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特許7091235多層培養容器操作システム、多層培養容器操作装置、および多層培養容器操作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】多層培養容器操作システム、多層培養容器操作装置、および多層培養容器操作方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/04 20060101AFI20220620BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220620BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20220620BHJP
   C12M 1/14 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C12M3/04 A
C12M1/00 D
C12M1/02 A
C12M1/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018239131
(22)【出願日】2018-12-21
(62)【分割の表示】P 2018103792の分割
【原出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019208499
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】森 俊彰
(72)【発明者】
【氏名】竹田 英貴
(72)【発明者】
【氏名】三島 靖史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 昇治
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505472(JP,A)
【文献】2016-2017 TAITEC-OffLine総合カタログ ,2015年,pp.043
【文献】多層培養器反転装置 WAS-013,[検索日2018-07-03],四国計測工業株式会社,2015年12月28日,インターネット,<URL:http://www.yonkei.co.jp/products/industrial/automation/inversion.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車装置と、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、
前記操作装置は、
第1軸および前記第1軸と略直交する第2軸を中心として前記多層培養容器を回転可能であり、
前記第1軸を中心とした前記多層培養容器の回転と同時に、前記第2軸を中心とした前記多層培養容器の回転を行うことにより、前記第1軸および前記第2軸を中心として往復回転させる往復揺動をすることが可能である、多層培養容器操作システム。
【請求項2】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車装置と、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、
前記操作装置は、互いに略直交する第1平面と、第2平面、および第3平面に沿って、前記多層培養容器を往復回転させる往復揺動することが可能であり、第1軸で前記多層培養容器を往復揺動することで前記多層培養容器を前記第1平面に沿って往復回転させる往復揺動を行い、前記第1軸と略直交する第2軸で前記多層培養容器を往復揺動することで前記多層培養容器を前記第2平面に沿って往復回転させる往復揺動を行う、多層培養容器操作システム。
【請求項3】
前記操作装置は、
前記第1平面および前記第2平面に沿う往復揺動を行う第1操作部と、
前記第1操作部とは異なる、前記第3平面に沿う往復揺動を行う第2操作部と、を有する、請求項2に記載の多層培養容器操作システム。
【請求項4】
前記第1操作部と、前記第2操作部とは、上下方向に配置される、請求項3に記載の多層培養容器操作システム。
【請求項5】
前記第2操作部は、操作装置本体内に収容可能となっており、前記第3平面に沿う往復揺動を行う場合に、前記第2操作部を前記操作装置本体から突出させる、請求項3または4に記載の多層培養容器操作システム。
【請求項6】
複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車と、前記多層培養容器をアームで保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、
前記台車は、前記操作装置の前記アームが挿通される挿通孔を有し、
前記操作装置は、
前記多層培養容器を保持し、前記多層培養容器を第1回転軸および/または第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、
前記多層培養容器を水平方向に振盪させる振盪動作を行う振盪部と、
前記回転部および前記振盪部の動作を制御する制御部と、を有し、
前記アームを前記多層培養容器の挿通孔に挿通して前記多層培養容器を保持し、前記制御部は、前記多層培養容器を前記アームで保持して前記回転部による前記回転動作を行い、前記アームを前記挿通孔に挿通保持した状態のまま前記振盪部に前記振盪動作を行わせる、多層培養容器操作システム。
【請求項7】
請求項に記載の多層培養容器操作システムにおいて、
前記振盪部は、操作装置本体内に収容可能となっており、
前記制御部は、前記振盪動作を行う場合に、前記振盪部を前記操作装置本体から突出させる多層培養容器操作システム。
【請求項8】
側面を有する複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、
前記支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、
前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、
前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有し、
前記制御部が、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理を実行する細胞剥離機能と、
細胞剥離機能を実行する間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる停止モードを有する、多層培養容器操作装置。
【請求項9】
側面を有する複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、前記支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有する操作装置を用いて、トリプシン液が導入された前記多層培養容器を操作する多層培養器操作方法であって、
