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特許7091763生体情報測定装置、及び生体情報測定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】生体情報測定装置、及び生体情報測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20220621BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61B5/1455
A61B5/029
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018057113
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019166144
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逆井 一宏
(72)【発明者】
【氏名】赤松 学
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 友暁
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】梅川 英之
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535356(JP,A)
【文献】特開平06-022943(JP,A)
【文献】特開2016-165447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0080687(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
A61B 5/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から検出される第1の波長の光の光量を表す第1の信号と、前記生体から検出される第2の波長の光の光量を表す第2の信号とを受け付け、前記生体の動脈血液量の変化に伴う、前記第1の信号で表される光量の変化量と前記第2の信号で表される光量の変化量との差が小さくなるように、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方を補正する補正部と、
前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号及び第2の信号に基づいて、前記生体における血中酸素濃度の変化を算出する算出部と、
を備えた生体情報測定装置。
【請求項2】
前記補正は、前記第1の信号の変化量と前記第2の信号の変化量とを同一にする補正である請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記血中酸素濃度の変化は、前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号の値及び第2の信号の値との差により表される請求項1又は2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記血中酸素濃度の変化を表す前記差に基づいて、前記生体の吸気酸素量の変化に伴う前記血中酸素濃度の変曲点を検出する検出部を更に備えた請求項3に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記生体の吸気酸素量が変化した時点から、前記検出部により検出された前記血中酸素濃度の変曲点までの時間を特定する特定部を更に備えた請求項4に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記補正は、前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表される係数を、前記第1の信号の値又は前記第2の信号の値に乗じることで行われる請求項1~5のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項7】
前記係数は、前記生体の吸気酸素量を変化させる前における前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表され、
前記補正は、前記係数を、前記生体の吸気酸素量を変化させた後における前記第1の信号の値又は前記第2の信号の値に乗じることで行われる請求項6に記載の生体情報測定装置。
【請求項8】
受光部から出力された、前記第1の波長の光に対応する第1の受光信号及び前記第2の波長の光に対応する第2の受光信号の各々から直流成分を除去し、直流成分を除去した後の第1の受光信号及び第2の受光信号の各々を、前記第1の信号及び前記第2の信号の各々として出力する第1除去部を更に備え、
前記補正部は、前記第1除去部から受け付けた第1の信号及び第2の信号に基づいて、前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表される係数を導出する請求項1~5のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項9】
前記補正は、前記導出した係数を、前記受光部から前記第1除去部を介さずに受け付けた第1の信号の値又は第2の信号の値に乗じることで行われる請求項8に記載の生体情報測定装置。
【請求項10】
前記第1除去部は、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタである請求項8又は9に記載の生体情報測定装置。
【請求項11】
受光部から出力された、前記第1の波長の光に対応する第1の受光信号及び前記第2の波長の光に対応する第2の受光信号の各々から前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去し、周波数成分の少なくとも一部を除去した後の第1の受光信号及び第2の受光信号の各々を、前記第1の信号及び前記第2の信号の各々として出力する第2除去部を更に備えた請求項1~7のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項12】
前記第2除去部は、ローパスフィルタである請求項11に記載の生体情報測定装置。
【請求項13】
前記第2除去部は、
前記第1の受光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第1波形信号を生成することにより、前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去し、
前記第2の受光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第2波形信号を生成することにより、前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去する請求項11に記載の生体情報測定装置。
【請求項14】
生体から検出される第1の波長の光の光量を表す第1の信号と、前記生体から検出される第2の波長の光の光量を表す第2の信号とを受け付け、前記生体の動脈血液量の変化に伴う、前記第1の信号で表される光量の変化量と前記第2の信号で表される光量の変化量との差が小さくなるように、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方を補正する補正部と、
前記生体の吸気酸素量が変化した後において、前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号及び第2の信号から得られる血中酸素濃度の変曲点を検出する検出部と、
を備えた生体情報測定装置。
【請求項15】
コンピュータを、請求項1~14のいずれか1項に記載の生体情報測定装置が備える各部として機能させるための生体情報測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報測定装置、及び生体情報測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、センサを用いて生体から抽出した動脈血の吸光度信号に基づいて酸素飽和度の変化を算出する酸素運搬の循環時間測定方法が記載されている。この酸素運搬の循環時間測定方法は、生体への吸気酸素量を変化させると共にその変化させた時点を基準点とし、その基準点から動脈血の酸素飽和度が変化するまでの時間を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-231012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、心機能の状態を示す指標の一つに心拍出量がある。心拍出量を測定する代表的な方法として、血管内に挿入したカテーテルから冷水を注入することで測定を行う熱希釈法があるが、この熱希釈法では、生体に対する侵襲性が高く、生体の負担が大きい。
【0005】
