(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20220621BHJP
【FI】
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2015196724
(22)【出願日】2015-10-02
【審査請求日】2018-09-20
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2014233167
(32)【優先日】2014-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 稔
(72)【発明者】
【氏名】土井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】増原 麟
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕江
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀美
(72)【発明者】
【氏名】稲益 徳雄
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-306538(JP,A)
【文献】特開2014-116078(JP,A)
【文献】特開2015-56241(JP,A)
【文献】国際公開第2010/030008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn元素を含む正極活物質を含有する正極、負極、及び、
非水溶媒がアルカリ金属塩を含有してなる非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質は、
ドナー数が15以上の非水溶媒を含有し、
前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下である、
非水電解質二次電池
(但し、前記正極活物質がLiMn
2
O
4
系活物質であり、前記非水溶媒がリン酸トリメチル、フルオロリン酸ジエチル、又はTris(trifluoromethyl)phosphateと、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート(3:7)又はジメトキシエタンとからなり、前記非水溶媒中に占める前記リン酸トリメチル、フルオロリン酸ジエチル、又はTris(trifluoromethyl)phosphateの含有比率が40体積%以上であるもの、及び、前記正極活物質がLiNi
0.5
Co
0.2
Mn
0.3
O
2
であり、前記非水溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、又はジメチルカーボネートと、アセトニトリル又はプロピオニトリルと、ビニレンカーボネートとを含み、前記非水溶媒中に占める前記アセトニトリル又はプロピオニトリルの含有比率が27質量%以上であるものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、その高エネルギー密度という利点を活かして、携帯電話に代表されるモバイル機器の電源として幅広く普及している。また、近年、小形機器用電源だけでなく、電力貯蔵用、電気自動車用及びハイブリッド自動車用等の中大型産業用途への展開がなされている。
【0003】
非水電解質二次電池は、一般に、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、セパレータと、非水溶媒及びリチウム塩を含有する非水電解質とを備えている。非水電解質二次電池を構成する正極活物質としてはリチウム含有遷移金属酸化物が、負極活物質としてはグラファイトに代表される炭素材料が広く用いられている。非水電解質としては、非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を種々の濃度で溶解したものが広く用いられている。
【0004】
特許文献1には、電解液を不燃化した安全性の高い二次電池を提供することを目的として、1.5mol/L以上3.5mol/L以下のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のリチウム塩と、20~60体積%のリン酸エステル誘導体を含む電解液を用いることが記載され、正極にLiMn2O4を用いた電池が具体的に記載され、LiTFSIを高濃度用いることでアルミニウムの腐食が抑制されることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、高い入出力特性と良好な高温サイクル特性との両特性のバランスのとれたリチウム二次電池を提供することを目的として、1.2M以上3M以下のLiPF6
を溶解させた非水電解液を用いることが記載され、正極にLiNi0.8Co0.15Al0.05O2を用いた電池が具体的に記載され、LiCoO2、LiNiO2と、LiMn2O4、LiMnO2等を用いることができること(段落0014)が記載されている。
【0006】
特許文献3には、低空孔率電極を使用した場合でも、電池のハイレート特性や低温特性が劣化しない非水電解質電池を提供することを目的として、正極の空孔率が25%以下であり、前記正極の単位面積あたりの活物質坦持量が20mg/cm2以上であり、かつ非水電解質の塩濃度が伝導度ピークを与える濃度を超えている非水電解質電池が記載され、伝導度ピークを与える濃度が「六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の下記に例示される塩では1mol・dm-3付近であり、それより高い濃度とすることが好ましく、特に1.3mol・dm-3以上である。その上限としては、3mol・dm-3程度である。」(段落0013)と記載され、正極活物質としてLiCoO2を用い、塩濃度を2.5mol・dm-3とした電池(実施例5、実施例14)等が具体的に記載され、正極活物質として「LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiV2O4などが挙げられる。」(段落0022)との記載がある。
【0007】
