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  • 特許-溶鋼の脱酸方法 図1
  • 特許-溶鋼の脱酸方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】溶鋼の脱酸方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/06 20060101AFI20220621BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20220621BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20220621BHJP
   C21C 5/46 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C21C7/06
C21C7/04 B
C21C7/072 Z
C21C5/46 103E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018116765
(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公開番号】P2019218601
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】小原 丈司
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕介
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 利志男
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-221613(JP,A)
【文献】特開2002-266016(JP,A)
【文献】特開平07-207327(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102978505(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/06
C21C 7/04
C21C 7/072
C21C 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al-Siキルド鋼を製造する際の溶鋼の脱酸方法であって、
転炉内において、溶鋼の一次精錬を行った後、前記転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の20質量%以下のAlと、Al以外の脱酸合金からなる脱酸剤を投入して出鋼し、
二次精錬において、前記転炉から出鋼した溶鋼に、残りのAlを投入して脱酸を行うことを特徴とする、溶鋼の脱酸方法。
【請求項2】
転炉出鋼時の前記溶鋼の鋼中酸素濃度を150ppm~200ppmとすることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の脱酸方法。
【請求項3】
前記Al以外の脱酸合金は、Siを含む合金であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の溶鋼の脱酸方法。
【請求項4】
転炉出鋼時の前記溶鋼のスラグは、MnO+FeOが8質量%以上、且つ、CaO/SiOが0.5~2.0、CaO/Alが0.5~2.0であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶鋼の脱酸方法。
【請求項5】
転炉から出鋼する前記溶鋼に対して、二次精錬前にバブリングを行うことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶鋼の脱酸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キルド鋼製造時の脱酸方法に関し、殊に転炉の溶鋼鍋に付着物が堆積するのを抑制できる溶鋼の脱酸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Alキルド鋼やAl-Siキルド鋼等の製鋼工程では、転炉内の溶鋼にAlやSiを含む合金等からなる脱酸剤を加えて酸化物として分離し、脱酸を行っている。例えば特許文献1には、CaO系フラックス、CaO-Al系フラックス、またはそれにCaF、SiOを加えたフラックスと、Alによる脱酸剤とを混合して溶鋼表面に加える溶鋼の脱酸方法が開示されている。
【0003】
従来、一般的な脱酸工程では、転炉出鋼時に、先ずAl、次にSiの順で脱酸剤を投入し、転炉出鋼後の溶鋼に酸素を極力残さないような脱酸および鋼の成分調整を実施している。
【0004】
