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特許7091572コラーゲン産生の促進を特徴とする組成物およびリモノイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】コラーゲン産生の促進を特徴とする組成物およびリモノイド
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/366 20060101AFI20220621BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALN20220621BHJP
   A61K 36/58 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
A61K31/366
A61K8/49
A61P1/02
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P17/00
A61P19/02
A61P19/10
A61P43/00 111
A61Q11/00
A61Q19/08
A61K8/9789
A61K36/58
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017035192
(22)【出願日】2017-02-27
(65)【公開番号】P2018140947
(43)【公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日2016年8月25日の日本生薬学会第63回年会 講演要旨集(発行者:一般社団法人 日本生薬学会)及び開催日2016年9月24日の日本生薬学会第63回年会(主催:一般社団法人 日本生薬学会)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304026180
【氏名又は名称】株式会社ダイアベティム
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】村岡 修
(72)【発明者】
【氏名】森川 敏生
(72)【発明者】
【氏名】二宮 清文
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151634(JP,A)
【文献】特表2015-531380(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0013095(KR,A)
【文献】特表2008-506718(JP,A)
【文献】米国特許第08545904(US,B1)
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2016年04月19日,Vol. 17,article number 591
【文献】Fitoterapia,2014年,Vol. 96,pp. 56-64
【文献】Rev Col Bras Cir,2013年,Vol. 40, No. 6,pp. 476-479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/366
A61K 8/49
A61P 1/02
A61P 9/10
A61P 17/00
A61P 19/02
A61P 19/10
A61Q 11/00
A61Q 19/08
A61K 8/9789
A61K 36/58
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式(1)で表される化合物のコラーゲン産生促進剤の製造のための使用
【化1】
【請求項2】
下記の構造式(2)、(3)又は(6)で表される化合物のコラーゲン産生促進剤の製造のための使用
【化2】

【化3】

【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンデローバ(学名:Carapa guianensis)の種子を圧搾して得られる油(種子油)を、又はアンデローバの種子油もしくは花油中から得ることができるリモノイド成分を有効成分(活性成分)として含有するコラーゲン産生促進剤、ならびに前記コラーゲン産生促進剤を配合する化粧料および医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンデローバとは、センダン科(Meliaceae)の植物Carapa guianensisの通称であり、主にアマゾン地域に分布する植物である。アンデローバの種子は、民間薬として、防虫剤、殺虫剤、解熱剤、駆虫剤や肝炎やリウマチの治療剤などとして使用されている。
【0003】
アンデローバの利用については、これまでにも樹皮からの抽出物が、外用組成物として使用でき、生体組織に対する障害防御作用および賦活作用を有することが開示されている(特許文献1)。また、アンデローバの種子油については、抗アレルギー、抗炎症、鎮痛および免疫調節に有用であることも開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-151634公報
【文献】特表2008-506718公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アンデローバや、アンデローバの種子油等の本植物から得られる成分、化合物と、コラーゲン産生促進効果との関係は、これまで知られていなかった。本発明は、アンデローバの種子油、またはアンデローバの種子油もしくは花油などに含有されるリモノイド成分を有効成分として含み、優れたコラーゲン産生促進効果を奏する製剤(コラーゲン産生促進剤)、及び当該コラーゲン産生促進剤を配合し、コラーゲン産生促進効果を奏する医薬組成物、医薬部外品および化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アンデローバの種子油について、およびアンデローバの種子油や花油の含有成分について、種々の生物活性の検討を鋭意行った結果、アンデローバの種子油、および、アンデローバの種子油および/または花油に含まれる一部のリモノイド成分が、ヒト新生児皮膚由来細胞(NHDF)からのコラーゲン産生を有意に促進することを見いだし、以下に示す態様の発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、その第1の態様として、アンデローバ(Carapa guianensis)の種子油を有効成分(活性成分)として含むことを特徴とするコラーゲン産生促進剤(請求項1)を提供する。
