(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】マイクロ波管の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 23/20 20060101AFI20220620BHJP
H03B 9/04 20060101ALI20220620BHJP
H01J 25/02 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H01J23/20 A
H03B9/04
H01J25/02
(21)【出願番号】P 2018220293
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-038981(JP,B2)
【文献】特開2015-204193(JP,A)
【文献】特開平11-120925(JP,A)
【文献】特開2011-243420(JP,A)
【文献】実開昭62-202756(JP,U)
【文献】特開昭60-030035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0152176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00-25/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞を囲む内壁と、前記内壁の反対側の外壁と、を有する第1管部を備えるマイクロ波管の製造方法において、
それぞれ金属によって形成され、それぞれ前記内壁の一部及び前記外壁の一部を構成する第1部材及び第2部材を用意し、
前記第1部材と前記第2部材との間にろう材を設け、
前記ろう材を設けた後、前記外壁において、前記第1部材と前記第2部材とを溶接し、
前記溶接した後、前記ろう材を融解し、前記ろう材によって前記第1部材と前記第2部材とを気密に接合する、
マイクロ波管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロ波管及びマイクロ波管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電波を増幅するマイクロ波管として、クライストロン、ジャイロトロン、進行波管などが知られている。例えは、クライストロンは、電子ビームを放出する電子銃と、用済みの電子ビームを捕捉するコレクタと、高周波相互作用部と、電子銃から放出される電子ビームを集束する集束磁界ユニットと、出力導波管と、入力導波管と、を備えている。
【0003】
高周波相互作用部や出力導波管は多数の部品を組み合わせて製造されるため、高周波相互作用部や出力導波管の製造に複数回のろう付けを必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-251001号公報
【文献】特開2004-14201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態の目的は、製造時間を短縮することが可能なマイクロ波管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るマイクロ波管の製造方法において、マイクロ波管は、空洞を囲む内壁と、前記内壁の反対側の外壁と、を有する第1管部を備える。
前記マイクロ波管の製造方法は、それぞれ金属によって形成され、それぞれ前記内壁の一部及び前記外壁の一部を構成する第1部材及び第2部材を用意し、前記第1部材と前記第2部材との間にろう材を設け、前記ろう材を設けた後、前記外壁において、前記第1部材と前記第2部材とを溶接し、前記溶接した後、前記ろう材を融解し、前記ろう材によって前記第1部材と前記第2部材とを気密に接合する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るクライストロンを示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したドリフト管の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
本実施形態においては、マイクロ波管の一例として、クライストロンについて説明する。なお、本実施形態にて開示する主要な構成は、ジャイロトロン、進行波管などの他のマイクロ波管にも適用可能である。
【0010】
