(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ポリシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20220620BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20220620BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20220620BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220620BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20220620BHJP
C08K 5/5445 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/56
C08K5/5419
C08K3/36
C08K5/5435
C08K5/5445
(21)【出願番号】P 2020564555
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 CN2018087419
(87)【国際公開番号】W WO2019218330
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニエ,ジアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,レイ
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-209269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/56
C08K 5/5419
C08K 3/36
C08K 5/5435
C08K 5/5445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分、すなわち、
(a) 水酸基末端ポリオルガノシロキサン、
(b) 多官能性アルコキシシラン、及び
(c)以下の一般式I又はIIを有する有機チタン化合物、又は2~10の重合度を有するそのマルチポリマー、
(i) 次の一般式Iを有する有機チタン化合物I、
【化1】
[式中、nは1~4の間の任意の整数であり、
R
1は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
R
2は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、
R
3は1~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含む。]
(ii) 以下の一般式IIを有する有機チタン化合物II、
【化2】
[式中、mは2~4の間の任意の整数であり、
R
4は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
R
5は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、
R
6は4~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含む。]、
任意選択的に、
さらに触媒(d)
を含
み、ここでポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、
成分(a)が10重量%から85重量%の量で使用され、
成分(b)が0.5重量%から5重量%の量で使用され、
成分(c)が0.01重量%から2重量%の量で使用され、かつ、
成分(d)が0.01重量%から5重量%の量で使用される、
ポリシロキサン組成物。
【請求項2】
成分(a)が、25℃で1,000~100,000mm
2/sの範囲の動粘度を有する少なくとも1種の水酸基末端ポリオルガノシロキサンを含むことを特徴とする、請求項1
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項3】
成分(a)が、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、50重量%~85重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項
2に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項4】
成分(b)がビニル基含有多官能性アルコキシシランであることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項5】
有機チタン化合物が一般式I又はIIを有し、ここでR
1又はR
4は2~4個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項6】
有機チタン化合物が一般式I又はIIを有し、ここでR
2又はR
5が3~5個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項7】
成分(d)が有機チタン触媒(d1)又は有機スズ触媒(d2)の中から選択されることを特徴とする、請求項1のポリシロキサン組成物。
【請求項8】
ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、成分(c)が0.01重量%~2重量%の量、及び成分(d1)が0.1重量%~5重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項
7のポリシロキサン組成物。
【請求項9】
ヒュームドシリカを含有し、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて1重量%~20重量%の量で使用される充填剤(e1)をさらに含むことができることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項10】
ヒュームドシリカを含有せず、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて10重量%~60重量%の量で使用される充填剤(e2)をさらに含むことができることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項11】
