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特許7091575ノッチ部分ポリッシング用パッド及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ノッチ部分ポリッシング用パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220621BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20220621BHJP
【FI】
H01L21/304 622F
H01L21/304 621E
B24B37/24 C
B24B37/24 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018037038
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2018148212
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017040450
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107745
【氏名又は名称】スピードファム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(72)【発明者】
【氏名】田辺 静顕
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘明
(72)【発明者】
【氏名】須崎 喜継
(72)【発明者】
【氏名】吉益 祐治
(72)【発明者】
【氏名】西尾 彰浩
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-319045(JP,A)
【文献】特開2015-127094(JP,A)
【文献】特開2012-081565(JP,A)
【文献】特開2010-082754(JP,A)
【文献】特開2010-157619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布とポリウレタン樹脂およびエントロピー弾性を有するエポキシ樹脂とを含む複合体であって、その圧縮弾性率が3ないし7メガパスカルであることを特徴とする半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項2】
圧縮弾性率が4ないし6メガパスカルであることを特徴とする請求項第1項に記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項3】
嵩比重が0.39ないし0.82であることを特徴とする請求項第1項または請求項第2項のいずれかに記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項4】
嵩比重が0.55ないし0.82であることを特徴とする請求項第1項または請求項第項のいずれかに記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項5】
不織布を構成する繊維がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項第1項ないし請求項第項のいずれかに記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項6】
半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッドが、多孔質体であることを特徴とする請求項第1項ないし請求項第5項のいずれかに記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッド。
【請求項7】
不織布に、ポリウレタン樹脂の前駆体、あるいは溶剤で稀釈したポリウレタン樹脂の前駆体溶液を含浸させ該ポリウレタン樹脂を発泡、凝固させたのち、エポキシ樹脂の前駆体と硬化剤、あるいは溶剤で稀釈したエポキシ樹脂の前駆体と硬化剤の溶液を含浸させ、然るのち該エポキシ樹脂を固着せしめることを特徴とする請求項第1項ないし請求項第6項のいずれかに記載の半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッドの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの外周部に形成されたノッチ部分のポリッシングを行うためのポリッシング用パッド及びその製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶等半導体素材を原材料としたIC、LSIあるいは超LSI等の電子部品は、シリコンの単結晶インゴットを薄い円盤状にスライスし表面加工をしたウェーハに多数の微細な電気回路の書き込みを行い、それを分割した小片状の半導体素子チップを基に製造されるものである。インゴットからスライスされたウェーハは、両面同時ラッピング、エッチング、更には両面同時研磨という工程を経て、鏡面ウェーハに加工される。