図1は、一実施形態に係るクライストロン100を示す概略断面図である。
図1に示すように、第1方向X、第2方向Y、及び、第3方向Zは、互いに直交している。
クライストロン100は、電子銃部1と、コレクタ2と、高周波相互作用部3と、集束コイル4と、出力導波管5と、入力導波管6と、を備えている。コレクタ2、高周波相互作用部3、出力導波管5及び入力導波管6は、それぞれ金属で形成されている。
【0011】
電子銃部1は、電子ビームを放出する電子銃1aと、電子銃1aから放出された電子ビームを加速させ、電子の流れをコレクタ2方向に作るアノード1cと、を有している。電子銃1aは、電子ビームを1本放出するものである。この実施形態において、電子銃部1は、1個の電子銃1aを有している。複数本の電子ビームを放出させたい場合、電子銃部1は、複数個の電子銃1aを有していればよい。
【0012】
コレクタ2は、高周波相互作用部3を通過した使用済みの電子ビーム(スペントビーム)を捕捉し、残ったエネルギーを熱エネルギーに変換するものである。コレクタ2は、図示しない冷却機構により冷却されている。ここでは、冷却機構の主冷却方式は水冷式である。
【0013】
高周波相互作用部3は、クライストロン100のボディ部である。高周波相互作用部3は、電子銃部1及びコレクタ2間に気密に接続されている。高周波相互作用部3は、ドリフト管3dを有している。本実施形態において、ドリフト管3dは第1管部として機能している。ドリフト管3dは、電子銃部1及びコレクタ2間に位置した入力空洞3aと、入力空洞3a及びコレクタ2間に位置した少なくとも1つの中間空洞3bと、中間空洞3b及びコレクタ2間に位置し、穴部Oが形成された出力空洞3cと、を有している。また、ドリフト管3dは、第3方向Zに延出し電子ビームが通る空洞3eを有している。入力空洞3a、中間空洞3b、及び出力空洞3cは、それぞれ空洞3eを囲み、それぞれ空洞3eに気密に連通している。この実施の形態において、ドリフト管3dは、中間空洞3bを3つ有している。また、ドリフト管3dの空洞CV3は、入力空洞3a、中間空洞3b、出力空洞3c、及び空洞3eを含んでいる。
【0014】
ここで、高周波相互作用部3の動作原理について詳述する。入力空洞3aには増幅したい入力信号が導入される。入力信号は、電波(マイクロ波)である。入力空洞3aを電子ビームが通過するとき、電子ビームは導入された入力信号により速度変調される。その後、電子ビームが一様電界中を通過する間、電子ビームに密度変調が生じ、電子ビームは次第に集群(バンチ)される。さらに、集群された電子ビームは、中間空洞3bで囲まれた空間を通過する度に相互作用により空洞に高周波電界を発生する。これにより、電子ビームはその電界により再度速度変調を受ける。
そして最後に集群された電子ビームは、出力空洞3cで囲まれた空間を通過する時、大きな交流電界を誘起し、増幅された高周波(大電力マイクロ波)の出力信号として出力空洞3cから外部に取り出される。
すなわち、高周波相互作用部3は、入力空洞3aに入力信号を入力することにより、出力空洞3cから増幅された高周波の出力信号を出力するものである。
【0015】
集束磁界ユニット4は、筒状に形成され、高周波相互作用部3の外周を囲んでいる。集束磁界ユニット4は磁石もしくはコイルを有し、電子銃部1から放出される電子ビームを集束するものである。
【0016】
入力導波管6は、高周波相互作用部3に接合され、入力空洞3aに連通されている。入力導波管6には、誘電体で形成された入力窓6aが気密に取り付けられている。入力導波管6は、入力空洞3aに入力信号を入れるものである。
出力導波管5は、高周波相互作用部3に接合され、穴部Oに連通されている。出力導波管5には、誘電体で形成された出力窓5aが気密に取り付けられている。出力導波管5は、穴部Oを通して出力空洞3cから出力信号を取り出すものである。出力導波管5は、空洞CV3に連通する空洞CV5を有している。
【0017】
図2は、
図1に示したドリフト管3dの一部を示す断面図である。
図2に示すように、ドリフト管3dは、第3方向Zに延出している。ドリフト管3dは、空洞CV3を囲む内壁IW3と、内壁IW3の反対側の外壁OW3とを有している。なお、内壁IW3及び外壁OW3がドリフト管3dの全体にわたっていることを示すため、
図2において、複数の符号IW3、及び複数の符号OW3を付している。
【0018】
