IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルケマ フランスの特許一覧

特許7091565分割壁カラムを用いて(メタ)アクリル酸エステルを精製する方法
<>
  • 特許-分割壁カラムを用いて(メタ)アクリル酸エステルを精製する方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-17
(45)【発行日】2022-06-27
(54)【発明の名称】分割壁カラムを用いて(メタ)アクリル酸エステルを精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/54 20060101AFI20220620BHJP
   C07C 67/62 20060101ALI20220620BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20220620BHJP
   B01D 3/14 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C07C67/54
C07C67/62
C07C69/54 Z
B01D3/14 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021542382
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 FR2020050075
(87)【国際公開番号】W WO2020152415
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】1900541
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トレチャク,セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】カボン,イブ
(72)【発明者】
【氏名】ルブレ,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】イルペール,カミーユ
(72)【発明者】
【氏名】モルリエール,アンヌ
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-057703(JP,A)
【文献】特開2005-239564(JP,A)
【文献】特表2015-508053(JP,A)
【文献】特開2002-322133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/54
C07C 67/62
C07C 69/54
B01D 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な酸触媒の存在下で、(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化により得られる粗反応混合物から、精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収する方法であって、
前記方法は、分割壁カラムを含む精製システムを用いて実施されることを特徴とし、
前記カラムは分離壁を備え、該分離壁は、上部においてカラムの頂部ドームに連結されず、下部においてカラムの底部に連結され、並びに
前記カラムは、頂部で単一の凝縮器と結合し、及び、底部で2つのボイラーと結合し、
前記分割壁カラムが、該分離壁より上に共通の精留区域、カラムの供給部を有するプレ分画区域、及び該分離壁により該プレ分画区域から分離され、かつ精製されたエステルの回収部を有する回収区域を含み、
精製された(メタ)アクリル酸エステルの流れが、前記回収区域の底部回収部より上に位置する地点で、回収区域から側流として回収される、
方法。
【請求項2】
気体流が前記精留区域の頂部で抽出され、凝縮後、少なくとも部分的にエステル化反応器に再利用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流れが前記プレ分画区域の底部で回収され、少なくとも部分的にエステル化反応器に再利用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
流れが前記回収区域の底部で回収され、少なくとも部分的に、分割壁カラムのプレ分画区域に再利用されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
粗反応混合物を予め塩基で中和した後、精製前にデカンテーションし、有機相を洗浄することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
