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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】冬用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20220621BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220621BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C11/03 C
B60C11/03 200A
B60C11/12 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018030945
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019142446
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】古川 達也
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131620(JP,A)
【文献】特開2016-074328(JP,A)
【文献】特開2000-326707(JP,A)
【文献】特開2013-184666(JP,A)
【文献】米国意匠特許発明第00733639(US,S)
【文献】特開2016-196288(JP,A)
【文献】特開2018-193056(JP,A)
【文献】特開平09-175117(JP,A)
【文献】意匠登録第1185759(JP,S)
【文献】意匠登録第1186731(JP,S)
【文献】意匠登録第1222362(JP,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C11/03
11/12
11/13
日本意匠分類 G2-91191
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1トレッド端及び第2トレッド端を有するトレッド部の少なくとも一部にサイプが設けられた冬用タイヤであって、
前記トレッド部には、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられ、
前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で途切れる内端を有し、
前記内端は、他の溝と接続しておらず、
前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で他の溝と交差せず、
前記第1傾斜溝は、前記第1トレッド端から前記内端まで、タイヤ軸方向に対する角度が前記第2トレッド端側に向かって漸増するように湾曲している、
冬用タイヤ。
【請求項2】
第1トレッド端及び第2トレッド端を有するトレッド部の少なくとも一部にサイプが設けられた冬用タイヤであって、
前記トレッド部には、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられ、
前記第1傾斜溝は、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって溝幅が漸減する本体部と、前記本体部の前記第2トレッド端側に連なりかつ溝幅が部分的に拡大した拡幅部と、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で途切れる内端とを有し、
前記内端は、他の溝と接続しておらず、
前記拡幅部の最大の溝幅は、前記本体部の最大の溝幅の0.40~0.60倍である、
冬用タイヤ。
【請求項3】
第1トレッド端及び第2トレッド端を有するトレッド部の少なくとも一部にサイプが設けられた冬用タイヤであって、
前記トレッド部には、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられ、
前記第1傾斜溝は、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって溝幅が漸減する本体部と、前記本体部の前記第2トレッド端側に連なりかつ溝幅が部分的に拡大した拡幅部と、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で途切れる内端とを有し、
前記内端は、他の溝と接続しておらず、
前記トレッド部は、タイヤ周方向で隣り合う前記第1傾斜溝の間を連通する複数の継ぎ溝と、前記第1傾斜溝と前記継ぎ溝とで区分されたミドルブロックとを含み、
前記ミドルブロックには、前記継ぎ溝に沿って延びる複数のミドルサイプが設けられている、
冬用タイヤ。
【請求項4】
第1トレッド端及び第2トレッド端を有するトレッド部の少なくとも一部にサイプが設けられた冬用タイヤであって、
前記トレッド部には、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられ、
前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で途切れる内端を有し、
前記内端は、他の溝と接続しておらず、
前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で他の溝と交差せず、
前記トレッド部は、タイヤ周方向で隣り合う前記第1傾斜溝の間を連通する複数の継ぎ溝と、前記第1傾斜溝と前記継ぎ溝とで区分されたミドルブロックとを含み、
