(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/10 20150101AFI20220620BHJP
A63B 53/06 20150101ALI20220620BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220620BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B53/06 A
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020560646
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046287
(87)【国際公開番号】W WO2020129114
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【氏名又は名称】太田 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】古川 義仁
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-029743(JP,A)
【文献】特開平10-155952(JP,A)
【文献】特開2000-354646(JP,A)
【文献】特許第4880063(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/034803(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0065860(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びるシャフト本体と、
前記シャフト本体に設けられるとともにシャフト重心を前記長手方向の先端側にシフトさせる重心シフト部材と、
を有し、
前記シャフト本体をシャフト全長が43インチ以下となるように切断したときに、前記シャフト重心の位置は、前記長手方向の先端部を0%として、前記長手方向の基端部を100%としたときに、39%~45%の範囲に設定され
、
前記シャフト本体の重量に対する前記重心シフト部材の重量の比率は、14%~33%の範囲に設定される、
ことを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記シャフト本体の前記長手方向の基端側の切断長は、前記シャフト本体の前記長手方向の先端側の切断長よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
前記重心シフト部材は、前記シャフト本体の内周面に埋設された金属円筒を有する、
ことを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記シャフト本体は、前記長手方向の基端側から先端側に向かって順に、シャフト外径が相対的に緩やかに減少する第1の領域と、シャフト外径が相対的に急峻に減少する第2の領域と、シャフト外径の相対的な変化量が最も小さい第3の領域とを有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記長手方向に占める前記第1の領域の割合が30%以上であり、前記長手方向に占める前記第2の領域の割合が45%~60%であり、前記長手方向に占める前記第3の領域の割合が10%~25%である、
ことを特徴とする請求項
4に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記第1の領域の外周面にグリップが取り付けられ、前記第3の領域の内周面に、前記重心シフト部材としての金属円筒が埋設される、
ことを特徴とする請求項
4又は請求項
5に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれかに記載のゴルフクラブシャフトにクラブヘッドとグリップを装着したことを特徴とするゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、全体が金属材料からなる金属円筒と、この金属円筒の長手方向の少なくとも一部を含んで、その外周に複数層巻回した未硬化熱硬化性樹脂プリプレグを熱硬化させてなる中空筒状のシャフト本体とを有するゴルフクラブシャフトについて、特許権を取得している(特許文献1)。金属円筒は、中空筒状のシャフト本体の長手方向の一部に位置しており、金属円筒の外径側の少なくとも一部は、シャフト本体の内壁に形成された埋没凹円筒部内に埋没されていて、金属円筒の手元側円筒端面とシャフト本体の埋没凹円筒部の手元側凹円筒端面が当接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人は、例えば、シャフト全長が43インチより大きい(例えば45インチ以上)シャフト本体をシャフト全長が43インチ以下となるように切断した、いわゆる短尺ゴルフクラブシャフトの研究開発を進めている。短尺ゴルフクラブシャフトは、短いので取り回しが楽であり、スイートスポットで正確なインパクトを迎え易いのでミート率が向上するというメリットがある。