精製システムが、頂部の凝縮器で注入される単一の重合阻害剤を用いて安定化され、精製された(メタ)アクリル酸エステルが、既に安定化された液体流又は気体流の形態で、分割壁カラムから側流として回収されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製システムが、頂部の凝縮器で注入される、第1の重合阻害剤を用いて安定化され、精製された(メタ)アクリル酸エステルが、気体流の形態で、分割壁カラムから側流として回収され、該気体流は続いて、凝縮後、第1の阻害剤とは異なる重合阻害剤で安定化されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレ分画区域の理論段階の数が、1~15であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記回収区域の理論段階の数が、2~15であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記精留区域の理論段階の数が、5~15であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、2-エチルヘキシルアクリレート又は2-オクチルアクリレートであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化により高純度のC~C12(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、粗反応混合物が、請求項1~11のいずれか一項に記載の精製システムを用いる回収方法に供されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化により得られる粗反応混合物から、精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収する精製システムの使用であって、
前記精製システムは、分割壁カラムを含み、
前記カラムは分離壁を備え、該分離壁は、上部においてカラムの頂部ドームに連結されず、下部においてカラムの底部に連結され、並びに、
前記カラムは、頂部で単一の凝縮器と結合し、及び、底部で2つのボイラーと結合し、
前記分割壁カラムが、該分離壁より上に共通の精留区域、カラムの供給部を有するプレ分画区域、及び該分離壁により該プレ分画区域から分離され、かつ精製されたエステルの回収部を有する回収区域を含み、
精製された(メタ)アクリル酸エステルの流れが、前記回収区域の底部回収部より上に位置する地点で、回収区域から側流として回収される、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接エステル化による方法に従う(メタ)アクリル酸エステルの製造に関し、特に特定の構成で使用される分割壁カラムを使用するC~C12(メタ)アクリル酸エステルを含む粗反応混合物の精製に関する。
【0002】
この構成は、精製方法の簡素化につながり、求められる生成物の精製中に生じやすい重質副生成物の逆分解反応とは無関係に、非常に高い純度の生成物を保証する。
【0003】
本発明はまた、この回収/精製方法を含むC~C12(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
~C12(メタ)アクリル酸エステルは(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化反応によって合成することができる。この反応は一般に、均一触媒、特に硫酸やパラトルエンスルホン酸のような酸触媒の存在下で実施される。
【0005】
エステル化は、水の生成を伴う平衡反応であり、平衡を(メタ)アクリル酸エステルの製造に向かってシフトさせるための水の除去は、過剰のエステル化アルコールを使用して共沸混合物の形態で行うことができる。
【0006】
合成中の副反応は不純物、一般には沸点の高い副生成物、又は求められるエステルの沸点に近いものを、一般にマイケル付加物とよばれる化合物の形態で作る。その最終使用に関連する技術的要件を満たす高純度の(メタ)アクリル酸エステルを得るためには、これらの化合物を除去する必要がある。
【0007】
これらの目的のために、一連の蒸留、抽出及び/又はデカンテーションを含む分離/精製処理が実施される。これらは、一般にエネルギー、収量及び当然のことながら投資及び工場の建設コストの観点から費用のかかる作業である。
【0008】
特に共沸混合物の存在のために、またそれのみならず精製される反応媒体中に均一触媒(一般に酸)が存在するために、精製操作を実施することは手間がかかる。例えば、硫酸との触媒反応の場合、エステル化反応によって、求められるエステル、残留反応物であるアルコール及び酸、並びにアルキル水素硫酸塩の形態の硫酸を含む反応混合物が生成される。次いで、この反応混合物を、例えば文献EP609127号及びEP1247793号に記載されているように、例えば、塩基の水溶液の添加により中和させ、続いてデカンテーション後に分離される水相及び有機相の処理に付す。しかし、不完全な中和又は分離された有機相が不完全に洗浄される場合、残留酸性度は、形成されたアクリル酸エステルの分解又は有機相の精製工程中のマイケル付加物の分解の問題を引き起こす可能性がある。このような条件下では、(メタ)アクリル酸エステルの高純度を達成することは難しくなる。
【0009】
