(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池用電極材料、それを用いた固体酸化物型燃料電池用アノード電極、及びそれを用いた固体酸化物型燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220620BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220620BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20220620BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M8/12 101
B01J23/10 M
C04B35/50
(21)【出願番号】P 2019067249
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-041237(JP,A)
【文献】特開平07-161360(JP,A)
【文献】特表2004-507061(JP,A)
【文献】特開2007-066813(JP,A)
【文献】特開2016-044108(JP,A)
【文献】特表2019-507962(JP,A)
【文献】特開2005-231951(JP,A)
【文献】特開2018-199594(JP,A)
【文献】特開2014-114180(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0106030(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0179717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/12
B01J 23/10
C04B 35/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成がCe
xZr
2La
(2-x)O
7(x=0.2~0.6)であり、超格子構造を有するパイロクロア型複合酸化物からなることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用電極材料。
【請求項2】
前記パイロクロア型複合酸化物が、大気中、1400℃で5時間加熱した後にCuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}が以下の条件:
I(14/29)値≧0.02
を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用電極材料。
【請求項3】
前記パイロクロア型複合酸化物の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸化物型燃料電池用電極材料。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の電極材料を含有することを特徴とする固体酸化物型燃料電池用アノード電極。
【請求項5】
請求項4に記載のアノード電極を備えることを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池用電極材料、それを用いた固体酸化物型燃料電池用アノード電極、及びそれを用いた固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物型燃料電池のアノード電極としては、金属Niと酸素イオン(O2-)伝導体(例えば、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ))とのサーメットが用いられてきた。しかしながら、NiとYSZとのサーメットからなるアノード電極においては、固体酸化物型燃料電池の作動温度が高いため、固体酸化物型燃料電池の作動時に、Niの凝集が起こり、固体酸化物型燃料電池の発電性能が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために、哘崎ら(非特許文献1)には、アノード電極におけるYSZに変わる酸素イオン伝導体として、酸素イオン伝導性だけでなく、電子伝導性にも優れた、パイロクロア構造を有する、Gd2Ti2O7及びY2Ti2O7にCaを添加した(Gd0.9Ca0.1)2Ti2O7(GCT)及び(Y0.9Ca0.1)2Ti2O7に(YCT)が提案されている。
【0004】
また、特開2008-91264号公報(特許文献1)には、パイロクロア型セリア-ジルコニア複合酸化物を用いた燃料電池用電極として、パイロクロア型Ce2Zr2O7からなる酸素吸放出体が担持されている触媒担持導電体と、高分子電解質とからなる触媒層を有する燃料電池用カソード電極が開示されている。しかしながら、ここで用いられているパイロクロア型Ce2Zr2O7は、耐熱性が十分に高いものではなく、高温で作動する固体酸化物型燃料電池の電極材料としては不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】哘崎ら、石油学会年会・秋季大会講演要旨集、2014年、89頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極、発電中の高温下での耐久性に優れた固体酸化物型燃料電池、並びに、前記アノード電極を得るための電極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Ceを特定の割合で含有し、高温に曝されても超格子構造が十分に維持されるパイロクロア型セリア-ジルコニア-ランタナ複合酸化物からなる電極材料をアノード電極材料に添加することによって、熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極が得られることを見出し、さらに、このアノード電極を用いることによって、発電中の高温下での耐久性に優れた固体酸化物型燃料電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の固体酸化物型燃料電池用電極材料は、化学組成がCexZr2La(2-x)O7(x=0.2~0.6)であり、超格子構造を有するパイロクロア型複合酸化物からなることを特徴とするものである。
【0010】
このような本発明の固体酸化物型燃料電池用電極材料においては、前記パイロクロア型複合酸化物が、大気中、1400℃で5時間加熱した後にCuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}が以下の条件:
I(14/29)値≧0.02