【0005】
一方、短尺ゴルフクラブシャフトは、とりわけ上級者に対して振り心地の違和感を与え易く、ボールの打ち出し角度が小さくなりがち(ボールが上がり難い)というデメリットがある。そこで、短尺ゴルフクラブシャフトを使用する場合、クラブヘッドの重量を、短尺でない通常のゴルフクラブシャフトに装着するクラブヘッドの重量よりも大きくすることが考えられる。
【0006】
しかし、クラブヘッドの重量を大きくすることは、ゴルフクラブ全体の重量やバランス等に影響を及ぼすので、場合によっては、短尺ゴルフクラブシャフトの全長の調整を含めた微妙なセッティングが要求されるおそれがある。
【0007】
本発明は、以上の問題意識に基づいて完成されたものであり、短尺とした場合のメリットを維持しながら微妙なセッティングを要求することなく優れた振り心地のゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態のゴルフクラブシャフトは、長手方向に延びるシャフト本体と、前記シャフト本体に設けられるとともにシャフト重心を前記長手方向の先端側にシフトさせる重心シフト部材と、を有し、前記シャフト本体をシャフト全長が43インチ以下となるように切断したときに、前記シャフト重心の位置は、前記長手方向の先端部を0%として、前記長手方向の基端部を100%としたときに、39%~45%の範囲に設定され、前記シャフト本体の重量に対する前記重心シフト部材の重量の比率は、14%~33%の範囲に設定される、ことを特徴としている。
【0009】
前記シャフト重心の位置は、前記長手方向の先端部を0%として、前記長手方向の基端部を100%としたときに、41%~44%の範囲に設定されることが好ましく、42.5%~43.5%の範囲に設定されることがより好ましい。
【0010】
前記シャフト本体の前記長手方向の基端側の切断長は、前記シャフト本体の前記長手方向の先端側の切断長よりも大きくすることができる。ここで、先端側の切断長はゼロを含む概念で使用する。つまり、先端側と基端側を切断する場合のほか、先端側を切断せずに基端側だけを切断する場合を含む。
【0012】
前記シャフト本体の重量に対する前記重心シフト部材の重量の比率は、17%~30%の範囲に設定されることが好ましく、20%~25%の範囲に設定されることがより好ましい。
【0013】
前記重心シフト部材は、前記シャフト本体の内周面に埋設された金属円筒を有することができる。
【0014】
前記シャフト本体は、前記長手方向の基端側から先端側に向かって順に、シャフト外径が相対的に緩やかに減少する第1の領域と、シャフト外径が相対的に急峻に減少する第2の領域と、シャフト外径の相対的な変化量が最も小さい第3の領域とを有することができる。
【0015】
前記長手方向に占める前記第1の領域の割合が30%以上であり、前記長手方向に占める前記第2の領域の割合が45%~60%であり、前記長手方向に占める前記第3の領域の割合が10%~25%であることができる。
【0016】
前記第1の領域の外周面にグリップが取り付けられ、前記第3の領域の内周面に、前記重心シフト部材としての金属円筒が埋設されることができる。
【0017】
本実施形態のゴルフクラブは、上述したいずれかのゴルフクラブシャフトにクラブヘッドとグリップを装着したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、短尺とした場合のメリットを維持しながら微妙なセッティングを要求することなく優れた振り心地のゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態によるゴルフクラブの外観構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態によるゴルフクラブシャフトの概略構成の一例を示す図である。
【
図3】
図2において丸で囲ったシャフト本体と金属円筒の当接部を拡大して示す図である。
【
図4】
図2のゴルフクラブシャフトを先端側から見た図である。
【
図5】本実施形態によるゴルフクラブシャフトの3つのサンプルの特性を示す図である。
【
図6】本実施形態によるゴルフクラブシャフトの長手方向のシャフト外径の推移の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態によるゴルフクラブシャフトと比較例1-3によるゴルフクラブシャフトの長手方向のシャフト外径の推移の一例を示す図である。
【
図8】シャフト本体を構成する積層プリプレグの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態によるゴルフクラブ10の外観構成の一例を示している。ゴルフクラブ10は、長手方向に延びるゴルフクラブシャフト100と、ゴルフクラブシャフト100の先端側(チップ側)に装着されたクラブヘッド200と、ゴルフクラブシャフト100の基端側(バット側)に装着されたグリップ300とを有している。
図1では、クラブヘッド200をアイアンクラブヘッドとして描いているが、クラブヘッド200はドライバークラブヘッドであってもよい。
【0021】
図2~
図4を参照して、本実施形態によるゴルフクラブシャフト100の概略構成について説明する。
