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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20220620BHJP
   C10M 117/04 20060101ALN20220620BHJP
   C10M 117/06 20060101ALN20220620BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20220620BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20220620BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M117/04
C10M117/06
C10M135/10
C10M133/16
C10N10:02
C10N10:04
C10N20:00 Z
C10N30:00 C
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N50:10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018149309
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020023637
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000228486
【氏名又は名称】日本グリース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有吉 中
(72)【発明者】
【氏名】前田 十世
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102618368(CN,A)
【文献】特開昭58-125794(JP,A)
【文献】特開昭58-125795(JP,A)
【文献】特開2015-147867(JP,A)
【文献】特開平09-255984(JP,A)
【文献】特開2003-055680(JP,A)
【文献】特表2006-501349(JP,A)
【文献】特開平08-120289(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141222(WO,A1)
【文献】米国特許第04897210(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、リチウム複合石けんを含む増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物を含有するグリース組成物であって、
カルシウムスルホネートとスクシンイミド化合物の合計含有量が、増ちょう剤100質量部に対し7.0~40質量部であるグリース組成物
【請求項2】
基油、リチウム複合石けんを含む増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物を含有するグリース組成物であって、
カルシウムスルホネートに対するスクシンイミド化合物の含有量(スクシンイミド化合物の含有量/カルシウムスルホネートの含有量)が0.1~0.8であるグリース組成物。
【請求項3】
カルシウムスルホネートとスクシンイミド化合物の合計含有量が、増ちょう剤100質量部に対し7.0~40質量部である、請求項記載のグリース組成物。
【請求項4】
水洗耐水度が±10%以内である、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
混和ちょう度が220~385である、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
スクシンイミド化合物が、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドである、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性が改善されたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に機械の潤滑において、製鉄所等の圧延機の軸受や、船舶、自動車等の水が混入しやすい部分では、グリース中に水分が混入してグリースが軟化したり流失したりするおそれがあるため、これらの部分に長期間使用可能な耐水性の高いグリース組成物の開発が求められている。例えば、特許文献1には、脂肪酸のカルシウム塩を含有し、高温においても良好な耐水性を示すグリース組成物が開示されている。
【0003】
一方、リチウムコンプレックスグリースは耐熱性に優れることが知られているが、リチウムコンプレックスグリースを構成するアゼライン酸リチウム等の二塩基酸塩は水に溶けやすいため、耐水性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-149696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた耐熱性および耐水性を有するグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、基油、リチウム複合石けんを含む増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物を含有グリース組成物が、優れた耐熱性および耐水性を有し、かつ、ちょう度収率も良好であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は
〔1〕基油、リチウム複合石けんを含む増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物を含有するグリース組成物、
〔2〕水洗耐水度が±10%以内である、〔1〕記載のグリース組成物、
〔3〕混和ちょう度が220~385である、〔1〕または〔2〕記載のグリース組成物、
〔4〕カルシウムスルホネートとスクシンイミド化合物の合計含有量が、増ちょう剤100質量部に対し7.0~40質量部である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔5〕カルシウムスルホネートに対するスクシンイミド化合物の含有量(スクシンイミド化合物の含有量/カルシウムスルホネートの含有量)が0.1~0.8である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のグリース組成物、
〔6〕スクシンイミド化合物が、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のグリース組成物、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグリース組成物は、優れた耐熱性および耐水性を有し、かつ、ちょう度収率も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<グリース組成物>
本実施形態に係るグリース組成物は、基油、リチウム複合石けんを含む増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物を含有することを特徴とする。
【0010】
(基油)
基油は、グリース組成物に使用される通常の基油であれば特に限定されない。一例を挙げると、基油は、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等の処理を、適宜組み合わせて原油から精製した鉱物油;天然ガス等からフィッシャートロプシュ法により合成されたガス液化油(GTL油);ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルシノレート等のジエステル系合成油;トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル系合成油;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル系合成油;多価アルコールと二塩基酸および一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等のエステル系合成油;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール系合成油;モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル系合成油;ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物等の合成炭化水素油;ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン等のシリコーン系合成油;パーフルオロポリエーテル等のフッ素系合成油等である。基油は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
