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特許7091644鞍乗型車両のエンジン制御方法およびエンジン制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】鞍乗型車両のエンジン制御方法およびエンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20220621BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20220621BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
F02D29/02 K
F02D29/02 311Z
F02D29/02 321C
F02D41/04
F02D41/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017237168
(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公開番号】P2019105182
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴
(72)【発明者】
【氏名】出口 宏海
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-041356(JP,A)
【文献】特開2010-084570(JP,A)
【文献】特開2003-065140(JP,A)
【文献】特開2008-274847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両のエンジンを制御するエンジン制御方法であって、
前記鞍乗型車両の傾斜角を検出する傾斜センサが異常状態であるか否かを判断する傾斜センサ状態判断工程と、
前記傾斜センサ状態判断工程において前記傾斜センサが異常状態であると判断されたときに、前記エンジンの出力を制限する出力制限工程と、
前記鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する非駆動輪状態判断工程と、
前記鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する駆動輪状態判断工程と、
記エンジンの停止制御を行うエンジン停止制御工程とを備え、
前記エンジン停止制御工程では、前記出力制限工程において前記エンジンの出力が制限された状態において、前記非駆動輪状態判断工程における判断および前記駆動輪状態判断工程における判断に基づいて、前記非駆動輪が実質停止状態でありかつ前記駆動輪が実質回転状態であるという状態が、所定時間継続したことが認識されたときに、記エンジンの停止制御を行うことを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項2】
前記鞍乗型車両のアクセルが全閉状態か否かを判断するアクセル状態判断工程をさらに備え、
前記エンジン停止制御工程では、前記出力制限工程において前記エンジンの出力が制限された状態において、前記アクセル状態判断工程における判断、前記非駆動輪状態判断工程における判断および前記駆動輪状態判断工程における判断に基づいて、前記アクセルが全閉状態であり前記非駆動輪が実質停止状態でありかつ前記駆動輪が実質回転状態であるという状態が、所定時間継続したことが認識されたときに、記エンジンの停止制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御方法。
【請求項3】
前記エンジン停止制御工程では、前記傾斜センサ状態判断工程において前記傾斜センサが異常状態でないと判断され、かつ前記傾斜センサの検出結果に基づき、前記鞍乗型車両の傾斜角が所定の転倒判断基準角度以上であるときに前記鞍乗型車両のエンジンの停止制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御方法。
【請求項4】
鞍乗型車両のエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記鞍乗型車両の傾斜角を検出する傾斜センサが異常状態であるか否かを判断する傾斜センサ状態判断部と、
前記傾斜センサ状態判断部により前記傾斜センサが異常状態であると判断されたときに、前記エンジンの出力を制限する出力制限部と、
前記鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する非駆動輪状態判断部と、
前記鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する駆動輪状態判断部と、
記エンジンの停止制御を行うエンジン停止制御部とを備え、
前記エンジン停止制御部は、前記出力制限部により前記エンジンの出力が制限された状態において、前記非駆動輪状態判断部による判断および前記駆動輪状態判断部による判断に基づいて、前記非駆動輪が実質停止状態でありかつ前記駆動輪が実質回転状態であるという状態が、所定時間継続したことが認識されたときに、記エンジンの停止制御を行うことを特徴とするエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車等の鞍乗型車両のエンジン制御方法およびエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサを用いて車体の傾斜を検出し、これに基づいて車体が転倒したと判断されたときにエンジンの停止制御を行う自動二輪車が知られている(例えば下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-71703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加速度センサは高価である。それゆえ、低価格帯の鞍乗型車両においては、加速度センサよりも安価な検出手段を用いて車体転倒時のエンジン停止制御を行うことが望まれる。
