(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】車両用照明装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20220621BHJP
B60Q 1/12 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60Q1/14 H
B60Q1/12 100
(21)【出願番号】P 2018102357
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】貝野 彰
(72)【発明者】
【氏名】藤原 由貴
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-037240(JP,A)
【文献】特開2016-179781(JP,A)
【文献】特開2014-040140(JP,A)
【文献】特開2013-082390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
B60Q 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に分割される複数の配光領域のそれぞれについてその配光領域内の配光を変更可能な前照灯と、
前方に位置する前方車両を検出する検出部と、
前記検出部が検出する前方車両の位置に応じて、前記複数の配光領域のうち前方車両に対応する配光領域を特定して当該配光領域を消灯させるべく前記前照灯を制御する制御部と、を含み、
前記制御部は、前方車両の位置変化に応じて消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際には、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御する、ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用照明装置において、
前記前照灯は、複数の光源によって一の配光領域内の配光を行うものであって、
前記制御部は、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際には、当該配光領域に対応する消灯中の複数の光源を、実際の背景が移動する方向に従って順次点灯させる、ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用照明装置において、
前記制御部は、前方車両の位置が横方向に移動した場合には、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際に、前方車両の側から
当該前方車両の車幅方向外側に向かって当該
配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御する、ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用照明装置において、
前記制御部は、カーブを走行中であって当該カーブの曲率が予め定められた曲率以上の場合にのみ、前記
配光領域内が順次明るくなる制御を実行することを特徴とする車両用照明装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の車両用照明装置において、
前記制御部は、前方車両の位置が前方に移動した場合には、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際に、前方側から後方側に向かって当該配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御する、ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両用照明装置において、
前記制御部は、前方車両の位置の変化速度が相対的に速いほど、前記配光領域内を順次明るくする際の変化速度を相対的に速くする、ことを特徴とする車両用照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前照灯の配光を制御することにより視野特性の向上を図った車両用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
