(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】炭素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20220620BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20220620BHJP
C10L 9/06 20060101ALI20220620BHJP
C10L 9/08 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C10L5/44
C10B53/02
C10L9/06
C10L9/08
(21)【出願番号】P 2021128011
(22)【出願日】2021-08-04
【審査請求日】2021-08-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-17
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】森 英一朗
(72)【発明者】
【氏名】関本 賢一
(72)【発明者】
【氏名】武田 卓
(72)【発明者】
【氏名】小脇 幸男
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】門前 浩一
【審判官】関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】特許第6402235(JP,B1)
【文献】特開2015-150520(JP,A)
【文献】特開平4-224887(JP,A)
【文献】特開2002-180063(JP,A)
【文献】特開2008-49691(JP,A)
【文献】Eiichiro MORI(外2名)、石炭の自然発熱性評価技術の開発、日鉄エンジニアリング技報Vol11、2020年、39~44頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/44,9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスから、炭素含有率が61
~75重量%であるバイオマス炭化物を得る乾留工程と、
酸素濃度が2~13体積%である雰囲気中、前記バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する酸化工程と、を有する、炭素材の製造方法。
【請求項2】
前記酸化工程で得られる前記炭素材を、空気中、107℃で20分間保持したときの酸化発熱量の積算値が5kJ/kg以下である、請求項1に記載の炭素材の製造方法。
【請求項3】
前記酸化工程では、前記バイオマス炭化物を200℃以上且つ300℃未満の温度範囲に加熱する、請求項1又は2に記載の炭素材の製造方法。
【請求項4】
前記酸化工程において、前記バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する時間は60分間以下であり、炭素含有率が60重量%以上である前記炭素材を得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素材の製造方法。
【請求項5】
前記乾留工程では、前記バイオマスを320℃以上に加熱する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素材の製造方法。
【請求項6】
前記乾留工程では、前記バイオマスを乾留した後、第1バイオマス炭化物と、前記第1バイオマス炭化物よりも炭素含有率が低い第2バイオマス炭化物と、に分別し、
前記酸化工程では、前記第1バイオマス炭化物を加熱する、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素材の製造方法。
【請求項7】
バイオマスから、炭素含有率が61重量%以上であるバイオマス炭化物を得る乾留工程と、
酸素濃度が2~13体積%である雰囲気中、前記バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する酸化工程と、を有し、
前記乾留工程では、前記バイオマスを乾留した後、第1バイオマス炭化物と、前記第1バイオマス炭化物よりも炭素含有率が低い第2バイオマス炭化物と、に分別し、
前記酸化工程では、前記第1バイオマス炭化物を加熱する、炭素材の製造方法。
【請求項8】
バイオマス由来の炭素材であって、
炭素含有率が60
~75重量%であり、