【0005】
また、加速度センサにより検出した車体の傾斜に基づき車体の転倒を判断してエンジン停止制御を行う鞍乗型車両において、例えば加速度センサが故障した場合に備え、車体の転倒判断を可能にする予備の検出手段を設けることが要求されることがある。この場合、鞍乗型車両に2つの加速度センサを設け、通常時には一方の加速度センサで車体の傾斜を検出し、当該一方の加速度センサが故障したときには他方の加速度センサで車体の傾斜を検出することが考えられる。しかしながら、鞍乗型車両の価格の上昇を抑えるために、予備の検出手段として、加速度センサよりも安価な検出手段が望まれる。
【0006】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができるエンジン制御方法およびエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のエンジン制御方法は、鞍乗型車両のエンジンを制御するエンジン制御方法であって、前記鞍乗型車両の傾斜角を検出する傾斜センサが異常状態であるか否かを判断する傾斜センサ状態判断工程と、前記傾斜センサ状態判断工程において前記傾斜センサが異常状態であると判断されたときに、前記エンジンの出力を制限する出力制限工程と、前記鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する非駆動輪状態判断工程と、前記鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する駆動輪状態判断工程と、前記エンジンの停止制御を行うエンジン停止制御工程とを備え、前記エンジン停止制御工程では、前記出力制限工程において前記エンジンの出力が制限された状態において、前記非駆動輪状態判断工程における判断および前記駆動輪状態判断工程における判断に基づいて、前記非駆動輪が実質停止状態でありかつ前記駆動輪が実質回転状態であるという状態が、所定時間継続したことが認識されたときに、記エンジンの停止制御を行うことを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明のエンジン制御装置は、鞍乗型車両のエンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記鞍乗型車両の傾斜角を検出する傾斜センサが異常状態であるか否かを判断する傾斜センサ状態判断部と、前記傾斜センサ状態判断部により前記傾斜センサが異常状態であると判断されたときに、前記エンジンの出力を制限する出力制限部と、前記鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する非駆動輪状態判断部と、前記鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する駆動輪状態判断部と、前記エンジンの停止制御を行うエンジン停止制御部とを備え、前記エンジン停止制御部は、前記出力制限部により前記エンジンの出力が制限された状態において、前記非駆動輪状態判断部による判断および前記駆動輪状態判断部による判断に基づいて、前記非駆動輪が実質停止状態でありかつ前記駆動輪が実質回転状態であるという状態が、所定時間継続したことが認識されたときに、記エンジンの停止制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】鞍乗型車両を示す外観図である。
図2】鞍乗型車両に設けられたセンサ類、本発明の第1の実施例のコントロールユニットおよび被制御装置を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施例におけるエンジン制御処理を示すフローチャートである。
図4】鞍乗型車両に設けられたセンサ類、本発明の第2の実施例のコントロールユニットおよび被制御装置を示すブロック図である。
図5】本発明の第2の実施例におけるエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態のエンジン制御方法は、非駆動輪状態判断工程、駆動輪状態判断工程、およびエンジン停止制御工程を備えている。
【0012】
非駆動輪状態判断工程では、鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する。非駆動輪はエンジンの動力が動力伝達機構により伝達されない車輪であり、多くの鞍乗型車両における前輪である。実質停止状態とは、車輪が完全に停止している状態、または、車輪が完全に停止していないものの、回転速度が非常に遅く、停止しているとみなすことができる状態である。
【0013】
駆動輪状態判断工程では、鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する。駆動輪はエンジンの動力が動力伝達機構により伝達される車輪であり、多くの鞍乗型車両における後輪である。実質回転状態とは、車輪が上記実質停止状態ではない状態であり、すなわち、車輪が停止しておらず、かつ停止しているとみなすこともできない状態である。
