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特許7091241固形ガンのための新規なキニンベースのセラノスティックプローブとその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】固形ガンのための新規なキニンベースのセラノスティックプローブとその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/04 20060101AFI20220620BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20220620BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 103/00 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
A61K51/04 100
A61K51/08 100
A61K51/04 200
A61K51/08 200
C07K7/06 ZNA
A61P35/00
A61K103:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018518759
(86)(22)【出願日】2016-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 CA2016050732
(87)【国際公開番号】W WO2016205941
(87)【国際公開日】2016-12-29
【審査請求日】2019-06-18
(31)【優先権主張番号】62/184,268
(32)【優先日】2015-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517451847
【氏名又は名称】ソシエテ ド コメルシアリザシオン デ プロデュイ ド ラ ルシェルシュ アップリケ ソクプラ シアンス サンテ エ ユメーヌ ソシエテ アン コマンディト
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE DE COMMERCIALISATION DES PRODUITS DE LA RECHERCHE APPLIQUEE SOCPRA SCIENCES SANTE ET HUMAINES, S.E.C.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ゴベイル フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ゲラン ブリジット
(72)【発明者】
【氏名】ルパージュ マーティン
(72)【発明者】
【氏名】サバー ロベール
(72)【発明者】
【氏名】フォルタン ダヴィド
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/040192(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0015715(US,A1)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2014年,Vol. 57,p.9010-9018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12Q
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物であって、キニンB1受容体(B1R)発現を認識し、B1Rのアゴニストまたはアンタゴニストであるセラノスティック化合物み、セラノスティック化合物が、下記の少なくとも1つであり、ここでXは、放射性核種 64 Cu及び 67 Cuのうちの少なくとも一つである、脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【化1】



【請求項2】
セラノスティック化合物が
【化2】


である、請求項1記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項3】
前記化合物が遊離塩基の形態又は塩の形態である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項4】
脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんを検出するための、請求項に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項5】
前記脳がんが、原発性又は二次性の脳がんである、請求項に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項6】
脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの標的放射性核種治療のための、請求項からのいずれか1項に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項7】
静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、脳内、脳室内、脊髄内、髄腔内及び鼻腔内から成る経路のうち、少なくとも1つの経路により送達するために製剤化される、請求項3か6のいずれか1項に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【請求項8】
対象中の残存腫瘍量を手術後にイメージングするための;前記対象中の瘍治療の有効性の非侵襲的評価のための;または、前記対象中のガン治療の前と後に検出される腫瘍組織のサイズを比較するための、請求項4に記載の脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの治療用セラノスティック組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本件開示は、ガンのためのイメージング/放射線治療両方の適用に適する、特定の放射性同位体(例えば、64Cu)に結合したキニンB1受容体(B1R)のための安定化されたペプチドリガンド(アゴニスト及びアンタゴニスト)から成るセラノスティック化合物に関連する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
原発性及び二次性(転移性)脳がんによる死亡率は、四半世紀にわたり本質的に変化していない。更に、転移性の脳腫瘍の発生率は、全身性のガン、例えば、肺がん、乳がん及び皮膚がんの治療法が改善されるにしたがって、増加している。原発性及び二次性脳がんは両方とも治療しなければ死に至る。グリオーマは全ての悪性原発性脳腫瘍の78%を占め、脳がんに関連した死亡の一番の原因である。
