(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/183 20060101AFI20220621BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220621BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220621BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
B62D1/183
B62D6/00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018072313
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】越智 教博
(72)【発明者】
【氏名】西村 要介
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
(72)【発明者】
【氏名】北原 圭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0368522(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0297606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/04,
1/16- 1/20,
6/00- 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵に用いられるステアリング装置であって、
自動運転時と手動運転時とにおいて操作部材の位置、姿勢、および形状の少なくとも1つを含む形態を可逆的に変化させる可変機構と、
前記可変機構を駆動する
モータと、
操作部材に運転者が加えた力による前記モータに流れる電流の変化に基づき運転者の操作を受け付ける受付手段と、
前記可変機構が手動運転時の形態から自動運転時の形態に操作部材を変化させる途中において、前記受付手段が運転者の操作を受け付けた場合、前記
モータを制御して前記可変機構による操作部材の形態を手動運転時の形態に復帰させる制御手段とを備える
ステアリング装置。
【請求項2】
前記可変機構は、操作部材を出退させる出退機構と、前記出退機構に対し前記操作部材を傾動させて折りたたむ折りたたみ機構とを備え、
前記モータは、前記出退機構を駆動するモータ、および前記折りたたみ機構を駆動するモータの少なくとも一方である
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
車両の操舵に用いられるステアリング装置であって、
自動運転時と手動運転時とにおいて操作部材の位置、姿勢、および形状の少なくとも1つを含む形態を可逆的に変化させる可変機構と、
前記可変機構を駆動する可変駆動源と、
運転者の操作を受け付ける受付手段と、
前記可変機構が手動運転時の形態から自動運転時の形態に操作部材を変化させる途中において、前記受付手段が運転者の操作を受け付けた場合、前記可変駆動源を制御して前記可変機構による操作部材の形態を手動運転時の形態に復帰させる制御手段と、
運転者が前記操作部材を回転させた力に反する方向の力を前記操作部材に付与する反力発生装置
と、を備え、
前記受付手段は、自動運転時の形態に変化する途中において、操作部材に運転者が加えた力により前記反力発生装置が備える反力モータに流れる電流の変化に基づき運転者の操作を受け付ける
ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転時と手動運転時とにおいてステアリングホイールなどの操作部材の位置、姿勢、および形状の少なくとも1つを含む形態を可逆的に変化させることのできるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者が車両の操作に責任を持つ必要が無く、ステアリングホイールを持つ必要がなくなる。従って自動運転時にステアリングホイールの形態が変化し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。そのため、自動運転時にはステアリングホイールを車両前側の退避場所に移動させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、ステアリングホイールを規定の形態で停止させるために、ストッパを設け、ステアリング装置の動作がストッパにより機械的に停止させられた際に発生するモータの電流値の増加に基づき、モータに供給する電流をカットする技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-118591号公報