【0014】
エンジン停止制御工程では、非駆動輪状態判断工程において非駆動輪が実質停止状態であると判断され、かつ駆動輪状態判断工程において駆動輪が実質回転状態であると判断されたときに鞍乗型車両のエンジンの停止制御を行う。すなわち、鞍乗型車両が転倒したときには、非駆動輪は地面上を回転する状態ではなくなり、停止し、駆動輪はエンジンが停止するまでエンジンの動力の伝達を受けて回転する。したがって、非駆動輪が実質停止状態であり、かつ駆動輪が実質回転状態であるとき、鞍乗型車両が転倒したと判断することができる。この場合には、エンジンを停止する制御を行う。
【0015】
本発明の実施形態のエンジン制御方法によれば、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。すなわち、 非駆動輪が実質停止状態であるか否かの判断は、非駆動輪の回転を例えば車速センサで検出することにより行うことができる。また、駆動輪が実質回転状態であるか否かの判断は、駆動輪の回転を例えば車速センサで検出することにより行うことができる。一般に、車速センサは加速度センサよりも安価である。2つの車速センサの合計価格が1つの加速度センサの価格よりも安い場合には、非駆動輪の回転を検出する車速センサと、駆動輪の回転を検出する車速センサとを鞍乗型車両に追加したとしても、1個の加速度センサを追加する場合と比較して、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【0016】
また、多くの鞍乗型車両には、車両の車速を測定するために、非駆動輪または駆動輪の回転を検出する車速センサが既に設けられている。したがって、非駆動輪が実質停止状態であるか否かの判断、または駆動輪が実質回転状態であるか否かの判断は、鞍乗型車両に既に設けられた車速センサを用いて行うことができる。この場合には、1つの車速センサを鞍乗型車両に追加すればよいので、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【0017】
また、非駆動輪の回転を検出する車速センサと駆動輪の回転を検出する車速センサの双方が鞍乗型車両に既に設けられている場合には、駆動輪が実質停止状態であるか否かの判断も、駆動輪が実質回転状態であるか否かの判断も、鞍乗型車両に既に設けられた2つの車速センサを用いて行うことができる。したがって、車体転倒時のエンジン停止制御を、より一層安価に実現することができる。
【0018】
また、本発明の実施形態のエンジン制御装置は、非駆動輪状態判断部、駆動輪状態判断部、およびエンジン停止制御部を備えている。非駆動輪状態判断部は鞍乗型車両の非駆動輪が実質停止状態であるか否かを判断する。駆動輪状態判断部は鞍乗型車両の駆動輪が実質回転状態である否かを判断する。エンジン停止制御部は、非駆動輪状態判断部により非駆動輪が実質停止状態であると判断され、かつ駆動輪状態判断部により駆動輪が実質回転状態であると判断されたときに鞍乗型車両のエンジンの停止制御を行う。本発明の実施形態のエンジン制御装置によっても、本発明の実施形態のエンジン制御方法と同様に、車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【実施例1】
【0019】
図1ないし図3を参照しながら、本発明の第1の実施例について説明する。図1は鞍乗型車両1を示している。図1に示すように、鞍乗型車両1は例えば自動二輪車である。鞍乗型車両1の車体フレーム2の前部にはヘッドパイプ2Aが設けられ、ヘッドパイプ2Aにはステアリングシャフトが左回り方向または右回り方向に回動可能に支持されている。ステアリングシャフトにはフロントフォーク3を介して非駆動輪としての前輪4が回転可能に支持されている。また、ステアリングシャフトにはハンドルバー5が取り付けられ、ハンドルバー5の右端部にはアクセルグリップ6が設けられている。また、車体フレーム2の後部下側にはスイングアーム7を介して駆動輪としての後輪8が回転可能に支持されている。
【0020】
また、前輪4および後輪8との間において、車体フレーム2にはエンジン9が支持されている。エンジン9は、クランクケース10、シリンダ11およびシリンダヘッド12を備えている。クランクケース10内の前部にはクランクシャフトが設けられ、クランクケース10内の後部には変速装置が設けられている。また、クランクケース10の後部右側にはクラッチ13が設けられている。変速装置におけるドライブシャフトの回転はドライブチェーンを介して後輪8に伝達される。一方、シリンダ11内にはピストンが設けられている。
【0021】
シリンダヘッド12には吸気ポートおよび排気ポートが設けられている。また、シリンダヘッド12内には吸気バルブ、排気バルブおよび動弁機構が設けられ、シリンダヘッド12には点火プラグが取り付けられている。また、吸気ポートの近傍にはスロットル装置14および燃料噴射装置15が設けられている。
【0022】
さらに、鞍乗型車両1には、燃料タンク19、運転シート20、排気管21、マフラ22およびシフトペダル23等が設けられている。また、鞍乗型車両1には、鞍乗型車両1の停止時に車体を支えるスタンド24が設けられている。
【0023】
