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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20220621BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20220621BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 B
E02F9/20 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018064909
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173467
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】上村 佑介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025512(WO,A1)
【文献】特開2013-151830(JP,A)
【文献】特開平11-222882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/26
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械であって、
下部走行体と、
前記下部走行体に対して旋回軸を中心として旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、
前記旋回軸を中心とする前記下部走行体の周囲に位置する被検出物までの距離を検出可能となるように前記上部旋回体に取り付けられた距離検出手段と、
前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出器と、
前記距離検出手段により検出された距離に基づいて前記下部走行体の進入を禁止すべき進入禁止領域を特定するとともに、前記進入禁止領域と前記旋回角度検出器により検出された旋回角度とに基づいて前記下部走行体の走行方向を基準とする安全性に関する情報を生成し、前記安全性に関する情報を出力するコントローラと、を備えている建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械であって、
前記コントローラは、前記下部走行体の前部から走行方向の前進側に所定距離だけ離れた位置までの前側検出範囲及び前記下部走行体の後部から走行方向の後進側に前記所定距離だけ離れた位置までの後側検出範囲の少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在するか否かを判定し、前記少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記安全性に関する情報を出力する、建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械は、前記コントローラからの指令により前記下部走行体の前進側への走行を制限する前進側制限装置と、前記コントローラからの指令により前記下部走行体の後進側への走行を制限する後進側制限装置と、をさらに備え、
前記コントローラは、前記前側検出範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記前進側制限装置に指令を出力するとともに、前記後側検出範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記後進側制限装置に指令を出力する、建設機械。
【請求項4】
請求項3に記載の建設機械であって、
前記コントローラは、前記前側検出範囲内にのみ前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記後進側制限装置に対する指令の出力を禁止するとともに、前記後側検出範囲内にのみ前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記前進側制限装置に対する指令の出力を禁止する、建設機械。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の建設機械であって、
前記コントローラは、前記前進側制限装置及び前記後進側制限装置に対して前記下部走行体を徐々に減速させて停止させるための指令を出力可能である、建設機械。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の建設機械は、所定の情報をオペレータに報知するための報知手段をさらに備え、
