(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】誘電体組成物及び積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
H01B 3/12 20060101AFI20220621BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220621BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01B3/12 303
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/30 201A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
H01G4/30 512
C04B35/468
(21)【出願番号】P 2021124728
(22)【出願日】2021-07-29
(62)【分割の表示】P 2018018063の分割
【原出願日】2018-02-05
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0146492
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ユン、キ ミョン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ドン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジェ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ハム、テ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ヒョン スン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン ハン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ウク
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-224653(JP,A)
【文献】特開2009-44017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/468
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層を間に挟んで交互に配置される第1及び第2内部電極を含む本体と、前記本体に前記第1及び第2内部電極とそれぞれ接続されるように配置される第1及び第2外部電極と、を含み、
前記誘電体層は、Ba
mTiO
3(0.995≦m≦1.010)を含み、複数の結晶粒、及び隣接する結晶粒間に形成される結晶粒界を含み、
前記結晶粒界は、SiとDyの合計が、結晶粒界の全体酸化物100重量部に対して10~15重量部である、積層型電子部品。
【請求項2】
誘電体組成物を含む誘電体層を間に挟んで交互に配置される第1及び第2内部電極を含む本体と、前記本体に前記第1及び第2内部電極とそれぞれ接続されるように配置される第1及び第2外部電極と、を含み、
前記誘電体組成物が、
Ba
mTiO
3(0.995≦m≦1.010)、または
カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)が一部固溶されて修正された(Ba,Ca)(Ti,Zr)O
3、Ba(Ti,Zr)O
3、(Ba,Ca)(Ti,Sn)O
3を含む母材と、
マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の何れかの原子価可変アクセプタ(variable valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩、及びマグネシウム(Mg)またはジルコニウム(Zr)の何れかの原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩を含む第1副成分と、
ケイ素(Si)を含む酸化物または炭酸塩、あるいはSiを含むガラス(glass)を含む第2副成分と、
BaOまたはBaCO
3を含む第3副成分と、
Dy及びV
2O
5を含む第4副成分と、を含み、
隣接する誘電体組成物の結晶粒(grain)間に形成される結晶粒界内のSiとDyの合計が、結晶粒界の全体酸化物100重量部に対して10~15重量部である、積層型電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層の前記結晶粒界におけるSiに対するDy(Dy/Si)の割合が1.0~1.6である、請求項1または2に記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層は、前記結晶粒界の厚さが0.7~1.5nmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記誘電体層の誘電体結晶粒界は、コア(core)-シェル(shell)の構造を有する結晶粒を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項6】