図2は、鞍乗型車両1に設けられたセンサ類、本発明のエンジン制御装置の第1の実施例であるコントロールユニット41、および被制御装置を示している。図2に示すように、鞍乗型車両1には、エンジン回転数センサ31、スロットル開度センサ32およびアクセル開度センサ33が設けられている。エンジン回転数センサ31はエンジン9の単位時間当たりの回転数を検出するセンサである。スロットル開度センサ32は、スロットル装置14におけるスロットルバルブの開度であるスロットル開度を検出するセンサである。アクセル開度センサ33は、アクセルの開度であるアクセル開度(アクセル操作量)を検出するセンサである。アクセル開度センサ33は、例えばアクセルグリップ6の近傍に設けられている。
【0024】
さらに、鞍乗型車両1には前輪速センサ34および後輪速センサ35が設けられている。前輪速センサ34は、前輪4の単位時間当たりの回転数(回転速度)を検出する車速センサである。後輪速センサ35は、後輪8の単位時間当たりの回転数(回転速度)を検出する車速センサである。
【0025】
さらに、鞍乗型車両1には、シフト位置センサ36、クラッチセンサ37およびスタンドセンサ38が設けられている。シフト位置センサ36は、例えば変速装置のシフトカム(またはシフトドラム)の回転角を検出することによりシフト位置(ギヤ位置)を検出するセンサである。クラッチセンサ37は、クラッチ13が接続された状態か否かを検出するセンサである。スタンドセンサ38は、スタンドが収納された状態か否かを検出するセンサである。
【0026】
さらに、鞍乗型車両1には傾斜センサ39が設けられている。傾斜センサ39は、鞍乗型車両1の車体の傾斜角を検出するセンサである。傾斜センサ39は例えば加速度センサである。
【0027】
また、鞍乗型車両1には、本発明のエンジン制御装置の第1の実施例であるコントロールユニット41が設けられている。コントロールユニット41は、例えば演算処理装置および半導体記憶装置等を備えている。コントロールユニット41には、鞍乗型車両1に設けられた上記センサ類31~39が接続されている。
【0028】
さらに、コントロールユニット41には、鞍乗型車両1に設けられた被制御装置(コントロールユニット41により制御される装置)が接続されている。具体的には、コントロールユニット41には、スロットル装置14、燃料噴射装置15および点火装置16等が接続されている。スロットル装置14はスロットルバルブの開度を変化させて吸気ポートに吸い込まれる燃焼用空気の量を制御する装置である。燃料噴射装置15は吸気ポートに吸い込まれる空気中に噴射する燃料の量等を制御する装置である。点火装置16は点火プラグによるエンジン9の燃焼室への点火を制御する装置である。また、コントロールユニット41には警報ランプ17が接続されている。警報ランプ17は、傾斜センサ39が異常状態であることを鞍乗型車両1の運転者に報知するためのランプであり、例えばハンドルバー5の前方のコクピットに配置されている。
【0029】
コントロールユニット41はエンジン制御処理を行う。具体的には、コントロールユニット41は、前輪速センサ34、後輪速センサ35、傾斜センサ39等からそれぞれ出力される検出信号に基づいてスロットル装置14、燃料噴射装置15および警報ランプ17等を制御し、エンジン9の出力制限およびエンジン9の停止等を行う。
【0030】
エンジン制御処理を行うに当たり、コントロールユニット41は、半導体記憶装置に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより、傾斜センサ状態判断部51、主転倒判断部52、副転倒判断部53、出力制限制御部54およびエンジン停止制御部55として機能する。
【0031】
傾斜センサ状態判断部51は傾斜センサ39が異常状態であるか否かを判断する。
【0032】
主転倒判断部52は、傾斜センサ状態判断部51により傾斜センサ39が異常状態でないと判断されたときに、傾斜センサ39から出力された検出信号に基づいて鞍乗型車両1が転倒しているか否かを判断する。
【0033】
副転倒判断部53は、傾斜センサ状態判断部51により傾斜センサ39が異常状態であると判断されたときに、前輪速センサ34および後輪速センサ35からそれぞれ出力された検出信号に基づいて鞍乗型車両1が転倒しているか否かを判断する。なお、副転倒判断部53は非駆動輪状態判断部および駆動輪状態判断部の具体例である。
【0034】
出力制限制御部54は、傾斜センサ状態判断部51により傾斜センサ39が異常状態であると判断されたときに、エンジン9の出力を制限する。
【0035】
エンジン停止制御部55は、主転倒判断部52または副転倒判断部53により、鞍乗型車両1が転倒していると判断されたときに、エンジン9を停止させる。
【0036】
図3は、コントロールユニット41が行うエンジン制御処理を示している。図3に示すエンジン制御処理は、エンジン9が稼働しているときに行われる。まず、コントロールユニット41の傾斜センサ状態判断部51が、傾斜センサ39が異常状態であるか否かを判断する(ステップS1)。傾斜センサ39の異常状態としては、例えば、傾斜センサ39が故障している状態や、鞍乗型車両1の電源が入っているにも拘わらず、バッテリから傾斜センサ39への電力の供給が何らかの理由で行われていない状態等である。傾斜センサ状態判断部51は、例えば、傾斜センサ39からの出力されるはずの検出信号が出力されていないこと、または傾斜センサ39から出力される検出信号のレベルが通常よりも大幅に低い(または大幅に高い)こと、傾斜センサ39から出力される検出信号の波形が通常の波形ではないこと等を検出し、このような検出結果が得られた場合には、傾斜センサ39が異常状態であると判断する。