前記コントローラは、前記少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合にその旨をオペレータに報知するための指令を前記報知手段に出力する、建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行方向における進入禁止領域を検出可能な建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から上記建設機械として、例えば特許文献1に記載のローディング作業機が知られている。
【0003】
このローディング作業機は、ローディング作業機本体と、ローディング作業器本体を走行させる走行部と、ローディング作業機本体に設けられたローダバケットと、を備えている。
【0004】
また、ローディング作業機は、ローディング作業機本体の進行方向を見渡せる位置に取り付けられた多眼カメラを備えている。多眼カメラは、所定間隔で配置された複数のカメラを有し、同一被写体を同時に撮像可能である。
【0005】
さらに、ローディング作業機は、多眼カメラにより撮像された画像及びカメラ間の視差に基づいて多眼カメラから被写体までの距離情報を含む距離画像を生成する距離画像生成部と、距離画像に基づいて崖際の認識を行う崖際認識部と、多眼カメラから崖際までの距離が所定値以上近接したときにローディング作業機の走行を停止させる制御部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-222882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のローディング作業機では、走行部の走行方向と多眼カメラによる検出方向とが一致している。
【0008】
しかしながら、下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体とを備えた他の建設機械に多眼カメラを採用する場合、下部走行体に多眼カメラを取り付けることは以下の理由により困難である。
【0009】
第1に、下部走行体は水や土砂を被る可能性が高く、下部走行体に多眼カメラを配置すると多眼カメラの劣化が早い。
【0010】
第2に、下部走行体は上部旋回体に対して旋回可能に取り付けられているため、下部走行体に多眼カメラを配置すると、当該多眼カメラから上部旋回体に設けられた制御部までの間に電気的な接続手段(例えば、スリップリング)を設ける必要が生じ、建設機械の構成が複雑化する。
【0011】
そこで、多眼カメラを上部旋回体に設けることが考えられるが、この場合には、上部旋回体の旋回角度によって多眼カメラの検出方向と下部走行体の走行方向とが不一致となる。
【0012】
そのため、制御部は、下部走行体の走行方向における進入禁止領域(特許文献1における崖際)を正確に特定することができず、ローディング作業機の走行を停止させるための指令を正確に出力することができない。
【0013】
本発明の目的は、上部旋回体の旋回角度にかかわらず下部走行体の走行方向を基準とした安全性に関する情報を出力可能なコントローラを有する建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、建設機械であって、下部走行体と、前記下部走行体に対して旋回軸を中心として旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、前記旋回軸を中心とする前記下部走行体の周囲に位置する被検出物までの距離を検出可能となるように前記上部旋回体に取り付けられた距離検出手段と、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度を検出する旋回角度検出器と、前記距離検出手段により検出された距離に基づいて前記下部走行体の進入を禁止すべき進入禁止領域を特定するとともに、前記進入禁止領域と前記旋回角度検出器により検出された旋回角度とに基づいて前記下部走行体の走行方向を基準とする安全性に関する情報を生成し、前記安全性に関する情報を出力するコントローラと、を備えている建設機械を提供する。
【0015】
本発明によれば、距離検出手段及びコントローラにより旋回軸を中心とする下部走行体の周囲に亘って進入禁止領域の位置情報を取得することができる。これにより、コントローラは、旋回角度検出器により検出された旋回角度をさらに利用して下部走行体の進行方向を基準とする安全性に関する情報を生成することができ、これを出力することができる。
【0016】
したがって、例えば、コントローラから出力された情報を用いて進入禁止領域への進入の防止を促すようにオペレータに報知することや下部走行体の走行を停止させることができる。
【0017】
なお、本発明において『被検出物』は、地面及びその上に載置された物を含む。また、『進入禁止領域』は、予め設定された高さ以上の段差(地面における凹凸の高さ及び地面上に載置された物の高さ)が存在する領域を意味する。