前記結晶粒(grain)のサイズが50~500nmである、請求項1から5のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層の厚さが0.9μm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項8】
前記結晶粒界の厚さ偏差(厚さの標準偏差/厚さの平均値)×100が10以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項9】
前記第1及び第2内部電極はNiまたはNi合金を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の積層型電子部品。
【請求項10】
前記Ni合金は、
Niと、
Mn、Cr、Co、S、Sn、及びAlから選択される1種以上を含む、請求項9に記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物及び積層型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のスマートフォンには、最大1,000個近くの多数の積層型電子部品が使用される場合があるため、積層型電子部品の小型化及び大容量化に対する要求が高まっている。
【0003】
かかる要求を実現するためには、誘電体層及び内部電極の薄層化が必ず伴わなければならない。そのため、最近の誘電体層には500nmレベルの薄層化が要求されるのが実情である。
【0004】
しかし、このように誘電体層が薄層化すると、層間に印加される電圧が大きくなり微細構造上の欠陥が発生する。その結果、BDV及び高温IRなどの耐電圧特性が悪化して、信頼性を確保することが難しくなる。
【0005】
そこで、積層型電子部品を製造する業界では、誘電体層を薄層化するとともに、信頼性の低下を最小限に抑えながら高誘電特性の実現が可能な誘電体組成物に対する技術を確保できるか否かが重要となり、かかる事項は今後、市場の先取りと技術先導に与える重要因子として作用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-287046号公報
【文献】特開2012-129508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高誘電特性を実現しながら、薄層化による信頼性の低下を防止することができる誘電体組成物及び積層型電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、BamTiO3(0.995≦m≦1.010)、またはカルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)が一部固溶されて修正された(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3を含む母材粉末と、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の何れかの原子価可変アクセプタ(variable valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩、及びマグネシウム(Mg)またはジルコニウム(Zr)の何れかの原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩を含む第1副成分と、ケイ素(Si)を含む酸化物または炭酸塩、あるいはSiを含むガラス(glass)を含む第2副成分と、BaOまたはBaCO3を含む第3副成分と、Dy及びV2O5を含む第4副成分と、を含み、隣接する誘電体組成物間に形成される結晶粒界内のSiとDyの合計が、結晶粒界の全体酸化物100重量部に対して10~15重量部である誘電体組成物を提供する。
【0009】
本発明の一実施例において、上記第1副成分のMgが、全体酸化物または炭酸塩100重量部に対して0.5重量部以下であることができる。
【0010】
本発明の一実施例において、上記第2副成分が、アルミニウム(Al)を含む酸化物または炭酸塩をさらに含むことができる。
【0011】
本発明の一実施例において、上記第4副成分が、Y、Gd、Sm、Nd、Tb、Eu、Yb、Er、Luの何れかの希土類元素をさらに含むことができる。
【0012】
本発明の他の側面は、誘電体層を間に挟んで交互に配置される第1及び第2内部電極を含む本体と、上記本体に上記第1及び第2内部電極とそれぞれ接続されるように配置される第1及び第2外部電極と、を含み、上記誘電体層は、BamTiO3を含み、複数の結晶粒、及び隣接する結晶粒間に形成される結晶粒界を含み、上記結晶粒界は、SiとDyの合計が10~15重量部である積層型電子部品を提供する。
【0013】
本発明の一実施例において、上記誘電体層の結晶粒界におけるSiに対するDy(Dy/Si)の割合が1.0~1.6であることができる。
【0014】
本発明の一実施例において、上記誘電体層は、結晶粒界の厚さが0.7~1.5nmであることができる。
【0015】
本発明の一実施例において、上記誘電体層の誘電体結晶粒界は、コア(core)-シェル(shell)の構造を有する結晶粒を含み、上記結晶粒(grain)のサイズが50~500nmであり、上記誘電体層の厚さが0.9μm以下であることができる。
