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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】超音波探傷装置および超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/26 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
G01N29/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018157027
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020030163
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
(72)【発明者】
【氏名】菅原 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】土橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-020665(JP,A)
【文献】特開2013-148597(JP,A)
【文献】特開平06-242090(JP,A)
【文献】特開2008-209364(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0116578(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に超音波を送信し前記検査対象で反射した超音波を受信する所定の方向に配された複数の超音波素子を有する超音波アレイプローブと、
被駆動素子群を構成する複数の前記超音波素子を選択し、選択した前記超音波素子のそれぞれによる超音波の送受信のタイミングを相互にずらすための遅延時間を算出し、算出した前記遅延時間に基づいて送受信された前記超音波に基づいて前記検査対象に内在する欠陥の存在状況を判別する演算部と、
を備え、
前記演算部は、前記検査対象内の所定の位置への超音波ビームの態様が第1態様となるような第1条件と、前記第1態様とは異なる第2態様となるような第2条件を切り替え可能に構成され
前記超音波ビームの前記第1態様と前記第2態様とはビーム径が異なり、前記演算部はビーム径を切り替えるビーム径設定切り替え部をさらに有することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記ビーム径設定切り替え部は、前記被駆動素子群を構成する前記超音波素子の数により前記ビーム径を設定することを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記ビーム径設定切り替え部は、前記超音波ビームの焦点深さを変更することにより前記ビーム径を設定することを特徴とする請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記超音波ビームの前記第1態様と前記第2態様は、前記超音波ビームを照射する測定座標が異なり、当該測定座標を設定し切り替える測定座標設定切り替え部をさらに有することを特徴とする請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
超音波アレイプローブの被駆動素子群を構成する複数の超音波素子のそれぞれが検査対象に超音波を送信し、複数の前記超音波素子が前記検査対象からの反射波を受信する超音波受発信ステップと、
設定切り替え部が、複数の前記超音波素子のそれぞれから送信された超音波により形成された超音波ビームの態様が第1態様となる第1条件と前記第1態様とは異なる第2態様となる第2条件を設定する設定ステップと、
欠陥判別部が、前記第1態様の前記超音波ビームの第1反射信号と、前記第2態様の前記超音波ビームの第2反射信号に基づいて欠陥を判別する欠陥判別ステップと、
を有し、
前記超音波ビームの前記第1態様と前記第2態様とは当該超音波ビームのビーム径が異なり、当該ビーム径を変化させるビーム径切り替えステップをさらに有する、
ことを特徴とする超音波探傷方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)は、非破壊で構造材の表面および内部の欠陥を探査することにより、構造材の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術となっている。小型の超音波送受信用の超音波素子として圧電素子を並べ、圧電素子ごとにタイミング(遅延時間)をずらして超音波を発信することにより任意の波形を形成することができるフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT:Phased Array UT)は、工業用途でも広く用いられている。フェーズドアレイ超音波探傷技術は、所定の角度しか超音波を発信できない単眼プローブに比べ、1回の探傷で広範囲を探傷したり、複数の角度で探傷したり、複雑形状に対応したりすることができる可能性がある。このため、フェーズドアレイ超音波探傷技術は、検査の際の作業工数を低減することが可能な点が大きな魅力となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5797375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、原子力発電所や火力発電所等の大規模発電プラントや社会インフラ設備は高経年化が進み、検査対象となる部位や検出すべき欠陥の種類が、従来に比べて拡大されてきている。
【0005】
これまで求められていた割れや減肉といった連続した長い界面を持つ欠陥は、その位置同定および形状同定に超音波波形の時間情報を用いることが一般的である。一方で、いわゆる溶接や鋳造で生じる融合不良、ブローホールといった球に近い体積欠陥を超音波で測定する場合は位置同定に時間情報を、形状同定には超音波エコーの強度を用いる場合が多い。
【0006】
時間情報を用いる判定では、被検査対象における音速を参照することで一意にその位置を割り出すことができる。一方で、強度を用いた判定では欠陥径に応じた信号強度データベースのような比較対象と照らし合わせて欠陥形状を判定することとなる。
【0007】
しかしながら、体積欠陥は形状が一様でないため、データベースで判定した欠陥形状と実際の欠陥形状に乖離が生じる場合がある。また、複数の小さな欠陥が群として存在した場合には、大きな単体欠陥なのか欠陥群なのかの識別がきわめて困難となる。
【0008】
例えば、電縫鋼管の製造において接合面に生じる群欠陥を検出するための装置が知られているが、これはあくまで界面に生じるのが群欠陥であることを前提とした構成であり、大きな単体欠陥と群欠陥を識別するための技術ではない。
【0009】