【0003】
その後、デバイス工程において、その鏡面加工されたウェーハ表面に微細な電気回路が書き込まれていく。そして、半導体素子チップに分割されるまでは最初の円盤状の形状を保ったまま加工が行われるのであり、各加工工程の間で洗浄、乾燥、搬送等が実施される。その間、ウェーハの外周部の形状が切り立ったままでかつ未加工の粗な状態の面であると、その部分が各工程中に装置や他物体と接触し微小破壊が起こり、微細粒子が発生したり、その粗な状態の面の中に汚染粒子を巻き込み、その後の工程でそれが散逸して精密加工を施した面を汚染し、IC、LSIあるいは超LSI等の電子部品の製品の歩留まりや品質に大きな影響を与えたりすることが多い。これを防止するために、ウェーハ加工の初期の段階で外周部の面取り加工を行い更にその部分の鏡面加工を行うことが一般に行われている。
【0004】
また、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハを加工し、IC、LSIあるいは超LSI等の電子部品に仕上げて行くにおいて、シリコン単結晶であるシリコンウェーハ等の半導体ウェーハの結晶方向を一定方向にして加工を進めていくために、半導体ウェーハの外周部に小さな切り欠き部分であるノッチ部分を形成し、この部分を基準に加工における半導体ウェーハの位置決めと方向付けを行っている。このノッチ部分の平面視形状はU字状またはV字状である。外周部は前述の通り、面取り加工を行い更に、表面と同じレベルの鏡面加工を行うのであるが、このノッチ部分の表面に対しても同じレベルの鏡面加工を施す必要がある。
【0005】
このノッチ部分の平面視形状は、前述の通りU字状またはV字状であり、その断面形状は、上下に傾斜面を有し、中央部は略直線状となっているので、その部分の鏡面加工は外周部の鏡面加工の延長線上でカバーできるものではない。
【0006】
ノッチ部分の鏡面加工方法は、例えば特許文献1に開示されているように、回転する研磨ディスクに、スラリーを供給しつつ半導体ウェーハのノッチを当接し、その接点を中心として、半導体ウェーハを傾動しながら鏡面加工を行う方法が一般的である。
【0007】
使用するポリッシング用パッドとしては、例えば特許文献2には、ゴムあるいは合成樹脂を発泡成形するなどして作製した多孔質状(スポンジ)にしたものを用いることが開示されている。更に、特許文献3には、繊維質からなる不織布クロスを円盤状に成形したものを用いることが開示されている。更には、不織布に合成樹脂を含浸した複合体よりなるポリッシング用パッドが多用されている。
【0008】
しかしながら、これらのポリッシング用パッドは、比較的高速で回転しながら高い押圧力で複雑な形状のノッチ部分に押し付けられる加工に用いられるため、不織布クロスやその複合体、合成樹脂の発泡体等はノッチ部分の複雑な形状に追随し易くすることを目的として柔軟な物性を持つように設計されている。そのため機械的強度が劣り、特にノッチ部分の鏡面加工は、微細かつ複雑な形状のノッチ部分に高い圧力を加える加工であるため、ポリッシング用パッドの磨耗、損耗が早く、ポリッシング用パッド一枚当たりの半導体ウェーハの加工枚数が少ないという問題点を有している。
【0009】
これらの問題点を解消するために、例えば特許文献4には、不織布にポリウレタン等の樹脂を付着させた研磨布をポリッシング用パッドとして使用することが開示されている。特許文献4のように不織布にポリウレタン樹脂を付着させた研磨布の場合、使用する研磨用スラリーの有する酸やアルカリによりポリウレタン樹脂が容易に加水分解され劣化するという化学的な問題点がある。ポリウレタン樹脂のみが劣化し、パッドから脱落するため、不織布のみが残存し、その繊維が髭状に露出し、その回転に伴い、半導体ウェーハのノッチ部分のみならず、外周部あるいはその表面をも損傷するという問題点も指摘されていた。同時にドレッシング等により除去された髭状体が飛散し、装置や作業環境を汚染するという問題も指摘されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-007657号公報
【文献】特開2002-198330号公報
【文献】特開平08-236490号公報
【文献】特開2006-319045号公報
【文献】特開2004-315652号公報
【文献】特開2006-111810号公報