【文献】特開2007-83809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、自動運転が開始され、ステアリングホイールが移動する後退動作中に運転者が再び手動運転を実施したいと考えた場合、ステアリングホイールの後退完了を待って、再度ステアリングホールを進出させる必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、自動運転の開始によりステアリングホイール等の操作部材の形態が変化している途中であっても、運転者の操作により操作部材を再び手動運転の形態に戻すことができるステアリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、車両の操舵に用いられるステアリング装置であって、自動運転時と手動運転時とにおいて操作部材の位置、姿勢、および形状の少なくとも1つを含む形態を可逆的に変化させる可変機構と、前記可変機構を駆動する可変駆動源と、運転者の操作を受け付ける受付手段と、前記可変機構が手動運転時の形態から自動運転時の形態に操作部材を変化させる途中において、前記受付手段が運転者の操作を受け付けた場合、前記可変駆動源を制御して前記可変機構による操作部材の形態を手動運転時の形態に復帰させる制御手段とを備える。
【0008】
なお、前記ステアリング装置の制御手段によって実行される各処理に対応するプログラムを実施することも本発明の実施に該当する。無論、そのプログラムが記録された記録媒体を使用することも本発明の実施に該当する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動運転開始時における操作部材の形態の変化完了を待つことなく、手動運転を再開させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るステアリング装置を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態に係るステアリング装置を車両前方の下方から示す斜視図である。
【
図3】実施の形態に係る操作部材が折りたたまれたステアリング装置を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態に係るステアリング装置の縮んだ状態を車両側方の下方から示す斜視図である。
【
図5】自動運転が開始され操作部材の形態が変化している間の復帰の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図6】操作部材を運転者に向かって突出させた状態のステアリング装置をダッシュボートと共に示す斜視図である。
【
図7】操作部材のダッシュボードへの収容開始時の状態を示す斜視図である。
【
図8】操作部材がダッシュボードに収容される終盤の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係るステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1は、ステアリング装置を運転者側の上方から示す斜視図である。
図2は、ステアリング装置を車両前方の下方から示す斜視図である。ステアリング装置100は、手動運転と自動運転とを切り替えることができる自動車、バス、トラック、建機、農機などの車両に取り付けられる装置であり、可変機構120と、可変駆動源150と、受付手段170と、制御手段180とを備えている。また本実施の形態の場合、ステアリング装置100は、反力発生装置140を備えている。
【0014】
ステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤと言われるシステムに組み込まれる装置であり、操作部材110とタイヤとは機械的に接続されておらず、操作部材110の操舵角を示す情報を出力することによりモータによりタイヤを旋回させて転舵する。
【0015】
操作部材110は、手動運転時において運転者に操作され車輪の角度(転舵角)を指示するためのいわゆるステアリングホイールであり、二つの直進把持部111と、下連結部112を備えている。本実施の形態の場合、操作部材110は、円環状の部材であり、さらに上連結部113と接続部114とを備えている。
【0016】
直進把持部111は、手動運転時に車両を直進させる際の操作部材110の姿勢において、運転者が両手でそれぞれ把持し易いように配置された部分であり、操作部材110の回転中心を含む水平面から上方に操舵軸を中心とする30度程度の角度範囲がそれぞれ直進把持部111に該当する。
【0017】
下連結部112は、二つの直進把持部111を連結し下方突出状に湾曲する部分である。本実施の形態の場合、下連結部112は、半円弧状に湾曲している。
【0018】
上連結部113は、二つの直進把持部111を連結し上方突出状に湾曲する部分である。本実施の形態の場合、上連結部113は、部分円弧状に湾曲している。
【0019】
下連結部112、および上連結部113は、手動運転時の操舵の際に運転者が把持することができる。従って、操舵の際の手のポジションを任意に選択することができ、操舵の容易性を向上させ、操舵ミスを抑制して安全性を向上させることが可能となる。また、操作部材110が環状であれば、全体として構造的強度が向上し、鋭利に突出する部分がないため二次衝突時に運転者に対する安全性を高めることができる。
