IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テネコ・インコーポレイテッドの特許一覧 ▶ ラ・コルポラシオン・ドゥ・レコール・ポリテクニーク・ドゥ・モントリオールの特許一覧

<>
  • 特許-測温冶金材料 図1
  • 特許-測温冶金材料 図2A
  • 特許-測温冶金材料 図2B
  • 特許-測温冶金材料 図3
  • 特許-測温冶金材料 図4
  • 特許-測温冶金材料 図5
  • 特許-測温冶金材料 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】測温冶金材料
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20220620BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220620BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220620BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20220620BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20220620BHJP
   G01K 11/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
B22F3/11 D
C22C38/00 304
C22C33/02 101
C22C1/08 C
B22F3/26 B
G01K11/00 Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019531884
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2017066959
(87)【国際公開番号】W WO2018112453
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】62/435,280
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/844,277
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518372567
【氏名又は名称】テネコ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TENNECO INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】519141575
【氏名又は名称】ラ・コルポラシオン・ドゥ・レコール・ポリテクニーク・ドゥ・モントリオール
【氏名又は名称原語表記】LA CORPORATION DE L’ECOLE POLYTECHNIQUE DE MONTREAL
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボーリュー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファーソン,デニス・ビィ,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ファージング,レスリー・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シィーウィ-ラチュリップ,オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】レスペランス,ジル
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160307(JP,A)
【文献】特開昭55-062327(JP,A)
【文献】国際公開第2016/164806(WO,A1)
【文献】特開平05-005163(JP,A)
【文献】特開2015-074819(JP,A)
【文献】特開2001-316780(JP,A)
【文献】特開昭56-003654(JP,A)
【文献】特開平11-140608(JP,A)
【文献】特開平03-226507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0076260(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0251377(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0070320(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106077660(CN,A)
【文献】特開2004-100034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/00-33/02
C22C 38/00
C22C 1/08
G01K 11/00,13/00
F01L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料であって、前記測温粉末金属材料は細孔を含み、(硬度変化/温度変化)=>0.5HV/℃の式に従う温度の関数として硬度が減少し、