前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理をする間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる、多層培養容器操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器のハンドリング操作を行うための多層培養容器操作システム、多層培養容器操作装置、および多層培養容器操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を大量に培養するために、培養液に播種した細胞を、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を用いて培養する細胞培養技術が知られている。このような細胞培養技術において、作業者の負担を軽減するために、細胞を播種した培養液などを多層培養容器に導入または多層培養容器から回収するために、多層培養容器を保持し回転させるなどのハンドリング操作を行う多層培養容器操作装置が利用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-505472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な細胞培養においては、培養した細胞は多層培養容器の壁面に付着するため、培養液を多層培養容器から回収し、その後、トリプシン液を多層培養容器内に導入し、多層培養容器を振盪することで、細胞を壁面から剥離させ、剥離した細胞ごとトリプシン液を回収する処理が行われる。従来では、トリプシン液を多層培養容器に導入した後に、剥離処理を行うために多層培養容器を多層培養容器操作装置から手作業で一度降ろし、専用の振盪装置に載せて多層培養容器を振盪させ、その後トリプシン液を回収するために、再度、多層培養容器を多層培養容器操作装置に搭載するという作業が行われており、作業者の負担が増大し、作業性の向上が求められていた。
【0005】
本発明は、細胞培養における作業、特に、トリプシン液の導入、細胞剥離、およびトリプシン液の回収の一連の処理を、多層培養容器を多層培養容器操作装置に搭載したまま行うことが可能な多層培養容器操作システム、多層培養容器操作装置、および多層培養容器操作方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係る多層培養容器操作システムは、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車装置と、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、前記操作装置は、第1軸および前記第1軸と略直交する第2軸を中心として前記多層培養容器を回転可能であり、前記第1軸を中心とした前記多層培養容器の回転と同時に、前記第2軸を中心とした前記多層培養容器の回転を行うことにより、前記第1軸および前記第2軸を中心として往復回転させる往復揺動をすることが可能である。
本発明の第2の観点に係る多層培養容器操作システムは、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車装置と、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、前記操作装置は、互いに略直交する第1平面、第2平面、および第3平面に沿って、前記多層培養容器を往復回転させる往復揺動することが可能であり、第1軸で前記多層培養容器を往復揺動することで前記多層培養容器を前記第1平面に沿って往復回転させる往復揺動を行い、前記第1軸と略直交する第2軸で前記多層培養容器を往復揺動することで前記多層培養容器を前記第2平面に沿って往復回転させる往復揺動を行う
上記第1の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記操作装置は、前記第1平面および前記第2平面に沿う往復揺動を行う第1操作部と、前記第1操作部とは異なる、前記第3平面に沿う往復揺動を行う第2操作部と、を有するように構成することができる。
上記第2の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記第1操作部と、第2操作部とは、上下方向に配置されるように構成することができる。
上記第2の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記第2操作部は、操作装置本体内に収容可能となっており、前記第3平面に沿う往復揺動を行う場合に、前記第2操作部を前記操作装置本体から突出させるように構成することができる。
【0007】
本発明の第3の観点に係る多層培養容器操作システムは、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車と、前記多層培養容器をアームで保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、前記台車は、前記操作装置の前記アームが挿通される挿通孔を有し、前記操作装置は、前記多層培養容器を保持し、前記多層培養容器を第1回転軸および/または第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記多層培養容器を水平方向に振盪させる振盪動作を行う振盪部と、前記回転部および前記振盪部の動作を制御する制御部と、を有し、前記アームを前記多層培養容器の挿通孔に挿通して前記多層培養容器を保持し、前記制御部は、前記多層培養容器を前記アームで保持して前記回転部による前記回転動作を行い、前記アームを前記挿通孔に挿通保持した状態のまま前記振盪部に前記振盪動作を行わせる。
上記第3の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記振盪部は、操作装置本体内に収容可能となっており、前記制御部は、前記振盪動作を行う場合に、前記振盪部を前記操作装置本体から突出させるように構成することができる。
【0008】
本発明の第1の観点に係る多層培養容器操作装置は、側面を有する複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、前記支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部が、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理を実行する細胞剥離機能と、細胞剥離機能を実行する間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる停止モードを有する。
【0009】
本発明の第1の観点に係る多層培養容器操作方法は、側面を有する複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、前記支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有する操作装置を用いて、トリプシン液が導入された前記多層培養容器を操作する多層培養器操作方法であって、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理をする間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる。
【0010】