これに対して、酸素運搬の循環時間測定方法では、異なる波長の光を照射する複数の発光素子を生体に向けて発光させ、生体を透過又は反射した光の光量変化から血中酸素濃度の変化を測定している。この方法によれば、生体に対する侵襲性が比較的低く、生体への負担が小さくなる点で望ましいが、生体から検出される複数の光の光量変化の各々を表す信号の振幅比(減光度比)の変化を血中酸素濃度の変化として検出している。この場合、例えば、心房細動を持つ生体や、環境温度や精神状態等の影響により血流量が低下している生体等に対して、血中酸素濃度を精度良く測定することが難しい場合がある。
【0006】
本発明は、生体から検出される複数の光の光量変化の各々を表す信号の振幅比(減光度比)の変化を血中酸素濃度の変化として検出する場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる生体情報測定装置、及び生体情報測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の生体情報測定装置は、生体から検出される第1の波長の光の光量を表す第1の信号と、前記生体から検出される第2の波長の光の光量を表す第2の信号とを受け付け、前記生体の動脈血液量の変化に伴う、前記第1の信号で表される光量の変化量と前記第2の信号で表される光量の変化量との差が小さくなるように、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方を補正する補正部と、前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号及び第2の信号に基づいて、前記生体における血中酸素濃度の変化を算出する算出部と、を備えている。
【0008】
また、請求項2に記載の生体情報測定装置は、請求項1に記載の発明において、前記補正が、前記第1の信号の変化量と前記第2の信号の変化量とを同一にする補正であるとされている。
【0009】
また、請求項3に記載の生体情報測定装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記血中酸素濃度の変化が、前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号の値及び第2の信号の値との差により表される。
【0010】
また、請求項4に記載の生体情報測定装置は、請求項3に記載の発明において、前記血中酸素濃度の変化を表す前記差に基づいて、前記生体の吸気酸素量の変化に伴う前記血中酸素濃度の変曲点を検出する検出部を更に備えている。
【0011】
また、請求項5に記載の生体情報測定装置は、請求項4に記載の発明において、前記生体の吸気酸素量が変化した時点から、前記検出部により検出された前記血中酸素濃度の変曲点までの時間を特定する特定部を更に備えている。
【0012】
また、請求項6に記載の生体情報測定装置は、請求項1~5のいずれか1項に記載の発明において、前記補正が、前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表される係数を、前記第1の信号の値又は前記第2の信号の値に乗じることで行われる。
【0013】
また、請求項7に記載の生体情報測定装置は、請求項6に記載の発明において、前記係数が、前記生体の吸気酸素量を変化させる前における前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表され、前記補正が、前記係数を、前記生体の吸気酸素量を変化させた後における前記第1の信号の値又は前記第2の信号の値に乗じることで行われる。
【0014】
また、請求項8に記載の生体情報測定装置は、請求項1~5のいずれか1項に記載の発明において、受光部から出力された、前記第1の波長の光に対応する第1の受光信号及び前記第2の波長の光に対応する第2の受光信号の各々から直流成分を除去し、直流成分を除去した後の第1の受光信号及び第2の受光信号の各々を、前記第1の信号及び前記第2の信号の各々として出力する第1除去部を更に備え、前記補正部が、前記第1除去部から受け付けた第1の信号及び第2の信号に基づいて、前記第1の信号の振幅と前記第2の信号の振幅との振幅比で表される係数を導出する。
【0015】
また、請求項9に記載の生体情報測定装置は、請求項8に記載の発明において、前記補正が、前記導出した係数を、前記受光部から前記第1除去部を介さずに受け付けた第1の信号の値又は第2の信号の値に乗じることで行われる。
【0016】
また、請求項10に記載の生体情報測定装置は、請求項8又は9に記載の発明において、前記第1除去部が、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタであるとされている。
【0017】
また、請求項11に記載の生体情報測定装置は、請求項1~7のいずれか1項に記載の発明において、受光部から出力された、前記第1の波長の光に対応する第1の受光信号及び前記第2の波長の光に対応する第2の受光信号の各々から前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去し、周波数成分の少なくとも一部を除去した後の第1の受光信号及び第2の受光信号の各々を、前記第1の信号及び前記第2の信号の各々として出力する第2除去部を更に備えている。
【0018】
また、請求項12に記載の生体情報測定装置は、請求項11に記載の発明において、前記第2除去部が、ローパスフィルタであるとされている。
【0019】
また、請求項13に記載の生体情報測定装置は、請求項11に記載の発明において、前記第2除去部が、前記第1の受光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第1波形信号を生成することにより、前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去し、前記第2の受光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第2波形信号を生成することにより、前記生体の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去する。
【0020】
一方、上記目的を達成するために、請求項14に記載の生体情報測定装置は、生体から検出される第1の波長の光の光量を表す第1の信号と、前記生体から検出される第2の波長の光の光量を表す第2の信号とを受け付け、前記生体の動脈血液量の変化に伴う、前記第1の信号で表される光量の変化量と前記第2の信号で表される光量の変化量との差が小さくなるように、前記第1の信号及び前記第2の信号の少なくとも一方を補正する補正部と、前記生体の吸気酸素量が変化した後において、前記補正部により少なくとも一方が補正された第1の信号及び第2の信号から得られる血中酸素濃度の変曲点を検出する検出部と、を備えている。
【0021】
更に、上記目的を達成するために、請求項15に記載の生体情報測定プログラムは、コンピュータを、請求項1~14のいずれか1項に記載の生体情報測定装置が備える各部として機能させる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1、請求項14、及び請求項15に係る発明によれば、生体から検出される複数の光の光量変化の各々を表す信号の振幅比(減光度比)の変化を血中酸素濃度の変化として検出する場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、複数の信号の変化量を同一にしない場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、補正後の複数の信号の差を用いない場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く検出することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、補正後の複数の信号の差を用いない場合と比較して、血中酸素濃度の変曲点を精度良く検出することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、補正後の複数の信号の差を用いない場合と比較して、血中酸素濃度の変曲点までの時間を精度良く特定することができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、複数の信号の振幅比で表される係数を用いない場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、生体の吸気酸素量を変化させた後に係数を得る場合と比較して、精度の高い係数を得ることができる。
【0029】
請求項8に記載の発明によれば、直流成分が除去されていない複数の信号から係数を得る場合と比較して、精度の高い係数を得ることができる。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、直流成分が除去された後の複数の信号のいずれかに係数を適用する場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる。
【0031】
請求項10に記載の発明によれば、簡易な手法で直流成分を除去することができる。
【0032】
請求項11に記載の発明によれば、複数の信号から動脈血液量の変化に対応した周波数成分を除去しない場合と比較して、血中酸素濃度の変化を精度良く測定することができる。