特許文献4には、黒鉛系炭素材料からなる負極であっても、プロピレンカーボネート(PC)を含有する有機電解液を使用できるようにすることを目的として、PCにリチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)を2.12~3.15モル/Lの濃度で溶解した電解液を用いることが記載されている。
【0008】
非特許文献1には、溶媒のドナー数の定義及び求め方が記載されている。ドナー数とは、非特許文献1の著者であるグットマンにより提唱された、1,2-ジクロロエタン中の五塩化アンチモンと、対象とする溶媒との間の1:1付加化合物の生成エンタルピーの負値で定義される、溶媒の電子対供与能を表すパラメーターである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5557337号公報
【文献】特開2002-025606号公報
【文献】特許第4180335号公報
【文献】特開2004-095522号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Viktor Gutmann, "The Donor-Acceptor Approach to Molecular Interactions", Springer, 1978(ISBN-13: 978-0306310645)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウム含有遷移金属酸化物は、遷移金属元素であるMn,Ni,Co等を主として含むものが多用されている。これらのうち、Mnは地球資源として豊富であり、安価であることから、遷移金属中のMn元素の比率が高いリチウム含有遷移金属酸化物を用いることが望まれてきた。
【0012】
しかしながら、このような非水電解質二次電池は、正極活物質から非水電解質へのMnの溶出が起こりやすく、充放電効率を十分に高くすることができないという問題があった。本発明は、充放電効率が優れた非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
Mn元素を含む正極活物質を含有する正極、負極、及び、
非水溶媒がアルカリ金属塩を含有してなる非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質は、
ドナー数が15以上の非水溶媒を含有し、
前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下である、
非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充放電効率が優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
【
図2】本発明に係る非水電解質二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池は、Mn元素を含む正極活物質を含有する正極、負極、及び、非水溶媒がアルカリ金属塩を含有してなる非水電解質を備えた非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、ドナー数が15以上の非水溶媒を含有し、前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下であることを特徴としている。
【0017】
本発明の作用機構については必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように推察している。正極活物質から非水電解質へのMnの溶出は、非水電解質中でアルカリ金属イオンに溶媒和せずに遊離している非水溶媒がMnイオンに溶媒和することによって起こる。本発明に係る非水電解質は、前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下であるため、前記ドナー数が15以上の非水溶媒のほとんどがアルカリ金属イオンに溶媒和している。即ち、非水電解質中に、溶媒和せずに遊離している前記ドナー数が15以上の非水溶媒がほとんど存在しない。従って、Mnイオンに溶媒和しうる非水溶媒がほとんど存在しないため、正極活物質から非水電解質へのMnの溶出が抑制される。
【0018】
正極活物質としては、Mn元素を含むものであれば、限定されない。例えば、LixMOy(MはMnを含む一種又は二種以上の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LixNiyMn(2-y)O4、LixMn2O4、LixNiyMnzCo(1-y-z)O2、Li1+x(NiyMnzCo(1-y-z))1-xO2等)、LiwMx(XOy)z(MはMnを含む一種又は二種以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)で表されるポリアニオン化合物(LiMnPO4、Li2MnSiO4等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0019】
正極活物質からのMnの溶出は、正極活物質の作動電位が貴である方が促進される傾向がある。従って、正極活物質をより貴な電位で作動させる非水電解質電池に対して本発明を適用すると、本発明の効果が顕著に奏されるため、好ましい。
【0020】
非水電解質に用いる非水溶媒のドナー数は、便覧等で確認できる。あるいは、非特許文献1に記載の方法で求めることができる。
【0021】
ドナー数が15以上の非水溶媒としては、限定されない。例えば、プロピレンカーボネート(ドナー数:15.1)、エチレンカーボネート(16.4)、ジエチルカーボネート(16.4)、ジメチルカーボネート(15.2)、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート、ジフェニルカーボネート等の環状又は鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン(18)、γ-バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル(17.1)、酪酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル、テトラヒドロフラン(20)若しくはその誘導体、1,3-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン(20)、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、ジグライム(19.2)、テトラグライム(16.6)、メチルジグライム等のエーテル類、ニトリル類、ジオキサラン若しくはその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができる。特に、エチレンカーボネート等の環状カーボネート及び/又はジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。また、これらの非水溶媒は、2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0022】