コンピュータ断層撮影(CT)及び磁気共鳴断層撮影(MRI)は、脳がん診断のためには補欠的な手段のままである。[18F]FDGは、大量のグルコースを消費する正常な脳細胞の高代謝要求のため高いバックグラウンドシグナルが得られることから、PET脳腫瘍イメージングのためには不適当である。[18F]FDGはまた、低悪性グリオーマ及び残存/再発グリオーマの検出には使用が限られる。
悪性グリオーマに対する治療的アプローチとしては、脳転移同様、手術、放射線治療及び化学療法が挙げられる。これらのアプローチは、効果的には程遠く、多くの部分において痛みを緩和するに留まっている。悪性グリオーマの高い浸潤性の性質、及び特にGBM(最も悪性度が高いグリオーマ)は、手術による完全な除去を不可能にする。残存腫瘍細胞が腫瘍量を取り戻すことは避けようがない。放射線治療は、例えばFDG-PET及びMRIのような通常のイメージングでは検出できない散在する低酸素性の顕微鏡的腫瘍病巣を根絶できない。全脳照射により、しばしば神経機能の低下が誘発される。脳がんのための化学療法はほとんどの場合、治療指数が低く、重大な全身性の副作用があり、効果的であるために十分な量が血液腫瘍関門を容易に通過できない。診断及び治療戦略の抜本的な転換が至急必要である。
悪性グリオーマに対する新たな治療的アプローチが、脳転移同様、いまでも提供される必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
本明細書の記載において、今、B1Rに特異的に結合するペプチド及びガンのイメージングと治療の両方に適する「両用("dual-purpose")」放射性核種を含むセラノスティック化合物、が提供される。
ある実施態様では、セラノスティック化合物は、
a)脳がんの検出と放射線治療の両方を可能とする放射性元素;及び
b)例えば脳がん細胞及び関連する血管中のキニンB1受容体(B1R)発現を全身投与により認識し、また、セラノスティック化合物が適切に脳に入ることを許す血液脳関門(BBB)の可逆的な開放を促進し得る標的要素、を含む。
ある実施態様では、放射性元素は放射性核種である。
別の実施態様では、放射性核種は、64/67Cu、131I、111In、153Sm、89Sr、90Y、177Lu及び213Biのうちの少なくとも一つである。
ある実施態様では、セラノスティック化合物は更に、生理活性要素に結合し、生理活性要素のインビボ金属交換反応の確率を制限するキレート剤及び、前記放射性核種と前記B1Rに特異的に結合するペプチドの間のリンカーを含む。
別の実施態様では、標的要素はB1Rのアゴニスト又はアンタゴニストである。
【0004】
補足的な実施態様では、標的要素は、
【化1】
である。
【0005】
ある実施態様では、環状キレート剤は、NOTA又はその誘導体;トリアザ-及びテトラアザ大環状分子(NOTHA2及びDOTHA2)から誘導されるメチルヒドロキサマート;1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸(NODAGA)又はその誘導体;ジエチレントリアミンペンタアセタート(DTPA)又はその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカンテトラアセタート(DOTA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカン-1,4,7-トリアセタート(D03A)及びその誘導体;3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸)(PCTA)又はその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン四酢酸(TRITA)及びその誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカンテトラメチルアセタート(DOTMA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカン-1,4,7-トリメチルアセタート(D03MA)及びその誘導体;N,N',N",N"'-テトラホスホナトメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(DOTP)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンメチルホスホン酸)(DOTMP)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンフェニルホスホン酸)(DOTPP)及びその誘導体;又はN,N'-エチレンジ-L-システイン又はその誘導体、である。
ある実施態様では、リンカーは、β-アラニン残基、2-アミノエチルピペラジン-1-カルボン酸 (APCA-ジカチオン)又はアミノ- ヘキサン二-1-酸 (AHDA-ジアニオン)又はその誘導体である。
【0006】
別の実施態様では、セラノスティック化合物は、
【化2】
である。
別の実施態様では、セラノスティック化合物は、
【化3】
である。
別の実施態様では、セラノスティック化合物は、
【化4】
である。
【0007】
別の実施態様では、セラノスティック化合物は、下記のうちの少なくとも一つである:
【化5】

【0008】
別の実施態様では、セラノスティック化合物は、遊離塩基の形態又は塩の形態である。
ある実施態様では、本明細書に記載のセラノスティック化合物は、脳がん、乳がん、肺がん、又は前立腺がんを検出及び/又は治療するためのものである。
別の実施態様では、該脳がんは原発性又は二次性の脳がんである。
更なる実施態様では、本明細書に記載のセラノスティック化合物は、脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの標的放射性核種治療のためのものである。
更なる実施態様では、本明細書に記載のセラノスティック化合物は、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、脳内、脳室内、脊髄内、髄腔内及び鼻腔内から成る経路のうち、少なくとも1つの経路による送達のために製剤化される。
【0009】
また、本明細書に記載のセラノスティック化合物の、対象中の残存腫瘍量の手術後のイメージングのための使用を提供する。
また、本明細書に記載のセラノスティック化合物の、対象中の新規な腫瘍治療の有効性の非侵襲的評価のための使用を提供する。
また、本明細書に記載のセラノスティック化合物の、対象中のガン治療前と後に検出された腫瘍組織のサイズを比較するための使用を提供する。
ある実施態様では、対象は動物又はヒトである。
また、本明細書に記載のセラノスティック化合物の、脳がん、乳がん、肺がん及び前立腺がんの標的放射性核種治療のための薬剤製造における使用を提供する。
また、本明細書に記載のセラノスティックの、対象中の組織のイメージングのための使用を提供する。
また、本明細書に記載のセラノスティックの、対象中の腫瘍サイズの予防又は縮小のためのがん治療の有効性を評価するための使用を提供する。