前記ミドルブロックには、前記継ぎ溝に沿って延びる複数のミドルサイプが設けられている、
冬用タイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部は、前記サイプよりも大きい溝幅の溝で分断されずにタイヤ1周に亘って連続して延びるクラウン陸部を含み、
タイヤ赤道から前記内端までのタイヤ軸方向の距離は、前記クラウン陸部のタイヤ軸方向の最大の幅の0.05~0.15倍である、請求項1ないし4のいずれかに記載の冬用タイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部には、前記第2トレッド端から前記第1トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第2傾斜溝が設けられ、
前記第2傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第1トレッド端との間で途切れる内端を有し、
前記第2傾斜溝の前記内端は、他の溝と接続していない、請求項1ないし5のいずれかに記載の冬用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬用タイヤに関し、詳しくは、氷雪路走行に適した車両用のタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に第1傾斜主溝及び第2傾斜主溝が設けられた冬用タイヤが提案されている。第1傾斜主溝は、一方のトレッド端から斜めに延びかつタイヤ赤道を越え第2傾斜主溝に連通している。第2傾斜主溝は、他方のトレッド端から斜めに延びかつタイヤ赤道を越え第1傾斜主溝に連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-120381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、冬用タイヤであっても、ドライ路面での操縦安定性が要求されている。発明者らは、種々の実験の結果、各傾斜主溝の内端の配置等を改善することにより、氷雪路性能及びドライ路面での操縦安定性を向上できるとの知見を得た。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、優れた氷雪路性能及びドライ路面での操縦安定性を発揮し得る冬用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1トレッド端及び第2トレッド端を有するトレッド部の少なくとも一部にサイプが設けられた冬用タイヤであって、前記トレッド部には、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられ、前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で途切れる内端を有し、前記内端は、他の溝と接続していない。
【0007】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記第1傾斜溝は、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端側に向かって溝幅が漸減する本体部と、前記本体部の前記第2トレッド端側に連なりかつ溝幅が部分的に拡大した拡幅部とを有するのが望ましい。
【0008】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記拡幅部の最大の溝幅は、前記本体部の最大の溝幅の0.40~0.60倍であるのが望ましい。
【0009】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記第1傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で他の溝と交差しないのが望ましい。
【0010】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記トレッド部は、前記サイプよりも大きい溝幅の溝で分断されずにタイヤ1周に亘って連続して延びるクラウン陸部を含み、タイヤ赤道から前記内端までのタイヤ軸方向の距離は、前記クラウン陸部のタイヤ軸方向の最大の幅の0.05~0.15倍であるのが望ましい。
【0011】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記トレッド部は、タイヤ周方向で隣り合う前記第1傾斜溝の間を連通する複数の継ぎ溝と、前記第1傾斜溝と前記継ぎ溝とで区分されたミドルブロックとを含み、前記ミドルブロックには、前記継ぎ溝に沿って延びる複数のミドルサイプが設けられているのが望ましい。
【0012】
本発明の冬用タイヤにおいて、前記トレッド部には、前記第2トレッド端から前記第1トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第2傾斜溝が設けられ、前記第2傾斜溝は、タイヤ赤道と前記第1トレッド端との間で途切れる内端を有し、前記第2傾斜溝の前記内端は、他の溝と接続していないのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の冬用タイヤのトレッド部には、第1トレッド端から第2トレッド端側に向かって斜めに延びる複数の第1傾斜溝が設けられている。第1傾斜溝は、タイヤ赤道と第2トレッド端との間で途切れる内端を有し、前記内端は、他の溝と接続していないように構成されている。