【0020】
なお、操作部材110を、2つの直進把持部111、下連結部112、および上連結部113の各部に分けて説明しているが、操作部材110は、環状の部材であり、直進把持部111、下連結部112、および上連結部113を明確に区別することは困難である。
【0021】
また、操作部材110は、円環状に限定されるわけではなく、楕円、長円、多角形等でもよく、これらを組み合わせたものでもかまわない。また、下連結部112、および上連結部113を湾曲していると説明したが、本明細書、および特許請求の範囲において湾曲とは、多角形の一部など、直線や角部を含む概念として使用している。
【0022】
接続部114は、操作部材110と折りたたみ機構130とを接続し、操作部材110の外周の中心が操舵軸上に位置する様に保持する部材である。本実施の形態の場合、接続部114は、2つの直進把持部111の下端部分から、操作部材110の操舵軸に向かって突出する部材であり、車両を直進させる際の操作部材110の姿勢において、水平面を含む直径方向に沿って延在している。
【0023】
なお、接続部114は、図面等に記載された形状、配置、姿勢などに限定されるものでは無く、任意に設定することが可能である。
【0024】
可変機構120は、自動運転時と手動運転時とにおいて操作部材の位置、姿勢、および形状の少なくとも1つを含む形態を可逆的に変化させる機構である。本実施の形態の場合、操作部材110の位置の変更、つまり操作部材110を車両の前側と運転者側との間で出退させる出退機構139を備えている。また、可変機構120は、操作部材110の姿勢の変更、つまり出退機構139に対し操作部材110を傾動等させて折りたたむ折りたたみ機構130とを備えている。
【0025】
なお、本実施の形態では、操作部材110の形状を変化させる機構は備えていないが、例えば、操作部材110自体を半分に折りたたむ機構や、操作部材110が複数のパーツに分断可能であり、これらのパーツを接続し、分解することができる機構などを例示できる。
【0026】
出退機構139の構造や形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、出退機構139として多段テレスコピック機構が採用されている。具体的に出退機構139は、可動体123と、中間ガイド124と、基礎ガイド125と、第一出退機構121と、第二出退機構122とを備えている。
【0027】
可動体123は、操作部材110が取り付けられ、車両の前側と運転者側との間で出退方向129に往復動する部材である。本実施の形態の場合、可動体123は、反力発生装置140、および折りたたみ機構130を介して操作部材110が取り付けられている。可動体123の形状や構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、箱形状の中間ガイド124の内方に収容できる大きさである。可動体123は、中間ガイド124の内方に出退方向129に延在した状態で中間ガイド124に固定された直動ガイド151に沿って、出退方向129に往復動することができるものとなっている。
【0028】
中間ガイド124は、可動体123を出退方向129に案内し、自身も出退方向129に往復動する部材である。中間ガイド124は、基礎ガイド125の運転者側の端部に達した場合、基礎ガイド125よりも運転者側に突出するものとなっている。これにより、可動体123を基礎ガイド125の長さ以上に出退させることができる。
【0029】
中間ガイド124の形状や構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合は、矩形の箱型形状であり、出退方向129に延在する直動ガイド151を収容状態で備えている。また、箱形状の中間ガイド124の天板には、操作部材110を後退させた際に反力発生装置140の一部が嵌まり込む切欠部152が設けられている。切り欠き部152は、天板の厚さ方向に貫通した切り欠き状の部分である。また、中間ガイド124は、操作部材110を後退させた状態で、反力発生装置140の一部を収容する箱形状となっている。これにより、操作部材110を後退させた状態で、ステアリング装置100を特に上下方向においてコンパクトにすることが可能となる。
【0030】
基礎ガイド125は、車両に取り付けられ、中間ガイド124を出退方向129に案内する部材である。基礎ガイド125の形状や構造は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、基礎ガイド125は、出退方向129において、可動体123、および中間ガイド124よりも長い部材であり、
図4に示すように、環状の操作部材110の直径と同程度、または直径よりも若干長くなるように設定されている。これにより、