また、本明細書に記載のセラノスティックの、手術後の残存腫瘍量のイメージングのための使用を提供する。
【0010】
ある実施態様では、本明細書に記載の方法は、ガン治療の前と後で検出された組織のサイズを比較するステップを更に含む。
また、本明細書に記載のセラノスティックの、脳がん、乳がん、肺がん、及び前立腺がんの治療のための薬剤製造における使用を提供する。
また、ガン細胞を検出する方法を提供する。
ある実施態様では、ガン細胞は脳がん細胞又は組織である。
ある実施態様では、ガン細胞又は腫瘍は、前立腺がん、肺がん又は乳がんからのものである。
ある実施態様では、対象は、進行中のガン治療を受けている。
本明細書で用いられる場合、天然α-アミノ酸の略号は、当該技術分野において受け入れられているものである。前につけられた小さい大文字のD-又はL-は、アミノ酸の立体化学を示す。その他の略号は以下のとおり記載される:Thi,α-(2- チエニル)-L-アラニン;Orn,L-オルニシン;β-Nal, β-(2-ナフチル)-アラニン;Igl, 2-インダニル-グリシン; Cha, シクロヘキシル-アラニン; Cpg, α-シクロペンチル-アラニン; Oic, 2-カルボキシオクタヒドロインドール及び (αMe)Phe, α-メチル-フェニルアラニン; APCA, 2-アミノエチル-ピペラジン-1-カルボン酸; AHDA, アミノ-ヘキサン二-1-酸。
【0011】
以下において添付図について参照する。
下記(式1)は、下記図1の説明に記載の化合物である。
【化6】
(式1)
下記(式2)は、下記図2の説明に記載の化合物である。
【化7】
(式2)
下記(式3)は、下記図3の説明に記載の化合物である。
【化8】
(式3)
下記(式4)及び(式5)は、下記図4の説明に記載の化合物である。
【化9】
(式4)
【化10】
(式5)
下記(式6)は、下記図5の説明に記載の化合物である。
【化11】
(式6)
下記(式7)は、下記図6の説明に記載の化合物である。
【化12】
(式7)
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、セラノスティック化合物(式1)から成る、ある実施態様の構造を示す。
図2図2には、(式2)を、続いて銅で製剤化(B)、又は37℃で2時間(C)及び20時間(D)100%ラット血漿とともに処置した後の、インビトロ安定性研究の代表的なUPLC放射測定プロファイルを示す。
図3図3は、遊離(非放射性)Cu-アセタート及び(式3)の乳がん細胞によるインビトロ摂取をICP-MSにより決定したものを示す。
図4図4は、(式4)による放射線治療のインビトロ有効性を、クローン原性アッセイによって評価したものを示す。図4A-Cは、ヒト前立腺がん細胞(PC3及びLN-CaP)中の、(式5)のインビトロ細胞摂取及び抗ガン活性を示す。PC3細胞中における64Cu-Nota-B1RAの細胞摂取は(競合剤R954の存在の有無にかかわらず)、処置後20時間に、放射測定アッセイによって測定した(A)。PC3細胞(B)及びLN-CaP細胞(C)の64Cu-アセタート及び64Cu/Nota-B1RAの投与量依存抗増殖性効果をクローン原性アッセイで評価した。図4Dは、前立腺がんの64Cu/Nota-B1RAによる分子イメージングを示す。LN-CaP腫瘍を有するヌードマウスのPET画像を、64Cu/Nota-B1RA(9MBq)を注射した後、注射後(p.i.)0.5時間に得た。図4Eは、LN-CaP腫瘍モデル中の64Cu/Nota-B1RAの腫瘍対筋肉摂取比率を、競合剤R954を一緒に注射した場合又は注射しなかった場合について示す。図4Fは、LN-CaPを有するマウスの腫瘍細胞中のB1Rの免疫組織化学的(IHC)過剰発現を確認するものである(最も黒い暗色)。
図5図5A-Cは、F98 GBM細胞中における、(式6)のインビトロ細胞/核による摂取及び抗ガン活性を示す。細胞摂取及び、非放射性、遊離Cu及びCu/Nota-B1RAのF98グリオーマ細胞における核の局在化を、処置後20時間で、ICP-MSにより測定した(A)。F98ワイルドタイプ(B)又はshRNA-B1RノックダウンF98細胞(C)における64Cu-アセタート、64Cu/Nota-B1RAの投与量依存抗増殖性効果を、クローン原性アッセイを用いて示す。挿入:RT-qPCRによるB1Rノックダウンの確認。図5Dは、脳内ラットF98 GBM細胞を有するオスフィッシャーラットの、接種10日後の脳画像を示す。74 MBq(2mCi) の64Cu/Nota-B1RAを静脈内注射した後、1.5時間及び20時間での造影MRI(Gd-DTPA)及びPET脳画像。PMODソフトウェアを用いて、同じ動物についてのPET/MRI融合画像が得られた。PETシグナル強度分布を、黒(低)から白(高い値)の範囲で疑似カラーマップ中に描写した。図5Eは、F98 GBM細胞を有するラットの64Cu/Nota-B1RAのエクスビボ生体分布を、注射20時間後に描写したものである。図5Fは、F98 GBMを有するラットの、64Cu/Nota-B1RA(7.5 mCi/ラット)静脈内注射で単一処置し、注射10日後における、カプランーマイヤー生存曲線を示す。
図6図6Aは、特定の抗B1R抗血清を用いたマウスの脳及び肺転移腫瘍中の免疫組織化学的(IHC)B1R発現を証明する、最初の報告を示す(最も黒い暗色)。図Bは、(式7)を用いたマウス4T1/luc乳房腫瘍モデル中における転移腫瘍(Mets)の生体蛍光及びPETイメージングを示す;白い矢印は、4T1/luc細胞を脳内接種してから14日後に得られたPETシグナルと生体蛍光シグナルが、マウス中の発達した転移腫瘍において共に局在化していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面の簡単な説明
図1図1は、セラノスティック化合物
【化13】
から成る、ある実施態様の構造を示す。
図2図2には、
【化14】
を、続いて銅で製剤化(B)、又は37℃で2時間(C)及び20時間(D)100%ラット血漿とともに処置した後の、インビトロ安定性研究の代表的なUPLC放射測定プロファイルを示す。
図3図3は、遊離(非放射性)Cu-アセタート及び
【化15】
の乳がん細胞によるインビトロ摂取をICP-MSにより決定したものを示す。
図4図4は、
【化16】
による放射線治療のインビトロ有効性を、クローン原性アッセイによって評価したものを示す。図4A-Cは、ヒト前立腺がん細胞(PC3及びLN-CaP)中の、
【化17】
のインビトロ細胞摂取及び抗ガン活性を示す。PC3細胞中における64Cu-Nota-B1RAの細胞摂取は(競合剤R954の存在の有無にかかわらず)、処置後20時間に、放射測定アッセイによって測定した(A)。PC3細胞(B)及びLN-CaP細胞(C)の64Cu-アセタート及び64Cu/Nota-B1RAの投与量依存抗増殖性効果をクローン原性アッセイで評価した。図4Dは、前立腺がんの64Cu/Nota-B1RAによる分子イメージングを示す。LN-CaP腫瘍を有するヌードマウスのPET画像を、64Cu/Nota-B1RA(9MBq)を注射した後、注射後(p.i.)0.5時間に得た。図4Eは、LN-CaP腫瘍モデル中の64Cu/Nota-B1RAの腫瘍対筋肉摂取比率を、競合剤R954を一緒に注射した場合又は注射しなかった場合について示す。図4Fは、LN-CaPを有するマウスの腫瘍細胞中のB1Rの免疫組織化学的(IHC)過剰発現を確認するものである(最も黒い暗色)。