そこで本発明の実施形態は、超音波探傷において単体欠陥と群欠陥を識別するなど、高精度な探傷検査を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る超音波探傷装置は、検査対象に超音波を送信し前記検査対象で反射した超音波を受信する所定の方向に配された複数の超音波素子を有する超音波アレイプローブと、被駆動素子群を構成する複数の前記超音波素子を選択し、選択した前記超音波素子のそれぞれによる超音波の送受信のタイミングを相互にずらすための遅延時間を算出し、算出した前記遅延時間に基づいて送受信された前記超音波に基づいて前記検査対象に内在する欠陥の存在状況を判別する演算部と、を備え、前記演算部は、前記検査対象内の所定の位置への超音波ビームの態様が第1態様となるような第1条件と、前記第1態様とは異なる第2態様となるような第2条件を切り替え可能に構成され、前記超音波ビームの前記第1態様と前記第2態様とはビーム径が異なり、前記演算部はビーム径を切り替えるビーム径設定切り替え部をさらに有することを特徴とする。
【0011】
また、本実施形態に係る超音波探傷装置方法は、超音波アレイプローブの被駆動素子群を構成する複数の超音波素子のそれぞれが検査対象に超音波を送信し、複数の前記超音波素子が前記検査対象からの反射波を受信する超音波受発信ステップと、設定切り替え部が、複数の前記超音波素子のそれぞれから送信された超音波により形成された超音波ビームの態様が第1態様となる第1条件と前記第1態様とは異なる第2態様となる第2条件を設定する設定ステップと、欠陥判別部が、前記第1態様の前記超音波ビームの第1反射信号と、前記第2態様の前記超音波ビームの第2反射信号に基づいて欠陥を判別する欠陥判別ステップと、を有し、前記超音波ビームの前記第1態様と前記第2態様とは当該超音波ビームのビーム径が異なり、当該ビーム径を変化させるビーム径切り替えステップをさらに有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、超音波探傷において高精度な検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る超音波探傷方法の手順を示すフロ―図である。
図3】実施形態に係る超音波探傷方法における超音波の各送受信の状態を示し、(a)は体系図、(b)は第1の超音波素子から送信した場合の各超音波素子での受信信号を示す図である。
図4】実施形態に係る超音波探傷方法における超音波の各送受信の状態を示し、(a)は体系図、(b)は第2の超音波素子から送信した場合の各超音波素子での受信信号を示す図である。
図5】実施形態に係る超音波探傷方法における超音波の各送受信の状態を示し、(a)は体系図、(b)は第Nの超音波素子から送信した場合の各超音波素子での受信信号を示す図である。
図6】実施形態に係る超音波探傷方法における遅延時間演算を説明する概念的構成図である。
図7】実施形態に係る超音波探傷方法における推定遅延時間演算を説明する第1のグラフである。
図8】実施形態に係る超音波探傷方法における推定遅延時間演算を説明する第2のグラフである。
図9】実施形態に係る超音波探傷方法における到達時間演算を説明する図であって、(a)は、体系図、(b)は、第1ないし第3の超音波素子から送信した場合の各超音波素子での受信信号を示す図である。
図10】実施形態に係る超音波探傷方法における遅延時間を考慮した各超音波素子での受信信号を示す図である。
図11】実施形態に係る超音波探傷方法において得られた合成波形を示す図である。
図12】実施形態に係る超音波探傷方法において、焦点深さの影響を説明する概念的な断面図であり、焦点深さが測定座標深さより大きな場合を示す。
図13】実施形態に係る超音波探傷方法において、焦点深さの影響を説明する概念的な断面図であり、焦点深さが測定座標深さに等しい場合を示す。
図14】実施形態に係る超音波探傷方法において、焦点深さの影響を説明する概念的な断面図であり、焦点深さが測定座標深さより小さな場合を示す。
図15】実施形態に係る超音波探傷方法において、被駆動素子群の被駆動素子の数の影響を説明する概念的な断面図であり、被駆動素子群の被駆動素子の数が8個の場合を示す。
図16】実施形態に係る超音波探傷方法において、被駆動素子群の被駆動素子の数の影響を説明する概念的な断面図であり、被駆動素子群の被駆動素子の数が4個の場合を示す。
図17】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、単体欠陥が存在する場合であって、ビーム径が小さい場合を示す。
図18】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、単体欠陥が存在する場合であって、ビーム径が大きい場合を示す。
図19】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、2つの小欠陥が存在する場合であって被駆動素子群の被駆動素子の数が8個の場合を示す。
図20】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、2つの小欠陥が存在する場合であって被駆動素子群の被駆動素子の数が4個の場合を示す。
図21】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、小欠陥が1つの場合であって被駆動素子群の被駆動素子の数が8個の場合を示す。
図22】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、小欠陥が1つの場合であって被駆動素子群の被駆動素子の数が8個の場合を示す。
図23】実施形態に係る超音波探傷方法において、ビーム径を変化させた場合の規格化信号強度の変化を示すグラフである。
図24】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第1のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第1の測定位置の場合を示す。
図25】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第1のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第2の測定位置の場合を示す。
図26】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第2のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第1の測定位置の場合を示す。
図27】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第2のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第2の測定位置の場合を示す。