【0037】
傾斜センサ39が異常状態ではないと傾斜センサ状態判断部51により判断されたときには(ステップS1:NO)、続いて、コントロールユニット41の主転倒判断部52が、傾斜センサ39から出力された検出信号に基づいて鞍乗型車両1が転倒しているか否かを判断する。具体的には、主転倒判断部52は、傾斜センサ39から出力された検出信号に基づき、鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上か否かを判断する(ステップS2)。転倒判断基準角度は、例えば鞍乗型車両1に定められた最大バンク角よりも大きい角度である。鞍乗型車両1が転倒したときには、鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上となる。
【0038】
鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上であると主転倒判断部52により判断されたときには(ステップS2:YES)、コントロールユニット41のエンジン停止制御部55がエンジン9の停止制御を行う(ステップS8)。エンジン9の停止制御において、エンジン停止制御部55は、例えば、スロットル装置14を制御してスロットルバルブを閉じ、燃料噴射装置15を制御して燃料の噴射を停止させる。これによりエンジン9の稼働が停止する。
【0039】
一方、鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上でないときには(ステップS2:NO)、エンジン9の停止制御は行われず、処理はステップS1に戻る。
【0040】
また、ステップS1で、傾斜センサ39が異常状態であると傾斜センサ状態判断部51により判断されたときには(ステップS1:YES)、傾斜センサ状態判断部51は警報ランプ17を点灯させる(ステップS3)。これにより、鞍乗型車両1の運転者は、傾斜センサ39が異常状態であることを知ることができる。
【0041】
続いて、コントロールユニット41の出力制限制御部54がエンジン9の出力制限制御を行う(ステップS4)。エンジン9の出力制限制御については後述する。
【0042】
続いて、コントロールユニット41の副転倒判断部53が、前輪速センサ34および後輪速センサ35からそれぞれ出力された検出信号に基づいて鞍乗型車両1が転倒しているか否かを判断する(ステップS5およびS6)。
【0043】
具体的には、ステップS5において、副転倒判断部53は、前輪速センサ34から出力された検出信号に基づいて前輪4が実質停止状態であるか否かを判断する。実質停止状態とは、車輪が完全に停止している状態、または、車輪が完全に停止していないものの、回転速度が非常に遅く、停止しているとみなすことができる状態である。具体的には、副転倒判断部53は、前輪4の回転速度が所定の判断基準回転速度未満であるときに、前輪4が実質停止状態であると判断する。
【0044】
前輪4が実質停止状態であるときには、副転倒判断部53は、ステップS6において、後輪8が実質回転状態であるか否かを判断する。実質回転状態とは、車輪が上記実質停止状態ではない状態であり、すなわち、車輪が停止しておらず、かつ停止しているとみなすこともできない状態である。具体的には、副転倒判断部53は、後輪8の回転速度が上記判断基準回転速度以上であるときに、後輪8が実質回転状態であると判断する。
【0045】
前輪4が実質停止状態であり、かつ後輪8が実質回転状態であるときには(ステップS5およびS6がいずれもYES)、エンジン停止制御部55がエンジン9の停止制御を行う(ステップS7)。すなわち、鞍乗型車両1が転倒したときには、前輪4が地面上を回転する状態ではなくなって停止し、駆動輪はエンジン9が停止するまでエンジン9の動力の伝達を受けて回転する。したがって、前輪4が実質停止状態であり、かつ後輪8が実質回転状態であるときには、鞍乗型車両1が転倒したと判断することができる。この場合には、エンジン9を停止させる。
【0046】
一方、前輪4が実質停止状態でなく、または後輪8が実質回転状態でないときには(ステップS5またはS6がNO)、エンジン9の停止制御は行われず、処理はステップS5に戻る。
【0047】
ステップS7のエンジン停止制御によりエンジン9が停止し、または運転者の操作によりエンジン9が停止した後、運転者の操作によりエンジン9が再び稼働したときには、コントロールユニット41は、図3に示すエンジン制御処理をステップS1から再び実行する。
【0048】
上述したように、傾斜センサ39が異常状態であるとき、図3中のステップS4で、コントロールユニット41の出力制限制御部54はエンジン9の出力制限制御を行う。エンジン9の出力制限制御において、出力制限制御部54は、例えば燃料噴射量を通常時(傾斜センサ39が異常状態でないとき)よりも少なくしてエンジン9の出力を下げる。例えば、燃料噴射量の上限を通常時よりも小さくする。または、エンジン9の出力制限制御において、スロットル操作量に対するスロットル開度を通常時よりも小さくし、これによりスロットル操作量に応じて燃焼室へ吸い込まれる空気の量を少なくし、エンジン9の出力を下げるようにしてもよい。例えば、スロットル開度の上限を通常時の5割程度にしてもよい。この出力制限制御では、エンジン9の出力を下げることにより、鞍乗型車両1の運転者が、ウィリーまたはホイールスピン等、前輪4を停止させ、後輪8を回転させるような態様の走行を行うことができないようにする。その一方で、傾斜センサ39が異常状態であるときでも、運転者が鞍乗型車両1を中低速(例えば最大60km程度)で走行させることができるようにする。
