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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20220621BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20220621BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20220621BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20220621BHJP
   F16D 121/04 20120101ALN20220621BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20220621BHJP
   F16D 123/00 20120101ALN20220621BHJP
   F16D 125/06 20120101ALN20220621BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20220621BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D66/00 Z
F16D65/18
B60T17/22 C
F16D121:04
F16D121:24
F16D123:00
F16D125:06
F16D125:40
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018125337
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020001632
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武谷 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】中野 啓太
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
F16D 49/00-71/04
B60T 15/00-17/22
F16D 121/04
F16D 121/24
F16D 123/00
F16D 125/06
F16D 125/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と、
前記電動ブレーキ装置の駆動特性に関する検出値である駆動特性値に基いて、前記電動ブレーキ装置を制御する電動ブレーキ制御部と、を備え、
前記液圧ブレーキ制御部は、前記液圧ブレーキ装置を制御することによって所定液圧を発生させ、
前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動し、前記所定液圧に対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出し、そのときに、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動して推進軸を前記被制動部材側に移動させてピストンに当接させ、その後、前記液圧ブレーキ制御部による前記液圧ブレーキ装置の制御によって液圧がゼロになった後で、前記推進軸を前記被制動部材に対向する側に移動させる制御を実行したときの前記モータの電流値を前記駆動特性値として検出する、制動制御装置。
【請求項2】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と、
前記電動ブレーキ装置の駆動特性に関する検出値である駆動特性値に基いて、前記電動ブレーキ装置を制御する電動ブレーキ制御部と、を備え、
前記液圧ブレーキ制御部は、前記液圧ブレーキ装置を制御することによって所定液圧を発生させ、
前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動し、前記所定液圧に対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出し、そのときに、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動して推進軸を規定位置から前記被制動部材側に移動させてピストンに当接させたときの前記推進軸のストローク量を前記駆動特性値として検出する、制動制御装置。
【請求項3】
車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と、
前記電動ブレーキ装置の駆動特性に関する検出値である駆動特性値に基いて、前記電動ブレーキ装置を制御する電動ブレーキ制御部と、を備え、
前記液圧ブレーキ制御部は、前記液圧ブレーキ装置を制御することによって所定液圧を発生させ、
前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動し、前記所定液圧に対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出し、
前記液圧ブレーキ制御部は、前記所定液圧として、段階的な複数の液圧を発生させ、
前記電動ブレーキ制御部は、前記複数の液圧それぞれに対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出する、制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車等の各種の車両に電動駐車ブレーキ(以下、EPB(Electric Parking Brake)または電動ブレーキ装置という。)が多く採用されている。EPBを制御する制動制御装置は、例えば、モータによって車輪ブレーキ機構を駆動することで電動制動力を発生させる。
【0003】
また、EPBは、車両の停車時だけでなく、車両の走行時にも使用可能である。車両の走行時にEPBを使用する場面としては、例えば、緊急時、自動運転時、液圧ブレーキ故障時等が考えられる。そして、EPBを車両の走行時に使用する場合は、高い制御精度が必要となる。
【0004】
また、EPBでは、駆動特性に基いて制動制御を行う。駆動特性としては、例えば、モータ電流値と電動制動力の関係や、EPBにおける推進軸のストローク量に関連する物理量(例えばモータ回転数)と電動制動力の関係等が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-96793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の駆動特性はブレーキの構成部品の個体差や経年劣化や環境温度等によって異なるので、従来技術では電動制動力の制御精度が低くなってしまう場合があった。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、高い制御精度の電動制動力を実現する制動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、車輪と一体に回転する被制動部材に向けて、液圧によって制動部材を押圧して、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、前記被制動部材に向けて、モータを駆動することによって前記制動部材を押圧して、電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される制動制御装置であって、前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と、前記電動ブレーキ装置の駆動特性に関する検出値である駆動特性値に基いて、前記電動ブレーキ装置を制御する電動ブレーキ制御部と、を備える。前記液圧ブレーキ制御部は、前記液圧ブレーキ装置を制御することによって所定液圧を発生させ、前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動し、前記所定液圧に対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出する。