【0014】
このような第1傾斜溝は、接地圧が高いタイヤ赤道付近で固い雪柱を形成し、大きな雪柱せん断力を提供できる。一方、第1傾斜溝の内端は、他の溝と接続していないため、この内端付近の陸部の剛性低下が抑制され、ひいてはドライ路面での操縦安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1の第1傾斜溝の輪郭の拡大図である。
図3図1のクラウン陸部の拡大図である。
図4図1のミドルブロック列及びショルダーブロック列の拡大図である。
図5】比較例1のタイヤのトレッド部の展開図である。
図6】比較例2のタイヤのトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の冬用タイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)1のトレッド部2の展開図である。図1に示されるように、本実施形態の冬用タイヤ1は、例えば、空気入りタイヤであって、乗用車用であるのが望ましい。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、回転方向Rが指定された方向性パターンを具えている。回転方向Rは、例えば、サイドウォール部(図示省略)に、文字又は記号で表示される。
【0018】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2は、第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2を有する。トレッド部2は、例えば、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間の第1トレッド部2Aと、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間の第2トレッド部2Bとを含んでいる。第1トレッド部2Aと第2トレッド部2Bとは、タイヤ周方向に位置ずれしている点を除き、実質的に線対称に構成されている。このため、第1トレッド部2Aの各構成は、第2トレッド部2Bに適用することができる。
【0019】
本発明の冬用タイヤ1は、トレッド部2の少なくとも一部に、サイプ40が設けられている。なお、本明細書において、サイプ40とは、幅が1.5mm未満の切れ込みを意味する。サイプ40を有するトレッド部2は、氷雪路で高い摩擦力を提供することができる。
【0020】
第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。正規状態とは、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0021】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0022】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0023】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0024】
トレッド部2には、複数の傾斜溝10が設けられている。傾斜溝10は、例えば、第1トレッド部2Aに設けられた第1傾斜溝10Aと、第2トレッド部2Bに設けられた第2傾斜溝10Bとを含む。第1傾斜溝10Aは、第1トレッド端Te1からタイヤ赤道C側に向かって斜めに延びている。第2傾斜溝10Bは、第2トレッド端Te2からタイヤ赤道C側に向かって斜めに延びている。第2傾斜溝10Bは、第1傾斜溝10Aと実質的に同様の構成を有している。このため、特に断りの無い限り、第1傾斜溝10Aの構成は、第2傾斜溝10Bに適用することができる。各傾斜溝10は、雪上走行時、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる長い雪柱を形成しかつこれをせん断することにより、大きな雪上トラクションを得ることができる。
【0025】
望ましい態様では、各傾斜溝10A、10Bは、トレッド端Te1、Te2から、タイヤ赤道C側に向かって、回転方向Rの先着側に傾斜している。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0026】
傾斜溝10の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの2.0%~6.0%であるのが望ましい。傾斜溝10の深さは、乗用車用の冬用タイヤの場合、例えば、6.0~12.0mmであり、好ましくは8.0~10.0mmである。トレッド幅TWは、前記正規状態における第1トレッド端Te1から第2トレッド端Te2までのタイヤ軸方向の距離である。
【0027】
図2には、第1傾斜溝10Aの輪郭の拡大図が示されている。図2に示されるように、第1傾斜溝10Aは、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Teとの間で途切れる内端10aを有している。第1傾斜溝10Aの内端10aは、他の溝と接続していないように構成されている。なお、「他の溝」とは、幅が1.5mm以上のものを意味し、幅が1.5mm未満のサイプは除かれる。
【0028】
このような第1傾斜溝10Aは、接地圧が高いタイヤ赤道C付近で固い雪柱を形成し、大きな雪柱せん断力を提供できる。一方、第1傾斜溝10Aの内端10aは、他の溝と接続していないため、この内端10a付近の陸部の剛性低下が抑制され、ひいてはドライ路面での操縦安定性を高めることができる。