【0049】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例のコントロールユニット41によるエンジン制御処理では、傾斜センサ39が異常状態であるとき、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いて、鞍乗型車両1の車体転倒時のエンジン停止制御を行う。前輪速センサ34および後輪速センサ35としてそれぞれ用いられている車速センサは、傾斜センサ39としての加速度センサよりも安価である。したがって、安価な車速センサを鞍乗型車両1に追加することにより、傾斜センサ39の異常状態下における車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。また、前輪速センサ34としての車速センサまたは後輪速センサ35としての車速センサが鞍乗型車両1に既に設けられている場合には、その既に設けられた車速センサを利用することにより、傾斜センサ39の異常状態下における車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【0050】
また、コントロールユニット41によるエンジン制御処理では、傾斜センサ39が異常状態であるとき、エンジン9の出力制限制御を行う。この出力制限制御では、エンジン9の出力を通常時よりも下げ、鞍乗型車両1の運転者が、ウィリーまたはホイールスピンといった態様の走行を行うことができないようにする。これにより、傾斜センサ39の異常状態下における車体転倒時のエンジン停止制御を確実に行うことができる。すなわち、ウィリーまたはホイールスピンといった態様の走行では、前輪4が停止した状態で後輪8が回転する場合がある。それゆえ、傾斜センサ39が異常状態であるときに、運転者がウィリーまたはホイールスピンといった態様の走行を行ったとき、コントロールユニット41が、車体が転倒したと誤判断し、エンジン停止制御を実行してしまうおそれがある。傾斜センサ39が異常状態であるときには、ウィリーまたはホイールスピンといった態様の走行を行うことができないようにすることで、上記誤判断を防止することができる。
【0051】
また、コントロールユニット41によるエンジン制御処理では、傾斜センサ39が異常状態であるときには、エンジン9の出力制限制御を行い、かつ前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒時のエンジン停止制御を行う。これにより、傾斜センサ39が異常状態であるときでも、車体転倒時にエンジンが自動的に停止する状態を確保することができる。したがって、傾斜センサ39が異常状態となった後でも、鞍乗型車両1の走行の安全を確保できるので、傾斜センサ39が異常状態となった後の鞍乗型車両1の走行を運転者に許容することができる。これにより、運転者は、傾斜センサ39が異常状態となった後でも鞍乗型車両1の運転を継続することができる。このように、鞍乗型車両1の利用の利便性を確保することができる。
【0052】
また、コントロールユニット41によるエンジン制御処理によれば、警報ランプ17の点灯により傾斜センサ39が異常状態であることを運転者に知らせることができる。または、エンジン9の出力制限制御によって鞍乗型車両1の走行が鈍くなるので、このことによっても傾斜センサ39の異常状態を運転者に把握させることができる。
【0053】
また、傾斜センサ39が異常状態でないときには、傾斜センサ39を用いて車体転倒時のエンジン停止制御を行うことにより、傾斜センサ39が異常状態でない限り、レースやショーを行うプロの運転者に対し、ウィリーまたはホイールスピンといった態様の走行を許容することができる。
【実施例2】
【0054】
図4および図5を参照しながら、本発明の第2の実施例について説明する。図4は、鞍乗型車両1に設けられたセンサ類、本発明のエンジン制御装置の第2の実施例であるコントロールユニット71、および被制御装置を示している。なお、図4において、本発明の第1の実施例と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
コントロールユニット71は、第1の実施例のコントロールユニット41と同様に、鞍乗型車両1に設けられており、例えば演算処理装置および半導体記憶装置を備えている。また、コントロールユニット71には、鞍乗型車両1に設けられたセンサ類31~39および被制御装置14~17が接続されている。また、コントロールユニット71は、半導体記憶装置に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより、傾斜センサ状態判断部51、主転倒判断部52、副転倒判断部72およびエンジン停止制御部55として機能する。
【0056】
副転倒判断部72は、傾斜センサ状態判断部51により傾斜センサ39が異常状態であると判断されたときに、前輪速センサ34、後輪速センサ35およびアクセル開度センサ33からそれぞれ出力された検出信号に基づいて鞍乗型車両1が転倒しているか否かを判断する。なお、副転倒判断部72は非駆動輪状態判断部および駆動輪状態判断部の具体例である。
【0057】