を満たすものであることが好ましく、また、前記パイロクロア型複合酸化物の平均粒子径が1μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、前記本発明の固体酸化物型燃料電池用電極材料を含有することを特徴とするものであり、本発明の固体酸化物型燃料電池は、前記本発明のアノード電極を備えることを特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極が熱安定性に優れている、すなわち、発電中の高温下においても電極特性が維持される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、固体酸化物型燃料電池においては、発電中に、固体電解質層から移動してきた酸素イオン(O2-)がアノード電極中の酸素イオン伝導体(例えば、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ))を移動し、アノード電極に導入された水素(H2)と反応して水(H2O)が生成する。従来の固体酸化物型燃料電池用アノード電極においては、発電中の高温下で、この水が活物質(例えば、金属Ni)を酸化するため、活物質が失活し、電極特性が低下すると推察される。
【0013】
一方、本発明の固体酸化物型燃料電池においても、
図1に示すように、固体電解質層11から移動してきた酸素イオン(O
2-)がアノード電極12中の酸素イオン伝導体12a(例えば、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ))を移動し、アノード電極12に導入された水素(H
2)と反応して水(H
2O)が生成する。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極12には、Ceを特定の割合で含有し、超格子構造を有するパイロクロア型セリア-ジルコニア-ランタナ複合酸化物からなる電極材料が含まれている。このパイロクロア型セリア-ジルコニア-ランタナ複合酸化物は、発電中の高温下であっても超格子構造が十分に維持されており、高い酸素吸蔵性能を有するため、
図2に示すように、発電中に生成した水分子(H
2O)中の酸素はパイロクロア型セリア-ジルコニア-ランタナ複合酸化物の酸素吸蔵サイト21に吸蔵される。その結果、本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極においては、発電中の高温下であっても、水による活物質(例えば、金属Ni)の酸化が起こりにくく、活物質が失活しない。また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元されるため、パイロクロア型セリア-ジルコニア-ランタナ複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)21が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することが可能となる。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、このようなメカニズムによって、発電中の高温下においても電極特性が維持されると推察される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極、発電中の高温下での耐久性に優れた固体酸化物型燃料電池、並びに、前記アノード電極を得るための固体酸化物型燃料電池用電極材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極における反応メカニズムを示す模式図である。
【
図2】本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極における水分子(H
2O)中の酸素の吸蔵メカニズムを示す模式図である。
【
図3】実施例及び比較例で作製した燃料電池用単セルを示す模式図である。
【
図4】セリア-ジルコニア-ランタナ(CZL)複合酸化物中のCeの含有率と燃料電池用単セルの耐久時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
〔電極材料〕
先ず、本発明の固体酸化物型燃料電池用電極材料について説明する。本発明の電極材料は、固体酸化物型燃料電池に用いられる電極材料であって、化学組成がCexZr2La(2-x)O7(x=0.2~0.6)であり、超格子構造を有するパイロクロア型複合酸化物からなるものである。
【0018】
(パイロクロア型複合酸化物)
本発明の電極材料を構成する複合酸化物は、セリウム(Ce)とジルコニウム(Zr)とランタン(La)とを含有し、超格子構造を有するパイロクロア型の複合酸化物である。以下、セリウム(Ce)とジルコニウム(Zr)とランタン(La)とを含有する複合酸化物を「CZL複合酸化物」といい、超格子構造を有するパイロクロア型のCZL複合酸化物を「パイロクロア型CZL複合酸化物」という。このようなパイロクロア型CZL複合酸化物は、超格子構造を有し、高い酸素吸放出能を示すため、アノード電極において、発電中に酸素イオン(O2-)と水素(H2)との反応によって生成する水分子中の酸素を吸蔵して、水によるアノード電極中の活物質(例えば、金属Ni)の酸化を抑制することができる。また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元されるため、パイロクロア型CZL複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することが可能となる。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、このようなメカニズムによって、優れた耐久性を示す。
【0019】
なお、パイロクロア型CZL複合酸化物の超格子構造(規則相)、すなわち、セリウムイオンとジルコニウムイオンとにより形成される規則配列構造を有する結晶相は、CuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンの2θ角が14.5°、28°、37°、44.5°及び51°の位置にそれぞれピークを有する結晶の配列構造(φ’相(κ相と同一の相)型の規則配列相:蛍石構造の中に生ずる超格子構造)である。したがって、パイロクロア型CZL複合酸化物の超格子構造(規則相)の形成は、CuKαを用いたX線回折測定により得られるCZL複合酸化物のX線回折パターンにおいて、超格子構造を有するパイロクロア相に由来するピーク(CuKαを用いたX線回折パターンの2θ角が14.0°~16.0°に現れるピーク)の存在を認識することによって確認することができる。
【0020】