夜行走行時には、一般的にはハイビームと呼ばれる走行用前照灯が使用されるが、常にハイビームが使用されると、先行車両や対向車両の走行安全性に支障が生じる場合がある。そのため、近年では、多数の光源を備えた前照灯を使用し、車両に搭載したカメラで先行車両等を認識しつつ、その先行車両等に対応する領域だけを消灯するように、前照灯の配光を制御する技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1のような配光制御が行われる車両では、例えば夜間にカーブを走行中に先行車両との相対位置が変化すると、これに伴う前照灯の配光の変化によって、前方の景色の流れが昼間とは異なって見えて、運転者が違和感を覚える場合がある。すなわち、先行車両が移動すると、これに伴い消灯していた領域が点灯に切り替えられるのであるが、これにより、先行車両が移動する方向に当該先行車両を追いかけるように点灯領域が拡大することで、前方の景色があたかも昼間とは逆方向に流れているように見え、運転者が違和感を覚える場合がある。このような違和感は、例えば直線道路を走行中に先行車両が前方に遠のくような場合にも同様に生じ得る。従って、先行車両等を検出して前照灯を配光制御する場合には、そのような不都合を解消して、違和感の無いより良好な視認性の確保が求められる。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、先行車両等を検出して前照灯を配光制御する技術において、より違和感なく運転操作を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一局面に係る車両用照明装置は、左右方向に分割される複数の配光領域のそれぞれについてその配光領域内の配光を変更可能な前照灯と、前方に位置する前方車両を検出する検出部と、前記検出部が検出する前方車両の位置に応じて、前記複数の配光領域のうち前方車両に対応する配光領域を特定して当該配光領域を消灯させるべく前記前照灯を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前方車両の位置変化に応じて消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際には、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御するものである。
【0007】
この車両用照明装置によれば、前方車両が存在する場合には、複数の配光領域のうち当該前方車両に対応する配光領域が消灯されるため、前照灯の光によって前方車両の走行に支障が生じることが防止される。しかも、前方車両の位置変化に応じて消灯中の配光領域が点灯状態に切り替えられる際には、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内が順次明るくなるように前照灯が制御される。そのため、乗員は、昼間と同様の方向に景色が流れるように視認でき、これにより運転者が違和感を覚えることが緩和される。なお、請求項の記載において「前方車両」とは、自車の前方を走行する先行車両の他、対向車線を走行する対向車両も含む意味である。
【0008】
より具体的には、前記前照灯は、複数の光源によって一の配光領域内の配光を行うものであって、前記制御部は、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際には、当該配光領域に対応する消灯中の複数の光源を、実際の背景が移動する方向に従って順次点灯させる。
【0009】
この構成によれば、一の配光領域に対応する複数の光源を順次点灯制御することにより、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内を順次明るくすることが可能となる。そのため、比較的簡単な前照灯の構成で、上記の作用効果を享受することが可能となる。
【0010】
なお、上記の車両用照明装置において、前記制御部は、前方車両の位置が横方向に移動した場合には、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際に、前方車両の側から当該前方車両の車幅方向外側に向かって当該配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御する。
【0011】
この構成によれば、例えばカーブ走行中に自車の前方を走行する先行車両の位置が横方向に移動し、これに伴い前照灯の配光が変化する際に運転者が受ける違和感を緩和することが可能となる。
【0012】
なお、上記のような違和感はカーブの曲率が比較的大きい場合に受け易い。従って、例えばカーブを走行中であって当該カーブの曲率が予め定められた曲率以上の場合にのみ、前記配光領域内が順次明るくなる制御を実行するようにしてもよい。
【0013】