図28】実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合の、測定座標の変化に対する規格化信号強度の変化を示すグラフである。
図29】実施形態に係る超音波探傷方法において、1つの大欠陥が存在する場合の、測定座標の変化に対する規格化信号強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る超音波探傷装置および超音波探傷方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳説明は省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示すブロック図である。また、図2は、実施形態に係る超音波探傷方法の手順を示すフロ―図である。
【0016】
超音波探傷装置100は、検査対象1に内在する欠陥2を超音波により非破壊的に検出する。図1に示すように、超音波探傷装置100は、試験盤110と、超音波アレイプローブ10と、超音波アレイプローブ10を駆動する移動駆動部15とを有する。
【0017】
超音波アレイプローブ10は、複数の超音波素子11と、これらを保持する保持部12とを有する。超音波素子11は、セラミクス製や複合材料製でその圧電効果により超音波を送受信することができる圧電素子、あるいは高分子フィルムによる圧電素子、あるいはそれ以外でも超音波を送受信できる素子である。それぞれの超音波素子11は、超音波をダンピングするダンピング部材と、前面に取り付けられた前面板を有する、たとえば、一般的に超音波探触子と呼ばれるものでよい。
【0018】
超音波アレイプローブ10では、検査対象1に超音波を送信し、検査対象1や欠陥2で反射、散乱された超音波を受信するN個(N:自然数)の超音波素子11が所定の位置に配されている。
【0019】
以下では、超音波アレイプローブ10において、超音波素子11が所定の位置に配されている場合として、一般的にリニアアレイプローブと呼ばれる場合、すなわち超音波素子11が第1の方向に1次元的に配列された場合を例にとって示すが、これに限定されない。所定の位置に配されている場合として、超音波アレイプローブ10が、他のタイプの構成のアレイプローブであってもよい。あるいは複数のタイプを組み合せて使用するいわゆるタンデム探傷でもよい。
【0020】
他のタイプとしては、リニアアレイプローブの奥行き方向(第1の方向に垂直な第2の方法)に超音波素子を不均一な大きさで分割した1.5次元アレイプローブ、超音波素子11が互いに異なる第1の方向および第2の方向に2次元的に配列されたマトリクスアレイプローブ、第1の方向がリング状であり第2の方向が径方向である超音波素子11が同心円状に配列されたリングアレイプローブ、リングアレイプローブの複数の超音波素子11を周方向で分割した分割型リングアレイプローブなどがある。さらには、超音波素子11が不均一に配置された不均一アレイプローブ、第1の方向が円弧状でありその周方向位置に超音波素子11を配置した円弧状アレイプローブ、球面の表面に超音波素子11を配置した球状アレイプローブなどが挙げられる。
【0021】
なお、超音波アレイプローブ10は、コーキングやパッキングを用いることにより、気中環境、液中環境を問わず利用可能なものを含むものとする。
【0022】
移動駆動部15は、たとえば保持部12を把持しながらあるいは保持部12の一部を収納しながら、超音波アレイプローブ10を、検査対象1のまわりで移動駆動させる。
【0023】
超音波を指向性の高い角度で検査対象1へ入射させるために、楔(図示せず)を用いる場合がある。楔には、アクリル、ポリイミド、ゲル、その他の高分子など、超音波が伝搬可能で音響インピーダンスが把握できている等方材を用いる。また、楔には、前面板と音響インピーダンスが近い、もしくは同じ材質を用いることもできる。あるいは、楔には、検査対象1と音響インピーダンスが近い、もしくは同じ材質を用いることもできる。また、段階的もしくは漸次的に音響インピーダンスを変化させる複合材料でもよい。
【0024】
さらに、楔内の多重反射波が探傷結果に影響を与えないように、楔の内外にダンピング材を配置したり、山型の波消し形状の部材を設けたり、多重反射を低減する機構を有することでもよい。なお、以下の説明において、超音波アレイプローブ10から検査対象1へ超音波を入射させる際の楔の記載、図示は省略している。
【0025】
超音波アレイプローブ10と楔との間、楔と検査対象1との間、あるいは超音波アレイプローブ10と検査対象1との間は、音響接触媒質5により、音響的に結合、すなわち音響がほぼ全量通過可能となる。音響接触媒質5は、例えば水やグリセリン、マシン油、ひまし油、アクリル、ポリスチレン、ゲル等であるが、超音波を伝搬できる媒質であればこれら以外も使用できる。なお、以下の説明においては、超音波アレイプローブ10から検査対象1へ超音波を入射させる際に音響接触媒質5の記載を省略している場合もある。
【0026】
試験盤110は、受発信部20、演算部30、記憶部40、制御部50、表示部60、および入力部70を有する。試験盤110は、いわゆるPC(Personal Computer)に代表されるような汎用的に演算やデータ通信を行える機能を有する装置を含み、搭載された各部分を内包し、あるいは通信ケーブルで接続できる構成である。
【0027】
受発信部20は、電位差印加部21、切り替え部22、およびAD変換部23を有する。
【0028】
電位差印加部21は、超音波素子11に振動を生ぜしめる電位差を印加可能である。切り替え部22は、選択された超音波素子11と電位差印加部21とを導通状態とし、また、非導通状態とするよう、すなわち、超音波素子11に電位差を印加した状態と印加しない状態との切り替えを行う。
【0029】
電位差印加部21は、切り替え部22によって導通状態とされた超音波素子11に対して、任意波形の電圧を印加する。印加電圧の波形は、正弦波、鋸歯状波、矩形波、スパイクパルス等があり、正負両極の値をもついわゆるバイポーラの波形でもよいし、正負どちらか一方の極性のユニポーラの波形でもよい。また、正負どちらかのオフセットを付加してもよい。また、波形は単パルス、バーストもしくは連続波などでもよく、さらに、印加時間や繰り返し波数を増減可能とすることでもよい。
【0030】
なお、以降、導通状態とされ電圧を印加される超音波素子11を被駆動素子と呼び、また、同一の焦点を形成するように駆動された複数の超音波素子11を、被駆動素子群と呼ぶものとする。なお、ある被駆動素子群を構成する超音波素子11は、後述する遅延時間を付されて互いに同一時期に駆動され、焦点を結ぶことでもよい。あるいは、実際に同一時期に駆動されれば、所定の焦点を結ぶ複数の超音波素子11について、超音波の送信が個別になされて、その反射波がデータとして信号処理情報記憶部41に記憶され、後述するように、それぞれの遅延時間を考慮して反射波データが合成される場合のこれらの複数の超音波素子11も、被駆動素子群と呼ぶものとする。
【0031】
