溶性シート状色材は水に溶かしたとき速やかに均一な状態になるため、筆を用いて描画した際に、色むらのない良好な筆跡を得られ、発色性も優れている。また、本発明による水溶性シート状色材の色と、描画した際の色が近いため、視認性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、特に断らない限り、配合を示す「部」、「%」、「比」などは質量基準であり、含有率とは水溶性シート状色材の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0008】
<水溶性シート状色材>
本発明による水溶性シート状色材(以下、単にシート状色材ということがある)は、皮膜形成性水溶性ポリマー、溶解促進剤、着色剤、および湿潤保持剤を含んでなるものである。
【0009】
本発明によるシート状色材は、適度な自立性や柔軟性を有する固体である。シート状であるために、切断が容易であり、また収容する容器が必要なく、それ自体を1枚ごとに取り扱うことができるので、取り扱い性にも優れている。シート状形状として、厚さが均一なフィルムが代表的なものとして挙げられるが、部分的に厚みを変化させて、厚みの薄い部分で切断を容易にしていてもよい。ただし、本発明によるシート状色材は発色性が高いので、比較的薄い形状であっても十分な発色が得られるため、厚さが均一な薄膜形状でも十分な特性を発揮できる。このようなシート状色材の平均膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~300μmであり、より好ましくは10~150μmである。ここで平均膜厚は、マイクロゲージによって測定することができる。このような平均膜厚を有するシート状色材は、乾燥状態でも柔軟性を有し、また取り扱いに十分な強度を実現できる。また、本発明によるシート状色材は、粘着性が低いものであり、手で持った際に、手に成分が付着しにくい。また、複数のシートを重ねて保管しても、相互に付着しづらいものである。
【0010】
本発明によるシート状色材は、水に接触すると、溶解して、液状組成物になる。この液状組成物は、一般的に使用される塗料や絵の具などと同様に使用することができる。用いる水の温度は特に限定されないが、室温程度の水に溶解可能であればよい。水への接触方法は、特に限定されないが、例えば、水を含ませた筆をシート状色材に接触させて擦過すること、シート状色材にスポイト等で水を滴下すること、水に適当な大きさのシート状色材を浸漬すること、等が挙げられる。必要に応じて、シート状色材を水中に投入し、筆等を用いて撹拌してもよい。
【0011】
本発明によるシート状色材は、着色剤が均一に分散されているため、水に接触したときに、速やかに均一な液状の絵の具にすることができる。その絵の具を筆等に含浸させ、描画すると、色むらのない良好な筆跡が得られる。
【0012】
以下に、本発明による水溶性シート状色材に用いられる成分について、説明する。
【0013】
皮膜形成性水溶性ポリマー
本発明に用いられる皮膜形成性水溶性ポリマーは、上記のようなシート状色材の形状を維持するための主材料となるものであり、かつ皮膜形成後に、水に溶解することができるものである。また、シート状色材を水に溶かして、描画した際に、着色された皮膜を形成する展色剤の役割を果たすこともできる。
【0014】
本発明による皮膜形成性水溶性ポリマーは、上記のように、シート状色材の形状を維持し、かつ皮膜形成後に水に溶解することができるものであれば特に限定されないが、合成ポリマーまたは天然物由来のポリマーを用いることができる。具体的には、合成ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性アクリルポリマーなど、天然物由来のポリマーとしては、ゼラチン、デンプン、カゼイン、高分子多糖類、などが挙げられる。高分子多糖類としては、アルギン酸ナトリウム、プルラン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ダイユータンガム、発酵セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースおよびその誘導体、などが挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール、ならびにセルロースおよびその誘導体であり、より好ましくはポリビニルアルコールである。
【0015】
ポリビニルアルコールを皮膜形成性水溶性ポリマーとして用いる場合、好ましくは重合度1,500~5,000、より好ましくは2,000~4,500である。この範囲にあると、自立性の高い皮膜が形成ができ、水での再溶解性が高いものとなる。またけん化度は、70モル%以上、98モル%未満であることが好ましい。より好ましくは85~90モル%である。この範囲にあると、水に対する溶解性が高く、簡単に再溶解することができる。
【0016】
セルロースおよびその誘導体を皮膜形成性水溶性ポリマーとして用いる場合、セルロースを加工したものであるセルロースナノファイバーの形で用いることが好ましい。