ドリフト管3dは、部材10、部材20、及び部材30を含む複数の部材と、複数の溶接部MAと、複数のろう材WAとを備えている。本実施形態において、部材10は第1部材として機能し、部材20は第2部材として機能し、部材30は第3部材として機能し、溶接部MAは第1溶接部として機能し、ろう材WAは第1ろう材として機能している。ドリフト管3dは、各部材を各溶接部MA及び各ろう材WAによって接合し形成されている。
図2において、溶接部MAと、ろう材WAとは異なる斜線で示している。
【0019】
ドリフト管3dの複数の部材のうち、部材10、部材20、及び部材30に注目する。部材10、部材20及び部材30はそれぞれ筒状に形成され、それぞれ内壁IW3の一部及び外壁OW3の一部を構成している。部材10と、部材20と、部材30とは、この順に第3方向Zに並んでいる。
【0020】
ドリフト管3dを構成する隣り合う部材同士は、同様の手段及び手法にて接合されている。ここでは、部材10と部材20との接合部に注目する。
溶接部MAは、例えば、部材10と部材20とをレーザ溶接又は電子ビーム溶接することにより形成されている。ドリフト管3dの半径方向において、溶接部MAの深さは外壁OW3から計測して最大で数mmである。溶接部MAは、外壁OW3において、部材10と部材20との間に位置している。溶接部MAは、部材10及び20と同一物質である。
ろう材WAは、空洞CV3と溶接部MAとの間に位置している。ろう材WAは、部材10と部材20とを気密に接合している。ろう材WAは、例えば、BAg-8である。
【0021】
部材10は、第1面として機能する面F10を有している。面F10は、溶接部MAから連続的に延在し、ろう材WAに接し、第3方向Zにおいて部材20に対向している。部材20は、第2面として機能する面F20を有している。面F20は、溶接部MAから連続的に延在し、ろう材WAに接し、第3方向Zにおいて面F10に対向している。ろう材WAは、部材10と部材20とが対向する全周にわたって連続的に位置している。面F10には、収容溝WG1が形成されている。収容溝WG1は、製造時にろう材WAの基材を収容するための溝であり、X-Z平面において環状に形成されている。図示した例では、面F10は、複数の収容溝WG1を有しているが、収容溝WG1は単数でもよい。本実施形態において、収容溝WG1は、溶接部MAから離れて位置している。融解したろう材WAの基材が、毛細管現象により収容溝WG1から部材10と部材20との間に拡散し、部材10と部材20とを気密に接合することで、空洞CV3の気密性が保たれる。なお、収容溝WGにろう材WAが残らないことが望ましい。
【0022】
部材10は外壁OW3に形成された溶接溝MG1を有し、部材20は外壁OW3に形成された溶接溝MG2を有している。溶接溝MG1は第1溶接溝として機能し、溶接溝MG2は第2溶接溝として機能している。溶接溝MG1及びMG2は、それぞれドリフト管3dの半径方向において、内壁IW3側に向かって窪んだ凹部である。溶接溝MG1と溶接溝MG2とは、溶接部MAを挟んで隣り合っている。溶接部MAは溶接溝MG1と溶接溝MG2との間に位置している。突出部EAは、部材10の溶接溝MG1より部材20側の部分と部材20の溶接溝MG2より部材10側の部分とによって形成されている。突出部EAは、ドリフト管3dの周方向に延在した環状の凸部である。溶接部MAは、突出部EAに形成されている。
【0023】
また、本実施形態において、ろう材WAは、ドリフト管3dの半径方向に対向する部材10と部材20との隙間にも位置している。
なお、ろう材WAは、ドリフト管3dの半径方向に対向する部材10と部材20との隙間にのみ位置していてもよい。
【0024】
収容溝WG1は、面F10に形成されていなくともよい。例えば、部材10のうち、ドリフト管3dの半径方向に部材20と対向する面に形成されていてもよい。又は、部材20のうち、ドリフト管3dの半径方向に部材10と対向する面に形成されていてもよい。
【0025】
なお、部材20と部材30との接合は、部材10と部材20との接合と同様の手段及び手法にて行われている。
【0026】
図3は、
図1及び
図2に示したドリフト管3dの外壁OW3の一部を示す正面図である。
図3に示すように、複数の溶接部MAは、ドリフト管3dの周方向において、互いに間隔を置いて位置している。溶接部MAは、点在している。溶接溝MG1及びMG2は、それぞれドリフト管3dの周方向に延出している。但し、本実施形態と異なり、溶接部MAは、ドリフト管3dの周方向において、突出部EAの全周にわたって連続的に形成されていてもよい。
