(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 18/02 20060101AFI20220620BHJP
B21J 1/06 20060101ALI20220620BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20220620BHJP
B21K 25/00 20060101ALI20220620BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220620BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
B22D18/02 H
B21J1/06 A
B21J5/00 A
B21K25/00 Z
H01F41/02 Z
H02K15/02 D
H02K15/02 H
(21)【出願番号】P 2021200529
(22)【出願日】2021-12-10
【審査請求日】2022-01-27
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-088083(JP,A)
【文献】特許第6910523(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/00-18/08
B21J 1/00-19/04
B21K 1/00-31/00
H01F 41/00-41/04
H02K 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体物の電磁鉄心を成形する方法であって、化学成分が質量%において、C0.01%以下,Si0.01%以下,Mn0.5%以下,P0.03%以下,S0.03%以下,Oが0.05%以上1.3%以下、残部が不可避不純物とFeであり、鉄の純度が99.0%以上である工業用純鉄の所定断面形状の圧延鋼材を材料とし、1回のプレス成形により所定形状の鉄心を製造するに当たり、該圧延鋼材から切り出した棒線状又は平状又は環状の素形材を
固相線温度直下の1500℃以上
及び1530℃以下
の範囲に加熱して粒界溶融状態で直ちに該鉄心のレプリカ金型内に装入し、密閉プレスすることを特徴とする一体物鉄心の製造方法。
【請求項2】
内周に多数の磁極を持つ電動機の固定子に対しては素形材の形状を円筒とし、外周に多数の磁極を持つ電動機の回転子に対しては素形材の形状を円柱とし、2極回転子鉄心又は長方形断面の鉄心に対しては素形材の形状を長方形とすることを特徴とする請求項1に記載した一体物鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料の製造方法ならびにその材料を用いて電動機、変圧器、継電器等の電磁機器に使用される鉄心の製造方法に関している。
【背景技術】
【0002】
電磁機器の鉄心は通常電磁鋼板を積層して構成される。電磁鋼板は極低炭素の珪素鋼の素材を適切な熱間圧延と熱処理により磁気的性質(透磁率の強化・残留磁気の最小化)の向上により磁気ヒステリシス損の最小化が、さらに絶縁性被膜処理により誘導損の最小化が図られている。
電磁鋼板が発明・製造されるまでは平炉によって工業用純鉄(アームコ鉄)を溶製し、該素材から鋼板に圧延後、絶縁被膜し、鉄心材料とされてきた。
【0003】
鉄心製造コストには材料としての高価格の電磁鋼板と、金型を使用して所定形状に打ち抜く加工コストと、打ち抜きに伴う材料歩留まり損が計上され、コスト低減に向かって種々の方法が開発されている。
特許文献1には、電磁鋼板よりも低価格の純鉄鉄粉を原料とし、所定形状の金型内で圧下して鉄心を構成することが記載されている。
電磁気的性能は積層電磁鋼板に劣るとしても正味稼働率が大きくない電磁機器に対してはエネルギー損は大きくはなく、総合的には有利になる。
【0004】
問題は、圧粉鉄心の事例は多数あり、1回の一体成形も可能で、コスト有利だがプレスの能力や圧下圧力の浸透性から大型部材には無理があり製造可能寸法に限界がある。
【0005】
特許文献2には、量産容易な工業用純鉄の製造方法が記載されている。本方法の場合、低炭素鋼の溶製において簡単な脱炭処理を付加するのみであって、材料費は粉体よりも一層低減される。さらに該純鉄を素材とした厚板・平鋼・棒鋼を適切な加工(切り出し、打ち抜き、冷間成形)によって一体物鉄心を製造することが示唆され、加工費低減も期待される。