また、本発明に用いられる前記パイロクロア型CZL複合酸化物の化学組成はCexZr2La(2-x)O7(x=0.2~0.6)である。xが0.2~0.6、すなわち、Ceの含有量がCeとZrとLaとの合計量に対して5~15at%にあると、パイロクロア型CZL複合酸化物は、高温に曝されても超格子構造が十分に維持されており、高い酸素吸放出能を有しているため、発電中の高温下であっても、生成した水分子中の酸素を吸蔵して、水によるアノード電極中の活物質の酸化を抑制することができる。また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元されるため、パイロクロア型CZL複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することが可能となる。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、このようなメカニズムによって、優れた熱安定性を示す。一方、xが0.2未満、すなわち、Ce含有量が5at%未満になると、CZL複合酸化物は、十分な酸素吸放出能を示さず、発電中に生成した水分子中の酸素を十分に吸蔵することができず、水によるアノード電極中の活物質の酸化を十分に抑制することができないため、耐久性に優れたアノード電極を形成することが困難となる。他方、xが0.6を超える、すなわち、Ce含有量が15at%を超えると、CZL複合酸化物は、高温に曝された場合に、超格子構造が十分に維持されず、酸素吸放出能も低下する。その結果、発電中の高温下において、生成した水分子中の酸素を十分に吸蔵することができず、水によるアノード電極中の活物質の酸化を十分に抑制することができないため、熱安定性に優れたアノード電極を形成することが困難となる。また、アノード電極の熱安定性が向上するという観点から、xが0.4~0.6、すなわち、Ceの含有量が10~15at%であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に用いられる前記パイロクロア型CZL複合酸化物においては、大気中、1400℃で5時間加熱した後にCuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}が以下の条件:
I(14/29)値≧0.02
を満たすことが好ましい。前記I(14/29)値が前記条件を満たすパイロクロア型CZL複合酸化物は、高温に曝されても超格子構造が十分に維持されおり、高い酸素吸放出能を有しているため、発電中の高温下であっても、生成した水分子中の酸素を吸蔵して、水によるアノード電極中の活物質の酸化を抑制することができる。また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元されるため、パイロクロア型CZL複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することが可能となる。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、このようなメカニズムによって、優れた熱安定性を示す。一方、前記I(14/29)値が前記下限未満のCZL複合酸化物は、高温に曝された場合に、超格子構造が十分に維持されず、酸素吸放出能も低下する。その結果、発電中の高温下において、生成した水分子中の酸素を十分に吸蔵することができず、水によるアノード電極中の活物質の酸化を十分に抑制することができないため、熱安定性に優れたアノード電極を形成することが困難となる傾向にある。また、前記I(14/29)値の上限としては特に制限はないが、PDFカード(PDF2:01-075-2694)から計算したパイロクロア相(Ce2Zr2O7)のI(14/29)値が上限となるという観点から0.05以下が好ましい。
【0022】
なお、本発明におけるI(14/29)値は、測定対象のCZL複合酸化物を、大気中、1400℃で5時間加熱した後にCuKαを用いたX線回折測定により得られるX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比である。ここで、2θ=14.5°の回折線は規則相(κ相)の(111)面に帰属する回折線であり、2θ=29°の回折線は規則相の(222)面に帰属する回折線とセリア-ジルコニア固溶体(CZ固溶体)の立方晶相(111)面に帰属する回折線とが重なるため、両者の回折線の強度比であるI(14/29)値を算出することにより超格子構造(規則相)維持率(存在率)を示す指標として規定される。なお、回折線強度を求める際、各回折線強度の値から、バックグラウンド値として2θ=10°~12°の平均回折線強度を差し引いて計算する。また、完全な規則相には、酸素が完全充填されたκ相(Ce2Zr2O8)と、酸素が完全に抜けたパイロクロア相(Ce2Zr2O7)とがあり、それぞれのPDFカード(κ相はPDF2:01-070-4048、パイロクロア相はPDF2:01-075-2694)から計算したκ相のI(14/29)値は0.04、パイロクロア相のI(14/29)値は0.05である。
【0023】
前記X線回折測定の方法としては、X線回折装置X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-Ultima」)を用いて、CuKα線をX線源として、40KV、40mA、2θ=5°/分の条件で測定する方法を採用することができる。また、前記X線回折パターンにおける「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが30cps以上のものをいう。
【0024】
また、本発明に用いられる前記パイロクロア型CZL複合酸化物の平均粒子径としては、後述する活物質(金属Ni等)や酸素イオン伝導体(イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等)とのサーメットを形成しやすいという観点から、1μm以下が好ましい。また、パイロクロア型CZL複合酸化物の平均粒子径の下限としては特に制限はないが、耐熱性を確保するという観点から、0.1μm以上が好ましい。なお、このようなパイロクロア型CZL複合酸化物の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察により得られるSEM像(2000倍)に基づいて、市販の画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング株式会社製「A像くん」)を用いて求めることができる。
【0025】
このような本発明に用いられる前記パイロクロア型CZL複合酸化物の調製方法としては、例えば、原子比がCe/Zr/La=x/2/2-x(x=0.2~0.6、好ましくは0.4~0.6)であるランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体に、1300~1500℃の温度下で1~10時間の還元処理を施した後、酸化処理を施す方法が挙げられる。
【0026】
前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体としては、原子比がCe/Zr/La=x/2/2-x(x=0.2~0.6、好ましくは0.4~0.6)であれば特に制限はないが、前記パイロクロア型CZL複合酸化物において、超格子構造を十分に形成させるという観点から、セリアとジルコニアが原子レベルで混合された固溶体が好ましい。
【0027】
このようなランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体は、例えば、共沈法により調製することができる。具体的には、得られるランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体の原子比がCe/Zr/La=x/2/2-x(x=0.2~0.6、好ましくは0.4~0.6)となるような割合でセリウムの塩(例えば、硝酸セリウム)、ジルコニウムの塩(例えば、硝酸ジルコニウム)及びランタンの塩(例えば、硝酸ランタン)を含有する水溶液において、アンモニアの存在下で共沈物を生成させ、得られた共沈物を乾燥後、仮焼することによって、前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を得ることができる。