【0027】
図4は、
図1に示した出力導波管5を示す断面図である。
図4に示すように、出力導波管5は空洞CV5を囲む内壁IW5と、内壁IW5の反対側の外壁OW5とを有している。内壁IW5は他の内壁として機能し、外壁OW5は他の外壁として機能している。なお、内壁IW5及び外壁OW5が出力導波管5の全体にわたっていることを示すため、
図4において、複数の符号IW5、及び複数の符号OW5を付している。
【0028】
出力導波管5は、第2管部として機能している。出力導波管5は、部材40と、部材50と、部材60と、部材70と、複数の溶接部MBと、複数のろう材WBとを備えている。部材40は他の第1部材として機能し、部材50は他の第2部材として機能している。また、溶接部MBは第2溶接部として機能し、ろう材WBは第2ろう材として機能している。出力導波管5は、各部材を各溶接部MB及び各ろう材WBによって接合し形成されている。
図4において、溶接部MBと、ろう材WBとは異なる斜線で示している。
【0029】
部材40、部材50、部材60、及び部材70は、それぞれ第1方向Xに延出した板状に形成され、それぞれ出力導波管5の内壁IW5及び外壁OW5を構成している。部材40、部材50、部材60、及び部材70は、一例として、銅又は銅合金によって形成されている。
【0030】
出力導波管5を構成する隣り合う部材同士は、同様の手段及び手法にて接合されている。ここで、部材40と部材50との接合部に注目する。
溶接部MBは、外壁OW5において、部材40と部材50との間に位置している。溶接部MBは、部材40と部材50とをレーザ溶接又は電子ビーム溶接することにより形成されている。ろう材WBは、空洞CV5と溶接部MBとの間に位置している。ろう材WBは、ろう材WAと同一のろう材であり、例えば、BAg-8である。
【0031】
部材40は、他の第1面として機能する面F40を有している。面F40は、溶接部MBから連続的に延在し、ろう材WBに接し、第3方向Zにおいて部材50に対向している。部材50は、他の第2面として機能する面F50を有している。面F50は、溶接部MBから連続的に延在し、ろう材WBに接し、第3方向Zにおいて面F40に対向している。面F40には、第1方向Xに延出する収容溝WG4が形成されている。収容溝WG4は、製造時にろう材WBの基材を収容するための溝であり、溶接部MBから離れて位置している。図示した例では、面F40は単数の収容溝WG4を有しているが、面F40には、溶接部MBから空洞CV5までの間で並んだ複数の収容溝WG4が形成されていてもよい。本実施形態において、融解したろう材WBの基材が、毛細管現象により収容溝WG4から部材40と部材50との間に拡散し、部材40と部材50とを気密に接合することで、空洞CV5の気密性が保たれる。なお、収容溝WG4にろう材WBが残らないことが望ましい。
【0032】
部材40は外壁OW5に形成された溶接溝MG4を有し、部材50は外壁OW5に形成された溶接溝MG5を有している。溶接溝MG4は他の第1溶接溝として機能し、溶接溝MG5は他の第2溶接溝として機能している。溶接溝MG4及びMG5は、それぞれ第2方向Yに窪んだ凹部である。溶接溝MG4と溶接溝MG5とは、溶接部MBを挟んで隣り合っている。溶接部MBは、溶接溝MG4と溶接溝MG5との間に位置している。突出部EBは、部材40の溶接溝MG4より部材50側の部分と部材50の溶接溝MG5より部材40側の部分とによって形成されている。突出部EBは、第1方向Xに延在した直線状の凸部である。溶接部MBは、突出部EBに形成されている。
【0033】
また、本実施形態において、ろう材WBは、第2方向Yに対向する部材40と部材50との隙間にも位置している。
なお、ろう材WBは、第2方向Yに対向する部材40と部材50との隙間にのみ位置していてもよい。
【0034】
収容溝WG4は、面F40に形成されていなくともよい。例えば、部材50のうち、第3方向Zに部材40と対向する面に形成されていてもよい。又は、部材40のうち、第2方向Yに部材50と対向する面に形成されていてもよい。又は、部材50のうち、第2方向Yに部材40と対向する面に形成されていてもよい。
【0035】
なお、部材40と部材70との接合、部材60と部材50との接合、部材60と部材70との接合は、それぞれ部材40と部材50との接合と同様の手段及び手法にて行われている。
【0036】
図5は、
図1及び