前記測温粉末金属材料は前記粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、3.6~4.4重量%のニッケル、0.4~0.6重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、1.3~1.7重量%の銅、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む、測温粉末金属材料。
【請求項2】
内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料であって、前記測温粉末金属材料は細孔を含み、(硬度変化/温度変化)=>0.5HV/℃の式に従う温度の関数として硬度が減少し、
前記測温粉末金属材料は前記粉末金属材料の総重量に基づき、最大0.3重量%の炭素、3.0~5.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む、測温粉末金属材料。
【請求項3】
内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料であって、前記測温粉末金属材料は細孔を含み、(硬度変化/温度変化)=>0.5HV/℃の式に従う温度の関数として硬度が減少し、
前記測温粉末金属材料は前記粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、3.0~5.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む、測温粉末金属材料。
【請求項4】
内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料であって、前記測温粉末金属材料は細孔を含み、(硬度変化/温度変化)=>0.5HV/℃の式に従う温度の関数として硬度が減少し、
前記測温粉末金属材料は前記粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、1.0~3.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、1.0~3.0重量%の銅、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む、測温粉末金属材料。
【請求項5】
前記測温粉末金属材料の前記細孔は銅で溶浸される、請求項1に記載の測温粉末金属材料。
【請求項6】
前記測温粉末金属材料は前記測温粉末金属材料の総重量に基づき10~50重量%の量の前記銅を含む、請求項に記載の測温粉末金属材料。
【請求項7】
前記測温粉末金属材料の密度は7.2~8.4g/cm3である、請求項に記載の測温粉末金属材料。
【請求項8】
前記測温粉末金属材料は10~100W/mKまたは25~80W/mKの熱伝導率を有する、請求項に記載の測温粉末金属材料。
【請求項9】
前記測温粉末金属材料は温度の関数として硬度が単調減少する、請求項1に記載の測温粉末金属材料。
【請求項10】
前記測温粉末金属材料は前記測温粉末金属材料の理論的な密度の80%~95%の気孔率を有する、請求項1に記載の測温粉末金属材料。
【請求項11】
前記測温粉末金属材料は6.2~7.4g/cm3の密度を有する、請求項1に記載の測温粉末金属材料。
【請求項12】
前記測温粉末金属材料は15~40W/mKの熱伝導率を有する、請求項11に記載の測温粉末金属材料。
【請求項13】
前記測温粉末金属材料はバルブシート用途の部品を形成するために使用される粉末金属材料を再現する、請求項1に記載の測温粉末金属材料。
【請求項14】
内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の前記実際の粉末金属材料を再現する試験用の測温粉末金属材料の製造方法であって、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前記測温粉末金属材料の熱伝導率を調整または制御することを備える、方法。
【請求項15】
前記測温粉末金属材料の気孔率を調整または制御することによって熱伝導率を調整または制御することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記測温粉末金属材料の細孔を銅で溶浸することによって熱伝導率を調整または制御することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの前記実際の粉末金属材料の特性を測温粉末金属材料を使用して推定する方法であって、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の前記測温粉末金属材料の熱伝導率を調整または制御することを含む、方法。
【請求項18】