【0008】
「種子油」とは、アンデローバの種子に含まれる油成分を意味する。この種子油は、アンデローバの種子を圧搾して得ることができる。種子油には、さらに、アンデローバの種子を圧搾して得る油成分に含まれる沈殿物や、この油成分から、層分離や分画等により分離された液体成分なども含まれる。
【0009】
コラーゲン産生促進剤とは、ヒトや動物の細胞のコラーゲンの産生を亢進する作用を有する製剤である。コラーゲン産生促進剤を、ヒト等に投与することにより、コラーゲンの産生の減少または分解の亢進による生体内のコラーゲン量の減少を、予防や改善することができる。そして、生体内のコラーゲン量の減少により顕在化する障害(疾病)や加齢変化、例えば、骨粗鬆症、変形性関節症、動脈硬化、脳溢血、歯周病や皮膚の皺などの予防・改善に使用することができる。
【0010】
本発明は、その第2の態様として、
下記の構造式(1)で表される化合物(gedunin):
【0011】
【化1】
【0012】
下記の構造式(2)で表される化合物(6α-acetoxygedunin):
【0013】
【化2】
【0014】
下記の構造式(3)で表される化合物(7-deacetoxy-7-oxogedunin):
【0015】
【化3】
【0016】
下記の構造式(4)で表される化合物(7-deacetoxy-7-hydroxygedunin):
【0017】
【化4】
【0018】
下記の構造式(5)で表される化合物(6α-hydroxygedunin):
【0019】
【化5】
【0020】
下記の構造式(6)で表される化合物(carapanolide C):
【0021】
【化6】
【0022】
および、下記の構造式(7)で表される化合物(methyl angolensate):
【0023】
【化7】
【0024】
からなる群の中から選ばれる1又は2以上を有効成分として含むことを特徴とするコラーゲン産生促進剤を提供する。
【0025】
上記の構造式(1)~(7)で表される化合物は、アンデローバの種子油および/または花油に含まれる化合物であり、種子油および/または花油から得られる化合物である。花油とは、アンデローバの花に含まれる油成分を意味する。この花油は、例えばアンデローバの花を圧搾して得ることができ、さらに、圧搾して得る油成分に含まれる沈殿物や、この油成分から、層分離や分画等により分離された液体成分なども含まれる。
【0026】
第1の態様のコラーゲン産生促進剤または第2の態様のコラーゲン産生促進剤を、ヒトまたは動物に投与することにより、ヒトまたは動物の細胞のコラーゲン産生を促進することができる。例えば、これらをヒトに投与することにより、ヒトの細胞のコラーゲン産生を促進し、コラーゲンの体内での含量低下から導かれる種々の健康障害、疾患又は老化の徴候を予防・改善することができる。
【0027】
また、アンデローバの種子油は、民間薬としての使用歴が長く、人体に作用させた場合、安全性が高いと判断される。さらにアンデローバの種子油または花油に含有される成分についても、その使用歴から安全性が確保されているものである。従って、第1の態様のコラーゲン産生促進剤または第2の態様のコラーゲン産生促進剤は、外用組成物または内服組成物として、医薬品、医薬部外品、化粧品などに好適に使用することができる。
【0028】
そこで、本発明は、その第3の態様として、前記第1の態様のコラーゲン産生促進剤および/または第2の態様のコラーゲン産生促進剤を含有することを特徴とする外用組成物または内服組成物を提供する。
【0029】
本発明の外用組成物または内服組成物は、ヒトや動物の細胞のコラーゲンの産生を促進することにより、コラーゲンの体内での含量低下から導かれる種々の健康障害又は老化の徴候を予防・改善することに寄与する。従って、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして好適に使用することができる。
【0030】
例えば、本発明の外用組成物は、皮膚や毛髪などに適用され、皮膚や毛髪のコラーゲンの産生を促進することができる。そして、クリーム、ハンドクリーム、乳液、化粧水、ローション、石けん、ハンドソープ、ボディソープ、貼付剤などの皮膚外用剤および皮膚化粧料、シャンプー、リンス、トニック、育毛剤などの毛髪化粧料として好適に使用できる。
【0031】
一方、本発明の内服組成物は、コラーゲンの体内での含量低下から導かれる疾患や健康障害である骨粗鬆症、変形性関節症、動脈硬化、脳溢血、歯周病や皮膚の皺などの予防・改善を目的とする医薬品、医薬部外品などとして使用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、ヒトや動物の細胞、例えばヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲンの産生を亢進させる。従って、ヒトに投与することにより、環境ストレスや加齢、種々の疾病の発症、増悪に関与する生体内のコラーゲン含量の低下を予防または改善すると考えられる。また、民間薬としての使用歴が長いアンデローバから得られるので、人体などに作用させた場合、安全性が高いと判断される。そこで、コラーゲンの体内での含量低下から導かれる種々の健康障害又は老化の徴候を予防・改善することに寄与する、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして好適に使用することができ、さらに健康食品等への応用も考えられ、応用範囲がきわめて広いものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、発明を実施するための形態を説明する。また、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、下記の形態や実施例に制限されるものではない。
【0034】