超音波素子11が受信した反射波が、アナログ信号、すなわち時間に対して連続的な信号である。このため、AD変換部23は、アナログ信号をディジタル信号に変換し、演算部30でのディジタル処理を可能とする。
【0032】
入力部70は、外部からの入力を受け入れる。入力としては、検査対象1の形状、寸法、材質等の検査対象1の属性に関する情報、検査対象1の温度などの検査対象1の状態に関する情報などである。また、送信に用いられる超音波素子11および受信に用いられる超音波素子11の選択指示も併せて入力される。さらに、詳細は後述するが、予め検査対象1とは別の対象物を使用して事前に試験的に把握した特性データの外部入力を受け入れる。
【0033】
表示部60は、受発信部20、演算部30および記憶部40からの情報に基づいて、検査結果の画像を始め、検査員などのために必要とされる情報を、進行順序に基づいて計画的に、あるいは、要求に応じて表示する。表示部60は、ディジタルデータを表示できるものであればよく、液晶表示装置、プロジェクタ、ブラウン管等でもよい。また、表示部60は、設定した条件に応じて音や発光によりアラームを生じさせたり、タッチパネルとして操作を入力したりするユーザインタフェース機能を有してもよい。
【0034】
記憶部40は、信号処理情報記憶部41および依存特性記憶部42を有する。
【0035】
信号処理情報記憶部41は、超音波アレイプローブ10が受信した反射波を受発信部20のAD変換部23がAD変換した後の反射波の情報すなわち反射波のディジタルデータ、および、演算部30においてそれぞれの要素において演算処理された結果を、保存する。
【0036】
依存特性記憶部42は、複数の欠陥2が互いに近い距離に存在する場合、あるいは、単一の欠陥が存在する場合などにおいて、測定座標P(図15)でのビーム径dに対する反射波の強度のそれぞれの依存特性を予め検査対象1とは別の対象物を使用して試験的に把握しデータ化したものを、入力部70を介して受け入れて記憶する。また、以下に説明するように、検査対象1について行った探傷の結果により得られたビーム径dあるいは測定座標Pに対する反射波の強度の依存特性を記憶する。
【0037】
ここで、超音波ビームとは、複数の超音波素子11からそれぞれ送信された超音波同士が重なることにより形成される帯状または棒状の領域、すなわち、後述する方法によりそれぞれの超音波が合成されたものの空間的な集合を言うものとする。また、ビーム径とは、超音波ビームの進行方向のそれぞれの位置における超音波ビームの断面の代表的な幅を言うものとする。代表的な幅とは、たとえば、円形であれば直径、楕円形状であれば長径または短径、ほぼ長方形であれば長辺または短辺の長さなどを言うものとする。
【0038】
なお、超音波ビームは、現実にビームが実現されていなくともよい。すなわち、被駆動素子群を形成するそれぞれの超音波素子11から個別に送信された超音波によるそれぞれの反射波が事前に反射波データとして収集された場合に、遅延時間、すなわちそれぞれの超音波素子11と測定座標Pとの関係から算出されてそれぞれの超音波素子11に割り当てられた遅延時間を考慮して合成されることにより仮想的に得られる超音波ビームでもよい。
【0039】
制御部50は、試験盤110内の各構成要素におけるそれぞれの処理が、全体として整合をとりながら進められるように、試験盤110内の各構成要素の進行状態を監視し、それぞれの処理のタイミング等を制御する。
【0040】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、まず、被駆動素子群の超音波素子11から、それぞれ個別に超音波を発し、信号処理情報記憶部41が、それぞれの反射波データを保存する(ステップS01)。
【0041】
図3ないし図5は、本実施形態に係る超音波探傷方法における超音波の各送受信の状態を示し、(a)は体系図、(b)各超音波素子での受信信号を示す図であり、図3は第1の超音波素子、図4は第2の超音波素子、図5は第Nの超音波素子から送信した場合を示す。超音波探傷装置100は、超音波素子11が、x方向に並ぶような方向を長手方向として設置されている。それぞれの超音波素子11からは、検査対象1の深さ方向(z方向)に向けて超音波が送信され、送信された超音波は、時間とともに拡がっていく。
【0042】
なお、超音波探傷装置100においては、この場合、3つで一組の超音波素子11が、たとえば、まずは(1,2,3)、次は(2,3,4)、次は(3,4,5)、・・・、(N-2,N-1,N)と順次1つずつずれていくことにより、長手方向(x方向)にスキャンする。
【0043】
なお、それぞれの(b)において、Uf(i,j)の表示は、第i番目の超音波素子11から送信し、第j番目の超音波素子11で受信した反射波の波形であることを表わす。また、以下において、Uf(i,j)をUfi,jと表す場合もある。
【0044】
以上のような超音波送受信では、1つの超音波素子で超音波を送信し、複数の超音波素子で超音波を受信し、超音波素子ごとに独立した状態で超音波波形Uf(i,j)を保持する。N個の超音波素子から成る超音波アレイプローブを使用した場合、送信素子を変えていくと最大でN×Nパターンの超音波波形が収録される。ここで、受信は圧電素子ごとに独立した状態で波形を保持する機能を維持したまま、送信に用いる素子だけを複数化することも可能である。この場合、遅延時間をかけて超音波の平面波化、集束、拡散などを行うこともできる。
【0045】
演算部30は、超音波素子11からの超音波の発信のタイミングの決定や、受信された波形に基づいて合成画像データの作成などを行う。演算部30は、測定座標設定切り替え部31、遅延時間演算部32、合成演算部33、探傷画像描画部34、ビーム径設定切り替え部35、規格化信号強度算出部36、および欠陥判別部37を有する。
【0046】
なお、測定座標設定切り替え部31とビーム径設定切り替え部35は、設定切り替え部を構成する。設定切り替え部は、後述する超音波ビームの態様を切り替える。超音波ビームの態様としては、たとえば、測定座標設定切り替え部31により設定、変更される測定座標、あるいは、ビーム径設定切り替え部35により設定、変更されるビーム径がある。
【0047】
測定座標設定切り替え部31は、検査対象1において注目する位置としての測定座標Pの座標位置を設定し、あるいは、変更する。測定座標Pは、たとえば、x-z平面における座標、3次元空間における座標の形式でもよいし、あるいは、メッシュ分割した上で、それらの全てに順次一貫番号を付して1次元的に表現したものでもよい。
【0048】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、次に、設定切り替え部のうちの測定座標設定切り替え部31が、測定座標Pを選択する(ステップS02)。
【0049】
遅延時間演算部32は、それぞれの超音波素子11から送信した超音波が、焦点3(図3)に集束するようにするために必要な、送受信するタイミングを相互にずらすための遅延時間を算出する。
