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  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】反射防止フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20220620BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220620BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220620BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20220620BHJP
   G02B 1/14 20150101ALN20220620BHJP
【FI】
G02B1/111
B32B7/023
G02B5/30
G02F1/1335
G02F1/1335 510
G02B1/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019073887
(22)【出願日】2019-04-09
(62)【分割の表示】P 2014011689の分割
【原出願日】2014-01-24
(65)【公開番号】P2019148806
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2019-05-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2013014457
(32)【優先日】2013-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】岸 敦史
(72)【発明者】
【氏名】上野 友徳
(72)【発明者】
【氏名】倉本 浩貴
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】里村 利光
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-281415(JP,A)
【文献】特開2010-38949(JP,A)
【文献】特開2005-99513(JP,A)
【文献】特開2012-141594(JP,A)
【文献】特開平10-206603(JP,A)
【文献】特開2000-47004(JP,A)
【文献】特開2008-3122(JP,A)
【文献】特開2004-98420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B1/111
G02B1/14
G02B5/30
B32B7/023
G02F1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材側から順に、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層とを有し、
該基材と該中屈折率層とが直接積層され、
該中屈折率層と該高屈折率層とが、直接積層されているか、または、密着層を介して積層され、
該高屈折率層と該低屈折率層とが、直接積層され、
該中屈折率層が、バインダー樹脂と該バインダー樹脂中に分散した無機微粒子とを含み、
該高屈折率層の厚みが、10nm~25nmであり、
該基材の屈折率n、該中屈折率層の屈折率nおよび該高屈折率層の屈折率nが下記式(1)を満足し、
反射色相が、CIE-Lab表色系において、0≦a≦15、-20≦b≦0であり、
該無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化チタンまたは酸化ケイ素である、
反射防止フィルム:
【数1】
ここで、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する。
【請求項2】
前記基材の屈折率が1.45~1.65の範囲であり、前記中屈折率層の屈折率が1.67~1.78の範囲であり、前記高屈折率層の屈折率が2.00~2.60の範囲である、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記高屈折率層の波長580nmにおける光学膜厚がλ/8以下である、請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記中屈折率層が、前記バインダー樹脂と前記無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を前記基材上に塗布および硬化することにより形成されている、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
基材上に、バインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を塗布および硬化させて中屈折率層を直接形成すること、
該中屈折率層上に金属酸化物または金属窒化物をスパッタリングして、あるいは、酸素を導入して金属を酸化させながらスパッタリングして高屈折率層を直接形成するか、または、該中屈折率層上に密着層を形成し、該密着層上に、金属酸化物または金属窒化物をスパッタリングして、あるいは、酸素を導入して金属を酸化させながらスパッタリングして高屈折率層を直接形成すること、および
該高屈折率層上に金属酸化物または金属フッ化物をスパッタリングして低屈折率層を直接形成すること、を含み、
該基材の屈折率n、該中屈折率層の屈折率nおよび該高屈折率層の屈折率nが下記式(1)を満足する、請求項1から3のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法:
【数2】