【0033】
請求項12に記載の発明によれば、簡易な手法で周波数成分を除去することができる。
【0034】
請求項13に記載の発明によれば、上記と同様に、簡易な手法で周波数成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施形態に係る血流情報及び血中の酸素飽和度の測定例を示す模式図である。
図2】実施形態に係る生体からの反射光による受光量の変化の一例を示すグラフである。
図3】実施形態に係る血管にレーザ光を照射した場合に生じるドップラーシフトの説明に供する模式図である。
図4】実施形態に係る血管にレーザ光を照射した場合に生じるスペックルの説明に供する模式図である。
図5】実施形態に係る単位時間における周波数毎のスペクトル分布の一例を示すグラフである。
図6】実施形態に係る単位時間あたりの血流量の変化の一例を示すグラフである。
図7】実施形態に係る生体に吸収される光の吸光量の変化の一例を示すグラフである。
図8】実施形態に係るヘモグロビンによる吸光度特性の一例を示すグラフである。
図9】実施形態に係る呼吸波形の測定原理の説明に供する模式図である。
図10】実施形態に係る拍出量の測定原理の説明に供する模式図である。
図11】実施形態に係るLFCTの測定方法の一例を説明するためのグラフである。
図12】実施形態に係る生体情報測定装置の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
図13】実施形態に係る生体情報測定装置における発光素子及び受光素子の配置の一例を示す図である。
図14】実施形態に係る生体情報測定装置における発光素子及び受光素子の配置の別の例を示す図である。
図15】実施形態に係る受光素子におけるデータのサンプリングタイミングの一例を示すグラフである。
図16】第1の実施形態に係る生体情報測定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図17】第1の実施形態に係る生体情報測定プログラムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図18】実施形態に係るIR光信号の振幅及び赤色光信号の振幅の一例を示すグラフである。
図19】実施形態に係る係数と脈波差との関係の一例を示すグラフである。
図20】実施形態に係るIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図21】実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図22】実施形態に係る脈波の差分によるモニタ結果の一例を示すグラフである。
図23】従来の、脈波の振幅比の変化を血中酸素濃度の変化として検出したモニタ結果の一例を示すグラフである。
図24】実施形態に係る脈波差から特定されたLFCTの一例を示すグラフである。
図25】比較例に係る振幅比から特定されたLFCTを示すグラフである。
図26】第2の実施形態に係る生体情報測定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図27】実施形態に係るLPFが適用されたIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図28】実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図29】(A)は、実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数と同一にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差、及び脈波差を拡大した状態を示すグラフである。(B)は、実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/2にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差、及び脈波差を拡大した状態を示すグラフである。(C)は、実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/4にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差、及び脈波差を拡大した状態を示すグラフである。(D)は、実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/8にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差、及び脈波差を拡大した状態を示すグラフである。
図30】実施形態に係るLPFが適用された赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図31】実施形態に係る平滑化後の赤色光信号の時系列データから得られる中点波形の一例を示すグラフである。
図32】実施形態に係る脈波中点を結んだIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図33】実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
図34】実施形態に係る脈波中点を結んだ脈波形から得られる脈波差及び脈波差を拡大した状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の一例について詳細に説明する。
【0037】
[第1の実施形態]
まず、図1を参照して、生体情報のうち、特に血液に関する生体情報の一例である血流情報及び血中の酸素飽和度の測定方法について説明する。
【0038】
図1は、本実施形態に係る血流情報及び血中の酸素飽和度の測定例を示す模式図である。
図1に示すように、血流情報及び血中の酸素飽和度とは、被験者の体(生体8)に向けて発光素子1から光を照射し、受光素子3で受光した、生体8の体内に張り巡らされている動脈4、静脈5、及び毛細血管6等の反射又は透過した光の強さ、すなわち、反射光又は透過光の受光量を用いて測定される。
【0039】
(血流情報の測定)
図2は、本実施形態に係る生体8からの反射光による受光量の変化の一例を示すグラフである。
なお、図2において、グラフ80の横軸は時間の経過を表し、縦軸は受光素子3の受光量を表す。
【0040】
図2に示すように、受光素子3の受光量は時間の経過に伴って変化するが、これは血管を含む生体8への光の照射に対して現われる3つの光学現象の影響を受けるためであると考えられる。
【0041】
1つ目の光学現象として、脈動によって、測定している血管内に存在する血液量が変化することによる光の吸収の変化が考えられる。血液には、例えば赤血球等の血球細胞が含まれ、毛細血管6等の血管内を移動するため、血液量が変化することによって血管内を移動する血球細胞の数も変化し、受光素子3での受光量に影響を与えることがある。
【0042】
2つ目の光学現象として、ドップラーシフトによる影響が考えられる。
【0043】
図3は、本実施形態に係る血管にレーザ光を照射した場合に生じるドップラーシフトの説明に供する模式図である。
【0044】
図3に示すように、例えばレーザ光のような周波数ω0のコヒーレント光40を発光素子1から血管の一例である毛細血管6を含む領域に照射した場合、毛細血管6を移動する血球細胞で散乱した散乱光42は、血球細胞の移動速度により決まる差周波Δω0を有するドップラーシフトを生じることになる。一方、血球細胞等の移動体を含まない皮膚等の組織(静止組織)で散乱した散乱光42の周波数は、照射したレーザ光の周波数と同じ周波数ω0を維持する。したがって、毛細血管6等の血管で散乱したレーザ光の周波数ω0+Δω0と、静止組織で散乱したレーザ光の周波数ω0とが互いに干渉し、差周波Δω0を有するビート信号が受光素子3で観測され、受光素子3の受光量が時間の経過に伴って変化する。なお、受光素子3で観測されるビート信号の差周波Δω0は血球細胞の移動速度に依存するが、約数十kHzを上限とした範囲に含まれる。
【0045】
また、3つ目の光学現象として、スペックルによる影響が考えられる。
【0046】
図4は、本実施形態に係る血管にレーザ光を照射した場合に生じるスペックルの説明に供する模式図である。
【0047】
図4に示すように、レーザ光のようなコヒーレント光40を、発光素子1から血管中を矢印44の方向に移動する赤血球等の血球細胞7に照射した場合、血球細胞7にぶつかったレーザ光は様々な方向に散乱する。散乱光は位相が異なるためにランダムに干渉し合う。これによりランダムな斑点模様の光強度分布を生じる。このようにして形成される光強度の分布パターンは「スペックルパターン」と呼ばれる。
【0048】
既に説明したように、血球細胞7は血管中を移動するため、血球細胞7における光の散乱状態が変化し、スペックルパターンが時間の経過と共に変動する。したがって、受光素子3の受光量が時間の経過に伴って変化する。
【0049】
次に、血流情報の求め方の一例について説明する。図2に示す時間経過に伴う受光素子3の受光量が得られた場合、予め定めた単位時間T0の範囲に含まれるデータを切り出し、当該データに対して、例えば高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform: FFT)を実行することで、周波数ω毎のスペクトル分布が得られる。