【0050】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、次に、遅延時間演算部32が、遅延時間を演算する(ステップS03)。図6は、遅延時間演算を説明する概念的構成図である。図7は、推定遅延時間演算を説明する第1のグラフ、図8は、第2のグラフである。
【0051】
遅延時間は、被駆動素子群の中心C(図12)と焦点F(図6)の位置関係から算出される。ここで焦点Fは、合成波形Mを構成するための被駆動素子群の中心Cから入射角α、屈折角βの経路を通過してある深さに至った座標である。被駆動素子群の中心Cから焦点Fまでの直線距離を被検査対象の音速で除することにより、図7に示すような各超音波素子から照射された超音波が焦点Fに達するまでの伝播時間がそれぞれ得られる。図8に示されるように、全ての超音波素子11の伝播時間を、伝播時間のうち最も長いもので減じ、正負を反転させたものが各超音波素子11に付加される遅延時間となる。
【0052】
たとえば、実際に超音波を焦点に収束させるために送信する場合を例にとると、それぞれの超音波素子11から、それぞれに割り振られた送信側の遅延時間分だけ遅らせて送信すると、結果として所定の焦点に収束することになる。すなわち、被駆動素子群を構成するそれぞれの超音波素子11から送信側の遅延時間を考慮して送信された超音波は、同じタイミングに焦点を通過する。
【0053】
音響接触媒質5を超音波アレイプローブ10と検査対象1の間に設ける場合は、スネルの法則を用いて各超音波素子11から検査対象1に超音波が入射する点を算出し、音響接触媒質5と検査対象1の音速をそれぞれ用いて、それぞれの伝搬に要する伝播時間を演算してから遅延時間を算出する。
【0054】
遅延時間は、送信と受信の双方の経路で演算される。この時用いる検査対象1の表面形状は一般的な平面や傾いた平面だけに限らず曲率や凹凸部があっても、それを考慮した幾何計算を行うこともできる。これは、スネルの法則を用いる入射点の計算時に、超音波が入射する表面の点の角度情報(接線角度)を反映することで可能となる。検査対象1の表面形状は、超音波アレイプローブ10から発せられた超音波の伝播時間を用いて計算してもよいし、既存の図面等の形状データを読み込んでもよい。また、カメラやレーザ距離計等の検査対象1の表面形状を計測する手段を、超音波アレイプローブ10に付属させたり、その近くに別途設けたりしてもよい。
【0055】
合成演算部33は、受信するそれぞれの超音波素子11で得られた受信信号を遅延時間分だけ時間軸方向にずらし、ずらし終わった各超音波素子11の同一時刻における信号を合成することによって、合成波形Mを得る。以下、具体的な内容を説明する。
【0056】
図9は、実施形態に係る超音波探傷方法における到達時間演算を説明する図であって、(a)は、体形図、(b)は、第1ないし第3の超音波素子から送信した場合の各超音波素子での受信信号を示す図である。図9に示すように、第1ないし第3の超音波素子11のそれぞれから順次、超音波を送信し、それぞれの送信について、第1ないし第3の超音波素子11のそれぞれが超音波を受信する。この結果、送信側(i=1~3)の超音波素子11と受信側(j=1~3)の超音波素子11との組み合わせにより9通りの波形が得られる。
【0057】
図9の(b)は、それぞれの送信側の超音波素子11からの送信のタイミングを合わせた超音波信号Ufi,jの基本波形を示している。それぞれの波形において、欠陥2で反射した部分が、有意な形状として現れている。欠陥2以外であっても、検査対象1の底面など外形を形成する不連続部分などでも、有意な反射が生ずる。反射波において、このような有意な反射による部分を以下、形状反射部分と呼ぶこととする。
【0058】
図10は、実施形態に係る超音波探傷方法における遅延時間を考慮した各超音波素子での受信信号を示す図である。斜線で塗りつぶした長方形の横方向の長さが、送信用遅延時間、すなわち各超音波素子11から焦点3あるいは欠陥2までの到達時間の時間差を示す。白抜きの長方形の横方向の長さが、受信用遅延時間、すなわち焦点3あるいは欠陥2から各超音波素子11までの到達時間の時間差を示す。このように遅延時間を加味すると、それぞれの反射波の超音波信号Ufi,jにおける形状反射部分のタイミングはほぼ一致する。
【0059】
合成演算部33は、以上のように、受信するそれぞれの超音波素子11で得られた超音波信号Ufi,jを遅延時間分だけ時間軸方向にずらした後に、超音波信号Ufi,jを1つの合成波形Mに合成する。ここで、合成は、たとえば、各信号レベルの加算あるいは平均化により行うが、他の方法を用いてもよい。
【0060】
図11は、実施形態に係る超音波探傷方法において得られた合成波形を示す図である。合成演算部33による合成演算の結果得られた合成波形Mにおいては、形状反射部分が強調され、存在が明確となる。また、形状反射部分の発生時刻Trから、形状反射部分を生ぜしめた反射の位置の範囲を特定することができる。
【0061】
探傷画像描画部34は、検査対象1についての超音波アレイプローブ10のx方向の設置位置で、それぞれ得られた波形を用いて、それぞれのx-z断面の画像用、すなわち長手方向深さ探傷画像用のデータを演算する。画像化は、一般的にB-scanやS-scanと呼ばれる方法である。この画像は、探傷時の探傷条件に応じた屈折角や探傷屈折角により再構成される。
【0062】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、次に、設定切り替え部のうちのビーム径設定切り替え部35が、超音波ビームの一態様であるビーム径を設定する(ステップS04)。
【0063】
ビーム径設定切り替え部35は、測定座標Pにおける超音波のビーム径d(m,n)を変化させることで、検査対象1内の所定の位置を通過する超音波ビームの態様を、第1態様および第1態様とは異なる第2態様に切り替えることができるように構成されている。ここでmはビーム径の番号、nは測定座標Pの番号を表す。測定座標Pの番号n(以下、測定座標番号n)は、たとえば、x-z平面(2次元平面)を2次元的にメッシュ分割した上で、それらの全てに順次一貫番号を付して1次元的に表現したものである。nに代えてたとえば(k,l)のよう座標を2次元的に表わしてもよい。
【0064】
ある測定における超音波ビームの態様を規定するビーム径は、遅延時間および被駆動素子群の数のどちらかもしくは両方の制御により可能となる。すなわち、本実施形態における演算部30のビーム径設定切り替え部35は、検査対象1内の所定の位置への超音波ビームの態様(ビーム径)が第1態様(第1のビーム径)となるような第1条件と、検査対象1内の所定の位置への超音波ビームの態様(ビーム径)が第1態様(第1のビーム径)とは異なる第2態様(第2のビーム径)となるような第2条件を、被駆動素子群を構成する超音波素子11の選択、および選択した複数の超音波素子11のそれぞれに対する遅延時間、の少なくともいずれかによって設定する。
【0065】
まず、図12ないし図14を用いて、遅延時間により超音波ビーム径を制御する場合を示す。