図8に示すように、折りたたまれた操作部材110を後退させた状態で、ステアリング装置100を特に出退方向129においてコンパクトにすることが可能となる。また、基礎ガイド125は、中間ガイド124を出退方向129に案内し、かつ出退方向129を軸とした中間ガイド124の回転を抑止する二本のレール169を備えている。
【0031】
なお、本実施の形態の場合、基礎ガイド125は、ヒンジ128を介して車両に取り付けられており、出退方向129においては車両に固定されているが、ヒンジ128周りに傾動するチルト機構が採用されている。
【0032】
第一出退機構121は、基礎ガイド125に対し中間ガイド124を往復動させる機構であり、出退駆動源126を備えている。第一出退機構121の構造は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一出退機構121としては、第一ネジ軸161、および第一ナット163が相対的に直動するボールネジが採用されている。第一出退機構121はまた、駆動力が伝達される駆動力伝達機構166を備えている。
【0033】
第一ネジ軸161は、外周面に螺旋状の溝が設けられた軸体であり、出退方向129に延在し、基礎ガイド125に対し、出退方向129、および出退方向129を軸として回転する回転方向のいずれにも動かないように固定されている。
【0034】
第一ナット163は、刺し通された第一ネジ軸161の周面に設けられた螺旋状の溝とボールを介して係合する部材であり、中間ガイド124の端面に対し、出退方向129には固定され、出退方向129を軸として回転する回転方向には回転するように取り付けられている。第一ナット163は、中間ガイド124に対し基礎ガイド125側に突出するように取り付けられており、第一ナット163に刺し通される第一ネジ軸161は、中間ガイド124の外方を通過する。
【0035】
また、第一ナット163は、出退駆動源126により駆動力伝達機構166を介して回転駆動力が付与され、正回転、または逆回転することにより出退方向129に延在する第一ネジ軸161に対して中間ガイド124を往復動させることができるものとなっている。なお、中間ガイド124は、基礎ガイド125のレール169により回転が規制されているため、第一ナット163の回転に伴って回転することはない。
【0036】
駆動力伝達機構166は、特に限定されるものではなく、第一ナット163に回転駆動力を付与する機構であればよいが、ベルトドライブ、歯車の組み合わせなど任意に採用することができる。本実施の形態の場合は、歯車の組み合わせが採用されている。
【0037】
第二出退機構122は、中間ガイド124に対して可動体123を往復動させる機構である。第二出退機構122の構造は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二出退機構122は、第二ネジ軸162、および第二ナット164が相対的に直動するボールネジが採用されている。
【0038】
第二ネジ軸162は、第一ネジ軸161と同様、外周面に螺旋状の溝が設けられた軸体である。また、第二ネジ軸162は、出退方向129に延在し、中間ガイド124に対し、出退方向129には固定されているが、出退方向129を軸として回転するように中間ガイド124に取り付けられている。
【0039】
第二ナット164は、刺し通された第二ネジ軸162の溝とボールを介して係合する部材であり、可動体123の端面に固定されている。第二ナット164は、中間ガイド124内に収容された状態で可動体123に取り付けられている。以上により、第二出退機構122は、中間ガイド124に回転可能に取り付けられた第二ネジ軸162を回転させることにより、第二ネジ軸162に刺し通された第二ナット164が出退方向129に往復動可能となっており、第二ナット164に伴い可動体123が中間ガイド124に対して往復動する。
【0040】
また、第二ネジ軸162は、駆動力伝達機構166を介して第一ナット163と共に回転駆動力が付与されている。つまり、第二ネジ軸162と第一ナット163とは連動している。
【0041】
以上のように本実施の形態の場合、第一出退機構121、および第二出退機構122は、共にボールネジが採用されている。これにより出退駆動源126により操作部材110をスムーズに出退させることができるばかりでなく、手動により操作部材110を出退させることも可能である。
【0042】
第一出退機構121、および第二出退機構122が連動しているため、比較的短い期間で操作部材110を後退させることができ、また比較的短い期間で進出させることもできる。
【0043】
折りたたみ機構130は、可動体123に取り付けられ、出退方向129と交差する軸である折りたたみ軸(図中Y軸方向)周りに操作部材110を傾動させ、可動体123に対して操作部材110を折りたたむ機構である。
【0044】
折りたたみ機構130は、操作部材110の出退方向129と交差する軸である折りたたみ軸(図中Y軸方向)周りにおいて、下連結部112が車両の前方に向く方向であり第一出退機構121側に向くように、操作部材110の全体を可動体123に対して傾動させる。折りたたみ機構130の構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、折りたたみ軸体131とを備えている。
