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  • 特許-十字軸継手 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】十字軸継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/41 20060101AFI20220621BHJP
   B62D 1/20 20060101ALI20220621BHJP
   F16C 17/08 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
F16D3/41 J
F16D3/41 A
B62D1/20
F16C17/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018109111
(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2019211033
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】城戸 祥治
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-035554(JP,A)
【文献】特開2014-234878(JP,A)
【文献】実開平07-008634(JP,U)
【文献】実開昭56-111325(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/41
B62D 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークの軸受孔に、ニードル軸受を介して、スパイダーの軸部を揺動自在に嵌合し、前記軸部を密閉するように形成されたベアリングカップを備えた十字軸継手において、
前記ベアリングカップの内底面中央部または前記軸部の先端面中央部のいずれかに凸部を設け
前記凸部は、
前記軸部の中心軸の軸回りの周方向に沿って延びる円筒部と、
当該円筒部の径方向内側に設けられた固体潤滑剤と、を備えたことを特徴とする十字軸継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用ステアリング装置に用いる十字軸継手に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置においては、例えばステアリングシャフトと中間シャフトの間に、一対のヨークと十字状のスパイダーとからなり、所定の折曲角度で回転しながらトルクを伝達する十字軸継手が介装してある。
【0003】
このような十字軸継手は、例えば、十字軸継手を車両のエンジンの駆動力を変速機から終減速装置に伝達するプロペラシャフトに適用した発明を開示した特許文献1に示すように、ヨークの軸受孔にニードル軸受を介して、スパイダーの先端軸部が揺動自在に嵌合し、当該先端軸部を閉鎖するように形成されたベアリングカップの内底面には凸部が設けられ、当該凸部と先端軸部に設けられた突起とを当接させて相対回転をするようにしている。
【0004】
また、例えば、車両用ステアリング装置に用いる十字軸継手の発明を開示した特許文献2に示すように、十字軸継手のフラットなスパーダー端面と、ベアリングカップの内底面に台形断面を持つ円錐台形状をした2つの凸部とを当接させて相対回転をするようにしている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のスパイダーの凸部の接触部分は、スパイダーの揺動により磨耗の進行が進むと凸部が無い双方フラットな面接触よりも双方が安定しない歪な接触になる虞があり同軸度の影響を受け易くバラ付いた場合、折り曲げトルクが増加する課題があった。また、上記特許文献2のスパイダーの凸部の接触部は、台形断面を持つ円錐形状をしているため、磨耗の進行により接触部の半径が大きくなり磨耗が締め代減少させる。この結果、面圧減少による回転トルク低下よりも、接触半径増加や摩擦係数変化による回転トルク増加となり、磨耗の進行に連れて接触圧が摩擦抵抗を増大させ、往復回転の際に折り曲げトルクが増加する課題があった。
また、折り曲げトルクが増加することによるステアリング装置の操舵安定性面での課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-65353号公報