【0066】
図12は、実施形態に係る超音波探傷方法において、焦点深さの影響を説明する概念的な断面図であり、焦点深さが測定座標深さより大きな場合、図13は、焦点深さが測定座標深さに等しい場合、また、図14は、焦点深さが測定座標深さより小さな場合を示す。
【0067】
すなわち、測定座標Pの位置を固定して、焦点3の位置を変化させている。焦点3の位置は、遅延時間をこれに対応するように設定することにより調整できる。
【0068】
図12ないし図14に示すように、焦点3の深さ位置が測定座標Pの深さ位置と同じ場合(図13)が、測定座標Pにおける超音波ビームのビーム径dが最小であり、焦点3の深さ位置がこれより深い場合も浅い場合もビーム径dは大きくなる。このように、測定座標Pの深さを基準として焦点3の深さを変化させることにより、測定座標Pにおける超音波ビームのビーム径dを調節することができる。
【0069】
次に、図15および図16を用いて、被駆動素子数、すなわち被駆動素子群を構成する超音波素子11の個数によりビーム径dを制御する場合を示す。図15は、実施形態に係る超音波探傷方法において、被駆動素子数の影響を説明する概念的な断面図であり、被駆動素子数が8個の場合を示し、図16は、被駆動素子数が4個の場合を示す。
【0070】
焦点3における超音波ビームのビーム径dは、次の式(1)により得られる。
d=k・Lf・λ/D ・・・(1)
ここで、Lfは焦点距離、λは超音波の波長、Dは有効開口であり被駆動素子群の径あるいは被駆動素子数に比例する。すなわち、被駆動素子数が大きいほど有効開口が大きくなり収束性が向上する。このように、超音波のビーム径dは、被駆動素子数に逆比例する。
【0071】
図15に示す超音波ビームと図16に示す超音波ビームは、同じ深さに焦点3を設定しており両者で焦点距離Lfは同じである。したがって、図16に示す被駆動素子数が4個の場合に比べて、図15に示す被駆動素子数が8個の場合の方が、小さいビーム径dが得られる。
【0072】
図17は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、大きな単体欠陥が存在する場合であって、ビーム径が小さい場合を、また、図18は、ビーム径が大きい場合を示す。すなわち、大きな単体欠陥2aに焦点を当てた測定の際に、ビーム径を変化させた場合の例を示している。
【0073】
超音波ビームのビーム径dが小さな場合(図17)および大きな場合(図18)のいずれにおいても、大きな単体欠陥2aが超音波ビームの断面より大きな場合は、超音波ビームの全てが大きな単体欠陥2aの範囲内にあるため、基本的に大きな単体欠陥2aにおいて超音波が全て反射、散乱されることとなる。
【0074】
規格化信号強度算出部36は、超音波ビームの反射波に基づいて、規格化信号強度R(m,n)を算出する。具体的には、超音波ビームの反射波の強度、あるいは、被駆動素子群を構成するそれぞれの超音波素子11による超音波が反射された反射波の合成波の強度を、被駆動素子群に属する超音波素子11の個数で除した規格化信号強度R(m,n)を算出する。
【0075】
規格化信号強度算出部36により、規格化信号強度の算出がなされる(ステップS05)と、被駆動素子群の数が異なることで単体欠陥2aに照射される音圧が異なる。しかしながら、いずれも、単体欠陥2aにおいて超音波が全て反射、散乱されるため、被駆動素子群数で除して規格化することにより、算出されたビーム径番号1の超音波ビームに対応する規格化信号強度R(1,n)とビーム径番号2の超音波ビームに対応する規格化信号強度R(2,n)は、ほぼ同じ値を取ると考えられる。なお、図17、18では規格化信号強度R(i,n)の値は正ピーク対負ピークの差分を示したが、それぞれ片方のピークで求めてもよいし、もしくは波形の積分値で求めてもよい。
【0076】
次に、2つの小欠陥2b(図19図20)に焦点を当てた測定の際に、ビーム径dを変化させた場合の例を示す。すなわち、図19は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、2つの小欠陥が存在する場合であって被駆動素子数が8個の場合を示し、図20は、被駆動素子数が4個の場合を示す。
【0077】
超音波ビームが絞れている図19に示す場合のビーム径番号1の超音波ビームのビーム径d(1,n)では、2つの小欠陥2bの間を超音波ビームのほとんどが通過してしまうため、図17に示す大きな単体欠陥2aの場合に比べて反射波の規格化信号強度R(1,n)は大きく低下してしまう。
【0078】
一方、超音波ビームがあまり絞れていない図20に示す場合のビーム径番号2の超音波ビームのビーム径d(2,n)では、広がった超音波ビームの多くが両方の小欠陥2bに照射されるため、ある程度の規格化信号強度R(2,n)を有する反射波が得られる。
【0079】
次に、1つの小欠陥2c(図21図22)に焦点を当てた測定の際に、ビーム径dを変化させた場合の例を示す。すなわち、図21は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つのビーム径による違いを説明する概念的な断面図であり、1つの小欠陥が存在する場合であって被駆動素子数が8個の場合を示し、図22は、被駆動素子数が4個の場合を示す。
【0080】
図21に示したビーム径dが小さく、小欠陥2cとほぼ同じ大きさの場合、超音波ビームのほぼ全量が反射する。一方、図22に示したビーム径dが大きく、小欠陥2cより大きな場合、小欠陥2cで反射する超音波ビームは、超音波ビームの全量の一部のみとなり、それ以外は小欠陥2cを通過してしまう。したがって、規格化した場合、小欠陥2cの場合、ビーム径dが小さい場合は、ビーム径dが大きい場合より、反射波の規格化信号強度R(1,n)が大きくなる。
【0081】
図23は、実施形態に係る超音波探傷方法において、ビーム径を変化させた場合の規格化信号強度の変化を示すグラフである。横軸は超音波のビーム径d(m,n)であり、縦軸は、規格化信号強度R(m,n)である。前述のように、mはビーム径の番号、nは測定座標Pの番号(測定座標番号)を表す。
【0082】
実線Aは、大きな単体欠陥2a(図17および図18)の場合である。図17に示したビーム径番号m1の小さなビーム径d(m1,n)の場合と、図18に示したビーム径番号m2の大きなビーム径d(m2,n)の場合においては、いずれも超音波ビームの全量が反射されることから、それぞれの規格化信号強度R(m1,n)および規格化信号強度R(m2,n)は、ほぼ等しい値となる。
【0083】
破線Bは、2つの小欠陥2b(図19および図20)の場合である。図19に示した小さなビーム径d(m1,n)の場合は超音波ビームの大半が2つの小欠陥2bの間を通過するため規格化信号強度R(m1,n)が小さくなる。一方、図20に示した大きなビーム径d(m2,n)の場合においては、超音波ビームの大半が反射されることから、規格化信号強度R(m2,n)は、小さなビーム径d(m1,n)の場合の規格化信号強度R(m1,n)より大きくなる。