【0050】
図5は、本実施形態に係る単位時間T0における周波数ω毎のスペクトル分布の一例を示すグラフである。
なお、図5において、グラフ82の横軸は周波数ωを表し、縦軸はスペクトル強度を表す。
【0051】
ここで、血液量はグラフ82の横軸と縦軸とで囲まれた斜線領域84で表されるパワースペクトルの面積を全光量で規格化した値に比例する。また、血流速度はグラフ82で表されるパワースペクトルの周波数平均値に比例するため、周波数ωと周波数ωにおけるパワースペクトルの積を周波数ωについて積分した値を斜線領域84の面積で除算した値に比例する。
【0052】
なお、血流量は血液量と血流速度の積で表わされるため、上記血液量と血流速度の算出式より求めることが可能である。血流量、血流速度、血液量は血流情報の一例であり、血流情報はこれに限定されない。
【0053】
図6は、本実施形態に係る単位時間T0あたりの血流量の変化の一例を示すグラフである。
なお、図6において、グラフ86の横軸は時間を表し、縦軸は血流量を表す。
【0054】
図6に示すように、血流量は時間と共に変動するが、その変動の傾向は2つの種類に分類される。例えば図6の区間Tにおける血流量の変動幅88に比べて、区間Tにおける血流量の変動幅90は大きい。これは、区間Tにおける血流量の変化が、主に脈の動きに伴う血流量の変化であるのに対して、区間Tにおける血流量の変化は、例えばうっ血や神経活動等の原因に伴う血流量の変化を示しているためであると考えられる。
【0055】
(酸素飽和度の測定)
次に、血中の酸素飽和度の測定について説明する。血中の酸素飽和度とは、血中酸素濃度の一例であり、血液中のヘモグロビンがどの程度酸素と結合しているかを示す指標であり、血中の酸素飽和度が低下するにつれ、貧血等の症状が発生しやすくなる。
【0056】
図7は、本実施形態に係る生体8に吸収される光の吸光量の変化の一例を示すグラフである。
なお、図7において、グラフ92の横軸は時間を表し、縦軸は吸光量を表す。
【0057】
図7に示すように、生体8における吸光量は、時間の経過と共に変動する傾向が見られる。
【0058】
更に、生体8における吸光の変動に関する内訳について見てみると、主に動脈4によって吸光量が変動し、静脈5及び静止組織を含むその他の組織では、動脈4に比べて吸光量が変動しないとみなせる程度の変動量であることが知られている。これは、心臓から拍出された動脈血は脈波を伴って血管内を移動するため、動脈4が動脈4の断面方向に沿って経時的に伸縮し、動脈4の厚みが変化するためである。なお、図7において、矢印94で示される範囲が、動脈4の厚みの変化に対応した吸光量の変動量を示す。
【0059】
図7において、時刻taにおける受光量をIa、時刻tbにおける受光量をIbとすれば、動脈4の厚みの変化による光の吸光量の変化量ΔAは、(1)式で表される。
【0060】
(数1)
ΔA=ln(Ib/Ia)・・・(1)
【0061】
図8は、本実施形態に係るヘモグロビンによる吸光度特性の一例を示すグラフである。
なお、図8において、縦軸は吸光度を表し、横軸は波長を表す。
【0062】
図8に示すように、動脈4を流れる酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)は、特に約880nm近辺の波長を有する赤外線(infrared: IR)領域の光を吸収しやすく、酸素と結合していないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)は、特に約665nm近辺の波長を有する赤色領域の光を吸収しやすいことが知られている。更に、酸素飽和度は、異なる波長における吸光量の変化量ΔAの比率と比例関係があることが知られている。
【0063】
したがって、他の波長の組み合わせに比べて、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとで吸光量の差が現われやすい赤外光(IR光)と赤色光を用いて、IR光を生体8に照射した場合の吸光量の変化量ΔAIRと、赤色光を生体8に照射した場合の吸光量の変化量ΔARedとの比率をそれぞれ算出することで、(2)式によって酸素飽和度Sが算出される。なお、(2)式においてkは比例定数である。
【0064】
(数2)
S=k(ΔARed/ΔAIR)・・・(2)
【0065】
すなわち、血中の酸素飽和度を算出する場合、それぞれ異なる波長の光を照射する複数の発光素子1、具体的には、IR光を照射する発光素子1と赤色光を照射する発光素子1とを一部の発光期間が重複しても良いが、望ましくは発光期間が重複しないよう発光させる。そして、各々の発光素子1による反射光又は透過光を受光素子3で受光して、各受光時点における受光量から(1)式及び(2)式、又は、これらの式を変形して得られる公知の式を算出することで、酸素飽和度が測定される。
【0066】
上記(1)式を変形して得られる公知の式として、例えば(1)式を展開して、光の吸光量の変化量ΔAを(3)式のように表してもよい。
【0067】
(数3)
ΔA=lnIb-lnIa・・・(3)
【0068】
また、(1)式は(4)式のように変形することができる。
【0069】
(数4)
ΔA=ln(Ib/Ia)=ln(1+(Ib-Ia)/Ia) ・・・(4)
【0070】
通常、(Ib-Ia)≪Iaであることから、ln(Ib/Ia)≒(Ib-Ia)/Iaが成り立つため、(1)式の代わりに、光の吸光量の変化量ΔAとして(5)式を用いてもよい。
【0071】
(数5)
ΔA≒(Ib-Ia)/Ia ・・・(5)
【0072】
なお、IR光を照射する発光素子1と赤色光を照射する発光素子1とを区別して説明する必要がある場合、以降では、IR光を照射する発光素子1を「発光素子LD1」といい、赤色光を照射する発光素子1を「発光素子LD2」というようにする。また、一例として、発光素子LD1を血流量の算出で使用する発光素子1とし、発光素子LD1及び発光素子LD2を、血中の酸素飽和度の算出で利用する発光素子1とする。
【0073】
また、血中の酸素飽和度を測定する場合、受光量の測定周波数は約30Hzから1000Hz程度で十分であることが知られているため、発光素子LD2の1秒あたりの点滅回数を表す発光周波数も約30Hzから1000Hz程度で十分である。したがって、発光素子LD2における消費電力等の観点からは、発光素子LD2の発光周波数を発光素子LD1の発光周波数より低くすることが好ましいが、発光素子LD2の発光周波数を発光素子LD1の発光周波数に合わせ、発光素子LD1と発光素子LD2を交互に発光させるようにしてもよい。
【0074】
次に、図9を参照して、生体8の末梢部位から得られる脈波信号から呼吸波形を測定する原理について説明する。ここでいう末梢部位の一例としては、手の指先や、足の指先、耳朶等が挙げられる。なお、末梢部位には、肘よりも先の部位や、膝よりも先の部位等も含まれる。また、呼吸波形とは、生体8の呼吸状態を示す信号の波形であり、呼気及び吸気の時間変化を表す時系列信号の波形とされる。
【0075】
図9は、本実施形態に係る呼吸波形の測定原理の説明に供する模式図である。
図9に示すように、吸気時には以下に示すステップにより脈波信号の振幅が減少する。
(S1)胸腔内圧が低下して陰圧となり、肺が拡張する。
(S2)静脈還流量が増加する。
(S3)右心房に流入する血液量が増加する。
(S4)肺の血管床が拡がり、肺が貯留する血液量が増加する。
(S5)肺から左心房に戻る血液量が減少する。
(S6)左心室の1回拍出量が減少する。
(S7)脈波信号の振幅が減少する。
【0076】
一方、呼気時には以下に示すステップにより脈波信号の振幅が増加する。
(S8)肺から絞り出た血液が左心室に流入する。
(S9)脈波信号の振幅が増加する。
【0077】
つまり、「心臓のポンプ動作」により生じる脈動に、呼吸により生じる「肺のポンプ動作」の影響が重畳されるため、生体8の末梢部位から得られる脈波信号から呼吸波形を測定することが可能となる。
【0078】
次に、図10を参照して、心臓からの血液の拍出量と相関がある指標の一例であるLFCT(Lung to Finger Circulation Time)を測定する原理について説明する。ここでいう拍出量には、上述の心拍出量に限らず、1回拍出量、心係数等も含まれる。なお、心拍出量とは、心臓の単位時間(例えば1分)当たりの収縮によって動脈へ拍出される血液量と定義される。1回拍出量とは、心臓の1回の収縮によって動脈へ拍出される血液量と定義される。心係数とは、心拍出量を被験者の体表面積で除して得られる係数と定義される。また、LFCTとは、呼吸で取り込まれた酸素が肺及び心臓を通り指先に到達するまでの時間と定義される。
【0079】
図10は、本実施形態に係る拍出量の測定原理の説明に供する模式図である。
図10に示すように、上記拍出量とLFCTとは相関がある。例えば、拍出量の一例である心拍出量をCOとした場合、心拍出量COは、以下に示す(6)式により算出される。
【0080】
(数6)
CO=(a×S)/LFCT・・・(6)
ここで、aは定数であり、例えばa=50が用いられる。また、Sは被験者の体表面積(m2)であり、LFCTの単位は秒である。