図2において、ゴルフクラブシャフト100は、基端側(バット側)から先端側(チップ側)に向かってシャフト外径が一律のテーパ率で減少するように描いているが、これは作図の便宜上の理由によるものである。実際には、ゴルフクラブシャフト100のシャフト外径は、
図6を用いて後述するような特徴的な構成を有している。
【0022】
ゴルフクラブシャフト100は、繊維強化樹脂からなる中空筒状のシャフト本体110と、シャフト本体110の先端側に設けられた金属円筒(重心シフト部材、おもり)120とを有している。
【0023】
シャフト本体110は、例えば、未硬化熱硬化性樹脂プリプレグを複数層巻回し熱硬化させて形成したFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製である。シャフト本体110(ゴルフクラブシャフト100)は、長手方向に延びるとともに、初期状態ではシャフト全長が43インチより大きく(例えば45インチ以上)、使用状態ではシャフト全長が43インチ以下となるように切断された、いわゆる短尺用のシャフト本体(ゴルフクラブシャフト)である。シャフト本体110の長手方向の基端側の切断長は、シャフト本体110の長手方向の先端側の切断長よりも大きい。ここで、シャフト本体110の先端側の切断長はゼロを含む概念で使用する。つまり、シャフト本体110の先端側と基端側を切断する場合のほか、シャフト本体110の先端側を切断せずに基端側だけを切断してもよい。なお、シャフト本体110がシャフト全長を調整(短縮)するために切断されたかどうかは、シャフト本体110の先端面と基端面の少なくとも一方を観察することにより把握することができる。
【0024】
金属円筒120は、シャフト本体110の先端側に設けられることにより、シャフト重心(ゴルフクラブシャフト100の重心位置、バランスポイント)を先端側にシフトする機能を有している。金属円筒120は、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、タングステン等の金属材料から構成されるが、重量を付加できる材料であればよく、これらに限られるものではない。あるいは、金属円筒120に代えて、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等の樹脂材料から構成される樹脂円筒を「重心シフト部材、おもり」とすることも可能である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリテレフタレート、ポリエチレン等を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等を用いることができる。ゴムとしては、例えば、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等を用いることができる。
【0025】
図3に示すように、シャフト本体110の内壁111の先端側端部には、埋没凹円筒部112が形成されている。この埋没凹円筒部112内には金属円筒120の外径側の一部が埋没され(シャフト本体110の内周面に金属円筒120が埋設され)、金属円筒120の基端側円筒端面121と埋没凹円筒部112の基端側円筒端面113とが長手方向に突き合わされて当接している。これにより、スイング時あるいは打突時の衝撃が加わっても金属円筒120がシャフト本体110から基端側に抜けることがなく、ゴルフクラブシャフト100の耐久性を高めることができる。シャフト本体110の先端側端部にはクラブヘッド200が装着されているため、スイング時あるいは打突時の衝撃が加わっても金属円筒120がシャフト本体110から先端側に抜けることはない。
【0026】
金属円筒120の基端側円筒端面121と埋没凹円筒部112の基端側円筒端面113の当接長Aは、0.05mm~0.5mmの範囲内とすることが好ましい。この当接長Aが0.05mmより小さいと、スイング時あるいは打突時の衝撃が加わったときに金属円筒120がシャフト本体110から基端側に抜けるおそれが生じる。この当接長Aが0.5mmより大きいと、シャフト本体110が薄くなりすぎ、金属円筒120の基端側円筒端面121と埋没凹円筒部112の基端側円筒端面113の当接部においてシャフト本体110の繊維強化樹脂層が凹んだり、切れたり折れたりするおそれが生じる。
【0027】
図3、
図4に示すように、金属円筒120の先端側円筒端面122は、シャフト本体110のシャフト先端側端面114に露出している。これにより、シャフト本体110のシャフト先端側端面114を目視することでシャフト先端側に金属円筒120が埋没しているのを確認することができる。また、金属円筒120がゴルフクラブシャフト100の重心をシャフト先端側にシフトする作用を顕著に発現することができる。
【0028】
本実施形態によるゴルフクラブシャフト100は、シャフト全長が43インチ以下となるように切断されたシャフト本体110において、金属円筒120によりシフトさせたシャフト重心の位置を、長手方向の先端部を0%として、長手方向の基端部を100%としたときに、39%~45%の範囲に設定している。また、金属円筒120によりシフトさせたシャフト重心の位置は、長手方向の先端部を0%として、長手方向の基端部を100%としたときに、41%~44%の範囲に設定することが好ましく、42.5%~43.5%の範囲に設定することがより好ましい。