空気中、107℃で20分間保持したときの酸化発熱量の積算値が5kJ/kg以下である、炭素材。
【請求項9】
高位発熱量が5,500kcal/g以上である、請求項8に記載の炭素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策のためのCO2削減の手段として、既存の化石燃料の代わりにバイオマスを利用する技術開発が進められている。バイオマスは、乾留して発熱量を高めることによってカーボンニュートラルな燃料として利用することができる。また、バイオマスは、乾留によって生物による分解を抑制し、地中に埋めることで二酸化炭素を長期間固定することができる。
【0003】
特許文献1では、褐炭及び亜瀝青炭の少なくとも一方を含む石炭の乾留炭とバイオマス半炭化物とを含む混合物を成形して成形燃料を製造する技術が提案されている。この技術によれば、成形燃料がバイオマス半炭化物を含むことから、上記乾留炭よりも燃料比(燃料比=固定炭素(FC)/揮発分(VM))を小さくすることができる。このように燃料比が小さくなると、揮発分が高くなるため着火性が向上する。このような成形燃料は、燃焼開始後すぐに揮発分が抜けることで多孔質になり、比表面積が大きくなる。これによって燃焼し易くなり、優れた燃焼性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマスを乾留して炭素含有率を高くすると発熱量は向上するものの、熱分解による化学構造の変化によって、空気による酸化反応が進行し易くなる。そうすると、自然発熱し易くなり、自然発火する場合もある。このため、貯蔵及び輸送時における発熱及び発火を抑制するために従来以上の対策が必要となる。そこで、本開示では、高い炭素含有率を有しつつも、安全性に十分に優れる炭素材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る炭素材の製造方法は、バイオマスから、炭素含有率が61重量%以上であるバイオマス炭化物を得る乾留工程と、酸素濃度が2~13体積%である雰囲気中、バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する酸化工程と、を有する。
【0007】
上述の製造方法は、バイオマスからバイオマス炭化物を得る乾留工程を有する。このような乾留工程によって、バイオマスよりも生物による分解が抑制されるとともに高い発熱量を有するバイオマス炭化物を得ることができる。ところが、このようなバイオマス炭化物は、炭素含有率が高くなると空気による酸化反応によって自然発熱し易くなる。このような自然発熱現象は、バイオマス炭化物の炭素含有率が61重量%以上になると特に顕著になることが分かった。そこで、本開示の製造方法は、このようなバイオマス炭化物を、酸素濃度が2~13体積%である雰囲気中、200℃以上に加熱する酸化工程を有する。このような酸化工程を有することによって、バイオマス炭化物の表面に存在する活性な官能基等が適度な速度で酸化され、大気中で自然発熱が生じにくくなる。これによって、安全性に十分に優れる炭素材を得ることができる。
【0008】
上記酸化工程で得られる炭素材を、空気中、107℃で20分間保持したときの酸化発熱量の積算値は5kJ/kg以下であってよい。このような炭素材は、大気中における自然発熱を十分に抑制することができる。これによって、安全性に一層優れる炭素材を得ることができる。
【0009】
上記酸化工程では、バイオマス炭化物を200℃以上且つ300℃未満の温度範囲に加熱してもよい。このような温度範囲で加熱することによって、バイオマスから安全性に優れる炭素材を高い収率で製造することができる。
【0010】
上記酸化工程において、バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する時間は60分間以下であってよい。これによって、高い生産性で炭素材を製造することができる。炭素材の炭素含有率は60重量%以上であってよい。これによって、十分に高い発熱量を有する炭素材を製造することができる。
【0011】
上記乾留工程では、バイオマスを320℃以上に加熱してもよい。これによって、バイオマスの種類によらず、炭素含有率が61重量%以上であるバイオマス炭化物を安定的に製造することができる。これによって、炭素材の収率を安定的に高くすることができる。
【0012】