前記測温粉末金属材料の気孔率を調整または制御することによって熱伝導率を調整または制御することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測温粉末金属材料の細孔を銅で溶浸することによって熱伝導率を調整または制御することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記測温粉末金属材料をエンジン試験にさらすことと、前記エンジン試験中および/またはその後に前記測温粉末金属材料の前記特性を測定することと、試験された前記測温粉末金属材料の前記測定された特性に基づき前記実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの前記実際の粉末金属材料の前記特性を推定することとを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記エンジン試験中および/またはその後に前記測温粉末金属材料の温度を測定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記エンジン試験中および/またはその後に前記測温粉末金属材料の熱伝導率を測定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記エンジン試験中および/またはその後に前記測温粉末金属材料の微少硬度を測定し、前記測温粉末金属材料の焼き戻し曲線を準備し、前記焼き戻し曲線を使用して前記微少硬度に基づき前記実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの前記実際の粉末金属材料の温度を推定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記実際の粉末金属材料の温度勾配のマップを作成することを含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2016年12月16日付出願の米国仮特許出願第62/435,280号および2017年12月15日付出願の米国特許出願第15/844,277に対する優先権を主張し、その全体の内容が参照によりここに組み込まれる。
【0002】
発明の背景
1.発明の技術分野
この発明は一般に測温材料に関し、より具体的には測温粉末金属材料、測温粉末金属材料の製造方法、および測温粉末金属材料を利用する用途に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
粉末金属材料はバルブガイドおよびバルブシートインサート等の、向上された耐摩耗性および/または熱伝導率を有する自動車用途のための部品を形成するためにしばしば使用される。典型的な排気バルブシートインサートはエンジン動作中に400℃~500℃の温度に到達することができる。エンジンの厳しい環境により、バルブガイドおよびバルブシートインサートを形成するために使用される材料は好ましくは熱間硬度が高い。近年、高い熱伝導率を有するバルブシートインサートおよびガイドを提供することもより望ましい。材料はエンジンの始動時といった低い温度から、エンジンが高性能で動作し最大定格出力で動作しているときといった高い温度にまで、十分な耐摩耗性も提供するべきである。硬度および熱伝導率に加えて、材料の気孔率および密度も重要な特性である。
【0004】
バルブガイドおよびバルブシートインサートにおいて使用される粉末金属材料の特性は内燃機関における材料の使用前に典型的に試験される。試験される粉末金属材料の熱伝導率が内燃機関において実際に生み出され使用される粉末金属材料の熱伝導率を正確に提示することが重要である。しかし、試験される粉末金属材料の熱伝導率は材料の多孔性のせいでかなり変化し得る。EN19TまたはAISI4140といった現在知られている鋳造測温材料は固定された熱伝導率を有し、したがってそのような材料が試験されるとき、これらの材料の温度勾配は鋳造材料が内燃機関のバルブシートインサートまたはバルブガイドにおいて使用されるときに実際に得られる温度勾配を表さない可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明の1つの局面は内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料を提供する。測温粉末金属材料は細孔を含み、D硬度/D温度=>0.5HV/℃の式に従う温度の関数として硬度が減少する。
【0006】
本発明の別の局面は内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料を再現する試験用の測温粉末金属材料の製造方法を提供し、方法は測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することを備える。
【0007】
たとえば、粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの実際の粉末金属材料の特性を推定するために使用される測温粉末金属材料の製造方法は測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することを含むことができ、これにより測温粉末金属材料の熱伝導率は内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料の熱伝導率をシミュレートする。熱伝導率は材料の気孔率を制御することによっておよび/または材料の細孔を銅で溶浸することによって制御または調整されることができる。
【0008】
本発明の別の局面は実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの実際の粉末金属材料の特性を測温粉末金属材料を使用して推定する方法を提供し、方法は測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することを備える。
【0009】
たとえば、内燃機関における実際の粉末金属材料の熱伝導率および温度といった特性を測温粉末金属材料を使用して推定する方法は試験前に気孔率を調整することおよび/または測温粉末金属材料を銅で溶浸することを含むことができ、これにより試験手順中に測温粉末金属材料の熱伝導率は内燃機関における実際の粉末金属材料の使用中の実際の粉末金属材料の熱伝導率をシミュレートする。