米国特許第6,320,070号では、硫酸によって触媒される直接エステル化による(メタ)アクリル酸エステルの合成の操作条件を記載しており、マイケル付加物の生成を最小限に抑え、反応に再導入される触媒に濃縮された水相の抽出を含む。しかし、本文献では、精製工程に供された混合物中に残留酸性度が存在する可能性に関する問題については言及されていない。
【0010】
一般に、これらの先行技術文献は、硫酸などの均一触媒の存在下での直接エステル化方法において、分離及び苛性ソーダなどの塩基による事前の中和、デカンテーション、続いてトッピングカラム(軽質化合物の蒸留)及びテーリングカラム(重質化合物の分離)を使用する精製前の有機相の洗浄を組み合わせる。いずれの場合も、このようにして実施した精製は、経済的な条件下で、かつ高い回収率で高純度の最終生成物を得ることを可能にしない。
【0011】
分割壁カラム(DWC-dividing wall columnという頭文字で知られている)の開発に伴い、現在、単純化した精製処理が提案されている。この技術は、リボイラー及び単一の凝縮器を用いることにより、従来直列の2本のカラムの操作を単品の装置において組み合わせることを可能にする内部分離壁を含む蒸留カラムに基づく。
【0012】
例を挙げると、特許出願EP2659943号は、高純度の2-エチルヘキシルアクリレートの製造方法における分割壁カラムの構成及びその操作を記載している。このカラムを製造し、操作することは手間がかかるが、2つの蒸留カラムを含む従来のプラントと比較して、装置コスト及び精製処理のエネルギー消費を削減する利点を示す。この文献に記載されている精製処理は、触媒の事前の分離に関連する問題(その存在が残ることは分割壁カラムにおいて逆行反応を引き起こす可能性がある。)については言及していない。また、その満足のいく操作に必要な安定化の問題は話題にされていない。
【0013】
JP2005-239564号にも、メチルメタクリレートとブタノールとの間のエステル交換反応によるブチルメタクリレートの合成の場合に例示されている(メタ)アクリル酸エステルの合成方法における分割壁カラムの使用が記載されている。この方法において、側流回収における安定剤の液滴の混入を防止し、精製された生成物中の安定剤の量を制御するために、ミスト除去器を分割壁カラムに結合させる。分割壁カラムにより、重質生成物及びより軽い生成物から目標とするエステルの分離を行うことが可能になる。この文献に記載されている精製処理は、直接エステル化によるC~Cアルキル(メタ)アクリレートの製造に適用可能である。しかし、エステルが逆行反応に敏感である場合、特に分割壁カラム中の触媒の存在が、側流として回収された、精製された生成物を汚染する化合物の形成をもたらす分解反応を引き起こす危険性がある場合、前記精製処理は触媒の事前の分離の問題を解決するものではない。
【0014】
文献WO2018/114429号では、2-エチルヘキシルアクリレート又は2-プロピルヘプチルアクリレートの精製には、単一のリボイラーに接続された共通の下部を含む分割壁カラムが用いられている。ここでも、この種の構成は、このカラムのボイラー中に生じやすく、エステル化アルコールのような軽質不純物を発生させ、その結果、最終生成物の純度に影響を及ぼす逆分解反応の問題を提起しない。
【0015】
一般に、分割壁カラムの技術は知られており、例えば、Asprion N.ら、「Dividing wall columns: Fundamentals and recent advances」、Chemical Engineering and Processing、49巻(2010)、p.139~146、又はDejanovic I.ら、「Dividing wall column - A breakthrough towards sustainable distilling」、Chemical Engineering and Processing、49巻(2010)、p.559~580に記載されている。
【0016】
しかし、記載されている異なる構成は、予想されるエネルギー利得のみに関するものであり、この先行技術全体は、特に精製される媒体がマイケル付加物及び硫酸などの酸触媒を含む場合、均一に触媒作用を及ぼされるエステル化反応に起因する粗(メタ)アクリル反応混合物の精製に適した構成の種類を示唆することは一度もない。
【0017】
精製処理中に必然的に発生する重質副生成物の逆分解反応とは無関係に、非常に高い純度の生成物を得るために、2-エチルヘキシルアクリレート又は2-オクチルアクリレートなどのC~C12(メタ)アクリル酸エステルの精製を改善する必要性が依然として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】欧州特許出願公開第609127号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1247793号明細書
【文献】米国特許第6,320,070号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2659943号明細書
【文献】特開2005-239564号公報
【文献】国際公開第2018/114429号
【非特許文献】