圧粉鉄心同様電磁気性能が劣っても用途によっては総合コストで有利になる。なお直流機器では直流故に主鉄心にヒステリシス損・誘導損とも発生しない。
【0006】
問題点は、鉄心形状が単純で且つ寸法が大きくなければ塊状の材料から熱間又は冷間で1回のプレスにより成形することができるが、電動機の場合鉄心形状はかなり複雑であって一体成形は容易ではない。圧粉鉄心同様製造可能寸法も圧下力から制限される。個々の部材を一体成形して複数個の組立方式も考えられるが優位性が低下してくる。
【0007】
複雑な形状をもつ部材を単純な工程で成形する方法について考察する。
1)プラモデルのインジェクションプロセスでは溶融樹脂を金型内に圧入する。隅々まで容易に充填される。
2)Mg合金のチクソモールディングでは材料を半溶融し、金型へ射出成形する。ケータイのケースが製造されている。Feでは事例が見当たらない。
3)溶融金属を鋳造する。実際大型の直流電動機の固定子が鋳造により製造されたこともある。中小型の製造には能率上の問題がある。
4)既述の熱間プレスによって成形する。単純小物の量産に適するが、複雑な形状には密閉金型を使用しても隅々まで充填するには困難があり、また大型部材に対しては圧粉成形同様不均一である。
【0008】
5)成形ではないが半溶融鋼を加工する工程がある。棒線の突き合わせ溶接であって直接通電加熱により接触面が優先的に加熱され、半溶融になるとわずかな圧下力で接触部が流動・溶着し、盛り上がり、溶接がなされる。
半溶融部が塑性的に流れる際、液相部が抽出され固相部は残存する。固相部は低炭素になり、排出された液相部は高炭素になっていて機械的な偏析が発現する。当該高炭素部分を適切に除去すると伸線加工に耐えられる。
半溶融鋼の成形において上記偏析現象が発現しない加工条件が存在すると想像されるが現在見つけ出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】公開特許公報2005-197594
【文献】特許第6910523
【0010】
【文献】鉄と鋼 Vol.82 (1996) No.12, p.35~p.40 山中ら、 連鋳鋳片の内部割れ機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明は、従来の電磁鋼板を積層して構成される電磁鉄心に対して、電磁性能は多少劣るとも製造コストにおいて大幅に有利な鉄心の製造を目的とし、そのため低コストの軟磁性材料の熱間圧延素材から複雑な形状又は大寸法の鉄心を成形する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、一体物の電磁鉄心を成形する方法であって、
化学成分が質量%において、C0.01%以下,Si0.01%以下,Mn0.5%以下,P0.03%以下,S0.03%以下,Oが0.05%以上1.3%以下、残部が不可避不純物とFeであり、鉄の純度が99.0%以上である工業用純鉄の圧延鋼材を材料とし、1回のプレス成形により所定形状の鉄心を製造するに当たり、上記成分の棒線状又は平状又は環状の素形材を1500℃以上1530℃以下に加熱して粒界溶融状態で直ちに該所定形状を内包する金型内に装入し、密閉プレスすることを特徴とする一体物鉄心の製造方法である。
【0013】
第2の発明は、
1)内周に多数の磁極を持つ電動機の固定子に対しては素形材の形状を円筒とし、
2)外周に多数の磁極を持つ電動機の回転子に対しては素形材の形状を円柱とし、
3)2極回転子鉄心又は長方形断面の鉄心に対しては素形材の形状を長方形とすることを 特徴とする第1発明に記載した一体物鉄心の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の第1の効果は、使用される圧延材料は量産普通鋼と同等の原料・工程で供給され、高級・高価な電磁鋼板を必要としない。
量産圧延材から素形材(所定鉄心質量に分断された圧延材)を経由して製品に到る成形歩留まりもほぼ100%に近く、鋼板打抜きの場合よりも数10%高く、材料費は圧倒的に有利である。
【0015】
素形材自体の加工コストは圧延鋼材を切断するだけ、又は単純な加工を付しただけであり、素形材から製品への加工も低圧下力熱間プレス1回であり、打抜き・積層よりも有利である。
【0016】
軟磁性材料として、本発明の工業用純鉄と電磁鋼板との磁気的性質を比較すると、前者は透磁率・残留磁化とも多少劣るが決定的ではない。本発明の特徴である超高温熱間加工が結晶粒を粗大化させ上記両性質を改良している。