【0010】
図面の簡単な説明
本発明の他の利点は、添付の図面と関連して考慮されるとき、以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されるようになるので、容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の1つの実施形態に従う測温粉末金属材料で形成されるバルブシートインサートを含む内燃機関の一部の例である。
図2A】本発明の例示的な実施形態に従う測温粉末金属材料(例A)および4つの比較の粉末金属材料(例B~E)のための焼き戻し温度変化に対する硬度変化の理論上の図示である。
図2B】比較の材料(W1、O1、S1、A2、M2)のための焼き戻し温度変化に対する硬度変化を図示する。
図3】標準的鋳造測温材料(AISI1541)、およびバルブシートインサートおよびバルブガイド(例1~5)において使用される標準的粉末金属材料の組成を含む。
図4図3の材料の温度に対する熱伝導率を図示するグラフである。
図5】例示的な測温粉末金属材料組成を含む。
図6図5の例示的な測温粉末金属材料組成および比較の鋳造材料のうちの1つのための温度変化に対する硬度変化を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示的な実施形態の詳細な説明
本発明の1つの局面は内燃機関の動作条件下の実際の粉末材料を再現するための試験用の測温粉末金属材料を提供する。1つの実施形態に従い、測温粉末金属材料は、たとえば図1に示されるようにバルブ12を取り囲むバルブシートインサート10を形成するために、バルブシート用途において使用されるまたはバルブシート用途の部品を形成するために使用される粉末金属材料を再現するために使用される。測温粉末金属材料はバルブガイドまたは内燃機関の厳しい条件にさらされる他の部品において使用される粉末金属材料を再現するためにも使用されることができる。たとえば、測温粉末金属材料は10~100W/mKの熱伝導率を有する、バルブシートインサートまたはバルブガイドにおいて使用される粉末金属材料を再現するために使用されることができる。
【0013】
試験測温粉末金属材料は内燃機関の動作中に生み出される実際の粉末金属材料の熱伝導率を再現する、制御または調整された熱伝導率を有する。測温粉末金属材料は異なる熱伝導率を有する様々な粉末金属材料を再現するためにも適合されることができる。試験測温粉末金属材料の温度勾配は試験用の目的で使用されるその他の材料よりも正確である。したがって、測温粉末金属材料が内燃機関における使用前に試験されるときに、材料はエンジン動作温度のより正確な推定を可能とし、エンジン条件のより正確なシミュレーションを提供する。
【0014】
粉末金属材料の熱伝導率は材料の多孔性によりかなり変化することができる。本発明の一つの実施形態に従い、試験測温粉末金属材料の熱伝導率を制御または調整するために、ひいては製造中およびエンジン動作条件の下の実際の粉末金属材料の熱伝導率をより正確に提示するために、試験測温粉末金属材料の細孔は銅で溶浸される。熱伝導率は他の方法で測温粉末金属材料の気孔率の量を制御または調整することによっても制御または調整されることができる。たとえば、気孔率は銅溶浸を用いてまたは銅溶浸を用いずに、材料のグリーン密度によって制御されることができる。制御された気孔率および/または銅溶浸はより正確なエンジン温度推定および実際のエンジン条件の改善されたシミュレーションに寄与する。
【0015】
いくつかの特定の特性はエンジン動作温度のための典型的範囲である100℃~600℃の温度範囲において試験に適した測温粉末金属材料を得るために好ましくまたは必須である。たとえば、測温粉末金属材料の温度変化に対する硬度変化はしばしば重要である。図2Aは本発明の実施形態に従う測温粉末金属材料(例A)および4つの比較の粉末金属材料(例B~E)の焼き戻し温度変化に対する硬度変化の図示である。図2Aの曲線は理論上であり、適した焼き戻し曲線および適していない焼き戻し曲線の概念を図示する。例Aの測温粉末金属材料は温度の関数として硬度が単調減少し、用途の対象領域に対してD硬度/D温度=>0.5HV/℃であり、エンジン動作条件の試験に適している。例Bでは、粉末金属材料の二次硬化は一貫しない硬度低下を引き起こし、これは試験のために理想的ではない。例Cの粉末金属材料も一貫しない硬度低下を有し、これは試験のために理想的ではない。例Dでは、粉末金属材料の硬度の降下は十分に大きくなく(<0.5HV/℃)、不確かな温度推定につながる。例Eの粉末金属材料は対象領域の幾分かの温度範囲において一貫しない硬度低下を有し、また不確かな温度推定につながる。
【0016】
図2Bは比較の材料、具体的にはW1、O1、S1、A2、M2とも称される典型的工具鋼のための焼き戻し温度と硬度における変動を図示する。図2Bの焼き戻し曲線は文献から得られ、異なる焼き戻し挙動を示す。曲線は各々印を付けられた温度において1時間である。焼き戻し曲線1はW1材料およびO1材料に対応する。焼き戻し曲線1はWグループおよびOグループ工具鋼によって示されるように、焼き戻し温度が上昇するにつれて軟化に対する低い抵抗を示す。焼き戻し曲線2はS1材料に対応する。焼き戻し曲線2はS1工具鋼によって示されるように、軟化に対して中間的な抵抗を図示する。焼き戻し曲線3はA2材料に対応し、焼き戻し曲線4はM2材料に対応する。焼き戻し曲線3および焼き戻し曲線4は、二次硬化工具鋼A2およびM2によって示されるように、軟化に対してそれぞれ高いおよび非常に高い抵抗を図示する。焼き戻し曲線1、焼き戻し曲線3、および焼き戻し曲線4は特に測温材料のために適していない。焼き戻し曲線2は鋳造測温材料として適し得る。