また、上記の車両用照明装置において、前記制御部は、前方車両の位置が前方に移動した場合には、消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える際に、前方側から後方側に向かって当該配光領域内が順次明るくなるように前記前照灯を制御するものであってもよい。
【0014】
この構成によれば、例えば自車の前方を走行する先行車両の位置が前方に遠退き、これに伴い前照灯の配光が変化する際に運転者が受ける違和感を緩和することが可能となる。
【0015】
なお、上記の各車両用照明装置において、前記制御部は、前方車両の位置の変化速度が相対的に速いほど、前記配光領域内を順次明るくする際の変化速度を相対的に速くするものであるのが好適である。
【0016】
この構成によれば、前方車両の位置の変化速度と前照灯の配光の変化速度とがバランスし、運転者の視界に入る前照灯の配光の変化、すなわち前方の景色の変化がより自然なものとなる。そのため、運転者がより一層違和感を感じ難くなる。
【発明の効果】
【0017】
上記の各態様に係る本発明の車両用照明装置によれば、先行車両等を検出して前照灯を配光制御するような場合に、より違和感なく運転操作を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る車両用照明装置が適用された車両を示す平面図である。
【
図2】(a)は左右のヘッドライト(前照灯)を示す正面模式図であり、(b)は、ライト本体における各ブロックのLED光源の配置を規定した表図である。
【
図3】ヘッドライトの制御系を示すブロック図である。
【
図4】ヘッドライトの配光制御の一例を説明するフローチャートである。
【
図5】ヘッドライトの配光領域を説明する模式図である。
【
図6】ヘッドライトの配光制御を説明するための模式図であり、(a)は、カーブ走行中の先行車両と配光状態を示す図であり、(b)は、(a)の状態から先行車両が移動したときの配光状態と、新たなに点灯状態に切り替えられる配光領域内の配光の移り変わり方を説明する図である。
【
図7】ヘッドライトの配光制御を説明するための模式図であり、(a)は、直線道路を走行中の先行車両と配光状態を示す図であり、(b)は、(a)の状態から先行車両が移動したときの配光状態と、新たなに点灯状態に切り替えられる配光領域内の配光の移り変わり方を説明する図である。
【
図8】(a)~(c)は夜間走行中のオプティカルフロー(前方の背景の流れ)を説明するための図である。
【
図9】(a)~(c)は昼間走行中のオプティカルフロー(前方の背景の流れ)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
[車両と車両用照明装置の構成]
図1は、本発明に係る車両用照明装置が適用された車両を示す平面図である。車両1の前端部には、前照灯として左右一対のヘッドライト2L、2Rが設けられている。また、車両1の前端部であって左右一対のヘッドライト2L、2Rの間の位置には、レーダ4が設けられ、車室内のフロントウインドシールド上縁部中央にはカメラ6が設けられている。
【0021】
レーダ4は、車両1の前方を走行する先行車両を検知すると共に、その先行車両との距離等を測定するためのもので、例えばミリ波レーダが採用されている。カメラ6は、車両1の前方の景色を撮像するもので、CCD又はCMOS等の撮像素子を備えている。なお、カメラ6及びレーダ4は、本発明の「検出部」に相当する。
【0022】
図2(a)は、左右のヘッドライト2L、2Rを示す平面図、詳しくは、車両1の前方から視た状態の平面図である。同図に示すように、ヘッドライト2L、2Rはそれぞれ、左右2つのライト本体部10R、10Lを備えており、各ライト本体部10R、10Lはそれぞれ、複数のLED光源12を備えている。
【0023】
当例では、ライト本体部10R、10Lそれぞれが含む複数のLED光源12の数及びそれらの配列は同じであり、複数のLED光源12は、縦横等間隔のマトリクス状に配列されている。
【0024】
図3は、車両用照明装置の制御系を示すブロック図である。前記ヘッドライト2L、2Rは、車両1に搭載されたコントローラ20によって制御される。
【0025】
コントローラ20は、CPU、メモリ、カウンタタイマ類およびI/F等を有するマイクロプロセッサで構成されている。コントローラ20には、レーダ4およびカメラ6からの信号(情報)が入力される。すなわち、コントローラ20には、レーダ4による先行車両の検出情報および先行車両との間隔を示す情報が入力されるとともに、カメラ6により撮像された画像情報が入力される。なお、車両1には、ステアリングホイールの操作に対応した舵角情報を出力する舵角センサ8がさらに設けられており、この舵角センサ8からの舵角情報もコントローラ20に入力される。
【0026】