基油の動粘度(40℃)は、50mm2/s以上が好ましく、60mm2/s以上がより好ましい。また、基油の動粘度(40℃)は、1000mm2/s以下が好ましく、600mm2/s以下がより好ましい。基油の動粘度が上記範囲内であることにより、基油の引火点が高温に維持されやすく、かつ、グリース組成物は、流動性(圧送性)がよい。なお、本実施形態において、基油の動粘度は、JIS K 2283によって算出し得る。
【0012】
基油のグリース組成物中の含有量は特に限定されないが、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、基油の含有量は、グリース組成物中、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。基油の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、トルクの増大、流動性の低下および漏えいを防止することができる。
【0013】
(増ちょう剤)
本実施形態における増ちょう剤としては、耐熱性の観点から、リチウム複合石けんが好適に用いられる。
【0014】
リチウム複合石けんとしては、例えば、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸と、水酸化リチウムとの反応によって形成されたものや、油脂(脂肪酸のグリセリンエステル)と、炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸と、水酸化リチウムとの反応によって形成されたものが挙げられる。
【0015】
増ちょう剤として、前記のリチウム複合石けん以外の他の増ちょう剤を適宜含有してもよい。他の増ちょう剤としては、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん等の金属石けん;ナトリウムテレフタラメート、フッ素、有機化ベントナイト、シリカゲル等が挙げられる。
【0016】
増ちょう剤の含有量は、グリース組成物中、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。増ちょう剤の含有量が2質量%未満である場合、得られるグリース組成物が軟質過ぎるため、飛散、漏洩したり、過剰な油分離を引き起こす傾向がある。また、油分離性や流動性の観点から、30質量%以下が好ましく、さらに、ちょう度収率の観点から、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
増ちょう剤中のリチウム複合石けんの含有量は、耐熱性の観点から、60質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、本実施形態における増ちょう剤は、リチウム複合石けんのみからなる増ちょう剤であってもよい。
【0018】
(カルシウムスルホネート)
本実施形態のグリース組成物は、1種以上のカルシウムスルホネート(以下、Caスルホネートと表記することもある)を含有する。
【0019】
Caスルホネートを構成するスルホン酸としては、例えば、石油留出成分中の芳香族成分をスルホン化して得られる石油スルホン酸や、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等の合成スルホン酸等が挙げられ、石油スルホン酸およびジノニルナフタレンスルホン酸が好ましい。
【0020】
Caスルホネートの塩基価は、通常0~500mgKOH/gであるが、他の添加剤等への影響を避けるため、塩基価が0~100mgKOH/g、好ましくは0~50mgKOH/gのものを用いることが望ましい。なお、本実施形態において、塩基価は、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」により算出し得る。
【0021】
Caスルホネートの含有量は、増ちょう剤100質量部に対し、5.0質量部以上が好ましく、8.0質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、12質量部以上が特に好ましい。Caスルホネートの含有量が5.0質量部未満である場合、得られるグリース組成物はちょう度収率に劣り、増ちょう剤量を多くした場合は硬いグリースを得ることが可能となるが、トルク性能や流動性への悪影響が大きく、ちょう度以外の性能を満足しなくなる可能性が高い。また、他の添加剤とのバランスの観点からは、25質量部以下が好ましく、22質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0022】
(スクシンイミド化合物)
本実施形態のグリース組成物は、アルケニルスクシンイミド、アルキルスクシンイミド等のスクシンイミド化合物を含有する。好ましくは、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドである。スクシンイミド化合物は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態のスクシンイミド化合物には、該スクシンイミド化合物をホウ素化合物で処理したホウ素化スクシンイミド化合物も含まれる。
【0023】
前記ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドの「ポリオレフィン」としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。好ましくは炭素数20~500、より好ましくは炭素数40~400、さらに好ましくは炭素数60~350のポリオレフィンである。「ポリアミン」としては、ポリアルキレンポリアミン、環状アミンを含むポリアルキレンポリアミン等が挙げられる。
【0024】
アルケニルスクシンイミド、アルキルスクシンイミド等のスクシンイミド化合物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドは、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるポリオレフィンコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
【0025】
スクシンイミド化合物の含有量は、耐水性の観点から、増ちょう剤100質量部に対し、2.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がさらに好ましく、5.0質量部以上が特に好ましい。また、他の添加剤とのバランスの観点からは、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0026】
カルシウムスルホネートに対するスクシンイミド化合物の含有量(スクシンイミド化合物の含有量/カルシウムスルホネートの含有量)は、0.1~5.0の範囲が好ましく、0.1~2.0の範囲がより好ましく、0.2~1.0の範囲がさらに好ましく、0.3~0.8の範囲が特に好ましい。
【0027】
カルシウムスルホネートとスクシンイミド化合物の合計含有量は、増ちょう剤100質量部に対し、7.0~40質量部が好ましく、10~37質量部がより好ましく、15~37質量部がさらに好ましい。
【0028】
(任意成分)
本実施形態に係るグリース組成物は、本実施形態の効果が損なわれない範囲において、上記の基油、増ちょう剤、カルシウムスルホネート、およびスクシンイミド化合物以外の任意成分をさらに含有し得る。任意成分としては、例えば、耐摩耗剤、極圧添加剤、防錆添加剤、ワックス、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤等が挙げられる。
【0029】
