(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】構造部材
(51)【国際特許分類】
B21C 23/00 20060101AFI20220620BHJP
B21C 25/08 20060101ALI20220620BHJP
B62D 25/00 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
B21C23/00 A
B21C25/08
B62D25/00
(21)【出願番号】P 2018554148
(86)(22)【出願日】2017-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2017042519
(87)【国際公開番号】W WO2018101235
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2016232771
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】新村 仁
(72)【発明者】
【氏名】布野 和信
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-096769(JP,A)
【文献】特開2007-076547(JP,A)
【文献】特開2002-224738(JP,A)
【文献】特開2002-225773(JP,A)
【文献】特開平11-011345(JP,A)
【文献】特開2010-070128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 23/00
B21C 25/08
B62D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出方向に沿って押出断面
肉厚を変化させてある
ソリッド断面形状の押出材からなる構造部材であって、
押出方向の位置をX座標で表した場合に、
一方の端部の部位x
1から
他方の端部の部位x
2までのそれぞれ部位xにおいて、製品の許容応力σaとし、断面係数:Z(x),断面積:A(x),発生曲げモーメント:M(x)とすると、
式:Z(x)=M(x)/σaで求められる断面係数を部位xの変位に合せて可変し、前記部位x
1から部位x
2までの断面積A(x)の積分値が最小になるようにしてあり、
前記部位x
1と部位x
2との間
の中央部の肉厚の方が前記両端部の肉厚よりも厚いことを特徴とする押出材からなる構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の構造部材に関し、特にアルミニウム合金等の押出材を用いた構造部材に係る。
【背景技術】
【0002】
車両の分野においては、用途に応じた強度及び剛性を確保するとともに、軽量化が要求される。
軽量化の手段として、鉄系材料からアルミニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金等の軽合金への置換が検討されている。
しかし、単なる材料置換だけでは軽量化に限界があることから、近年テーラードブランク材とも称される部分的に肉厚を変えた材料の検討がされている。
しかし、従来の差厚テーラードブランク材は、部位に応じて板材を重ね合せたり、肉厚の異なる板材を突き合せ接合したものであり、接合工程による歪発生や熱影響による強度低下等、品質上の問題が発生しやすい(特許文献1~3)。
これに対して特許文献4~5には、押出材の断面自由度の高さを利用しつつ後加工等により、断面形状を可変させたものが提案されている。
しかし、これらの公報に開示する材料は、押出方向である長手方向には肉厚差がなく、部位によっては余剰の駄肉があり、軽量化が不充分であった。
【0003】
【文献】日本国特開2001-122154号公報
【文献】日本国特開2003-39120号公報
【文献】日本国特許第3996004号公報
【文献】日本国特許第4216617号公報
【文献】日本国特許第4611158号公報
【文献】日本国特許第5997099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、強度,剛性を確保しながら軽量化を図るのに有効な押出材からなる構造部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る押出材からなる構造部材は、押出方向に沿って肉厚を変化させてあることを特徴とする。
ここで押出材は、アルミニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金等、押出可能な軽合金を用いる。
アルミニウム合金としては、JIS6000系,7000系が例として挙げられる。
押出方向に沿って肉厚を変化させる方法としては、押出ダイスの開口寸法を肉厚方向に機械的に可変する方法、押出後にロール圧を加えたり、切削等による後加工を加える場合等、手段に制限はない。
【0006】
本発明において、押出方向に沿って押出断面形状を変化させてあってもよい。
【0007】