ここで、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の反射防止フィルムを含む、反射防止フィルム付偏光板。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の反射防止フィルムまたは請求項6に記載の反射防止フィルム付偏光板を含む、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムおよびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ドライプロセスとウェットプロセスとを含む反射防止フィルムの製造方法およびそのような製造方法で得られる反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネルなどのディスプレイ画面への外光の映り込みを防止するため、ディスプレイ画面の表面に配置される反射防止フィルムが広く用いられている。反射防止フィルムとしては、例えば、中屈折率材料からなる層と高屈折率材料からなる層と低屈折率材料からなる層とを有する多層フィルムが知られている。このような多層フィルムを用いることにより高い反射防止性能(広帯域において低い反射率)を得ることができることが知られている。このような多層フィルムは、一般的には、蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセス(乾式法)により形成される。しかし、ドライプロセスは生産性が悪く、製造コストが高くなるという問題がある。
【0003】
上記の問題を解決するために、ドライプロセスとコーティングや塗布のようなウェットプロセス(湿式法)とを組み合わせて得られる多層反射防止フィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、特許文献1をはじめとしてこれまで提案されている技術はいずれも、生産性およびコスト低減効果がいまだ不十分であり、得られる反射防止フィルムの光学特性も不十分である。
【0004】
ところで、反射防止フィルムの反射防止性能は一般的には視感反射率Y(%)で評価され、当該視感反射率が低いほど反射防止性能が優れている。しかし、視感反射率を低くしようとすると、反射色相が色付きやすいという問題がある。
【0005】
以上のように、低い視感反射率と色付きが少なくニュートラルに近い反射色相とを両立する多層反射防止フィルム、および、そのようなフィルムを高生産性かつ低コストで得ることができる技術が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-243906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、広帯域において優れた反射特性(低反射性)を有し、かつニュートラルに近い優れた反射色相を有する反射防止フィルムおよびそのような反射防止フィルムを高生産性かつ低コストで製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反射防止フィルムは、基材と、該基材側から順に、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層とを有し、該基材の屈折率n、該中屈折率層の屈折率nおよび該高屈折率層の屈折率nが下記式(1)を満足する。
【数1】
ここで、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する。
1つの実施形態においては、上記基材の屈折率は1.45~1.65の範囲であり、上記中屈折率層の屈折率は1.67~1.78の範囲であり、上記高屈折率層の屈折率は2.00~2.60の範囲である。
1つの実施形態においては、上記高屈折率層の波長580nmにおける光学膜厚はλ/8以下である。
1つの実施形態においては、上記高屈折率層は、金属酸化物または金属窒化物のスパッタリングにより、あるいは、酸素を導入して金属を酸化させながらスパッタリングすることにより形成されている。
1つの実施形態においては、上記中屈折率層は、バインダー樹脂と該バインダー樹脂中に分散した無機微粒子とを含む。1つの実施形態においては、上記中屈折率層は、上記バインダー樹脂と上記無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を上記基材上に塗布および硬化することにより形成されている。
本発明の別の局面によれば、反射防止フィルムの製造方法が提供される。この方法は、基材上に、バインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物を塗布および硬化させて中屈折率層を形成すること、該中屈折率層上に金属酸化物または金属窒化物をスパッタリングして、あるいは、酸素を導入して金属を酸化させながらスパッタリングして高屈折率層を形成すること、および、該高屈折率層上に金属酸化物または金属フッ化物をスパッタリングして低屈折率層を形成すること、を含み、該基材の屈折率n、該中屈折率層の屈折率nおよび該高屈折率層の屈折率nが下記式(1)を満足する。
【数2】
ここで、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する。
本発明のさらに別の局面によれば、反射防止フィルム付偏光板が提供される。この反射防止フィルム付偏光板は、上記の反射防止フィルムを含む。
本発明のさらに別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記の反射防止フィルムまたは上記の反射防止フィルム付偏光板を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の樹脂組成物を用いてウェットプロセス(塗布および硬化)により中屈折率層を形成し、かつ、基材、中屈折率層および高屈折率層の屈折率が上記式(1)を満足するように最適化されていることにより、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くしつつ、広帯域において優れた反射性能(低反射性)を有し、かつニュートラルに近い優れた反射色相を有する反射防止フィルムを得ることができる。加えて、本発明によれば、ウェットプロセスを用いることにより、および、高屈折率層の厚みを薄くすることができることにより、高生産性かつ低コストの製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の1つの実施形態による反射防止フィルムの概略断面図である。
