(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】較正体を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/72 20060101AFI20220620BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
C21D1/72
C21D9/00 101Z
(21)【出願番号】P 2018511090
(86)(22)【出願日】2016-08-11
(86)【国際出願番号】 DE2016100359
(87)【国際公開番号】W WO2017036443
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-07-18
(31)【優先権主張番号】102015114831.5
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518062749
【氏名又は名称】アクツィエン-ゲゼルシャフト デア ディリンジャー ヒュッテンベルケ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】バルダウフ,バーンド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルト,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ルップ,ダニエル
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/097727(WO,A1)
【文献】特開2000-214143(JP,A)
【文献】特開2012-026784(JP,A)
【文献】特開2001-049333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/72
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼又は他の金属から形成された、検査法用の較正体を製造するための方法であって、前記方法において、
前記較正体は、ある材料から形成され、
前記材料から形成された半製品(1)の少なくとも1つの領域(9、11、12)内で、前記材料の特性が変えられ、
前記較正体は、前記検査法により検査される製品を製造するために提供される材料から形成され、
前記材料の特性は、前記較正体の表面(5、 2、 3、 4)から前記半製品(1)内へ広がる表面の近傍領域(9、11、12)においてのみ変えられ、
前記較正体は、前記検査法に提供され、且つ、テストされる製品が製造される製造法の少なくとも1つの処理ステップと同一の処理ステップを有する製造法により製造され、及び
前記材料の特性を変える物質が、前記表面の近傍領域の半製品(1)内へ導入される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記材料の特性が、表面(5、2、3、4)から深さ3mmまで前記半製品(1)内に広がる表面近傍の領域(9、11、12)で変えられる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記領域(9、11、12)で、前記半製品(1)内に、炭素が導入される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記物質を前記半製品に導入することができる改質剤であって、炭素を含有する改質剤(6、7、8)が、前記半製品(1)に塗布される、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記改質剤(6、7、8)が、コークス粉末(7)及び/又は浸炭粉、又はペーストによって形成される、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記表面(5、2、3、4)への配置の際に前記改質剤(6、7、8)が炉の雰囲気から保護されるように、前記改質剤(6、7、8)が覆われるカバーを前記半製品(1)の表面に溶接する、又はカバーを用いることなく保護ガスを周りに流すことを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
冷間又は熱間圧延プロセスの前の前記半製品(1)の熱処理によって、前記材料の特性が変えられる、ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記較正体が、検査対象の製品が製造される製造法と複数又は全ての方法ステップが同じ製造法に従って製造される、ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記較正体を製造するための前記半製品(1)が、スラブ、薄板、厚板、又は角材から形成される、ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記半製品(1)に複数の領域(9、11、12)が形成され、前記領域(9、11、12)内の材料特性が様々に変えられ、前記領域(9、11、12)が、前記表面(5、2、3、4)から異なる深さ(t
1、t
2、t
3)まで前記半製品(1)内に広がり、
前記物質の異なる横方向広がり寸法及び/又は異なる含有量を有する、ことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鋼又は他の金属から形成される検査法用の較正体を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、較正体及び較正体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