接着促進剤(f)をさらに含むことができることを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項のポリシロキサン組成物。
【請求項12】
成分(f)がエポキシシランであり、ただし前記ポリシロキサン組成物が有機チタン触媒(d1)を含むことを条件とし、又は
成分(f)がアミノシランであり、ただし、前記ポリシロキサン組成物が有機スズ触媒(d2)を含むことを条件とすることを特徴とする、請求項
11に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項13】
ステップ1:成分(a)のシラノール基が実質的に消失するまで反応するように成分(a)~(c)を混合し、及び
任意選択的にステップ2:成分(a)のシラノール基が実質的に消失した後に成分(d)を添加する
ことを含む、請求項1~
12のいずれか一項
に記載のポリシロキサン組成物の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン組成物に関し、特に、室温で硬化することができ、調製方法中の粘度ピークを低下させる又は取り除くことができるアルコキシ硬化ポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシ硬化一成分室温加硫(RTV-1)シリコーンゴムは、通常、ベースポリマーとしてのα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、架橋剤としてのメチルトリメトキシシラン、触媒として有機チタン、及び任意に充填剤及び添加剤と共に配合される。アルコキシ硬化RTV-1ゴムの製造においては、α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンに有機チタン触媒を添加した後、ポリマー中の水酸基と有機チタンとの反応により、通常、系の粘度上昇あるいはゲル化さえ起こり、この現象は「粘度ピーク」としても知られている。この問題の一般的な解決策は、高速剪断し、一定期間放置することによりゴム化合物の粘度を低下させることである。しかし、これは、特に充填剤を用いない、又は充填剤としてヒュームドシリカを用いたアルコキシ硬化RTV-1シリコンゴムシステムにはあまり効果的ではなく、また、製造に大きな不便さをもたらす。
【0003】
ポリマーと有機チタン触媒との混合中の粘度ピークを回避するために、アルコキシ末端ポリジメチルシロキサンがベースポリマーとして使用され、これは、典型的には触媒の存在下で水酸基末端ポリジメチルシロキサンをアルコキシシランと反応させることによって調製される。しかし、この方法は、高コストで複雑な工程である、事前のポリマーの調製を必要とする。
【発明の概要】
【0004】
アルコキシ硬化RTV-1シリコーンゴムの製造中の粘度ピークを、その後の硬化を損なうことなく低下させる又は取り除くために、本発明の第1の態様は、以下の成分、すなわち、
(a) 水酸基末端ポリオルガノシロキサン、
(b) 多官能性アルコキシシラン、及び
(c)以下の一般式I又はIIを有する有機チタン化合物、又は2~10の重合度を有するそのマルチポリマー、
(i) 次の一般式Iを有する有機チタン化合物I、
【0005】
【化1】
式中、nは1~4の間の任意の整数であり、
R
1は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
R
2は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、
R
3は1~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含み、
(ii) 以下の一般式IIを有する有機チタン化合物II、
【0006】
【化2】
式中、mは2~4の間の任意の整数であり、
R
4は1~16個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
R
5は1~16個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であり、
R
6は4~32個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であり、
ここで炭化水素基は直鎖状及び分枝状の両方を含み、
任意選択的に、さらに触媒(d)
を含むポリシロキサン組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
成分(a)
本発明によれば、成分(a)はベースポリマーとして使用され、これはRTV-1シリコ-ンゴムを調製するために当技術分野で従来使用されている種々の水酸基末端ポリオルガノシロキサン又はその混合物の中から選択することができ、一般に、25℃で500~350,000mm2/秒の動粘度を有する1種以上のα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンであり、好ましくは25℃で1,000~100,000mm2/秒、例えば20,000~100,000mm2/秒の動粘度を有する少なくとも1種のα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンを含む。本明細書中で使用される用語「動粘度」は、特に指定のない限り、DIN 51562に従って測定される。水酸基末端ポリオルガノシロキサンの動粘度が高いほど、その水酸基含有量は低い。一般に使用されるα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンは、α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンの質量に基づき、0.01重量%から0.2重量%の範囲の水酸基含有量を有する。
【0008】
本発明によれば、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、成分(a)は通常、10重量%~85重量%の量、例えば30重量%~85重量%の量で使用される。
【0009】
成分(b)