【0016】
本発明の一実施例において、上記結晶粒界の厚さ偏差(厚さの標準偏差/厚さの平均値)×100が10以下であることができる。
【0017】
本発明の一実施例において、上記第1及び第2内部電極は、NiまたはNi合金を含むことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によると、誘電体層の厚さを薄くしても、従来の誘電体組成物を使用する場合と同等のレベルの容量を実現することができ、結晶粒界の絶縁抵抗を向上させることで、積層型電子部品の信頼性を確保することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による積層型電子部品を概略的に示す斜視図である。
【
図4】誘電体層の厚さが約0.7μm、定格電圧が6.3V、長さ及び幅が0.6mm×0.3mmである積層型キャパシタにおける加速寿命を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】誘電体層の厚さが約0.7μm、定格電圧が6.3V、長さ及び幅が0.6mm×0.3mmである積層型キャパシタにおける加速寿命を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】粒界層のラインプロファイルを示すTEM写真である。
【
図7】成分分析時の電子線位置を示すTEM写真である。
【
図8】粒界層を正確に判断するために、
図6のラインプロファイルで観察される対比(contrast)差による粒界層の厚さを算出することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(又は強調表示や簡略化表示)がされることがあり、図面上の同一の符号で示される要素は同一の要素である。
【0021】
さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に反対である記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0022】
図1~
図3を参照すると、本実施形態による積層型電子部品100は、本体110と、第1及び第2外部電極131、132と、を含む。
【0023】
本体110は、誘電体層111と異なる極性を有し、且つ誘電体層111を間に挟んで交互に積層される第1及び第2内部電極121、122を含む。
【0024】
本体110は、形状に特に制限はないが、直方体状であることが好ましい。
【0025】
また、本体110は、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適切な寸法で形成することができる。
【0026】
そして、本体110内の上端及び下端には、カバー112、113がそれぞれ設けられることができる。
【0027】
誘電体層111の厚さは、キャパシタの容量設計に応じて任意に変更することができる。この際、誘電体層111の厚さが薄すぎると、一層内に存在する結晶粒の数が少ないため、信頼性に悪影響を与える可能性がある。
【0028】
第1及び第2内部電極121、122は、各端面が本体110の対向するX方向における両端面に露出するように積層されることができる。
【0029】
かかる第1及び第2内部電極121、122に含有される導電材は、特に限定されないが、誘電体層111を構成する材料が耐還元性を有しながら、Niなどの金属を用いることができる。
【0030】
また、本実施形態の誘電体組成物で誘電体層を形成すると、1,300℃以下の還元雰囲気で焼成が可能となるため、内部電極の材料としてNiまたはNi合金を用いることができ、これにより、積層型電子部品の誘電率を高め、高温耐電圧特性を向上させることができる。
【0031】
この際、上記Ni合金としては、Niと、Mn、Cr、Co、S、Sn、及びAlから選択される1種以上の元素を用いることができる。
【0032】
第1及び第2外部電極131、132は、本体110の両端部にそれぞれ配置され、本体110の内部に交互に配置される第1及び第2内部電極121、122とそれぞれ接続されて電気的に連結される。
【0033】
第1及び第2外部電極131、132は、本体110のX方向における両端部を包み込む形で形成され、本体110の第3面及び第4面に交互に露出する第1及び第2内部電極121、122の端面に接続されて電気的に連結されることでキャパシタ回路を構成することができる。
【0034】
この際、第1及び第2外部電極131、132に含有される導電材としては、特に限定されないが、導電性に優れたNi、Cu、またはこれらの合金を用いることができる。
【0035】
本実施形態において、本体110を構成する誘電体層111は、耐還元性誘電体組成物を含有することができ、上記誘電体組成物は、還元雰囲気で焼成可能なEIA規格に明示されたX5RまたはX7Rの特性を満たす。
【0036】