【0028】
前記パイロクロア型CZL複合酸化物の調製方法においては、先ず、前記原子比を有するランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体に、1300~1500℃(好ましくは、1400~1500℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、1~5時間)の還元処理を施す。これにより、熱安定性に優れたパイロクロア型CZL複合酸化物を得ることができる。還元処理温度が前記下限未満になると、超格子構造の熱安定性が低くなり、得られるパイロクロア型CZL複合酸化物は、高温に曝された場合に、超格子構造が十分に維持されず、酸素吸放出能も低下する。その結果、発電中の高温下において、生成した水分子中の酸素を十分に吸蔵することができず、水によるアノード電極中の活物質の酸化を十分に抑制することができないため、熱安定性に優れたアノード電極を形成することが困難となる。他方、還元処理温度が前記上限を超えると、還元処理に要するエネルギー(例えば、電力)と性能向上とのバランスが悪化する。また、還元処理時間が前記下限未満になると、得られるCZL複合酸化物は、超格子構造が十分に生成せず、十分な酸素吸放出能を示さない。その結果、発電中に生成した水分子中の酸素を十分に吸蔵することができず、水によるアノード電極中の活物質の酸化を十分に抑制することができないため、耐久性に優れたアノード電極を形成することが困難となる。他方、還元処理時間が前記上限を超えると、還元処理に要するエネルギー(例えば、電力)と性能向上とのバランスが悪化する。
【0029】
還元処理の方法としては、還元性雰囲気下で前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を所定の温度条件で加熱処理することが可能な方法であれば特に制限はなく、(i)真空加熱炉内に前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を設置して真空引きした後に、炉内に還元性ガスを流入させて炉内の雰囲気を還元雰囲気とし、所定の温度で加熱して還元処理を施す方法や、(ii)黒鉛製の炉を用いて炉内に前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を設置して真空引きした後、所定の温度で加熱して炉体や加熱燃料等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより炉内の雰囲気を還元雰囲気として還元処理を施す方法、(iii)活性炭を充填した坩堝内に前記ランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を設置し、所定の温度で加熱して活性炭等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより坩堝内の雰囲気を還元雰囲気として還元処理を施す方法等が挙げられる。
【0030】
このような還元雰囲気を達成するために用いる還元性ガスとしては特に制限はなく、CO、HC、H2、その他の炭化水素ガス等の還元性ガスが挙げられる。また、このような還元性ガスの中でも、より高温で還元処理を実施した場合に炭化ジルコニウム(ZrC)等の複生成物が生成されることを防止するという観点から、炭素(C)を含まないものが好ましい。このような炭素(C)を含まない還元性ガスを用いると、ジルコニウム等の融点に近いより高い温度での還元処理が可能となるため、超格子構造の熱安定性をより十分に向上させることが可能となる。
【0031】
前記パイロクロア型CZL複合酸化物の調製方法においては、このような還元処理の後、さらに、酸化処理を施す。これにより、還元処理中に失われた酸素が補填され、パイロクロア型CZL複合酸化物としての安定性が向上する。このような酸化処理の方法としては特に制限はなく、例えば、酸化雰囲気下(例えば、大気中)において還元処理後の前記パイロクロア型CZL複合酸化物を加熱処理する方法を好適に採用することができる。また、このような酸化処理温度としては特に制限はないが、300~700℃程度(より好ましくは、400~600℃程度)が好ましい。さらに、前記酸化処理時間も特に制限はないが、3~7時間程度(より好ましくは4~6時間程度)が好ましい。
【0032】
また、前記パイロクロア型CZL複合酸化物の調製方法においては、前記還元処理及び/又は前記酸化処理の後に、前記パイロクロア型CZL複合酸化物に粉砕処理を施すことが好ましい。粉砕処理の方法としては特に制限はなく、例えば、湿式粉砕法、乾式粉砕法、凍結粉砕法等が挙げられる。
【0033】
(固体酸化物型燃料電池用電極材料)
本発明の固体酸化物型燃料電池用電極材料は、前記化学組成を有し、超格子構造を有するパイロクロア型CZL複合酸化物からなるものである。このようなパイロクロア型CZL複合酸化物は、高温に曝されても超格子構造が十分に維持されており、高い酸素吸放出能を有しているため、このパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料をアノード電極に添加することによって、発電中の高温下であっても、生成した水分子中の酸素を吸蔵して、水によるアノード電極中の活物質の酸化を抑制することができる。また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元されるため、パイロクロア型CZL複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することが可能となる。本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極は、このようなメカニズムによって、優れた熱安定性を示す。
【0034】
〔アノード電極〕
次に、本発明の固体酸化物型燃料電池用アノード電極について説明する。本発明のアノード電極は、固体酸化物型燃料電池に用いられるアノード電極であって、前記本発明の電極材料、すなわち、前記化学組成を有し、超格子構造を有するパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を含有するものである。
【0035】
本発明のアノード電極における前記パイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、発電中の高温下であっても、生成した水分子中の酸素を吸蔵して、水によるアノード電極中の活物質の酸化を抑制することができ、また、吸蔵された酸素が発電雰囲気中に存在する水素により還元され、パイロクロア型CZL複合酸化物中に酸素欠陥(酸素吸蔵サイト)が生成し、再度、水分子中の酸素を吸蔵することができ、熱安定性に優れたアノード電極を形成することが可能となるという観点から、アノード電極全体に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましく、また、アノード電極の構造安定性を確保するという観点から、アノード電極全体に対して、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0036】