電磁的性質である渦流起因の誘導損は致し方ないが、誘導損がある程度許容される用途には実用することができる。
【0017】
直流電動機では通常固定子側は磁極が固定していてヒステリシス損及び誘導損は発生しない。回転子は固定磁場の中で運動するので誘導損が生ずる。
自動車には中小型の直流電動機が多数使用されている。稼働率は小さい。消費エネルギーが少ないので誘導損を無視しても差し支えない。本願発明の鉄心は実用に耐える。
【0018】
鉄心を成形するプレスの必要圧下力は、加工温度が熱間であることから冷間プレスの数分の1であり、さらに融点直下の加工であるから通常の熱間変形抵抗よりも一層低い。寸法の大きい中型鉄心も容易に製造することができる。単純な形状では大型鉄心の製造も容易である。
【0019】
適用される鋼種は高酸素鉄であって耐食性に優れる。海水中においても黒錆化(表面にマグネタイト層を形成)し、耐食性に優れ、水中使用に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】円筒状素形材を密閉金型に装入し、プレスして多極固定子鉄心を成形する方法を示す。A図は上から見た図、Bは縦断面図である。
【
図3】円柱状素形材を密閉金型に装入し、プレスして多極回転子鉄心を成形する方法を示す。A図は上から見た図、Bは縦断面図である。
【
図4】Fe-C系状態図において、凝固開始からの冷却時において抗張力が発現する温度(ZST)、伸びが発現する温度(ZDT)を示す。
【
図5】突合せ溶接器を使用する超高温加工の実験方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の固定子鉄心成形方法を実施する装置と作業方法を
図1に従って説明する。
密閉プレスするための外金型1は有底円筒状の内壁2を持つ。該内壁2は目的とする固定子6の外周となる。3は同心円柱状の中子であり、下部は円柱であるが上部には円柱壁面から内側へ磁極4を形成する溝5が設けられている。該該溝5の形状は固定子6(図中白抜き部分の形状)と同等になっている。
【0022】
固定子6と同一体積を持つ所定成分の円筒状の素形材7は事前に1500℃以上に加熱され、外金型1と中子3との間隙に形成された環状空間8に装入される。該環状空間8の底には環状の下金型9、上方には上金型10が設けられており、装入後上金型10が押し下げられ環状空間8の上面を閉じる。次いで下金型9が外金型1の底を貫通するピストン11によって押し上げられ、素形材7は密閉空間の中で押し込められて溝5に流入し、固定子6が形成される。次いで上金型10が退避し、下金型9は一層押上げ、固定子6を外金型1から取り出す。
【0023】
図2に従って円筒状素形材の準備方法を説明する。図中Aは適切な寸法の管材である。
Bは板材を巻き付けて管状に形成したものである。Cは棒線をコイル状に巻き付けて管状に形成したものである。後2者の場合、固定子鉄心への加工中に鍛接が進み一体となって管材と同様に使用することができる。
【0024】
図3に従って回転子鉄心を成形する方法を説明する。21は密閉プレスするための外金型であり、該外金型21の内側に目的とする回転子22と同一形状のレプリカ空間23(図中黒色部)が鋳造における砂鋳型のように彫り込まれている。該レプリカ空間23の下方には該空間と同軸に有底円筒状の装入空間24が設けられている。
【0025】
回転子空間と同一体積を持つ円柱状の素形材25は事前に1500℃以上に加熱され、装入空間24に装入される。該装入空間24の底には円盤状の下金型26、上方には円盤状の上金型27が設けられおり、装入後上金型27が押し下げられレプリカ空間23の上面を閉じる。次いで下金型26が外金型21の底を貫通するピストン28によって押し上げられ、素形材25は密閉空間の中で押し込められて磁極となる溝部に流入し、回転子22が形成される。次いで上金型27を退避し、下金型26を一層押上げ、回転子22を外金型21から取り出す。
【0026】
鉄心材料について説明する。
軟磁性材としてふさわしい条件は透磁率が大きいこと、残留磁化(保持力)が小さいこと、電気抵抗が大きいことである。前2者は磁気ヒステリシス損を、後者は誘導損を低減する。絶縁性被膜を持つ極低炭素高珪素鋼の電磁鋼板を使用する積層鉄心は最良である。磁気的性質の改良のため成分だけでなく結晶粒制御、電気的性質の改良のため絶縁被膜が付加されている。
【0027】