【0018】
前記建設機械において、前記コントローラは、前記下部走行体の前部から走行方向の前進側に所定距離だけ離れた位置までの前側検出範囲及び前記下部走行体の後部から走行方向の後進側に前記所定距離だけ離れた位置までの後側検出範囲の少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在するか否かを判定し、前記少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記安全性に関する情報を出力することが好ましい。
【0019】
この態様によれば、下部走行体が進入禁止領域に対してある程度近付いたときに安全性に関する情報を出力することができる。そのため、例えば、この情報を用いて進入禁止領域への下部走行体の進入を抑制すること、及び進入の抑制をオペレータに促すことができる。
【0020】
具体的に、前記建設機械は、前記コントローラからの指令により前記下部走行体の前進側への走行を制限する前進側制限装置と、前記コントローラからの指令により前記下部走行体の後進側への走行を制限する後進側制限装置と、をさらに備え、前記コントローラは、前記前側検出範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記前進側制限装置に指令を出力するとともに、前記後側検出範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記後進側制限装置に指令を出力することが好ましい。
【0021】
この態様によれば、下部走行体が進入禁止領域にある程度近付いたときに下部走行体の進入禁止領域に向けた走行を制限することができる。
【0022】
前記態様における『制限』は、下部走行体を停止させることだけでなく、下部走行体を減速させることも含む。
【0023】
ここで、前側検出範囲内又は後側検出範囲に進入禁止領域が存在すると判定された場合、前進及び後進の双方の走行を制限してもよいが、この場合には、進入禁止領域から回避する方向に向けた走行も制限されるため迅速な回避ができない。
【0024】
そこで、前記建設機械において、前記コントローラは、前記前側検出範囲内にのみ前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記後進側制限装置に対する指令の出力を禁止するとともに、前記後側検出範囲内にのみ前記進入禁止領域が存在すると判定された場合に前記前進側制限装置に対する指令の出力を禁止することが好ましい。
【0025】
この態様によれば、進入禁止領域から遠ざかる方向の走行許容されるため、当
該進入禁止領域からの迅速な回避が可能となる。
【0026】
ここで、コントローラは、前進側制限装置及び後進側制限装置に対して下部走行体を即座に停止させるための指令を出力するものでもよいが、この場合、進入禁止領域が検出範囲内に進入した段階で急制動が生じて停止時の衝撃が大きい。
【0027】
そこで、前記建設機械において、前記コントローラは、前記前進側制限装置及び前記後進側制限装置に対して前記下部走行体を徐々に減速させて停止させるための指令を出力可能であることが好ましい。
【0028】
この態様によれば、進入禁止領域が検出範囲内に進入した段階から下部走行体を徐々に減速させて制動時の衝撃を低減することができる。
【0029】
また、前記建設機械は、所定の情報をオペレータに報知するための報知手段をさらに備え、前記コントローラは、前記少なくとも一方の範囲内に前記進入禁止領域が存在すると判定された場合にその旨をオペレータに報知するための指令を前記報知手段に出力してもよい。
【0030】
この態様によれば、建設機械が進入禁止領域に近付いていることをオペレータに知らせることにより、進入禁止領域から遠ざかるべきことをオペレータに促すことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、上部旋回体の旋回角度にかかわらず下部走行体の走行方向を基準とした安全性に関する情報を出力可能なコントローラを有する建設機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す側面図である。
図2図1の油圧ショベルを概略的に示す平面図である。
図3図1の油圧ショベルに設けられた走行制御装置及びこれを制御するコントローラを示すシステム構成図である。
図4図3のコントローラにより実行される処理を示すフローチャートである。
図5図1の油圧ショベルが進入禁止領域から遠ざかっている状態を示す平面図と側面図とを組み合わせて示すものである。
図6図1の油圧ショベルが進入禁止領域に近づいている状態を示す平面図と側面図とを組み合わせて示すものである。