図2】広帯域の反射防止フィルム(中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層)の光学設計の概念を説明するための振幅反射率図である。
図3図2の概念に基づいて実際に反射防止フィルムを設計する際に、式(1)におけるRおよびRの技術的意義を説明する振幅反射率図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために、図面における各層等の長さ、厚み等は実際の縮尺とは異なっている。
【0012】
A.反射防止フィルムの全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による反射防止フィルムの概略断面図である。反射防止フィルム100は、基材10と、基材10側から順に、中屈折率層20と、必要に応じて密着層30と、高屈折率層40と、低屈折率層50とを有する。本発明においては、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nが下記式(1)を満足する。ここで、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する:
【数3】
このような式を満足することにより、本実施形態の反射防止フィルムによれば、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くしつつ、広帯域において優れた反射性能(低反射性)を実現することができる。高屈折率層は代表的にはNb等の金属酸化物のスパッタリングにより形成されるところ、そのようなスパッタリング速度は非常に遅いことが知られている。したがって、高屈折率層の厚みを薄くすることにより、反射防止フィルム全体の生産効率を大幅に向上させることができる。加えて、このような式を満足することにより、中屈折率層の屈折率を小さくしても所望の反射性能を確保することができる。その結果、樹脂ベースの材料を用いたウェットプロセス(塗布および硬化)により中屈折率層を形成することが可能となり、製造コストをさらに削減し、かつ、生産性をさらに向上させることができる。
【0013】
式(1)において左辺の左側(n-1)/(n+1)をRとし、左辺の右側の平方根の式をRとすると、Rは高屈折率層の固有の反射率を意味し、Rは基材上に光学膜厚がλ/4である中屈折率層を積層したときの反射率を意味する。ここで、広帯域の反射防止フィルムの光学設計は、図2に示すような振幅反射率図(Reflectance Amplitude Diagram)と呼ばれる複素平面を用いて行うことができる。振幅反射率図とは、図2に示す積層体について矢印の示すように基材から空気界面にかけて連続的に積層していったときの振幅反射率を計算し、それを複素平面上にプロットしたものであり、以下に示すように多層反射防止フィルムの光学設計を視覚的に捉えることが可能となる。例えば、図2に示すような屈折率の関係を有する積層体の積層軌跡およびその反射率は以下のようにして求められる:(1)具体的には、基材層の点N{-(n-1)/(n+1),0}、最初の層(本発明においては中屈折率層)の点N{-(n-1)/(n+1),0}、2番目の層(本発明においては高屈折率層)点N{-(n-1)/(n+1),0}、ならびに、3番目の層(本発明においては低屈折率層)点N{-(n-1)/(n+1),0}の4点をプロットする;(2)基材層の屈折率の点Nをスタートとして、かつ、最初の層の屈折率の点Nを支点として時計回りに円を描く。このとき、円弧の大きさ(円弧の角度)は膜厚に対応し、光学膜厚λ/4が半円に相当する;(3)次に、最初の層の終点をスタートとして、2番目の層の屈折率の点Nを支点として時計回りに円を描く;(4)同様にして、2番目の層の終点をスタートとして、3番目の層の屈折率の点Nを支点として時計回りに円を描く;(5)最終点と座標(0,0)との距離が反射率に相当する。当該距離が短いほど、優れた反射特性(低反射性)を有する反射防止フィルムとなる。このような設計手順における「支点」は厳密には円の中心ではないが、便宜上、各屈折率から簡便に算出できる点(例えば、N、N、N、N)をプロットすることで設計して何ら問題ない。なお、実際に測定され得る反射率は(0,0)からの距離の自乗になるが、設計においては概念上その距離を反射率と捉えて何ら支障はない。前述のRおよびRについても同様である。また、上記複素平面は可視光領域の各波長においてその積層軌跡は異なるものになるが、一般的には視感の感度が最も高いとされる580nmの波長にて設計を行う。また580nmを中心として広帯域の波長領域で反射率が低く維持されれば、色付きの少ないニュートラルに近い色相が担保されるものとなる。図2は中屈折率層(n1)/高屈折率層(n2)/低屈折率層(n3)の構成を有する代表的な広帯域の反射防止フィルムの580nmにおける積層軌跡を示し、その各層の役割としては中屈折率層が低反射化の機能を有し、高屈折率層が広帯域化の機能を有し、低屈折率層が低反射層であるといった機能分類が可能であることを表している。したがって、基材/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の構成において基材、中屈折率層および低屈折率層を同一の構成で固定すると、図3から明らかなように、2番目の円弧を描く支点(高屈折率層の固有の屈折率の点)と1番目の円弧が横軸と交差する点との距離が大きいほど、高屈折率層の膜厚が薄い設計にて広帯域を維持したまま低反射にすることができることを見出した。すなわち、2番目の円弧の角度を小さくても、広帯域化の機能を有した層になる。高屈折率層の固有の屈折率の点がRに相当し、1番目の円弧が横軸と交差する点がRに相当するので、(R-R)が大きければ大きいほど、高屈折率層の膜厚を薄くしつつ、所望の反射率を得ることができる。したがって、本発明においては、(R-R)は好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.03以上である。(R-R)の上限は、例えば0.2である。