コントローラ20は、その機能構成として、ヘッドライト2L、2Rの作動(配光)を統括的に制御する配光制御部22(本発明の制御部に相当する)を含む。この配光制御部22は、特にハイビーム走行中、ヘッドライト2L、2Rの点灯を行うと共に、レーダ4及びカメラ6からの情報に基づいて自車(車両1)の前方を走行する先行車両を検出し、先行車両に対応する領域を消灯する、すなわち当該領域に光が照射されないようにヘッドライト2L、2Rの配光を制御する。なお、当例の車両1では、ハイビーム走行中は、自車の前方に車両(先行車両および対向車両)が存在しない限り、基本的には左右のヘッドライト2L、2Rの全てのLED光源12を点灯させる。
【0027】
ここで、ヘッドライト2L、2Rにより光が照射される領域(配光領域)と各ヘッドライト2L、2Rの各LED光源12との関係について
図5を用いて説明する。
図5は、ヘッドライト2L、2Rによる配光領域を説明する模式図であり、同図では、配光領域を車両1の前方に正対する仮想鉛直面上に規定している。
【0028】
ヘッドライト2L、2Rによる配光領域は、
図5に示すように、車両幅方向(左右方向)に複数に分割されている。具体的には、8つの配光領域A1~A8に分割されている。各配光領域A1~A8の幅Wはそれぞれ等しく設定されている。当例では、各配光領域を、右側から順に第1配光領域A1、第2配光領域A2……第8配光領域A8と称す。
【0029】
ヘッドライト2L、2Rは、各配光領域A1~A8に対応するLED光源12が設定されており、複数のLED光源12が選択的に点灯制御されることにより、各配光領域A1~A8の点灯(光が照射されている状態)や消灯(光が非照射の状態)が行われる。
【0030】
具体的には、
図2(a)に示すように、右側のヘッドライト2Rの右側のライト本体部10Rの右半分のブロックB1に含まれるLED光源12が第1配光領域A1に対応し、同ライト本体部10Rの左半分のブロックB2に含まれるLED光源12が第2配光領域A2に対応する。また、右側のヘッドライト2Rの左側のライト本体部10Lの右半分のブロックB3に含まれるLED光源12が第3配光領域A3に対応し、同ライト本体部10Lの左半分のブロックB4に含まれるLED光源12が第4配光領域A4に対応する。
【0031】
また、左側のヘッドライト2Lの右側のライト本体部10Rの右半分のブロックB5に含まれるLED光源12が第5配光領域A5に対応し、同ライト本体部10Rの左半分のブロックB6に含まれるLED光源12が第6配光領域A6に対応する。また、左側のヘッドライト2Lの左側のライト本体部10Lの右半分のブロックB7に含まれるLED光源12が第7配光領域A7に対応し、同ライト本体部10Lの左半分のブロックB8に含まれるLED光源12が第8配光領域A8に対応する。
【0032】
当例では、ブロックB1~B8には、6行3列の合計18個のLED光源12がそれぞれ含まれている。そして、ブロックB1~B8毎に、18個のLED光源12が同時に点灯制御されることで、各配光領域A1~A8の点灯や消灯が行われる。また、ブロックB1~B8毎に、それに含まれる18個のLED光源12が個別に点灯制御されることにより、配光領域A1~A8それぞれの(つまり各配光領域内の)配光が変化するようになっている。
【0033】
[車両用照明装置における配光制御]
上記の通り、コントローラ20(配光制御部22)は、レーダ4及びカメラ6からの情報に基づいて先行車両を検出し、先行車両に対応する領域を消灯する(当該領域に光が照射されないようにヘッドライト2L、2Rの配光を制御する)。これにより、ヘッドライト2L、2Rからの照射光によって先行車両の走行に支障が生じないようにしている。
【0034】
しかし、このような配光制御のみでは、以下に説明するように、ヘッドライト2L、2Rの配光の変化によって運転者が違和感を覚える場合がある。
【0035】
例えば
図9(a)~(c)は、昼間走行中のオプティカルフロー(前方の背景の流れ)を概略的に説明する図である。この図に示すように、左側にカーブする道路を走行している際には、車両前方の風景は、
図9(c)中の矢印Xaに示すように、前方側から手前側にかつ左側から右側に向かって流れることとなる。車両前面に正体する仮想垂直面を相対した場合、当該仮想垂直面上では、車両前方の風景は、上側から下側にかつ左側から右側に向かって流れることとなる。通常、ドライバはこのように風景の流れを認識している。
【0036】
一方、
図8(a)~(c)は、夜間走行中のオプティカルフロー(前方の背景の流れ)を概略的に説明するための図である。
図8(a)~(c)は、
図9と同様に、左側にカーブする道路を走行している場合を示している。図中の符号30は先行車両であり、符号Laはヘッドライト2L、2Rからの光が照射されている領域(点灯領域La)である。先行車両30に対応する領域は消灯されている。