【0017】
上で示されるように、さまざまな組成は測温粉末金属材料を形成するために使用されることができる。また上述のように、測温粉末金属材料の熱伝導率は気孔率を制御することによっておよび/または細孔を銅で溶浸することによって調整されることができる。1つの実施形態に従い、材料が銅で溶浸されないときに、気孔率は測温粉末金属材料の理論密度の80%から最大95%の範囲であり、典型的密度は6.2g/cm3から最大7.4g/cm3である。この場合、測温粉末金属材料の熱伝導率は15~40W/mKである。別の実施形態に従い、測温粉末金属材料は銅で溶浸される。典型的な銅含有量は測温粉末金属材料の総質量の10%~50%であり、典型的密度は7.2~8.4g/cm3である。この場合、測温粉末金属材料の熱伝導率は10~100W/mK、または25~80W/mKである。測温粉末金属材料の質量が50%の銅を含む場合、熱伝導率は最大100W/mKであることができる。測温粉末金属の熱伝導率は温度の関数としてかなり変化することができる。
【0018】
図3は、バルブシートインサートまたはバルブガイドにおいて使用されることができる5つの標準的粉末金属材料の組成を提供する表を含む。図3の例1~5の組成は図2の例A~Eの組成とは同じではない。図3はまた標準的鋳造測温材料の例、具体的にはAISI1541鋼を含む。図3の各例示的な組成の残りは、鉄および可能性のある不純物で形成される。図3の組成の値は材料の総重量に基づく重量パーセント(重量%)においてであり、混合または合金とも称される。
【0019】
例示的な材料1~5が粉末金属であるので、図4に示されるようにこれらの材料の熱伝導率は温度の関数として増加または減少することができる。図4の曲線は標準的鋳造測温材料(AISI1541)と標準的バルブシートインサートまたはバルブガイド粉末金属材料(例1~5)との間の熱伝導率の差異を図示する。例示的な材料1および材料2はバルブシートインサートにおいて使用されるための銅で溶浸される低合金鋼である。例示的な材料1および材料2の熱伝導率は温度の関数として減少する。例示的な材料3および材料4はバルブシートインサートにおいて使用されるための銅で溶浸される高合金鋼である。例示的な材料3および材料4の熱伝導率は温度の関数として増加する。例示的な材料5はバルブシートインサートにおいて使用されるための銅で溶浸されない多孔質の高合金鋼である。例示的な材料5の熱伝導率は温度の関数として比較的安定している。粉末金属材料の多孔質の性質のせいで、液体が細孔に浸透することができ、材料の熱伝導率および熱物理的挙動に影響するので、粉末金属材料を液体中で焼き入れすることは可能ではない。オイルを燃焼するために粉末金属材料を加熱する標準的方法は温度推定のための材料の感度に影響する。水焼き入れは過度に急激であるので、バルブシートインサートまたはバルブガイドのような繊細な薄い壁部の著しい歪みまたは亀裂を引き起こす。
【0020】
図3に示されるように、AISI1541鋼は比較の測温材料であるが、この材料は粉末金属よりもむしろ鋳造材料である。AISI1541鋼および他の鋳造材料の熱伝導率は温度とともに減少し、図4に示されるようにEN19T合金鋼に対しても同様である。鋳造材料に対して、適切な微少構造(たとえばEN19T)を得るための手順は材料をオーステナイト化し、続いてオイル焼き入れして所望のマルテンサイト微細構造を達成することである。また、既存の鋳造材料(たとえばEN19T)はバルブシートインサートおよびバルブガイド焼結サイクルのために使用される標準的粉末金属焼結処理を使用して完全に硬化することができない。測温粉末金属材料は鋳造材料よりも合金化されるべきである。測温粉末金属材料は液体焼き入れ媒体を使用することなく完全に硬化可能であるように設計される。測温用途に適するために、測温粉末金属材料はまた図2に示されるような例示的な材料Aと同様の焼き戻し挙動を示すように設計される。
【0021】
本発明の測温粉末金属材料として使用されることができる他の例示的な材料は図5に示され、FLN4C-4005、FLN4-4400、FLN4-4405、およびFLNC-4405を含む。
【0022】
1つの実施形態に従い、測温粉末金属材料は粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、3.6~4.4重量%のニッケル、0.4~0.6重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、1.3~1.7重量%の銅、および残りの鉄と潜在的な不純物とを含む。
【0023】
別の実施形態に従い、測温粉末金属材料は粉末金属材料の総重量に基づき、最大0.3重量%の炭素、3.0~5.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む。
【0024】
別の実施形態に従い、測温粉末金属材料は粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、3.0~5.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む。
【0025】