本発明によれば、このような設計思想を用いることにより、高屈折率層の厚みを格段に薄くし、かつ、中屈折率層の屈折率を樹脂ベースで実現可能な値とすることができる。結果として、中屈折率層をウェットプロセス(塗布および硬化)で形成することにより、生産効率を大幅に向上させ、かつ、製造コストを大幅に抑制することができる。しかも、優れた反射性能を実現することができる。このような設計思想は、従来とは全く異なるものである。すなわち、従来は図2に示すように(R-R)≒0を前提として設計を行った場合、所望の反射特性を得るには中屈折率層・高屈折率層・低屈折率層の光学膜厚はλ/4程度必要である。したがってその設計にて中屈折率層をウェットプロセスにて形成したとしても、高屈折率層の膜厚はλ/4程度を要するが、本発明による全く異なる設計思想によって高屈折率層の膜厚をはるかに薄くすることができる。なお、本発明の反射防止フィルムの説明においては、図2の一般的な説明の表記とは異なり、中屈折率層、高屈折率層および低屈折率層の屈折率は、それぞれ、n、nおよびnで表されている。また、上記のとおり、基材の屈折率n、中屈折率層の屈折率nおよび高屈折率層の屈折率nは、n>n>nの関係を有する。
【0014】
反射防止フィルムの反射色相は、CIE-Lab表色系において、好ましくは0≦a≦15、-20≦b≦0であり、より好ましくは0≦a≦10、-15≦b≦0である。本発明によれば、上記式(1)を用いて各層の屈折率を最適化することにより、上記の効果に加えて、ニュートラルに近い優れた反射色相を有する反射防止フィルムを得ることができる。
【0015】
反射防止フィルムの視感反射率Yは低ければ低いほど好ましく、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.7%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。上記のとおり、本発明によれば、多層反射防止フィルムにおいて低い視感反射率(優れた反射防止特性)と色付きの少ないニュートラルに近い反射色相(優れた反射色相)とを両立することができる。
【0016】
以下、反射防止フィルムを構成する各層について詳細に説明する。
【0017】
A-1.基材
基材10は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な樹脂フィルムで構成され得る。具体的には、基材10は、透明性を有する樹脂フィルムであり得る。フィルムを構成する樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン-6、ナイロン-66)、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリロニトリル樹脂、セルロース系樹脂(例えば、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン)が挙げられる。基材は、単一層であってもよく、複数の樹脂フィルムの積層体であってもよく、樹脂フィルム(単一層または積層体)と下記のハードコート層との積層体であってもよい。基材(実質的には、基材を形成するための組成物)は、任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤の具体例としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤が挙げられる。なお、基材を構成する材料は当業界において周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0018】
基材10は、1つの実施形態においては、ハードコート層として機能し得る。すなわち、基材10は、上記のとおり、樹脂フィルム(単一層または積層体)と以下に説明するハードコート層との積層体であってもよく、当該ハードコート層単独で基材を構成してもよい。基材が樹脂フィルムとハードコート層との積層体で構成される場合、ハードコート層は中屈折率層20に隣接して配置され得る。ハードコート層は、任意の適切な電離線硬化型樹脂の硬化層である。電離線としては、例えば、紫外線、可視光、赤外線、電子線が挙げられる。好ましくは紫外線であり、したがって、電離線硬化型樹脂は好ましくは紫外線硬化型樹脂である。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル系樹脂の代表例としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する多官能性モノマーが紫外線により硬化した硬化物(重合物)が挙げられる。多官能性モノマーは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。多官能性モノマーには、任意の適切な光重合開始剤が添加され得る。なお、ハードコート層を構成する材料は当業界において周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
ハードコート層には、任意の適切な無機または有機微粒子を分散させることができる。微粒子の粒径は、例えば0.01μm~3μmである。あるいは、ハードコート層の表面に凹凸形状を形成することができる。このような構成を採用することにより、一般的にアンチグレアと呼ばれる光拡散性機能を付与することができる。ハードコート層に分散させる微粒子としては、屈折率、安定性、耐熱性等の観点から、酸化ケイ素(SiO)が好適に用いられ得る。さらに、ハードコート層(実質的には、ハードコート層を形成するための組成物)は、任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤の具体例としては、レベリング剤、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤が挙げられる。
【0020】
ハードコート層は、鉛筆硬度試験で好ましくはH以上、より好ましくは3H以上の硬度を有する。鉛筆硬度試験は、JIS K 5400に準じて測定され得る。
【0021】
基材10の厚みは、目的、基材の構成等に応じて適切に設定され得る。基材が樹脂フィルムの単一層または積層体として構成される場合には、厚みは、例えば10μm~200μmである。基材がハードコート層を含む場合またはハードコート層単独で構成される場合には、ハードコート層の厚みは、例えば1μm~50μmである。