また、本発明のアノード電極には、通常、前記パイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料以外に、活物質と酸素イオン伝導体とが含まれている。このような活物質及び酸素イオン伝導体としては、従来の固体酸化物型燃料電池のアノード電極に用いられる活物質及び酸素イオン伝導体を用いることができる。
【0037】
例えば、活物質としては、Ni、Fe、Co、貴金属(Pt、Pd等)、Cu、Zn、Cr、Ti、Al、W、Mo及びこれらの合金等が挙げられる。これらの活物質は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの活物質の中でも、電気伝導性及び触媒活性に優れているという観点から、Ni、Fe、Co、貴金属(Pt、Pd等)が好ましく、Niがより好ましい。
【0038】
また、酸素イオン伝導体としては、ジルコニア;Y、Sc、Sm、Gd及びLaのうちの少なくとも1種の元素がドープされたジルコニア;セリア;Y、Sm、Gd、La、Nd、Yb、Ca及びHoのうちの少なくとも1種の元素がドープされたセリア等が挙げられる。これらの酸素イオン伝導体は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの酸素イオン伝導体の中でも、強度及び熱安定性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等のジルコニア系酸化物が好ましく、酸素イオン伝導性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)がより好ましい。
【0039】
さらに、これらの活物質と酸素イオン伝導体との組合せとしては、アノード電極の電気伝導性、触媒活性、耐熱性及び酸素イオン伝導性が高くなり、燃料電池の発電特性が向上するという観点から、活物質がNiであり、酸素イオン伝導体がイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である組合せ;活物質がFeであり、酸素イオン伝導体がイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である組合せ;活物質がCoであり、酸素イオン伝導体がイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である組合せが好ましく、活物質がNiであり、酸素イオン伝導体がイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である組合せがより好ましい。
【0040】
本発明のアノード電極における前記活物質の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、アノード電極における反応が十分に進行し、発電特性に優れた燃料電池が得られるという観点から、電極材料全体に対して、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましく、また、アノード電極の体積収縮を抑制するという観点から、電極材料全体に対して、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0041】
また、本発明のアノード電極における前記酸素イオン伝導体の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、酸素イオン伝導性に優れたアノード電極が得られ、発電特性に優れた燃料電池が得られるという観点から、電極材料全体に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、また、燃料電池の発電特性の低下を抑制するという観点から、電極材料全体に対して、70質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0042】
前記活物質の平均粒子径としては、燃料電池の発電特性を向上させるという観点から、1μm以下が好ましい。また、活物質の平均粒子径の下限としては特に制限はない。
【0043】
また、前記酸素イオン伝導体の平均粒子径としては、アノード電極の酸素イオン伝導性を保持するという観点から、1μm以下が好ましい。また、酸素イオン伝導体の平均粒子径の下限としては特に制限はない。
【0044】
なお、このような活物質及び酸素イオン伝導体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布において、累積度数が50%を示すときの粒子径(直径)d50として求めることができる。
【0045】
本発明のアノード電極の平均厚さとしては、アノード電極の強度を確保するという観点から、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が特に好ましく、また、アノード電極において、導入された水素の拡散性が向上するという観点から、800μm以下が好ましく、700μm以下がより好ましく、600μm以下が特に好ましい。
【0046】
また、本発明のアノード電極は、緻密なものであってもよいが、固体酸化物燃料電池においてアノード電極に導入される水素の拡散性の観点から、多孔質であることが好ましい。このような多孔質のアノード電極における気孔率としては、アノード電極における水素の拡散性の観点から、20%以上が好ましく、22%以上がより好ましく、25%以上が特に好ましく、また、アノード電極の強度及び電気伝導性、並びにアノード電極における水素と酸素イオンとの反応性を確保するという観点から、60%以下が好ましく、58%以下がより好ましく、55%以下が特に好ましい。
【0047】
さらに、本発明のアノード電極は、1層からなるものであっても、2層以上からなるものであってもよい。2層以上からなるアノード電極としては、拡散層と活性層とを有するアノード電極が挙げられる。拡散層は、アノード電極に導入された水素をアノード電極内に拡散させるための層であり、活性層は、水素と酸素イオンとの反応の活性点を含む層であり、また、電極活性を有する層である。
【0048】
拡散層の平均厚さとしては、支持体としての強度を確保するという観点から、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が特に好ましく、また、アノード電極において、導入された水素の拡散性が向上するという観点から、800μm以下が好ましく、700μm以下がより好ましく、600μm以下が特に好ましい。
【0049】
活性層の平均厚さとしては、水素と酸素イオンとの反応の活性点が増加するという観点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上が特に好ましく、また、アノード電極において、導入された水素の拡散性が向上するという観点から、80μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。
【0050】