上記構造式(1)~(7)で表される化合物は、アンデローバの種子油または花油などから得られる。具体的には、構造式(1)、(5)または(7)で表される化合物は、Tetrahedron 68,3669-3677(2012)に記載されている化合物であり、構造式(2)または(3)で表される化合物は、Tetrahedron 67,782-792(2011)に記載されている化合物であり、構造式(4)で表される化合物は、Fitoterapia 100,81-87(2015)に記載されている化合物であり、構造式(6)で表される化合物は、Fitoterapia 96,56-64(2014)に記載されている化合物であり、それぞれ前記文献に記載されている方法、又は前記文献が引用する文献に記載されている方法により、アンデローバの種子油または花油より製造することができる。
【0035】
本発明の外用組成物および内服組成物は、前記第1の態様のコラーゲン産生促進剤および/または第2の態様のコラーゲン産生促進剤と、その組成物の種類、用途、剤形などに応じた公知の配合成分を用いて定法により調整できる。前記第1の態様のコラーゲン産生促進剤および/または第2の態様のコラーゲン産生促進剤の配合量は、有効量であり組成物の用途、剤形により適宜選定されるが、通常0.00001~20質量%配合され、好ましくは、0.0001~10質量%配合される。
【0036】
実施例1
クラボウ社より購入したNormal Human Dermal Fibroblasts(NHDF:正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies社)、100units/mL penicillin Gおよび100μg/mL streptomycin(和光純薬社)を含有するDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM、glucose1000mg/L、Sigma-Aldrichi社)で培養(5%CO、37℃)して実験に使用した。培養容器には、ファルコン社製75cm培養フラスコを使用した。
【0037】
コラーゲン産生促進作用の検討は、Am.J.Physiol.Renal.Physiol.,284,p243-252(2003)に記載された方法に準じて行った。即ち、NHDFを、96穴プレート(住友ベークライト社)に、2.5×10cells/well(100μL/well)で播種し、37℃、5%CO存在下、10%FBSを含むDMEMで培養した。24時間後、培養液(DMEM)を除去し、アンデローバの種子を圧搾して得た被験物質の種子油を、表1に記載の種子油濃度(DMEMの1mLに対する種子油の質量μg)となるように含有させたFBS不含のDMEM100μL/wellを、各wellに添加して、さらに培養を継続した。
【0038】
48時間後、培養上清20μL/wellを下記の市販キットに添付のsample diluentで18倍希釈した。この希釈した培養上清中のProcollagen type I C-peptide(PIP)濃度を市販キットPIP EIA Kit(タカラバイオ社)を用いて定量した。定量されたPIP濃度の、対照群(control)のPIP濃度に対する比率(%)を算出した。
【0039】
上記の実験を、各群についてN=4で実施し、比率の平均値およびS.E.M.(標準誤差)を算出し、下記の表1に示した。対照群との有意差の検定には、Dunnettの多重比較検定を使用して、*p<0.05、**p<0.01を有意とし、種子油のコラーゲン産生促進作用を評価した。
【0040】
【表1】
【0041】
上記の表に示すように、アンデローバの種子油を培養液中に添加することにより、種子油の濃度10μg/mL以上において、コラーゲンの産生が有意に亢進した。
【0042】
実施例2
アンデローバの種子を圧搾して得た種子油またはアンデローバの花油から、Tetrahedron 68,3669-3677(2012)、Tetrahedron 67,782-792(2011)、Fitoterapia 100,81-87(2015)もしくはFitoterapia 96,56-64(2014)に記載されている方法またはこれらの文献が引用する文献に記載されている方法より、前記構造式(1)~(7)で表される化合物を、単離して実験に使用した。また、単離された化合物について、H-NMRおよび13C-NMRのケミカルシフト値およびMSスペクトルデータの測定を行い、前記文献またはこれらの文献が引用する文献に記載されている数値と比較することにより化合物の同定を行った。
【0043】
実施例1と同様にして、NHDFを培養して実験に使用した。実施例1と同様にして、NHDFを、10%FBSを含むDMEMで24時間培養した後、培養液(DMEM)を除去し、前記の単離された化合物(構造式(1)~(7)で表される化合物)を、表2に記載の濃度(DMEM中の化合物の濃度μM)となるように含有させたFBS不含のDMEM100μL/wellを、各wellに添加して、さらに培養を48時間継続した後、実施例1と同様にして、培養上清の希釈、PIP濃度の定量を行い、定量されたPIP濃度の、対照群(control)のPIP濃度に対する比率(%)を算出した。
【0044】
上記の実験を、各群についてN=4で実施し、比率の平均値およびS.E.M.(標準誤差)を算出し、下記の表2に示した。対照群との有意差の検定には、Dunnettの多重比較検定を使用して、*p<0.05、**p<0.01を有意とし、種子油のコラーゲン産生促進作用を評価した。
【0045】
【表2】
【0046】
上記の表2に示すように、構造式(1)~(7)で表される化合物は、それぞれ濃度域は異なるが、NHDF細胞からのコラーゲンの産生を(対照群に対して)有意に亢進することがわかる。
【0047】
表1および表2に示した実験結果より、アンデローバの種子油および構造式(1)~(7)で表される化合物は、NHDF細胞からのコラーゲンの産生を有意に亢進することが示された。
【0048】
以下、本発明の組成物を配合した処方例を示す。下記の例は、外用組成物(スキンケアクリーム)としての一例を示すものであり、本発明の組成物の利用の一形態を示す例であり、これにより本発明の組成物の利用が限定されるものではない。
【0049】
【表3】