本発明の第4の観点に係る多層培養容器操作システムは、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車装置と、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な操作装置と、を有する多層培養容器操作システムであって、前記台車装置は、車輪を有する台車と、前記台車の上に前記台車と着脱自在に搭載され、前記多層培養容器を前記台車に固定する固定部材と、を有し、前記操作装置は、前記固定部材ごと前記多層培養容器を保持し、前記多層培養容器を第1回転軸および/または第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記固定部材ごと前記多層培養容器を保持し、前記多層培養容器を水平方向に振盪させる振盪動作を行う振盪部と、前記回転部および前記振盪部の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記多層培養容器を前記台車に戻すことなく、前記回転部による前記回転動作に続けて、前記振盪部に前記振盪動作を行わせる。
上記第4の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記制御部は、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、前記多層培養容器を往復揺動させることができるように構成することができる。
上記第4の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記振盪部は、前記操作装置本体内に収容可能となっており、前記制御部は、前記振盪動作を行う場合に、前記振盪部を前記操作装置本体から突出させるように構成することができる。
上記第4の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記制御部は、前記振盪動作を行う場合に、前記振盪部に、前記回転部から前記多層培養容器を前記固定部材ごと直接受け取らせるように構成することができる。
上記第4の観点に係る多層培養容器操作システムにおいて、前記回転部および前記振盪部は、電力モーターを備えており、電力により駆動するように構成することができる。
【0011】
本発明の第2の観点に係る多層培養容器操作装置は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を搭載して移動可能な台車から前記多層培養容器を受け取り、前記多層培養容器を保持して回転させることが可能な多層培養容器操作装置であって、前記多層培養容器を保持し、前記多層培養容器を第1回転軸および/または第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記回転部の下方に配置され、非使用時は本体内部に収容され、使用時に本体外部に突出して前記多層培養容器を保持し、前記培養容器を水平方向に振盪させる振盪動作を行う振盪部と、前記回転部および前記振盪部の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記多層培養容器を前記台車に戻すことなく、前記回転部による前記回転動作に続けて、前記振盪部に前記振盪動作を行わせる。
上記第2の観点に係る多層培養容器操作装置において、前記制御部は、前記振盪動作を行う場合に、前記振盪部に、前記回転部から前記多層培養容器を前記固定部材ごと直接受け取らせるように構成することができる。
本発明の第3の観点に係る多層培養容器操作装置は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、前記支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部が、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理を実行する細胞剥離機能と、細胞剥離機能を実行する間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる停止モードを有する。
上記第3の観点に係る多層培養容器操作装置において、前記トレイが、第1の側面と、第1の側面と隣接する第2の側面と、第2の側面と隣接する第3の側面と、第3の側面と隣接する第4の側面とを備え、前記制御部が、第1の側面、第2の側面、第3の側面および第4の側面の順に、トリプシン液がぶつかるように前記回転部を操作する側面付着細胞回収機能を備えるように構成することができる。
上記第2または第3の観点に係る多層培養容器操作装置において、前記回転部は、電力モーターを備えており、電力により駆動するように構成することができる。
【0012】
本発明の第2の観点に係る多層培養容器操作方法は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を保持して前記多層培養容器を回転させる回転動作を行う回転部と、前記回転部の下方に配置され、非使用時は本体内部に収容され、使用時に本体外部に突出して前記多層培養容器を保持して前記多層培養容器を水平方向に振盪させる振盪動作を行う振盪部とを有する操作装置を用いて、前記多層培養容器を操作する多層培養器操作方法であって、前記回転部による前記回転動作に続けて、前記振盪部に前記振盪動作を行う。
本発明の第3の観点に係る多層培養容器操作方法は、複数のトレイを内蔵する多層培養容器を上下動可能に支持する支持部材と、支持部材と協働して前記多層培養容器を固定する係止部材と、前記支持部材を第1回転軸および第2回転軸で回転させる回転動作を行う回転部と、前記支持部材および前記回転部の動作を制御する制御部と、を有する操作装置を用いて、トリプシン液が導入された前記多層培養容器を操作する多層培養器操作方法であって、前記回転部に、前記第1回転軸または前記第2回転軸を中心として、第1の方向および第2の方向に前記多層培養容器を往復揺動して細胞剥離処理をする間、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、前記多層培養容器の移動を停止させる。
上記第3の観点に係る多層培養容器操作方法において、前記トレイが、第1の側面と、第1の側面と隣接する第2の側面と、第2の側面と隣接する第3の側面と、第3の側面と隣接する第4の側面とを備え、前記細胞剥離処理の後に、第1の側面、第2の側面、第3の側面および第4の側面の順に、前記トリプシン液がぶつかるように前記回転部を操作するように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多層培養容器を多層培養容器操作装置に搭載したまま、トリプシン液の導入、細胞剥離、およびトリプシン液の回収の一連の処理を行うことができるため、細胞培養における作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る多層培養容器を説明するための図である。
図2】多層培養容器における各トレイへの液体の分配方法を説明するための図である。
図3】第1実施形態に係る多層培養容器操作システムを示す斜視図である。
図4】第1実施形態に係る台車装置を説明するための斜視図である。
図5】第1実施形態に係る多層培養容器操作装置を説明するためのブロック図である。
図6】固定部材の被係止部と多層培養容器操作装置の係止部材との関係を説明するための図である。
図7】多層培養容器をアームに仮固定した状態を示す斜視図である。
図8】回転軸X1を中心とする回転部の回転動作の一例を示す図である。