本実施形態による誘電体組成物は、BamTiO3(0.995≦m≦1.010)、またはカルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)が一部固溶されて修正された(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3を含む母材粉末と、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の何れかの原子価可変アクセプタ(variable valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩、及びマグネシウム(Mg)またはジルコニウム(Zr)の何れかの原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩を含む第1副成分と、ケイ素(Si)を含む酸化物または炭酸塩、あるいはSiを含むガラス(glass)を含む第2副成分と、BaOまたはBaCO3を含む第3副成分と、Dy及びV2O5を含む第4副成分と、を含む。
【0037】
以下、本発明の一実施形態による誘電体組成物の各成分をより具体的に説明する。
【0038】
a)母材粉末
母材粉末は、誘電体の主成分であって、BamTiO3(0.995≦m≦1.010)系誘電体粉末を用いることができる。
【0039】
この際、m値が0.995未満の場合、還元性雰囲気焼成によって容易に還元されて、半導性物質に変わりやすく、m値が1.010を超えると、焼成温度が上がりすぎるという問題が発生する可能性がある。
【0040】
また、母材粉末は、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)が一部固溶されて修正された(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、Ba(Ti,Zr)O3、(Ba,Ca)(Ti,Sn)O3を含むことができる。
【0041】
b)第1副成分
第1副成分としては、原子価可変アクセプタ(variable valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩、及び原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素酸化物または炭酸塩を含むことができる。
【0042】
原子価可変アクセプタ(variable valence acceptor)元素は、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の何れかであればよく、原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素は、マグネシウム(Mg)またはジルコニウム(Zr)の何れかであればよい。
【0043】
上記原子価固定アクセプタ元素酸化物または炭化物は、耐還元性を付与し、誘電率を向上させ、より安定した高温加速寿命を維持する役割を果たすが、酸化物または炭化物の形態は特に制限されるものではない。
【0044】
c)第2副成分
第2副成分としては、ケイ素(Si)を含む酸化物または炭酸塩、あるいはSiを含むガラス(glass)を含むことができる。第2副成分は、焼結温度を低下させ、主成分である母材粉末または他の副成分と反応して焼結性を促進させる役割を果たすことができる。
【0045】
また、上記第2副成分は、アルミニウム(Al)を含む酸化物または炭酸塩をさらに含むことができる。
【0046】
d)第3副成分
第3副成分としては、BaOまたはBaCO3を含むことができる。第3副成分は、耐還元性及び粒成長を制御し、焼結安定性を付与する役割を果たす。
【0047】
e)第4副成分
第4副成分としては、Dy及びV2O5を含むことができる。第4副成分は、信頼性を改善させる役割を果たす。
【0048】
また、上記第4副成分は希土類元素をさらに含むことができる。上記希土類元素は、高温加速寿命を向上させ、相転移温度(Tc)以上における容量変化を安定化させ、所望の温度特性を確保する役割を果たす。
【0049】
この際、希土類元素は、Gd、Sm、Nd、Tb、Eu、Yb、Er、及びLuからなる群より選択された少なくとも一つの元素であってもよいが、本発明の希土類元素はこれに限定されるものではない。
【0050】
本実施形態の誘電体層111は、上記誘電体組成物を含むセラミック粒子(結晶粒)と、上記セラミック粒子間に存在する粒界部(結晶粒界)とからなることができる。
【0051】
この際、上記セラミック粒子は、コア部111aと、コア部111aを囲むシェル(shell)部111bとからなることができ、コア部111aまたはシェル部111bに上記誘電体組成物の第1~第4副成分が偏在して含まれることができる。
【0052】
また、上記セラミック粒子は、隣接している二つの結晶粒(grain)間に存在する結晶粒界(grain boundary)に位置することができる。
【0053】
この際、誘電体層111の誘電体結晶粒界は、コア(core)-シェル(shell)の構造を有する結晶粒を含み、上記結晶粒(grain)のサイズは50~500nmであることができ、誘電体層の厚さは0.9μm以下であることができる。
【0054】
また、本実施形態では、全体酸化物100重量部に対して、結晶粒界内に第2副成分のSiと第4副成分のDyの合計が10~15重量部であることができる。この際、上記合計とは、SiをSiO2に換算し、DyはDy2O3酸化物に換算し、その他Mg、Al、Ti、V、Mn、Ni、Zr、Ba、Dyなどもそれぞれの酸化物に換算したときの、全体酸化物100重量部に対する含有量のことである。