【0029】
望ましい態様では、第2傾斜溝10Bも同様に構成されている。具体的には、第2傾斜溝10Bは、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間で途切れる内端10bを有し、第2傾斜溝10Bの内端10bは、他の溝と接続していない。このような第2傾斜溝10Bは、上述の効果をさらに高めることができる。
【0030】
第1傾斜溝10Aは、例えば、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間で他の溝と交差しないのが望ましい。さらに望ましい態様では、第1傾斜溝10Aは、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間で他の溝と接続することなく途切れている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではなく、第1傾斜溝10Aの内端10aが他の溝と接続することなく途切れていれば、上述の効果を期待することができる。
【0031】
第1傾斜溝10Aの内端10aは、例えば、第2トレッド部2Bのタイヤ軸方向の中心位置よりもタイヤ赤道C側に配されるのが望ましい。タイヤ赤道Cから第1傾斜溝10Aの内端10aまでのタイヤ軸方向の距離L1は、例えば、クラウン陸部5のタイヤ軸方向の最大の幅W2(図1に示す)の0.05~0.15倍であるのが望ましい。なお、クラウン陸部5は、トレッド部2のタイヤ軸方向の中央部に設けられている陸部である。また、本実施形態のクラウン陸部5は、サイプ40よりも大きい溝幅の溝で分断されずにタイヤ1周に亘って連続して延びている。
【0032】
本実施形態の第1傾斜溝10Aは、第2傾斜溝10Bと交差せず、その手前で途切れている。第1傾斜溝10Aの内端10aから第2傾斜溝10Bまでの距離L2は、例えば、タイヤ赤道Cから第1傾斜溝10Aの内端10aまでのタイヤ軸方向の距離L1よりも大きいのが望ましい。具体的には、上記距離L2は、例えば、上記距離L1の1.5~2.0倍であるのが望ましい。
【0033】
第1傾斜溝10Aは、例えば、本体部15と、本体部15の第2トレッド端Te2側に連なる拡幅部16とを有する。本体部15は、例えば、第1トレッド端Te1から第2トレッド端側に向かって溝幅が漸減している。このため、第1トレッド端Te1上において、本体部15の最大の溝幅W3が形成されている。
【0034】
本体部15及び拡幅部16は、例えば、タイヤ軸方向に対する角度θ1がタイヤ赤道C側に向かって漸増するように湾曲している。前記角度θ1は、例えば、5~75°であるのが望ましい。このような本体部15及び拡幅部16は、氷雪路走行時、タイヤ軸方向にも雪柱せん断力を発揮することができる。
【0035】
拡幅部16は、例えば、溝幅が部分的に拡大している。このような拡幅部16を含む傾斜溝10は、大きな接地圧が作用するタイヤ赤道C付近で形成される雪柱の体積を大きくでき、より大きな雪柱せん断力を期待できる。
【0036】
拡幅部16の最大の溝幅W4は、例えば、本体部15の最大の溝幅W3の0.40~0.60倍であるのが望ましい。このような拡幅部16は、クラウン陸部5の偏摩耗を抑制しつつ、氷雪路性能を高めることができる。
【0037】
拡幅部16は、例えば、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間に設けられている。望ましい態様では、拡幅部16は、タイヤ赤道Cと第1トレッド部2Aのタイヤ軸方向の中心位置との間に設けられている。タイヤ赤道Cから拡幅部16の最大の溝幅W4を構成する頂点17までのタイヤ軸方向の距離L3は、例えば、タイヤ赤道Cから第1傾斜溝10Aの内端10aまでのタイヤ軸方向の距離L1よりも大きいのが望ましい。具体的には、上記距離L3は、例えば、上記距離L1の2.0~4.0倍であるのが望ましい。これにより、タイヤ赤道C付近で大きな雪柱が形成され、優れた氷雪路性能が得られる。
【0038】
望ましい態様では、タイヤ周方向で隣り合う傾斜溝10の間を連通する1本又は複数本の継ぎ溝20が設けられている。本実施形態では、一対の傾斜溝10の間に2本の継ぎ溝20が設けられている。
【0039】
各継ぎ溝20は、例えば、傾斜溝10とは逆向きに傾斜しているのが望ましい。換言すれば、各継ぎ溝20は、回転方向Rの反対側に向かって、タイヤ赤道C側に傾斜しているのが望ましい。
【0040】
継ぎ溝20は、例えば、第1継ぎ溝21及び第2継ぎ溝22を含んでいる。第1継ぎ溝21は、例えば、傾斜溝10の間に配された複数本の継ぎ溝20の内、最もタイヤ赤道C側に設けられている。第2継ぎ溝22は、第1継ぎ溝21のタイヤ軸方向外側に配されている。本実施形態の第2継ぎ溝22は、例えば、前記複数本の継ぎ溝20の内、最も第1トレッド端Te1側に設けられている。
【0041】
第1傾斜溝10Aの溝中心線と、この傾斜溝10の回転方向Rの先着側に連なる第1継ぎ溝21の溝中心線の延長線との交点が、第1交点26とされる。タイヤ赤道Cから第1交点26までのタイヤ軸方向の距離L4は、例えば、トレッド幅TWの0.05~0.15倍である。望ましい態様では、上記距離L4は、タイヤ赤道Cから第1傾斜溝10Aの内端10aまでの距離L1よりも大きい。
【0042】