図9】回転軸X2を中心とする回転部の回転動作および回転軸X1およびX2を中心とする回転部の回転動作の一例を示す図である。
図10】多層培養容器操作装置において振盪部を突出させた状態を示す斜視図である。
図11】振盪動作におけるアームと挿通孔との関係を説明するための図である。
図12】第1実施形態に係る細胞培養処理を示すフローチャートである。
図13】ステップS1の培養液導入処理を示すフローチャートである。
図14】ステップS3の培養液回収処理を示すフローチャートである。
図15】ステップS4のトリプシン液導入処理を示すフローチャートである。
図16】ステップS5の細胞剥離処理を示すフローチャートである。
図17】ステップS6のトリプシン液回収処理を示すフローチャートである。
図18】第2実施形態に係る多層培養容器操作装置を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下に、第1実施形態に係る多層培養容器操作システム1について説明する。本実施形態に係る多層培養容器操作システム1は、細胞培養等に利用される多層培養容器30を操作(ハンドリング)するためのシステムである。そこで、まず、本実施形態に係る多層培養容器30について説明する。図1は、本実施形態に係る多層培養容器30を説明するための図であり、多層培養容器30を示す断面図である。多層培養容器30は、細胞を大量に培養するために、図1に示すように、複数のトレイ31が積層された構成となっている。多層培養容器30で細胞を培養する場合、たとえば図2(A)に示すように、ベントキャップ32が下側となるように多層培養容器30を90°ほど傾ける。そして、ベントキャップ32とポンプとを接続し、ポンプにより多層培養容器30内に細胞を播種した培養液を導入する。次いで、図2(B)に示すように、多層培養容器30を直立に戻すと、多層培養容器30の各トレイ31に培養液が分配され、各トレイ31で細胞培養が行われることとなる。
【0016】
また、細胞培養後には、培養液を多層培養容器30から回収する培養液回収処理、多層培養容器30の壁面に付着した細胞を剥離するためにトリプシン液を多層培養容器30に導入するトリプシン液導入処理、および剥離した細胞を含むトリプシン液を多層培養容器30から回収するトリプシン液回収処理が行われる。これらの処理においても、多層培養容器30を傾けるなどして培養液やトリプシン液を導入または回収する作業が必要となる。しかしながら、作業者が、手作業で多層培養容器30を操作する場合、培養液やトリプシン液を含む多層培養容器30は重く、作業者の負担が増大してしまう。また、手作業のために、作業にばらつきが生じてしまう場合や、不必要に作業者が多層培養容器30に触れることで多層培養容器を破損してしまい汚染が生じてしまう場合もある。そこで、本実施形態に係る多層培養容器操作システム1のように、多層培養容器30を操作するためのシステムが必要とされている。
【0017】
図3は、本実施形態に係る多層培養容器操作システム1を示す斜視図である。図3に示すように、本実施形態に係る多層培養容器操作システム1は、多層培養容器操作装置10と、台車装置20とから構成される。以下に、各構成について説明する。
【0018】
図4は、本実施形態に係る台車装置20を説明するための斜視図である。台車装置20は、図4(A)に示すように、車輪22を有する台車21と、多層培養容器30を台車21に固定する固定部材23とから構成される。また、台車装置20において、台車21と固定部材23とは着脱自在になっている。具体的には、台車21に対して固定部材23を上に(Z軸正方向)持ち上げることで、図4(B)に示すように、固定部材23を台車21から取り外すことができる。また、反対に、固定部材23を台車21の上に置くことで、固定部材23を台車21に取り付けることができる。なお、台車21と固定部材23とは互いに嵌合する嵌合部(不図示)をそれぞれ有しており、これにより、台車21と固定部材23とは上下方向(Z軸方向)のみに着脱自在となっており、水平方向(XY軸方向)においては固定されている。その結果、台車装置20の移動中に、固定部材23が台車21から落下することを防止することができる。
【0019】
固定部材23は、図4に示すように、複数の多層培養容器30を並列に配置した状態で、当該複数の多層培養容器30を同時に固定可能となっている。なお、本実施形態では、最大で4つの多層培養容器30が搭載できるように台車装置20が構成されているが、この構成に限定されず、最大で1~3の多層培養容器30を搭載できるに台車装置20を構成してもよいし、あるいは5以上の多層培養容器30を搭載できるように台車装置20を構成することもできる。
【0020】
固定部材23は、図4に示すように、多層培養容器30が載置される台座24と、多層培養容器30が水平方向(XY軸方向)にずれないように多層培養容器30の4つの長辺をガードする枠部材25と、枠部材25に係止し、多層培養容器30を回転させた場合に、多層培養容器30が上方向(Z軸方向)から飛び出ないようにガードする留め部材26とを有している。たとえば、作業者は、台座24の上であり、かつ、枠部材25の枠内に多層培養容器30を置き、その後、多層培養容器30の上側を留め部材26で押さえるようにして、留め部材26と枠部材25とを係止させることで、多層培養容器30を固定部材23に固定させることができる。
【0021】
また、固定部材23は、後述するように、多層培養容器操作装置10の係止部材111と係止する被係止部28を有する。本実施形態において、被係止部28は、枠部材25のうち多層培養容器30の側面を多層培養容器30の配列方向に延伸する部分に連続して形成されており、図4に示すように、長さW1を有する薄板状の部材となっている。
【0022】
次に、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10について説明する。図5は、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10を示すブロック図である。図5に示すように、多層培養容器操作装置10は、回転部11と、回転駆動部12と、振盪部13と、振盪駆動部14と、駆動制御部15と、操作部16と、アーム駆動部17と、一対のアーム18と、本体19とを備える。駆動制御部15は、多層培養容器30に細胞を播種した培養液を導入する培養液導入処理、多層培養容器30から培養液を回収する培養液回収処理、多層培養容器30にトリプシン液を導入するトリプシン導入処理、多層培養容器30を振盪させる細胞剥離処理、多層培養容器30からトリプシン液を回収するトリプシン液回収処理など、多層培養容器30を操作するための操作プログラムを予め記憶している。本実施形態では、駆動制御部15が、当該操作プログラムに基づいて、回転駆動部12および振盪駆動部14の動作を制御することで、回転駆動部12に回転部11を回転動作させるとともに、振盪駆動部14の動作を制御することで、振盪駆動部14に振盪部13を振盪動作させる。なお、本実施形態において、回転駆動部12および振盪駆動部14は、電力モーターを有しており、電力の供給を受けて、回転部11および振盪部13を駆動させる。
【0023】