図7図3の表示部に表示される画像を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係る建設機械の一例としての油圧ショベル1の全体構成を示す側面図である。図2は、図1の油圧ショベル1を概略的に示す平面図である。
【0035】
図1及び図2を参照して、油圧ショベル1は、クローラ2aを有する下部走行体2と、下部走行体2に対して旋回軸Cを中心として旋回可能に取り付けられた上部旋回体3と、上部旋回体3に取り付けられたアタッチメント4と、を備えている。
【0036】
アタッチメント4は、上部旋回体3に対して回動可能に取り付けられた基端部を有するブーム5と、ブーム5の先端部に対して回動可能に取り付けられた基端部を有するアーム6と、アーム6の先端部に対して回動可能に取り付けられたバケット7と、を有する。
【0037】
また、アタッチメント4は、上部旋回体3に対してブーム5を回動させるブームシリンダ8と、ブーム5に対してアーム6を回動させるアームシリンダ9と、アーム6に対してバケット7を回動させるバケットシリンダ10と、を有する。
【0038】
上部旋回体3は、下部走行体2に対して旋回可能に取り付けられたアッパーフレーム11と、アッパーフレーム11上に設けられたキャブ12と、を有する。
【0039】
また、上部旋回体3は、図3に示すように、下部走行体2の走行及び走行の停止を制御する走行制御装置13を備えている。
【0040】
走行制御装置13は、下部走行体2のクローラ2aに設けられた走行モータ2bの駆動を制御する。具体的に、走行制御装置13は、走行モータ2bに作動油を供給する油圧ポンプ19と、走行モータ2bに対する作動油の給排を制御するコントロールバルブ20と、コントロールバルブ20を操作するための操作装置21と、操作装置21の操作の有無を検出する前進側センサ22F及び後進側センサ22Rと、を備えている。
【0041】
コントロールバルブ20は、走行モータ2bに対する作動油の給排を停止する中立位置(図3における中央位置)と、走行モータ2bを前進方向に作動させる前進位置(図3における右側位置)と、走行モータ2bを後進方向に作動させる後進位置(図3における左側位置)と、の間で切換可能なパイロット式の切換弁である。また、コントロールバルブ20は、前進側及び後進側の2つのパイロットポートを有し、両パイロットポートに対してパイロット圧が供給されていない状態で中立位置に付勢されている。
【0042】
操作装置21は、操作レバーとリモコン弁とパイロットポンプ(それぞれ符号省略)とを組み合わせて構成されたものである。操作レバーが操作されると、その操作量に応じた開度でリモコン弁が開口し、パイロットポンプからの作動油がコントロールバルブ20の前進側又は後進側のパイロットポートに供給される。
【0043】
前進側センサ22Fは、操作装置21からコントロールバルブ20の前進側のパイロットポートに与えられるパイロット圧、つまり、操作レバーの操作量を検出可能である。
【0044】
後進側センサ22Rは、操作装置21からコントロールバルブ20の後進側のパイロットポートに与えられるパイロット圧、つまり、操作レバーの操作量を検出可能である。
【0045】
また、走行制御装置13は、前進側センサ22Fと操作装置21との間に設けられた前進側比例弁(前進側制限装置)23Fと、後進側センサ22Rと操作装置21との間に設けられた後進側比例弁(後進側制限装置)23Rと、を有する。
【0046】
前進側比例弁23Fは、後述するコントローラ16からの指令により下部走行体2の前進側への走行を制限する。具体的に、前進側比例弁23Fは、コントローラ16からの指令を受けていない状態で操作装置21からのパイロット圧をコントロールバルブ20の前進側のパイロットポートへ供給する通常位置に付勢されている。前進側比例弁23Fが通常位置に付勢された状態においては操作レバーの前進側への操作量に応じたパイロット圧がコントロールバルブ20の前進側のパイロットポートに与えられる。一方、前進側比例弁23Fは、コントローラ16からの指令により操作装置21からのパイロット圧を減圧する減圧位置に切り換えられる。なお、前進側比例弁23Fは、コントローラ16からの指令値(電流値)に応じて減圧する程度(タンクに導かれる作動油の量)を調整可能に構成されている。このように前進側比例弁23Fが減圧位置に切り換えられると当該前進側比例弁23Fの開度に応じて操作装置21からコントロールバルブ20の前進側のパイロットポートに与えられるパイロット圧が減圧され、これにより走行モータ2bの前進側の駆動が制限される。
【0047】
後進側比例弁23Rは、コントローラ16からの指令により下部走行体2の後進側への走行を制限する。後進側比例弁23Rの構成は、前進側比例弁23Fと同様であるため、その説明を省略する。
【0048】