【0084】
点線Gは、1つの小欠陥2c(図21および図22)の場合である。図21に示した小さなビーム径d(m1,n)の場合は超音波ビームの大部分が小欠陥2cで反射されるため規格化信号強度R(m1,n)は大きい。一方、図22に示した大きなビーム径d(m1,n)の場合においては、超音波ビームの一部は反射されるが多くは小欠陥2cの外側を通過するため規格化信号強度R(m2,n)は、小さくなる。
【0085】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、次に、所定のビーム径の変更範囲のすべてのビーム径についての測定が終了したか否かを判定する(ステップS06)。終了していないと判定された場合(ステップS06 NO)には、ステップS04ないしステップS06を繰り返す。終了したと判定された場合(ステップS06 YES)には、次のステップに進む。
【0086】
次に、依存特性記憶部42が、規格化信号強度Rのビーム径dへの依存性を取得する(ステップS07)。すなわち、各ビーム径dと、それぞれのビーム径dにおける規格化信号強度Rとの関係を所定の形式で保存する。
【0087】
以上に示したように、大きな単体欠陥2a、2つの小欠陥2b、および1つの小欠陥2cのそれぞれの場合においては、たとえば、小さなビーム径d(m1,n)と大きなビーム径d(m2,n)のように、超音波のビーム径dに対する規格化信号強度R(m,n)の依存性が異なるという結果が得られる。すなわち、ビーム径d(m,n)に対する規格化信号強度R(m,n)の特性は、図23に示すように、大きな単体欠陥2aの場合は変化なし、2つの小欠陥2bの場合は増加、また、1つの小欠陥2cの場合は減少という特性となる。
【0088】
なお、前述のように、ビーム径d(m,n)に対する規格化信号強度R(m,n)の特性は、欠陥2の大きさを想定し、あるいはパラメータとすることにより、あらかじめ試験データとして採取しておくことができる。また、図23では、ある大きさの大欠陥と小欠陥についての特性を示しているが、欠陥2の径を、さらに詳細化すれば、それぞれに対応する特性曲線が得られる。
【0089】
事前に採取された依存特性データおよび当該探傷試験で採取された依存特性データは、外部入力として入力部70を介して受け入れられ、依存特性記憶部42に依存特性データベースとして収納される。依存特性データベースは、2次元的データ(R,d)のセットでもよいし、図23に示すような特性曲線を多項式近似等により近似する関数形式でもよい。
【0090】
図2に示すように、超音波探傷方法においては、次に、測定座標範囲の測定を終了したか否かの判定を行う(ステップS08)。すなわち、複数の測定座標Pについて探傷を行う場合、全ての測定座標Pについて探傷を終了したか否かを判定する。終了していないと判定された場合(ステップS08 NO)には、ステップS02ないしステップS08を繰り返す。
【0091】
全ての測定座標Pについて探傷を終了したと判定された場合(ステップS08 YES)には、依存特性記憶部42が、さらに、規格化信号強度R(m2,n)の測定座標Pへの依存特性を保存する(ステップS09)。ステップS09の詳細については、次のステップS10についての説明の後に説明する。
【0092】
最後に、欠陥判別部37が、欠陥を判定する(ステップS10)。
【0093】
欠陥判別部37は、ビーム径設定切り替え部35により切り替えられた複数のビーム径d(m,n)の超音波ビームによるそれぞれの反射波の規格化信号強度R(m,n)、あるいは規格化信号強度R(m,n)の相対値を、依存特性記憶部42に収納されたビーム径依存性データベースと照合して、欠陥2の状況、すなわち、欠陥2の大きさ等を判別する。
【0094】
この際、たとえば、検査対象1について取得され依存特性記憶部42に保存されている特性データと、事前に入力部70を経由して依存特性記憶部42が受け入れて保存している特性データベース内の特性データ間の対応関係を、たとえばパターン認識により判別してもよい。あるいはたとえば、最小二乗法により特性データベース内の最も近い特性データを選択してもよい。
【0095】
なお、欠陥判別部37は、ビーム径d(m,n)の変化に対する規格化信号強度R(m,n)の変化傾向から欠陥の判別を行ってもよい。
【0096】
図23に示すように、ビーム径dの変化に対する規格化信号強度R(m,n)の変化、すなわち規格化信号強度R(m,n)のビーム径dへの依存特性によって、欠陥の大小の判別が可能である。
【0097】
以上は、ビーム径設定切り替え部35によるビーム径dの切り替えによる規格化信号強度R(m,n)の変化に基づく判定方法であるが、前記のステップS09およびステップS10による測定座標への依存特性による方法を用いてもよい。すなわち、以下に説明するように、ビーム径dの切り替えと併せて、測定座標設定切り替え部31が測定座標番号nを切り替え、これによる規格化信号強度R(m,n)の変化に基づく判定方法である。
【0098】
すなわち、本実施形態において、演算部30の測定座標設定切り替え部31が測定座標番号nを切り替えることで、検査対象1内の所定の位置を通過する超音波ビームの態様である測定座標番号nが第1の測定座標番号n1となるような第1条件と、検査対象1内の所定の位置を通過する超音波ビームの態様である測定座標番号nが第1の測定座標番号n1とは異なる第2の測定座標番号n2となるような第2条件を設定するように構成することもできる。
【0099】
測定座標設定切り替え部31による測定座標番号nの切り替えは、被駆動素子群を構成する超音波素子11の選択、および選択した複数の超音波素子11のそれぞれに対する遅延時間、の少なくともいずれかによって設定可能である。
【0100】
なお、測定座標設定切り替え部31が測定座標番号nの切り替えに代えて、超音波アレイプローブ10全体を走査してもよいし、リニアアレイのように被駆動素子群を変化させていってもよい。
【0101】
図24は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第1のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第1の測定位置Paの場合を示し、また、図25は、第2の測定位置Pbの場合を示す。2つの小欠陥2bが存在している場合を例にとって示している。
【0102】
また、図26は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合であって、第2のビーム径で、測定位置による違いを説明する概念的な断面図であり、第1の測定位置Paの場合を示し、また、図27は、第2の測定位置Pbの場合を示す。
【0103】
なお図24および図25で示すビーム径番号m1の超音波ビームのビーム径d(m1,n1)およびd(m1,n2)は、図26および図27で示すビーム径番号m2の超音波ビームのビーム径d(m1,n1)およびd(m1,n2)より小さい。
【0104】