使用により周知のそのような製造法では、様々な位置で材料欠陥を検出するために、超音波検査装置用の較正体に様々な大きさの穴が意図的に設けられる。しかし、そのような較正体は、他の検査装置の較正、特に渦流試験には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、さらなる検査装置の較正を可能にする較正体を製造することができる冒頭で述べたタイプの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、この目的は、較正体が、検査法による検査対象の製品を製造するために提供される材料から形成され、その材料から形成された半製品の少なくとも1つの領域で材料の特性が変えられることによって解決される。
【0005】
半製品の領域での材料特性は、検査法によって検査対象の製品で検出される材料変化、特に化学組成の変化及び/又は欠陥を較正体でシミュレートできるように変えられる。較正体は、製品と同一の材料、即ち例えば同一の金属、同一の鋼クラスの鋼、又は同一の化学組成の材料から形成されているので、製品に生じる材料変化を較正体において特に正確にシミュレートすることができる。さらに、較正体は、材料変化の領域を除いて、製品と同一又は少なくとも同様の特性を有し、したがって材料変化に関して較正を行うことができる。それにより、例えば較正体と製品に異なる製造材料を使用することによって引き起こされることがある較正の誤差をなくすことができる。有利には、これまで検出することができなかった材料変化も製品内で認識することができる。較正体はまた、材料欠陥を見つけるために提供される渦流検査の検査装置を較正するのに特に適している。
【0006】
本発明の一実施形態では、その化学組成及び/又は領域の空間的形状、特に領域の長さ、幅、及び/又は深さに関する材料変化が、製品で検出され得る材料変化と同様に現れるように企図される。好ましくは、領域の化学組成及び/又は空間形状の変化は、製品で認識され得る変化と同じ大きさを有する。
【0007】
半製品の厚さ全体にわたる材料特性、又は内部のみの材料特性を変えることが考えられるが、本発明の好ましい実施形態では、好ましくは3mmの深さまで、特に好ましくは1mmの深さまで半製品の表面から内部に広がる表面近傍の領域においてのみ変えられる。そのような較正体は、特に、製品の表面の変化を検出するため、特に硬度の変化を特定するために提供される装置に有利であることが判明している。
【0008】
深さ3mmまでの領域は、鋼板の局所的な脆弱化及び場合によってはその結果生じる割れの発生をもたらし得る製品の表面硬化を検出するのに特に適している。
【0009】
本発明の一実施態様では、製品で認識され得る変化をシミュレートするために、半製品内の領域に、材料特性を変える物質(半製品が鋼から形成される場合には炭素が好ましい)が導入される。
【0010】
好適には、このために、物質を半製品に取り込むことができる改質剤、好ましくは炭素を含有する改質剤が半製品に塗布される。
【0011】
一実施形態では、改質剤は、粉末、好ましくはコークス粉末、若しくは鋼製品の焼き固めのために提供される浸炭粉、又はペーストによって形成される。
【0012】
好適には、異なる速度や異なる量で物質を拡散する異なる改質剤が各領域で使用されて、各領域で異なる物質含有量及び/又は領域の空間的形状を形成する。異なる改質剤の混合物、例えば30重量%の浸炭粉及び70重量%のコークス粉末からなる混合物を使用することも考えられる。改質剤が配置される表面区域の形状及びサイズを選択することによって、材料変化の領域の形状を調整可能であることを理解されたい。
【0013】
本発明の一実施態様では、改質剤は、表面に配置された際、熱処理中に燃焼しないように、外部雰囲気、好ましくは炉の雰囲気から保護される。この目的のために、好ましくは、改質剤は、被覆する、溶接する、及び/又は保護ガスを周りに流すことができる。例えば、好ましくはセラミック耐火材料又は金属、例えば鋼若しくは鋳鉄からカバーを形成することができる。
【0014】
さらに、炉の雰囲気として保護ガス、例えばアルゴンを使用して改質剤を保護することも考えられる。ここでは、改質剤のカバーは必要ない。
【0015】
本発明のさらなる実施形態では、領域の材料特性は、半製品の熱処理によって変えられ、この熱処理は、好ましくは半製品の変形前に行われる。
【0016】
好適には、所定量の物質がその領域に導入される、及び/又は所定の深さ及び/又は側方への広がりまで物質が半製品に導入されるような期間中に、半製品の熱処理が行われる。
【0017】
製品の製造において通常成されるよりも長い時間にわたって熱処理を行うことが可能である。これは、鋼から形成された半製品の場合に特に有利である。なぜなら、それにより、製品に施される熱処理の期間に可能なよりも多量に、且つ大きな浸入深さで、領域内に炭素を拡散させることができるからである。較正体の製造における熱処理期間の変更はそれ以上の影響はないので、較正体と製品において、意図的に変更された領域以外では同一又はほぼ同一の特性を達成することができる。
【0018】
好適には、製品内で検出され得る材料特性又はその深さがシミュレートされるように、領域内の材料特性が変えられ、及び/又は領域内の深さが調整される。有利には、これにより、製品で検出され得る欠陥の大きさ及び/又は深さが較正体でも存在するので、検査法の特に正確な較正が可能になる。
【0019】
本発明の特に好ましい実施態様では、較正体は、検査対象の製品が製造される製造法と少なくとも1つの方法ステップ、好ましくは複数又は全ての方法ステップが同じ製造法に従って製造される。それにより、製品内で検査され得る材料変化は、較正体において特に正確にシミュレートすることができ、さらに、材料変化の領域外では、検査対象の製品と同一又は少なくとも同様の材料特性を構成することができる。方法ステップは、好適には、例えばスラブ加熱中又は標準化中の熱処理、及び/又は変形、好ましくは冷間又は熱間圧延プロセス、鍛造、深絞り、及び/又は熱機械的変形、例えば熱機械的圧延を含む。有利には、同じ変形を受けた際に、較正体の領域の空間形状が製品と同じように変えられる。