また、拡散層及び活性層は、緻密なものであってもよいが、アノード電極において水素の拡散性が向上するという観点から、多孔質であることが好ましい。多孔質の拡散層における気孔率としては、拡散層において水素の拡散性が向上する観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましく、また、拡散層の強度及び電気伝導性を確保するという観点から、60%以下が好ましく、58%以下がより好ましく、55%以下が特に好ましい。さらに、多孔質の活性層における気孔率としては、活性層において水素の拡散性が向上し、生成した水の排出性が向上するという観点から、20%以上が好ましく、22%以上がより好ましく、25%以上が特に好ましく、また、活性層における水素と酸素イオンとの反応性を確保するという観点から、40%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下が特に好ましい。
【0051】
このような本発明のアノード電極の製造方法としては、例えば、先ず、前記活物質と、前記酸素イオン伝導体と、前記化学組成を有し、超格子構造を有するパイロクロア型CZL複合酸化物からなる本発明の電極材料とを含有し、必要に応じて造孔剤(例えば、カーボン)とバインダーとを更に含有するアノード電極形成用スラリーを調製し、このアノード電極形成用スラリーを用いてアノード電極形成用シートを作製し、次いで、このアノード電極形成用シートを、単独で或いは後述する他の層を形成するためのシートとともに、大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成する方法が挙げられる。前記焼成温度が前記下限未満になると、アノード電極の緻密化が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、アノード電極の構成材料が熱分解する傾向にある。また、前記焼成時間が前記下限未満になると、アノード電極の緻密化が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、焼成による効果に対して処理コストが見合わない傾向にある。
【0052】
〔固体酸化物型燃料電池〕
次に、本発明の固体酸化物型燃料電池について説明する。本発明の固体酸化物型燃料電池は、前記本発明のアノード電極、すなわち、前記化学組成を有し、超格子構造を有するパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を含有するアノード電極を備えるものである。より具体的には、前記活物質と、前記酸素イオン伝導体と、前記化学組成を有し、超格子構造を有するパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を含有するアノード電極を備えるものである。
【0053】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池においては、通常、前記本発明のアノード電極と、固体電解質層と、カソード電極とがこの順で積層されており、さらに、必要に応じて固体電解質層とカソード電極との間に反応防止層が配置されていてもよい。
【0054】
固体電解質層用材料としては、強度、熱安定性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等のジルコニア系酸化物が好ましく、酸素イオン伝導性に優れているという観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)がより好ましい。固体電解質の平均厚さとしては、オーミック抵抗が低減されるという観点から、3~20μmが好ましく、4~15μmがより好ましく、5~10μmが特に好ましい。
【0055】
カソード電極用材料としては、LaxSr1-xCoO3系酸化物、LaxSr1-xCoyFe1-yO3系酸化物、SmxSr1-xCoO3系酸化物(これらの化学式において、0≦x≦1、0≦y≦1)等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物が挙げられる。これらのカソード電極用材料は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。カソード電極の平均厚さとしては、集電性が向上するという観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましく、また、他層との熱線膨張係数の差によるクラックの発生を抑制できるという観点から、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下が特に好ましい。
【0056】
反応防止層用材料としては、CeO2;Gd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca及びHoのうちの少なくとも1種の元素がドープされたCeO2等が挙げられる。これらの反応防止層用材料は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。反応防止層の平均厚さとしては、オーミック抵抗が低減され、カソード電極からの元素拡散を抑制できるという観点から、1~20μmが好ましく、2~10μmがより好ましい。
【0057】
このような本発明のアノード電極と、固体電解質層と、カソード電極とがこの順で積層されており、さらに、必要に応じて固体電解質層とカソード電極との間に反応防止層が配置されている本発明の固体酸化物型燃料電池は、例えば、以下の方法によって製造することができる。すなわち、先ず、前記アノード電極の場合と同様に、固体電解質層形成用スラリー、反応防止層形成用スラリー、カソード電極形成用スラリーを調製し、これらのスラリーを用いて、固体電解質層形成用シート、反応防止層形成用シート、カソード電極形成用シートを作製する。次いで、前記アノード電極形成用シート、固体電解質層形成用シート、反応防止層形成用シート、カソード電極形成用シートをこの順で積層(必要に応じて圧着)して未焼成体を作製し、この未焼成体を大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することによって、本発明の固体酸化物型燃料電池の単セルを得ることができる。
【0058】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池は、以下の方法によっても製造することができる。すなわち、先ず、前記アノード電極の場合と同様に、固体電解質層形成用スラリー、反応防止層形成用スラリーを調製する。また、カソード電極については、カソード電極形成用ペーストを調製する。次に、前記スラリーを用いて、固体電解質層形成用シート、反応防止層形成用シートを作製する。次いで、前記アノード電極形成用シート、固体電解質層形成用シート、反応防止層形成用シートをこの順で積層(必要に応じて圧着)して未焼成体を作製し、この未焼成体を大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成する。その後、得られた焼成体上にカソード電極用ペーストを塗工してカソード電極用ペースト層を形成し、これを大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することによってカソード電極が形成され、本発明の固体酸化物型燃料電池の単セルを得ることができる。