タイヤ赤道Cと第1傾斜溝10Aの溝中心線との交点25から第1交点26まで延びる第1直線24aのタイヤ軸方向に対する角度θ2は、例えば、45~65°であるのが望ましい。このような第1傾斜溝10A及び第1継ぎ溝21の配置は、氷雪路で優れたトラクション性能及び旋回性能を発揮し得る。
【0043】
第1継ぎ溝21は、例えば、タイヤ周方向に対して30~50°の角度θ3で傾斜しているのが望ましい。このような第1継ぎ溝21は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向にバランス良く雪柱せん断力を提供することができる。
【0044】
傾斜溝10の溝中心線と、この傾斜溝10の回転方向Rの先着側に連なる第2継ぎ溝22の溝中心線の延長線との交点が、第2交点27とされる。タイヤ赤道Cから第2交点27までのタイヤ軸方向の距離L5は、例えば、トレッド幅TWの0.22~0.35倍であるのが望ましい。
【0045】
第1交点26から第2交点27まで延びる第2直線24bのタイヤ軸方向に対する角度θ4は、例えば、35~45°であるのが望ましい。
【0046】
第2継ぎ溝22は、例えば、タイヤ周方向に対して第1継ぎ溝21よりも小さい角度θ5で傾斜しているのが望ましい。具体的には、第2継ぎ溝22のタイヤ周方向に対する角度θ5は、例えば、10~30°であるのが望ましい。これにより、氷雪路での旋回性能がさらに高められる。
【0047】
第2交点27から第1トレッド端Te1上の第1傾斜溝10Aの溝中心線までの第3直線24cのタイヤ軸方向に対する角度θ6は、例えば、10~20°であるのが望ましい。これにより、氷雪路で優れたトラクション性能が発揮される。
【0048】
図1に示されるように、上述の各溝が設けられることにより、トレッド部2は、例えば、クラウン陸部5と、ミドルブロック列6と、ショルダーブロック列7とを有している。
【0049】
図3には、クラウン陸部5の拡大図が示されている。図3に示されるように、本実施形態のクラウン陸部5は、例えば、複数の第1傾斜溝10A及びこれらの間を連通する第1継ぎ溝21と、複数の第2傾斜溝10B及びこれらの間を連通する第1継ぎ溝21との間に区分されている。これにより。クラウン陸部5は、例えば、トレッド部2のタイヤ軸方向の中央部、より具体的にはタイヤ赤道C上に設けられている。
【0050】
各傾斜溝10が上述の内端を有することにより、クラウン陸部5は、サイプ40よりも大きい溝幅の溝で分断されずにタイヤ1周に亘って連続して延びている。このようなクラウン陸部5は、過度な変形が抑制され、ひいてはドライ路面での操縦安定性を高めることができる。
【0051】
クラウン陸部5には、例えば、タイヤ軸方向にジグザグ状に延びる複数のクラウンサイプ41が設けられているのが望ましい。このようなクラウンサイプ41は、そのエッジによって氷雪路で大きな摩擦力を発揮し、トラクション性能を高めることができる。
【0052】
本実施形態の各クラウンサイプ41は、例えば、その両端がいずれかの溝に連通するフルオープンサイプを含む。このようなクラウンサイプ41は、氷雪路での摩擦力をさらに高めることができる。
【0053】
クラウン陸部5は、例えば、傾斜溝10と第1継ぎ溝21との間の角部分30を含んでいる。角部分30は、例えば、第1角部分31と第2角部分32とを含む。第1角部分31は、例えば、第1継ぎ溝21の回転方向Rの先着側の端部のエッジと傾斜溝10のエッジとで構成されている。これにより、第1角部分31は、タイヤ赤道Cの反対側に向かって凸となっている。第2角部分32は、例えば、第1継ぎ溝21の回転方向Rの後着側の端部のエッジと傾斜溝10のエッジとで構成されている。これにより、第2角部分32は、回転方向Rの後着側に向かって凸となっている。
【0054】
第2角部分32は、例えば、面取り部33を含むのが望ましい。面取り部33は、クラウン陸部5の接地面と側壁との間を切り欠いた傾斜面を含んでいる。このような面取り部33を含んだ第2角部分32により、ドライ路面でのクラウン陸部5の損傷が抑制される。
【0055】
図4には、ミドルブロック列6及びショルダーブロック列7の拡大図が示されている。図4に示されるように、ミドルブロック列6には、複数のミドルブロック36がタイヤ周方向に並んでいる。ミドルブロック36は、タイヤ周方向で隣り合う傾斜溝10の間で第1継ぎ溝21と第2継ぎ溝22との間に区分されている。
【0056】
ミドルブロック36には、例えば、ラグ溝38が設けられているのが望ましい。ラグ溝38は、例えば、一端がミドルブロック36の回転方向Rの後着側の傾斜溝10に連なっている。また、ラグ溝38は、他端がミドルブロック36内で途切れている。このようなラグ溝38は、ミドルブロック36の剛性低下を抑制してドライ路面での操縦安定性を維持しつつ、雪上性能を高めることができる。
【0057】
ラグ溝38は、例えば、傾斜溝10を介して第1継ぎ溝21と滑らかに連続するように延びているのが望ましい。「滑らかに連続する」とは、第1継ぎ溝21をその長さ方向に延長したとき、ラグ溝38の傾斜溝10側の端部の少なくとも一部と交わる態様を含む。
【0058】
ラグ溝38は、例えば、第1継ぎ溝21と同じ向きに傾斜しているのが望ましい。ラグ溝38は、例えば、タイヤ周方向に対して30~50°の角度θ7で傾斜しているのが望ましい。このようなラグ溝38は、ミドルブロック36の変形を促し、ひいては傾斜溝10及び各継ぎ溝20の雪の詰まりを抑制することができる。
【0059】
図2に示されるように、傾斜溝10とラグ溝38との接続部分において、ラグ溝38の溝中心線の延長線と傾斜溝10の溝中心線の延長線との交点が、第3交点28とされる。タイヤ赤道Cから第3交点28までのタイヤ軸方向の距離L6は、例えば、トレッド幅TWの0.10~0.20倍であるのが望ましい。