【文献】特開2012-154414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような課題に鑑みてなされたものであって、スパイダーの軸部またはベアリングカップの接触部の回転トルクの増加を抑えることができる十字軸継手を提供し、折り曲げトルクを低減させることで操舵安定性の良好なステアリング装置が実現されることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、第一の発明の十字軸継手は、ヨークの軸受孔に、ニードル軸受を介して、スパイダーの軸部を揺動自在に嵌合し、前記軸部を密閉するように形成されたベアリングカップを備えた十字軸継手において、前記ベアリングカップの内底面中央部または前記軸部の先端面中央部のいずれかに円柱状の凸部を設けたことを特徴とする。
第二の発明は、第一の発明において、前記凸部の先端に一文字のすり割を設けたことを特徴とする。
第三の発明は、第一の発明において、前記凸部の先端に十文字のすり割を設けたことを特徴とする。
第四の発明は、第一の発明において、前記凸部を中空の円筒状したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スパイダーの軸部またはベアリングカップの接触部の回転トルクの増加と磨耗を抑えることができる十字軸継手を提供し、折り曲げトルクを低減させることで操舵安定性の良好なステアリング装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の十字軸継手を有するステアリング装置の全体を示した図である。
図2】本発明の十字軸継手の一部を断面した側面図である。
図3】(a)は、従来技術の十字軸継手のニードル軸受の一部要部断面で、(b)は(a)のスパイダーの軸部の先端の磨耗状況の変移を説明する模式図で、(c)は、本発明の十字軸継手のニードル軸受の一部要部断面で、(d)は(c)のベアリングカップの内底面中央部の凸部によるスパイダーの軸部の先端の磨耗状況の変移を説明する模式図である。
図4】(a)と(b)は、スパイダーの軸部の先端に設けられた凸部の磨耗状況の変移を説明する模式図である。
図5】(a)は、凸部の先端に一文字のすり割を設けたことを示す図、(b)は、十字のすり割りを設けたことを示す図である。
図6】(a)は、スパイダーの軸部の先端に設けられた円筒部に潤滑剤を挿入した断面図であり、(b)は、当該円筒部の磨耗が進み潤滑剤が円筒外部に流出していることを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
[ステアリング装置の構成]
図1は、本発明の十字軸継手を有するステアリング装置の構成を示し、一部を断面した正面図であって、電動パワーステアリング装置に適用した実施形態を示す。
なお、電動パワーステアリング装置において、コラムタイプ電動パワーステアリング装置の様にインタミシャフトよりも運転者寄りにパワーアシスト装置を設けた場合は、インタミのフリクションはアシスト装置のパワーにより掻き消されてしまい、運転者にはほとんど気にならないが、ピニオンタイプ電動パワーステアリング装置やラックアシスト電動パワーステアリング装置若しくは油圧のパワーステアリング装置車両では、運転者から見てインタミシャフトよりも下流にアシスト機構が存在するシステムでは、インタミシャフトのフリクションはダイレクトに運転者が感じる事ができ、それは不快適な転舵フィーリングと一般的に評価される。
なお、本実施形態の十字軸継手を採用するステアリング装置は、油圧式パワーステアリング、電動式パワーステアリング、その他いずれの形式のものでも良い。
【0013】
図1に示すように、本発明の十字軸継手15を有するステアリング装置は、車体後方側(図1の右側)にステアリングホイール11を装着可能なステアリングシャフト12と、このステアリングシャフト12を挿通したステアリングコラム13と、このステアリングシャフト12に補助トルクを付与する為のアシスト装置(操舵補助部)20と、このステアリングシャフト12の車体前方側(図1の左側)に、図示しないラック/ピニオン機構を介して連結されたステアリングギヤ30とを備える。
【0014】
ステアリングシャフト12は、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとを、回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向に関して相対移動可能にスプライン嵌合している。従って、上記雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとは、衝突時に、このスプライン嵌合部が相対移動して、全長を縮めることができる。
【0015】
また、上記ステアリングシャフト12を挿通した筒状のステアリングコラム13は、アウターコラム13Aとインナーコラム13Bとをテレスコピック移動可能に組み合わせており、衝突時に軸方向の衝撃が加わった場合に、この衝撃によるエネルギを吸収しつつ全長が縮まる、所謂コラプシブル構造としている。