【0019】
【文献】Asprion N.ら、「Dividing wall columns: Fundamentals and recent advances」、Chemical Engineering and Processing、49巻(2010)、p.139~146、
【文献】Dejanovic I.ら、「Dividing wall column - A breakthrough towards sustainable distilling」、Chemical Engineering and Processing、49巻(2010)、p.559~580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、特定の構成で使用される分割壁カラムを含む精製システムを使用して精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収するための方法を提供することによって、この必要性を満たす。これにより、カラム中の残留触媒の存在下での逆行反応によって生じる完成品のエステルの汚染のリスクを回避することを可能にする。
【0021】
このように本発明は、投資コスト及びプラントに使用するエネルギーを最適化すると同時に、(メタ)アクリル酸と対応するアルコールとの直接エステル化反応から得られる粗反応混合物から、高純度のC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収するための単純な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の1つの主題は、(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化により得られる粗反応混合物から、精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収する方法であって、この方法は、分割壁カラムを含む精製システムを用いて実施されることを特徴とし、前記カラムは分離壁を備え、該分離壁は、上部においてカラムの頂部ドームに連結されず、下部においてカラムの底部に連結され、並びに該カラムは、頂部で単一の凝縮器と結合し、及び底部で2つのボイラーと結合し、前記分割壁カラムが、該分離壁より上に共通の精留区域、カラムの供給部を有するプレ分画区域、及び該分離壁により該プレ分画区域から分離され、かつ精製されたエステルの回収部を有する回収区域を含む。
【0023】
1つの実施形態によれば、気体流は、精留区域の頂部で抽出され、凝縮後、少なくとも部分的にエステル化反応器に再利用される。
【0024】
1つの実施形態によれば、流れはプレ分画区域の底部で回収され、少なくとも部分的にエステル化反応器に再利用される。
【0025】
1つの実施形態によれば、流れは、回収区域の底部で回収され、少なくとも部分的に、分割壁カラムのプレ分画区域に再利用される。
【0026】
1つの実施形態によれば、精製された(メタ)アクリル酸エステルの流れは、前記回収区域の底の回収部より上に位置する地点で、回収区域から側流として回収される。
【0027】
1つの実施形態によれば、直接エステル化反応は、均一触媒、特に硫酸又はパラトルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下で行われる。
【0028】
1つの実施形態によれば、粗反応混合物は、精製前に、予め塩基で中和させ、続いてデカンテーション及び有機相の洗浄に供される。
【0029】
1つの実施形態によれば、精製された(メタ)アクリル酸エステルを回収するための方法に供される粗反応混合物は、エステル化反応に使用される触媒を少なくとも部分的に含む。
【0030】
1つの実施形態によれば、精製システムは、好ましくは頂部の凝縮器で注入される単一の重合阻害剤を用いて安定化され、精製された(メタ)アクリル酸エステルは、既に安定化された液体流又は気体流の形態で分割壁カラムから側流として回収される。
【0031】
1つの実施形態によれば、精製システムは、好ましくは頂部の凝縮器で注入される第1の重合阻害剤を使用して安定化され、精製された(メタ)アクリル酸エステルは、気体流の形態で分割壁カラムから側流として回収され、該気体流は、凝縮後、続いて、第1の阻害剤とは異なる重合阻害剤で安定化される。
【0032】
本発明によれば、求められるエステルを安定化するために使用される重合阻害剤を、単一の重合阻害剤として精製システムに導入することができ、この結果、安定化はより単純で着実である。あるいは、より安価な重合阻害剤を用いて分割壁カラムを安定化させることができ、精製されたエステルを、続いて、そのその後の貯蔵及び使用の目的のために、最終生成物を安定化させるのにより適した別の化合物で安定化させる。この場合、重合阻害剤に関連するコストを大幅に削減することができる。
【0033】
本発明によれば、エステル化アルコールは第一級又は第二級脂肪族アルコールであり、4~12個の炭素原子、好ましくは5~10個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル鎖を有する。