金属円筒120によりシフトさせたシャフト重心の位置を上記の範囲に設定することにより、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整を容易にすることができる。また、ゴルフクラブシャフト100を短尺とした場合のメリットを維持しながら微妙なセッティングを要求することなく優れた振り心地を実現することができる。
金属円筒120によりシフトさせたシャフト重心の位置が39%の位置よりも先端側にある場合(条件式の下限を超えた場合)、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整が困難になってしまう。
金属円筒120によりシフトさせたシャフト重心の位置が45%の位置よりも基端側にある場合(条件式の上限を超えた場合)、ゴルフクラブシャフト100を短尺とした場合のデメリット(振り心地の違和感、ボールが上がり難い)を解消することが困難になってしまう。また、当該デメリットを解消するためにクラブヘッドの重量を大きくした場合、短尺ゴルフクラブシャフトの全長の調整を含めた微妙なセッティングが要求されるおそれがある。
ちなみに、従来品の短尺用のシャフト本体(ゴルフクラブシャフト)におけるシャフト重心の位置は、48%又は50%の位置よりも基端側にある(条件式の上限を大幅に超えている)。
【0029】
図5は、本実施形態によるゴルフクラブシャフト100の3つのサンプルの特性を示している。
図5に示すように、初期状態でシャフト全長が43インチより大きく(例えば45インチ以上)且つそれぞれ異なる特性を有するサンプル1、2、3を準備した。そして、各サンプル1-3について、シャフト基端側をシャフト先端側より大きい切断量で切断することにより、シャフト全長を43インチ、42インチ、41インチ、40インチとした場合のシャフト重心の位置をモニタリングした。
【0030】
サンプル1のシャフト重心の位置は、シャフト全長が43インチのときに40.5%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに40.2%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに39.9%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに39.6%に設定されている。
サンプル2のシャフト重心の位置は、シャフト全長が43インチのときに42.6%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに42.3%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに42.0%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに41.7%に設定されている。
サンプル3のシャフト重心の位置は、シャフト全長が43インチのときに44.4%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに44.1%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに43.8%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに43.5%に設定されている。
【0031】
本実施形態によるゴルフクラブシャフト100は、シャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率を、14%~33%の範囲に設定している。また、シャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率は、17%~30%の範囲に設定することが好ましく、20%~25%の範囲に設定することがより好ましい。
シャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率を上記の範囲に設定することにより、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整を容易にすることができる。また、金属円筒120による重心シフト効果を得やすくすることで、シャフト重心の位置を39%~45%の範囲に容易に設定することができる。
シャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率が33%より大きい場合(条件式の上限を超えた場合)、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整が困難になってしまう。
シャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率が14%より小さい場合(条件式の下限を超えた場合)、金属円筒120による重心シフト効果が得られにくくなってしまう。例えば、シャフト重心の位置を39%~45%の範囲に設定するのが困難になってしまう。