ところが、転炉でAlによる脱酸を行った場合、脱酸生成物としてAl系の酸化物が大量に発生し、溶鋼鍋に付着物として堆積する。このような付着物が鍋耐火物の表面に付着すると、空鍋重量が増加し、鍋に収容できる溶鋼量(ヒートサイズ)が減少してしまう。ヒートサイズが減少すると、転炉の処理能力が低下し、作業効率が低下する。
【0005】
特許文献2には、鍋等溶鋼容器の内部に付着する地金混合滓の融点を低下させて除去する方法およびその装置が開示されている。この除去方法は、CaO,Al,SiOを含有し、CaO/SiO比が0.8~20、CaO/Al比が1.5~4.0であるフラックスを付着物に溶射することにより付着物を低融点化し、その後、受鋼熱等の加熱により容器の付着物を除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-25731号公報
【文献】特開2002-307163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された付着物の除去はオフラインで行う作業であり、操業中の転炉の溶鋼鍋に対して行うことはできない。そのため、特許文献2の方法では放熱時間や熱ロスが発生し、溶鋼鍋の作業サイクルに影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、溶鋼鍋をオフラインに落とすことなく、溶鋼鍋の付着物の溶解および脱離を促進し、付着物の堆積を防いで空鍋重量の増加を抑制する脱酸方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明は、Al-Siキルド鋼を製造する際の溶鋼の脱酸方法であって、転炉内において、溶鋼の一次精錬を行った後、前記転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の20質量%以下のAlと、Al以外の脱酸合金からなる脱酸剤を投入して出鋼し、二次精錬において、前記転炉から出鋼した溶鋼に、残りのAlを投入して脱酸を行うことを特徴とする、溶鋼の脱酸方法を提供する。
【0010】
転炉出鋼時の前記溶鋼の鋼中酸素濃度を150ppm~200ppmとすることが好ましい。また、前記Al以外の脱酸合金は、Siを含む合金であってもよい。
【0011】
転炉出鋼時の前記溶鋼のスラグは、MnO+FeOが8質量%以上、且つ、CaO/SiOが0.5~2.0、CaO/Alが0.5~2.0であることが好ましい。
【0012】
転炉から出鋼する前記溶鋼に対して、二次精錬前にバブリングを行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、転炉内の生成物の軟化を促進し、生成物の溶鋼鍋からの脱離が促進され、溶鋼鍋の付着物の堆積を抑制することができる。したがって、空鍋重量の増加を抑え、溶鋼鍋の容量を安定して確保し、1チャージ辺りの生産量を一定レベルに維持することができる。また、オンラインで実施できるため、熱ロスや溶鋼鍋の作業サイクルへの影響がほとんど発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】空鍋重量の変化量とヒートサイズの変化量との関係を示すグラフである。
図2】本発明の実施例および比較例の、空鍋重量の変化量およびヒートサイズの変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
一般に、Alキルド鋼やAl-Siキルド鋼等の製鋼工程においては、転炉の溶鋼鍋に溶鋼を収容し、溶鋼中の炭素等を除く一次精錬が行われた後、溶鋼を転炉から出鋼する際にAlやSi等の脱酸剤を加えて脱酸し、さらに、出鋼された溶鋼に対して、不純物の除去や成分元素を添加する二次精錬が行われる。
【0017】
図1は、溶鋼鍋が空のときの空鍋の重量の変化量と、溶鋼鍋に収容できる溶鋼量(ヒートサイズ)の変化量との関係を示すグラフであり、空鍋の重量が増加するとヒートサイズが減少することを示している。なお、横軸は、溶鋼鍋の基準重量から増加した重量を示し、縦軸は、基準の溶鋼量からの重量の増減を示している。空鍋の重量増加の要因は、溶鋼鍋の耐火物表面の付着物であり、この付着物の組成を調査したところ、主にAlリッチのスラグであった。
【0018】
そこで、この付着物の溶解および脱離を促進するために、本実施形態では、脱酸剤の投入方法を調整し、転炉出鋼時の溶鋼の鋼中酸素が従来よりも高くなるようにした。
【0019】
従来、転炉出鋼時における溶鋼の脱酸は、転炉内にAl、Siの順に脱酸剤を投入し、転炉から出鋼後の鋼中酸素が100ppm以下になるまで調整していた。これに対し、本発明は、転炉出鋼時は、脱酸効果の高いAlの使用を、転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の20質量%以下に制限し、残りの脱酸剤を、Al以外の例えばSiを含む合金とした。これにより、転炉出鋼時の鋼中酸素を、鋼の品位を低下させない範囲で比較的高い濃度、例えば150ppm~200ppm程度とし、スラグ中のT.Fe(総Fe量)を高く維持し、溶鋼鍋の付着物中のFeO濃度を上げる。FeO濃度を上げることで、付着物の軟化を促進し、Alリッチのスラグの溶鋼鍋への付着を防ぐことができる。なお、転炉での脱酸にはAlを使用しなくてもよく、鋼種によるSi等との反応の程度に応じて、少量のAlを用いるようにすればよい。