【0081】
図11は、本実施形態に係るLFCTの測定方法の一例を説明するためのグラフである。
なお、図11において、縦軸は酸素飽和度の逆数を表し、横軸は時間を表す。
【0082】
図11に示すように、本実施形態に係るLFCTは、上述した酸素飽和度の変化から測定される。すなわち、LFCTは、一定期間呼吸を停止した後に呼吸を再開した時点から、酸素飽和度が回復したことを示す変曲点までの時間を測定することで得られる。
【0083】
ところで、上記LFCTの測定では、血中酸素濃度の変化の検出に、一例として、IR光信号の変化量と赤色光信号の変化量との比率、つまり、波長が異なる2つの脈波信号(ここではIR光信号及び赤色光信号)の振幅比が用いられる。この振幅比を用いる場合、例えば、心房細動を持つ生体や、環境温度や精神状態等の影響により血流量が低下している生体等に対して、血中酸素濃度を精度良く測定することが難しい場合がある。
【0084】
以降では、心房細動を持つ生体や、環境温度や精神状態等の影響により血流量が低下している生体等であっても、血中酸素濃度を精度良く測定する生体情報測定装置について説明する。
【0085】
図12は、本実施形態に係る生体情報測定装置10の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【0086】
図12に示すように、本実施形態に係る生体情報測定装置10は、発光制御部12、駆動回路14、増幅回路16、A/D(Analog/Digital)変換回路18、制御部20、表示部22、発光素子LD1、発光素子LD2、及び受光素子3を備えている。なお、発光素子LD1、発光素子LD2、受光素子3、及び増幅回路16は、センサ部を構成している。また、発光制御部12、駆動回路14、増幅回路16、A/D変換回路18、制御部20、及び表示部22は、本体部を構成している。本実施形態では、これらのセンサ部と本体部とは別体で構成され、有線又は無線を介して通信可能とされている。なお、センサ部と本体部とが一体的に構成されていてもよい。また、センサ部は、外部光が入力しないように生体8に密着するように取り付けられる。本実施形態に係るセンサ部は、一例として、生体8の指先に取り付けられるが、耳朶等の他の末梢部位にも取り付け可能とされている。
【0087】
発光制御部12は、発光素子LD1及び発光素子LD2に駆動電力を供給する電力供給回路を含む駆動回路14に、発光素子LD1及び発光素子LD2の発光周期及び発光期間を制御する制御信号を出力する。なお、発光制御部12は、制御部20の一部として実現してもよい。
【0088】
駆動回路14は、発光制御部12からの制御信号を受け付けると、制御信号で指示された発光周期及び発光期間に従って、発光素子LD1及び発光素子LD2に駆動電力を供給し、発光素子LD1及び発光素子LD2を駆動する。
【0089】
受光素子3は、受光部の一例であり、発光素子LD1から第1の波長の光を受光し、受光した第1の波長の光に対応する第1の受光信号と、発光素子LD2から第2の波長の光を受光し、受光した第2の波長の光に対応する第2の受光信号と、を出力する。なお、本実施形態では、第1の波長として赤外領域に対応する波長の範囲が適用され、第2の波長として赤色領域に対応する波長の範囲が適用される。また、第1の受光信号にはIR光信号が適用され、第2の受光信号には赤色光信号が適用される。
【0090】
増幅回路16は、受光素子3で発生する光の強さに応じた電流を電圧に変換し、A/D変換回路18の入力電圧範囲として規定される電圧レベルまで増幅する。
【0091】
A/D変換回路18は、増幅回路16で増幅した電圧を入力として、当該電圧の大きさで表される受光素子3の受光量を数値化して出力する。
【0092】
制御部20は、CPU(Central Processing Unit)20A、ROM(Read Only Memory)20B、及びRAM(Random Access Memory)20Cを備えている。ROM20Bには、生体情報測定プログラムが記憶される。この生体情報測定プログラムは、例えば、生体情報測定装置10に予めインストールされていてもよい。生体情報測定プログラムは、不揮発性の記憶媒体に記憶して、又はネットワークを介して配布して、生体情報測定装置10に適宜インストールすることで実現してもよい。なお、不揮発性の記憶媒体の例としては、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、光磁気ディスク、HDD、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、フラッシュメモリ、メモリカード等が想定される。
【0093】
表示部22は、生体情報の測定結果を通知する通知部の一例である。表示部22には、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等が用いられる。表示部22は、タッチパネルを一体的に有している。
【0094】
図13は、本実施形態に係る生体情報測定装置10における発光素子LD1、発光素子LD2、及び受光素子3の配置の一例を示す図である。また、図14は、本実施形態に係る生体情報測定装置10における発光素子LD1、発光素子LD2、及び受光素子3の配置の別の例を示す図である。
【0095】
図13に示すように、発光素子LD1、発光素子LD2、及び受光素子3は、生体8の一方の面に向かって並べて配置される。この場合、受光素子3は、生体8の表面近傍を透過した発光素子LD1及び発光素子LD2の光を受光する。
【0096】
なお、発光素子LD1、発光素子LD2、及び受光素子3の配置は、図13の配置例に限定されない。例えば、図14に示すように、発光素子LD1及び発光素子LD2と、受光素子3とを、生体8を挟んで対向する位置に配置するようにしてもよい。この場合、受光素子3は、生体8を透過した発光素子LD1及び発光素子LD2の光を受光する。
【0097】
なお、ここでは一例として、発光素子LD1及び発光素子LD2は、共に面発光レーザ素子であるものとして説明するが、これに限らず、端面発光レーザ素子であってもよい。また、発光素子LD1及び発光素子LD2の各々から照射される光はレーザ光でなくてもよい。この場合、発光素子LD1及び発光素子LD2の各々には、発光ダイオード(Light-Emitting Diode: LED)又は有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode: OLED)を用いてもよい。
【0098】
図15は、本実施形態に係る受光素子3におけるデータのサンプリングタイミングの一例を示すグラフである。図15において、丸印の位置がサンプリングタイミングを示している。
なお、図15において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
【0099】
図15に示すように、受光素子3が発光素子LD1から受光した光に対応する出力電圧を、IR、IR、・・・、IRとした場合に、時系列データとしてIR(t)=IR、IR、・・・、IRが得られる。同様に、受光素子3が発光素子LD2から受光した光に対応する出力電圧を、Red、Red、・・・、Redとした場合に、時系列データとしてRed(t)=Red、Red、・・・、Redが得られる。このとき、両方の発光素子LD1及び発光素子LD2に対して、発光しない期間を設け、暗状態での出力Dark、Dark、・・・、Darkを得るようにしてもよい。この場合、IR(t)は、IR-Dark、IR-Dark、・・・、IR-Darkとしてもよい。同様に、Red(t)は、Red-Dark、Red-Dark、・・・、Red-Darkとしてもよい。これらのデータのサンプリングは、発光期間の終了近くで出力が安定している状態で行うことが望ましい。
【0100】
本実施形態に係る生体情報測定装置10のCPU20Aは、ROM20Bに記憶されている生体情報測定プログラムをRAM20Cに書き込んで実行することにより、図16に示す各部として機能する。
【0101】
図16は、第1の実施形態に係る生体情報測定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図16に示すように、本実施形態に係る生体情報測定装置10のCPU20Aは、第1除去部30、補正部31、算出部32、検出部33、特定部34、及び推定部35として機能する。なお、第1除去部30は、必須の構成要素ではなく、必要に応じて設けるようにすればよい。
【0102】
まず、第1除去部30を設けない場合の各部の構成について説明する。
【0103】
本実施形態に係る補正部31は、受光素子3から出力されたIR光信号及び赤色光信号の各々を受け付け、生体8の動脈血液量の変化に伴う、IR光信号の変化量(以下、ΔIRという。)と赤色光信号の変化量(以下、ΔRedという。)との差が小さくなるように、IR光信号を補正する。この動脈血液量の変化は、心拍に伴う脈動の振幅を表している。なお、この場合、IR光信号が第1の信号の一例とされ、赤色光信号が第2の信号の一例とされる。
【0104】
上記補正は、ΔIRとΔRedとを同一にする補正であることが望ましい。ここで、ΔIRは、IR光信号の振幅として表され、ΔRedは、赤色光信号の振幅として表される。この場合、上記補正は、ΔIRとΔRedとの振幅比(ΔRed/ΔIR)で表される係数αを、IR光信号の値(IR(t))に乗じることで行われる。つまり、IR(t)の補正後の出力は、α×IR(t)となる。