【0037】
ここで、
図8(a)に示す位置から自車(車両1)と先行車両30との相対位置が変化することによって、
図8(b)、(c)に示すように先行車両30が左方向に移動すると、これに伴い消灯していた領域が点灯に切り替えられる。従って、先行車両30が移動する方向に当該先行車両30を追いかけるように点灯領域Laが拡大することとなる。つまり、ドライバが視認可能な領域が、
図8(c)中に矢印Xbで示すように先行車両30の移動方向に拡大していくことにより、ドライバには、あたかも前方の景色が昼間とは逆方向に流れているように認識され、その結果、ドライバが違和感を覚える場合が生じるのである。
【0038】
このような現象は、例えば直線道路を走行中に先行車両が前方に遠のき、これに応じて先行車両の両側の配光状態が変化する場合にも同様に生じ得る。
【0039】
このような違和感を軽減するために、上記コントローラ20(配光制御部22)は、ヘッドライト2L、2Rの配光に関して次のような制御を実行する。
【0040】
図4は、ヘッドライト2L、2Rの配光制御の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートがスタートすると、コントローラ20は、部分消灯制御スイッチ(SW)、すなわちハイビームで走行しつつ、先行車両30の検知に基づいて第1~第8の配光領域A1~A8のうち先行車両30に対応する領域を消灯する制御(部分消灯制御)を実行するためのスイッチがオンされているか否かを判断する(ステップS1)。
【0041】
ここでYesの場合には、先行車両30が存在するか否かを判断し(ステップS3)、先行車両30が存在する場合には、第1~第8の配光領域A1~A8のうち先行車両30に対応する領域を消灯する制御を実行する(ステップS5)。
【0042】
図6(a)及び
図7(a)は、その場合の一例を示しており、
図6(a)では、第1~第8の配光領域A1~A8のうち先行車両30に対応する第4、第5の配光領域A4、A5が消灯され(ヘッドライト2L、2Rからの光が非照射状態とされ)、それ以外の配光領域A1~A3、A6~A8が点灯され(ヘッドライト2L、2Rのからの光が照射状態とされ)ている。一方、
図7(a)では、先行車両30に対応する第5、第6の配光領域A5、A6が消灯され、それ以外の配光領域A1~A4、A7、A8が点灯されている。
【0043】
次に、コントローラ20は、カーブを走行中か否かを判断する(ステップS7)。具体的には、舵角センサ8からの情報に基づき、直進状態から設定操舵角以上ステアリングホイールが操作されている場合(つまり、カーブの曲率が予め定められた曲率以上の場合)には、コントローラ20はカーブ走行中であると判断する。
【0044】
ステップS7でYesと判断した場合には、コントローラ20は、さらに先行車両30の位置が横方向に変化したか否かを判断する(ステップS9)、ここで、Yesと判断した場合には、コントローラ20は、ステップS11に移行して第1配光変更制御を実行し、ステップS9でNoと判断した場合には、ステップS11の処理をスキップしてステップS5に処理をリターンする。
【0045】
ステップS9の判断は、レーダ4及びカメラ6からの情報に基づき、配光領域A1~A8の幅W(
図5参照)の分だけ先行車両30が横方向(左右方向)に移動したかを基準に判断される。従って、ステップS9では、先行車両30との間隔がほぼ一定に保たれた状態で先行車両30が左右方向に移動する場合の他、先行車両30との間隔が広がることにより先行車両30が見かけ上左右方向に移動する場合の何れの場合もYesと判断される。
【0046】
一方、ステップS7でNoと判断した場合、すなわち、カーブ走行中でないと判断した場合には、コントローラ20は、さらに先行車両30の位置が前方に変化したか否かを判断する(ステップS13)、ここで、Yesと判断した場合には、コントローラ20は、ステップS15に移行して第2配光変更制御を実行し、ステップS13でNoと判断した場合には、ステップS15の処理をスキップしてステップS5に処理をリターンする。
【0047】
ステップS13の判断は、レーダ4及びカメラ6からの情報に基づき、配光領域A1~A8の幅W(
図5参照)の分だけ先行車両30が横方向(左右方向)に移動したと見かけ上認められる距離だけ先行車両30が自車に対して遠ざかったか否かを基準に行われる。
【0048】
第1配光変更制御および第2配光変更制御は、先行車両30の位置の変化に伴い、ヘッドライト2L、2Rによる配光を変更する制御であり、具体的には、先行車両30の位置の変化に伴い、点灯中の配光領域を消灯に切り替えるとともに、消灯中の配光領域を点灯に切り替える制御である。