図3および図5に示すように、回転部11は、多層培養容器30の保持部材として機能する一対の係止部材111を有する。係止部材111は、回転部11の両側面に固定されており、図5および図6(A)~(C)に示すように、凹部112を備えている。また、凹部112は、テーパ部113と溝部114とを有し、後述するように、固定部材23がアーム18により上方に移動された場合に、図6(B)に示すように、固定部材23の被係止部28に係止し、アーム18とともに、固定部材23を挟持して回転部11に固定することができる。なお、図6(A),(B)は、被係止部28と係止部材111との関係を説明するための図であり、図6(C)は係止部材111の拡大図である。
【0024】
また、多層培養容器操作装置10は、多層培養容器30の支持部材として機能する一対のアーム18を備える。一対のアーム18は、図7に示すように、固定部材23に設けられた2つの挿通孔27にそれぞれ挿通可能となっている。図7は、多層培養容器30をアーム18に仮固定した状態を示す斜視図である。一対のアーム18はアーム駆動部17により上下方向(Z軸方向)に移動可能となっており、アーム駆動部17は、駆動制御部15の指示に基づいて、2本のアーム18が固定部材23の挿通孔27に挿通できる高さ位置まで、アーム18をZ軸方向に駆動させる。これにより、作業者は、台車装置20を本体19に向けて移動させて、固定部材23の2つの挿通孔27に、2本のアーム18を挿通させることができる。また、アーム18の先端部の側面にはクランプ181が収納されており、アーム18が挿通孔27を挿通すると、挿通孔27を通過したアーム18の先端部の側面からクランプ181が突出する。そして、駆動制御部15は、固定部材23の2つの挿通孔27に2本のアーム18が挿通された状態で、アーム駆動部17にアーム18を上方(Z軸正方向)に駆動させることで、多層培養容器30を回転部11の位置まで持ち上げる。これにより、図6(B)に示すように、回転部11の係止部材111と固定部材23の被係止部28とが係止し、固定部材23が一対の係止部材111および一対のアーム18により回転部11に挟持されることで、多層培養容器30が固定部材23ごと回転部11に固定される。なお、本実施形態において、アーム駆動部17は、電力モーターまたはエアシリンダーにより一対のアーム18を駆動させることができる。
【0025】
そして、駆動制御部15は、図3の符号RおよびPに示すように、回転駆動部12に、回転軸X1,X2の2軸を中心として、回転部11を回転させる回転動作を行わせる。回転軸X1は、図3に示すように、X軸方向に延伸する回転軸であり、これにより、回転部11および回転部11に保持された多層培養容器30をロール方向Rに回転させることができる。また、回転軸X2は、Y軸方向に延伸する回転軸であり、これにより、回転部11および回転部11に保持された多層培養容器30をピッチ方向Pに回転させることができる。なお、回転動作において、ロール方向Rの回転は、±180°未満の範囲で可能であり、本実施形態においては、±120°の範囲で回転部11をロール方向Rに回転させることができる。また、ピッチ方向Pの回転も、±180°未満の範囲で可能であり、本実施形態においては、±30°の範囲で回転部11をロール方向Rに回転させることができる。なお、本実施形態において、回転駆動部12は、回転部11を回転軸X1で回転させる電力モーターおよび/またはエアシリンダーと、回転部11を回転軸X2で回転させる電力モーターおよび/またはエアシリンダーとを備えており、これにより、回転部11を2軸で回転させることができる。
【0026】
ここで、図8は、回転軸X1を中心とした回転部11(多層培養容器30)の回転動作の一例を示す図であり、図8(A)では、回転部11が多層培養容器30を持ち上げた状態(基準位置)を示している。本実施形態において、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を、図8(A)に示す基準位置から、たとえば図8(B)に示すように、回転軸X1を中心として左方向に90°回転させることができる。また、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を、図8(C)に示すように、回転軸X1を中心として基準位置から左方向に100°回転させることもできるし、図8(D)に示すように、回転軸X1を中心として基準位置から左方向に120°回転させることもできる。また、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を基準位置から右方向に0~120°の範囲で回転させることもできる。このように、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を、回転軸X1を中心として基準位置から±0~120°の範囲でロール方向Rに回転させることができる。
【0027】
また、図9は、回転軸X2を中心とした回転部11(多層培養容器30)の回転動作、および、回転軸X1およびX2の2軸での回転部11(多層培養容器30)の回転動作の一例を示す図である。回転駆動部12は、図9(A)に示す基準位置から、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X2を中心としてピッチ方向Pに回転させることができる。たとえば、図9(B)に示す例では、回転部11(多層培養容器30)の上方が前方(X軸負方向)に傾くように、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X2を中心として20°回転させている。また、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)の下方が前方(X軸負方向)に傾くように、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X2を中心として回転させることもできる。このように、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を、回転軸X2を中心として基準位置から±0~30°の範囲でピッチ方向Pに回転させることができる。
【0028】
また、回転駆動部12は、図9(C),(D)に示すように、回転部11(多層培養容器30)を、回転軸X1を中心としてロール方向Rに回転させるとともに、回転軸X2を中心としてピッチ方向Pに回転させることができる。たとえば、図9(C)に示す図では、回転部11(多層培養容器30)を、回転軸X1を中心として左方向に100°回転させるとともに、回転部11(多層培養容器30)の上方が前方(X軸負方向)に傾くように、回転軸X2を中心として20°回転させている。さらに、図9(D)に示す例では、回転部11(多層培養容器30)を、回転軸X1を中心として左方向に120°回転させるとともに、回転部11(多層培養容器30)の上方が前方(X軸負方向)に傾くように、回転軸X2を中心として20°回転させている。
【0029】
さらに、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X1または回転軸X2を中心として往復回転させる揺動動作を行うこともできる。たとえば、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X1を中心としてロール方向Rに±120°の範囲で往復回転させることで、回転軸X1を中心とした揺動動作を行うことができる。また、回転駆動部12は、回転部11(多層培養容器30)を回転軸X2を中心として、回転部11(多層培養容器30)の上方を前方(X軸負方向)に傾けた後に、回転部11(多層培養容器30)の下方を前方(X軸負方向)に傾くように、ピッチ方向Pに±20°の範囲で往復回転させることで、回転軸X2を中心とした揺動動作を行うこともできる。