【0022】
基材10の屈折率(基材が積層構造を有する場合には中屈折率層に隣接する層の屈折率)は、好ましくは1.45~1.65であり、より好ましくは1.50~1.60である。このような屈折率であれば、上記式(1)を満足するための中屈折率層の設計の幅を広げることができる。なお、本明細書において「屈折率」は、特に言及しない限り、温度25℃、波長λ=580nmにおけるJIS K 7105に基づいて測定した屈折率をいう。
【0023】
A-2.中屈折率層
中屈折率層20は、代表的には、バインダー樹脂と当該バインダー樹脂中に分散した無機微粒子とを含む。バインダー樹脂は、代表的には電離線硬化型樹脂であり、より具体的には紫外線硬化型樹脂である。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレート樹脂(エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、エーテル(メタ)アクリレート)などのラジカル重合型モノマーもしくはオリゴマーなどが挙げられる。アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の分子量は、好ましくは200~700である。(メタ)アクリレート樹脂を構成するモノマー成分(前駆体)の具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA:分子量298)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA:分子量212)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA:分子量632)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA:分子量578)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA:分子量296)が挙げられる。必要に応じて、開始剤を添加してもよい。開始剤としては、例えば、UVラジカル発生剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製イルガキュア907、同127、同192など)、過酸化ベンゾイルが挙げられる。上記バインダー樹脂は、上記電離線硬化型樹脂以外に別の樹脂成分を含んでいてもよい。別の樹脂成分は、電離線硬化型樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。別の樹脂成分の代表例としては、脂肪族系(例えば、ポリオレフィン)樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。別の樹脂成分を用いる場合、その種類や配合量は、得られる中屈折率層の屈折率が上記式(1)の関係を満足するよう調整される。
【0024】
バインダー樹脂の屈折率は、好ましくは1.40~1.60である。
【0025】
バインダー樹脂の配合量は、形成される中屈折率層100重量部に対して、好ましくは10重量部~80重量部であり、より好ましくは20重量部~70重量部である。
【0026】
無機微粒子は、例えば、金属酸化物で構成され得る。金属酸化物の具体例としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)(屈折率:2.19)、酸化アルミニウム(屈折率:1.56~2.62)、酸化チタン(屈折率:2.49~2.74)、酸化ケイ素(屈折率:1.25~1.46)が挙げられる。これらの金属酸化物は、光の吸収が少ない上に、電離線硬化型樹脂や熱可塑性樹脂などの有機化合物では発現が難しい屈折率を有しているので、屈折率の調整が容易であり、結果として、上記式(1)を満足するような屈折率を有する中屈折率層をコーティングで形成することを可能としている。特に好ましい無機化合物は、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンである。屈折率およびバインダー樹脂との分散性が適切であるので、所望の屈折率および分散構造を有する中屈折率層を形成することができるからである。
【0027】
無機微粒子の屈折率は、好ましくは1.60以上であり、さらに好ましくは1.70~2.80であり、特に好ましくは2.00~2.80である。このような範囲であれば、所望の屈折率を有する中屈折率層を形成することができる。
【0028】
無機微粒子の平均粒径は、好ましくは1nm~100nmであり、より好ましくは10nm~80nmであり、さらに好ましくは20nm~70nmである。このように、光の波長より小さい平均粒径の無機微粒子を用いることにより、無機微粒子とバインダー樹脂との間に幾何光学的な反射、屈折、散乱が生じず、光学的に均一な中屈折率層を得ることができる。
【0029】
無機微粒子は、バインダー樹脂との分散性が良好であることが好ましい。本明細書において「分散性が良好」とは、バインダー樹脂と無機微粒子と(必要に応じて少量のUV開始剤と)揮発溶剤とを混合して得られた塗布液を塗布し、溶剤を乾燥除去して得られた塗膜が透明であることをいう。
【0030】
1つの実施形態においては、無機微粒子は、表面改質がなされている。表面改質を行うことにより、無機微粒子をバインダー樹脂中に良好に分散させることができる。表面改質手段としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な手段が採用され得る。代表的には、表面改質は、無機微粒子の表面に表面改質剤を塗布して表面改質剤層を形成することにより行われる。好ましい表面改質剤の具体例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤、脂肪酸系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。このような表面改質剤を用いることにより、バインダー樹脂と無機微粒子との濡れ性を向上させ、バインダー樹脂と無機微粒子との界面を安定化させ、無機微粒子をバインダー樹脂中に良好に分散させることができる。別の実施形態においては、無機微粒子は、表面改質を行うことなく用いられ得る。