セルロースナノファイバーを用いると、シート同士がはりつくこと、いわゆるブロッキングを防ぐことができるため、好ましい。本発明に用いられるセルロースナノファイバーは、セルロース繊維を物理的または化学的に処理することによりナノレベルで均一に微細化されたセルロースであり、繊維径が1~100nmであり、繊維長が5μm以上のアスペクト比の大きい繊維である。また、本発明において、セルロースナノファイバーをさらに処理することなどで得られる、繊維径が3~70nm、繊維長が100~500nm程度の、所謂セルロースナノクリスタルも、セルロースナノファイバーに包含されるものとする。
【0017】
皮膜形成性水溶性ポリマーとして、2種以上のポリマーの組み合わせを用いることもできる。
好ましくは、重合度が1,500~5,000のポリビニルアルコールと、セルロースまたはその誘導体とを組み合わせて用いた場合であり、より好ましくは、重合度が1,500~5,000のポリビニルアルコールと、セルロースナノファイバーとを組み合わせて用いた場合である。この場合、それぞれ単独で用いた場合よりも、膜の表面が紙面のように改善されるので、自立性の高い皮膜が形成される。よって、水での再溶解性が高い状態を維持しつつ、シート同士のブロッキングを防ぐことができるからである。
このとき、重合度が1,500~5,000のポリビニルアルコール:セルロースナノファイバーの質量比は、1:0.01~1:15であることが好ましく、より好ましくは1:0.1~1:5である。
【0018】
皮膜形成性水溶性ポリマーの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.3~10質量%である。
【0019】
溶解促進剤
本発明に用いられる溶解促進剤は、水溶性が比較的高く、相対的に水溶性の低い水溶性皮膜形成性ポリマーの溶解を補助し、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進する作用を有すると共に、シート状色材を水に溶解させたときに着色剤を均一に分散させる作用も有する。この溶解促進剤の水溶性は、一般的に皮膜形成性水溶性ポリマーの水溶性よりも高いものである。
【0020】
本発明に用いられる溶解促進剤としては、ポリビニルアルコール、脂肪酸金属塩などが挙げられる。
ポリビニルアルコールが溶解促進剤として用いられる場合、重合度が200~1,400であることが好ましく、重合度が300~1,000であることがより好ましい。またけん化度は70モル%以上、98モル%未満であることが好ましいく、より好ましくは85~90モル%である。
脂肪酸金属塩としては、炭素数12以上の脂肪酸の金属塩であることが好ましく、具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、イソステアリン酸リチウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウムなどが挙げられる。
特に好ましい溶解促進剤は、上記のポリビニルアルコールである。
【0021】
溶解促進剤として、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
特に好ましくは、溶解促進剤として、重合度が200~1,400のポリビニルアルコールと、脂肪酸の金属塩とを組み合わせて用いた場合である。この場合、それぞれ単独で用いた場合よりも、再溶解性と着色剤の均一分散性をさらに向上させることができるためである。好ましくは、重合度が200~1,400のポリビニルアルコールとオレイン酸カリウムとの組合せである。
特に、重合度が200~1,400のポリビニルアルコール:オレイン酸カリウムの質量比は、1:0.05~1:10であることが好ましく、より好ましくは1:0.15~1:5である。
【0022】
溶解促進剤の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは35~60質量%である。
【0023】
本発明において、皮膜形成性水溶性ポリマー、および溶解促進剤のそれぞれが、共に、ポリビニルアルコールであってもよい。ポリビニルアルコールは重合度により、皮膜形成性水溶性ポリマーの機能を有することも、溶解促進剤の機能を有することもある、したがって、この場合、重合度の分布が、重合度1,500~5,000の範囲と200~1,400の範囲とに、2つの極大を有するようなものであることが好ましい。
【0024】
着色剤
本発明には、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができる。
【0025】
着色剤は顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、さらには、アルミ顔料、パール顔料、マイクロカプセル顔料等が挙げられる。尚、顔料は予め、界面活性剤などの顔料分散剤を用いて媒体に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。
【0026】
酸化チタンは、一般に白色の顔料として用いられるが、同時に描画によって形成される筆跡の隠蔽性を向上させことができる。したがって、隠蔽材としての機能も有する。よって、その他の顔料に、さらに酸化チタンを含むことにより、それを用いて描画した際に、筆跡濃度を向上させることができる。
また、シート状色材そのものの色と、シート状色材を水に溶かして描画した際の色が、反射や吸収などの影響で、異なって認識されることがあるが、酸化チタンを含ませることで、シート状色材そのものの色と、シート状色材を水に溶かした際の色とを近づけることができる。この結果、描画に際して使用者が意図した色材を容易に選択することができる。この目的で酸化チタンを含む場合は、その他の顔料に対して、酸化チタンの含有量が0.1~50質量%であることが好ましい。