【0045】
折りたたみ軸体131は、操作部材110の直径上、または直径と平行な軸上に配置される棒状の部材である。本実施の形態の場合は、水平に配置され、可動体123に回転可能に固定されている。折りたたみ軸体131の両端部にはそれぞれ操作部材110の接続部114の先端が固定的に取り付けられている。
【0046】
可変駆動源150は、可変機構120を駆動して、操作部材110の形態を変更させる駆動力を発生させる装置である。本実施の形態の場合、可変駆動源150は、出退駆動源126と、折りたたみ駆動源132とを備えている。
【0047】
出退駆動源126は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合は、電動モータが用いられており、駆動力伝達機構166に接続されることにより中間ガイド124と共に可動体123も出退方向129に駆動させる力を発生させている。
【0048】
折りたたみ駆動源132は、折りたたみ軸体131を軸周りに回転させ、折りたたみ軸体131を介して、操作部材110を可動体123に対して傾動させて折りたたむ動力を発生させる。本実施の形態の場合、折りたたみ駆動源132は、電動モータが採用されている。
【0049】
反力発生装置140は、手動運転時において操作部材110を運転者が回して操舵する際に、運転者の力に反するトルクを操作部材110に付与する装置である。この反力発生装置140は、タイヤと操作部材とが機械的に接続されていた従来の車両において運転者が操舵に必要な力の感覚などを再現する装置である。本実施の形態の場合、反力発生装置140は、反力を発生させる反力モータ141と、運転者の力を検出するトルクセンサ(図示せず)とを備え、可動体123と折りたたみ機構130との間に介在配置されている。なお、反力発生装置140は、減速機を備える場合がある。
【0050】
受付手段170は、運転者の操作を受け付ける装置である。「運転者の操作」とは、押しボタンスイッチ、トグルスイッチ、タッチパネルの所定の領域などに対して指先で行う小規模な操作よりも、運転者の音声による操作、拍手などの音による操作、運転者のジェスチャーによる操作、手のひらの一部、拳の一部、または肘による操作など比較的大規模な操作を意味している。具体的に受付手段170は、車両内に取り付けられたマイク、カメラ、モーションセンサなどを例示できるが、手動運転のために情報を収集するセンサ、手動運転のために動作するモータなどを受付手段170としても利用することが望ましい。部品点数を削減して車両の重量を低減し、製造工程を簡略化することができるためである。
【0051】
本実施の形態の場合、受付手段170は、自動運転時の形態に変化する途中において、運転者が指、手のひら、拳、肘、膝などで操作部材110に加えた力に基づき運転者の操作を受け付けている。具体的な受付手段170は、特に限定されるものではないが、以下の装置などを例示することができる。
【0052】
1)形態が変化している途中の操作部材110に運転者が力を加えることによる通常とは異なった電流を出力する反力発生装置140が備える反力モータ141。
【0053】
2)手動運転時において操作部材110によって加えられるトルクを検出するトルクセンサ。
【0054】
3)手動運転時において操作部材110の操舵角を検出する角度センサ。
【0055】
4)運転者が操作部材110を握って出退方向129に引き出そうとした場合に通常とは異なった電流を出力する出退駆動源126に用いられるモータ。
【0056】
5)折りたたまれている途中の操作部材110に運転者が力を加えることによる通常とは異なった電流を出力する折りたたみ駆動源132に用いられるモータ。
【0057】
制御手段180は、可変機構120が手動運転時の形態から自動運転時の形態に操作部材110の形態を変化させる途中において、受付手段170が運転者の操作を受け付けた場合、可変駆動源150を制御して可変機構120による操作部材110の形態を手動運転時の形態に復帰させる制御を行う装置であって、いわゆる電子制御ユニット(ECU)である。
【0058】
制御手段180における具体的な判断方法として以下を例示できる。
【0059】
1)受付手段170から取得した反力モータ141の実電流が第一閾値を超えた場合、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0060】
2)記憶されている反力モータ141の通常動作時の実電流と、受付手段170から取得した反力モータ141の実電流の差が第二閾値を超えた場合、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0061】
3)反力モータ141への指示電流と、形態が変化している途中の操作部材110に運転者が力を加えた際の反力モータ141の実電流の差が第三閾値を超えた場合、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0062】