【0032】
サンプル1におけるシャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率は、シャフト全長が43インチのときに29.8%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに30.5%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに31.4%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに32.2%に設定されている。
サンプル2におけるシャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率は、シャフト全長が43インチのときに22.1%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに22.7%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに23.3%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに24.0%に設定されている。
サンプル3におけるシャフト本体110の重量に対する金属円筒120の重量の比率は、シャフト全長が43インチのときに18.1%に設定されており、シャフト全長が42インチのときに18.6%に設定されており、シャフト全長が41インチのときに19.2%に設定されており、シャフト全長が40インチのときに19.8%に設定されている。
【0033】
図6は、本実施形態によるゴルフクラブシャフト100の長手方向(X(mm))のシャフト外径(O.D.(mm))の推移の一例を示している。
図6は、シャフト全長が43インチ以下となるように切断した後のデータである。
【0034】
図6に示すように、シャフト本体110は、長手方向の基端側から先端側に向かって順に、第1の領域A1と、第2の領域A2と、第3の領域A3とを有している。第1の領域A1では、シャフト本体110のシャフト外径が、長手方向の基端側から先端側に向かって相対的に緩やかに減少する。第2の領域A2では、シャフト本体110のシャフト外径が、長手方向の基端側から先端側に向かって相対的に急峻に減少する。第3の領域A3では、シャフト本体110のシャフト外径の長手方向の相対的な変化量が最も小さくなっている(略ストレートになっている)。シャフト本体110の第1の領域A1の外周面にはグリップ300が取り付けられ、シャフト本体110の第3の領域A3の内周面には金属円筒120が埋設される。
【0035】
第1の領域A1、第2の領域A2、第3の領域A3が長手方向に占める割合は、それぞれ、次の条件式を満足することが好ましい。すなわち、長手方向に占める第1の領域A1の割合が30%以上であり、長手方向に占める第2の領域A2の割合が45%~60%であり、長手方向に占める第3の領域A3の割合が10%~25%であることが好ましい。
図6の例では、長手方向に占める第1の領域A1の割合が32%に設定されており、長手方向に占める第2の領域A2の割合が50%に設定されており、長手方向に占める第3の領域A3の割合が18%に設定されている。
【0036】
長手方向に占める第1の領域A1の割合を30%以上とすることにより、第1の領域A1をグリップ300の取付領域として確保することができる。左右の両手でグリップ300を握るとき、左手で握る領域に対して右手で握る領域が細いと、右手に必要以上の握力が入ってグリップ300を握り締めてしまうので、ミスショットの確率が上がる傾向がある。
緩やかなテーパ形状の第1の領域A1の割合を30%以上として、グリップ300の取付領域として確保すれば、左右の両手で握る領域の太さが略同一となり、右手に必要以上の握力が入ってグリップ300を握り締めることがなくなるので、ナイスショットの確率を上げることが可能になる。
逆に、第1の領域A1の割合が30%未満の場合、グリップ300の取付領域が第1の領域A1と第2の領域A2とに跨ることで、左手で握る領域に対して右手で握る領域が細くなり、右手に必要以上の握力が入ってグリップ300を握り締めてしまうので、ミスショットの確率が上がってしまう。
【0037】
長手方向に占める第3の領域A3の割合を10%~25%とすることにより、第3の領域A3を金属円筒120の埋設領域として確保するとともに、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整を容易にすることができる。
上記の通り、シャフト本体110の第3の領域A3の内周面には金属円筒120が埋設される。長手方向に占める第3の領域A3の割合が10%より小さい場合、第3の領域A3を金属円筒120の埋設領域として確保することが難しくなってしまう。
長手方向に占める第3の領域A3の割合が25%より大きい場合、ゴルフクラブシャフト100の重量・振動数・トルク等の各種パラメータの調整が困難になってしまう。
【0038】
長手方向に占める第2の領域A2の割合を45%~60%とすることにより、優れた打ち心地(フィーリング)を実現するとともに、第1の領域A1をグリップ300の取付領域として確保し、第3の領域A3を金属円筒120の埋設領域として確保することができる。