【0060】
図4に示されるように、ミドルブロック36には、例えば、複数のミドルサイプ42が設けられているのが望ましい。本実施形態のミドルサイプ42は、例えば、ジグザグ状に延びている。ミドルサイプ42は、例えば、クラウンサイプ41とは異なる向きに延びている。本実施形態のミドルサイプ42は、例えば、継ぎ溝20と同じ向きに傾斜している。望ましい態様では、ミドルサイプ42は、継ぎ溝20に沿って延びている。このようなミドルサイプ42は、氷雪路でのトラクション及び旋回性能を高めることができる。
【0061】
ショルダーブロック列7には、複数のショルダーブロック37がタイヤ周方向に並んでいる。ショルダーブロック37は、タイヤ周方向で隣り合う傾斜溝10の間で第2継ぎ溝22のタイヤ軸方向外側に区分されている。
【0062】
ショルダーブロック37には、例えば、複数の第1ショルダーサイプ43と、これらのタイヤ軸方向外側に配された第2ショルダーサイプ44が設けられているのが望ましい。本実施形態の第1ショルダーサイプ43及び第2ショルダーサイプ44は、例えば、ジグザグ状に延びている。
【0063】
第1ショルダーサイプ43は、例えば、クラウンサイプ41及びミドルサイプ42とは異なる向きに延びている。第1ショルダーサイプ43は、例えば、ミドルサイプ42とは逆向きに傾斜して延びている。本実施形態の第1ショルダーサイプ43は、例えば、傾斜溝10に沿って延びている。また、第1ショルダーサイプ43は、一端が第2継ぎ溝22に連なり他端がショルダーブロック37内で途切れるセミオープンサイプ、及び、両端がショルダーブロック37内で途切れるクローズドサイプを含んでいる。 このような第1ショルダーサイプ43は、氷雪路性能とドライ路面での操縦安定性とをバランス良く高めることができる。
【0064】
第2ショルダーサイプ44は、例えば、タイヤ周方向に沿って延びている。本実施形態の第2ショルダーサイプ44は、例えば、両端がショルダーブロック37内で途切れるクローズドサイプである。このような第2ショルダーサイプ44は、氷雪路でのワンダンリング性能を高めるのに役立つ。
【0065】
図1に示されるように、本実施形態の冬用タイヤ1は、例えば、ブロックにスタッドピン又はスタッドピン用の孔45が複数個設けられたスタッドタイヤであるのが望ましい。このようなスタッドタイヤは、とりわけ氷路での走行性能を効果的に高める。但し、本発明の冬用タイヤ1は、このような態様に限定されるものではなく、スタッドピンを含まないスタッドレスタイヤとして用いられても良い。
【0066】
図1に示されるように、本実施形態のトレッド部2のランド比Lrは、例えば、60%~80%であるのが望ましい。これにより、ドライ路面での操縦安定性と氷雪路性能とがバランス良く高められる。本明細書において、「ランド比」とは、各溝及びサイプを全て埋めた仮想接地面の全面積Saに対する、実際の合計接地面積Sbの比Sb/Saである。
【0067】
同様の観点から、トレッド部2を形成するトレッドゴムのゴム硬度Htは、例えば、45~60°が望ましく、より望ましくは50~56°である。本明細書において、前記「ゴム硬度」は、JIS-K6253に準拠し、23℃の環境下におけるデュロメータータイプAによる硬さである。
【0068】
以上、本発明の一実施形態の冬用タイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例
【0069】
図1の基本トレッドパターンを有するサイズ205/55R16の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、図5に示されるように、傾斜溝aの内端が他の溝と接続した冬用タイヤが試作された。比較例2として、図6に示されるように、傾斜溝aが、タイヤ赤道を横切らずに途切れている冬用タイヤが試作された。各テストタイヤのドライ路面での操縦安定性、及び、氷雪路性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
テスト車両:排気量2000cc
テストタイヤ装着位置:全輪
リム:16×6.5
タイヤ内圧:前輪220kPa、後輪220kPa
トレッド接地幅:173mm
傾斜溝の溝深さ:8.9mm
ランド比:70%
トレッドゴムのゴム硬度:56°
【0070】
<ドライ路面での操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面の周回コースを走行したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程、ドライ路面での操縦安定性が優れていることを示す。
【0071】
<氷雪路性能>
上記テスト車両で氷雪路を走行したときの走行性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程、氷雪路性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0072】
【表1】
【0073】
テストの結果、実施例のタイヤは、優れた氷雪路性能及びドライ路面での操縦安定性を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0074】
2 トレッド部
10A 第1傾斜溝
10a 内端
40 サイプ
Te1 第1トレッド端
Te2 第2トレッド端
図1
図2
図3
図4
図5
図6