図4に示した出力導波管5の外壁OW5の一部を示す上面図である。
図5に示すように、複数の溶接部MBは、第1方向Xにおいて、互いに間隔を置いて位置している。溶接溝MG4及びMG5はそれぞれ第1方向Xに延出している。但し、本実施形態と異なり、溶接部MBは、第1方向Xにおいて、出力導波管5の全長にわたって連続的に形成されていてもよい。
クライストロン100は、上記のように構成されている。
【0037】
次に、クライストロン100の製造方法について説明する。
図2に示すように、高周波相互作用部3のドリフト管3dの製造が開始されると、まず、部材10、部材20、部材30などの複数の部材と、ろう材WAとを用意し、その後、これらをドリフト管3dに組み立てる。
【0038】
ここでは、ろう材WAの基材として、ワイヤ状に形成された弾性のろう材(ワイヤろう)を用意する。
【0039】
ドリフト管3dを組み立てる際、部材10の収容溝WG1内にワイヤろうを設け、第3方向Zにおいて部材10の面F10と部材20の面F20とが対向するように、部材10と部材20とを篏合させる。続いて、部材10と部材20とを外壁OW3の突出部EAにおいてレーザ溶接又は電子ビーム溶接にて溶接する。同様に、各部材同士を溶接していき、部材同士が仮固定されたドリフト管3dを形成する。収容溝WGは溶接部MAから離れているため、収容溝WG内のワイヤろう(ろう材WAの基材)は溶けていない。また、溶接部MAは突出部EAに形成することができるため、レーザビームや電子ビームを効率よく照射することができる。
【0040】
図4に示すように、出力導波管5の製造が開始されると、まず、部材40と、部材50と、部材60と、部材70と、ろう材WBとを用意し、その後、これらを出力導波管5に組み立てる。
【0041】
ここでは、ろう材WBの基材として、ワイヤ状に形成された弾性のろう材(ワイヤろう)を用意する。
【0042】
出力導波管5を組み立てる際、部材40の収容溝WG4内にワイヤろうを設け、第3方向Zにおいて部材40の面F40と部材50の面F50とが対向するように、部材40と部材50とを篏合させる。続いて、部材40と部材50とを外壁OW5の突出部EBにおいてレーザ溶接又は電子ビーム溶接にて溶接する。同様に、各部材同士を溶接していき、部材同士が仮固定された出力導波管5を形成する。収容溝WGは溶接部MBから離れているため、収容溝WG内のワイヤろう(ろう材WBの基材)は溶けていない。また、溶接部MBは突出部EBに形成することができるため、レーザビームや電子ビームを効率よく照射することができる。
【0043】
上記のようにドリフト管3d及び出力導波管5を組み立てた後、ドリフト管3dと出力導波管5との間にワイヤろうを配置し、ドリフト管3dと出力導波管5とを、
図1に示すドリフト管3dの空洞CV3と出力導波管5の空洞CV5とが穴部Oにおいて連結するようにレーザ溶接又は電子ビーム溶接にて溶接し、クライストロン100を組み立てる。ドリフト管3dと出力導波管5との間に配置するワイヤろうとしては、ろう材WAの基材及びろう材WBの基材と同じBAg-8を使用している。
【0044】
クライストロン100を組み立てた後、クライストロン100を加熱する。その際、例えば、クライストロン100を電気炉の内部に搬入し、クライストロン100を加熱し、各々のワイヤろうが融解する温度まで加熱する。このような一回のろう付け(加熱)により、例えば、ろう材WAにて部材10と部材20、部材20と部材30のそれぞれを気密に接合することができる。また、ろう材WBにて部材40と部材50、部材50と部材60、部材60と部材70、部材70と部材40のそれぞれを気密に接合することができる。また、ドリフト管3dと出力導波管5とを気密に接合することができる。
【0045】
上記のように構成されたクライストロン100、及びクライストロン100の製造方法によれば、ろう付け一回のみでクライストロン100を組み立てることができ、1種類のろう材のみ使用するため、融点の異なる複数の種類のろう材を使用して複数回のろう付けを必要とするクライストロンと比較して、製造時間(リードタイム)を短縮することができ、安価に製造することができる。
【0046】
高周波相互作用部3や出力導波管5において、部材の間にはろう材WA又はWBが位置している。ろう材により、部材の間に形成され得る空間を低減することができる。そのため、部材の間にろう材が存在していない場合と比較して、クライストロン100の動作を安定させることができ、コンダクタンスの低下を抑制することができ、空洞における真空度の低下を抑制することができる。