本発明によれば、成分(b)は、架橋剤として役立ち、これは、アルコキシ硬化RTV-1シリコーンゴムを調製するために当技術分野で従来使用されている≧3の官能性を有する種々の多官能性アルコキシシラン架橋剤の中から選択することができる。適切な多官能性アルコキシシランの例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられるが、これらに限定されるものではない。成分(a)中のシラノール基の反応時間を短縮するためには、成分(b)はビニル基含有多官能性アルコキシシランであることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、成分(b)の量は、成分(a)中のシラノール基の量に応じて、従来のアルコキシ硬化RTV-1シリコーンゴムの配合物に従って、当業者によって特定することができる。一般に、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、成分(b)は、0.5重量%~5重量%の量で使用される。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、ポリシロキサン組成物の全出発材料の100重量部に基づいて、成分(a)は10~85部、好ましくは30~85部の量で使用され、一方成分(b)は0.5~5部、好ましくは0.5~4.5部の量で使用される。
【0012】
成分(c)
本発明によれば、成分(c)は、成分(a)及び(b)の架橋に影響を及ぼすことなく、成分(a)に有機チタン触媒を添加した後に、系の急激な粘度上昇又はゲル化さえ減少又は取り除くように、成分(a)中の末端水酸基の完全又はほぼ完全な反応を引き起こすことができる。
【0013】
有機チタン化合物Iの一般式において、nは2~4の間の任意の整数であることが好ましく、例えば2、3又は4である。R1は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル及びt-ヘキシルのような好ましくは1~10個の炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であることが好ましく、n-プロピルのような2~4個、例えば3個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基が特に好ましい。R2は、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)-CH2-、-(CH2)4-、-CH(CH3)-(CH2)2-、-CH2CH(CH3)-CH2-、-CH(CH2CH3)-CH2-、-(CH2)5-、-CH(CH3)-(CH2)3-、-CH(CH2CH3)-(CH2)2-、-(CH2)6-、-CH(CH3)-(CH2)4-、-CH(CH2CH3)-(CH2)3-のような、1~10個の炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基であることが好ましく、-CH(CH2CH3)-CH2-のような3~5個、例えば4個の炭素原子を有する飽和の二価炭化水素基本であることが特に好ましい。R3は、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどのような好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
有機チタン化合物IIの一般式において、mは好ましくは3又は4であり、R4は前記R1と定義され、R5は前記R2と定義され、R6は、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどのような好ましくは4~20炭素原子、より好ましくは6~12炭素原子を有する飽和の一価炭化水素基である。
【0015】
有機チタン化合物のマルチポリマーの構造式は該化合物の構造式によって決定される。例えば化合物Iの構造式が、
【0016】
【0017】
【0018】
本発明によれば、成分(c)の量は主に成分(a)の量によって決定される。本発明のいくつかの実施形態において、ポリシロキサン組成物の全出発材料の100重量部に基づいて、成分(a)は、10~85部、好ましくは30~85部の量で使用され、一方成分(c)は、0.01~2部、好ましくは0.05~1.5部の量で使用される。成分(c)の量が上記の範囲よりも少ない場合、成分(a)のシラノール基を反応で完全に消費できず、成分(a)に有機チタン触媒を加えた後で、システムの粘度は依然として大幅に上昇する。成分(c)の量が上記の範囲より多い場合、生成物の不粘着時間が影響を受ける。
【0019】
成分(d)
本発明によれば、触媒は、当技術分野で従来使用されている種々の有機チタン触媒(d1)又は有機スズ触媒(d2)の中から選択することができる。適切な有機チタン触媒の例としては、テトラ-n-ブチルチタネート(Tn-BT)、テトライソブチルチタネート(Ti-BT)、テトラ-t-ブチルチタネート(Tt-BT)、テトライソプロピルチタネート(Ti-PT)、テトライソオクチルチタネート(TOT)、ジイソブチルビス(アセチルアセトネート)チタネート(DIBAT)、ジイソプロピルビス(アセチルアセトネート)チタネート(DIPAT)、ジイソプロピルビス(エチルアセトアセテート)チタネート、ジブチルビス(エチルアセトアセテート)チタネートが挙げられるが、これらに限定されない。適切な有機スズ触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジアセチルアセトネート、ジブチルスズオキシド及びジオクチルスズオキシドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明によれば、成分(d)の量は、その種類及び予想される硬化速度に従って当業者によって特定することができ、一般にポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて0.01重量%から5重量%の範囲である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、ポリシロキサン組成物の全出発材料の100重量部に基づいて、成分(c)は0.01~2部、好ましくは0.05~1.5部の量で使用され、一方成分(d1)は、0.1~5部、好ましくは0.5~3部の量で使用される。
【0022】