【0049】
まず、第1配光変更制御では、コントローラ20は、点灯中の配光領域を消灯に切り替える場合、ヘッドライト2L、2RのブロックB1~B8毎に、ブロック内の全てのLED光源12を同時に点灯状態から消灯状態に切り替える。
【0050】
一方、消灯中の配光領域を点灯に切り替える場合には、コントローラ20は、先行車両30の移動方向とは逆方向に向かって(すなわち、先行車両30の側から車幅方向外側に向かって)配光領域内が順次明るくなるように、ブロック内のLED光源12を前記逆方向に向かって順次消灯状態から点灯状態に切り替える。
【0051】
例えば
図6(a)に示すようなカーブ走行状態において、先行車両30の位置が
図6(b)に示すように変化し(先行車両30の位置が左方向に変化し)、これに伴い第4配光領域A4を消灯状態から点灯状態に切り替える場合には、同図の第4配光領域A4の拡大図に示すように、先行車両30の移動方向における第4配光領域A4の端部(つまり左端部)から当該移動方向とは逆方向(つまり右方向)に向かって当該第4配光領域A4が順次明るくなるように、ブロックB4内の各LED光源12を順次消灯状態から点灯状態に切り替える。つまり、
図2(b)に示すように、ヘッドライト2L、2Rの各ブロックB1~B8について、右端の列の6つのLED光源24を上から順に光源X1~X6、中央の列の6つのLED光源24を上から順に光源Y1~Y6、左端の列の6つのLED光源24を上から順に光源Z1~Z6とした場合、まず、光源Z1~Z6を消灯から点灯に同時に切り替え、設定時間経過後に光源Y1~Y6を消灯から点灯に同時に切り替え、さらに設定時間経過後に光源X1~X6を消灯から点灯に同時に切り替える。
【0052】
第2配光変更制御では、コントローラ20は、点灯中の配光領域を消灯に切り替える場合、ヘッドライト2L、2RのブロックB1~B8毎に、ブロック内の全てのLED光源12を同時に点灯状態から消灯状態に切り替える。この点は、第1配光変更制御と同様である。
【0053】
一方、消灯中の配光領域を点灯に切り替える場合には、コントローラ20は、前方側から後方側に向かって配光領域内が順次明るくなるように、ブロック内のLED光源12を上側から下側に向かって順次消灯状態から点灯状態に切り替える。
【0054】
例えば
図7(a)に示すような直線道路を走行中に、先行車両30の位置が
図7(b)に示すように前方に変化し、これに伴い第6配光領域A6を消灯状態から点灯状態に切り替える場合には、同図の第6配光領域A6の拡大図に示すように、前方から後方に向かって当該第6配光領域A6が順次明るくなるように、ブロックB6内の各LED光源12を順次消灯状態から点灯状態に切り替える。つまり、
図2(b)を用いて説明すると、まず、光源X1、Y1、Z1を消灯から点灯に同時に切り替え、設定時間経過後に光源X2、Y2、Z2を消灯から点灯に同時に切り替え、その後同様にして、消灯中の各光源を行毎に光源X6、Y6、Z6まで点灯状態に切り替える。
【0055】
なお、コントローラ20(配光制御部22)は、レーダ4又はカメラ6からの情報に基づいて先行車両30の位置の変化速度を算出し、この変化速度に応じてLED光源12(光源X1~X6、Y1~Y6、Z1~Z6)を消灯から点灯に切り替える時間(上記設定時間)を変更する。例えばコントローラ20は、先行車両30の位置の変化速度と前記設定時間とを対応付けたデータを記憶しており、このデータに基づき前記設定時間を変更する。この設定時間は、先行車両30の位置の変化速度が相対的に速いほど相対的に早く(短く)なるように設定されている。
【0056】
ステップS11又S15の処理を実行すると、コントローラ20は、ステップS5に処理をリターンする。そして、
図4では示していないが、例えばヘッドライト2L、2Rが消灯されると、コントローラ20は本フローチャートを終了する。
【0057】
[作用効果]
上述した車両用照明装置によれば、夜間走行中に先行車両30が存在する場合には、第1~第8の配光領域A1~A8のうち、当該先行車両30に対応する配光領域が消灯されるため、ハイビームであってもヘッドライト2L、2Rの光によって先行車両30の走行に支障が生じることが抑制される。
【0058】