また、上部旋回体3には、複数の距離センサ14A~14Dが取り付けられている。
【0049】
以下、図2を参照して、距離センサ14A~14Dについて説明する。
【0050】
各距離センサ14A~14Dは、検出部を有し、検出部は、光を出射する。各距離セン
サ14A~14Dは、検出部が光を出射してから当該検出部が被検出物における反射光を
受光するまでの時間に基づいて被検出までの距離を検出する。
【0051】
距離センサ14Aは、アッパーフレーム11の前縁部の左右方向の略中央位置で当該アッパーフレーム11に軸支されるブーム5の基端部の下に配置されている。なお、上部旋回体3に関する方向は、キャブ12に設けられた図外の運転席に着座したオペレータから見た方向を基準とする。
【0052】
また、距離センサ14Aは、当該距離センサ14Aから前に向かうに従い右及び左に広がる検出範囲EAを有する。距離センサ14Aが検出範囲EA内における下部走行体2の前方の地面を検出可能となるように、検出範囲EAは、アッパーフレーム11から下に傾斜して設定されている。
【0053】
距離センサ14Bは、アッパーフレーム11の前後方向の略中央位置でかつアッパーフレーム11の左縁部のキャブ12の後ろに配置されている。また、距離センサ14Bは、当該距離センサ14Bから左に向かうに従い前及び後ろに広がる検出範囲EBを有する。距離センサ14Bが検出範囲EB内における下部走行体2の左方の地面を検出可能となるように、検出範囲EBは、アッパーフレーム11から下に傾斜して設定されている。また、検出範囲EBの前部と検出範囲EAの左部とは平面視において互いに重なっている。
【0054】
距離センサ14Cは、アッパーフレーム11の後縁部の左右方向の略中央位置に配置されている。また、距離センサ14Cは、当該距離センサ14Cから後ろに向かうに従い右及び左に広がる検出範囲ECを有する。距離センサ14Cが検出範囲ECにおける下部走行体2の後方の地面を検出可能となるように、検出範囲ECは、アッパーフレーム11から下に傾斜して設定されている。また、検出範囲ECの左部と検出範囲EBの後部とは平面視において互いに重なっている。
【0055】
距離センサ14Dは、アッパーフレーム11の前後方向の略中央位置でかつアッパーフレーム11の右縁部に配置されている。また、距離センサ14Dは、当該距離センサ14Dから右に向かうに従い前及び後ろに広がる検出範囲EDを有する。距離センサ14Dが検出範囲EDにおける下部走行体2の右方の地面を検出可能となるように、検出範囲EDは、アッパーフレーム11から下に傾斜して設定されている。また、検出範囲EDの後部と検出範囲ECの右部、及び、検出範囲EDの前部と検出範囲EAの右部は、平面視において互いに重なっている。
【0056】
このように、距離センサ14A~14Dの互いに隣接する検出範囲EA~ED同士が平面視で互いに重なっているため、旋回軸Cを中心とする下部走行体2の周囲に位置する被検出物までの距離が検出可能である。つまり、距離センサ14A~14Dは、旋回軸Cを中心とする下部走行体2の周囲に位置する被検出物までの距離を検出可能となるように上部旋回体3に取り付けられた距離検出手段を構成する。ここで、被検出物は、地面及びその上に載置された物を含む。
【0057】
また、上部旋回体3は、図3に示すように、下部走行体2に対する上部旋回体3の旋回角度を検出する旋回角度センサ(旋回角度検出器)15を備えている。
【0058】
図5に示すように、旋回角度センサ15は、下部走行体2の走行方向の基準角度(本実施形態では前進方向:0degと示す)に対する上部旋回体3の旋回体前方向D1(キャブ12内の運転席に着座したオペレータの前方向)の角度を検出可能である。旋回角度センサ15は、例えば、下部走行体2と上部旋回体3とを接続する旋回用の回転軸(図示せず)の回転角を検出するロータリーエンコーダを採用することができる。
【0059】
さらに、上部旋回体3は、図3に示すように、上述した距離センサ14A~14Dにより検出された距離に基づいて下部走行体2の進入を禁止すべき進入禁止領域EH(図5参照)を特定するとともに、進入禁止領域EHと旋回角度センサ15により検出された旋回角度とに基づいて下部走行体2の走行方向を基準とする安全性に関する情報を生成し、この情報を出力するコントローラ16を備えている。ここで、進入禁止領域EHは、予め設定された高さ以上の段差(地面における凹凸の高さ及び地面上に載置された物の高さ)が存在する領域を意味する。
【0060】
具体的に、コントローラ16は、上述した走行制御装置13、及び上部旋回体3(キャブ12内)に設けられた表示部17及びスピーカ18(報知手段の一例)に対して所定の指令(安全性に関する情報)を出力する。
【0061】
以下、図2図3及び図5を参照してコントローラ16について説明する。
【0062】