【0009】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動して推進軸を前記被制動部材側に移動させてピストンに当接させ、その後、前記液圧ブレーキ制御部による前記液圧ブレーキ装置の制御によって液圧がゼロになった後で、前記推進軸を前記被制動部材に対向する側に移動させる制御を実行したときの前記モータの電流値を前記駆動特性値として検出する。
【0010】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動ブレーキ制御部は、前記所定液圧が発生している状態で前記電動ブレーキ装置を駆動して推進軸を規定位置から前記被制動部材側に移動させてピストンに当接させたときの前記推進軸のストローク量を前記駆動特性値として検出する。
【0011】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記液圧ブレーキ制御部は、前記所定液圧として、段階的な複数の液圧を発生させ、前記電動ブレーキ制御部は、前記複数の液圧それぞれに対する前記電動ブレーキ装置の前記駆動特性値を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
図3図3は、第1実施形態において特性情報を補正する場合のW/C圧等の経時的変化の様子を示すグラフである。
図4図4は、第1実施形態における特性情報を示すグラフである。
図5図5は、第1実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態において特性情報を補正する場合のW/C圧等の経時的変化の様子を示すグラフである。
図7図7は、第2実施形態における特性情報を示すグラフである。
図8図8は、第2実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態(実施形態1,2)が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。図2は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態の車両用ブレーキ装置は、サービスブレーキ1(液圧ブレーキ装置)と、EPB2(電動ブレーキ装置)と、を備えている。
【0016】
サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに基いて、車輪と一体に回転する被制動部材(図2のブレーキディスク12)に向けて、液圧によって制動部材(図2のブレーキパッド11)を押圧して、サービスブレーキ力(液圧制動力)を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという。)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという。)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0017】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8(制動制御装置。液圧ブレーキ制御部)にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。
【0018】
例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基いて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できる。
【0019】
一方、EPB2は、モータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動制動力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB-ECU9(制動制御装置。電動ブレーキ制御部)を有して構成されている。具体的には、例えば、EPB2は、駐車時に車両が意図しない移動をしないように、被制動部材(図2のブレーキディスク12)に向けて、モータ10を駆動することによって制動部材(図2のブレーキパッド11)を押圧して、電動制動力を発生させる。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0020】
車輪ブレーキ機構は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、まず、前輪系の車輪ブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基いて電動制動力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0021】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0022】
具体的には、車輪ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させることにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力(出力)を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動制動力を発生させる。
【0023】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0024】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0025】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動制動力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動制動力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
【0026】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランス(図2のクリアランスC2)で保持されるようにできる。
【0027】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0028】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。
【0029】
また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。なお、図2のクリアランスC1は、推進軸18の先端とピストン19の間の距離を示す。EPBのリリース完了後、推進軸18は、ボディ14に対し位置固定される。
【0030】
このように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基いてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基いて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、電動制動力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
【0031】