前記非水電解質に用いるドナー数が15以上の非水溶媒は、ドナー数が大きすぎない非水溶媒を選択して用いることが好ましい。ドナー数が大きすぎない非水溶媒を選択して用いることにより、該非水溶媒がアルカリ金属イオンへ溶媒和する配位力が強くなりすぎる虞を低減できる。従って、活物質表面でのアルカリ金属イオンの脱溶媒和に要するエネルギーが大きくなりすぎる虞を低減でき、電極反応の進行が阻害される懸念を低減できる。この観点から、非水電解質が含有するドナー数が15以上の非水溶媒は、ドナー数が16.5以下であるものを用いることが好ましい。
【0023】
本発明に係る非水電解質は、ドナー数が15未満の非水溶媒を含有してもよい。例えば、トリグライム(ドナー数:14.0)、アセトニトリル(14.1)、ベンゾニトリル(11.9)や、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(6~7)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-1,1,1-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロプロピル-1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル等のハイドロフルオロエーテル類等の非水溶媒を混合して用いることができる。特に、非水溶媒単独での耐酸化性及び耐還元性に優れ、かつ、低粘度なドナー数が15未満の非水溶媒を含有することにより、本発明の作用効果を阻害することなく非水電解液の粘度を低減することができるため、好ましい。
【0024】
本発明に係る非水電解質が含有するドナー数が15未満の非水溶媒は、ドナー数が小さい非水溶媒を選択して用いることが好ましい。ドナー数が小さい非水溶媒を選択して用いることにより、該非水溶媒がアルカリ金属イオンへ溶媒和する配位力が低減でき、ドナー数が15以上の非水溶媒が選択的にアルカリ金属イオンに溶媒和することを阻害しない。さらに、該非水溶媒がMnイオンに溶媒和することもなく、正極活物質から非水電解質へのMnの溶出も抑制できる。
【0025】
なお、非水電解質がドナー数が15未満の非水溶媒を含有する場合であっても、「前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率」を計算するにあたって、ドナー数が15未満の非水溶媒の含有量は考慮しない。その理由は、本発明の作用機構は、ドナー数が15以上の非水溶媒が選択的にアルカリ金属イオンに溶媒和することによって、正極活物質から非水電解質へのMnの溶出を抑制できることにあると考えられるところ、非水電解質中において、ドナー数が15未満の非水溶媒が、アルカリ金属イオンや正極活物質から溶出するMnイオンに対してほとんど溶媒和しないと考えられることから、ドナー数が15以上の非水溶媒のアルカリ金属イオンへの溶媒和をほとんど阻害しないと考えられるためである。
【0026】
本発明に係る非水電解質が含有するアルカリ金属塩は、限定されない。一般に非水電解質二次電池に使用される広電位領域において安定であるリチウム塩が使用できる。例えば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
本発明に係る非水電解質におけるアルカリ金属塩の濃度は、ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数との関係で決定できる。例えば、ドナー数が15以上の非水溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)を単独で用い、アルカリ金属塩としてLiPF6を単独で用いる場合、PCのドナー数は15.1であり、PCの分子量は102.1であり、LiPF6の分子量は151.9であるから、LiPF6のモル数に対するPCのモル数の比率が4倍以下である非水電解質は、1kg(9.8モル)のPCと372g(2.45モル)以上のLiPF6とを含有する非水電解質(塩濃度2.45mol/L以上に相当)である。
【0028】
なお、前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率の下限、即ち、アルカリ金属塩濃度の上限については、本発明の作用機構に鑑みる限り、限定されない。また、非水溶媒の種類や2種以上混合して用いる場合の組成比率についても、本発明の作用機序に鑑みる限り、限定されない。もっとも、これらの事項は、設計上の理由や事情等に鑑みて、適宜調整することが好ましい。例えば、アルカリ金属塩濃度を高くしすぎないことによって非水電解質の粘度を高すぎないものとすることにより非水電解質電池の製造を容易とし、あるいは、セパレータへの含浸を容易とすることは好ましい。この観点から、前記アルカリ金属塩のモル数に対する前記ドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率は、1倍以上が好ましい。
【0029】
また、例えば、低誘電率である非水溶媒の組成比率を高くしすぎないことによりアルカリ金属塩が析出する虞を低減することは好ましい。
【0030】
また、例えば、トリグライム、テトラグライム等のエーテル類は、貴な電位で分解しやすいことが知られているから、正極活物質の作動電位に応じて、貴な電位で分解しやすい非水溶媒の使用を避けることは好ましい。
【0031】
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。中でも金属材料が好ましく、特に軽量で安価である点からアルミニウムが好ましい。