図5は、コントロールユニット71が行うエンジン制御処理を示している。図5中のエンジン制御処理において、まず、傾斜センサ状態判断部51が、傾斜センサ39が異常状態であるか否かを判断し、傾斜センサ39が異常状態ではないときには、次に、主転倒判断部52が、傾斜センサ39から出力された検出信号に基づき、鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上か否かを判断する。そして、鞍乗型車両1の車体の傾斜角が転倒判断基準角度以上であるときには、エンジン停止制御部55がエンジン9の停止制御を行う(ステップS11、S12およびS17)。これらの処理は、第1の実施例のコントロールユニット41によるエンジン制御処理におけるステップS1、S2およびS7と同じである。
【0058】
一方、傾斜センサ39が異常状態であるときには(ステップS11:YES)、傾斜センサ状態判断部51が警報ランプ17を点灯させる(ステップS13)。続いて、副転倒判断部72が、アクセル開度センサ33から出力された検出信号に基づいてアクセルが全閉状態であるか否かを判断する(ステップS14)。アクセルの全閉状態とは、アクセル操作量が0であり、アクセル開度が0である状態である。
【0059】
アクセルが全閉状態であるときには、副転倒判断部72は、第1の実施例の副転倒判断部53と同様に、前輪速センサ34から出力された検出信号に基づいて前輪4が実質停止状態であるか否かを判断する(ステップS15)。そして、前輪4が実質停止状態であるときには、副転倒判断部72は、第1の実施例の副転倒判断部53と同様に、後輪8が実質回転状態であるか否かを判断する(ステップS16)。
【0060】
アクセルが全閉状態であり、前輪4が実質停止状態であり、かつ後輪8が実質回転状態であるときには(ステップS14、S15およびS16がすべてYES)、エンジン停止制御部55がエンジン9の停止制御を行う(ステップS17)。すなわち、鞍乗型車両1が転倒したときには、運転者の手がアクセルグリップ6から離れるのでアクセルは全閉状態となり、前輪4は地面上を回転する状態ではなくなって停止し、駆動輪はエンジン9が停止するまでエンジン9の動力の伝達を受けて回転する。したがって、アクセルが全閉状態であり、前輪4が実質停止状態であり、かつ後輪8が実質回転状態であるときには、鞍乗型車両1が転倒したと判断することができる。この場合には、エンジン9を停止させる。
【0061】
一方、アクセルが全閉状態でなく、前輪4が実質停止状態でなく、または後輪8が実質回転状態でないときには(ステップS14、S15またはS16がNO)、エンジン9の停止制御は行われず、処理はステップS14に戻る。
【0062】
また、ステップS17のエンジン停止制御によりエンジン9が停止し、または運転者の操作によりエンジン9が停止した後、運転者の操作によりエンジン9が再び稼働したときには、エンジン制御処理がステップS11から再び実行される。
【0063】
本発明の第2の実施例のコントロールユニット71によるエンジン制御処理においては、傾斜センサ39が異常状態であるとき、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いて、鞍乗型車両1の車体転倒時のエンジン停止制御を行う。したがって、本発明の第1の実施例のコントロールユニット41によるエンジン制御処理と同様に、傾斜センサ39の異常状態下における車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【0064】
また、コントロールユニット71によるエンジン制御処理では、傾斜センサ39が異常状態であるとき、前輪速センサ34および後輪速センサ35に加え、アクセル開度センサ33を用いて、鞍乗型車両1の車体転倒時のエンジン停止制御を行う。したがって、車体転倒時のエンジン停止制御(車体転倒の判断)の精度を高めることができる。また、アクセル開度センサ33が鞍乗型車両1に既に設けられている場合には、その既に設けられたアクセル開度センサ33を利用することにより、傾斜センサ39の異常状態下における車体転倒時のエンジン停止制御を安価に実現することができる。
【0065】
また、コントロールユニット71によるエンジン制御処理では、鞍乗型車両1が転倒したか否かを決する際に、アクセルが全閉状態か否かを判断する。したがって、鞍乗型車両1の運転者がウィリーまたはホイールスピン等、前輪4を停止させ、後輪8を回転させるような態様の走行を行った場合でも、このような態様の走行を鞍乗型車両1の転倒と誤判断してしまうことを防止することができる。すなわち、ウィリーまたはホイールスピンを行うときには後輪8を回転させるためにアクセルを開ける。したがって、アクセルが全閉状態か否かに基づいて、ウィリーまたはホイールスピンと転倒とを識別することができる。それゆえ、コントロールユニット71によるエンジン制御処理では、第1の実施例のコントロールユニット41によるエンジン制御処理におけるエンジン9の出力制限制御(図3中のステップS4)を行わなくてもよい。
【0066】
なお、上述した第1の実施例におけるエンジン制御処理では、傾斜センサ39が異常状態であるときに、前輪4が実質停止状態であること、および後輪8が実質回転状態であることの2つの条件が満たされたときに、直ちにエンジン停止制御を行う場合を例にあげた。しかしながら、傾斜センサ39が異常状態であるときに、上記2つの条件が満たされた状態が所定時間(例えば5秒程度)継続したときに、エンジン停止制御を行うこととしてもよい。これにより、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒判断の確実性を高めることができる。同様に、上述した第2の実施例におけるエンジン制御処理で、アクセルが全閉状態であること、前輪4が実質停止状態であること、および後輪8が実質回転状態であることの3つの条件が満たされた状態が所定時間継続したときに、エンジン停止制御を行うこととしてもよい。これにより、アクセル開度センサ33、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒判断の確実性を高めることができる。