4)反力モータ141への指示電流と、受付手段170から取得した反力モータ141の実電流の差の積分値が閾値を超えた場合、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0063】
5)手動運転時において操作部材110によって加えられるトルクを判断するトルクセンサからの信号に基づき、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0064】
6)手動運転時において操作部材110の操舵角を判断する角度センサからの信号に基づき、運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行う。
【0065】
また、出退方向129に周りに操作部材110を回転させる(捩る)力を運転者が加えることなく、操作部材110を握って出退方向129に引き出そうとした場合、可変駆動源150に用いられるモータの実電流に基づき運転者が可変機構120の動作を戻す意図があると判断して、手動運転時の形態に戻す制御を行ってもよい。
【0066】
次に、車両に取り付けられたステアリング装置100の動作について説明する。
図5は、自動運転が開始され操作部材の形態が変化している間の復帰の動作の流れを示すフローチャートである。
【0067】
手動運転から自動運転に変更されたことを示す情報をステアリング装置100が受信すると、
図6に示すように、運転者に向かって突出状態の操作部材110は、設定位置にまで戻される(S101)。設定位置は、限定されるものではないが、本実施の形態の場合は、手動運転時に車両を直進させる際の操作部材110の姿勢、いわゆるセンター位置である。また、操作部材110を設定位置に戻す回転移動は、反力発生装置140により行う。また、設定位置において操作部材110が回転しないようにロック機構等によりロックしてもよい。
【0068】
次に、出退駆動源126を動作させて中間ガイド124、および可動体123を連動して動作させ、操作部材110の後退を開始する(S102)。
【0069】
次に、折りたたみ機構130を動作させて操作部材110を出退方向129と交差する軸で傾動させ、可動体123に対し操作部材110の折りたたみを開始する(S103)。
【0070】
ここで、操作部材110を設定位置に戻すタイミングと、操作部材110の後退開始タイミングと、操作部材110の折りたたみ開始タイミングは、上記に限定されず、順序が入れ替わっても、または少なくとも2つのタイミングが同時でもかまわない。また、後退と折りたたみは同じ期間内に実行してもよく、また操作部材110の折りたたみ完了後に後退を開始してもかまわない。なお、操作部材110の後退を先に開始すると、折りたたまれている途中の操作部材110の上連結部113が運転者と干渉する可能性を低減させることが可能となる。
【0071】
操作部材110の形態の変化が開始されると、制御手段180は、受付手段170からの情報に基づき手動運転を再開したいという運転者の意図を操作部材110の後退が完了する(S104:Yes)まで検出する(S105)。本実施の形態の場合、
図6図7図8に示されるような形態が変化しつつある操作部材110を運転者が握って元に戻そうとする操作、変化しつつある操作部材110を運転者が握って操舵軸周りに回転する力を加える操作、手のひらや拳などで叩いて回転する力を加える操作などを受付手段170が受け付ける。なお、意図の検出は、1つのセンサ、1つの装置からの信号に基づき判断しても良く、センサや装置からの二つ以上の信号に基づき判断してもかまわない。
【0072】
運転者の復帰の意図が検出された場合(S105:Yes)、制御手段180は、操作部材110が手動運転できる形態に復帰するように復帰が完了するまで(S107:Yes)可変駆動源150を制御する(S106)。
【0073】
以上により、自動運転が開始され、操作部材110の形態が変化している途中であっても、手動運転が可能な状態に操作部材110をすぐに復帰させることができる。
【0074】
なお、運転者の復帰の意図が検出されない場合(S105:No)は、次の動作が実行される。
【0075】
折りたたみ機構130は、操作部材110が、ダッシュボード201に挿入される前に操作部材110の折りたたみを完了させる。操作部材110の折りたたみ角度は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、折りたたみ機構130は、折りたたみ駆動源132に基づき折りたたみ軸体131を回転させることにより、
図3、
図7に示すように、直進把持部111と下連結部112とを含む面が出退方向129に平行、または略平行になるまで操作部材110を傾動させて折りたたむ。このように、操作部材110を折りたたむことにより、出退方向129においてダッシュボード201に対する操作部材110の投影面積を小さくすることができ、操作部材110をダッシュボード201内に収容する際に操作部材110が通過する開口部202の面積を抑制することができ、ダッシュボード201の構造的強度の低下を抑制しつつダッシュボード201の美観を向上させることが可能となる。