【0032】
なお、例えば非水電解質が含有するアルカリ金属塩としてLiN(CF3SO2)2が高い比率で用いられている場合に、アルミニウム集電体を用いた正極を4V(vs.Li/Li+)よりも貴な電位で作動させると、アルミニウム集電体が腐食する場合があることが知られているから、正極活物質の作動電位に応じて、アルミニウム集電体とLiN(CF3SO2)2との組み合わせを避けることは好ましい。
【0033】
本発明の非水電解質二次電池を構成する負極に使用する負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離可能なものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、チタン酸リチウム等の金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。 炭素質材料としては、天然グラファイト、人造グラファイト、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。中でも炭素質材料又は金属複合酸化物が安全性の点から好ましく用いられる。
【0034】
負極の集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0035】
セパレータとしては、微多孔性膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等に代表されるポリフッ化ビニリデン及びその共重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等を挙げることができる。また、ガラスフィルターを用いることもできる。中でもポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂を主成分とする微多孔性膜であることが好ましい。
【0036】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0037】
図1に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0038】
本発明に係る非水電解質二次電池の形状については特に限定されるものではなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(非水電解質A)
プロピレンカーボネート(PC)1kgに対して六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を0.83mol(126g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は1.0mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対するPCのモル数の比率は11
.8と計算される。
【0041】
(非水電解質B)
PC1kgに対してLiPF6を2.45mol(372g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は2.9mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対するPCのモル数の比率は4.0と計算される。
【0042】
(非水電解質C)
PC1kgに対してLiPF6を3.26mol(495g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は3.9mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対するPCのモル数の比率は3.0と計算される。
【0043】
(非水電解質D)
PC1kgに対してLiPF6を4.45mol(676g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は5.9mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対するPCのモル数の比率は2.2と計算される。
【0044】
(実施例1)
(正極板の作製)
N-メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質としてのLiNi0.5Mn1.5O4、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比80:10:10の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、乾燥工程及びプレス工程を経て正極板を作製した。
【0045】
(非水電解質電池の組立)
以下の試験に供するため、上記正極板を用いて非水電解質電池を組立てた。正極板は直径13mmの円盤状に切り出して用いた。負極は50μmの金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。密閉可能なステンレス鋼製の電池試験用セルに、上記負極、セパレータとしてガラスフィルター、及び、上記正極の順に積層し、非水電解液を封入して密閉した。このようにして、非水電解質A~Dを用いて組立てた電池をそれぞれ非水電解質電池A1~D1とする。
【0046】
(Mn溶出量定量試験)
非水電解質電池A1~D1を用いて、次の条件で正極活物質から非水電解質へのMn溶出量定量試験を行った。25℃において、非水電解質電池を電流0.1CmA、終止電圧5.0Vの定電流充電を行った後、開回路状態で60℃の恒温槽中に3日間保存した。次に、電池を解体して負極を取り出し、濃度0.05mol/Lの塩酸に溶解し、ICP発光分光分析によって負極中のMn量を定量し、「Mn溶出量(mg)」として記録した。このようにして、保存中に正極活物質から非水電解質へ溶出して負極上に析出したMn量を比較した。結果を表1に示す。なお、以下の表では、アルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率を「高DN溶媒/塩(モル比)」の欄に示した。
【0047】
【0048】