上記鋼種が発明されるまではアームコ鉄と称する純鉄が鉄心材料として使用されていた。
本発明はその流れを引き継ぐ。上記鋼種の磁気的性質を純鉄と比較すると透磁率・残留磁化とも大差が無い。直流磁化ではヒステリシス損自体が発生しない。低稼働率の電磁機器では純鉄でも充分対応可能である。
本願発明では引用文献2に記載された鋼種を使用する。化学成分は質量%において、
Cは0.01%以下、Oは0.05%以上0.13%以下、Siは0.01%以下、Mnは0.5%以下、P及びSは0.03%以下、残部は不可避不純物とFeであり、Fe純度は99.0%以上とする。
本鋼種の特徴は、磁性特性だけでなく、Oの作用として腐蝕環境にあっても黒錆(マグネタイト)を形成して、以後の腐蝕を抑制することである。錆にくい鉄心となる。
【0028】
加工温度について説明する。
通常の熱間鍛造や熱間プレスでは、多数の磁極を持つ固定子や回転子の一体物成形は困難であり、また寸法が大きいほど困難である。過大な加圧力を以てしても塑性流れが狭い空間に行き渡らない。
既述のように半溶融であれば密閉鋳型に圧入することができる。また線材の連結溶接も容易である。それぞれ熱間加工よりも遙かに小さい加圧力でなされる。
【0029】
半溶融圧入方式の問題点を説明する。炭素鋼では液相線、固相線の間の温度で半溶融状態になる。当該状態で加圧すると容易に変形するが、低炭素の固相はほとんど移動せず、高炭素の液相が優先して流れ、機械的偏析が発生する。レモンを搾るようである。両相が均質状態で流れる理論的条件があるかも知れないが研究例が無い。鋼では半溶融圧入成形の事例が見当たらない理由となっている。
【0030】
本発明の成分ではほぼ純鉄であるから、
1)液相線・固相線間の温度幅は極めて狭い。
2)両相の成分差は極めて小さい。
従って偏析現象は縮小することができても作業温度範囲が狭く、応用困難とされる。
【0031】
引用文献3には、鋼の連続鋳造工程においてワレを防止するため、凝固過程における引張強さと伸びの挙動が詳細に研究されている。それによると、
1) 冷却途上において液相線・固相線間では引張強さも伸びも無く、引張作用は容易にワレを誘発する。
2) 凝固完了に近づくと伸びは無いが熱間強度に近い引張強さが発現する。当該温度をZST(Zero-Strength Temperature)とする。固相線温度よりも低い。
3) さらに冷却すると伸びも生ずる。当温度をZDT(Zero-Ductile Temperature)とする。
4) 両温度間で限界歪み(かなり小さい)を超えるとワレが発生する。限界歪みは実験から明確になった。
5) ZDT以下では熱間加工が可能である。
【0032】
図4は上記文献に記されたデータを正確に引用し、ZST,ZDTをFe-C系状態図に重ねたものである。ZST(固相率0.8)ZDT(同0.99)の両線とも固相線の下方(低温側)に位置し、C量に対応して適正又は不適正な加工(歪み)領域が解る。
またZSTと固相線間は形状を保っていても強度も伸びも無いことが解る。
【0033】
上記研究により冷却過程における強度と延伸性の発現については解明された。加熱過程では同等ではないにしても同様の現象が生ずると推測される。熱間加工では温度・時間とも過剰加熱領域に入ると、表面にワレが発生し易くなることは周知であり、粒界溶融に起因するとされている。
【0034】
伸びが無くても塑性加工は可能である。粘土の引張試験では容易に引きちぎれ、伸びが小さいことが解る。粘土の圧下ではワレを発生しながら容易に塑性流れとなり、一部は圧接してワレが消滅する。
ZST,ZDT間での塑性加工ではワレが併発するが加工は可能である。強度が発現しているので通常の熱間加工に近い変形抵抗を示すのでそれに抗する圧下力が必要となる。
文献では検討されていないがZST以上の加工では強度も伸びも無いのでワレは考慮外として、低圧下力で変形させることが可能と合理的に推測される。
【0035】
本願発明に使用される材料である工業用純鉄は、融点・液相線温度・固相線温度が接近している。しかるに後述の低炭素鋼で発生した低変形抵抗の塑性変形は液相・固相の共存又は粒界が液相、粒内が固相の状態と推定される。一面では砂の流動化状態に類似すると想像される。
本願発明では当該状態を応用し、加工が不適切とされているZSTの上方(高温側)において塑性加工することを主旨としている。
ZSTは固相線直下にあり、純鉄の場合はは約1500℃である。該温度はC量,不純物P,S,不可避不純物等の残存量の影響を受ける。