【0034】
アルコールの例として、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール又は2-プロピルヘプタノールを挙げることができる。好ましくは、アルコールは2-エチルヘキサノールである。
【0035】
「(メタ)アクリル」という用語はアクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」という用語はアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0036】
(メタ)アクリル酸はアクリル酸であることが好ましい。
【0037】
好ましい実施形態によれば、精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルは、精製されたC~C12アクリレートであり、より優先的には2-エチルヘキシルアクリレート又は2-オクチルアクリレートである。
【0038】
本発明による回収方法は、少なくとも2つの分離カラムを含む従来のプラントで得られるものよりも高い純度を有するC~C12(メタ)アクリレートをもたらし、これは、精製される媒体中に存在する感熱性化合物の熱分解を最小限にする分割壁カラムの操作条件により、より経済的なエネルギー条件下での場合である。
【0039】
本発明の別の主題は、(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化によって得られる粗反応混合物から、精製されたC~C12(メタ)アクリル酸エステルを回収するための精製システムの使用であって、この精製システムは分離割カラムを含み、前記カラムは分離壁を備え、該分離壁は、上部においてカラムの頂部ドームに連結されず、下部においてカラムの底部に連結され、並びに、前記カラムは、頂部で単一の凝縮器と結合し、及び、底部で2つのボイラーと結合し、前記分割壁カラムが、該分離壁より上に共通の精留区域、カラムの供給部を有するプレ分画区域、及び該分離壁により該プレ分画区域から分離され、かつ精製されたエステルの回収部を有する回収区域を含む。
【0040】
本発明の別の主題は、(メタ)アクリル酸と対応するC~C12アルコールとの直接エステル化による高純度のC~C12(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、粗反応混合物が、上で定義された精製システムを使用する回収処理に供されることを特徴とする方法である。
【0041】
したがって、本発明は、経済的条件下で(メタ)アクリル酸エステルの純度に関して所望の仕様、すなわち99.6%を超える純度、実際には99.8%を超えることさえある純度を達成することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】単一の図は、本発明による方法で使用することができる分割壁カラムを含む精製システムの構成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明を、これから以下の記述において、より詳細に、非限定的な方法で説明する。
【0044】
図を参照すると、本発明による方法で使用される分割壁カラムは、カラム内部に配置された部分垂直壁(又は分割壁)Pを含み、これにより3つの異なるゾーン、すなわち、精留区域と表される上部ゾーン、分割壁の両側に2つのゾーンを含み、カラムの底部まで伸びる中央ゾーンを規定する。
【0045】
1つの実施形態によれば、壁は部分的に傾いていてもよい。壁は平坦であっても円筒状(したがって壁によって分離された空間を同心円状に形成することができる)であってもよい。
【0046】
設置されたような壁は、必ずしも中央ゾーンを2つの等しいゾーンに分離するわけではない。これは、カラム内を循環する流れの性質又は強度に応じて、ヘッドの損失又は閉塞の傾向を最小化するために、不均等なゾーンを有することがいくつかの実施形態において有利である場合があるためである。
【0047】
壁の高さは、カラムの高さの30%~70%に相当することができる。
【0048】
中央ゾーンは壁の両側にある2つのゾーンからなり、一方は「プレ分画」区域、もう一方は純粋な生成物の回収区域である。
【0049】
本発明の説明を続ける上で単純化するために、「プレ分画区域」とは、精製される(メタ)アクリル酸エステルの流れによって供給される分割壁カラムの区域を意味し、壁の片側でのみ供給が行われることを意味し、「回収区域」とは、精製された(メタ)アクリル酸エステルの流れが側流として抽出される分離壁の反対側のカラムの区域を意味すると理解される。
【0050】
ボイラーB1と結合したプレ分画区域はカラムの供給部Fを含み、供給部の上の区域S1及び供給部の下の区域S2を分離する。プレ分画区域は、カラムの頂部において軽質化合物として知られる最も揮発性の高い生成物を濃縮し、カラムの底部において重質化合物として知られる最も揮発性の低い生成物を濃縮する効果を有する。特に、ボイラーB1と結合したこのプレ分画区域では、重合阻害剤の大部分、及び重質不純物もこの区域の底部で認められる。このプレ分画底部生成物は、任意にフィルム蒸発器を通過した後、エステル化反応器にその全部又は一部を再利用することにより再使用することができる。