【0059】
さらに、本発明の固体酸化物型燃料電池は、以下の方法によっても製造することができる。すなわち、先ず、固体電解質層形成用ペースト、反応防止層形成用ペースト、カソード電極形成用ペーストを調製する。次に、前記アノード電極形成用シート上に固体電解質層形成用ペーストを塗工して固体電解質層形成用ペースト層を形成し、これを大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することによって、固体電解質層を形成する。その後、この固体電解質層上に反応防止層形成用ペーストを塗工して反応防止層形成用ペースト層を形成し、これを大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することによって、反応防止層を形成する。さらに、この反応防止層上にカソード電極形成用ペーストを塗工してカソード電極形成用ペースト層を形成し、これを大気雰囲気下、900~1500℃(好ましくは、950~1450℃)の温度下で1~10時間(好ましくは、2~5時間)焼成することによってカソード電極が形成され、本発明の固体酸化物型燃料電池の単セルを得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
CeO2換算で28質量%となる濃度の硝酸セリウム水溶液61.4gと、ZrO2換算で18質量%となる濃度の硝酸ジルコニウム水溶液278.4gと、純水300mlに硝酸ランタン六水和物130.0gを溶解した水溶液とを混合し、得られた混合溶液を、25%アンモニア水100gを純水900mlで希釈した水溶液に添加し、ホモジナイザを用いて300rpmで10分間攪拌して共沈物を生成させた。この共沈物を含む水溶液を容量1Lのビーカー3個に分取し、脱脂炉を用いて大気雰囲気下、150℃で7時間加熱して水を蒸発させるとともに共沈物を乾燥させた。この共沈物をさらに400℃で5時間仮焼してランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体を得た。
【0062】
このランタナ含有セリア-ジルコニア固溶体20gを黒鉛製坩堝に充填して小型真空加圧焼結炉(富士電波工業株式会社製「FVPS-R-150」)に入れ、炉内をアルゴン雰囲気に置換した後、昇温時間1時間で1000℃まで加熱し、さらに昇温時間3時間で1500℃(還元処理温度)まで加熱して5時間保持した。その後、冷却時間4時間で1000℃まで冷却し、さらに自然放冷で室温まで冷却して還元処理品を得た。
【0063】
得られた還元処理品を大気中、500℃で5時間加熱してセリア-ジルコニア-ランタナ(CZL)複合酸化物を得た。このCZL複合酸化物を、粒径が75μm以下となるように粉砕機を用いて粉砕、篩分けして、原子比(Ce/Zr/La)=12.5/50/37.5のセリア-ジルコニア-ランタナ(CZL)複合酸化物粉末(化学組成:Ce0.5Zr2La1.5O7、Ce含有率:12.5at%)を得た。
【0064】
(比較例1)
硝酸セリウム水溶液を用いず、硝酸ランタン六水和物の量を173.2gに変更した以外は実施例1と同様にして、原子比(Zr/La)=50/50のジルコニア-ランタナ(ZL)複合酸化物粉末(化学組成:Zr2La2O7、Ce含有率:0at%)を得た。
【0065】
(比較例2)
CeO2換算で28質量%となる濃度の硝酸セリウム水溶液の量を122.8gに、硝酸ランタン六水和物の量を86.6gに変更した以外は実施例1と同様にして、原子比(Ce/Zr/La)=25/50/25のセリア-ジルコニア-ランタナ(CZL)複合酸化物粉末(化学組成:Ce1Zr2La1O7、Ce含有率:25at%)を得た。
【0066】
<耐熱試験>
実施例及び比較例で得られた各複合酸化物粉末を大気中、1400℃で5時間加熱した。
【0067】
<X線回折測定>
耐熱試験前後の各複合酸化物粉末について、X線回折装置(株式会社リガク製「RINT-Ultima」)を用いてCuKαをX線源として40kV、40mA、2θ=5°/分の条件でX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンから2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
<平均粒子径及び粒径分布の測定>
実施例及び比較例で得られた各複合酸化物粉末を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-5500」)を用いて観察した。得られたSEM像(2000倍)に基づいて、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製「A像くん」)を用いて複合酸化物粉末の平均粒子径と粒径分布を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0069】
<酸素吸放出量(OSC)の測定>
耐熱試験後の複合酸化物粉末15mgに、熱重量測定装置(株式会社島津製作所製「TGA-50」)を用い、700℃の温度下で還元性ガス(H2(4体積%)+N2(残り))を5分間流通(流量100ml/分)させた後、酸化性ガス(O2(5体積%)+N2(残り))に切替えて5分間流通(流量100ml/分)させた。この一連の操作を合計3回繰り返し、3回目の還元性ガス流通時の質量減少量を測定して酸素吸放出量(OSC)を求めた。その結果を表1に示す。
【0070】
<燃料電池用単セルの作製>
(アノード電極の拡散層形成用シートの作製)
NiO粉末(平均粒子径:1.0μm)65質量部と、8mol%のY2O3を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末(平均粒子径:0.8μm)35質量部と、実施例又は比較例で得られた複合酸化物粉末10質量部と、カーボン粉末(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(バインダー)と、酢酸イソアミル、2-ブタノール及びエタノールを含有する混合溶媒とをボールミルを用いて混合して、アノード電極の拡散層形成用スラリーを調製した。なお、NiO粉末及びYSZ粉末の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布において、累積度数が50%を示すときの粒子径(直径)d50である(以下、同様)。
【0071】
得られた拡散層形成用スラリーを、ドクターブレードを用いて樹脂シート上に層状に塗工し、大気中、80℃で2時間乾燥させた後、前記樹脂シートを剥離して、アノード電極の拡散層形成用シート(平均厚さ:500μm)を得た。なお、シートの平均厚さは、無作為に抽出した10箇所の測定点におけるシートの厚さを走査型電子顕微鏡により測定し、それらを平均して求めた値である(以下、同様)。
【0072】
(アノード電極の活性層形成用シートの作製)
前記NiO粉末65質量部と、前記YSZ粉末35質量部と、実施例又は比較例で得られた複合酸化物粉末10質量部と、前記カーボン粉末(造孔剤)と、ポリビニルブチラール(バインダー)と、酢酸イソアミル及び1-ブタノールを含有する混合溶媒とをボールミルを用いて混合して、アノード電極の活性層形成用スラリーを調製した。この活性層形成用スラリーを拡散層形成用スラリーの代わりに用いた以外は、前記拡散層形成用シートと同様の方法によりアノード電極の活性層形成用シートを作製した。