【0027】
顔料に、体質材を組み合わせることができる。ここで、本発明において、体質材とは、それ自体の着色性や隠蔽性は低いが、顔料が紙繊維等の間に沈むことを抑制し、また体質材自体が光を散乱することができるものであり、顔料と組み合わせることで、着色性や発色性を高めることができるものをいう。具体的には、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、好ましくはカオリンである。特に、酸化チタンとカオリンとを組み合わせることで、白色度が向上するため、好ましい。なお、これらの体質材の一部は無色ではないので、着色剤としての機能を併せ持っている。
顔料に対する、体質材の含有量は、10~50質量%であることが好ましい。
【0028】
また、染料としては、例えば、フタロシアニン系染料、ピラゾロン系染料、ニグロシン系染料、アントラキノン系染料、アゾ系染料などが挙げられる。
【0029】
着色剤は、透明性、隠蔽性など、目的とする品質に応じて、適宜単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
着色剤の含有量は、その種類によって異なるが、発色および描画性より、シート状色材全体に対し、3~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%である。
【0031】
湿潤保持剤
本発明に用いられる湿潤保持剤は、シート状色材の過乾燥を抑制し、適度に湿らせておく作用をするものである。このため、蒸発しにくい化合物が好ましい。また、湿潤保持剤は、シート状色材中の着色剤の凝集を防ぎ、被膜に塑性を与える作用も有する。この湿潤保持剤は、一般的に複数の水酸基を有する化合物から選ばれ、ポリオール(多価アルコール)であることが好ましい。
【0032】
本発明に用いられる湿潤保持剤としては、ジオールまたはトリオールが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、特に好ましくはグリセリンである。
【0033】
また、シート状色材が十分な強度を有するシート形状を維持するために、湿潤保持剤の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、1~30質量%であることが好ましい。
【0034】
その他の添加剤
本発明による水溶性シート状色材は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。用いることができる添加剤としては、例えば、粘度調整剤、塗布性能改善剤、防腐剤、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。その他通常水性絵の具に使用できるものも含むことができる。これらのうち界面活性剤は、顔料などの分散剤として、あるいは筆記時の塗れ性改良剤として、用いることが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、または両性イオン性のものが知られているが、適宜選択して用いることができる。
また、本発明によるシート状色材は、水を含むことができる。このような水は、溶媒として添加することのほか、着色剤や界面活性剤などの溶媒や分散媒として添加されてもよい。そのような水は後述する製造方法において、蒸発除去されてもよいし、その一部が水溶性シート状色材に残留していてもよい。
【0035】
<水溶性シート状色材の製造方法>
本発明による水溶性シート状色材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように製造することができる。
【0036】
皮膜形成性水溶性ポリマー、溶解促進剤、着色剤、湿潤保持剤、および水を含んでなる混合物を撹拌し、均一な分散液を調製する。着色剤が顔料であるときは、あらかじめ、分散媒に分散された状態であるものを用いることが好ましい。
次に、分散液をベースとなる樹脂フィルム上に、バーコーターやアプリケーターなどにより塗工した後、乾燥し、ベースとなる樹脂フィルムから剥がすことなどにより、シート状色材を製造することができる。
【0037】
また、他の方法としては、皮膜形成性水溶性ポリマー、溶解促進剤、着色剤、湿潤保持剤、および必要に応じて水を含んでなる混合物をニーダーなどで混練し、混練物を押し出し成形し、必要に応じて、カレンダー処理、圧延処理などにより、均一なシート状色材を製造することができる。
【実施例
【0038】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
(1a)シート状色材製造用着色組成物の製造
・皮膜形成性水溶性ポリマー 10質量部
(ポリビニルアルコールI、10質量%水溶液 重合度3,300、ケン化度86.5~89.5モル%)
・溶解促進剤 30質量部
(ポリビニルアルコールIII、20質量%水溶液 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%)
・着色剤 45質量部
(黒色顔料分散体、ピグメントブラック7 20質量%水分散体 10質量%ジエチレングリコール含有)
・湿潤保持剤(グリセリン) 10質量部
・水 29質量部