長手方向に占める第2の領域A2の割合が45%より小さい場合、ゴルフクラブシャフト100(シャフト本体110)のテーパ率(縮径度合い)が急峻になり過ぎて、打ち心地(フィーリング)に違和感が生じるおそれがある。
長手方向に占める第2の領域A2の割合が60%より大きい場合、第1の領域A1をグリップ300の取付領域として確保できず、且つ/又は、第3の領域A3を金属円筒120の埋設領域として確保できなくなるおそれがある。
【0039】
図7は、本実施形態によるゴルフクラブシャフト100と比較例1-3によるゴルフクラブシャフトの長手方向のシャフト外径の推移の一例を示す図である。本実施形態によるゴルフクラブシャフト100の長手方向のシャフト外径の推移は、
図6を参照して説明した通りである。これに対し、比較例1-3によるゴルフクラブシャフトは、第1の領域A1、第2の領域A2、第3の領域A3のような区画がされておらず、長手方向の全域に亘って、略一定のテーパ率で、基端側から先端側に向かって縮径している。
【0040】
以上のようなゴルフクラブシャフト100を製造する際には、第1の領域A1を形成するための緩やかなテーパ面(例えばテーパ率が5/1000)と、第2の領域A2を形成するための急峻なテーパ面(例えばテーパ率が13/1000)と、第3の領域A3を形成するための略ストレート面とを外径形状として有する異形マンドレル(図示略)を準備する。次に、異形マンドレルの略ストレート面に金属円筒120の内周面を嵌め込む。次に、異形マンドレルと金属円筒120の外周面に、複数のプリプレグを積層巻回していく。次に、複数のプリプレグを加熱硬化して、シャフト本体110と金属円筒120とが一体化したゴルフクラブシャフト100を形成する。最後に、ゴルフクラブシャフト100から異形マンドレルを引き抜いて、当該異形マンドレルを除去する。
【0041】
図8は、シャフト本体110を構成する積層プリプレグの一例を示している。この積層プリプレグは、金属円筒120の上層に、カーボンプリプレグP1-P8をこの順に積層して構成される。カーボンプリプレグP1、P4は、長繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグであり、長手方向の先端側の一部に配置される部分プリプレグである。カーボンプリプレグP2、P3は、長繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対のバイアスプリプレグであり、長手方向の全長に亘る全長プリプレグである。カーボンプリプレグP5-P7は、長繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグであり、長手方向の全長に亘る全長プリプレグである。カーボンプリプレグP8は、長繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグであり、異形マンドレルの先端側に巻回される補強プリプレグである。なお、
図8で例示した積層プリプレグは一例にすぎず、積層プリプレグの枚数や構造等については、種々の設計変更が可能である。
【0042】
ゴルフ上級者の複数のテスターを対象として、本実施形態によるゴルフクラブシャフト10、及び、従来品の短尺ゴルフクラブシャフトに重量を大きくしたクラブヘッドを装着したゴルフクラブシャフトによる試打会を行った。複数のテスターの印象は、総じて、本実施形態によるゴルフクラブシャフト10の方が打ち心地(フィーリング)に優れているというものであった。
【0043】
以上の実施形態では、シャフト本体110の内周面に埋設した金属円筒120を「重心シフト部材、おもり」として、シャフト重心の位置を調整する場合を例示して説明したが、「重心シフト部材、おもり」の具体的態様については自由度があり、種々の設計変更が可能である。例えば、シャフト本体110を構成するプリプレグに金属含有プリプレグを含ませて、これを「重心シフト部材、おもり」とすることにより、シャフト重心の位置を調整してもよい。また、シャフト110を構成するプリプレグの積層構造に工夫を施して、これを「重心シフト部材、おもり」とすることにより、シャフト重心の位置を調整してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本実施形態によるゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブは、例えば、ゴルフのプレイヤーに対して、短尺とした場合のメリットを維持しながら微妙なセッティングを要求することなく優れた振り心地のゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブを提供できる点において好適である。
【符号の説明】
【0045】
10 ゴルフクラブ
100 ゴルフクラブシャフト
110 シャフト本体
111 内壁
112 埋没凹円筒部
113 基端側円筒端面
114 シャフト先端側端面
120 金属円筒(重心シフト部材、おもり)
121 基端側円筒端面
122 先端側円筒端面
200 クラブヘッド
300 グリップ
A1 第1の領域
A2 第2の領域
A3 第3の領域