耐摩耗剤としては、例えば、メチレンビスジチオカーバメート、硫黄系耐摩耗剤、リン系耐摩耗剤等が挙げられる。耐摩耗剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態のグリース組成物は、耐摩耗剤が配合されない場合であっても、優れた耐摩耗性を発揮し得る。
【0030】
耐摩耗剤が含有される場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、耐摩耗剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。耐摩耗剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた耐摩耗性が付与され得る。
【0031】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤等が挙げられ、芳香族アミン化合物が好ましい。芳香族アミン化合物としては、例えば、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェノチアジン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、p,p’-ジアミノジフェニルメタン、アルドール-α-ナフチルアミン、p-ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0032】
酸化防止剤が含有される場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、酸化防止剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた酸化安定性が付与され得る。
【0033】
極圧添加剤としては、例えば、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオフォスフェート、チオリン酸エステル、硫化油脂、ジベンジルスルフイド、ジブチルジスルフイド等が挙げられ、硫化油脂が好ましい。極圧添加剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
極圧添加剤が含有される場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、極圧添加剤は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。極圧添加剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られるグリース組成物は、優れた耐荷重性が付与され得る。
【0035】
防錆添加剤としては、亜硝酸ナトリウム等のような環境負荷物質でなければ特に制限されないが、例えば、カルボン酸、カルボン酸塩、エステル系防錆剤、アミン系防錆剤等が挙げられる。防錆添加剤は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
防錆添加剤が含有される場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、防錆添加剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。防錆添加剤の含有量が上記範囲内である場合、優れた防錆性を付与するという利点がある。
【0037】
ワックスとしては、例えば、石油系ワックス、合成ワックス、天然樹脂ワックス等が挙げられる。
【0038】
ワックスが含有される場合のグリース組成物中の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、ワックスの含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。ワックスの含有量が上記範囲内である場合、圧送性に影響を及ぼすことなく付着性を向上させるという利点がある。
【0039】
本実施形態に係るグリース組成物の耐水性は、JIS K 2220 16に準拠した水洗耐水度により評価することができる。該水洗耐水度は、±10%の範囲が好ましく、±8%の範囲がより好ましい。
【0040】
本実施形態に係るグリース組成物の混和ちょう度は、グリース組成物の用途に応じて適宜調整され得るが、漏出の抑制とトルク特性の観点から、220~385の範囲が好ましく、220~340の範囲がより好ましく、310~340(1号)の範囲がさらに好ましい。なお、本実施形態において、混和ちょう度の値は、JIS K 2220 7により、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐をグリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を10倍した値である。
【0041】
本実施形態に係るグリース組成物は、一般に使用される機械、軸受、歯車等に使用可能であることはもちろん、よりグリース潤滑において苛酷な環境下(例えば、高温かつ水分が混入される可能性がある環境下)において優れた性能を発揮することができる。例えば、自動車では、ウォターポンプ、冷却ファンモーター、スターター、オルターネーターおよび各種アクチュエーター部のエンジン周辺、プロペラシャフト、等速ジョイント(CVJ)、ハブベアリング、ホイールベアリングおよびクラッチ等のパワートレイン、電動パワーステアリング(EPS)、電動パワーウィンドウ、制動装置、ボールジョイント、ドアヒンジ、ハンドル部、ブレーキのエキスパンダー等の各種部品等の潤滑に好適に用いることができる。また、パワーショベル、ブルドーザー、クレーン車等の建設機械、鉄鋼産業、製紙工業、林業機械、農業機械、化学プラント、発電設備、鉄道車両等の水分が混入する可能性のある各種軸や勘合部に用いることも好ましい。さらに、シームレスパイプのネジジョイントや船外機の軸受等にも好適に用いることができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0043】
本実施例では、以下の原料が使用された。
増ちょう剤:リチウムコンプレックス石けん(硬化ヒマシ油とアゼライン酸と水酸化リチウムとの反応によって形成されたリチウムコンプレックス石けん)
Caスルホネート:ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム(塩基価:約0.3mgKOH/g)
スクシンイミド化合物:シェブロンジャパン(株)製のOAS1200(高度精製鉱物油(C15-C50)53質量%、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミド47質量%含有)
基油:ポリアルファオレフィン(動粘度(40℃):63.0mm2/s)
【0044】
(実施例および比較例)
表1に記載の処方に従い、グリース組成物を調製した。得られたグリース組成物について以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、スクシンイミド化合物のカッコ内の数値は、ポリオレフィンポリアミンスクシンイミドの含有量(質量部)を示す。
【0045】
<混和ちょう度の測定>
JIS K 2220 7に準拠し、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐を試験用グリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を測定し、測定された値を10倍したものを混和ちょう度とする。
【0046】
<水洗耐水度試験>
JIS K 2220 16に準拠し、79℃の環境下で、試験前のグリースの量100質量%に対する、水に洗い流されたグリースの減失量を測定した。なお、マイナスの値は水分を吸収していることを意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の結果より、カルシウムスルホネートおよびスクシンイミド化合物を併用した本発明のグリース組成物は、カルシウムスルホネートおよびスクシンイミド化合物を単独で使用したグリース組成物に比べて顕著な耐水性を有し、かつ、ちょう度収率も良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のグリース組成物は、優れた耐熱性および耐水性を有することから、高温かつ水分が混入される可能性がある環境下でも使用可能な潤滑剤として有用である。