図5図5A-Cは、F98 GBM細胞中における、
【化18】
のインビトロ細胞/核による摂取及び抗ガン活性を示す。細胞摂取及び、非放射性、遊離Cu及びCu/Nota-B1RAのF98グリオーマ細胞における核の局在化を、処置後20時間で、ICP-MSにより測定した(A)。F98ワイルドタイプ(B)又はshRNA-B1RノックダウンF98細胞(C)における64Cu-アセタート、64Cu/Nota-B1RAの投与量依存抗増殖性効果を、クローン原性アッセイを用いて示す。挿入:RT-qPCRによるB1Rノックダウンの確認。図5Dは、脳内ラットF98 GBM細胞を有するオスフィッシャーラットの、接種10日後の脳画像を示す。74 MBq(2mCi) の64Cu/Nota-B1RAを静脈内注射した後、1.5時間及び20時間での造影MRI(Gd-DTPA)及びPET脳画像。PMODソフトウェアを用いて、同じ動物についてのPET/MRI融合画像が得られた。PETシグナル強度分布を、黒(低)から白(高い値)の範囲で疑似カラーマップ中に描写した。図5Eは、F98 GBM細胞を有するラットの64Cu/Nota-B1RAのエクスビボ生体分布を、注射20時間後に描写したものである。図5Fは、F98 GBMを有するラットの、64Cu/Nota-B1RA(7.5 mCi/ラット)静脈内注射で単一処置し、注射10日後における、カプランーマイヤー生存曲線を示す。
図6図6Aは、特定の抗B1R抗血清を用いたマウスの脳及び肺転移腫瘍中の免疫組織化学的(IHC)B1R発現を証明する、最初の報告を示す(最も黒い暗色)。図Bは、
【化19】
を用いたマウス4T1/luc乳房腫瘍モデル中における転移腫瘍(Mets)の生体蛍光及びPETイメージングを示す;白い矢印は、4T1/luc細胞を脳内接種してから14日後に得られたPETシグナルと生体蛍光シグナルが、マウス中の発達した転移腫瘍において共に局在化していることを示す。
【0014】
詳細な説明
本明細書において、脳がんの診断と治療を同時に行うことができる新しい化学成分が提供される。更に具体的には、本件開示は、イメージング/放射線治療の両方適用のため、例えば高い親和性及び安定性、効率的なクリアランス及び効果的なガン細胞/核による摂取のような所望の特性を有するようにつくられた特定の放射性同位体(例えば、64Cu)に結合したキニンB1受容体のためのペプチドリガンド(アゴニスト及びアンタゴニスト)に関連する。
したがって、脳腫瘍転移、すなわち、乳がん、肺がん及び皮膚がんのような脳に広がるガンを含む脳がんのセラノスティックのためのB1Rを標的とする特定の核プローブが提供される。
キニンは、身体全体に多数の効果を及ぼす短い直鎖ペプチドである。キニンの効果は、二種類の受容体、すなわち両方ともGタンパク質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属するキニンB1(B1R)及びB2(B2R)受容体、の特定的な活性化を通じて取り次がれる。多くのGPCRと異なり、B1Rは誘導性で、インターナリゼーションに抵抗力があり、リガンド活性に対して脱感作しにくい。組織の損傷、敗血症、心血管疾患及びガンを含む炎症状態の下で、B1Rは誘導され、あるいは過剰発現する。脳がんの検体におけるB1Rの過剰発現が報告された。
GPCRキニンB1受容体(B1R)は、B1Rが誘導性であり、通常の生理機能において何ら役割を果たさないため潜在的な副作用を抑えることができることから、ガンの診断及び治療のために極めて有望な標的である(Figueroa 他, 2012, Expert Opin Ther Targets, 16: 299-312; Whalley 他, 2012, Expert Opin Drug Discov, 7: 1 129-1 148)。更に、B1Rは、脳がんを含む
、今日までに試験された固形がんの全ての形態の分子指標の一部分であり(Figueroa 他, 上記)、B1Rアンタゴニストペプチドは、ガンの前臨床モデル中のガンの成長を妨げる(Whalley 他, 上記)。
【0015】
その内容が本明細書に参照により援用されるUS7,211,566は、高い親和性、生体安定性を有する、様々な哺乳類のB1R標的アンタゴニストペプチドについて記載している;すなわち、
【化20】
である。
その内容が本明細書に参照により援用されるUS7,932,228は、骨及び前立腺がん中のR-954の抗ガン活性について記載している。
その内容が本明細書に参照により援用されるUS8,076,453は、B1Rに対する強い親和性及び選択性を有する新規なキニンB1Rペプチドアゴニストが、酵素的分解に対するインビボ抵抗性、天然化合物に比べて優れた薬物動態的特性、腫瘍の治療のためBBBを通過し、辺縁組織内での物質の送達を著しく高める能力を増加させたことを記載している。そのようなB1Rアゴニストペプチドの例は、
【化21】
である。
【0016】
WO2014040192は、ガン及びその他の病気のメディカルイメージングのためのB1R標的組成物について記載している。非悪性形質転換HEK-293腎臓細胞中の組換えB1R過剰発現が概念を証明するための研究に選ばれた。PETデータは、異種発現システム(例えばHEK-293細胞)のみに基づいており、腫瘍特定的な摂取はタンパク質受容体レベルに強く依存するため(Fani 他, 上記)、高いレベルのGPCRが問題となり得ることが隠されている。これは放射性トレーサーの選択性/特定性の過大評価につながり、診療において期待される有用性について、誤解、又は代表的ではない証拠を提供し得るものである。PETイメージングのためにこれまで試験された放射性標識されたB1Rペプチドは、血液及び組織中のオフターゲットのペプチダーゼに対して、不完全なインビトロ/インビボ安定性を示し(Liu 他, 2015, Mol Pharm, 12(3): 974-982; Lin 他, 2015, Cancer Res, 75: 387-393; Lin 他, 2015, J Nucl Med, 56(4): 622-627)、これが擬陽性の結果の理由を示す可能性がある。潜在的に有害な放射性トレーサーの代謝物の発生はまた、特に高線量の放射線治療の場合、懸念される。したがって、既存技術のペプチドトレーサーにもかかわらず、本明細書において、ファーストインクラスの非加水分解性、高親和性で、脳がんを含む異なるタイプのガンの改善されたイメージング及び治療のためオフターゲットとの相互作用がないセラノスティック薬剤が提供される。