本発明によれば、成分(d)を含有するポリシロキサン組成物は、室温で硬化する製品であり、建築、エレクトロニクス、電気及び自動車部門における用途のためのシーラント、接着剤、及びコーティング材料として直接使用することができる。成分(d)が含まれていない場合、組成物は、使用前に成分(d)と混合することができる非硬化性の製品である。
【0023】
成分(e)
本発明によれば、ポリシロキサン組成物は、粘度を補強し調整するために充填剤(e)をさらに含むことができる。充填剤は、当該技術分野で従来使用されている様々な充填剤、例えばヒュームドシリカ(疎水性又は親水性の焼成シリカ、及び疎水性又は親水性の沈降シリカを含む)を含む充填剤(e1)及び炭酸カルシウム(沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、及び活性炭酸カルシウムを含む)、微粉砕シリカ、珪藻土、タルク、二酸化チタン、アルミナ、石英粉末、粘土鉱物、ベントナイト及びカオリンのようにヒュームドシリカを含まない充填剤(e2)の中から選択することができるが、これらに限定されない。本発明によれば、充填剤は、ヒュームドシリカを含むもの、又は炭酸カルシウムが好ましい。
【0024】
本発明によれば、成分(e)は、一般に、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、70重量%未満、例えば10重量%~50重量%の量で使用される。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、充填剤は、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、1重量%~20重量%の量で使用される充填剤(e1)である。本発明の他の実施形態において、充填剤は、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づいて、10重量%~60重量%の量で使用される充填剤(e2)である。
【0026】
成分(f)
本発明によれば、ポリシロキサン組成物は、接着性をさらに向上させるために、接着促進剤(f)をさらに含むことができる。接着促進剤は、当技術分野で従来使用されている種々の接着性促進剤、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルトリメトキシシラン、γ-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシランから選択することができるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、成分(d)は有機チタン触媒(d1)であり、触媒毒を回避するために、接着促進剤は、好ましくはエポキシシランであり、適切な例は前の段落に挙げられている。本発明の他の実施形態において、成分(d)は有機スズ触媒(d2)であり、接着性を増強するために、接着促進剤は、好ましくはアミノシランであり、適切な例は前の段落に挙げられている。
【0028】
本発明によれば、成分(f)は、一般に、ポリシロキサン組成物の出発材料の総重量に基づき、3重量%未満、例えば0.1重量%から3重量%の量で使用される。
【0029】
他の任意成分
本発明のポリシロキサン組成物はまた、任意選択的に、希釈剤及び可塑剤(例えば、25℃で10~5000mPa・sの動的粘度を有するジメチルシリコーン油、及び25℃で10~100mPa・sの動的粘度を有する鉱油)、UV吸収剤(例えば、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、置換アクリロニトリル及びトリアジンUV吸収剤)、及びUV安定剤(例えば、ヒンダードアミン光安定剤)などの他の従来の助剤及び添加剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明のポリシロキサン組成物は、一成分系、より詳細にはアルコキシ硬化一成分室温加硫シリコーンゴム系(RTV-1タイプ)、又は二成分系、より詳細にはアルコキシ硬化二成分室温加硫シリコーンゴム系(RTV-2タイプ)(成分(d)及び成分(a)は同一成分に配合されない)であることができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明はまた、以下の成分、すなわち、
前記の成分(a)及び
前記の成分(c)を含み、
任意選択的に前記の成分(b)をさらに含み、
さらに任意選択的に前記の成分(d)を含み、
さらに任意選択的に前記の成分(e)、(f)及び/又は他の任意成分を含む、ポリシロキサン組成物を提供する。
【0032】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係るポリシロキサン組成物の調製方法を提供し、該方法は、
ステップ1:一成分(a)のシラノール基が実質的に消失するまで反応するように成分(a)~(c)を混合し、及び
任意選択的にステップ2:成分(a)のシラノール基が実質的に消失した後に成分(d)を添加する
ことを含む。
【0033】
ポリシロキサン組成物が成分(e)及び(f)並びに他の助剤又は添加剤を含む場合、これらの成分は、成分(a)~(c)が混合されている間に、又は成分(a)のシラノール基が実質的に消失した後に、任意選択的に全て一緒に添加することができる。
【0034】
本明細書中で使用される場合、「成分(a)のシラノール基が実質的に消失する」という語句は、成分(a)のシラノール基が他の基にほぼ完全に変換されることを意味し、通常の試験方法によってシラノール基を検出することはできない。典型的な試験方法では、検出試薬としてのテトラブチルチタネート(TBT)を、成分(a)~(c)の反応生成物と適切な比率、例えば、1:50で混合し、5~10分間連続撹拌して、ゲル増粘現象があるかどうかを観察する。攪拌を続けてもゲル増粘がなければ、成分(a)のシラノール基は実質的に消失したと考えられる。
【0035】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に記載の成分(a)~(d)及び任意に他の成分を硬化して得られるエラストマーを提供する。
【実施例】
【0036】
本発明は、以下の実施例によりさらに例示されるが、その範囲に限定されるものではない。以下の実施例で規定された条件のない実験方法はいずれも、従来の方法及び条件、又は製品仕様に従って選択される。