【0051】
1つの実施形態によれば、供給部はプレ分画区域の下半分に位置し、好ましくは下3分の1において、例えば、プレート4でS1+S2を含む。
【0052】
回収区域は、精製されたエステルSを回収するための側部出口を含み、側部出口は回収区域を2つの区域S4及びS5に分離する。精製されたエステルの回収は、液体流又は気体流の形態で実施することができ、好ましくは気体流が回収される。この区域では、軽質化合物、及びエステルもカラムの頂部に送られ、重質化合物はカラムの底部に送られる。本質的に重質化合物及び重合阻害剤及び少量の生成されたエステルを含む底部流は、ボイラーB2と結合した回収区域から回収され、有利には、好ましくは供給部F、又は供給部より上又は下に位置する地点で、少なくとも部分的にプレ分画区域に再利用される。回収区域からの底部生成物の任意の再利用は、(メタ)アクリル酸エステルの損失を最小限に抑えることを可能にする。
【0053】
1つの実施形態によれば、側流の回収地点は、回収区域の下半分、好ましくは下4分の1に位置する。
【0054】
精留区域S3として知られる共通のゾーンが、分割壁カラムの上部の分割壁より上に見いだされる。この区域により軽質化合物を分離することが可能になり、軽質化合物は抽出され、少なくとも部分的には、カラムと結合した冷却器C中で凝縮される。この凝縮された生成物は部分的に区域S3へ還流として戻されるが、残りの部分は、主に未反応の反応物及び少量の形成されたエステルからなるので、少なくとも部分的に反応器の入口に送られるのが有利である。
【0055】
プレ分画区域及び回収区域上の液体還流(図示しない)は、精留区域の底部からプレ分画区域及び回収区域への液体の制御された分布を可能にする収集手段によって提供される。
【0056】
区域S1に戻る液体の質量分率は一般に20~50%である。
【0057】
同様にボイラーB2を含む回収区域の底部生成物は、分割壁カラムの供給部に再利用されることが有利であり、したがってこの回収区域の底部におけるエステル損失を再利用し、最小化することが可能となる。
【0058】
ある数のパラメータが分割壁カラムの設計及び操作を特徴づける。それらは、主として、分割壁カラムの各区域における理論段階の数、特に、上述の各区域S1~S5までの各段階の数にそれぞれ対応する番号N1、N2、N3、N4及びN5、カラムの還流比、壁の各側の精留区域から生じる液体流の比、分離壁の各側のリボイリング区域から生じる気体流の比、供給点F又は純粋な生成物の側流回収点Sの位置付けに関する。
【0059】
これらの異なるパラメータは、当業者に知られた方法から決定することができ、その結果、所望の仕様を満たす純度で(メタ)アクリル酸エステルが製造される。
【0060】
各区域で必要な理論段階の数を得るために、分割壁カラム及び存在する内部が選択される。内部として、プレート、構造化パッキングのような積層パッキング、又はランダムなパッキングを使用することが可能である。
【0061】
1つの実施形態によると、プレ分画区域S1+S2の理論段階の数は1~15であり、カラムの供給部は、好ましくはこの区域の最後の下約3分の1に配置される。
【0062】
1つの実施形態によれば、回収区域S4+S5の理論段数は2~15であり、精製されたエステルの回収地点は、好ましくは、この区域の最後の下4分の1に配置される。
【0063】
1つの実施形態によれば、精留区域S3の理論段階の数は5~15である。
【0064】
カラムは、カラム内の感熱性化合物の熱曝露を最小限にするために、真空下で操作することができる。有利には、カラムは10~100mmHgの範囲の真空下で操作される。
【0065】
有利には、操作温度は50~160℃である。
【0066】
カラムに使用される内部は、降水管を有するバルブトレイ若しくは穿孔トレイ、又はデュアルフロートレイ、リップルトレイ、ターボグリッドシェルなどの逆流トレイ、又はSulzer製Mellapack 250Xなどの構造化パッキングなどの積層パッキングであることができる。
【0067】
本発明による方法は、特に文献EP609127号及びEP1247793号に記載されている方法に従って、既知の直接エステル化方法に従って得られた粗反応混合物から、99.6%超、好ましくは99.8%超の純度の(メタ)アクリル酸エステルを回収することを目的としている。
【0068】
エステル化反応の条件は、当業者に知られているものであり、連続的、半連続的又はバッチ式の方法に従って、好ましくは連続的な方法に従って実施することができる。
【0069】
一般に使用されるエステル化触媒は均一触媒であり、最も頻繁には均一な酸触媒、例えば、メタンスルホン酸、パラ-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、キシレンスルホン酸、若しくはこれらの混合物などの有機スルホン酸、又は硫酸が用いられる。好ましくは硫酸が用いられる。
【0070】
反応混合物は、求められるエステル、残留反応物、すなわち、アルコール及び酸、(軽質化合物)、並びに硫酸触媒反応の場合にはアルキル水素硫酸塩の形態の硫酸、並びに副反応において形成される重質化合物を含む。