【0016】
そして、上記インナーコラム13Bの車体前方側端部を、ギヤハウジング21の車体後方側端部に圧入嵌合して固定している。また、上記雄ステアリングシャフト12Bの車体前方側端部を、このギヤハウジング21の内側に通し、アシスト装置20の図示しない入力軸の車体後方側端部に連結している。
【0017】
ステアリングコラム13は、その中間部を支持ブラケット14により、ダッシュボードの下面等、車体18の一部に支承している。また、この支持ブラケット14と車体18との間に、図示しない係止部を設けて、この支持ブラケット14に車体前方側に向かう方向の衝撃が加わった場合に、この支持ブラケット14が上記係止部から外れ、車体前方側に移動するようにしている。
【0018】
また、上記ギヤハウジング21の上端部も、上記車体18の一部に支承している。また、本実施形態の場合には、チルト機構及びテレスコピック機構を設けることにより、上記ステアリングホイール11の車体前後方向位置、及び、高さ位置の調節を自在としている。このようなチルト機構及びテレスコピック機構は、従来から周知であり、本発明の特徴部分でもない為、詳しい説明は省略する。
【0019】
上記ギヤハウジング21の車体前方側端面から突出した出力軸23は、十字軸継手15を介して、中間シャフト16の後端部に連結している。また、この中間シャフト16の前端部に、別の十字軸継手15を介して、ステアリングギヤ30の入力軸31を連結している。中間シャフト16は、雄中間シャフト(雄シャフト)16Aの車体前方側に、雌中間シャフト(雌シャフト)16Bの車体後方側が外嵌し、回転トルクを伝達可能に、かつ、軸方向に関して相対移動可能に嵌合している。
【0020】
図示しないピニオンが、入力軸31に結合している。また、図示しないラックが、このピニオンに噛み合っており、ステアリングホイールの回転が、タイロッド32を移動させて、図示しない車輪を操舵する。
【0021】
アシスト装置20のギヤハウジング21には、電動モータ26のケース261が固定され、この電動モータ26の図示しない回転軸にウォームが結合されている。出力軸23には図示しないウォームホイールが取り付けられ、このウォームホイールに電動モータ26の回転軸のウォームが噛合っている。
【0022】
また、出力軸23の中間部の周囲には、図示しないトルクセンサが設けられている。上記ステアリングホイール11からステアリングシャフト12に加えられるトルクの方向と大きさを、トルクセンサで検出し、この検出値に応じて、電動モータ26を駆動し、ウォームとウォームホイールから成る減速機構を介して、出力軸23に、所定の方向に所定の大きさで補助トルクを発生させる。
【0023】
また、十字軸継手15では、傾いた2つのシャフト間にトルクを伝達するとき、ここで生じる摩擦に因って、シャフトが同軸の場合と比べて、出力側のシャフトで必要とされる負荷よりも大きいトルクを入力側のシャフトに与えなければならない。2つのヨークを十字軸に対して揺動させるのに必要なトルクが折り曲げトルクといわれ、折り曲げトルクを低減させることでステアリングホイールの操舵フィーリングの良好なステアリング装置が実現される。
【0024】
[十字軸継手の構成]
図2は、本発明の十字軸継手15の一部を断面した側面図である。図2に示すように、十字軸継手15は、一対のヨーク4、4の間に、十字状のスパイダー(十字軸ともいう。)5が介装してある。すなわち、ヨーク4の軸受孔41に、ニードル軸受6を介して、スパイダー5先端の軸部51が揺動自在に嵌合し、軸部51の下部外周には、シール52が嵌合している。
【0025】
本実施形態のヨーク4は、板金、鍛造もしくは鋳造のいずれで製造しても良く、またヨーク4の材料は、鉄系、もしくはアルミ系のいずれであっても良い。
また、ベアリングカップ61は、金属製の薄板をプレス加工された一端密閉型のシェル型外輪である。
【0026】
ニードル軸受6は、ベアリングカップ61、複数のニードル70から構成されている。ベアリングカップ61は有底筒状体であり、外径は15~16mmである。ベアリングカップ61はヨークのアームに形成された円形軸受孔内に圧入され、カシメによりヨーク4に抜け防止されている。ベアリングカップ61の筒状部内周面とスパイダー5の軸部51の外周面との間には複数のニードル70が介装されている。このような構成により、軸部51はヨークアームの対応する軸受孔41内に軸受を介して回転自在に支持されている。
【0027】
ベアリングカップ61の外径は、約15~16mmであり、ニードル70の内接円径は、約10mmであり、ニードル70の外径は、1.4~2.3mmであり、ニードル70の数は16~25本であり、その材料はJIS SUJ1~SUJ5である。
【0028】
[円柱状凸部を設けた実施形態1]