【文献】特開平07-052014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、従来のノッチ部分のポリッシング用パッドの持つ問題点に鑑み、鋭意改良研究を行い、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドを完成するに至ったものであり、その目的とするところは、長い寿命を持ち、半導体ウェーハに損傷を与えず、しかも装置や作業環境を汚染することのない、半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題は、不織布とポリウレタン樹脂およびエントロピー弾性を有するエポキシ樹脂とを含む複合体であって、その圧縮弾性率が3ないし7メガパスカルであることを特徴とする半導体ウェーハのノッチ部分のポリッシング用パッドにより解決される。本発明にいうエントロピー弾性とは、ゴム状弾性と同義であり、エントロピー弾性を有するエポキシ樹脂とは、ゴムと同様の弾性特性を有するエポキシ樹脂を示す。即ち、非常に低い弾性率を持ち、低い力でもよく伸び自在に変形する樹脂である。本発明のエポキシ樹脂は、鏡面加工時にパッドが被る温度範囲においてエントロピー弾性を有していることが必要である。鏡面加工時にパッドが被る温度範囲は、概ね室温から180℃の範囲である。
【0013】
該ポリッシング用パッドの圧縮弾性率はないしメガパスカルの範囲であることが好ましい。本発明にいう圧縮弾性率とは、詳細には後述するが、ポリッシング用パッドに面圧0.13メガパスカルから0.33メガパスカルの範囲の圧力を加え、同圧力の範囲における圧縮弾性率を算出することにより得られるものである。
【0014】
圧縮弾性率が低いと、鏡面加工時に与える荷重がポリッシング用パッドの先端部分周辺に集中し、局部的にポリッシング用パッドが弾性限界を迎え脆くなる。その結果ポリッシング用パッドの摩耗速度が大きくなり、寿命が短くなる。また、圧縮弾性率が高いと、ポリッシング用パッドの柔軟性が不足し、ノッチ部分内面全体に均一な圧力がかからず、ノッチ部分内面に加工不十分な箇所が生じ易くなる。
【0015】
本発明のポリッシング用パッドは、その嵩比重が0.39ないし0.82であることが好ましく、より好ましくは0.55ないし0.82の範囲である。ポリッシング用パッドの嵩比重が大きいと、鏡面加工時に与える荷重では、ポリッシング用パッドが十分に変形できず、ノッチ部分の複雑な形状に追随できないため、ノッチ部分内面に加工不十分な箇所が生じ易くなる。また嵩比重が小さいと、ポリッシング用パッドの摩耗速度が大きくなり、その寿命が短くなる。
【0016】
本発明のポリッシング用パッドは、不織布とポリウレタン樹脂およびエントロピー弾性を有するエポキシ樹脂を必須成分として構成された複合体であることを特徴とする。本発明に使用される不織布とは、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいい、フェルト状のものも含む。繊維を織らずに固定する方法としては、繊維を熱的・機械的または化学的な作用によって接着、融着あるいは絡み合わせる事でシート状に形成する方法等をあげることができ、特に限定を受けるものではない。またその原料となる繊維は、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリカーボネート繊維等の有機合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、麻あるいはウール等の天然繊維、更にはガラス繊維等を挙げることができ、またこれらを混合したものも挙げることができ、特に限定を受けるものではないが、好ましくはポリエステル繊維が使用される。
【0017】
本発明に使用される合成樹脂としては、樹脂のモノマー、オリゴマー、もしくは樹脂エマルジョンに、必要に応じて樹脂の硬化剤を混合し、および/または溶剤を加え濃度が調整された樹脂が用いられる。即ち、樹脂は前駆体、あるいは溶剤で稀釈した溶液等の液体状態で不織布に含浸され、熱、光、放射線あるいは化学反応等により重合や発泡、凝固を行い不溶化し、不織布と一体化した複合体を形成するものが好適なものとして挙げられる。ノッチ部分のポリッシング用パッドという用途から見て、柔軟性を有するものが用いられ、一般的にはポリウレタン樹脂が多用されるが、このポリウレタン樹脂は、機械的強度が低いという問題点と、使用する研磨用スラリーに含まれる酸やアルカリによるポリウレタン樹脂の加水分解がもたらす選択的劣化という問題点を有することは前述の通りである。本発明の肝要は、このような問題点を有するポリウレタン樹脂の弱点を補うために、柔軟性を維持しつつ、強靭性を有するエポキシ樹脂を併用することにある。本発明における合成樹脂としては、上述のポリウレタン樹脂とエポキシ樹脂を必須成分として使用するが、他の合成樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等の併用を妨げるものではない。
【0018】
本発明において必須成分として使用するポリウレタン樹脂としては、エーテル系、エステル系もしくはカーボネート系、またはその混合物のいずれも使用可能であって、限定を受けるものではない。しかしながら、いずれも前述の機械的強度不足という問題点、および研磨用スラリーに含まれる酸やアルカリによるポリウレタン樹脂の劣化という問題点を有することは同様であって、ポリウレタン樹脂の単独使用ではこれらの問題の解決には至っていない。
【0019】