しかも、操舵角が設定角度以上となるカーブ走行中であって、先行車両30の位置変化に応じてヘッドライト2L、2Rの配光状態が切り替えられる際には、上記の通り、第1配光変更制御が実行されるため、当該配光状態の切り替えによって運転者が違和感を覚えることが緩和される。すなわち、先行車両30の位置変化に応じて消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える場合、第1配光変更制御によると、先行車両30の移動方向における配光領域の端部から当該移動方向とは逆方向に向かって(すんわち、先行車両30の側から車幅方向外側に向かって)配光領域が順次明るくなるようにヘッドライト2L、2Rの各ブロック内のLED光源12が点灯制御される。つまり、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内が順次明るくなるようにヘッドライト2L、2Rが制御される。そのため、消灯状態から点灯状態に切り替えられる配光領域において、ドライバは、昼間と同様の方向に景色が流れるように視認でき、これにより運転者が違和感を覚えることが緩和される。従って、この車両用照明装置によれば、夜間走行中、特に先行車両30を伴うカーブでの走行中において、ドライバはより違和感なく運転操作を行えるようになる。
【0059】
また、操舵角が設定角度未満となる直線道路の走行中であって先行車両30の位置変化に応じてヘッドライト2L、2Rの配光状態が切り替えられる際も、上記の通り、第2配光変更制御が実行されるため、この場合も同様に運転者が違和感を覚えることが緩和される。すなわち、先行車両30の位置が前方に変化するのに応じて消灯中の配光領域を点灯状態に切り替える場合、第2配光変更制御によると、前方側から後方側に向かって配光領域が順次明るくなるようにヘッドライト2L、2Rの各ブロック内のLED光源12が点灯制御される。つまり、実際の背景が移動する方向に従って当該配光領域内が順次明るくなるようにヘッドライト2L、2Rが制御される。そのため、消灯状態から点灯状態に切り替えられる配光領域において、ドライバは、昼間と同様の方向に景色が流れるように視認でき、これにより運転者が違和感を覚えることが緩和される。
【0060】
従って、上記の車両用照明装置によれば、先行車両30を伴う夜間走行中、ドライバはより違和感なく運転操作を行えるようになる。
【0061】
特に、第1、第2配光変更制御では、LED光源12(光源X1~X6、Y1~Y6、Z1~Z6)を順次消灯から点灯に切り替える時間(上記設定時間)が先行車両30の相対位置の変化速度に応じて変更される。具体的には、先行車両30の位置の変化速度が相対的に速いほど相対的に短くなるように変更される。従って、先行車両30の位置の変化速度と配光領域内の配光状態の変化速度とが整合(バランス)しないことに起因してドライバに違和感を与えることが軽減される。つまり、先行車両30の位置の変化速度が速いにも拘わらず配光領域内の配光状態の変化速度が遅い場合や、逆に、先行車両30の位置の変化速度が遅いにも拘わらず配光領域内の配光状態の変化速度が速い場合には、そのギャップによってドライバが違和感を覚える場合ことが予想されるが、このような不都合が低減される。
【0062】
[変形例等]
以上説明した車両用照明装置は、本発明に係る車両用照明装置の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば次のような構成を採用することもできる。
【0063】
(1)実施形態のヘッドライト2L、2Rは、それぞれ、複数のLED光源12を備えた2つのライト本体部10R、10Lを備えた構成であるが、ヘッドライト2L、2Rは、例えば一つの光源からの光をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)によって反射させ、レンズを介して車両1の前方に照射させる構成であってもよい。この場合には、光源の点灯と消灯を切り替える代わりに、コントローラ20により、DMDに含まれる複数のマイクロミラーの方向を制御することにより、各配光領域A1~A8に対する光の照射と非照射を切り替えるようにすればよい。
【0064】
(2)実施形態では、コントローラ20は、操舵角が設定角度以上となるようなカーブを車両1が走行中にのみ第1配光変更制御を実行するが、そのようなカーブ以外の道路を車両1が走行している場合にも第1配光変更制御を実行するようにしてもよい。
【0065】
(3)実施形態は、舵角センサ8からの情報に基づき、直進状態から設定操舵角以上ステアリングホイールが操作されているか否か(つまり、カーブの曲率が予め定められた曲率以上か否か)を基準にカーブを走行中か否かの判断を行っているが、例えばナビゲーションシステムの位置情報(地図情報)に基づきカーブを走行中か否かを判断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 車両
2L、2R ヘッドライト(前照灯)
4 レーダ(検出部)
6 カメラ(検出部)
10L、10R ライト本体部
12 LED光源
20 コントローラ
22 配光制御部(制御部)
A1~A8 第1~第8の配光領域