【0020】
さらなる実施形態では、較正体を製造するための半製品は、スラブ、板、厚板、又はブロックから形成される。
【0021】
好適には、較正体は、製品と同一若しくは同様の寸法及び/又は同一若しくは同様の形状を有するように製造される。
【0022】
有利には、較正体と製品を製造するために同じ装置を使用することができる。さらに、検査法の較正のために装置を組み立て直すは必要ない。
【0023】
本発明の一実施態様では、半製品に幾つかの領域が形成され、それらの領域内の材料特性が様々に変えられ、それらの領域は、異なる形状を有し、物質の異なる含有量を有することができ、及び/又は表面から異なる深さで半製品内に広がる。したがって、有利には、較正体を使用して、検査法を用いた測定中に限界値を見つけて設定することができる。
【0024】
さらに、ただ1つの較正体によって、製品で検出され得る幾つかの変化及び/又は変化の広がりを半製品又は較正体でも生成することができる。
【0025】
好適には、表面の異なる区域に異なる改質剤が塗布されて、それらの領域内で材料特性を様々に変える。
【0026】
本発明による較正体は、スラブ表面での局所的な炭素蓄積がめったに生じ得ない厚板製造用鋼スラブの製造プロセスを検査するための方法の較正に特に適している。そのような炭素蓄積は、それらの形状、特に浸炭の長さ、幅、及び/又は深さ、並びに達成される最大炭素含有量によって特徴を区別することができる。浸炭は、完成した鋼板の局所的な機械的特性の変化をもたらし、これはとりわけ、表面硬度の増加として現れ、例えば電磁的表面検査法によって検出することができる。しかし、基本的には、この表面検査法は、硬度の直接測定に基づくのではなく、異なる材料状態間の比較測定が行われる。したがって、区別できる材料状態を有する本発明による較正体によって、表面検査法の実施に用いる表面検査装置を較正する必要がある。
【0027】
本発明による方法は、鋼以外の材料、例えば非鉄金属又はその合金からなる較正体を製造するためにも使用でき、そのために、それぞれの材料からなる半製品を使用することができることを理解されたい。
【0028】
例示的実施形態、及び例示的実施形態に関連する添付図面に基づいて、本発明を以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】較正体を製造するための半製品の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
較正プレートの製造の材料となる鋼スラブ1(
図1の平面図に示す)は、表面5、及び3つの表面区域2、3、4を備える。これらの表面区域2、3、4は、
図2に示される鋼スラブ1の3つの領域9、11、12の外面を形成する。それらの領域9、11、12内で、硬度を高めるために炭素含有量が様々に変えられる。
【0031】
鋼スラブ1と同じ材料から形成され、鋼スラブ1と同じ形状を有するさらなる鋼スラブ(図示せず)から、較正体を製造する同じ製造工程に従って鋼板を作製する。鋼板は、何らかの検査法によって検査され、その検査法の較正のために較正体が提供される。鋼板用の鋼スラブは、鋼スラブ1と同じ熱処理、及び熱間圧延による同じ変形を施される。
【0032】
以下、較正プレートを製造するための本発明による方法を述べる。
【0033】
図2の断面図に示す鋼スラブ1の上で、表面区域2には浸炭粉6が塗布され、表面区域3には粉砕コークス7が塗布され、表面区域4には、40重量%の浸炭粉及び60重量%の粉砕コークスからなる粉末混合物8が塗布される。
【0034】
表面区域2、3、4は、酸素から保護し、したがって炉の雰囲気内での燃焼から保護するために、粉末6、7、8の塗布後に気密に覆われる。このために、例えば鋼等の金属から形成された直方体カバー10が表面5に被せられ、次いで鋼スラブ1と溶接される。
【0035】
熱処理炉内での鋼スラブ1の熱処理では、浸炭粉6、コークス粉7及び粉体混合物8からの炭素が、表面区域2、3、4を通って表面近傍領域9、11、12に拡散し、それらの領域で、浸入深さt1、t2、t3まで炭素含有量を局所的に変化させる。浸炭粉6、コークス7、及び粉末混合物8の材料の相違に基づいて、領域9、11、12は、それぞれの炭素含有量及び浸入深さt1、t2、t3の量が異なる。
【0036】
熱処理後、全てのカバー10、13及び粉体残渣が表面区域2、3、4から除去される。その後、鋼スラブ1を熱間圧延する。
【0037】
表面区域2、3、4の下では、較正体は領域9、11、12内で異なる炭素含有量を有する。較正体及び鋼板の両方が同じ方法ステップに従って製造されたので、領域9、11、12を除き、どちらも同じ構造を有し、したがって同じ特性を有する。それにより、この検査法は、欠陥として認識される、検査対象の鋼板で生じている炭素含有量の局所的な変化に関して望み通りに較正することができる。
【0038】
可能な検査法は、例えば、渦流検査又は超音波検査である。
【0039】
代替として、セラミック材料、例えば耐火性セラミック又は耐火材料からなるカバー13を構成することも可能である。このカバーも表面5に被せられ、モルタル(図示せず)によって鋼スラブ1と接続される。
【0040】
3つの表面区域2、3、4よりも多くの表面区域が表面5上に形成されてもよいことを理解されたい。領域9、11、12の炭素含有量及び/又は浸透深さt1、t2、t3を変えるために、鋼スラブ1の表面区域に、他の炭素含有粉末及び/又はその混合物を塗布することも可能である。
【0041】
さらに、較正プレートを製造するための方法は、2つの方法ステップだけでなく、複数の熱処理及び/又は複数の変形も含むことが考えられる。