コントローラ16は、CPU、ROM及びRAMを組み合わせて構成されたものであり、これらの構成によって以下のような機能を実現するものである。
【0063】
コントローラ16は、下部走行体2の周囲の情報を作成する周囲情報作成部16aと、周囲情報を下部走行体2の走行方向を基準とする情報に補正する周囲情報補正部16bと、走行制御装置13に指令を出力する制限指令部16cと、表示部17及びスピーカ18に指令を出力する報知指令部16dと、を有する。
【0064】
周囲情報作成部16aは、距離センサ14A~14Dの検出結果に基づいて旋回軸Cを中心とする全周に亘り予め設定された高さ以上の段差の存在する領域、つまり、進入禁止領域EHが存在する場合に当該進入禁止領域EHまでの距離を特定して、その距離の情報をまとめた周囲情報を作成する。
【0065】
周囲情報作成部16aにより作成される周囲情報は、上部旋回体3の旋回体前方向D1(図5参照)を基準とするものである。そこで、周囲情報補正部16bは、周囲情報を下部走行体2の走行方向の基準角度(0deg)を基準とする情報に補正する。
【0066】
具体的に、図5に示す例では、上部旋回体3の旋回体前方向D1が下部走行体2の基準角度(0deg)に対して角度θだけ旋回した状態である。この場合、周囲情報補正部16bは、周囲情報の基準座標を旋回軸Cを中心として角度θだけ回転させる。これにより、周囲情報と下部走行体2の走行方向とが一致する。
【0067】
また、周囲情報補正部16bは、下部走行体2の前部から走行方向の前進側に所定距離だけ離れた位置までの前側検出範囲EF及び下部走行体2の後部から走行方向の後進側に所定距離だけ離れた位置までの後側検出範囲ERを記憶している。なお、図5の例では、下部走行体2の幅方向と同等の幅に設定された検出範囲EF、ERが図示されているが、検出範囲EF、ERの幅は、より確実に下部走行体2の進入禁止領域EHへの進入を防止するために下部走行体2の幅寸法よりも広く設定してもよい。また、検出範囲EF、ERの幅方向の範囲を設定しなくてもよい。また、検出範囲EF、ERの境界線は必ずしも直線に設定する必要はない。また、前側検出範囲EFから下部走行体2の前部までの距離は、下部走行体2が最高速で走行している状態で後述する下部走行体2の走行の制限処理が実行されたときに進入禁止領域EHの手前側で確実に下部走行体2が停止することができる距離に設定されている。後側検出範囲ERから下部走行体2の後部までの距離も同様に設定されている。
【0068】
そして、周囲情報補正部16bは、補正後の周囲情報に基づいて前側検出範囲EF及び後側検出範囲ERの少なくとも一方の範囲内に進入禁止領域EHが存在するか否かを判定する。
【0069】
例えば、図5に示す例では、前側検出範囲EFの前方(外側)に進入禁止領域EHが位置しており、かつ、後側検出範囲ER内にも進入禁止領域EHが存在しない。この状態において、周囲情報補正部16bは、検出範囲EF、ER内に進入禁止領域EHが存在しないと判定する。
【0070】
一方、図6に示す例では、前側検出範囲EF内に進入禁止領域EHが位置しているため、この状態において、周囲情報補正部16bは、検出範囲EF、ERの少なくとも一方の範囲に進入禁止領域EHが存在すると判定する。
【0071】
このように、検出範囲EF、ERの少なくとも一方の範囲に進入禁止領域EHが存在すると判定されると、周囲情報補正部16bは、進入禁止領域EHが前側検出範囲EF内に存在するか、後側検出範囲ER内に存在するか、両検出範囲EF、ER内に存在するかを判定する。
【0072】
図3を参照して、制限指令部16cは、周囲情報補正部16bにより特定された進入禁止領域EHの存在する検出範囲EF、ERに基づいて両比例弁23F、23Rのうちの少なくとも一方に対して指令(安全性に関する情報)を出力する。
【0073】
図6に示す例では、前側検出範囲EF内に進入禁止領域EHが存在するため、下部走行体2の前進を制限する必要がある。そのため、この場合、制限指令部16cは、前進側比例弁23Fに指令を出力する。
【0074】
制限指令部16cは、下部走行体2が進入禁止領域EHに対して予め設定された距離(以下、停止距離という)に近づくまでに下部走行体2が停止するように当該下部走行体2を徐々に減速させるための指令を比例弁23F、23Rを出力する。具体的に、制限指令部16cは、下部走行体2から進入禁止領域EHまでの距離が短くなるに従い比例弁23F、23Rに対する指令値(電流値)が徐々に大きくなるように設定されたテーブルを予め記憶している。前記停止距離は、操作装置21の操作レバーがフルレバー操作された状態において前記指令の出力を開始したときに進入禁止領域EHまで停止距離だけ離れた位置に到達するまでに必ず下部走行体2を停止させることができる距離に設定されている。
【0075】