上記乾留工程では、バイオマスを乾留した後、第1バイオマス炭化物と、第1バイオマス炭化物よりも炭素含有率が低い第2バイオマス炭化物と、に分別し、上記酸化工程では、第1バイオマス炭化物を加熱してもよい。これによって、自然発熱し易い第1バイオマスのみを酸化工程で酸化することができる。したがって、高い生産性で炭素材を製造することができる。第2バイオマス炭化物は、酸化工程で得られた炭素材と混合してもよいし、再び乾留工程で加熱してもよい。
【0013】
本開示の一側面に係る炭素材は、バイオマス由来の炭素材であって、炭素含有率が60重量%以上であり、空気中、107℃で20分間保持したときの酸化発熱量の積算値が5kJ/kg以下である。この炭素材は、炭素含有率が高いため、高い発熱量を有する。また、空気中、107℃で20分間加熱したときの酸化発熱量の積算値が所定値以下であることから、自然発熱が抑制されている。このため、高い炭素含有率を有しつつも、安全性に十分に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、高い炭素含有率を有しつつも、安全性に十分に優れる炭素材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】バイオマス炭化物の自然発火性の評価結果を示すグラフである。
【
図2】バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)の測定結果を示すグラフである。
【
図3】酸化工程(1)の時間と酸化発熱量(積算値)の関係を示すグラフである。
【
図4】炭素材の自然発火性の評価結果を示すグラフである。
【
図5】酸化工程(3)の時間と酸化発熱量(積算値)の関係を示すグラフである。
【
図6】酸化工程(4)における重量の経時変化を示すグラフである。
【
図7】乾留工程(2)における乾留温度とバイオマス炭化物の炭素含有率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照して、本開示の例示的な実施形態について説明する。以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0017】
炭素材の製造方法は、バイオマスからバイオマス炭化物を得る乾留工程と、酸素含有雰囲気中、バイオマス炭化物を200℃以上に加熱して炭素材を得る酸化工程と、を有する。
【0018】
本明細書におけるバイオマスとは、化石燃料以外の生物由来の資源をいう。バイオマスとしては、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材、竹、草、やし殻、パームオイル残渣、野菜、果実、食品残渣、汚泥等を挙げることができる。バイオマスは、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材等の木質系バイオマスであってよい。バイオマスの炭素含有率は、50重量%以下であってよい。バイオマスの酸素含有率は、40重量%以上であってよい。
【0019】
本明細書におけるバイオマス、バイオマス炭化物及び炭素材の炭素含有率及び酸素含有率は、市販の分析装置を用いて測定することができる。具体的には、炭素含有率は、JIS M 8819:1997「石炭類及びコークス類-機器分析装置による元素分析方法」に準拠して測定することができる。酸素含有率は、上述の元素分析方法によって測定される炭素含有率、水素含有率及び窒素含有率と、ボンベ燃焼-イオンクロマトグラフ法で測定される硫黄含有率と、JIS M 8812:2006「石炭類及びコークス類-工業分析方法」に準拠してされる灰分の測定値を用いた以下の計算式(1)で求めることができる。各含有率の値は、無水ベースの重量基準の値である。
酸素含有率(重量%)=100-(炭素含有率+水素含有率+窒素含有率+硫黄含有率+灰分) (1)
【0020】
乾留工程の前に、バイオマスを破砕する粉砕工程を行ってもよい。破砕のサイズは特に限定されないが、その後の工程でのハンドリング性向上の観点から、粒度の平均値は例えば7mm超であってよく、10mm以上であってもよい。一方、乾留工程で炭化を十分に進行させる観点から、粒度の平均値は50mm未満であってよく、40mm未満であってもよい。粒度の平均値は、バイオマスの破砕片を篩にかけて粒度の分布を計測した時の積算重量割合が50%となる粒度である。バイオマスの嵩密度は、例えば0.05~0.6g/cm3であってよい。バイオマスの水分量は例えば10~60重量%であってよく、30~60重量%であってもよい。
【0021】