【0031】
無機微粒子の配合量は、形成される中屈折率層100重量部に対して、好ましくは10重量部~90重量部であり、より好ましくは20重量部~80重量部である。無機微粒子の配合量が多すぎると、得られる反射防止フィルムの機械特性が不十分となる場合がある。また、光学設計上、高屈折率層の厚みを大きくする必要が生じ、生産性が不十分となる場合が多い。配合量が少なすぎると、所望の視感反射率が得られない場合がある。
【0032】
中屈折率層20の厚みは、好ましくは70nm~120nmであり、より好ましくは80nm~115nmである。このような厚みであれば、所望の光学膜厚を実現することができる。
【0033】
中屈折率層20の屈折率は、好ましくは1.67~1.78であり、より好ましくは1.70~1.78である。従来の反射防止フィルムにおいて広帯域で低反射性を実現しようとすると、低屈折率層の屈折率が1.47で高屈折率層の屈折率が2.33の場合、中屈折率層の屈折率を1.9前後に設定する必要があったところ、本発明によれば、このような屈折率であっても所望の光学特性を実現することができる。その結果、中屈折率層を機械特性(硬度)の観点であまり屈折率を高くすることのできない樹脂ベースの組成物の塗布および硬化により形成することが可能となり、生産性の向上およびコストの低減に大きく寄与することができる。
【0034】
中屈折率層20の波長580nmにおける光学膜厚は、上記のように中屈折率層が低反射化の機能を有するためにはλ/4程度である。1つの実施形態においては、光学膜厚は、好ましくはλ/4+α(0<α<λ/16)である。図3で示すとおり、中屈折率層の光学膜厚はλ/4よりαの範囲で厚く設計し、隣接する高屈折率層によって横軸(実数軸)の対象の位置付近まで戻すといったものが基本的な考え方になる。ただし、光学膜厚の設計指針がこの考え方に限定されないことは言うまでもない。なお、光学膜厚は、屈折率nと厚みdとの積であり、対象波長(ここでは580nm)に対する比で表される。
【0035】
A-3.密着層
密着層30は、中屈折率層20と高屈折率層40との密着性を高めるために設けられ得る任意の層である。密着層は、例えばケイ素(シリコン)で構成され得る。密着層の厚みは、例えば2nm~5nmである。
【0036】
A-4.高屈折率層
高屈折率層40は、低屈折率層50と組み合わせて用いることにより、それぞれの屈折率の違いにより反射防止フィルムが光の反射を効率よく防止することができる。高屈折率層40は、好ましくは低屈折率層50に隣接して配置され得る。さらに、高屈折率層40は、好ましくは低屈折率層50の基材側に配置され得る。このような構成であれば、非常に効率よく光の反射を防止することができる。
【0037】
高屈折率層40の厚みは、好ましくは10nm~25nmであり、より好ましくは10nm~20nmであり、さらに好ましくは12nm~18nmである。本発明によれば、上記A-2項で説明したような特定の中屈折率層を形成することにより、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くすることができる。その結果、高生産性かつ低コストで、所望の反射性能を有する反射防止フィルムを得ることができる。
【0038】
高屈折率層40の屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。このような屈折率であれば、低屈折率層と所望の屈折率差を確保することができ、光の反射を効率よく防止することができる。
【0039】
高屈折率層40の波長580nmにおける光学膜厚は、好ましくはλ/8以下であり、より好ましくはλ/32~λ/8程度である。上記のとおり、本発明によれば、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くすることができるので、結果として、光学膜厚も格段に薄くすることができる。加えて、このような薄い光学膜厚であっても、所望の反射性能を確保することができる。
【0040】
高屈折率層40を構成する材料としては、上記の所望の特性が得られる限りにおいて任意の適切な材料を用いることができる。このような材料としては、代表的には金属酸化物および金属窒化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、酸化チタン(TiO)、インジウム/スズ酸化物(ITO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化イットリウム(Y)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハウニウム(HfO)、酸化アンチモン(Sb)、酸化タンタル(Ta)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)が挙げられる。金属窒化物の具体例としては、窒化ケイ素(Si)が挙げられる。好ましくは、酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)である。屈折率が適切であり、かつ、スパッタリング速度が遅いので本発明による薄膜化の効果が顕著となるからである。
【0041】
A-5.低屈折率層
低屈折率層50は、上記のとおり、高屈折率層40と組み合わせて用いることにより、それぞれの屈折率の違いにより反射防止フィルムが光の反射を効率よく防止することができる。低屈折率層50は、好ましくは高屈折率層40に隣接して配置され得る。さらに、低屈折率層50は、好ましくは高屈折率層40の基材側と反対側に配置され得る。このような構成であれば、非常に効率よく光の反射を防止することができる。
【0042】
低屈折率層50の厚みは、好ましくは70nm~120nmであり、より好ましくは80nm~115nmである。このような厚みであれば、所望の光学膜厚を実現することができる。
【0043】