なお、上述したテーブルに代えて、両センサ22F、22Rにより検出されたパイロット圧に基づいて下部走行体2を徐々に減速させて進入禁止領域EHまで停止距離の位置で停止させるための指令を演算により特定してもよい。この場合、制限指令部16cには、図3に示すように両センサ22F、22Rにより検出されたパイロット圧が入力されている必要がある。一方、上記のようにテーブルを用いる場合には制限指令部16cに対して両センサ22F、22Rを接続しなくてもよい。
【0076】
報知指令部16dは、周囲情報補正部16bにより特定された進入禁止領域EHの存在
する検出範囲EF、ERに基づいて表示部17及びスピーカ18に対して指令(安全性に
関する情報)を出力する。
【0077】
具体的に、表示部17は、図7に示すように、周囲情報補正部16bからの指令に基づいて下部走行体2の走行方向の前進側及び後進側の少なくとも一方に進入禁止領域EHが存在することを示す画像を表示する。なお、図7には、下部走行体2の前進側の位置に下りの段差(進入禁止領域EH)が存在することが表示されている。
【0078】
スピーカ18は、下部走行体2の走行方向の前進側及び後進側の少なくとも一方に進入禁止領域EHが存在する旨をオペレータに対して音声によって通知する。
【0079】
以下、図3及び図4を参照して、コントローラ16により実行される処理について説明する。
【0080】
当該処理が開始されると、距離センサ14A~14Dの検出値を取得し(ステップS1)、当該距離センサ14A~14Dの検出値に基づいて旋回軸Cを中心とする下部走行体2の周囲の進入禁止領域EHに関する周囲情報を作成する(ステップS2)。
【0081】
次いで、旋回角度センサ15の検出値を取得して上部旋回体3の旋回体前方向D1(図5参照)を特定し(ステップS3)、この旋回体前方向D1を用いて周囲情報を下部走行体2の走行方向を基準としたものに補正する(ステップS4)。
【0082】
具体的に、図5の例では、下部走行体2の走行方向の基準角度(0deg)に対して旋回体前方向D1が角度θだけ旋回しているため、周囲情報の基準座標を旋回軸Cを中心として角度θだけ回転させる。これにより、周囲情報の基準座標と下部走行体2の走行方向とが一致する。
【0083】
次いで、両検出範囲EF、ERの少なくとも一方の範囲内に進入禁止領域EHが存在するか否かを判定し(ステップS5)、ここで、図5に示すように両検出範囲EF、ER内に進入禁止領域EHが存在しないと判定されるとステップS1にリターンする。
【0084】
一方、図4を参照して、ステップS5において両検出範囲EF、ERの少なくとも一方の範囲内に進入禁止領域EHが存在すると判定されると、次のステップS6、S7において両検出範囲EF、ERのうち進入禁止領域EHが存在する範囲を特定する。
【0085】
具体的に、ステップS6において前側検出範囲EF内に進入禁止領域EHが存在するか否かを判定し、ステップS6でYESと判定されると、ステップS7において後側検出範囲ER内に進入禁止領域EHが存在するか否かを判定する。
【0086】
ステップS7においてNOと判定された場合、つまり、図6に示すように前側検出範囲EF内にのみ進入禁止領域EHが存在する場合、コントローラ16(制限指令部16c)は、前進側比例弁23Fのみに指令を出力し(ステップS8)、後進側比例弁23Rに対する指令の出力を禁止する。これにより、図6に示すように、前側検出範囲EF内にのみ進入禁止領域EHが存在する場合に、下部走行体2の前進を制限して進入禁止領域EHに近づくのを抑制するとともに下部走行体2の後進を許容して進入禁止領域EHから離れる(回避する)ことができる。
【0087】
図4を参照して、ステップS7においてYESと判定された場合、つまり、両検出範囲EF、ER内に進入禁止領域EHが存在する場合、コントローラ16(制限指令部16c)は、両比例弁23F、23Rに指令を出力する(ステップS9)。これにより、進入禁止領域EHが存在する前側及び後側への走行が制限される。なお、この場合には、前側及び後側の少なくとも一方の進入禁止領域EHにおける段差を緩和する等の処置(段差を埋めるように土砂を盛る等の処置)を施した後に、油圧ショベル1を走行させることができる。
【0088】
一方、ステップS6において前側検出範囲EF内に進入禁止領域EHが存在しないと判定された場合、つまり、後側検出範囲ER内にのみ進入禁止領域EHが存在する場合、コントローラ16(制限指令部16c)は、後進側比例弁23Rのみに指令を出力し(ステップS10)、前進側比例弁23Fに対する指令の出力を禁止する。これにより、後側検出範囲ER内にのみ進入禁止領域EHが存在する場合に、下部走行体2の後進を制限して進入禁止領域EHに近づくのを抑制するとともに下部走行体2の前進を許容して進入禁止領域EHから離れる(回避する)ことができる。
【0089】