上記粉砕工程の後、バイオマスを乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程では、バイオマスを、空気中、例えば20~150℃の温度範囲にて乾燥する。乾燥工程は、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、燃焼炉の排ガス中で行ってもよい。乾燥工程は、通常の電気炉等を用いて行ってもよいし、間接加熱器又は空気流動層乾燥器を用いて行ってもよい。乾燥工程では、バイオマスの水分を例えば30重量%以下に低減する。乾燥工程を行うことによって、乾留工程におけるバイオマスの炭化を円滑に進行させることができる。乾燥工程の条件は特に制限はなく、バイオマスの水分量及びサイズ等によって調整することができる。
【0022】
乾留工程では、バイオマスを乾留して炭化し、バイオマス炭化物を得る。本開示における「バイオマス炭化物」は、乾留によってバイオマスの少なくとも一部が炭化されているものをいう。「バイオマス炭化物」は、バイオマスが完全に炭化されていてもよいし、完全には炭化されておらず、炭化される余地がまだ残っている半炭化物であってもよい。
【0023】
乾留工程は、無酸素雰囲気中において、バイオマスを200℃以上の乾留温度に加熱して行ってよい。バイオマスの炭化の進行し易さは、樹種及び樹木の部位等によって異なる。バイオマスの樹種及び樹木の部位等によらず、炭化を安定的に且つ円滑に進行させる観点から、乾留は、バイオマスを250℃以上に加熱して行ってよく、320℃以上に加熱して行ってもよい。炭素材の収率を高くする観点から、乾留工程はバイオマスを800℃以下に加熱して行ってよく、500℃以下に加熱して行ってもよい。すなわち、乾留温度の一例は、200~800℃である。
【0024】
乾留工程において、上記温度範囲に加熱する時間は、バイオマスを十分に炭化させる観点から、20分間以上であってよく、1時間以上であってもよい。乾留工程において、上記温度範囲に加熱する時間は、炭素材の生産性を向上する観点から、3時間以下であってよく、2時間以下であってよい。
【0025】
バイオマス炭化物の大気中における自然発熱性は、炭素含有率に依存する。すなわち、炭素含有率が61重量%以上になると、大気中において自然発熱し易くなり、自然発火する場合もある。このため、炭素含有率が61重量%以上であるバイオマスを、以下の酸化工程で酸化することによって、バイオマス由来の炭素材の自然発熱を抑制することができる。
【0026】
バイオマス炭化物の炭素含有率は、炭素材の発熱量を十分に高くする観点から、63重量%以上であってよく、65重量%以上であってもよい。バイオマス炭化物の炭素含有率は、乾留工程を短縮して炭素材の生産性を向上する観点から、95重量%以下であってよく、75重量%以下であってもよい。バイオマス炭化物の炭素含有率の一例は、61~95重量%である。
【0027】
バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)は、炭素材の発熱量を十分に高くする観点から、6kJ/kg以上であってよく、7kJ/kg以上であってよく、8kJ/kg以上であってもよい。バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)は、各工程を短縮して炭素材の生産性を向上する観点から、40kJ/kg以下であってよく、30kJ/kg以下であってもよい。
【0028】
本明細書におけるバイオマス炭化物及び炭素材の酸化発熱量(積算値)は、空気中、107℃で20分間保持したときの発熱量(無水ベース)の積算値である。酸化発熱量(積算値)は、市販のTG-DSC装置を用いて測定することができる。
【0029】
乾留工程によって、炭素含有率が高い第1バイオマス炭化物と、炭素含有率が第1バイオマス炭化物よりも低い第2バイオマス炭化物とが得られる場合は、第1バイオマス炭化物と第2バイオマス炭化物とを分別し、第1バイオマス炭化物のみに、次の酸化工程を施してもよい。このような分別は、乾留工程の一部として行ってもよいし、分別工程として行ってもよい。このように、自然発熱が生じやすいバイオマス炭化物のみに酸化工程を行うことによって、安全性の高い炭素材を効率よく製造することができる。
【0030】
第1バイオマス炭化物の炭素含有率は61重量%以上であってよく、63重量%以上であってよく、65重量%以上であってもよい。第2バイオマス炭化物は、そのまま炭素材としてもよいし、乾留工程の原料として用いてもよい。この場合、乾留工程では、第2バイオマス炭化物のみを乾留してもよいし、バイオマスと第2バイオマス炭化物との混合物を乾留してもよい。
【0031】