【0030】
振盪部13は、後述する振盪動作を行わない場合には、多層培養容器操作装置10の本体19内部に収容されており、振盪動作を行う場合に、図10に示すように、前記駆動制御部15の制御に基づいて、振盪駆動部14により、本体19の外側へと突出される。なお、図10は、多層培養容器操作装置10において振盪部13を突出させた状態を示す斜視図である。振盪部13は、固定部材23ごと多層培養容器30を載置可能な広さの上面131を有しており、固定部材23ごと多層培養容器30を上面131に置いて水平方向の振盪動作を行うことができる。また、振盪部13は、台車21と同様に、固定部材23と嵌合するための嵌合部(不図示)を有しており、これにより、固定部材23と上下方向(Z軸方向)において着脱自在となっているが、水平方向(XY軸方向)においては固定部材23の動きを制限し、固定部材23が振盪部13から落下してしまうことを防止している。なお、振盪駆動部14は、水平方向(XY軸方向)への振盪動作であれば振盪部13にどのような振盪動作も行わせることができる。たとえば、振盪駆動部14は、左右方向の振盪動作(Y軸方向での往復動作)、前後方向の振盪動作(X軸方向での往復動作)、あるいは8の字方向の振盪動作(X軸方向およびY軸方向とを組み合わせた動作)などの種々の振盪動作を振盪部13に行わせることができる。
【0031】
本実施形態において、駆動制御部15は、回転部11による回転動作に続けて、振盪部13による振盪動作を行わせることができる。この場合、駆動制御部15は、回転部11による回転動作が終了すると、アーム駆動部17を制御して一対のアーム18を下方(Z軸負方向)に駆動させ、固定部材23ごと多層培養容器30が振盪部13の上面131に置かれるように動作させる。そして、駆動制御部15は、振盪駆動部14を制御して、振盪部13に多層培養容器30を振盪させる振盪動作を行わせる。なお、本実施形態において、アーム18は本体19に収納されることなく突出したままで振盪動作が行われる。本実施形態では、図11に示すように、挿通孔27の内幅W3が、アーム18の外幅W2と振盪部13の振盪幅との合計よりも広く設計されているため、アーム18を挿通孔27に挿通した状態で振盪動作を行うことができる。なお、振盪動作時においてクランプ181はアーム18内に収納される。また、図11は、振盪動作におけるアーム18と挿通孔27との関係を説明するための図である。
【0032】
また、駆動制御部15は、振盪部13による振盪動作に続けて、回転部11による回転動作を行わせることができる。この場合、駆動制御部15は、振盪部13による振盪動作が終了すると、アーム駆動部17を制御して一対のアーム18を上方(Z軸正方向)に駆動させ、固定部材23ごと多層培養容器30を上に持ち上げるように動作させる。そして、駆動制御部15は、振盪駆動部14を制御して振盪部13を本体19の内部に収容した後、回転駆動部12を制御して、回転部11に回転動作を行わせる。
【0033】
操作部16は、作業者が指示を入力するための装置であり、たとえばタッチパネルを備える構成とすることができる。作業者は、操作部16を操作することで、駆動制御部15が予め記憶している操作プログラムの開始、一時停止、終了などの指示を駆動制御部15に伝達し、回転部11や振盪部13の動作を開始、一時停止、終了などさせることができる。また、作業者は、操作部16を操作することで、駆動制御部15に新たなプログラムを記憶させたり、記憶している操作プログラムを一部変更させたりすることもできる。たとえば、作業者は、操作部16を操作することで、培養液を多層培養容器30から回収する培養液回収処理において、回転部11の回転軸X1の傾斜角度を100°から120°に変更することなどができる。
【0034】
次いで、本実施形態に係る多層培養容器操作システム1における細胞培養処理について説明する。図12は、本実施形態に係る多層培養容器操作システム1における細胞培養処理を示すフローチャートである。なお、多層培養容器操作装置10により行われる各処理は、作業者が操作部16の処理開始ボタンを押下することで開始され、当該処理が終わると多層培養容器操作装置10の動作が終了される。そのため、作業者は、多層培養容器操作装置10を動作させる場合には、処理ごとに、操作部16の処理開始ボタンを押下して処理を進めていくこととなる。なお、各処理における多層培養容器操作装置10の動作は、駆動制御部15の操作プログラムに予め記憶しており、作業者は同一の処理開始ボタンを押すだけで、駆動制御部15が各処理に応じた動作を回転駆動部12または振盪駆動部14に指示し、回転部11または振盪部13を動作させる。
【0035】
ステップS1では、細胞を播種した培養液を多層培養容器30に導入する培養液導入処理が行われる。ここで、図13は、ステップS1の培養液導入処理を示すフローチャートである。まずステップS101では、作業者により、空の多層培養容器30を搭載した台車装置20が、多層培養容器操作装置10の固定位置にセットされる。なお、固定位置とは、一対のアーム18が台車装置20の挿通孔27の高さと同じ高さにあり、台車装置20を固定位置にセットした場合に、2本のアーム18が固定部材23の2つの挿通孔27を挿通し、かつ、アーム18の先端部が挿通孔27から突出する位置である。そして、作業者が操作部16を操作することで、ステップS102の処理が行われる。
【0036】
ステップS102では、回転駆動部12により、アーム18の先端部からクランプ181が突出され、固定部材23により固定されている多層培養容器30が、固定部材23ごとアーム18に仮固定される。さらに、ステップS103では、アーム駆動部17により、多層培養容器30を固定している一対のアーム18が上方(Z軸正方向)に駆動される。これにより、台車装置20の台車21から固定部材23が取り外されて、固定部材23ごと多層培養容器30がアーム18により回転部11の係止部材111に当接するまで上方(Z軸正方向)持ち上げられる。その結果、係止部材111とアーム18とで固定部材23が挟持され、回転部11により多層培養容器30が固定部材23ごと保持されることとなる。
【0037】
ステップS104では、作業者により、台車21が固定位置から外される。そして、作業者が操作部16を操作することで、ステップS105の処理が行われる。ステップS105では、回転駆動部12により、回転部11を回転させる処理が行われる。たとえば、駆動制御部15は、回転部11が回転軸X1を中心に基準位置から左方向に90°回転するように、回転部11を制御することで、図8(B)に示すように、多層培養容器30を左方向に90°回転させることができる。
【0038】
ステップS106では、作業者により、多層培養容器30内に細胞を播種した培養液が導入される。たとえば、作業者は、多層培養容器30のベントキャップ32を開き、ベントキャップ32にポンプ(不図示)を接続し、ポンプを用いて培養液を多層培養容器30に導入することができる。これにより、図2(A)に示すように、90°回転させた多層培養容器30の下側に培養液が溜まる。なお、培養液の導入が完了した場合には、作業者により、ベントキャップ32が閉じられる。そして、作業者が操作部16を操作することで、ステップS107の処理が行われる。
【0039】