低屈折率層50の屈折率は、好ましくは1.35~1.55であり、より好ましくは1.40~1.50である。このような屈折率であれば、高屈折率層と所望の屈折率差を確保することができ、光の反射を効率よく防止することができる。
【0044】
低屈折率層50の波長580nmにおける光学膜厚は、一般的な低反射層に相当することからλ/4程度である。
【0045】
低屈折率層50を構成する材料としては、上記の所望の特性が得られる限りにおいて任意の適切な材料を用いることができる。このような材料としては、代表的には金属酸化物および金属フッ化物が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、酸化ケイ素(SiO)が挙げられる。金属フッ化物の具体例としては、フッ化マグネシウム、酸フッ化ケイ素が挙げられる。屈折率の観点からはフッ化マグネシウム、酸フッ化ケイ素が好ましく、製造容易性、機械的強度、耐湿性等の観点からは酸化ケイ素が好ましく、各種特性を総合的に考慮すると酸化ケイ素が好ましい。
【0046】
B.反射防止フィルムの製造方法
以下、本発明の反射防止フィルムの製造方法の一例を説明する。
【0047】
B-1.基材の準備
まず、基材10を準備する。基材10は、上記A-1項に記載のような樹脂を含む組成物から形成される樹脂フィルムを用いてもよく、市販の樹脂フィルムを用いてもよい。樹脂フィルムの形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、押出、溶液流涎法が挙げられる。樹脂フィルムの積層体を基材として用いる場合には、例えば共押出により基材を形成することができる。
【0048】
基材がハードコート層を含む場合には、例えば、上記樹脂フィルム上にハードコート層を形成する。基材上にハードコート層を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗布法、または、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法が挙げられる。ハードコート層単独で基材を構成する場合には、形成された樹脂フィルム/ハードコート層の積層体から樹脂フィルムを剥離すればよい。
【0049】
B-2.中屈折率層の形成
次に、B-1項のように準備した基材10上に中屈折率層20を形成する。より詳細には、上記A-2項に記載のようなバインダー樹脂と無機微粒子とを含む中屈折率層形成用組成物(塗布液)を基材上に塗布する。塗布液の塗布性を向上させるために、溶剤を使用することができる。溶剤としては、バインダー樹脂および無機微粒子を良好に分散し得る任意の適切な溶剤を使用することができる。塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。塗布方法の具体例としては、上記B-1項に記載のようなものが挙げられる。次に、塗布した中屈折率層形成用組成物を硬化させる。上記A-2項に記載のようなバインダー樹脂を用いる場合には、硬化は電離線を照射することにより行われる。電離線として紫外線を用いる場合には、その積算光量は、好ましくは200mJ~400mJである。必要に応じて、電離線照射の前および/または後に加熱処理を行ってもよい。加熱温度および加熱時間は、目的等に応じて適切に設定され得る。このように、本発明の製造方法においては、中屈折率層20がウェットプロセス(塗布および硬化)により形成される。
【0050】
B-3.密着層の形成
次に、B-2項のようにして形成した中屈折率層20上に、必要に応じて密着層30を形成する。密着層30は、代表的にはドライプロセスにより形成される。ドライプロセスの具体例としては、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。PVD法としては、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が挙げられる。CVD法としては、プラズマCVD法が挙げられる。インライン処理を行う場合には、スパッタリング法が好適に用いられ得る。密着層30は、例えば、ケイ素(シリコン)のスパッタリングにより形成される。なお、上記のとおり、密着層は任意であり省略されてもよい。
【0051】
B-4.高屈折率層の形成
次に、中屈折率層20上または密着層が形成されている場合には密着層30上に、高屈折率層40を形成する。高屈折率層40は、代表的にはドライプロセスにより形成される。1つの実施形態においては、高屈折率層40は、金属酸化物(例えば、Nb)または金属窒化物のスパッタリングにより形成される。別の実施形態においては、高屈折率層40は、酸素を導入して金属を酸化させながらスパッタリングすることにより形成される。本発明においては、高屈折率層の厚みが非常に小さいので膜厚制御が重要であるが、適切なスパッタリングにより対応可能である。
【0052】
B-5.低屈折率層の形成
最後に、B-4項のようにして形成した高屈折率層40上に、低屈折率層50を形成する。低屈折率層50は、1つの実施形態においてはドライプロセスにより形成され、例えば金属酸化物(例えば、SiO)のスパッタリングにより形成される。低屈折率層50は、別の実施形態においてはウェットプロセスにより形成され、例えばポリシロキサンを主成分とする低屈折率材料の塗布により形成される。また、所望の膜厚に対して途中までスパッタリングを行い、それ以降を塗布にすることにより低屈折率層を形成してもよい。
【0053】
必要に応じて、低屈折率層の上に光学特性を損なわない程度の薄い膜(1nm~10nm程度)として防汚層を設けてもよい。防汚層は、形成材料に応じてドライプロセスで形成してもよくウェットプロセスで形成してもよい。
【0054】
以上のようにして、反射防止フィルムが作製され得る。
【0055】