【0071】
重質化合物はマイケル付加反応に由来する(マイケル付加物)。2-エチルヘキシルアクリレートの合成の場合、重質化合物は、特に2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルプロピオネート(OOP)、2-エチルヘキシルβ-ヒドロキシプロピオネート又は2-エチルヘキシルプロポキシプロピオネート、及び沸点の高い他の生成物に関する。
【0072】
エステル化反応器中で形成された粗反応混合物は、本発明の方法に従って直接処理することができる。
【0073】
好ましい代替法によれば、反応混合物は、例えば、水酸化ナトリウムのような塩基の水溶液の添加によって中和され、続いてデカンテーションに供され、水相及び有機相を分離する。水相は、中和工程の後に形成された塩を分離することを可能にする。有機相は、微量の塩を除去するために抽出カラムにおいて水で任意に洗浄した後、本発明による精製システムに送られる。
【0074】
これらの条件下で、有機相は、精製処理中にマイケル付加物の分解を触媒することができる残留酸性度を有し得る。
【0075】
次いで、本発明による方法で採用される分割壁カラムの構成は、側流として回収される生成物の汚染のリスクを回避することを可能にする。
【0076】
重質化合物の生成を最小にし、反応の収率を最適化する、エステル化反応に適した操作条件とは別に、反応中だけでなく、エステル化反応器から出る粗反応混合物の精製中にも、重合阻害剤(安定剤としても知られる)を導入する必要がある。
【0077】
使用することができる重合阻害剤として、例えば、フェノチアジン(PTZ)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)、ジ(tert-ブチル)-パラ-クレゾール(BHT)、パラ-フェニレンジアミン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)、ジ(tert-ブチル)カテコール、又はOH-TEMPOなどのTEMPO誘導体の単独又は全ての割合におけるそれらの混合物を挙げることができる。
【0078】
有利には、100~5000ppmの重合阻害剤が、反応混合物の精製中に本発明の方法による精製システムに導入される。
【0079】
前記阻害剤をより効率的にするためには、カラムの底部にある酸素、空気又は7%Oまで激減させた空気を注入することが望ましい。好ましくは、注入される酸素の量は、カラム中の有機蒸気の量に対して0.2%~0.5%の含有率に相当する。
【0080】
第1の実施形態によれば、精製システムは、好ましくは頂部の凝縮器で注入される単一の重合阻害剤を用いて安定化され、精製された(メタ)アクリル酸エステルは、安定化された液体流又は気体流の形態で分割壁カラムから側流として回収される。
【0081】
この実施形態によれば、安定剤としてヒドロキノンモノメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0082】
第2の実施形態によれば、頂部の凝縮器で注入される第1の重合阻害剤は、分割壁カラムにおける重合副反応を制限するために使用され、精製された(メタ)アクリル酸エステルは、気体流の形態で側流として回収され、気体流は、凝縮後、頂部の凝縮器で注入された前のものとは異なる重合阻害剤で安定化される。この実施形態によれば、大幅に安価である第1の阻害剤を使用することができ、気相回収を実施することによって精製された生成物中において第1の阻害剤の存在を排除することができ、第1の重合阻害剤は、カラムの底部で分離された重質副生成物の流れ中に残存する。フェノチアジンは、有機流を安定化させることも可能にするので、第1の重合阻害剤として好適である。次いで、回収された、精製された(メタ)アクリル酸エステルを、従来の慣例に従って、例えば、ヒドロキノンメチルエーテルを用いることで安定化させる。
【0083】
精製された(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステル含有率が99.6重量%を超える、好ましくは99.8重量%を超える生成物を意味すると理解される。好ましくは、重質不純物の含有率は1000ppm未満である。好ましくは、残留アルコールの含有率は1000ppm未満、特に500ppm未満である。
【0084】
このように、本発明は、コンパクトなプラントでC~C12(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供し、その投資及び操作コストを削減し、高純度の生成物を最適収率で提供する。
【0085】
以下の実施例は本発明を例示するが、その範囲を限定しない。
【実施例
【0086】
実施例においては、特に記載のない限り、パーセントは重量で示され、また以下の略号を用いた。
【0087】
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
AA:アクリル酸
PTZ:フェノチアジン
HQ:ヒドロキノン
【0088】
[実施例1:カラム底部の生成物の分解試験]