【0105】
本実施形態に係る算出部32は、補正部31により補正されたIR光信号及び赤色光信号に基づいて、生体8における血中酸素濃度の変化を算出する。この血中酸素濃度の変化は、一例として、補正部31により補正されたIR光信号及び赤色光信号との差(以下、この差を「脈波差」という。)により表される。例えば、脈波差をβ(t)とした場合、β(t)は、以下に示す(7)式により求められる。
【0106】
(数7)
β(t)=α×IR(t)-Red(t)・・・(7)
【0107】
本実施形態に係る検出部33は、算出部32により算出された脈波差β(t)に基づいて、生体8の吸気酸素量の変化に伴う血中酸素濃度の変曲点を検出する。なお、吸気酸素量を変化させる方法としては、一例として、息止めによる方法等が挙げられる。また、ここでいう吸気酸素量の変化とは、少なくとも数秒間に渡り血中酸素濃度に変化を及ぼす変化であって、通常の呼吸状態(例えば、平均的な呼吸回数、深さでの呼吸)による僅かな変化は含まないものとする。つまり、通常の呼吸状態では、吸気酸素量に変化はなく、呼吸を停止する、呼吸を弱める、酸素濃度の高い気体を吸い込む等により通常の呼吸状態から変化させた場合に、吸気酸素量が変化したと判断される。
【0108】
本実施形態に係る特定部34は、生体8の吸気酸素量が変化した時点から、検出部33により検出された血中酸素濃度の変曲点までの時間を特定する。なお、吸気酸素量が変化した時点とは、例えば、呼吸停止の状態から呼吸を再開した時点等である。本実施形態では、特定部34により特定された時間をLFCTとする。
【0109】
本実施形態に係る推定部35は、特定部34により特定されたLFCTから拍出量を推定する。例えば、上記(6)式を用いて、拍出量の一例である心拍出量を推定する。
【0110】
ここで、IR光信号及び赤色光信号の各々には、脈動や神経活動などによる血液量の変化を表す成分と、吸気酸素量の変化による酸素濃度の変化を表す成分と、が含まれている。そして、上記脈波差β(t)によれば、係数α(=ΔRed/ΔIR)をIR(t)に乗じ、α×IR(t)とRed(t)との差を採用することで、動脈血の血液量の変化を表す成分が相殺され、酸素濃度の変化を表す成分のみが抽出される。
【0111】
なお、上記では、IR光信号を補正するために、係数αを(ΔRed/ΔIR)としたが、赤色光信号を補正するために、係数αを(ΔIR/ΔRed)としてもよい。この場合、脈波差β(t)は、以下に示す(8)式により求められる。
【0112】
(数8)
β(t)=IR(t)-α×Red(t)・・・(8)
【0113】
また、上記では、2つの脈波信号の一例であるIR光信号及び赤色光信号のいずれか一方を補正する場合について説明したが、IR光信号及び赤色光信号の両方を補正するようにしてもよい。また、上記では、IR光信号から赤色光信号を減じたが、赤色光信号からIR光信号を減じても構わない。その場合、β(t)にあらわれる変曲点の向きが異なる。
【0114】
ここで、係数αを求めるときの脈波信号と、求めた係数αを適用する脈波信号とは時間的にずれている。つまり、上記補正は、吸気酸素量を変化させる前におけるΔIRとΔRedとの振幅比で表される係数αを、吸気酸素量を変化させた後におけるIR(t)又はRed(t)に乗じることで行われる。例えば、係数αを求めるときの脈波信号は、呼吸停止前の安静時における脈波信号を用いることが望ましい。
【0115】
次に、第1除去部30を設けた場合の各部の構成について説明する。
【0116】
本実施形態に係る第1除去部30は、受光素子3から出力されたIR光信号及び赤色光信号の各々から直流成分を除去し、直流成分を除去した後のIR光信号及び赤色光信号の各々を補正部31に出力する。第1除去部30には、一例として、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタが適用される。なお、この場合、第1除去部30により直流成分が除去されたIR光信号が第1の信号とされ、第1除去部30により直流成分が除去された赤色光信号が第2の信号とされる。
【0117】
補正部31は、第1除去部30により直流成分が除去されたIR光信号及び赤色光信号を受け付け、受け付けたIR光信号の振幅と赤色光信号の振幅との振幅比で表される係数αを導出する。その後、補正部31は、受光素子3から第1除去部30を介さずに受け付けたIR光信号の値であるIR(t)又は赤色光信号の値であるRed(t)に対して、上記導出した係数αを乗じることで、補正を行う。なお、算出部32、検出部33、特定部34、及び推定部35については同様であるため、繰り返しの説明は省略する。
【0118】
ここで、図16に示す生体情報測定装置10の変形例として、算出部32を設けない構成としてもよい。この場合、検出部33が、生体8の吸気酸素量が変化した後において、補正部31により少なくとも一方が補正されたIR光信号及び赤色光信号から得られる血中酸素濃度の変曲点を検出する。
【0119】
次に、図17を参照して、第1の実施形態に係る生体情報測定装置10の作用を説明する。なお、図17は、第1の実施形態に係る生体情報測定プログラムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0120】
まず、被験者又は測定担当者の操作により生体情報測定装置10の電源がオンされると、生体情報測定プログラムが起動され、以下の各ステップを実行する。
【0121】
図17のステップ100では、補正部31が、受光素子3から得られるIR光信号の振幅(ΔIR)を取得し、受光素子3から得られる赤色光信号の振幅(ΔRed)を取得する。このステップ100では、まず、被験者が安静状態を保った状態で、脈波振幅として、ΔIR及びΔRedの各々を取得する。
【0122】
図18は、本実施形態に係るIR光信号の振幅及び赤色光信号の振幅の一例を示すグラフである。
なお、図18において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
【0123】
図18に示すように、補正部31は、IR光信号の値の時系列データであるIR(t)からΔIRを取得し、赤色光信号の値の時系列データであるRed(t)からΔRedを取得する。
【0124】
ステップ102では、補正部31が、ステップ100で取得したΔIR及びΔRedに基づいて、ΔIRとΔRedとの振幅比で表される係数αを導出する。係数αは、一例として、以下に示す方法で導出される。
(a)任意のタイミングで得られた振幅比を採用する。なお、この場合、LFCTの測定開始後でもよい。
(b)一定期間で得られた複数の振幅比の平均値を採用する。この方法の場合、一点のみの振幅比を採用して係数αを導出する場合と比較し、測定に適した係数αが求められる。
(c)測定終了後に、一例として、図19に示すように、係数αを0~1の間で変化させ、脈波差β(t)に現れる脈動の周波数成分が最も小さい値を採用する。但し、係数αを(ΔRed/ΔIR)とした場合、ΔIR>ΔRedの条件を満たすものとする。この方法の場合、測定中に係数αを導出する必要がないため、例えば、測定時間が短縮される。
【0125】
図19は、本実施形態に係る係数αと脈波差β(t)との関係の一例を示すグラフである。
なお、図19において、縦軸は脈波差β(t)を表す。また、この例では、α=ΔRed/ΔIR、β(t)=α×IR(t)-Red(t)、である。
【0126】
図19の上図は、係数α=0.2の場合における脈波差β(t)の全体波形及び拡大波形を示す。左図が全体波形であり、右図が拡大波形である。
【0127】
図19の中図は、係数α=0.3583の場合における脈波差β(t)の全体波形及び拡大波形を示す。左図が全体波形であり、右図が拡大波形である。
【0128】
図19の下図は、係数α=0.6の場合における脈波差β(t)の全体波形及び拡大波形を示す。左図が全体波形であり、右図が拡大波形である。
【0129】
上記より、係数α=0.3583の場合に、脈波差β(t)に現れる脈動の周波数成分が最も小さくなることが分かる。従って、上記(c)の方法によれば、係数α=0.3583が採用、酸素濃度の変曲点が正しい位置にある脈波差β(t)が得られる。
【0130】
ステップ104では、補正部31が、被験者が安静状態を保った状態で、LFCTの測定開始の指示を受け付ける。この測定開始の指示は、一例として、被験者又は測定担当者が表示部22のタッチパネル等を介して測定開始を指示することで行われる。
【0131】
ステップ106では、補正部31が、被験者に対して、息止め開始の指示を行う。具体的には、例えば、表示部22に「息を止めて下さい。」等のメッセージを表示させることで行ってもよいし、音声による指示でもよい。
【0132】
ステップ108では、補正部31が、息止め開始から一定期間経過後(例えば20秒経過後)、被験者に対して、呼吸再開の指示を行う。具体的には、例えば、表示部22にカウントダウンによる呼吸再開を指示するメッセージを表示させることで行ってもよいし、音声による指示でもよい。また、被験者自身による操作(ボタンの押圧操作等)によって呼吸を再開したことを入力してもよい。
【0133】