【0055】
これにより、酸素空孔の欠陥濃度が低くなり、結晶粒界における弱い部分が改善されて、誘電率とBDV散布及び高温におけるIR劣化(degradation)が改善されることができる。
【0056】
また、誘電体層の結晶粒界におけるSiに対するDyの濃度比(Dy/Si)は、1.0~1.6であることができる。
【0057】
また、誘電体層は、結晶粒界の厚さが0.7~1.5nmであることができる。
【0058】
結晶粒界の厚さが1.5nmを超えると、結晶粒界の分率が増加する一方で結晶粒(grain)の分率は相対的に減少するため、誘電率が低下する可能性がある。また、副成分の含有量が過剰になって耐電圧が減少する可能性があるため、結果的に積層型電子部品の電気的特性及び信頼性が劣化するおそれがある。
【0059】
結晶粒界の厚さが0.7nm未満の場合は、粒界の均一性が低下して電界が一箇所に集中するようになって、積層型電子部品の信頼性を低下させることがある。
【0060】
なお、結晶粒界の厚さ偏差CVは10以下であることができる。ここで、CVは、標準偏差/平均値×100によって求める。
【0061】
結晶粒界の厚さ偏差CVが10を超えるということは、粒界の厚さが全体的に不均一であることを意味する。この場合、誘電体層が不均一に粒成長して不均一な粒界を形成するようになり、結果的にキャパシタ本体に電気的に弱い部分を形成するようになって積層型電子部品の信頼性を劣化させる可能性がある。
【0062】
従来の積層型電子部品は、誘電体層を薄層化すると、単位誘電体当たりの結晶粒界の分率低下を伴って結晶粒内部(grain interior)に比べて結晶粒界(grain boundary)の絶縁抵抗が高くなる。これに対し、本実施形態によると、薄層化しても、高絶縁抵抗を維持することができるようになる。
【0063】
下記実験例では、結晶粒界内のSiとDyを一定の濃度以上となるよう分離(segregation)させるために、誘電体組成物の添加剤の含有量を調節し、最終の積層型電子部品の誘電体層の結晶粒界内から検出される添加剤の濃度を異ならせて信頼性をチェックした。
【0064】
この際、以下のような工程を経てX5R特性の積層型セラミックキャパシタを作製し、誘電体組成の制御による最終製品の誘電体層-結晶粒界から検出される添加剤の含有量に応じて、BDV散布、高温信頼性の結果を評価して下記表のとおり示した。
【0065】
実験例
実験に用いられた積層型キャパシタの製造工程は以下のとおりである。
【0066】
まず、誘電体組成物は、母材粉末として100nm級のBaTiO3を使用し、副成分としてDy2O3、BaCO3、Mn3O4、V2O5、Al2O3、SiO2、MgCO3を使用する。
【0067】
ここで、BaTiO3100モル(mol)に対して2モル%のDy2O3、2.5モル%のBaCO3、0.25モル%のMn3O4、0.25モル%のV2O5、0.5モル%のAl2O3、0.5モル%のMgCO3を使用した。
【0068】
この際、表1に記載された組成及び含有量に応じてSiO2及びDy2O3の含有量をさらに調節して原料粉末を作成し、ジルコニアボールを混合/分散媒体として使用し、エタノール及びトルエンを溶媒にして、上記原料粉末を分散剤及びバインダーと混合した後、約20時間ボールミリング(milling)を行った。また、誘電体シートの強度を実現するためのバインダーを混合してスラリーを製造した。
【0069】
このように製造されたスラリーは、X5R MLCC試片を製作するために小型ドクターブレード(doctor blade)方式のコーター(coater)を用いて加工し、厚さ1.0μmのセラミックシートを製造した。
【0070】
次に、成形されたセラミックシートにNiで内部電極を印刷した後、上下カバーとして厚さ3μmのシート層30個分をそれぞれ積層して積層体を作成し、圧着工程を経て圧着バー(bar)を作製した上で、この圧着バーをカッターを用いて長さ及び幅がそれぞれ1.0mm×0.5mm及び0.6mm×0.3mmサイズのチップに切断した。
【0071】
このように切断されたチップを、脱バインダーのために、400℃のエア雰囲気中で仮焼してから、約1,130℃の水素濃度0.1%H2の条件で1時間焼成した。その後、焼成されたチップを、1,000℃のN2雰囲気で3時間にわたって再酸化熱処理し、Cuペーストでターミネーション工程及び電極焼成を経て外部電極を完成した後、積層型キャパシタの容量、BDV散布、高温150℃における電圧ステップ(step)の増加による抵抗劣化を測定した。
【0072】
この際、誘電体層の結晶粒は500nm以下、誘電体層の厚さは0.9μm以下とする。
【0073】
評価
チップの常温静電容量及び誘電損失は、LCRメーター(meter)を用いて、1kHz、AC0.5V/μmの条件で容量を測定した。また、絶縁破壊電圧(BDV:break down voltage)散布とは、各実施例ごとに20個ずつサンプルを取って測定した値の平均値に対する最小値の割合のことである。BDV最小値が平均値に比べて60%未満であれば不良と判定した。
【0074】
高温信頼性テスト(high accelerated life test)は、各実施例ごとに40個ずつサンプルを取り、105℃、AC17V/μmの条件で3時間にわたってIRを5秒ごとに測定したものである。また、高温IR散布とは、絶縁抵抗値が10E8 ohm以下に減少するチップの頻度のことである。