【0076】
また、出退方向129に平行、または略平行になるまで操作部材110が折りたたまれた状態において、反力発生装置140は、直進把持部111と下連結部112とに囲まれた空間内に位置するように配置されている。これにより、出退方向129に対し操作部材110を平行、または略平行になるまで折りたたむことができる。また、操作部材110をダッシュボード201内に収容する際に、操作部材110が通過するダッシュボード201の開口部202の一部を利用して反力発生装置140も通過させることができる。その際、開口部202の大きさを大きく確保する必要がなく、開口部202の大きさを抑制できる。また、ステアリング装置100をダッシュボード201内にコンパクトに収容することが可能となる。
【0077】
次に、中間ガイド124、および可動体123をさらに後退させ、
図8に示すように、折りたたみが完了した操作部材110を反力発生装置140、および折りたたみ機構130と共にダッシュボード201の開口部202に通過させる。
【0078】
最後に、操作部材110が上連結部113に至るまでダッシュボード201内に収容されれば、ステアリング装置100の後退動作を停止し、操作部材110の収納を完了する。
【0079】
一方、収容状態の操作部材110をダッシュボード201内から進出させる際のステアリング装置の動作の流れは、上記流れと逆に行われる。ここで、操作部材110を進出させている間、または進出完了時において、自動運転によって転舵されている転舵角をステアリング装置100が取得し、転舵角に応じた操舵角を決定する。そして、操舵角に対応した操作部材110の回転角になるように、反力発生装置140が操作部材110を操舵軸周りに回転させてもかまわない。これによれば、運転者に違和感を与えることなく、自動運転から手動運転にスムーズに移行させることが可能となる。
【0080】
以上のように、自動運転が開始され操作部材110の形態が変化しつつある段階で、運転者の目の前にある比較的大型の操作部材110を操作することにより復帰の意図を示すことができるため、指先で操作するような小さなボタンを探し出して形態を復帰させるために操作するような煩わしさを回避できる。
【0081】
また、運転者が操作部材110に対して実行した操作を、反力モータ141、角度センサなど手動運転に用いられる機器、可変駆動源150など操作部材110の形態の変化に必要な機器を受付手段170としても利用することにより、部品点数を減少させ、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0082】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0083】
例えば、運転者の操作は、操作部材110に対して行う操作に限定されるわけではない。例えば、受付手段170としてモーションセンサやカメラなどが備えられている場合、運転者のジェスチャーにより復帰動作を行ってもかまわない。また、受付手段170としてマイクを備えている場合、運転者の声や拍手の音などにより復帰動作を行ってもかまわない。
【0084】
また、出退機構139として、2段階で伸縮する装置を説明したが、ステアリング装置100は、第一中間ガイド、第二中間ガイドなどを備え、3段階以上で伸縮する装置であってもかまわない。また、出退機構139は、直動するものばかりでなく、湾曲した軌道を移動するもの、パンタグラフ機構などの平行リンク機構などを採用してもかまわない。
【0085】
また、折りたたみ機構130は、折りたたみ駆動源132を備えず、運転者の操作により傾動する機構であってもよい。また、出退機構139により操作部材110が後退する駆動力を利用して操作部材110を可動体123に対して傾動させる機構であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な自動車、バス、トラック、農機、建機など車輪、または無限軌道などを備えた車両などに利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
100:ステアリング装置、110:操作部材、111:直進把持部、112:下連結部、113:上連結部、114:接続部、120:可変機構、121:第一出退機構、122:第二出退機構、123:可動体、124:中間ガイド、125:基礎ガイド、126:出退駆動源、128:ヒンジ、129:出退方向、130:折りたたみ機構、131:折りたたみ軸体、132:折りたたみ駆動源、139:出退機構、140:反力発生装置、141:反力モータ、150:可変駆動源、151:直動ガイド、152:切り欠き部、161:第一ネジ軸、162:第二ネジ軸、163:第一ナット、164:第二ナット、166:駆動力伝達機構、169:レール、170:受付手段、180:制御手段、201:ダッシュボード、202:開口部