ステップ110では、補正部31が、呼吸再開後、所定時間経過したか否かを判定する。この所定時間は、経過観察のための時間として予め設定されており、一例として、60秒間等である。なお、測定部位によって酸素の到達時間が異なるため、測定部位に適した経過観察のための時間を予め設定しておくとよい。所定時間経過したと判定した場合(肯定判定の場合)、ステップ112に移行し、所定時間経過していないと判定した場合(否定判定の場合)、ステップ110で待機となる。
【0134】
ステップ112では、補正部31が、上記ステップ102で導出した係数αを、上記の測定により得られたIR(t)又はRed(t)に乗じることで、補正を行う。なお、本実施形態では、係数α(ΔRed/ΔIR)をIR(t)に乗じて補正しているが、Red(t)を補正する場合、係数αを、ΔIR/ΔRed、とすればよい。
【0135】
図20は、本実施形態に係るIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図20において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
図20に示すように、グラフg1は、IR光信号の時系列データであるIR(t)を表す。また、グラフg2は、赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0136】
図21は、本実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図21において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
図21に示すように、グラフg3は、IR(t)に係数αを乗じてオフセットを調整したα×IR(t)を表す。また、グラフg4は、赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0137】
なお、上記ステップ108での呼吸再開の指示は、血中酸素濃度の低下を検知した場合に、行うようにしてもよい。
【0138】
図22は、本実施形態に係る脈波の差分によるモニタ結果の一例を示すグラフである。 図22では、縦軸は脈波差β(t)を表し、横軸は時間を表す。また、図23は、従来の、脈波の振幅比の変化を血中酸素濃度の変化として検出したモニタ結果の一例を示すグラフである。図23では、縦軸はΔIRとΔRedの振幅比を表し、横軸は時間を表す。
【0139】
図22及び図23から理解されるように、本実施形態に係る方式(図22)では、従来の方式(図23)と比較し、息止めによる酸素飽和度の変化が明確に現れている。
【0140】
次に、ステップ114では、算出部32が、ステップ112で補正して得られたα×IR(t)、及び、Red(t)から、上記(7)式を用いて脈波差β(t)を算出する。なお、Red(t)を補正した場合には、上記(8)式を用いて脈波差β(t)を算出すればよい。
【0141】
ステップ116では、検出部33が、ステップ114で算出した脈波差β(t)に基づいて、被験者の吸気酸素量の変化に伴う血中酸素濃度の変曲点を検出する。
【0142】
ステップ118では、特定部34が、被験者の吸気酸素量が変化した時点から、ステップ116で検出した変曲点までの時間を、LFCTとして特定し、本生体情報測定プログラムによる一連の処理を終了する。なお、本実施形態では、LFCTの特定までの処理としたが、更に、特定したLFCTを上記(6)式に適用して、拍出量の一例である心拍出量を算出してもよい。
【0143】
図24は、本実施形態に係る脈波差β(t)から特定されたLFCTの一例を示すグラフである。図24では、縦軸は脈波差β(t)を表し、横軸は時間を表す。また、図25は、比較例に係る振幅比から特定されたLFCTを示すグラフである。図25では、縦軸はΔIRとΔRedの振幅比を表し、横軸は時間を表す。
【0144】
図24に示すように、呼吸を再開した時点から、脈波差β(t)(=α×IR(t)-Red(t))の最大値により示される変曲点までの時間をLFCTとする。
【0145】
なお、図24において、グラフg5は、脈波差β(t)を片幅nデータ(この例ではn=64)の移動平均として表したものである。また、グラフg6は、係数α=0.3583とした場合の脈波差β(t)を表す。このように、脈波差β(t)を片幅nデータの移動平均とすることで、血中酸素濃度の違いによる残留脈波成分が除去されるため、より精度の高いLFCTが得られる。
【0146】
また、図24に示すグラフg5及びグラフg6によれば、息止め期間が終了し呼吸を再開した直後から、脈波差β(t)の値が上昇し、1つのピークを迎えた後に値が下降していることが分かる。脈波差β(t)は、血中酸素濃度が低下すると上昇するため、ピークの時点が最も血中酸素濃度が低い状態であり、下降を始める変曲点が呼吸再開により血液中に酸素が取り込まれ始めたことを表している。従って、呼吸を再開しピークを迎えるまでの時間がLFCTとして特定される。
【0147】
一方、図25に示す比較例では、振幅比(ΔRed/ΔIR)からLFCTを特定している。このため、例えば、脈波振幅の小さい被験者等の場合に、本来のピーク位置とは異なるピーク位置を検出してしまい、LFCTを精度良く特定できない場合がある。
【0148】
このように、本実施形態によれば、波長の異なる2つの脈波信号の振幅比を用いる場合と比較して、血中酸素濃度の変化が精度良く測定される。
【0149】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、血中酸素濃度の変化を精度良く測定するために、血中酸素濃度の変化を表す脈波差β(t)を用いる形態について説明した。本実施形態では、更に、補正前の各脈波信号から脈波成分を除去することで、血中酸素濃度の変化の測定の精度を更に向上させる。
【0150】
図26は、第2の実施形態に係る生体情報測定装置11の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図26に示すように、本実施形態に係る生体情報測定装置11は、上述の第1除去部30、補正部31、算出部32、検出部33、特定部34、及び推定部35に加え、更に、第2除去部36を備えている。なお、第1の実施形態に係る生体情報測定装置10と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、ここでの繰り返しの説明は省略する。
【0151】
本実施形態に係る第2除去部36は、受光素子3から出力されたIR光信号及び赤色光信号の各々から生体8の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去し、周波数成分の少なくとも一部を除去した後のIR光信号及び赤色光信号の各々を補正部31に出力する。第2除去部には、一例として、ローパスフィルタ(LPF)が適用される。
【0152】
本実施形態に係る補正部31は、第2除去部36により周波数成分の少なくとも一部が除去されたIR光信号及び赤色光信号を受け付ける。
【0153】
図27は、本実施形態に係るLPFが適用されたIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図27において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
【0154】
図27に示すように、グラフg7は、LPF適用後のIR光信号の時系列データであるIR(t)を表す。また、グラフg8は、LPF適用前のIR光信号の時系列データであるIR(t)を表す。グラフg9は、LPF適用後の赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg10は、LPF適用前の赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。なお、ここではLPFの一例として、次数2のベッセルフィルタを用いた。また、脈周波数(ここでは1.6Hz)に対して、LPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/8(ここでは0.2Hz)とした。
【0155】
図28は、本実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図28において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
図28に示すように、グラフg11は、LPFを適用したIR(t)に係数αを乗じてオフセットを調整したα×IR(t)を表す。また、グラフg12は、赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0156】
図29(A)は、本実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数と同一にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差β(t)、及び脈波差β(t)を拡大した状態を示すグラフである。
図29(B)は、本実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/2にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差β(t)、及び脈波差β(t)を拡大した状態を示すグラフである。