そして、ステップS8~S10の後、コントローラ16(報知指令部16d)は、表示部17及びスピーカ18に対して指令を出力する報知処理を実行する(ステップS11)。これにより、図7に示すように、表示部17を通じて油圧ショベル1に対する進入禁止領域EHの位置をオペレータに視覚的に伝えるとともに、スピーカ18を通じてオペレータに対して進入禁止領域EHが接近していることを聴覚的に伝えることができる。
【0090】
以上説明したように、距離センサ14A~14D及びコントローラ16により旋回軸Cを中心とする下部走行体2の周囲に亘って進入禁止領域EHの位置情報を取得することができる。これにより、コントローラ16は、旋回角度センサ15により検出された旋回角度をさらに利用して下部走行体2の進行方向を基準とする安全性に関する情報(比例弁23F、23Rに対する指令、及び、表示部17及びスピーカ18に対する指令)を生成することができ、これを出力することができる。
【0091】
したがって、例えば、コントローラ16から出力された情報を用いて進入禁止領域EHの進入の防止を促すようにオペレータに報知することや下部走行体2の走行を停止させることができる。
【0092】
また、前記実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
【0093】
下部走行体2が進入禁止領域EHに対してある程度近付いたときに比例弁23F、23R、表示部17及びスピーカ18に指令を出力することができる。そのため、この指令を用いて進入禁止領域EHへの下部走行体2の進入を抑制すること、及び進入の抑制をオペレータに促すことができる。
【0094】
下部走行体2が進入禁止領域EHにある程度近付いたときに下部走行体2の進入禁止領域EHに向けた走行を制限することができる。
【0095】
進入禁止領域EHから遠ざかる方向の走行許容されるため、当該進入禁止領域
EHからの迅速な回避が可能となる。
【0096】
進入禁止領域EHが検出範囲EF、ER内に進入した段階から下部走行体2を徐々に減速させて下部走行体2を停止させるため制動時の衝撃を低減することができる。
【0097】
油圧ショベル1が進入禁止領域EHに近付いていることをオペレータに知らせることにより、進入禁止領域EHから遠ざかるべきことをオペレータに促すことができる。
【0098】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の態様を採用することもできる。
【0099】
隣り合う検出範囲EA~EDが互いに重なるように配置された複数の距離センサ14A~14Dにより構成された距離検出手段を例示したが、距離検出手段の構成はこれに限定されない。例えば、旋回軸Cを中心として回転可能な検出範囲を有する1個の距離センサにより距離検出手段を構成することもできる。
【0100】
検出範囲EF、ERのうちの一方の範囲内に進入禁止領域EHが存在すると判定されたとき、進入禁止領域EHが存在する側の走行(前進又は後進)のみを制限することとしているが、前進及び後進の双方を制限してもよい。
【0101】
また、下部走行体2の走行の制限の内容として前記実施形態では下部走行体2を停止させることを例示したが、停止させることに限定されない。下部走行体2の走行速度を極めて低速に制限してもよい。
【0102】
下部走行体2の走行の制限の方法として比例弁23F、23Rを用いた方法について説明したが、図外のエンジンの出力を制限することによっても下部走行体2の走行を制限することができる。この場合、コントローラ16は、エンジンの駆動を制御するECUに対して出力を低下させるための指令を出力すればよい。
【0103】
下部走行体2を減速させた後に停止させる例について説明したが、検出範囲EF、ERのうちの少なくとも一方の範囲内に進入禁止領域EHが存在すると判定されたときに下部走行体2を即時に停止させてもよい。
【0104】
報知手段として表示部17及びスピーカ18を例示したが、報知手段はこれらに限定されない。例えば、ブザーやランプを報知手段として採用することもできる。
【0105】
建設機械は、油圧ショベルに限定されず、クレーン及び解体機でもよく、ハイブリッド式の建設機械でもよい。
【符号の説明】
【0106】
C 旋回軸
EA~ED (距離センサの)検出範囲
EF 前側検出範囲
EH 進入禁止領域
ER 後側検出範囲
1 油圧ショベル(建設機械の一例)
2 下部走行体
3 上部旋回体
14A~14D 距離センサ(距離検出手段の一例)
15 旋回角度センサ(角度検出器の一例)
16 コントローラ
17 表示部(報知手段の一例)
18 スピーカ(報知手段の一例)
23F 前進側比例弁(前進側制限装置の一例)
23R 後進側比例弁(後進側制限装置の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7