この実施例は、従来のDWC蒸留カラム、すなわち、カラムの底部で連結されていない分離壁、及び底部に結合した単一のリボイラーを含むカラムの底部で生じる逆分解現象を実証する。
【0089】
分解試験は、大気圧での完全な還流下での動作を確実にするために、凝縮器が上に載った1リットルの丸底フラスコで実施した。
【0090】
ボイラーB1で蒸留カラムの底部で予想される組成に近い組成を有する混合物をフラスコに導入し、40分間にわたりP気圧で147℃及び156℃の温度にさらした。
【0091】
反応混合物の組成のクロマトグラフィーモニタリングを実施し、質量パーセンテージで表した結果を以下の表1にまとめた。
【0092】
【表1】
【0093】
本試験は、従来のDWC精製カラムの操作条件(温度、圧力、持続時間)下での逆分解反応から生じる2-エチルヘキサノールの生成を実証する。
【0094】
[実施例2:比較]
アクリル酸と2-エチルヘキサノールとのエステル化による合成から生じた粗反応混合物について、文献WO2018/114429号の実施例1に記載されているもののような分割壁カラムを用いて精製処理を行った。
【0095】
質量による以下の組成を有する反応混合物について、ASPEN Plusソフトウェアを用いたシミュレーションを行った。
【0096】
2EHA:95%
2-エチルヘキサノール(2EHOH):1.5%
2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルプロピオネート(OOP):0.76%
2-エチルヘキシルβ-ヒドロキシプロピオネート(2EHHP):2.4%
2-エチルヘキシルアセテート(2EHAC):0.22%
【0097】
カラム頂部の圧力は25mmHgで、カラムのヘッドの損失は48mmHgに設定した。
【0098】
頂部の生成物流量は5462kg/時であり、底部の生成物流量は1200kg/時である。
【0099】
カラムは、合計26の理論段階を含む。底部温度は143℃であり、頂部温度は111℃である。
【0100】
こうして表2に示すように、カラム全体の質量濃度プロファイル(段階1:カラム頂部、段階26:カラム底部)を得る。
【0101】
【表2】
【0102】
プレート18-19-20では、組成は文献WO2018114429号の実施例1で得られたものに近く、生成物2EHAの純度は99.5%程度である。
【0103】
しかし、Aspenシミュレーションは、カラム内で発生し得る逆分解現象を考慮していない。
【0104】
プレート19及び20で得られるであろう生成物の品質に対する逆分解の影響をシミュレートするために、ボイラー内のカラムの底部に、2-エチルヘキサノール1.2kg/時の流れ、又は底部流に対して1000ppmを加えた後、同じ条件でシミュレーション試験を行った。
【0105】
このようにして、表3に示すように、カラム全体の質量濃度プロファイル(段階1:カラム頂部、段階26:カラム底部)を得る。
【0106】
【表3】
【0107】
プレート18-19-20では、純生成物2EHAの品質が変化し、2-エチルヘキサノールの生成が、ボイラーより上の6~8の理論段に置かれた側流回収を伴う生成物に負の影響を及ぼすことが確認される。これらの条件下で、プレート20で回収された2EHAの純度は99.5%未満である。
【0108】
[実施例3:本発明による]
ASPEN Plusソフトウェアを用いて、添付図に示すような精製システムについてシミュレーションを行った。
【0109】
分解をシミュレートするために、プレ分画区域のボイラーで1000ppmの2-エチルヘキサノールを加えた他は、供給物は実施例2のものと同一である。
【0110】
異なる区域のプレートの数は以下のとおりである。
【0111】
N1:12-N2:2-N3:12-N4:8-N5:6
【0112】
この構成では、純度99.7%を超える2EHAが得られ、残留2-エチルヘキサノール含有率は50ppmであった。
【0113】
本発明によれば、カラムの底部まで延びる分離壁により、2-エチルヘキサノールのような逆分解生成物が側流として回収された生成物を汚染しないようにすることができる。
【0114】
この実施例は、側流の回収で得られた生成物の品質、特にカラムの底部を分離する壁を有する必要性について、分割壁カラムにおける分離壁の位置決めの重要性を確認する。
【0115】
[実施例4:2-オクチルアクリレートのテーリング]
この試験は、ND 200mmのパイロットカラムを用いて実施し、2-オクタノール及びアクリル酸から2-オクチルアクリレートを製造する方法でも生じる可能性のある逆分解現象を特徴付けた。
【0116】
カラムの供給物中、カラムの底部及びカラムの頂部に存在する主な不純物を下の表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
アウトプットとインプットO/Iの間のバランスにより、流れに存在する種の変動を検証することが可能となる。
【0119】
この蒸留の間、アクリル酸、2-オクタノール及びオクテンの含量の大きな増加が観察され、これは反応混合物が蒸留条件下で分解反応を起こすことを示す。
図1