本発明の肝要は、上述のポリウレタン樹脂の他に、柔軟性を維持しつつ、強靭性を有する樹脂を併用することにある。エントロピー弾性を有するエポキシ樹脂は柔軟性を持ち、さらにエポキシ結合は強靭で、かつ耐薬品性に長けているため、これらの樹脂を併用することにより、ポリウレタン樹脂を単独で使用した場合の問題点、即ち、機械的強度不足という問題点、および使用する研磨用スラリーに含まれる酸やアルカリによるポリウレタン樹脂の加水分解がもたらす劣化という問題点を解決した。このようなエントロピー弾性を有するエポキシ樹脂としては、例えば特許文献5や特許文献6に開示されるものを挙げることができるが、特に限定を受けるものではない。その一例としてはEPICLON(登録商標)EXAシリーズ(DIC株式会社製)、アデカレジン(登録商標)EPシリーズ(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。一方、このような性質を持つエポキシ樹脂と不織布のみを組み合わせたポリッシング用パッドは、ノッチ部分に加工が不十分な部分が生じ易く、これとポリウレタン樹脂を併用することにより初めて、本発明の効果が得られるのである。
【0020】
本発明のポリッシング用パッドにおける不織布とポリウレタン樹脂とエポキシ樹脂の好ましい組成比は、特に限定されるものではないが、重量比として、不織布:ポリウレタン樹脂:エポキシ樹脂=(1~40):(5~40):(35~65)の範囲である。
【0021】
本発明のポリッシング用パッドの構造は、多孔質体であることが好ましい。即ち、不織布の持つ空隙を樹脂が充填するような構造、あるいは樹脂がポリッシング用パッドの表面に被膜を作るような構造であると、研磨用スラリーの浸透や保持が難しく、研磨速度が低下する。多孔質体であることにより、より効果的な加工が可能となる。
【0022】
本発明のポリッシング用パッドにおける合成樹脂の付与の方法としては、どのような方法も使用可能であるが、付与の順序としては、まず不織布にポリウレタン樹脂を導入した後、エポキシ樹脂を導入することが好ましい。具体的には、不織布に、ポリウレタン樹脂の前駆体、あるいは溶剤で稀釈したポリウレタン樹脂の前駆体溶液を含浸させ、該ポリウレタン樹脂を発泡、凝固させたのち、エポキシ樹脂の前駆体と硬化剤、あるいは溶剤で稀釈したエポキシ樹脂の前駆体と硬化剤の溶液を含浸させ、然るのち該エポキシ樹脂を固着せしめることが好ましい。
【0023】
不織布にポリウレタン樹脂を導入してポリウレタン樹脂を発泡させることにより、不織布の多孔質構造を固定し、次にエポキシ樹脂を導入することにより、エポキシ樹脂がポリウレタン樹脂により固定された多孔質構造の表面をコーティングする。それにより、ポリッシング用パッドの機械的強度を改善すると同時に、ポリウレタン樹脂の加水分解による劣化を遅延させることができ、ポリッシング用パッドの寿命向上を可能とした。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリッシング用パッドの特徴は、エントロピー弾性を有するエポキシ樹脂をポリウレタン樹脂と併用したことにより、ポリッシング用パッドの研磨性能を維持しながらその寿命が向上したこと、不織布から発生する髭状体の発生が極めて少ないが故に半導体ウェーハのノッチ部分やその周辺部分に損傷を与えないこと、および装置や作業環境が汚染されないことである。また、ポリッシング用パッドの弾性を最適化したことにより、ポリッシング用パッドの嵩比重が高くとも、複雑なノッチ部分の形状に沿うよう変形してノッチ部分内面全体を効率よく鏡面加工することをも可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のポリッシング用パッドを使用するノッチ部分の鏡面加工装置としては、市販のどのような装置も使用可能であるが、具体的には、例えば特許文献1に記載の鏡面加工装置、もしくは特許文献7に記載のヒモ状研摩部材を用いる鏡面研摩装置を用いることができる。ノッチ部分のポリッシング用パッドの形状については、ディスク形状、ヒモ形状もしくはテープ形状等様々な形状のものが用いられ、本発明はこれらのどの形状のものにも対応でき、特に限定を受けるものではない。
【0026】
ノッチ部分の鏡面加工の方法は、半導体ウェーハのノッチ部分と鏡面加工装置のポリッシング用パッドの当接箇所付近に、アルカリ成分と、砥粒である酸化ケイ素微粒子よりなる研磨用スラリーを供給しつつ、ポリッシング用パッドを回転もしくは走行させることにより実施できる。
【実施例
【0027】
次に実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、これにより限定を受けるものではない。
【0028】