本発明は、押出方向に沿って肉厚を変化させたり、断面形状(押出方向に直交する断面)を変化させることで、押出方向の位置をX座標で表した場合に、それぞれ部位xにおいて、製品の許容応力σaとし、断面係数:Z(x),断面積:A(x),発生曲げモーメント:M(x)とすると、式:Z(x)=M(x)/σaで求められる断面係数を部位xの変位に合せて可変し、断面積A(x)が最小になるようにしてあることに特徴がある。
ここで、発生曲げモーメントは、その部位にて許容される最大曲げモーメントMmax(x)以下であることが前提である。
【発明の効果】
【0008】
従来のテーラードブランク材は、板材を重ね合せたり、異なる板厚材を接合することで断面肉厚を変化させたものであり、製品の長手方向の主材となるものは、一定の断面厚であることから、断面係数に余剰の部位が生じていた。
これに対して本発明は、押出形材における断面形状の自由度が高いことを活用しつつ、押出方向(長手方向)に対して肉厚や形状を可変させることで、その部位の曲げモーメントに対する最適な断面係数に合せて断面積を最小にすることで、さらなる軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る構造部材を適用した車両の構造部材例を示す。(a)は斜視図、(b)は部位A,B,Cにおける断面図を示す。
【
図2】
図1に示した製品の各部位(x)における発生曲げモーメントM(x)と許容される最大曲げモーメントMmax(x)との関係を示す。
【
図3】構造部材W
2の例を示す。(a)は側面図、(b)は斜視図、(c)はD-D線断面図、(d)はE-E線断面図を示す。
【
図4】構造部材W
3の例を示す。(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)はF-F線断面端面図、(d)はG-G線断面端面図、(e)はH-H線断面端面図を示し、(f),(g)は金型の構造例を模式的に示す。
【
図5】構造部材W
4の例を示す。(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)はI-I線断面端面図、(d)はJ-J線断面端面図、(e),(f)は金型の構造例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る構造部材は、自動車の各種構造部材に適用できる。
例えば車体を形成するピラー類,メンバ類等のリインホース,ルーフサイドリインホース,ロッカーパネルリインホース,ドアビーム,バンパリインホースメント等が例として挙げられる。
断面形状もソリッド,セミホロー,ホロー断面等、各種形状が対象になる。
【0011】
図1にソリッド断面からなる構造部材W
1の例を示す。
図1(a)に示したA,B,Cの部分の各断面形状を
図1(b)に示す。
A,B,Cは、押出材の押出方向をX座標で表現した場合に、それぞれX(A),X(B),X(C)の部位に相当する。
それぞれの部位にて肉厚を変化させてあり、底部の中央部に一体的に形成したリブの高さhも変化させてある。
本実施例では、長手方向の中央部に最も大きい曲げ応力が負荷される。
そこで、X(A)の部位の肉厚t
1よりもX(B)の部位の肉厚t
2の方を厚くした。
また、中央部にのみリブr
1を設け、このリブr
1の高さhを部位X(C)から部位X(B)に向けて徐々に低くし、それよりも長手方向端部側にはリブを設けていない。
このように、部位に応力が負荷される値に合せて断面係数を可変し、断面積が最小になるように設計した。
図1に示した構造部材は、プレス等にてさらに形状を変化させてもよい。
【0012】
図2は、
図1に示した構造部材W
1の部位xと発生曲げモーメントM(x)、その部位にて許容される最大曲げモーメントMmax(x)との関係を模式的に示す。
グラフaは、部位(x)における発生曲げモーメントM(x)の変化を示し、グラフbは許容される最大曲げモーメントMmax(x)の推移を示す。
直線cは、断面積が一定の場合の許容曲げモーメントに相当することから、斜線でSの部分の面積が軽量化に寄与した部分になる。
【0013】
図3は、構造部材W
2の例を示す。
アッパー(U)側の肉厚t
4を一般部の肉厚tよりも徐々に厚くした中空断面形状からなる構造部材の例である。
【0014】
図4は、中空断面からなる構造部材W
3の側壁の肉厚(厚肉部)t
5を一般肉厚tよりも部分的に厚くした例を示す。
この構造部材W
3を押出成形するためのダイの構造例を
図4(f),(g)に示す。
構造部材W
3の外形を形成するための外形金型11と、内形を形成するための内形金型12とからなり、これらはブリッジ等にて連結してある。
この外形金型11の一部に可動金型13を設け、(f)から(g)の状態に可変することで、押出材の厚肉部t
5が連続的に形成される。
【0015】
図5は、外形も肉厚も可変させえた構造部材W
4の例を示す。
図5(e),(f)に示すように、外形金型11aに可動金型13aを設けるとともに、内形金型12aにも可動金型12bを設けることで、
図5(d)に示すように長くなった側壁肉厚部t
6,厚肉部t
7を形成することができる。
このように、押出方向に沿って肉厚や外形を連続的に徐変することで、軽量で最適な断面からなる各種構造部材が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明に係る構造部材は、車両部品,車両の構造材,機械のフレーム部材等、強度及び軽量化が要求される各種構造部材に適用できる。