銅-64(64Cu)はガンのセラノスティック適用のため適切な放射性核種である。64Cu(PETイメージングのためには、β+, 0.65 MeV [17.8 %]; 放射線治療のためには、β-, 0.58 MeV [38.4 %] オージェ電子 [40%]とともに)は、ガンのPETイメージング及び標的放射線治療に用いることを許容する崩壊特性を有する。64Cuは18Fに類似する平均陽電子エネルギーを有し、半減期が12.7時間であるため、PETイメージングと放射線治療に理想的である。64Cuは、組織への短い浸透範囲(2.5mm)を有するβ-粒子を放出し、比較的小さな腫瘍量により適している。データは、細胞核への64Cuの送達が実際にその治療的効果を高めることを示している。実際、64Cuはまた、浸透範囲約5μmの6.84-keVオージェ電子(40%)を放出し、これはDNAがその範囲内にある場合極めて有毒性が高くなり得る。ほとんどのそのエネルギーは、崩壊場所の周囲数ナノメートルの範囲内に送達される。
効果的な脳セラノスティックの発展は、実験的には予見困難ないくつかの要請を成功裏に満たすことにかかっている。これらの要請は最近レビューされ、以下を含む:1)放射性リガンドの脳血管関門を通過する拡散性、2)放射性リガンドの腫瘍細胞表面に対する特異的な認識、3)受容体のインターナリゼーション及び再利用、及び4)放射性核種の核による摂取がペプチドリガンドに結合するか否か。
【0017】
本明細書において開示されるのは、放射性金属キレート基を、リンカー残基によって足場が延長されたペプチドリガンドのN末端に付加することによる特定のB1R標的セラノスティックである。ヒトB1R(hB1R)バイオアッセイ
で評価したところ、化合物
【化22】
によって例示されるように、修正されていない親ペプチドに比較してすぐれた高親和性/選択性を同種のB1Rに対して示すことから、そのような化学的修正は十分許容される。更に、リンカーユニットの性質/タイプ(例えば、βAla、APCA (ジカチオン性)及びAHDA(ジアニオン性))は、その不存在がhB1Rに対する親和性の劇的な下降(例えば、
【化23】
の場合、10分の1に減少)をもたらしうることから、セラノスティック組成物の明らかな親和性を維持するために本質的な役割を果たす。リンカーユニットの化学的性質もまたセラノスティックの薬学動態に影響し得る。
【0018】
本明細書において、1)ラット中での優れて高いインビトロ/インビボ安定性(分解の徴候が認められない)(図2)、2)腎臓から尿中にそのままの形態で多くが排泄されることから好ましい薬学動態(図5)、3)より高い抗ガン活性を提供する脳腫瘍細胞及びその他のタイプのガン細胞(例えば、乳がん及び前立腺がん)の細胞質及び核画分の両方に対する重要かつ予期されなかった局在性(図3-5)(このように特筆すべき64Cu/Nota-B1RAの治療効果は、64Cu-アセタート及び非放射性Cu/Nota-B1RA代用物では(10μMまでは)認められなかった)、4)非侵襲的及び速やかに、もともとの天然B1R発現ヒト固形腫瘍(例えば、脳及び前立腺)を認識又は検出する能力(図4及び5)、及び、5)ペプチド受容体放射性核種治療(PRRT)を用いることにより寿命が延びる傾向(図5)を示す、高親和性
【化24】
から成る包含的なセラノスティックの実施例が開示される。
【0019】
小動物のPETイメージングは、十分特徴づけられ、標準化された、悪性脳グリオブラストーマ(GBM)の同系ラットモデル、腫瘍脈管構造及び腫瘍細胞の両方でB1Rを発現することが知られているフィッシャー/F98悪性グリオーマラットモデル(図6)を用いて行われた。この正所性GBMモデルはその強く侵襲的な成長パターン、低い免疫原性、多くの治療モダリティーに対する耐性、及び一様な致死性という点においてヒトグリオーマの挙動をまねすることから、特に新しい治療及び診断モダリティを試験する際に魅力的である。新しい結果が静脈内64Cu標識NOTA/B1RAアンタゴニスト及びアゴニスト、すなわち、
【化25】
は、μPETにより比較的小さな脳腫瘍を適切に検出したことを証明した。
【化26】
は、注射後20時間で、非常に高くまた好ましい、脳腫瘍/反対側のバックグラウンド、脳腫瘍/筋肉比(それぞれ18:1及び6:1の比率)を示した。F98-フリーDMEMを接種され、偽手術された動物を用いた対照実験は、接種10日後の脳内にPETシグナルが存在しないことを明らかにした。エクスビボ生体分布研究は、著しい量の
【化27】
の脳腫瘍による摂取を伴うPETイメージングデータを確認した。B1R標的腫瘍の新しい結合体に対する摂取特異性が、非標識過剰R954(1 mg/kg)との競争阻害及び遺伝子的にF98 GBM/B1Rをノックダウンした安定的なクローンを用いた対照実験により確認された。
【0020】
同系の4T1/lucマウス乳房腫瘍脳転移モデルを、本明細書により開示される化合物の有効性を示す追加的な証拠の一つとして用いた。この非常に転移性の高い腫瘍モデルは、進行性ヒト乳がんの様々な特徴を、致死的な脳、肺及び骨の節への腫瘍転移を自発的に生成する能力を含め、再現しており、ヒトにおけるガンの臨床現場を最もよく表したモデルとして推奨されよう。この二次ガンの前臨床動物モデルは、誘導性B1Rタンパク質を内因的に発現することを示した(図6A)。全身動物生体蛍光イメージング(右、ルシフェリン注射後)は、ルシフェラーゼ発現乳がん細胞を追跡し、注射15日後の腫瘍転移の存在を確認した(図6B)。(骨)腫瘍転移からの生体蛍光シグナルとともに共局在した
【化28】
のPETシグナルが得られた(図6B)。
【0021】
全てあわせて、概念を証明するためのデータが、原発性及び二次性(転移性)脳がんの新規B1R標的セラノスティックとのイメージングの有効性について初めて証拠を提供する。
ある実施態様では、ガン患者は、最初、診断投与量のイメージング手続き(例えばPET)に対応する放射性核種で標識されたペプチドを受け取る。疾患箇所での適切なB1R局在化が達成されれば、患者は、本明細書に記載されたような治療効果を誘発することができる治療当量の同じ放射性核種(例えば64Cu)で標識されたペプチドを受け取ることができる。
ここに記載される新規なアプローチは、速やかで高度に特異的な診断と一緒になった脳がんを治療するための治療法を、効率的で非侵襲的な方法により提供する。
本件開示は、そのスコープを限定するというよりもむしろ実施態様を説明するために与えられる下記実施例を参照することにより、より容易に理解されよう。
【実施例
【0022】
実施例1
ペプチド合成及び放射性標識