実施例および比較例で使用するポリッシング用パッドの製造方法の概略について以下に説明する。準備した原料は、ポリウレタン樹脂、ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)、ポリエステル繊維製不織布、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、有機溶媒である。ポリウレタン樹脂は、溶液型ポリウレタン樹脂レザミン(登録商標)CU-4210(大日精化工業株式会社製)を使用した。エポキシ樹脂としては、実施例1から実施例8および比較例3から比較例7においてはEPICLON(登録商標)EXA-4850シリーズ(DIC株式会社製)の一品種を使用した。このシリーズのエポキシ樹脂の硬化物はエントロピー弾性を有するものである。エポキシ樹脂硬化剤には、JEFFAMINE(登録商標)(HUNTSMAN CORPORATION製)の一品種を使用した。また、実施例9および実施例10においては、アデカレジン(登録商標)EPシリーズ(株式会社ADEKA製)のエポキシ樹脂の一品種を使用した。このシリーズのエポキシ樹脂の硬化物も同様にエントロピー弾性を有するものである。エポキシ樹脂硬化剤には、JEFFAMINE(登録商標)(HUNTSMAN CORPORATION製)の一品種を使用した。比較例1及び比較例2で使用したポリッシング用パッドは市販のものであり、不織布とウレタン樹脂よりなるものであってエポキシ樹脂は使用されていない。
【0029】
工程1:ポリウレタン樹脂の導入
1.ポリウレタン樹脂をDMFに溶解する。
2.ポリウレタン樹脂のDMF溶液に不織布を浸漬させる。
3.ポリウレタン樹脂を含浸した不織布を引き上げ、水に浸漬し、ポリウレタン樹脂を発泡、凝固させる。
4.水を絞った後、乾燥する。
【0030】
工程2:エポキシ樹脂の導入
5.エポキシ樹脂と硬化剤と有機溶媒を混合し、エポキシ樹脂溶解液を作製する。
6.前記エポキシ樹脂溶解液に工程1で作製したポリウレタン樹脂含浸不織布を浸漬する。
7.エポキシ樹脂溶解液を含浸したポリウレタン樹脂含浸不織布を引き上げ、加熱して有機溶媒を除き、さらに加熱を続けてエポキシ樹脂を重合させる。
【0031】
工程3:成型
8.工程2で作製したポリウレタン樹脂・エポキシ樹脂含浸不織布の厚みを整え、外径200mmのリングを打ち抜く。
9.リングの外周部を半導体ウェーハのノッチ部分の形状に沿うよう山型に加工する。
【0032】
本発明の実施例、比較例で使用するポリッシング用パッドの圧縮弾性率の測定方法は以下の通りである。即ち、圧縮弾性率の測定には小型卓上試験機EZ-LX(島津製作所株式会社製)を使用した。作製したポリッシング用パッドから、30mm角、厚み4.5mmの試験片を作製した。試験片を試験機に装着して0.5mm/分の速度で圧縮し、圧縮距離-圧力曲線を測定した。圧縮距離-圧力曲線の圧力0.13メガパスカルから0.33メガパスカルの範囲の直線の勾配からポリッシング用パッドの圧縮弾性率を測定した。圧縮距離-圧力曲線において、圧力0.13メガパスカルから0.33メガパスカルの範囲のデータが直線から外れる場合、その範囲のデータを一次回帰法にて直線近似を行い、その近似直線の勾配を用いて圧縮弾性率を算出した。圧力0.13メガパスカルから0.33メガパスカルの範囲は、ノッチ部分内の鏡面加工時に加工面の各部分に実際に付与される圧力の範囲と推定しており、この範囲に注目して測定を行った。
【0033】
ポリッシング用パッドの嵩比重は以下の方法で求めた。厚みを整えたポリッシング用パッドから50mm角の試験片を切り取り、厚みを測定して嵩容積を算出する。次にその試験片の重量を測定後、試験片の重量を試験片の嵩容積で除してポリッシング用パッドの嵩比重を求めた。
【0034】
本発明の実施例、比較例で使用するポリッシング用パッドのアスカーC硬度は、アスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製)を使用して測定したものである。
【0035】
本発明のポリッシング用パッドの評価項目として用いられる「寿命比」は以下の方法にて測定される。即ち、前述の方法にて作製したポリッシング用パッドを用いて下記の加工条件で200枚の半導体ウェーハ(本実施例においては、シリコンウェーハを用いた。以下「シリコンウェーハ」とする。)を鏡面加工した後、ポリッシング用パッドの直径の減少量を、市販のノッチ部分のポリッシング用パッドの減少量と比較して求めた。具体的には、比較例1に用いた市販のノッチ部分のポリッシング用パッドの直径の減少量を1とし、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドの直径の減少量との比からポリッシング用パッドの寿命比を算出した。
【0036】
本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドおよび比較例の評価を行うための鏡面加工装置、鏡面加工条件および被研磨物を以下に示す。
装置:エッジ研磨装置 EP‐200XW(スピードファム株式会社製)に付属するノッチ加工部
ポリッシング用パッド回転速度:800min-1
荷重:10ニュ-トン(N)
加工時間:30秒
研磨剤:PURE EDGE(登録商標)-203(スピードファム株式会社製)
被研磨物:200mmφシリコンウェーハ
【0037】