別の実施形態に従い、測温粉末金属材料は粉末金属材料の総重量に基づき、0.4~0.7重量%の炭素、1.0~3.0重量%のニッケル、0.65~0.95重量%のモリブデン、0.05~0.3重量%のマンガン、1.0~3.0重量%の銅、および残りの鉄と潜在的な不純物を含む。
【0026】
図6は、図5の例示的な測温粉末金属材料組成、具体的にはFLN4C-4005と、比較の鋳造材料、具体的にはEN19Tとのうちの1つのための温度変化に対する硬度変化を図示する。
【0027】
本発明の別の局面は内燃機関において使用中の実際の粉末金属材料を再現する試験用の測温粉末金属材料の製造方法を提供する。1つの実施形態に従い、方法は材料の気孔率を制御することによって測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することを含む。別の実施形態に従い、気孔率を制御することに加えてまたはその代わりに、方法は材料の細孔を銅で溶浸することによって測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することを含む。
【0028】
測温用途において使用するための例示的な測温粉末金属材料の処理は粉末金属鋼の多くで典型的である。金属はまず所望の最終の熱伝導率の関数として特定密度へとプレス加工される。次の処理は、プレス加工された材料を、たとえば1120℃で30分間75%N/25%H雰囲気において焼結することを含む。銅溶浸された材料の場合、焼結は溶浸ステップ中に行われることができる。次に、焼結された材料は冷却される。マルテンサイト構造を得るために冷却速度は十分に早くするべきであり、たとえば毎秒5℃である。焼結後、材料はたとえば1時間100℃で焼き戻しされることができる。測温粉末金属材料を試験するために、たとえば図2に示されるように、焼結後、所与の時間、たとえば2時間、焼き戻し曲線が構築される。焼結された材料の試料は異なる温度で焼き戻され、微少硬度は温度の関数として硬度の曲線を得るために測定される。
【0029】
本発明の別の局面は内燃機関における実際の材料の使用中の実際の粉末金属材料の熱伝導率および温度を推定するために測温粉末金属材料を試験する方法を提供する。方法は試験する前に気孔率を制御することおよび/または試験測温粉末金属材料を銅で溶浸することを典型的に含み、これにより試験材料の熱伝導率は内燃機関における材料の使用中に生み出される実際の粉末金属材料の熱伝導率をシミュレートする。
【0030】
本発明の別の局面は測温粉末金属材料の熱伝導率を調整することによって実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの実際の粉末金属材料の特性を測温粉末金属材料を使用して推定することを提供する。たとえば、方法はまず測温粉末金属材料の気孔率を調整または制御すること、および/または測温粉末金属材料の細孔を銅で溶浸することを含むことができる。方法は、測温粉末金属材料をエンジン試験にさらすことと、エンジン試験中および/またはその後に測温粉末金属材料の特性を測定することとをさらに含む。方法はそして、試験された測温粉末金属材料の測定された特性に基づき実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの実際の粉末金属材料の特性を推定することを含む。たとえば、実際の粉末金属材料の特性を推定するために、方法はエンジン試験中および/またはその後に測温粉末金属材料の温度を測定すること、および/またはエンジン試験中および/またはその後に測温粉末金属材料の熱伝導率を測定することを含むことができる。
【0031】
1つの実施形態に従い、方法はエンジン試験中および/またはその後に測温粉末金属材料の微少硬度を測定することと、測温粉末金属材料の焼き戻し曲線を準備することと、焼き戻し曲線を使用して微少硬度に基づき実際の粉末金属材料が内燃機関において使用されるときの実際の粉末金属材料の温度を推定することを含む。加えて、実際の粉末金属材料の温度勾配のマップは作成されることができる。
【0032】
別の例示的な実施形態に従い、測温粉末金属材料は内燃機関のバルブシートインサートにおける実際の材料の使用中の実際の粉末金属材料の温度を推定するために使用される。この場合、測温粉末金属材料の試料は標準的なバルブシートインサートが準備されるのと同様に設置され準備される。エンジンはそして焼き戻し曲線を得るために使用された時間と同様の所与の時間、たとえば2時間動作される。試験後、測温粉末金属材料の試料は分解され、断面は微少硬度測定を行うために取り付けられる。上で示されるように、測温粉末金属材料の微少硬度はそして温度が測定されることを要する領域において測定される。測温粉末金属材料の試料の焼き戻し曲線は作成され、焼き戻し曲線は微少硬度に基づき温度を推定するために使用され、そのためバルブシートインサート用途において温度勾配のマップを作成する。同じまたは同様の手順はまた他のエンジン用途において使用される実際の粉末金属材料の温度を推定するために使用されることができる。
【0033】
明らかに、本発明の多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能であり、そして本発明の範囲内にある間に具体的に記載された以外の方法で実施され得る。そのような組み合わせが互いに矛盾しない限り、記載されたすべての特徴およびすべての実施形態は互いに組み合わせることができると考えられる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6