【0020】
本発明は、Al-Siキルド鋼に適用される。Alキルド鋼の場合、Alの投入量が、例えば転炉出鋼時に0.6kg/t、二次精錬時に0.9kg/tと、転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の40%を転炉出鋼時に投入すると、付着物の軟化を促進しAlリッチのスラグの溶鋼鍋への付着を防ぐことができ、転炉出鋼時の投入量が40%を超えると、従来の問題であるスラグの溶鋼鍋への付着が発生することが確認された。Al-Siキルド鋼の場合、Alの投入量が、転炉出鋼時に0~0.2kg/t、二次精錬時に0.8kg/tと、転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の0~20%を転炉出鋼時に投入すると、同様にAlリッチのスラグの溶鋼鍋への付着を防ぐことが確認された。したがって、本発明では、上述の通り、転炉出鋼時のAlの投入量を、転炉内および二次精錬で用いられるAlの総投入量の20%以下とした。
【0021】
転炉出鋼時のスラグ成分の(MnO+FeO)は、8質量%以上とすることが好ましい。20質量%を超えると鋼中酸素が高くなり過ぎるため、上限は20質量%程度とすることが好ましい。さらに、スラグ中の(CaO/SiO)を0.8~1.3、(CaO/Al)を0.7~1.6の範囲とすることで、スラグを低融点化させ、付着物の軟化がさらに促進される。
【0022】
溶鋼を転炉から出鋼する際は、炉下および二次精錬前のバブリングを実施し、溶鋼鍋の付着物へのスラグの接触および鋼中酸素の高い溶鋼による軟化反応を促進することが好ましい。こうして、付着物およびAlが浸潤した部分の耐火物を軟化させることにより、さらに溶鋼鍋から脱離しやすくなり、空鍋重量の増加が抑制される。
【0023】
上述の通り、転炉からの出鋼時は、転炉に投入する脱酸剤を制限することで、鋼中酸素が例えば150ppm~200ppm程度残るように調整される。その後、二次精錬工程では、残りのAlを含む脱酸剤を加えて鋼中酸素を除去し、最終成分範囲となるように脱酸を行う。こうして精錬された鋼は、Siが0.05質量%以上であることが好ましく、所望される鋼中のSi含有量と脱酸に用いるSi量との合計量のSiが投入される。
【0024】
以上のように、本発明では、キルド鋼の製造に当たり、転炉内での脱酸時にAl量を制限して主にAl以外の脱酸合金で脱酸することで、出鋼直後の鋼中酸素を一定量以上確保し、鋼中のFeOおよびスラグ中のSiOによる付着物の軟化を促進することができる。すなわち、低融点スラグを作ることで付着部の残留を防止し、かつ液相を多く生成することで付着物間へ軟化スラグが浸入し、付着物自身の軟化および離脱を促進する。
【0025】
本発明は、脱酸剤を投入する順序の変更やAl量の調整のみで、溶鋼鍋をオフラインに落とすことなく、溶鋼鍋に付着物が堆積するのを防ぐことができる。したがって、熱ロス等を発生させずに、生産効率を向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例
【0027】
本発明の実施例として、転炉内ではAlを投入せずSiを含む合金の脱酸剤のみで脱酸を行い、転炉から出鋼後の二次精錬ではAlのみで脱酸を行った。比較例として、従来一般的に行われているAl、Siによる脱酸方法で転炉内および二次精錬での脱酸を行った。実施例および比較例のそれぞれの脱酸剤のAl、Siの投入量の割合は、従来(比較例)の転炉でのAl投入量を1として、表1に示す通りである。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例および比較例のそれぞれの場合の空鍋重量の変化量とヒートサイズの変化量を図2に示す。図中、棒グラフがヒートサイズの変化量を示し、線グラフが空鍋重量の変化量を示す。本発明の脱酸方法を実施することにより、空鍋重量が減少し、ヒートサイズが増加した。また、この実施例における転炉出鋼直後のスラグの各成分値の最大値および最小値を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
FeOの数値はT.Feから換算したものであり、(MnO+FeO)は8質量%以上であった。さらに、(CaO/SiO)が0.8~1.3、(CaO/Al)が0.7~1.6の範囲となり、図2の結果から、これらの範囲では、付着物が低融点化され、溶鋼鍋への付着が起こらないことがわかった。すなわち、本発明の脱酸方法によって、付着物が抑制されて空鍋重量が減少し、ヒートサイズの向上が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、Alキルド鋼やAl-Siキルド鋼等のキルド鋼製造時の脱酸方法に適用できる。
図1
図2