本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドおよび比較例の研磨能力を比較した。即ち、ノッチ部分内面の鏡面加工を施していないシリコンウェーハを上述の加工条件で、鏡面加工を施し、顕微鏡を用いてノッチ内部の状態観察を行った。以下の基準により加工後の状態を評価した。
A:完全に鏡面加工ができている。
B:ほぼ鏡面加工ができている。
C:部分的に研磨が不十分な箇所が認められる。
【0038】
実施例1-10
表1に実施例1-10に使用したノッチ部分のポリッシング用パッドの、不織布、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂の比率(重量比)、上述の方法にて測定した物性値、および評価の結果を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
比較例1-7
表2に比較例1-7に使用したノッチ部分のポリッシング用パッドの、不織布、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂の比率(重量比)、上述の方法にて測定した物性値、および評価の結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2において、*1は不織布とポリウレタン樹脂よりなるノッチ部分のポリッシング用パッドであって、市販品である。また、*2は不織布とエポキシ樹脂よりなるノッチ部分のポリッシング用パッドである。本発明において、表1、表2に示す通り、アスカーC硬度は実施例と比較例の間で相関はなかった。
【0043】
上述の表1に示す実施例において、作製したノッチ部分のポリッシング用パッドは、ポリエステル製の不織布と、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂よりなる複合体であり、3メガパスカルないし7メガパスカルの範囲内の圧縮弾性率を有するものである。いずれも市販品の倍以上の寿命比を示し、研磨能力もいずれもAまたはBのランクにあり、Cランクのものは無かった。
【0044】
表2に示す比較例において、比較例1および比較例2のノッチ部分のポリッシング用パッドは、市販品であってエポキシ樹脂を含まないものである。研磨能力は優れているが、たとえ、圧縮弾性率が3メガパスカルないし7メガパスカルの範囲内にあってもエポキシ樹脂を含まないため、寿命比は低い。即ち、この点を改善することが、本発明が目的とする課題であり、この比較例により、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドは、エポキシ樹脂を含むことが必須条件であることが証明された。
【0045】
比較例3および比較例4のノッチ部分のポリッシング用パッドは、実施例と同様にポリエステル製の不織布と、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂よりなる複合体であり、嵩比重は本発明の範囲内(0.39~0.82)ではあるが、圧縮弾性率が3メガパスカル未満である。研磨能力は良好であるが、寿命比は低く、問題点の解決には至っていない。
【0046】
比較例5のノッチ部分のポリッシング用パッドはポリエステル製の不織布と、エポキシ樹脂よりなる複合体であり、その圧縮弾性率は8.36メガパスカルである。このポリッシング用パッドは寿命比の試験中、シリコンウェーハの破損が多いため試験を中止した。
【0047】
比較例6および比較例7のノッチ部分のポリッシング用パッドはポリエステル製の不織布と、エポキシ樹脂よりなる複合体であり、ポリウレタン樹脂を含まないものである。圧縮弾性率は4メガパスカルから5メガパスカルであり、3メガパスカルないし7メガパスカルの範囲にあるが、ウレタン樹脂を含まないため、研磨能力、寿命比ともに良好な結果は得られていない。この比較例により、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドは、ポリウレタン樹脂を含むことが必須条件であることが証明された。
【0048】
以上述べた実施例、比較例の結果から明らかな通り、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドは、シリコンウェーハのノッチ部分の鏡面加工に優れた効果を示す。なお、本発明のポリッシング用パッドの適用範囲は、上記各実施例の実施態様のみに限定されるものではなく、ノッチ部分の鏡面加工以外、例えば鏡面加工時に局所的な圧力がかかるような加工(例えば外周部の鏡面加工)などにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、本発明のノッチ部分のポリッシング用パッドは、その研磨性能およびその寿命は格段に改善され、寿命が改善されたことによりノッチ部分のポリッシング用パッドの交換頻度が減少し、それにより作業効率の著しい向上が可能となるとともに、加工後のノッチ部分の品質が顕著に向上された。このことは、その後工程での半導体素子チップの収率向上および品質向上に顕著に寄与するものであり、本発明の産業界に資すること極めて大である。