ステップS107では、回転駆動部12により、多層培養容器30が図9(A)に示すように基準位置に戻される。これにより、図2(B)に示すように、多層培養容器30の各トレイ31に培養液が分配されることとなる。続くステップS108では、作業者により、台車21が固定位置にセットされる。そして、作業者が操作部16を操作することで、ステップS109の処理が行われる。ステップS109では、アーム駆動部17により、一対のアーム18が下方(Z軸負方向)に駆動され、多層培養容器30を固定した固定部材23が台車21に搭載される。これにより、作業者は、培養液を分配した多層培養容器30を培養室や培養器まで台車装置20で移動させることができる。
【0040】
次いで、図12に戻り、ステップS2では、培養室や培養器において、一定時間、細胞培養が行われる。そして、ステップS3では、細胞培養後の培養液を多層培養容器30から回収する培養液回収処理が行われる。図14は、ステップS3の培養液回収処理を示すフローチャートである。
【0041】
図14に示すように、ステップS301~S305では、ステップS101~S105と同様に、台車装置20が固定位置にセットされ(ステップS301)、固定部材23ごと多層培養容器30がアーム18に仮固定され(ステップS302)、多層培養容器30が上方に持ち上げられて係止部材111およびアーム18に挟持されることで回転部11に保持され(ステップS303)、作業者により台車21が固定位置から外され(ステップS304)、多層培養容器30の回転動作が行われる(ステップS305)。
【0042】
なお、ステップS305においては、図9(C),(D)に示すように、多層培養容器30を、回転軸X1を中心としてロール方向Rに回転させるとともに、回転軸X2を中心としてピッチ方向Pに回転させてもよい。また、ステップS305において回転動作を行う前に、水切り処理を行う構成としてもよい。水切り処理とは、多層培養容器30の各トレイ31の側面などに付着した液滴を取り除くように、回転部11を回転させる処理である。具体的には、駆動制御部15は、図8(B)に示すように、ロール方向Rに多層培養容器30を90°回転させている状態で、多層培養容器30をピッチ方向Pに+30°回転させ(上方が前方に倒れるようにピッチ方向Pに30°傾けて)、その後、多層培養容器30をピッチ方向Pに-30°回転させる(上方が後方に倒れるようにピッチ方向Pに30°傾ける)。これにより、培養液により、多層培養容器30のトレイ31の側面に飛散している液滴を取り除くことができる。
【0043】
そして、ステップS306では、作業者により、培養液を多層培養容器30から回収する作業が行われる。たとえば、作業者は、多層培養容器30のベントキャップ32にポンプを連結し、ベントキャップ32を開き、ポンプにより培養液を吸引することで、培養液を多層培養容器30から回収することができる。
【0044】
次いで、図12に戻り、ステップS4では、多層培養容器30の各トレイ31の壁面に付着する培養細胞を剥離するためにトリプシン液を多層培養容器30内に導入するトリプシン液導入処理が行われる。図15は、ステップS4のトリプシン液導入処理を示すフローチャートである。
【0045】
まずステップS401では、ステップS105と同様に、多層培養容器30の回転が行われる。たとえば、図9(B)に示すように、多層培養容器30を90°回転させた状態とすることができる。そして、ステップS402では、作業者により、多層培養容器30にトリプシン液が導入される。たとえば、ステップS106と同様に、作業者は、多層培養容器30のベントキャップ32を開き、ベントキャップ32にポンプを接続し、ポンプを用いてトリプシン液を多層培養容器30に導入することができる。これにより、図2(A)に示すように、90°回転させた多層培養容器30の下側にトリプシン液が溜まることとなる。なお、トリプシン液の導入が完了した場合には、作業者により、ベントキャップ32は閉じられる。そして、ステップS403では、ステップS107と同様に、回転駆動部12により、多層培養容器30が図9(A)に示すように基準位置に戻される。これにより、図2(B)に示すように、多層培養容器30の各トレイ31にトリプシン液が分配されることとなる。
【0046】
次いで、図12に戻り、ステップS5では、多層培養容器30の各トレイ31の壁面に付着する培養細胞を剥離するための細胞剥離処理が行われる。図16は、ステップS5の細胞剥離処理を示すフローチャートである。本実施形態では、作業者が操作部16を操作することで、ステップS501の処理が開始される。
【0047】
ステップS501では、多層培養容器操作装置10の内部に収納されている振盪部13が、本体19の外側に突出される。そして、ステップS502では、アーム駆動部17により一対のアーム18が下方(Z軸負方向)に駆動され、回転部11が保持する多層培養容器30が固定部材23ごと振盪部13の上面131に載せられる。
【0048】
ステップS503では、振盪駆動部14により、振盪部13の振盪動作が行われる。振盪駆動部14は、左右方向(Y軸方向)、前後方向(X軸方向)、あるいは8の字方向(XY軸方向)に、振盪部13を振盪させることで、多層培養容器30を振盪させる。これにより、各トレイ31の壁面に付着する培養細胞が剥離される。ステップS504では、ステップS103と同様に、多層培養容器30が一対のアーム18により上に持ち上げられ、回転部11に保持される。そして、ステップS505では、振盪駆動部14により、振盪部13が多層培養容器操作装置10の内部に収納される。
【0049】
次いで、図12に戻り、ステップS6では、剥離された培養細胞を含むトリプシン液を回収するためのトリプシン液回収処理が行われる。図17は、ステップS6のトリプシン液回収処理を示すフローチャートである。
【0050】
具体的には、ステップS601において、ステップS305と同様に、多層培養容器30の回転動作が行われる。たとえば、図9(C),(D)に示すように、多層培養容器30を、回転軸X1を中心としてロール方向Rに回転させるとともに、回転軸X2を中心としてピッチ方向Pに回転させてもよい。また、ステップS601において、ステップS305と同様に、回転動作の前に、水切り処理を行う構成としてもよい。そして、ステップS602では、ステップS306と同様に、作業者により、ポンプなどを用いて、トリプシン液を多層培養容器30から回収する作業が行われる。そして、ステップS603では、回転駆動部12により、多層培養容器30を基準位置に戻す処理が行われる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10は、多層培養容器30の回転動作を行う回転部11と多層培養容器30の振盪動作を行う振盪部13とを一体的に備え、多層培養容器30を台車21に戻すことなく、回転部11による回転動作に続けて、振盪部13に振盪動作を行わせることができる。これにより、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10では、多層培養容器30を多層培養容器操作装置10で保持した状態のまま、培養液の回収処理、トリプシン液の導入処理、細胞剥離処理、および剥離した培養細胞を含むトリプシン液の回収処理までの一連の処理を、作業者が多層培養容器30に触れることなく行うことができる。
【0052】