上記配合物を室温で1時間攪拌混合することにより、シート状色材製造用着色組成物を得た。
(1b)シート状色材の製造
上記(1a)で得られた着色剤組成物を、100μmのポリプロピレンシート上に、バーコーターを用いて塗布し、50℃で12時間乾燥して、ポリプロピレンフィルム上に前記組成物が膜状となった膜状物を得た。この膜状物をポリプロピレンフィルムから剥離することにより、黒色のシート状色材を得た。
【0040】
<実施例2~23、および比較例1~3>
(a)シート状色材製造用着色組成物の製造
以下の表1に示した配合とした以外は実施例1と同じ方法により、シート状色材製造用着色組成物を作製した。得られた着色組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、シート状色材を得た。
【表1】
表中、
・ポリビニルアルコールI:10質量%水溶液 重合度3,300、ケン化度86.5~89.5モル%
・ポリビニルアルコールII:10質量%水溶液 重合度1,800、ケン化度87.0~89.0モル%
・ポリビニルアルコールIII:20質量%水溶液 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%
・セルロースナノファイバー:平均繊維径10~50nm 重合度800 2質量%水溶液
・オレイン酸カリウム:20質量%水溶液
・黒色顔料分散体:ピグメントブラック7 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・赤色顔料分散体:ピグメントレッド170 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・青色顔料分散体1:ピグメントブルー15 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・青色顔料分散体2:ピグメントブルー15:3 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・緑色顔料分散体:ピグメントグリーン7 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・紫色顔料分散体:ピグメントバイオレット23 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・黄色顔料分散体:ピグメントイエロー151 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・銀色顔料:アルミ顔料 平均粒子径10μm
・白色顔料分散体1:ピグメントホワイト6 70質量%水分散体、4質量%エチレングリコール
・白色顔料2:ルチル型酸化チタン 平均粒子径0.27μm
である。
【0041】
得られたシート状色材を以下のように評価した。得られた結果は、表1に記載のとおりである。
【0042】
膜厚
実施例1~23および比較例1~3のシート状色材の膜厚を測定した。膜厚の測定は、マイクロゲージにより行った。なお、比較例2は、膜化したが、脆かったため、膜厚の測定ができなかった。
【0043】
膜形成性評価
実施例1~23および比較例1~3のシート状色材の膜の状態を触診により評価した。評価基準は以下のとおりである。
A+:成膜性が良好で、シート同士のはりつきもない。
A:成膜性は良好。
B:成膜性はほぼ良好であるが、膜がわずかに脆い。
C:膜化は可能であるが、膜が若干脆い。
D:膜化は可能であるが、脆くすぐ崩れてしまう。
E:膜化できない。
【0044】
描画色再現性評価
常温の水を含ませた筆を、それぞれ、実施例1~23および比較例1~3のシート状色材に接触させて擦過し、均一な液状の絵の具にした。そのそれぞれの絵の具を筆に含浸させ、白色の用紙に、描画した。その描画した際の色と、溶かす前のシート状色材の膜の色とを、目視にて比較し、色の再現性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:描画した際の色とシートの色が同じであり、色の視認性が良好。
B:描画した際の色とシートの色がほぼ同じであり、色の視認性は高い。
C:描画した際の色とシートの色が若干異なるが、色の視認性は可能。
D:描画した際の色とシートの色が異なるが、色の認識が可能。
E:シートの色を判別できず、色の認識ができない。
【0045】
再溶解性評価
シート状色材を100倍の水で希釈した時の溶解性、および描画した時の筆跡を目視により評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:溶解性が良好で、着色剤を均一な状態で描画が可能。
B:溶解時にわずかに着色剤の凝集がみられるが、着色剤を均一な状態で描画が可能。
C:溶解時に着色剤に一部凝集がみられ、描画した際にもその影響が現れる。
D:溶解時に着色剤の凝集がみられ、描画した際にもその影響が現れる。
E:再溶解せず、着色剤が凝集がひどく、描画できない。
【0046】
発色性評価
上記描画色再現性評価のように、描画した際の発色性を目視により評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:描画した際の発色性が特に高い。
B:描画した際の発色性が高い。
C:描画した際の発色性がやや低い。
D:描画は可能であるが、その色は薄く、発色性が低い。
E:描画できない。