図29(C)は、本実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/4にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差β(t)、及び脈波差β(t)を拡大した状態を示すグラフである。
図29(D)は、本実施形態に係るLPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/8にした場合におけるLPF後の脈波形、脈波差β(t)、及び脈波差β(t)を拡大した状態を示すグラフである。
【0157】
なお、図29(A)~図29(D)において、脈周波数は、1.6Hzである。脈波差β(t)は、α×IR(t)-Red(t)である。グラフg13は、LPFを適用したIR(t)に係数αを乗じてオフセットを調整したα×IR(t)を表す。また、グラフg14は、赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0158】
図29(A)~図29(D)に示すグラフの例から、LPFのカットオフ周波数を脈周波数の1/4以下にすることが望ましい。カットオフ周波数を1/4以下にすることで、脈波の影響が大幅に低減され、より高い精度で血中酸素濃度の変曲点が検出される。なお、カットオフ周波数により遅延が発生するため、遅延時間を補正するために、カットオフ周波数に応じたルックアップテーブルを持つことが望ましい。
【0159】
また、上記LPFに代えて、脈波の中点を用いる方法を適用してもよい。この場合、第2除去部36は、IR光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第1波形信号を生成することにより、生体8の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去する。同様に、第2除去部36は、赤色光信号の周期毎に得られる最大値と最小値との中間値に対応する中間点を結ぶ第2波形信号を生成することにより、生体8の動脈血液量の変化に対応した周波数成分の少なくとも一部を除去する。
【0160】
まず、第2除去部36は、得られたIR(t)及びRed(t)の各々に対して、平滑化フィルタを施す。平滑化フィルタとしてLPFを適用する場合、カットオフ周波数の目安として、脈周波数(ここでは1.6Hz)の2倍(ここでは3.2Hz)以上、16倍(ここでは25.6Hz)以下の範囲とする。これは、カットオフ周波数が低過ぎると、振幅値の低下が起こり、高過ぎると、ノイズが除去できない場合があるためである。
【0161】
図30は、本実施形態に係るLPFが適用された赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図30において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
【0162】
図30に示すように、グラフg15は、脈周波数の2倍のカットオフ周波数を持つLPFを適用した赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg16は、脈周波数の4倍のカットオフ周波数を持つLPFを適用した赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg17は、脈周波数の8倍のカットオフ周波数を持つLPFを適用した赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg18は、脈周波数の16倍のカットオフ周波数を持つLPFを適用した赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg19は、LPFを適用していない赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0163】
図31は、本実施形態に係る平滑化後の赤色光信号の時系列データから得られる中点波形の一例を示すグラフである。
なお、図31において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
ここでは、図30に示すグラフg17を用いた場合を例示して説明するが、他のグラフg15、グラフg16、及びグラフg18を用いてもよい。
【0164】
図31に示すように、第2除去部36は、グラフg17の周期毎に、最大値をとるピーク値P1と、最小値をとるピーク値P2と、を検出する。なお、ピーク値P1を(t,y)で表し、ピーク値P2を(ti+1,yi+1)で表す。隣接するピーク値P1とピーク値P2との中間値P3を(t、y)とした場合、中間値P3は、以下に示す(9)式により求められる。
【0165】
(数9)
t=(t+ti+1)/2、y=(y+yi+1)/2・・・(9)
【0166】
そして、第2除去部36は、上記(9)式により求めた中間値P3に対応する中間点を結ぶことで、第2波形信号の一例である中点波形g20を生成する。このようにして、Red(t)についての第2波形信号が生成されるが、IR(t)についての第1波形信号も同様の手法で生成される。
【0167】
図32は、本実施形態に係る脈波中点を結んだIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図32において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
【0168】
図32に示すように、グラフg21は、脈波中点を結んだIR光信号の時系列データであるIR(t)を表す。また、グラフg22は、脈波中点を結ぶ前のIR光信号の時系列データであるIR(t)を表す。グラフg23は、脈波中点を結んだ赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。また、グラフg24は、脈波中点を結ぶ前の赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0169】
図33は、本実施形態に係る補正後のIR光信号の時系列データ及び赤色光信号の時系列データの一例を示すグラフである。
なお、図33において、縦軸は受光素子3の出力電圧を表し、横軸は時間を表す。
図33に示すように、グラフg25は、脈波中点を結んだIR(t)に係数αを乗じてオフセットを調整したα×IR(t)を表す。また、グラフg26は、赤色光信号の時系列データであるRed(t)を表す。
【0170】
図34は、本実施形態に係る脈波中点を結んだ脈波形から得られる脈波差β(t)及び脈波差β(t)を拡大した状態を示すグラフである。
なお、図34において、縦軸は脈波差β(t)を表し、横軸は時間を表す。
【0171】
図34に示す例では、脈波差β(t)は、α×IR(t)-Red(t)である。
【0172】
このように、本実施形態によれば、LPF又は脈波中点を用いて、補正前の各脈波信号から脈波成分を除去することで、血中酸素濃度の変化が更に精度良く測定される。
【0173】
以上、実施形態として生体情報測定装置を例示して説明した。実施形態は、生体情報測定装置が備える各部の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態としてもよい。実施形態は、このプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体の形態としてもよい。
【0174】
その他、上記実施形態で説明した生体情報測定装置の構成は、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更してもよい。
【0175】
また、上記実施形態で説明したプログラムの処理の流れも、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0176】
また、上記実施形態では、プログラムを実行することにより、実施形態に係る処理がコンピュータを利用してソフトウェア構成により実現される場合について説明したが、これに限らない。実施形態は、例えば、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成との組み合わせによって実現してもよい。
【符号の説明】
【0177】
1 発光素子
3 受光素子
4 動脈
5 静脈
6 毛細血管
7 血球細胞
8 生体
10、11 生体情報測定装置
12 発光制御部
14 駆動回路
16 増幅回路
18 A/D変換回路
20 制御部
20A CPU
20B ROM
20C RAM
22 表示部
30 第1除去部
31 補正部
32 算出部
33 検出部
34 特定部
35 推定部
36 第2除去部
40 コヒーレント光
42 散乱光
44 矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図22
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図30
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