バイオマス炭化物の分別は2つに分別することに限定されず、炭素含有率に応じて、3つ以上に分別してもよい。この場合、分別されたバイオマス炭化物のうち、炭素含有率が最も高いバイオマス炭化物のみに以下の酸化工程を行ってもよいし、炭素含有率が最も低いバイオマス炭化物のみに以下の酸化工程を行わないようにしてもよい。
【0032】
酸化工程では、上述のバイオマス炭化物を、酸素含有雰囲気中、200℃以上に加熱する。これによって、バイオマス炭化物の表面に存在する活性な官能基等を酸化して、大気中で自然発熱を生じにくくすることができる。酸素含有雰囲気における酸素濃度は、安全性と酸化処理の効率性の観点から2~13体積%であってよく、3~10体積%であってよく、4~8体積%であってもよい。酸素濃度をこのような範囲とすることによって、バイオマス炭化物の急激な酸化を抑制しつつ、高い安全性を有する炭素材を円滑に製造することができる。酸素含有雰囲気としては、燃焼炉の排ガスを用いてもよい。酸素濃度の「体積%」は、標準状態(25℃、100kPa)の条件における体積比率である。
【0033】
酸化工程における加熱温度は、炭素材の生産性向上の観点から、220℃以上であってよく、240℃以上であってもよい。ただし、加熱温度を高くし過ぎると、炭素材の酸化が進行し過ぎて炭素材の収率が低下する。高い安全性を有する炭素材を高い収率で得るため、酸化工程における加熱温度は、300℃未満であってよく、280℃以下であってよく、270℃以下であってもよい。酸化工程は、例えば、電気炉を用いて行ってよい。
【0034】
酸化工程において上記加熱温度における加熱時間は、十分に高い安全性を有する炭素材を高い生産効率で製造する観点から、10~60分間であってよく、15~50分間であってもよい。このような酸化工程を経て、高い安全性を有する炭素材を得ることができる。
【0035】
このようにして得られる炭素材は、バイオマスのみを用いて製造されるものであり、石炭を含まない。このように、炭素材はバイオマス由来であることから、カーボンニュートラルな材料として種々の用途に好適に用いることができる。炭素材の用途としては、燃料、土壌改良材(バイオチャー)、及び製鉄用PCI炭(高炉用微粉炭吹込み)等が挙げられる。
【0036】
炭素材の酸化発熱量(積算値)は、安全性を十分に高くする観点から、5kJ/kg以下であってよく、4kJ/kg以下であってよく、3kJ/kg以下であってもよい。炭素材の酸化発熱量(積算値)は、燃料としての有用性を向上する観点から、1kJ/kg以上であってよく、2kJ/kg以上であってもよい。バイオマス炭化物及び炭素材の酸化発熱量(積算値)を、それぞれH0及びH1としたとき、H1/H0は、0.1~0.5であってよく、0.2~0.4であってもよい。
【0037】
炭素材は、乾留工程を経て得られるものであることから、高い発熱量を有する。発熱量は、例えば5,000kcal/kg以上であってよく、5,500kcal/kg以上であってもよい。このような炭素材は、燃料として好適に用いることができる。本開示における発熱量は、無水ベースで測定される高位発熱量である。
【0038】
炭素材は、主成分として炭素を含有する。炭素材の炭素含有率は、発熱量を十分に高くする観点から、60重量%以上であってよく、62重量%以上であってよく、64重量%以上であってもよい。炭素材の炭素含有率は、生産性向上の観点から、80重量%以下であってよく、75重量%以下であってもよい。炭素材の炭素含有率の一例は、60~80重量%である。炭素材は、炭素以外に、酸素、窒素、水素及び硫黄を含有していてよい。炭素材の酸素含有率は、例えば、25重量%以上であってよく、30重量%以上であってよい。炭素材の酸素含有率は、発熱量を十分に高くする観点から40重量%未満であってよく、38重量%未満であってよく、36重量%未満であってもよい。
【0039】
以上、本開示の例示的な実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実験結果を参照して、本開示の内容をより詳細に説明する。
【0041】
[バイオマスの乾留工程(1)]
バイオマスとしてユーカリのチップ(粒度:10~50mm、水分量:20重量%)を準備した。このバイオマスを、電気炉を用いて、無酸素の雰囲気中において、表1に示す乾留温度で2時間加熱して、炭素含有率が互いに異なる、5種類のバイオマス炭化物を得た。乾留前のバイオマスと、各乾留温度で炭化して得られたバイオマス炭化物の工業分析及び元素分析を行うとともに、高位発熱量を測定した。工業分析は、JIS M 8812:2006「石炭類及びコークス類-工業分析方法」に準拠して行った。元素分析は、JIS M 8819:1997「石炭類及びコークス類-機器分析装置による元素分析方法」に準拠して行った。硫黄含有率は、ボンベ燃焼-イオンクロマトグラフ法で測定した。酸素含有率は、上記計算式(1)によって求めた。結果は、表1に示すとおりであった。各測定結果は、無水ベースの値である。