【0036】
本願発明の加工温度の下限について説明する。
適切な加工温度はZST以上である。ZSTは
図3から解るように固相線の約20℃下方にある。本願発明の鋼種の固相線は融点下方約20℃にある。従って融点下方約40℃と見なされる。
当該鋼種の固相線温度を概算する。Fe2元系合金の状態図から、融点降下は、
0.01%Cにより-4℃、0.5%Mnにより-3℃、0.03%Pにより-3℃、
0.03%Sにより-24℃、合算すると-34℃になる。即ち固相線温度は約1500℃となる。実際は影響が突出しているSはMnと結合し、作用の減殺がなされ、1510~1520℃と推定される。ZSTは1490~1500℃と推定される。これが特定温度として1500℃以上とした根拠である。
【0037】
上限温度は当然融点以下になる。融点を超えると単なる鋳造になる。融点は不純物量に依存し、約1530℃と算出される。
【0038】
当然加工時にワレが容易に発生するが純鉄故にさらに粒界溶融故に接合も容易であり、加工中にワレと接合が併行する。接合の筋目が残存しても製品の性格上問題とはならない。
低変形抵抗であるから通常の熱間加工機(圧延機・鍛造・プレス)に比較して低動力で加工され、塑性流れは金型内の隅々まで容易に浸透する。
【実施例】
【0039】
純鉄に近い低炭素鋼を代用し、加熱して固相線温度に接近すると熱間加工よりも低応力で容易に変形するかどうかの確認試験を行った。
鋼種は炭酸ガス溶接棒で、0.05%C、1.5%Si,1.0%Mn,0.01%P,0.01%Sである。各元素1%当たりの融点降下は、400℃、6℃、7℃、100℃、
800℃である。Sが最大要因となるがMnとの共存でほぼ無視される。当該鋼種の融点降下は約30℃になる。固相線温度は約1500℃と推定される。
本願発明の鋼種では0.01%Cが大きく作用し、降下は約10℃になる。固相線温度は1520~1530℃であろう。ZSTは固相線温度から約20℃低位にあるから、約1500℃以上で強度・伸びとも消滅すると推測される。実験鋼種ではそれ以下で軟化が生ずると推測される。
【0040】
既述の線材突き合わせ溶接を使用して低応力変形の可能性を再度検討した。
図5に示すように、溶接機は電源51と、二つの電極クランプ52,53と、該クランプの片側を他極のクランプ側に押しつける加圧装置54とから成る。突き合わせ溶接では通電により突き合わ部が急速に昇温し、部分溶融し、加圧による塑性流れを経て溶接されることが観察される。部分溶融しているので必要加圧力は大きくない。通常の空圧シリンダーで対処可能である。
上記鋼種の1本の線材55をクランプして通電すると突き合わせ同様、中央部が優先して昇温し、溶融落下せずバルジ56が発生した。バルジ56の外周にタテワレ(線軸方向)が生ずることもあった。実験鋼種に近い発明鋼種でもほぼ同様の挙動を示すものと見なせる。そうならない要因が見つからないからである。
ここで重要なことは、塑性流れが生ずる圧下力(=空圧シリンダーの加圧力)は通常の熱間変形抵抗と断面積との積に比較して圧倒的に小さいことである。本発明の低応力・高歪み加工の可能性が裏付けられる。
上記実験はMg合金のチクソモールディングとか非鉄合金の溶融鍛造法に似た現象と言える。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明の鉄心の製造方法は低コストで容易に実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
1;外金型 2;内壁 3;中子 4;磁極 5;溝 6;固定子 7;素形材 8:環状空間 9:下金型 10;上金型 11;ピストン 21;外金型 22;回転子 23;レプリカ空間 24;装入空間 25;素形材 26;下金型 27;上金型 51;電源 52、53;電極クランプ 54;加圧装置 55;線材 56;バルジ
【要約】
【課題】 電磁鉄心の経済的製造方法を提供する。
【解決手段】 適用鋼種は量産容易な工業用純鉄とし、鉄心形状に対応して材料の圧延鋼材の形状を設定し、該圧延鋼材から鉄心と同等質量の素形材を切り出し、該素形材を1500℃以上1530℃以下に加熱して直ちに鉄心レプリカの金型に装入して密閉プレスする。1種の熱間加工であるが粒界が溶融していて低圧下力で金型の狭い空間まで圧入され所定形状の鉄心が成形される。一体物であるから誘導損は生ずるが磁気ヒステリシス損は高級電磁鋼板と大差ない。
【選択図】
図1