【0075】
下記表1は、SiとDyの含有量、及びSiに対するDyの重量比に応じて変化する積層型キャパシタのBDV散布及び高温信頼性をそれぞれ示すものである。ここで、BDV散布は、BDV最小値が平均値に比べて80%以上の場合を「○」(良好)、BDV最小値が平均値に比べて60%以上の場合を「△」(普通)、及びBDV最小値が平均値に比べて60%未満の場合を「×」(不良)と判定して示した。これと類似に、高温IR散布は高温信頼性の最小値が1.E+0.8 ohm以上の場合を「○」(良好)、高温信頼性の最小値が1.E+0.7 ohm以上の場合を「△」(普通)、及び高温信頼性の最小値が1.E+0.7 ohm未満の場合を「×」(不良)と判定して示した。
【0076】
【0077】
表1を参照すると、結晶粒界における各添加剤の含有量は、混合/分散工程後に添加する添加剤の性状及び含有量に応じて変化する。
【0078】
実験全体から、DyとSiの濃度はおおむねともに増加する傾向にあることが確認された。これによる積層型キャパシタの信頼性特性は、0.6umの超薄層におけるBDV散布及び高温における高絶縁抵抗を確保するために、結晶粒界内のSi+Dyの濃度が酸化物100重量部に対して10~15重量部であることが好ましい。
【0079】
図4及び
図5は、誘電体層の厚さが約0.7μm、定格電圧が6.3V、長さ及び幅が0.6mm×0.3mmである積層型キャパシタにおける加速寿命を測定した結果を示すグラフである。
図4に示すカラーラインは上記表1の#11の特性を有する40個の積層型キャパシタをそれぞれ示す。また、
図5に示すカラーラインは上記表1の#1の特性を有する40個の積層型キャパシタをそれぞれ示す。
【0080】
図4のように、高温IR(insulation)は40個のサンプルに対して、グラフの横軸のとおり3時間にわたって測定が行われ、グラフに示された各ラインは、試験を行った40個のサンプルから導出される高温IRのレベル(level)をそれぞれ示す。
【0081】
そして、1.E+06から1.E+0.9までの範囲内に測定された値を正常と判断する。
【0082】
図4を参照すると、結晶粒界内のSiとDyの合計含有量が全体酸化物100重量部に対して10重量部以上の場合は、85℃のすべてのサンプルの高温IRのレベルが10
8Ω以上で維持されることが分かる。
【0083】
また、結晶粒界内のSiとDy合計含有量が全体酸化物100重量部に対して10重量部未満の場合は、
図5に示すように、85℃の一部のサンプルの高温IRのレベルが10
8Ω以下に減少するようになる。
【0084】
下記表2は、上記表1のいくつかのサンプルに対して、結晶粒界におけるDy/Siの割合による積層型キャパシタの特性をそれぞれ示すものである。
【0085】
【0086】
表2は、表1の結晶粒界内においてSi+Dyの合計が10~15重量部のサンプルのうちDy/Siに対するチップの特性を示すものである。
【0087】
表2を参照すると、誘電体層の結晶粒界において、Siに対するDyの重量比が1.0~1.6であるサンプル9、11~13、15、及び20で結晶粒界がさらに均一になり、結晶粒界の絶縁抵抗が十分に確保されて積層型電子部品の誘電率低下がさらに減少するようになるため、信頼性をより向上させることができることが確認できる。これに対し、Dy/Siが0.87であるサンプル19の場合には高温信頼性が低く示された。
【0088】
図6は粒界層のラインプロファイルを示すTEM写真であり、
図7は成分分析時の電子線位置を示すTEM写真であり、
図8は粒界層を正確に判断するために、
図6のラインプロファイルで観察される対比(contrast)差による粒界層の厚さを算出することを示すグラフである。
【0089】
まず、FIBマイクロサンプリングによるTEM観察用薄膜試料を作製する。そして、薄膜試料にArミリング処理を行い、厚さ約80nmの薄膜試料で粒界層観察用STEM試料を製作する。
【0090】
そして、電子線のプローブ径を約0.5nmとし、粒界層に対する分析を行う。この際、入射電子線に対して傾斜のない粒界層に対してのみ分析を行う。
【0091】
図6及び
図8は粒界層の厚さを定義するための測定方法を示すものである。
図6及び
図8を参照すると、粒界層のHAADF-STEM画像(倍率×2.25M)のように、粒界層のラインプロファイルから示されるピーク(peak)の半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を測定して粒界層の厚さと定義し、粒界層の成分分析は、同等の厚さを有する領域に対して比較分析する。
【0092】
そして、
図7に示すように、粒界層の成分分析結果は、上記傾斜のない粒界層とプローブ径に対する条件で粒界層の一点に電子線を照射して、EDS分析を行うことにより得ることができる。この際、各サンプルに対して、20点ずつ測定して平均値を算出した。
【0093】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0094】
100 積層型電子部品
110 本体
111 誘電体層
112、113 カバー
121、122 第1及び第2内部電極
131、132 第1及び第2外部電極