【0073】
(固体電解質層形成用シートの作製)
前記YSZ粉末と、ポリビニルブチラール(バインダー)と、酢酸イソアミル、2-ブタノール及びエタノールを含有する混合溶媒とをボールミルを用いて混合して、固体電解質層形成用スラリーを調製した。この固体電解質層形成用スラリーを拡散層形成用スラリーの代わりに用いた以外は、前記拡散層形成用シートと同様の方法により固体電解質層形成用シートを作製した。
【0074】
(反応防止層形成用シートの作製)
10mol%のGdがドープされたCeO2(GDC)粉末(平均粒子径:0.8μm)と、ポリビニルブチラール(バインダー)と、酢酸イソアミル、2-ブタノール及びエタノールを含有する混合溶媒とをボールミルを用いて混合して、反応防止層形成用スラリーを調製した。この反応防止層形成用スラリーを拡散層形成用スラリーの代わりに用いた以外は、前記拡散層形成用シートと同様の方法により反応防止層形成用シートを作製した。
【0075】
(カソード電極形成用ペーストの調製)
La0.6Sr0.4CoO3(LSC)粉末(平均粒子径:0.6μm)と、前記カーボン粉末(造孔剤)と、エチルセルロース(バインダー)と、テルピネオール(溶媒)とをボールミルを用いて混合して、カソード電極形成用ペースト調製した。
【0076】
(燃料電池用単セルの作製)
先ず、前記拡散層形成用シートと、前記活性層形成用シートと、前記固体電解質層形成用シートと、前記反応防止層形成用シートとをこの順で積層し、これらのシートを、静水圧プレス(WIP)成形法により、温度80℃、加圧力50MPa、加圧時間10分間の条件で圧着した。その後、得られた圧着体に脱脂処理を施した。
【0077】
この圧着体を大気雰囲気下、1350℃で2時間焼成して、拡散層及び活性層からなるアノード電極層と、固体電解質層と、反応防止層とがこの順で積層された焼結体を得た。次に、この焼結体の反応防止層の表面に、前記カソード電極形成用ペーストをスクリーン印刷法により層状に均一に塗工した後、大気雰囲気下、1000℃で2時間焼成してカソード電極層を形成することによって、
図3に示す、拡散層31a(平均厚さ:300μm)及び活性層31b(平均厚さ:20μm)からなるアノード電極層31と、固体電解質層32(平均厚さ:10μm)と、反応防止層33(平均厚さ:10μm)と、カソード電極層34(平均厚さ:60μm)とがこの順で積層された燃料電池用単セル(ボタン型セル)を作製した。なお、各層の平均厚さは、単セルの断面を走査型電子顕微鏡により観察し、得られたSEM像において、無作為に抽出した10箇所の測定点における各層の厚さを測定し、それらを平均して求めた値である。
【0078】
<燃料電池用単セルの発電耐久試験>
先ず、単セルのアノード電極層を水素ガス雰囲気中、800℃で還元処理した。次に、この単セルを700℃の温度下で、電流密度が1.5A/cm
2となるように、アノード電極層に3%加湿水素を導入し、カソード電極層に空気を導入して連続発電試験を行い、電位の経時変化を求めた。得られた結果に基づいて、電位が0.5Vに低下するまでの時間を求め、これを耐久時間として、添加した複合酸化物中のCeの含有量に対してプロットした。その結果を
図4に示す。
【0079】
【0080】
表1に示したように、実施例1で調製したCeを12.5at%含有するCZL複合酸化物は、耐熱試験後もI(14/29)値が0.02以上であったことから、高温に曝されても超格子構造が維持されるパイロクロア型CZL複合酸化物であることが確認された。さらに、このパイロクロア型CZL複合酸化物は、高い酸素吸放出能を有するものであることも確認された。また、
図4に示すように、このCe含有率が12.5at%のパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を添加したアノード電極を備える燃料電池用単セルは、熱安定性に優れたものであることがわかった。
【0081】
一方、表1に示したように、比較例1で調製したCeを含有しないZL複合酸化物は、耐熱試験後もI(14/29)値が0.02以上であったことから、高温に曝されても超格子構造が維持されるパイロクロア型ZL複合酸化物であることが確認された。しかしながら、このパイロクロア型ZL複合酸化物は、酸素吸放出能を示さないものであることがわかった。また、
図4に示すように、このCeを含有しないパイロクロア型ZL複合酸化物からなる電極材料を添加したアノード電極を備える燃料電池用単セルは、Ce含有率が12.5at%のパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を添加したアノード電極を備える燃料電池用単セル(実施例1)に比べて、熱安定性に劣るものであることがわかった。
【0082】
また、表1に示したように、比較例2で調製したCeを25.0at%含有するCZL複合酸化物は、耐熱試験後にはI(14/29)値が0.02未満となったことから、高温に曝されると超格子構造を維持することが困難なパイロクロア型CZL複合酸化物であることが確認された。さらに、このパイロクロア型CZL複合酸化物は、酸素吸放出能も、Ce含有率が12.5at%のパイロクロア型CZL複合酸化物に比べて劣るものであることがわかった。また、
図4に示すように、このCeの含有率が25.0at%のパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を添加したアノード電極を備える燃料電池用単セルは、Ce含有率が12.5at%のパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料を添加したアノード電極を備える燃料電池用単セル(実施例1)に比べて、熱安定性に劣るものであることがわかった。
【0083】
以上の結果から、Ceを特定の割合で含有し、高温に曝されても超格子構造が維持されるパイロクロア型CZL複合酸化物からなる電極材料をアノード電極に添加することによって、熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極が得られ、このアノード電極を用いることによって、発電中の高温下での耐久性に優れた固体酸化物型燃料電池が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明によれば、熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極を得ることが可能となる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池は、このような熱安定性に優れた固体酸化物型燃料電池用アノード電極を備えているため、定置型又は車載用固体酸化物型燃料電池等として有用である。
【符号の説明】
【0085】
11:固体電解質層
12:アノード電極
12a:酸素イオン伝導体
21:酸素吸蔵サイト
31:アノード電極層
31a:拡散層
31b:活性層
32:固体電解質層
33:反応防止層
34:カソード電極層