【0042】
【0043】
[バイオマス炭化物の自然発火性の評価]
表1に示す、炭素含有率が56.9重量%(比較例1)、61.0重量%(実施例1)、64.2重量%(実施例2)及び68.0重量%(実施例3)のバイオマス炭化物の発熱性を模擬断熱試験で評価した。模擬断熱試験は恒温槽を用いて行った。恒温槽内にサンプルとしてバイオマス炭化物(2200g)を配置し、空気流通下(25L/分)における温度の経時変化を調べた。
【0044】
この模擬断熱試験では、サンプルの温度上昇に追従するように恒温槽の設定温度を上げることによって、断熱状態を模擬的に再現した。すなわち、バイオマス炭化物をヤードに大量に積み上げて保管したときの堆積物の中心部の状態を模擬的に再現した。具体的には、恒温槽内に配置したサンプルの温度が40℃から41℃に上昇したら、恒温槽内の設定温度を40℃から41℃に変更した。同様に、サンプルの温度が41℃から42℃に上昇したら、恒温槽内の設定温度を41℃から42℃に変更した。このような操作を断続的に繰り返したときのサンプルの温度の経時変化を調べた。その結果は
図1に示すとおりであった。
図1に示すとおり、炭素含有率が61.0重量%以上である実施例1,2,3のバイオマス炭化物は、96時間以内で120℃以上に発熱した。これらは、バイオマス炭化物の温度が急激に上昇していることから、自然発火したと判断した。
【0045】
[バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)の測定]
表1のバイオマス炭化物のうち、比較例1、実施例1,2,3のバイオマス炭化物の酸化発熱量(乾燥基準)を、TG-DSC試験装置(NETZSCH製、STA449F3)を用いて測定した。測定にあたっては、各バイオマス炭化物を粉砕して10mgを秤量した。秤量した試料を上記装置のサンプルホルダーに入れて、窒素雰囲気中(窒素ガス流量:100mL/min)、3℃/分で20℃から107℃に昇温した。107℃に到達した後に、窒素ガスから空気(流量:100mL/min)に切り替えた。切り替え後、20分間(1200秒間)試料を保持し、その間の酸化発熱量を測定した。酸化発熱量の積算値の経時変化を
図2に示す。20分間経過後の酸化発熱量の積算値は表2に示すとおりであった。
【0046】
【0047】
図1、
図2及び表2に示すとおり、炭素含有率が高くなると、自然発火及び自然発熱し易くなることが確認された。
【0048】
[酸化工程(1)]
表1の炭素含有率が70.4重量%(実施例4)のバイオマス炭化物を、180℃、200℃、250℃及び260℃のそれぞれの加熱温度において酸化する酸化工程を行った。酸化工程は、電気炉を用いて、酸素濃度5体積%の条件で行った。各加熱温度で25~90分間保持して炭素材を作製した。
【0049】
[炭素材の評価(1)]
上述の酸化工程(1)で得られた各炭素材の酸化発熱量(積算値)を求めた。炭素材の酸化発熱量(積算値)は、バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)の測定方法と同じ方法で測定した。酸化工程(1)の加熱時間と酸化発熱量(積算値)の関係は、
図3に示すとおりであった。
図3の測定結果に基づいて、酸化発熱量(積算値)を5kJ/kg以下にするために必要な酸化工程における加熱時間を求めた。その結果を表3に示す。表3の備考欄には、実施例と比較例の種別を示した。
【0050】
【0051】
表3に示すとおり、酸化工程における加熱温度が180℃では、酸化発熱量(積算値)を5kJ/kg以下にするためには、酸化工程における加熱時間を90分間以上にする必要があった(比較例2)。一方、酸化工程における加熱温度を200℃以上にすることによって、酸化工程の加熱時間を60分間以下にできることが確認された(実施例4-1~4-3)。
【0052】
[酸化工程(2)]
表1の実施例2のバイオマス炭化物を酸化する酸化工程(2)を行った。この酸化工程(2)には、流動層設備を用いた。バイオマス炭化物を酸素含有ガス(200~210℃、酸素濃度:8体積%)によって流動させながら酸化させた。滞留時間は30分間とした。
【0053】
[炭素材の評価(2)]
上述の酸化工程(2)で得られた炭素材の自然発火性を評価した。この評価は、上述の「バイオマス炭化物の自然発火性の評価」と同じ手順で行った。結果は、