まず、図24および図25に示すビーム径が小さい方のビーム径番号m1の場合について説明する。今、図24に示すように、第1の測定座標番号n1においては、ビーム径d(m1、n1)が2つの小欠陥2bの一方の大きさとほぼ等しく、超音波ビームのほぼ全量が反射される。一方、図25に示すように、測定座標番号n2においては、超音波ビームが一方の小欠陥2bの中心からずれるため、ごく一部が反射されるにとどまる。なお、さらに測定座標番号nがずれると、他の小欠陥2cでの反射が生ずるため、再び規格化信号強度R(m1,n1)は増加する。
【0105】
したがって、ビーム径番号m1の超音波ビームのビーム径d(m1,n1)の場合において、測定座標番号n1の場合の規格化信号強度R(m1,n1)は、測定座標番号n2の場合の規格化信号強度R(m1,n2)より大きい。
【0106】
次に、図26および図27に示すビーム径が大きいビーム径番号m2の場合について説明する。今、図26に示すように、第1の測定座標番号n1においては、ビーム径d(m2、n1)が2つの小欠陥2bの一方の大きさとほぼ等しく、超音波ビームのほぼ全量が反射される。一方、図27に示すように、測定座標番号n2においては、超音波ビームが一方の小欠陥2b全てをカバーしなくなる代わりに、他方の小欠陥2bの一部をカバーするようになる。したがって、2つの小欠陥2bそれぞれからの反射分の合計は、ほぼ一定となる。
【0107】
したがって、ビーム径d(m1,n1)すなわちビーム径番号m1の超音波ビームの場合においては、測定座標番号n1の場合の規格化信号強度R(m1,n1)は、測定座標番号n2の場合の規格化信号強度R(m1,n2)より大きい。
【0108】
図28は、実施形態に係る超音波探傷方法において、2つの小欠陥が存在する場合の、測定座標の変化に対する規格化信号強度の変化を示すグラフである。横軸は、測定座標Pの座標の値(測定座標番号)nであり、縦軸は、規格化信号強度R(m,n)である。
【0109】
実線の曲線Eは超音波のビーム径d(1、n)が小欠陥2bのそれぞれの径と同程度の場合、点線の曲線Fは超音波のビーム径d(2、n)が小欠陥2bのそれぞれの径より大きな場合を示す。
【0110】
超音波のビーム径d(1、n)が小欠陥2bのそれぞれの径と同程度の場合、測定座標Pの値nが小欠陥2bの一方の位置に対応する値に近づくと徐々に反射量が増える。さらに、小欠陥2bの一方の位置に対応する値になると、超音波ビームのほぼ全量が反射する。さらに座標nを変化させると、超音波ビームが2つの小欠陥2bの間を通過するため、反射成分が低下する。さらに、小欠陥2bの他方の位置に対応する値になると、再び、超音波ビームのほぼ全量が反射する。さらに位置がずれると、反射量が低下する。
【0111】
以上のような変化から、横軸の測定座標Pの変化に対して、規格化信号強度R(m,n)には、2つのピークが発生する。
【0112】
一方、超音波のビーム径d(2,n)が、2つの小欠陥2bが存在する範囲よりも大きく、2つの小欠陥2bをカバーしている場合は、これらをカバーしている範囲では、測定座標が変化しても、反射波強度はほとんど変化しないため、幅の広い1つのピークとなる。
【0113】
図29は、実施形態に係る超音波探傷方法において、1つの大欠陥が存在する場合の、測定座標の変化に対する規格化信号強度の変化を示すグラフである。すなわち、測定座標を変化させた場合の規格化信号強度の変化を示すグラフであり、単体欠陥の場合である。図28と同様に、横軸は、測定座標Pであり、縦軸は、規格化信号強度R(m,n)である。また、実線の曲線Eは超音波のビーム径d(1、n)が大欠陥2a(図17)の径と同程度の場合、点線の曲線Fは超音波のビーム径d(2、n)が大欠陥2aの径より大きな場合を示す。
【0114】
図29では、欠陥が、図28では2つの小欠陥2cの場合であるのに対して、大欠陥2aが1つ存在する場合である点が異なる。
【0115】
ビーム径dが大きい場合は、図29に示したように信号強度に大きな変化は発生しない。これはビーム径dに対して欠陥2aの大きさが大きいため、超音波ビームが欠陥2aのどこかに照射され、ほぼ全量が反射するためである。
【0116】
ステップS09の次には、前述のように、欠陥判別部37が欠陥を判別する(ステップS10)。
【0117】
欠陥判別部37は、測定座標設定切り替え部31により切り替えられた複数の測定座標Pについての超音波ビームによるそれぞれの反射波の規格化信号強度R(m,n)、あるいは規格化信号強度R(m,n)の相対値を、依存特性記憶部42に収納されたビーム径依存性データベースと照合して、欠陥2の状況、すなわち、欠陥2の大きさ等を判別する。
【0118】
以上のように、測定座標Pの変化に対する規格化信号強度R(m,n)の変化、すなわち規格化信号強度R(m,n)の測定座標への依存特性によっても、欠陥の大小の判別が可能である。
【0119】
以上のように、本実施形態によれば、超音波探傷において単体欠陥と群欠陥を識別するなど、高精度な探傷検査が可能となる。
【0120】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0121】
たとえば、実施形態においては、被駆動素子群を構成する超音波素子11のそれぞれから、個別に超音波を送信しその反射波をそれぞれ個別に収集し、その後、信号処理として合成し、仮想的な超音波ビームを形成するものとして扱っているが、これに限定されない。すなわち、被駆動素子群を構成する超音波素子11について、実際にそれぞれの遅延時間を考慮して送信を行い、実際に超音波ビームを形成し、反射波を得ることでもよい。
【0122】
また、前述の式(1)で示したように、超音波のビーム径dは(Lf・λ/D)に比例することから、超音波の波長λを変更することにより超音波のビーム径dを調製する方法を用いてもよい。波長λの変更は、超音波素子11の振動子の面積あるいは厚みを変更することにより可能であり、これらを変更した超音波素子11を有する超音波アレイプローブに交換して行う方法などがある。
【0123】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0124】
1…検査対象、2…欠陥、2a…単体欠陥、2b、2c…小欠陥、3…焦点、5…音響接触媒質、10…超音波アレイプローブ、11…超音波素子、12…保持部、15…移動駆動部、20…受発信部、21…電位差印加部、22…切り替え部、23…AD変換部、30…演算部、31…測定座標設定切り替え部(設定切り替え部)、32…遅延時間演算部、33…合成演算部、34…探傷画像描画部、35…ビーム径設定切り替え部(設定切り替え部)、36…規格化信号強度算出部、37…欠陥判別部、40…記憶部、41…信号処理情報記憶部、42…依存特性記憶部、50…制御部、60…表示部、70…入力部、100…超音波探傷装置、110…試験盤、C…被駆動素子群の中心、P…測定座標
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