なぜなら、高周波相互作用部3や出力導波管5の部材表面には高周波電流が流れるため、部材の間にろう材が存在していない場合、高周波放電が発生し、クライストロン100の動作が不安定になるためである。また、部材の間にろう材が存在していない場合、その隙間の部分のコンダクタンスが低下するためである。また、部材の間にろう材が存在していない場合、その隙間に存在する残留ガスにより、空洞における真空度の低下を招くことになるためである。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、製造時間を短縮することが可能なマイクロ波管及びマイクロ波管の製造方法を得ることができる。
【0048】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]空洞を囲む内壁と、前記内壁の反対側の外壁と、を有する第1管部を備え、
前記第1管部は、
それぞれ金属によって形成され、それぞれ前記内壁の一部及び前記外壁の一部を構成する第1部材及び第2部材と、
前記外壁に位置し、前記第1部材と前記第2部材とを溶接した第1溶接部と、
前記空洞と前記第1溶接部との間に位置し、前記第1部材と前記第2部材とを気密に接合する第1ろう材と、を備えている、
マイクロ波管。
[2]前記第1部材は、前記第1溶接部から連続的に延在し前記第1ろう材に接する第1面と、前記第1面に形成された収容溝と、を有する、
[1]に記載のマイクロ波管。
[3]前記第1部材は、前記外壁に形成された第1溶接溝を有し、
前記第2部材は、前記外壁に形成され、前記第1溶接溝と隣り合う第2溶接溝を有し、
前記第1溶接部は、前記第1溶接溝と前記第2溶接溝との間に位置している、
[1]又は[2]に記載のマイクロ波管。
[4]前記第1ろう材は、BAg-8である、
[1]又は[2]に記載のマイクロ波管。
[5]前記第1管部は、
金属によって形成され、前記内壁の一部及び前記外壁の一部を構成する第3部材と、
前記外壁に位置し、前記第2部材と前記第3部材とを溶接した他の第1溶接部と、
前記空洞と前記他の第1溶接部との間に位置し、前記第2部材と前記第3部材とを気密に接合する他の第1ろう材と、を備え、
前記第1ろう材及び前記他の第1ろう材は、同一材料で形成されている、
[1]乃至[4]の何れか1に記載のマイクロ波管。
[6]電子銃部と、
コレクタと、
前記電子銃部と前記コレクタとの間に位置するドリフト管を備えている高周波相互作用部と、
前記高周波相互作用部の外周を囲み、磁石もしくはコイルを有する集束磁界ユニットと、
前記高周波相互作用部に接合された出力導波管と、をさらに備え、
前記ドリフト管又は前記出力導波管は、前記第1管部によって構成されている、
[1]乃至[5]の何れか1に記載のマイクロ波管。
[7]他の空洞を囲む他の内壁と、前記他の内壁の反対側の他の外壁と、を有する第2管部を備え、
前記第2管部は、
それぞれ金属によって形成され、それぞれ前記他の内壁の一部及び前記他の外壁の一部を構成する他の第1部材及び他の第2部材と、
前記他の外壁に位置し、前記他の第1部材と前記他の第2部材とを溶接した第2溶接部と、
前記他の空洞と前記第2溶接部との間に位置し、前記他の第1部材と前記他の第2部材とを気密に接合する第2ろう材と、を備え、
前記ドリフト管は、前記第1管部によって構成され、
前記出力導波管は、前記第2管部によって構成され、
前記第1ろう材及び前記第2ろう材は、同一のろう材である、
[6]に記載のマイクロ波管。
[8]空洞を囲む内壁と、前記内壁の反対側の外壁と、を有する第1管部を備えるマイクロ波管の製造方法において、
それぞれ金属によって形成され、それぞれ前記内壁の一部及び前記外壁の一部を構成する第1部材及び第2部材を用意し、
前記第1部材と前記第2部材との間にろう材を設け、
前記ろう材を設けた後、前記外壁において、前記第1部材と前記第2部材とを溶接し、
前記溶接した後、前記ろう材を融解し、前記ろう材によって前記第1部材と前記第2部材とを気密に接合する、
マイクロ波管の製造方法。
【符号の説明】
【0049】
1…電子銃部、2…コレクタ、3…高周波相互作用部、3d…ドリフト管、
4…集束磁界ユニット、5…出力導波管、IW…内壁、OW…外壁、CV…空洞、
10,20,30,40,50,60,70…部材、MA,MB…溶接部、
WA,WB…ろう材、F…面、WG…収容溝、MG…溶接溝。