【0037】
検査方法
1. 調製時の粘度変化の特性評価
本発明のポリシロキサン組成物の調製中の粘度変化は、混合物の粘度が顕著に上昇するかどうかを観察することによって特徴づけられ、典型的にはワイセンベルク効果が生じるかどうかを観察することによって特徴づけられる。
【0038】
ポリシロキサン組成物の調製中にワイセンベルク効果が生じない場合は、そのことは粘度の顕著な上昇はないことを示し、ワイセンベルク効果が生じた場合は、そのことは粘度の顕著な上昇を示す。「ワイセンベルク効果が生じない」典型例は、容器容積の1/2~2/3がポリシロキサン組成物の出発材料で満たされた反応容器において、初期液面の下に挿入した攪拌棒で200~1,000r/分の速度で攪拌しながら反応が起こる場合、初期液面より上方の攪拌棒の部分は、材料が付着した軸方向(初期液面から測定)に沿って常に50%未満を有し、パドルはなお該液体を適切に攪拌できるということである。「ワイセンベルク効果が生じる」典型例は、容器容積の1/2~2/3がポリシロキサン組成物の出発材料で満たされた反応容器において、初期液面の下に挿入した攪拌棒で200~1,000r/分の速度で攪拌しながら反応を行うと、初期液面より上方の攪拌棒の部分が、材料が付着した軸方向(初期液面から測定)に沿って50%超を有し、パドルが該液体を適切に攪拌できず、極端な場合には、出発材料がパドルに付着してパドルと共に回転する塊となることである。
【0039】
ここで、「ワイセンベルク効果が生じない」及び「ワイセンベルク効果が生じる」典型例は、特に棒を用いた攪拌システムの場合である。棒を用いない攪拌システム、あるいはスクリュー押出システムについては、ポリシロキサン組成物調製時の粘度変化を評価する方法は、前記のように棒を用いた攪拌システムを参照することができる。
【0040】
2. シラノール基の反応時間の決定
本発明におけるシラノール基の反応時間とは、成分(a)~(c)の混合開始から成分(a)のシラノール基が実質的に消失するまでの経過時間を指す。シラノール基が実質的に消失するかどうかを決定する方法は、前記のとおりである。
【0041】
3. 不粘着時間の決定
本明細書中のポリシロキサン組成物の不粘着時間は、23±2℃及び50±10%の相対湿度で決定する。
【0042】
4. ショアA硬度の決定
本発明の硬化ポリシロキサン組成物(以下「エラストマー」と呼ぶ)のショアA硬度は、ISO 7619-1:2004(又は中国規格GB/T531.1-2008)に従って決定する。
【0043】
5. 引張強度、破断点伸び及び100%弾性率の測定
本発明のエラストマーの引張強度、破断点伸び、及び100%弾性率は、ISO 37-2011(又は中国規格GB/T 528-2009)に従って測定する。
【0044】
[実施例1~4:ポリシロキサン組成物]
調整方法は以下の通り:
物質Aの成分を表1に明記した個々の量で混合し、攪拌して反応を可能にした。α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンのシラノール基が実質的に消失した後、物質Bを加えて混合し、製品を得た。
【0045】
[比較例1~5]
比較例1~5は、比較例1が物質Bを含有せず、比較例2が有機チタン化合物1を含有せず、比較例3が有機チタン化合物1の代わりにTOTを使用し、比較例4が物質B及び物質Aの個々の成分を一緒に混合した以外は、実施例1~4と同じ方法で調製した。
【0046】
表1は、実施例及び比較例の成分及びその量を示す。表1の量は、特に規定されていない限り、重量部で示す。
【0047】
表1に示す成分に関する情報
WACKER(R) POLYMER FD 80、Wacker Chemicalsが供給する、DIN 53019に従って23℃で測定したとき、約75,000mPa・sの動的粘度を有するα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン。
WACKER(R) OH-POLYMER 1000、Wacker Chemicalsが供給する、DIN 53019に従って23℃で測定したとき、約1000mPa・sの動的粘度を有するα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン。
WACKER(R) AK 100、Wacker Chemicalsが供給する、DIN 53019に従って25℃で測定したとき、約95~105mPa・sの動的粘度を有するポリジメチルシロキサン。
HDK(R) H15、Wacker Chemicalsが供給する疎水性の焼成シリカ。
PFLEX、U.S. Specialty Minerals Inc.が供給する沈降炭酸カルシウム。
GENIOSIL(R) XL 10、Wacker Chemicalsが供給するビニルトリメトキシシラン。
GENIOSIL(R) GF 80、Wacker Chemicalsが供給する3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピルトリメトキシシラン。
以下の化学式を有する有機チタン化合物1
【0048】
【0049】
他の成分及び試薬は全て市販されている。
【0050】
表2は、それぞれの実施例及び比較例の調製時における粘度変化及びシラノール基の反応時間を示す。この表から分かるように、ワイセンベルク効果は、実施例1~4及び比較例5のポリシロキサン組成物の調製中には生じなかったが、比較例1~4の組成物の調製中には生じた。さらに、α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサンのシラノール基と有機チタン化合物1との反応に要する時間が短かった。
【0051】
表3は、ポリシロキサン組成物の不粘着時間、並びに実施例1で得られたエラストマーのショアA硬度、引張強度、破断点伸び及び100%弾性率に関する性能試験の結果を示す。実施例2~4は、実施例1の結果と同等の結果を有する。比較例1の組成物は48時間後も未硬化のままであった。比較例2~4の組成物は、調製中の粘度の明らかな上昇のため、製品特性について試験しなかった。比較例5の組成の不粘着時間は大幅に伸び、これは、有機チタン化合物1が多すぎると乾燥粘着性に影響を及ぼし、実際の製造での使用の助けとはならないことを意味する。
【0052】
【0053】
【0054】