本発明の製造方法によれば、ドライプロセスにより形成される層が、最大でも高屈折率層と低屈折率層の実質2層(2層の合計厚み:約120nm)であるので、従来の製造方法に比べて反射色相の制御が格段に容易である。例えば、本発明の反射防止フィルムの構成(中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層)に相当する設計をドライプロセスで完結させる場合、中屈折率層の代わりに高屈折率層と低屈折率層とを構成要素として高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の構成とすることも可能であるが、このような構成ではドライプロセスにより4層(4層の合計厚み:約200nm)を形成することになる。このドライプロセスで完結させる設計によれば、1層を形成するたびおよび当該層の厚みがわずかに変動するたびに、反射色相が大きく変動するので、各層の厚みの制御を精密に行う必要があるだけでなく、反射色相が複雑に変化するので、インラインでの膜厚制御に困難を伴う。したがって、ドライプロセスにより形成する層の数を少なくすることにより、厚み制御のための負担が格段に軽減され、反射色相の制御が格段に容易となる。
【0056】
C.反射防止フィルムの用途
本発明の反射防止フィルムは、CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネルなどの画像表示装置における外光の映り込み防止に好適に利用することができる。本発明の反射防止フィルムは、単独の光学部材として使用してもよく、他の光学部材と一体化して提供してもよい。例えば、偏光板に貼り合わせて反射防止フィルム付偏光板として提供してもよい。このような反射防止フィルム付偏光板は、例えば液晶表示装置の視認側偏光板として好適に用いられ得る。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。実施例における試験および評価方法は以下のとおりである。また、特に明記しない限り、実施例における「%」は重量基準である。
【0058】
<光学特性の評価>
裏面反射率をカットするために、得られた反射防止フィルムを黒色アクリル板(三菱レイヨン社製、厚み2.0mm)に粘着剤を介して貼り合わせ、測定サンプルを作成した。このような測定サンプルについて、分光光度計U4100(日立ハイテクノロジー社製)を用い、5°正反射の可視光領域の反射率を測定した。得られた反射率のスペクトルからC光源2度視野における視感反射率(Y)ならびにL*a*b*表色系の色相を算出して求めた。
【0059】
<実施例1>
基材としてハードコート(屈折率:1.53)付のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを用いた。一方、ジルコニア粒子(平均粒径40nm、屈折率2.19)を全固形分の約70%含有する樹脂組成物(JSR社製、商品名「オプスターKZシリーズ」)をMIBKにて3%に希釈した塗布液(中屈折率層形成用組成物)を調製した。当該塗布液を、バーコーターを用いて上記基材上に塗布し、60℃にて1分間乾燥後、積算光量300mJの紫外線を照射し、中屈折率層(屈折率:1.75、厚み:100nm)を形成した。次に、Nbをスパッタリングすることにより、中屈折率層上に高屈折率層(屈折率:2.33、厚み:18nm)を形成した。さらに、SiOをスパッタリングすることにより、高屈折率層上に低屈折率層(屈折率:1.47、厚み:107nm)を形成した。このようにして、反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムにおいて(R-R)は0.066であり、式(1)を満足するものであった。得られた反射防止フィルムを上記光学特性の評価に供した。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例2~11および比較例1~8>
表1に示す構成で反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムを上記光学特性の評価に供した。結果を表1に示す。
なお、各実施例および比較例において、基材については、ハードコート層付のTACフィルムおよびハードコート層無しのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをそれぞれ基材屈折率1.53および1.65のものとして用いた。中屈折率層の屈折率は、1.65から1.75までの範囲においては塗布液中のジルコニア粒子の含有量を変化させることにより変化させた。1.77から1.90までの範囲においては、酸化チタン粒子含有の樹脂組成物(東洋インキ社製、商品名「リオデュラスTYTシリーズ」)を用い、塗布液中の酸化チタン粒子の含有量を変化させることにより変化させた。高屈折率層の屈折率は、Nbの代わりにITO(屈折率:2.10)またはTiO(屈折率:2.50)をスパッタリングすることにより変化させた。低屈折率層の屈折率は、すべてSiOを用いて一定とした。また、中屈折率層の厚みは、塗布液の塗布厚みを変化させることにより変化させた。それ以外の層の厚みは、スパッタリング厚みを変化させることにより変化させた。
なお、比較例7および8は、特開2002-243906号公報に記載の反射防止フィルムに対応する構成である。
【0061】
【表1】
【0062】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、(R-R)を最適化して式(1)を満足させることにより、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くしつつ、優れた反射性能(低反射性)を有する反射防止フィルムを得ることができた。一方、(R-R)が式(1)を満足しない比較例の反射防止フィルムは、実用上許容可能な反射率を確保しようとすると、高屈折率層の厚みを大きくしなければならなかった。さらに、(R-R)が式(1)を満足しない場合、高屈折率層の厚みを薄くすると、反射色相が許容不可能なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の反射防止フィルムは、CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネルなどの画像表示装置における外光の映り込み防止に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 基材
20 中屈折率層
30 密着層
40 高屈折率層
50 低屈折率層
100 反射防止フィルム
図1
図2
図3