ペプチド合成を、Tentagel S RAMレジンを用いた自動化システムの一例として実施した。レジンを最初に、自動ペプチド合成機(Pioneer Peptide Synthesis system, Applied Biosystems, カリフォルニア州フォスターシティ)の反応カラムに入れ、DIPEAの存在下で、HATUを用いて3倍過剰のFmocアミノ酸を添加した。DMF中、20%ピペリジンを用いて保護基を外すステップを行った。NOTAキレートユニットをGuerin 他 (2010, Org Lett, 12: 280-283)に記載された手順を用いて、例として合成した。FmocのN末端をぺプチジルレジンから、20%ピペリジンを用いて30分間で開裂させ、その後連続的に、DMFで2回、DCMで3回、IPA、DCM、IPA、DCM、IPA及びDCMで3回、洗浄した。該レジンをその後、無水ブロモ酢酸2.5倍当量で30分間処置し(DCM中、DIC(2.5当量)及び無水ブロモ酢酸(5当量)とともに、15分行った)、従前のように洗浄した。その後、該レジンをDCM中に懸濁させ、5倍過剰の1,4,7-トリアゾシクロノナンを添加し、続いて、NMPで洗浄、懸濁させる前に、3時間振とうした。t-ブチルブロモアセタート(3当量)を添加し、洗浄する前に2時間振とうした。TFA/H2O/TIPS(95/2.5/2.5, v/v/v)混合物を用いて、ポリマー固形支持体からペプチドを開裂させ、3時間撹拌した。混合物を濾過し、濾過物をジエチルエーテルで沈殿させた。粗ペプチドを水とアセトニトリルの混合物に溶解し、濾過し、水に溶解し、凍結乾燥し、分取HPLCで精製した。ペプチドのアイデンティティを質量分析法で確認した。
【0023】
Guerin 他(2010, Org Lett, 12: 280-283)記載の条件に従って、ペプチドを64Cuで標識した。簡単に述べると、ペプチド(3-5nmol)をアンモニウムアセタート緩衝液(1 M, pH 7.4)に [64Cu]Cu-(OAc)2 (180-300 MBq; 5-8 mCi)とともに、全体体積300-450μLの中で溶解した。結果得られた溶液を室温で20-35分培養した。標識された生成物をC-18sep-Packカートリッジ又はC-18カラムを用いたHPLC及び放射線検出器で精製した。放射性標識されたペプチドの量を、UV-クロマトグラム中のトレーサーのピーク面積を標準非標識ペプチドのUVピーク面積と比較して決定した。ペプチド分画を収集し、溶媒を除去し、Capintec放射性同位体キャリブレータ-(Capintec, Inc., 米国ニュージャージー州)を用いて計数し、該生成物の比放射能を計算した。
【0024】
実施例2
インビトロ及びインビボアッセイ
ヒトB1R用キニンアゴニスト及びアンタゴニストアナログの、みかけの親和性定数(又は強度)を、単離ヒト臍帯静脈を用いるインビトロヒトバイオアッセイによって評価した
この組織は、天然及び合成キニン受容体リガンドの強度及び選択性を決定するために有用な、天然の感度の高いバイオアッセイであることが証明された。それは特に、キニンB1R及びB2Rの両方を生理学密度で発現する。ペプチドのみかけの親和性を、アゴニストについてはEC50(pD2)値、アンタゴニストについてはIC50値で決定した。
ペプチドのインビトロ血漿安定性を、既に公表された手続き (Fournier 他, 2012, Bioconjug Chem, 23:1687-1693)に従って行った。簡単に述べると、一定分量(20μL)の精製し放射性標識されたB1Rぺプチドを、900μLの正常ラット、マウス及びヒト血漿と混合した。混合物を37℃の水浴上で、異なる時間、水浴を振とうさせながら培養し、UPLCのために調整した。
正常で健康なラット及びマウスのインビボ安定性研究のために、PBS中でペプチドを戻し、20-30 MBq (500-800μCi; 100μL) を尾静脈を通じて、イソフルランで麻酔をかけた動物に注射した。注射後の異なる時間に、血液及び尿を採取し、遠心分離し、続いてアセトニトリルでタンパク質を沈殿させた。サンプルをC-18カラム及び放射線検出器を用いたUPLCで分析した。分析及び保持時間を、ペプチドの開裂をモニターするため、原放射性標識ペプチドと比較した。
【0025】
B1R発現ラットF98 GBM細胞中の非標識Cu-アセタート及びCu-標識ペプチドの細胞摂取プロファイルをICP-MS分析によって評価した。脳がん細胞を10cmディッシュ上でコフルエントに成長させた。細胞を、FBSフリーDMEM中、37℃でそれぞれ15分、1時間、4時間、又は20時間、Cu-アセタート又はCu-標識ペプチド(500nM)とともに培養した。非特異的なインターナリゼーションを決定するため、一セットのディッシュを強力なB1RアンタゴニストR-954(1μM)と一緒に、37℃で10分間、Cu-標識ペプチドとともに、培養する前にB1Rをブロックするため、培養した。各時点で、培地を採取し、表面に結合した分画を除去するため細胞を酸で1回洗浄し(50mM酢酸/250mM NaCl pH 2.5)、続いてリン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.4)で2回洗浄した。その後、細胞をトリプシン処理し、遠心分離によって収集し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で優しく洗浄した。細胞は1/1 硝酸/30%H22溶液に可溶化し、ICP-MSでCuの量を決定した。非発現性B1Rヒト胚腎臓細胞HEK-293T及び/又は安定なB1RノックダウンF98 GBM細胞をコントロールとして、細胞によるリガンド摂取の特異性を確認するために用いた。代替的に、放射測定アッセイを、Couture 他(2014, Neoplasia, 16(8): 634-643)に記載のとおり、選択された放射性化合物の細胞による取り込みを測定するために用いた。
【0026】
DNAに放射線照射することは、細胞を傷つけ、究極的には殺すために効果的な方法である。腫瘍細胞の細胞核に局在する放射性核種は、したがって潜在的に、放射性医薬品の有効性を高める。これは特に64Cuのような組織中の浸透範囲が比較的短い放射性核種について、そうである。したがって、オージェ電子放出同位体の治療可能性を完全に実現するためには、放射性核種はガン細胞の細胞質のみならず核もまた標的としなければならない。このように、非放射性Cu-アセタート及びCu-標識B1R化合物がガン細胞の核に局在するか否かを決定するため、上記記載と同じICP-MSの技術を用いて試験を行った。細胞核は、わずかに修正したWang他(2003, Cancer Res, 63(20): 6864-6869) に記載の細胞分画技術によって単離した。処置の後、ガン細胞をトリプシン処理し、遠心分離し、HBSSで洗浄し、0.5%トリトンX-100を含む1mlの低浸透圧性緩衝液(10mM PIPES pH 6,8、100mM NaCl、2mM MgCl2、300mMスクロース)で、2分間、氷上で再懸濁した。続いて、細胞溶解物を10mlの洗剤(detergent)フリー低浸透圧バッファーで希釈し、遠心分離した。細胞なし核のペレットを、0.5mlの低浸透圧バッファーで再懸濁し、計数し、1/1 硝酸/30%H22溶液中で可溶化した。核の純度(>80%)を、トリパン青で染色した後、光学顕微鏡で確認した。核分画におけるCu含有量の定量をICP-MSで行った。
【0027】