特に、従来では、多層培養容器30にトリプシン液を導入した後に、作業者が手動で多層培養容器30を多層培養容器操作装置から一度降ろして、専用の振盪器に載せ替え、専用の振盪器で多層培養容器30を振盪させた後に、さらに作業者が手作業で多層培養容器30を再度、多層培養容器操作装置に載せて、トリプシン液の回収処理を行っていた。そのため、細胞培養処理における作業者の労力が増大してしまうという問題があった。また、作業者が手作業を行うことにより、作業にばらつきが生じる場合や、作業者が不必要に多層培養容器30に触れることで多層培養容器30が破損等してしまい培地を汚染してしまう場合もあった。これに対して、本実施形態では、上記一連の処理を、作業者が多層培養容器30に触れることなく行うことができるため、上記のような問題を解決することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、回転駆動部12および振盪駆動部14が電力モーターを有し、電力の供給を受けて動作する。従来、回転駆動部を有する多層培養容器操作装置が知られていたが、このような多層培養容器操作装置では油圧駆動を用いていた。しかしながら、油圧駆動ではクリーンルームを汚染する可能性があるため、一部のクリーンルームでは使用できない場合があった。これに対して、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10では、回転駆動部12および振盪駆動部14に電力モーターを用いており、クリーンルームに関係なく使用することが可能である。
【0054】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る多層培養容器操作装置10aは、振盪部13および振盪駆動部14を備えていない点で、第1実施形態に係る多層培養容器操作装置10と主に相違する。以下では、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、説明を省略する。
図18は、本実施形態に係る多層培養容器操作装置10aを示すブロック図である。図18に示すように、多層培養容器操作装置10aは、回転部11と、回転駆動部12と、駆動制御部15と、操作部16と、アーム駆動部17と、一対のアーム18と、本体19とを備える。駆動制御部15は、多層培養容器30に細胞を播種した培養液を導入する培養液導入処理、多層培養容器30から培養液を回収する培養液回収処理、多層培養容器30にトリプシン液を導入するトリプシン導入処理、多層培養容器30を振盪させる細胞剥離処理、多層培養容器30からトリプシン液を回収するトリプシン液回収処理など、多層培養容器30を操作するための操作プログラムを予め記憶している。
回転駆動部12は、回転部11を回転軸X1を中心に回転させる第1の電力モーターと、回転部11を回転軸X2を中心に回転させる第2の電力モーターとを備えている。
【0055】
細胞剥離処理は、回転部11により多層培養容器30を第1回転軸または第2回転軸を中心として第1の方向(たとえば右方向)および第2の方向(たとえば左方向)に多層培養容器30を往復揺動させることにより行うよう、操作プログラムにプログラムされている。操作プログラムは、第1の方向への回転動作から第2の方向への回転動作へ切り替わる際および第2の方向への回転動作から第1の方向への回転動作へ切り替わる際に、指定された時間、多層培養容器30の移動を停止させる停止モードを備えている。
停止モードを備えることにより、容器内の液体の移動よりも早い速度で揺動動作を行っても、回転動作の方向切り換え時に揺動動作を指定時間だけ停止させることで、容器内の液体を容器の側面(側壁)に確実に衝突させることが可能となる。細胞剥離処理を効果的に行うためには、容器を高速に揺動させることが重要であるが、容器を高速に揺動させた際に生じる液体の移動の遅れ(タイムラグ)の課題を解消することが可能である。
【0056】
操作プログラムは、トリプシン液回収処理の前に、トレイ31の側面に付着した細胞を回収する動作を実行する。トレイ31が第1~第4の側面を備えた長方形のトレイである場合、第1の側面、第2の側面、第3の側面および第4の側面の順に、前記トリプシン液がぶつかるように回転部11を操作する。このような操作をすることにより、トレイ31の側面に付着した細胞をトリプシン液内に回収してからトリプシン液回収処理を行うことが可能となる。
【0057】
以上で説明した第2実施形態に係る多層培養容器操作装置10aによっても、第1実施形態と同様の効果が奏される。
また、第2実施形態は、振盪部13を備えずとも細胞剥離処理を行うことが可能であり、装置構成が簡易であることから製造コストを下げることができる。
さらには、停止モードを備えることにより、容器を高速に揺動させた際に生じる液体の移動の遅れ(タイムラグ)の課題を解消することが可能である。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
上述した実施形態では、多層培養容器操作システム1または多層培養容器操作装置10,10aを細胞培養に用いる構成を例示したが、この構成に限定されず、多層培養容器操作システム1または多層培養容器操作装置10,10aを微生物の培養に用いる構成とすることもできる。
【0060】
また、上述した実施形態に加えて、多層培養容器操作装置10,10aは、下記の構成を備えることもできる。
すなわち、多層培養容器操作装置10,10aは、回転駆動部12およびアーム駆動部17がエアシリンダーにより構成されている場合には、当該エアシリンダーの圧力を監視する圧力センサを備える構成とすることができる。そして、圧力センサによりエアシリンダーのエア圧力を監視することで、エアシリンダーの故障を検知することができる。
また、多層培養容器操作装置10,10aは、エリアセンサを備える構成とすることもできる。そして、エリアセンサにより多層培養容器操作装置10,10aの周辺、特に、回転部11の周辺への人の立ち入りを常時監視することで、安全性を向上させることができる。
さらに、駆動制御部15は、回転部11、振盪部13、またはアーム18の動作回数をカウントする構成とすることもできる。そして、駆動制御部15は、回転部11、振盪部13、またはアーム18の動作回数に基づいて、回転駆動部12、振盪駆動部14、アーム駆動部17を構成する電力モーターやエアシリンダーの交換時期を予測する構成とすることができる。
加えて、駆動制御部15は、回転部11、振盪部13、またはアーム18の動作時間を積算する構成とすることもできる。そして、駆動制御部15は、回転部11、振盪部13、またはアーム18の動作時間に基づいて、AC/DC電源やバッテリー、ファンなどの交換時期を予測する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1…多層培養容器操作システム
10,10a…多層培養容器操作装置
11…回転部
111…係止部材
112…凹部
113…テーパ部
114…溝部
12…回転駆動部
17…アーム駆動部
13…振盪部
131…上面
14…振盪駆動部
15…駆動制御部
16…操作部
18…アーム
181…クランプ
19…本体
20…台車装置
21…台車
22…車輪
23…固定部材
24…台座
25…枠部材
26…留め部材
27…挿通孔
28…被係止部
30…多層培養容器
31…トレイ
32…ベントキャップ
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