【0067】
また、上述した各実施例において、傾斜センサ39の異常状態を告げる手段として、警報ランプ17に代え、コクピットに設けられたディスプレイに警報マークを表示するようにしてもよい。また、このような視覚的な警報に加え、コクピット付近に設けられたスピーカから警報音を発するようにしてもよい。
【0068】
また、上述した各実施例において、傾斜センサ39は、加速度センサに限らず、例えば加速度センサよりも高精度な慣性センサでもよい。
【0069】
また、上述した第1の実施例では、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒時のエンジン停止制御を、傾斜センサ39が異常状態であるときに予備的に行う場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、そもそものエンジンのパワーが低く、ウィリーも、ホイールスピンも性能上行うことができない鞍乗型車両に、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒時のエンジン停止制御を、メインの、または唯一の、車体転倒時のエンジン停止制御として行う構成としてもよい。
【0070】
また、上述した第2の実施例では、アクセル開度センサ33、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒時のエンジン停止制御を、傾斜センサ39が異常状態であるときに予備的に行う場合を例にあげたが、アクセル開度センサ33、前輪速センサ34および後輪速センサ35を用いた車体転倒時のエンジン停止制御を、メインの、または唯一の、車体転倒時のエンジン停止制御として行う構成としてもよい。
【0071】
また、上述した第2の実施例におけるエンジン制御処理では、アクセルの全閉状態を判断するために、アクセル開度センサ33を用いたが、アクセル開度センサ33に代え、スロットル開度センサ32を用いてもよい。例えば、スロットル開度センサ32から出力される検出信号に基づき、スロットルバルブが実質全閉状態(スロットルバルブが完全に閉じた状態、または僅かに開いているが、閉じているとみなすことができる状態)であるときに、アクセル開度が全閉状態であると判断する。また、アクセル開度センサ33に代えて接触感知センサを用い、運転者の手がアクセルグリップ6に接触しているか否かを検出してもよい。この場合には、運転者の手がアクセルグリップ6に接触していないとき、アクセル開度が全閉状態であると判断する。
【0072】
また、上述した第2の実施例におけるエンジン制御処理において、傾斜センサ39が異常状態であるときに、第1の実施例におけるエンジン制御処理と同様にエンジン9の出力制限制御を行ってもよい。
【0073】
また、上述した各実施例におけるエンジン制御処理において、傾斜センサ39が異常状態であるときに車体転倒を判断する条件として、エンジン回転数が所定回転数以内であること、シフト位置がニュートラル以外であること、クラッチが接続状態であること、およびスタンド24が収納状態であることといった条件のうちのいずれか1つ、これらの条件のうちのいくつか、またはこれらの条件のすべてを追加してもよい。この場合には、これらの条件の充足を判断するために、鞍乗型車両1に設けられたシフト位置センサ36、クラッチセンサ37およびスタンドセンサ38等を用いる。
【0074】
また、本発明は自動二輪車に限らず、自動三輪車、バギー車等、他の種類の鞍乗型車両にも適用することができる。また、本発明は、前輪が駆動輪であり、後輪が非駆動輪である鞍乗型車両にも適用することができる。
【0075】
また、上述した第1の実施例におけるエンジン制御処理において、図3中のステップS1が傾斜センサ状態判断工程の具体例であり、ステップS4が出力制限工程の具体例であり、ステップS5が非駆動輪状態判断工程の具体例であり、ステップS6が駆動輪状態判断工程の具体例であり、ステップS7がエンジン停止制御工程の具体例である。また、上述した第2の実施例におけるエンジン制御処理において、図5中のステップS11が傾斜センサ状態判断工程の具体例であり、ステップS14がアクセル状態判断工程の具体例であり、ステップS15が非駆動輪状態判断工程の具体例であり、ステップS16が駆動輪状態判断工程の具体例であり、ステップS17がエンジン停止制御工程の具体例である。
【0076】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うエンジン制御方法およびエンジン制御装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 鞍乗型車両
4 前輪(非駆動輪)
6 アクセルグリップ
8 後輪(駆動輪)
9 エンジン
32 スロットル開度センサ
33 アクセル開度センサ
34 前輪速センサ
35 後輪速センサ
39 傾斜センサ
41、71 コントロールユニット
51 傾斜センサ状態判断部
52 主転倒判断部
53、72 副転倒判断部(非駆動輪状態判断部、駆動輪状態判断部)
54 出力制限制御部
55 エンジン停止制御部
図1
図2
図3
図4
図5