B1R放射性核種治療の細胞傷害性をガン細胞中でクローン原性アッセイによって評価した。細胞(600細胞/プレート)を6-ウェル細胞培養プレートに播種し、48時間後に64Cu-アセタート又は64Cu-標識B1Rペプチド(1、10、25、50及び100nM)とともに、あるいは抜きで処置し、37℃で、血清含有培地で約7-9日間培養した。その後、培地を除去して、50%エタノール中0.5%メチレンブルーでコロニーを固定/染色し、水道水ですすぎ、空気乾燥した。コロニーの計数を、手動あるいはImage Pro Plus 5.1を用いて自動で行った。コントロールは、同様に標識された非放射性薬剤とともに細胞を処置すること及び安定なshRNAノックダウンF98 GBM細胞の使用を含んでいた(RT-PCRによる評価で、B1RのmRNAの約85-90%が減耗)。
F98 GBM細胞株(#CRL-2397)をAmerican Type Culture Collection (ATCC)より購入した。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン混合物を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に、単層として、37℃、加湿した5%CO2/95%空気の培養器中で培養した。F98グリオーマ細胞の移植手続きは、我々の以前の研究
に用いられたものと類似したものであった。簡単に述べると、F98グリオーマ細胞(5μl中、1×104細胞)をケタミン下で動物の右尾状核の領域に注射:次の定位固定調整においてキシラジン麻酔(87mg/kg:13mg/kg, i.p.):十字縫合に対して1mm前方、3mm側面、頭蓋骨の外板の6mm下。別に定めない限り、インビボ(生体分布及びPET)実験を開始する前に10日間、中期(約15-20mm3)まで腫瘍を成長させた。全ての腫瘍移植は、組織学的検査及び/又はMRIで決定されたとおり、成功した。
【0028】
エクスビボ生体内分布研究を、74MBq (2 mCi/ラット; 100μLの
【化29】
をイソフルラン麻酔された正常(非移植)又はF98を有するラットに、尾静脈を通じて注射した。注射から1時間及び20時間後、動物をCO2吸入によって安楽死させた。関心のある器官を更に収集し、計量し、γ線カウンター(Cobra II自動ガンマカウンター、ミネソタ州パッカード)で測定した。結果を組織1グラムあたりの注射量に対する百分率(%ID/g)で表した。脳腫瘍によるB1R放射性トレーサー摂取の特定性を、投与前のR954ペプチド1 mg/kg(放射性標識されたペプチドの注射5分前)及び反対側への偽手術を用いて決定した。B1R標的ノックダウンを有する動物をまた、更に脳腫瘍による摂取の特定性をサポートするため、用いた。実験は一グループあたり少なくとも3ラットを用いて行った。
【0029】
実施例3
インビボイメージング
軸視野8cmのLabPET8(Gamma Medica Inc.)小動物スキャナーを用いて、PETスキャンを行った。F98 GBM を有するラットに74 MBq (2 mCi; 100μL) の新規な64Cu放射性標識されたB1Rペプチド(アゴニスト及びアンタゴニスト)を尾静脈を通じて、イソフルラン麻酔下で注射した。PETスキャンを、注射後1時間及び20時間で評価した。各動物は化合物を注射後20分間スキャンの時間があった。画像は、分析的に得られるシステムマトリクスを実施する三次元MLEMアルゴリズムによって再構築された(Selivanov 他, 2000, Nuclear Science, IEEE Transactions on, 47: 1 168-1 175)。関心領域を、腫瘍、正常な脳、心臓、肝臓、腎臓及び筋肉についてトレースし、各器官における活性を測定し、注射量に対する百分率計算で報告した。各放射性トレーサーのその標的に対する特定性が、安定なF98 GBM細胞のB1Rノックダウン(上記参照)と同様に非標識類似物の事前過剰投与後に証明された。新規なキニンPET放射性トレーサーのインビボ試験を、超音波誘導下での4T1/luc(生体蛍光)マウスの乳がん細胞の脳内注射により誘導された腫瘍転移のモデルによって評価した。
【0030】
実施例4
ペプチド受容体放射性核種治療法(PRRT)
単回投与放射線治療実験:F98 GBMを有するラット(MRIによってあらかじめ画像化した)に移植後10~12日以内に、単回静脈内投与の100μLの64Cu-B1R放射性標識ペプチドアンタゴニスト及びアゴニストを含む無菌PBSを注射した(尾静脈経由);対照群の動物はビヒクル及び同じモル量の非標識ペプチドアンタゴニスト及びアゴニストを受けた。インビボでの腫瘍の成長及び治療の有効性をモニターするため、移植後、第6、10、20、30及び40日に、コントラストを高めたT1-強調MRイメージング及び解剖的T2-強調MRIを、7-テスラ小動物システム上で、各グループからランダムに取り上げた3ラットについて行った。
複数回投与放射線治療実験:PRRTをF98 GBMを有するラットに第3日に与え、移植後第15日に繰り返した。対照群の動物は、上記単回投与治療実験に記載されたものと全く同じである。上記のとおり、64Cu-B1R放射性標識ペプチド及び対応する非標識ペプチドの治療応答をモニターするためMRIデータを用いる。
脳がんを有し処置を受けていない動物(ビヒクルのみを受けたコントロール)、非標識ペプチドアンタゴニスト及びアゴニストで処置を受け、単回又は複数回投与放射線治療の対象となった動物の生存時間を、カプランマイヤー法で推計し、GraphPad Prism 6.0ソフトウェアを用いてログ・ランク検定で比較した。
【0031】
本発明は特定の実施態様との関連において詳細に記載されてきたが、さらなる修正が可能であり、この適用は、本発明の全てのバリエーション、使用、又は適応を、本件開示からの乖離も、本発明が関わる当該技術分野における知見又実施慣行の範囲内であり、上文に規定された本質的な特徴が適用され得て、続いて付属する特許請求の範囲のスコープの中のものとして包含することを意図していることが理解されよう。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕セラノスティック化合物であって、
a)放射性元素;及び
b)キニンB1受容体(B1R)発現を認識する標的要素、
を含む、化合物。
〔2〕該放射性元素が放射性核種である、前記〔1〕に記載のセラノスティック化合物。
〔3〕該放射性核種が少なくとも 64/67 Cu、 131 I、 111 In、 153 Sm、 89 Sr、 90 Y、 177 Lu及び 213 Biのうちの一つである、前記〔1〕又は〔2〕に記載のセラノスティック化合物。
〔4〕更に放射性元素に結合するキレート剤、及び前記放射性元素と前記標的要素の間にリンカーを含む、前記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔5〕該キレート剤が非環状又は環状のキレート剤である、前記〔4〕に記載のセラノスティック化合物。