図4に示すとおりであった。
図1と
図4の比較から、酸化工程(2)によって自然発火性が十分に低減できることが確認された。
【0054】
この炭素材の工業分析及び元素分析を行うとともに、高位発熱量を測定した。分析方法は、「バイオマスの乾留工程(1)」におけるバイオマス炭化物の分析方法と同じとした。結果は、表4に示すとおりであった。各測定結果は、無水ベースの値である。表1の実施例2と表4の実施例2-1の結果を比べると、酸化工程(2)によって酸素含有率が高くなることが確認された。また、酸素含有率が高くなったことに伴い、炭素含有率は相対的に低くなっていた。
【0055】
【0056】
[酸化工程(3)]
表1の実施例1,2,4のバイオマス炭化物を酸化する酸化工程(3)をそれぞれ行って炭素材を調製した。酸化工程(3)は、電気炉を用いて、酸素濃度5体積%の雰囲気中、250℃で15~60分間加熱することによって行った。実施例1,2,4のバイオマス炭化物を酸化して得られる各炭素材を、それぞれ、実施例1-1,2-2,4-4とした。
【0057】
[炭素材の評価(3)]
上述の酸化工程(3)で得られた各炭素材の酸化発熱量(積算値)を求めた。酸化発熱量(乾燥基準)の測定は、バイオマス炭化物の酸化発熱量(積算値)の測定方法と同じ方法で行った。酸化工程(3)の加熱時間と酸化発熱量(積算値)の関係は、
図5に示すとおりであった。
図5の測定結果に基づいて、酸化発熱量(積算値)を5kJ/kg以下にするために必要な酸化処理の時間を求めた。その結果を表5に示す。
【0058】
【0059】
表5に示すとおり、酸化発熱量(積算値)が低減された炭素材を得るためには、バイオマス炭化物の炭素含有率が高いほど、酸化工程の加熱時間を長くする必要があることが確認された。なお、比較のため、
図5には、バイオマス炭化物の炭素含有率が56.9体積%である比較例1もプロットした。この比較例1は、酸化処理をしなくても酸化発熱量(積算値)が5kJ/kg以下であるため、酸化処理は不要である。
【0060】
[酸化工程(4)]
表1の実施例4のバイオマス炭化物を、250℃、260℃、及び300℃のそれぞれの加熱温度において酸化する酸化工程(4)をそれぞれ行って炭素材を調製した。酸化工程(4)は、TG-DSC試験装置(NETZSCH製、STA449F3)を用いて、酸素濃度7.5体積%の条件で行った。各温度で酸化工程(4)を行い、重量の経時変化を測定した。結果は、
図6に示すとおりであった。
図6に示すように、酸化工程(4)の温度が300℃以上であると、バイオマス炭化物の分解が進行し、炭素材の収率が低くなることが確認された。
【0061】
[バイオマスの乾留工程(2)]
バイオマス(木材)として、3種類のバイオマスA,B,Cを準備した。白木とは樹皮を剥いで得られた木材である。
バイオマスA:パイン(バーク)
バイオマスB:ユーカリ(白木)
バイオマスC:パイン(白木)
【0062】
バイオマスA、B、Cを、それぞれ、電気炉を用いて、無酸素の雰囲気中において、2時間加熱して、炭素含有率が互いに異なる複数種類のバイオマス炭化物を得た。乾留は、260~500℃の温度(乾留温度)でそれぞれ行った。得られた各バイオマス炭化物の元素分析を行って、炭素含有率(重量%、無水ベース)を測定した。
図7にその結果を示す。
【0063】
図7に示すように、炭素含有率が61重量%となる乾留温度には、約70℃の開きがあった。このように、乾留の進行度合いは、バイオマスの種類によって異なることが確認された。このため、炭素材の自然発火性及び自然発熱性のばらつきを抑制するためには、乾留温度及び乾留時間等の乾留条件ではなく、バイオマス炭化物の炭素含有率を指標に管理する方が好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示によれば、高い炭素含有率を有しつつも、安全性に十分に優れる炭素材及びその製造方法が提供される。
【要約】
【課題】高い炭素含有率を有しつつも、安全性に十分に優れる炭素材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】バイオマス由来の炭素材であって、炭素含有率は60重量%以上であり、空気中、107℃で20分間保持したときの酸化発熱量の積算値が5kJ/kg以下である炭素材を提供する。バイオマスから、炭素含有率が61重量%以上であるバイオマス炭化物を得る乾留工程と、酸素濃度が2~13体積%である雰囲気中、前記バイオマス炭化物を200℃以上に加熱する酸化工程と、を有する、炭素材の製造方法を提供する。
【選択図】なし