表1に示されるように、非水電解質が含有するアルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が大きい非水電解質電池A1に比べて、非水電解質が含有するアルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下である非水電解質電池B1~D1では、正極活物質から非水電解質へ溶出するMn量が抑制されていることがわかった。また、アルカリ金属塩濃度が高いほど、正極活物質から非水電解質へのMn溶出を抑制する効果が高いことがわかった。
【0049】
以下の処方により、非水電解質E~Hを調整した。
【0050】
(非水電解質E)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1の質量比率で混合した混合溶媒1kgに対してLiPF6を2.53mol(384g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は2.9mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対する前記混合溶媒のモル数の比率は3.8と計算される。
【0051】
(非水電解質F)
PC1kgに対して四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を4.90mol(459g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は5.9mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は2.0と計算される。
【0052】
(非水電解質G)
ECとDECを1:1の体積比率で混合した混合溶媒1kgに対してLiPF6を0.87mol(132g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiPF6濃度は1.0mol/Lに相当する。LiPF6のモル数に対する前記混合溶媒のモル数の比率は11.6と計算される。
【0053】
(非水電解質H)
PC1kgに対してLiBF4を0.83mol(78g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は1.0mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は11.8と計算される。
【0054】
(実施例2)
(非水電解質電池の組立)
前記非水電解質A~Hをそれぞれ用いて、実施例1と同様にして、非水電解質電池A2~H2を組立てた。
【0055】
(充放電サイクル試験)
非水電解質電池A2~H2を用いて、25℃において、次の条件で15サイクルの充放電試験を行った。充電は、電流0.25CmA、上限電圧5.0Vの定電流充電とし、放電は、電流0.25CmA、下限電圧3.55Vの定電流充電とした。このようにして、全てのサイクルにおける充電電気量(mAh)及び放電電気量(mAh)を記録した。このデータに基づき、1サイクル目のクーロン効率を「初期クーロン効率(%)」として求めた。また、1サイクル目から15サイクル目までの充電電気量の和と、1サイクル目から15サイクル目までの放電電気量の和との差を正極活物質質量あたりの「積算不可逆容量(mAh/g)」として算出した。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2からわかるように、非水電解質が含有するアルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が大きい非水電解質電池A2、G2及びH2に比べて、非水電解質が含有するアルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下である非水電解質電池B2~F2では、「初期クーロン効率(%)」が向上し、「積算不可逆容量(mAh/g)」が低減できていることがわかった。また、アルカリ金属塩濃度が高いほど、これらの効果が優れていることがわかった。
【0058】
以下の処方により、非水電解質I~Rを調整した。
【0059】
(非水電解質I)
PC1kgに対してLiBF4を5.31mol(498g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は6.4mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は1.8と計算される。
【0060】
(非水電解質J)
PC1kgに対してLiBF4を6.22mol(583g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は7.5mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は1.6と計算される。
【0061】
(非水電解質K)
PC1kgに対してLiBF4を7.30mol(684g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は8.8mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は1.3と計算される。
【0062】
(非水電解質L)
PC1kgに対してLiBF4を6.62mol(621g)とLiN(FSO2)2(LiFSI)を0.0833mol(16g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4とLiFSIの合計の濃度は8.1mol/Lに相当する。LiBF4とLiFSIの合計のモル数に対するPCのモル数の比率は1.5と計算される。
【0063】
(非水電解質M)
GBL1kgに対してLiBF4を2.90mol(272g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は3.3mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するGBLのモル数の比率は4.0と計算される。
【0064】
(非水電解質N)
GBL1kgに対してLiBF4を3.87mol(363g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は4.3mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するGBLのモル数の比率は3.0と計算される。