実施形態1の十字軸継手15では、ニードル軸受6のベアリングカップ61の内底面中央部またはスパイダー5の軸部51の先端面中央部のいずれかに円柱状凸部(円柱状突起部)を設けている。これにより、ニードル軸受6のベアリングカップ61の内底面とスパイダー5の軸部51の先端面との回転接触面の回転トルクを低減できる。
先ず、ベアリングカップ61側に円柱状凸部を設けた場合について説明する。
図3(c)は実施形態1の十字軸継手15のニードル軸受6の一部要部断面で、図3(c)に示すように、ニードル軸受6のベアリングカップ61の内底面中央部(図面上、中心軸線を一点鎖線にて示す、以下、同じ。)には、所定の径Dを有する円柱状の凸部(円柱状の突起部)63を設けている。
そして、ニードル軸受6は、ベアリングカップ61の円柱状の凸部63とスパイダー5の軸部51の軸部先端の平面51aとが回転接触する。
【0029】
ベアリングカップ61の円柱状の凸部63の材質の硬さが、前記軸部51の先端の平面51a側よりも柔らかい場合、回転接触すると、柔らかい側のベアリングカップ61の円柱状の凸部63が主に磨耗する。この磨耗が進んでも、図3(d1)に示す軸部51の平面51aに接触する円柱状の凸部63が減るだけで、円柱状の径Dは一定のままである。すなわち、接触面積C4(63)は変わらない。この場合、ニードル軸受側の磨耗による面圧(締め代)は減少により、折り曲げトルクは下がる。したがって、操作フィーリングは改善できる。
なお、図3(d)の図面において、本実施形態の説明上、ベアリングカップ61の記載を省略している(以下、図3(b)、図4図5及び図6においても同じ。)。
【0030】
図3(d2)は、ベアリングカップ61の円柱状の凸部63の方が硬い場合の模式図で、軸部51の平面51aの磨耗が進み、平面51aに円柱状の凹部D1が形成される。このとき、凸部D1の円柱縦壁分の接触面積は増えるが、ニードル軸受側の磨耗による面圧(締め代)減少によりフリクションは相殺されるため折り曲げトルクの上昇は抑えられる。
すなわち、図3(d2)に示すように、平面51aには、凸部63の磨耗する前の接触面積から回転接触によって軸部51の平面51aの位置D1aから深さHだけ磨り減った凹部D1が形成されるものの、接触面積C5(63)は不変で変わらない。
【0031】
本願発明のニードル軸受におけるベアリングカップ61の凸部62とスパイダー5の軸部51の軸部先端の平面51aとが回転接触した形態について、従来技術の形態を図3(a)、(b)を用いて、その差異を説明する。なお、ここで説明する凸部62には台形断面を持つ円錐台形状の球面形状が含まれる。
図3(a)は、従来技術の台形断面を持つ円錐台形状を持つ十字軸継手15のニードル軸受6を示しており、ベアリングカップ61の内底面中央部には、軸線方向断面において所定の曲率半径Rを有する曲面の凸部62を設けられている。
【0032】
凸部62の材質の硬さが、軸部51の軸部先端の平面51aの材質の硬さよりも柔らかい場合、凸部62と平面51aとが回転接触すると凸部62側が主に磨耗する。磨耗が進むと、図3(b)の図面左側上部に示す凸部62が軸線方向断面において所定の曲率半径Rであることから、軸部51の軸部先端の平面51aに当接すると初期は、点接触C1(62)であるが(図3(b1)参照)、回転接触すると凸部62の磨耗が進み接触面が増加(接触半径が増加、図3(b2)参照。)する結果、摩擦抵抗を増大させ、折り曲げトルクが上昇する。さらに凸部62の磨耗が進み接触面が増加(接触半径が増加、図3(b3)参照。)すればより折り曲げトルクが上昇する。
このように従来技術のニードル軸受は面圧が下がるものの、凸部62の半径の接触面増加に因るトルクアップの方が支配的で差し引きで折り曲げトルクが上昇する。
【0033】
これに対し、実施形態1のようにベアリングカップ61に円柱状凸部63を設け、スパイダー5の軸部51をベアリングカップ61よりも材質を硬くすると、ベアリングカップ61の円柱状の凸部63側が磨耗しても、上記説明のとおり接触面積は変わらないため同軸度の影響を受け難くバラ付きがないため折り曲げトルクは下がる。
したがって、従来技術にあった曲面Rの凸部62ではなく、実施形態1のように円柱状の凸部63を設けることで、磨耗による接触半径の増加を抑えることにより、回転トルクの増加を抑える効果を奏することができる。
【0034】
[円柱状凸部を設けた実施形態2]
次に、スパイダー5の軸部51側に円柱状の凸部53を設けた実施形態2について説明する。
図4(a)は、軸部51の平面51aに円柱状の凸部53を設けたニードル軸受6の軸部51の正面図と側面図の模式図である。図4(a)に示すように、凸部53は、径Dからなる円柱状に形成され、その平面51aから高さH1を有している。