〔6〕環状キレート剤が、NOTA又はその誘導体;トリアザ-及びテトラアザ大環状分子(NOTHA 2 及びDOTHA 2 )から誘導されるメチルヒドロキサマート;1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸(NODAGA)又はその誘導体;ジエチレントリアミンペンタアセタート(DTPA)又はその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカンテトラアセタート(DOTA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカン-1,4,7-トリアセタート(D03A)及びその誘導体;3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸)(PCTA)又はその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン四酢酸(TRITA)及びその誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカンテトラメチルアセタート(DOTMA)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザドデカン-1,4,7-トリメチルアセタート(D03MA)及びその誘導体;N,N’,N'',N'''-テトラホスホナトメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(DOTP)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラア
ザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンメチルホスホン酸)(DOTMP)及びその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンフェニルホスホン酸)(DOTPP)及びその誘導体;又はN,N’-エチレンジ-L-システイン又はその誘導体である、前記〔5〕に記載のセラノスティッ
ク化合物。
〔7〕リンカーが、β-アラニン残基、2-アミノエチルピペラジン-1-カルボン酸 (APCA-ジカチオン酸)又はアミノ- ヘキサン二-1-酸 (AHDA-ジアニオン酸)又はその誘導体である、前記〔4〕から〔6〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔8〕標的要素が、B1Rのアゴニスト又はアンタゴニストである、前記〔1〕から〔7〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔9〕標的要素が、
【化1】

である、前記〔1〕から〔8〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔10〕セラノスティック化合物が、下記の少なくとも1である、前記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
【化2】



〔11〕セラノスティック化合物が
【化3】

である、前記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔12〕セラノスティック化合物が
【化4】

である、前記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔13〕セラノスティック化合物が
【化5】

である、前記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔14〕該化合物が遊離塩基の形態又は塩の形態である、前記〔1〕から〔13〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔15〕脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんを検出するための、前記〔1〕から〔14〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔16〕該脳がんが、原発性又は二次性の脳がんである、前記〔15〕に記載のセラノスティック化合物。
〔17〕脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの標的放射性核種治療のための、前記〔1〕から〔16〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔18〕静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、脳内、脳室内、脊髄内、髄腔内及び鼻腔内から成る経路のうち、少なくとも1つの経路により送達するために製剤化される、前記〔1〕から〔17〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物。
〔19〕対象中の残存腫瘍量を手術後にイメージングするための、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔20〕対象中の新規な腫瘍治療の有効性の非侵襲的評価のための、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔21〕対象中のガン治療の前と後に検出される腫瘍組織のサイズを比較するための、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔22〕脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんを治療するための、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔23〕脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんを治療するための薬剤の製造における、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔24〕対象が動物又はヒトである、前記〔19〕から〔23〕のいずれか1項に記載の使用。
〔25〕対象が進行中のガンの治療を受けている、前記〔19〕から〔24〕のいずれか1項に記載の使用。
〔26〕脳がん、乳がん、肺がん又は前立腺がんの標的放射性核種治療のための薬剤の製造における、前記〔1〕から〔18〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物の使用。
〔27〕対象に前記〔1〕から〔19〕のいずれか1項に記載のセラノスティック化合物を投与することを含む、対象中のガン細胞を検出する方法。
〔28〕該ガン細胞が、脳がん細胞又は腫瘍である、前記〔27〕記載の方法。
〔29〕該ガン細胞が、前立腺がん、肺がん又は乳がんに由来する、前記〔27〕記載の方法。
図1A)】
図1B)】
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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