【0065】
(非水電解質O)
GBL1kgに対してLiBF4を4.65mol(436g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は5.2mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するGBLのモル数の比率は2.5と計算される。
【0066】
(非水電解質P)
PCとジメチルカーボネート(DMC)を2:1の体積比率で混合した混合溶媒1kgに対してLiBF4を7.84mol(735g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は9.1mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対する前記混合溶媒のモル数の比率は1.3と計算される。
【0067】
(非水電解質Q)
PC1kgに対してLiBF4を3.75mol(352g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4濃度は4.5mol/Lに相当する。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は2.6と計算される。
【0068】
(非水電解質R)
PCと1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFE)を2:1の体積比率で混合した混合溶媒1kgに対してLiBF4を2.50mol(234g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は2.4と計算される。
【0069】
(実施例3)
(非水電解質電池の組立)
前記非水電解質H、前記非水電解質F及び前記非水電解質I~Rをそれぞれ用いて、非水電解質電池を組み立てた。これをそれぞれ非水電解質電池H3、非水電解質電池F3及び非水電解質電池I3~R3とする。
【0070】
(充放電サイクル試験)
非水電解質電池H3、非水電解質電池F3及び非水電解質電池I3~R3を用いて、25℃において、次の条件で50サイクルの充放電試験を行った。充電は、電流0.1CmA、上限電圧5.0Vの定電流充電とし、放電は、電流0.1CmA、下限電圧3.55Vの定電流充電とした。このようにして、全てのサイクルにおける充電電気量(mAh)及び放電電気量(mAh)を記録した。このデータに基づき、1サイクル目のクーロン効率を「初期クーロン効率(%)」として求めた。また、1サイクル目から50サイクル目(但し、非水電解質電池Q3及びR3については40サイクル目)までの充電電気量の和と、1サイクル目から50サイクル目(但し、非水電解質電池Q3及びR3については40サイクル目)までの放電電気量の和との差を正極活物質質量あたりの「積算不可逆容量(mAh/g)」として算出した。結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
非水電解質電池I3~K3の結果からわかるように、PCに対するLiBF4濃度を非水電解質Qや非水電解質Fよりもさらに高くした非水電解質I~Kを用いた場合であっても、本発明の効果が奏されることが確認された。
非水電解質電池L3の結果からわかるように、複数のアルカリ金属塩を混合して用いた場合であっても、本発明の効果が奏されることが確認された。
非水電解質電池M3~O3の結果からわかるように、ドナー数が15以上の非水溶媒が環状カーボネートや鎖状カーボネート以外の溶媒であっても、初期クーロン効率を向上できることが確認された。
非水電解質電池P3の結果からわかるように、ドナー数が15以上の非水溶媒を複数種類混合して用いた場合であっても、本発明の効果が奏されることが確認された。
非水電解質電池R3の結果からわかるように、非水電解質が含有するアルカリ金属塩のモル数に対するドナー数が15以上の非水溶媒のモル数の比率が4倍以下であれば、ドナー数が15未満の非水溶媒を混合して用いた場合であっても、本発明の効果が奏されることが確認された。
【0073】
以下の処方により、非水電解質Sを調整した。
【0074】
(非水電解質S)
PCとHFEを2:1の体積比率で混合した混合溶媒1kgに対してLiBF4を2.30mol(216g)の割合で用いて非水電解質を作製した。LiBF4のモル数に対するPCのモル数の比率は2.6と計算される。
【0075】
(実施例4)
(正極板の作製)
N-メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質としてのLi1.2Mn0.56Co0.08Ni0.16O2、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比80:10:10の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、乾燥工程及びプレス工程を経て正極板を作製した。
【0076】
(非水電解質電池の組立)
この正極板を用い、前記非水電解質A、D、K及びSをそれぞれ用いたことを除いては、実施例1と同様にして、非水電解質電池A4、非水電解質電池D4、非水電解質電池K4及び非水電解質電池S4を組立てた。
【0077】
(充放電サイクル試験)
非水電解質電池A4、非水電解質電池D4、非水電解質電池K4及び非水電解質電池S4を用いて、25℃において、次の条件で50サイクルの充放電試験を行った。充電は、電流0.1CmA、上限電圧4.8Vの定電流充電とし、放電は、電流0.1CmA、下限電圧2.5Vの定電流充電とした。このようにして、全てのサイクルにおける充電電気量(mAh)及び放電電気量(mAh)を記録した。このデータに基づき、1サイクル目のクーロン効率を「初期クーロン効率(%)」として求めた。また、1サイクル目から100サイクル目までの充電電気量の和と、1サイクル目から100サイクル目までの放電電気量の和との差を正極活物質質量あたりの「積算不可逆容量(mAh/g)」として算出した。結果を表4に示す。
【0078】
【0079】
この結果からわかるように、本発明の効果は、正極活物質の種類によらず、奏されることが確認された。
【0080】
(符号の説明)
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置