図4(b)は、回転接触により円柱状の凸部53の先端が高さH2まで磨り減っていることを示している側面図である。図4(b)に示すように、このときの接触面積C7(53)は、接触当初の接触面積C6(53)と変わらず、ニードル軸受側の磨耗による面圧(締め代)減少により、フリクションが低減される効果がある。
【0035】
[グリース溜りを設けた実施形態1]
グリースはベアリングカップ61と軸部51間に充填されるが、さらに磨耗を軽減するためのグリース溜りが設けられる実施形態1として、一文字のすり割りS1または十文字のすり割りS2のグリース溜りを設けている。
本実施形態1では、円柱状の凸部53の先端に溝加工により一文字のすり割りS1若しくは十文字のすり割りS2を設けている。例えば、図5(a)には、軸部51の突起状の凸部54に一文字のすり割りS1による潤滑用のグリース溜まりを設けることを示している。また、図5(b)には、軸部51の突起状の凸部54に十文字のすり割りS2が形成されている。
【0036】
これにより、ベアリングカップ61と軸部51間に単にグリースが充填されるだけであったものが、すり割りS1,S2がグリース溜まりとしてグリースが摺動面に供給されて磨耗をさらに抑制できる。
なお、図に示していないが、一文字のすり割りS1若しくは十文字のすり割りS2をベアリングカップ61の内径凸先端に潤滑用のグリース溜まりを設けても本実施形態の範囲である。
【0037】
[グリース溜りの実施形態2]
グリース溜りの実施形態2として、凸部53を中空の円筒状にしている。
図6(a)に示すように、スパイダー5の軸部51の突起状の円筒部54を中央部が中空の径D1の凹部54aが形成された径Dからなる円筒形状としている。この円筒内部である凹部54aに、潤滑剤G(グリースや固体潤滑剤)を図6(a)に示すような初期状態において充填することで、円筒部54の磨耗が進行した際に、図6(b)に示すように、中央部分の潤滑剤Gが行き場を失い、その潤滑剤Gが流れ出る(図6(b)の矢印符号がその状態である。)。
【0038】
潤滑剤Gは、二硫化モリブデンを添加したグリースまたは固体潤滑剤(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))等が用いられる。
また、グリース溜り内に封入するグリースには、二硫化モリブデン以外にも例えば、イオウ系(S)極圧添加剤、イオウ-リン系(S-P)極圧添加剤、亜鉛-イオウ-リン系(Zn-S-P)極圧添加剤)を加えて、磨耗をさらに低減することもできる。
【0039】
これにより、ベアリングカップ61と軸部51との間に単にグリースが充填されるだけであったものが、スパイダー51の円筒部54の磨耗がベアリングカップ61との回転接触により進むと、円筒内部である凹部54aに充填されたグリースまたは固体潤滑剤が行き場をなくし外部流出することで潤滑が促進され磨耗を低減する効果が得られる。
【0040】
なお、図には示していないが、グリース溜りの他の実施形態として、ベアリングカップ61の内底面中央部に円筒状の凸部を設けても同様の作用効果が得られ本実施形態の範囲である。
【0041】
以上、説明したように、本発明による十字軸継手15は、スパイダー5の軸部またはベアリングカップの中央部の接触部を、凸(突起)部とすることで磨耗による接触半径の増加を抑えて回転トルクの増加を抑えることができる。さらに、本発明の十字軸継手15によれば、円柱状の凸(突起)部のすり割りを設けることによる、または円筒状の凸(突起)部にグリース溜まりを設けてグリースが摺動面に供給されて磨耗を抑制できる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、本実施形態では、シェル型のニードル軸受を使用しているが、ソリッド型ニードル軸受を使用してもよい。また、対向する二軸をシェル型ニードル軸受、これと略直交する二軸をソリッド型ニードル軸受としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト
12A 雌ステアリングシャフト
12B 雄ステアリングシャフト
13 ステアリングコラム
13A アウターコラム
13B インナーコラム
14 支持ブラケット
15 十字軸継手
16 中間シャフト
16A 雄中間シャフト
16B 雌中間シャフト
18 車体
20 アシスト装置
21 ギヤハウジング
23 出力軸
26 電動モータ
261 ケース
30 ステアリングギヤ
31 入力軸
32 タイロッド
4 ヨーク
41 軸受孔
5 スパイダー(十字軸)
51 軸部
52 シール
53 凸部(スパイダー側)
54 凸部(スパイダー側)
6 ニードル軸受
61 ベアリングカップ
62 凸部(ベアリングカップ側)
63 凸部(ベアリングカップ側)
70 ニードル
図1
図2
図3
図4
図5
図6