なお、第1実施形態の車両用ブレーキ装置では、モータ10の電流を検出する電流センサ(不図示)による電流検出値を確認することにより、EPB2による電動制動力の発生状態を確認したり、その電流検出値を認識したりすることができるようになっている。
【0032】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0033】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0034】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0035】
車輪速センサ29は、各車輪の回転速度を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0036】
EPB-ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0037】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作SW(スイッチ)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値に基いてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基いてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
【0038】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車した際に、運転者が操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動制動力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に電動制動力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時に運転者によるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動制動力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動制動力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
【0039】
具体的には、ロック・リリース制御により、電動制動力を発生させたり解除したりする。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動制動力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動制動力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動制動力を解除する。
【0040】
また、車両の走行時であっても、例えば、緊急時、自動運転時、サービスブレーキ1の故障時等、EPB2を使用することが有効な場面もあるので、それらの場面ではEPB2を使用してもよい。そして、車両の走行時にEPB2を使用する場合は、EPB2の高い制御精度が必要となる。つまり、EPB2の制御精度が低いと、車両の走行中にEPBを使用した場合に、予定した停車位置と実際の停車位置の間に誤差が生じてしまう。
【0041】
また、EPB-ECU9は、EPB2の駆動特性に関する情報(検出値)である特性情報(駆動特性値)に基いて、EPB2を制御する。駆動特性は、例えば、モータ電流値と電動制動力の関係や、EPB2における推進軸18のストローク量に関連する物理量(例えばモータ回転数)と電動制動力の関係等である。また、特性情報は、例えば、マップ、テーブル、数式等の形式で記憶しておけばよい。
【0042】
また、EPB2では、モータ10から推進軸18までの間に複数枚のギアを配置することで、モータ10の回転力がギアを伝わるたびに回転速度が落ち、これにより出力トルクを確保している。そして、複数枚のギア等の部品の個体差や経年劣化や環境温度等によって摺動抵抗が異なる。摺動抵抗が異なるということは、駆動特性が異なるということであり、従来技術では電動制動力の制御精度が低くなってしまう場合がある。そこで、第1実施形態では、以下の手法により、高い制御精度の電動制動力を実現する。
【0043】
まず、ESC-ECU8は、サービスブレーキ1を制御することによって所定液圧を発生させる。また、EPB-ECU9は、所定液圧が発生している状態でEPB2を駆動し、所定液圧に対するEPB2の駆動特性値を検出する(特性情報を補正する)。
【0044】
より具体的には、EPB-ECU9は、所定液圧が発生している状態でEPB2を駆動して推進軸18をブレーキディスク12側に移動させてピストン19に当接させ、その後、ESC-ECU8によるサービスブレーキ1の制御によって液圧がゼロになった後で、推進軸18をブレーキディスク12と対向する側に移動させる制御を実行したときのモータ10の電流値を駆動特性値として検出する(特性情報を補正する)。
【0045】
また、ESC-ECU8が所定液圧として段階的な複数の液圧を発生させる場合、EPB-ECU9は、複数の液圧それぞれに対するEPB2の駆動特性値を検出する(特性情報を補正する)。
【0046】
以下、図3図5を参照して、特性情報の補正について詳細に説明する。図3は、第1実施形態において特性情報を補正する場合のW/C圧等の経時的変化の様子を示すグラフである。図3(a)のグラフにおいて、縦軸はW/C圧(MPa)を表し、横軸は時間(ms)を表す。また、図3(b)のグラフにおいて、縦軸はモータ10の電流検出値(A)(以下、単に「電流値」と称する場合がある。)を表し、横軸は時間(ms)を表す。また、図3(c)のグラフにおいて、縦軸は制動力(N(ニュートン))を表し、横軸は時間(ms)を表す。
【0047】
また、図4は、第1実施形態における特性情報を示すグラフである。図4のグラフにおいて、縦軸はモータ10の電流検出値(A)を表し、横軸はW/C圧(MPa)を表す。また、図5は、第1実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。以下の処理は、例えば、車両の停車時に、ユーザによる操作SW23の操作に応じて開始する。
【0048】
まず、ESC-ECU8は、サービスブレーキ1を制御することによって所定液圧を発生させる(図5のステップS1)。このとき、W/C圧(図3(a))は時刻t1で増え始め、時刻t2で所定液圧(P)に達する。また、それに応じて制動力(図3(c))は時刻t1から時刻t2まで増加する。
【0049】
次に、EPB-ECU9は、所定液圧が発生している状態でEPB2を駆動して推進軸18をブレーキディスク12側に移動させてピストン19に当接させる(図5のステップS2)。このとき、モータ10の駆動が開始された時刻t3で突入電流によって電流値(図3(b))が急増し、その後、電流値が安定した後、推進軸18がピストン19に当接したこと(つまり、図2のクリアランスC1がゼロになったこと)によって時刻t4から時刻t5まで電流値が増加する。
【0050】
次に、ESC-ECU8によるサービスブレーキ1の制御によって液圧をゼロまで減少させる(図5のステップS3)。このとき、W/C圧(図3(a))は時刻t6で減り始め、時刻t7でゼロになる。一方、推進軸18がピストン19に当接しているので、制動力(図3(c))は少ししか減少しない。
【0051】
次に、EPB-ECU9は、EPB2を駆動して推進軸18をブレーキディスク12と対向する側に移動させる制御を実行する(図5のステップS4)。このとき、モータ10の駆動が開始された時刻t8で突入電流によって電流値(図3(b))が急増し、その後、EPB-ECU9は、突入電流による影響が無くなった時刻t9におけるモータ10の電流検出値Iを取得する(図5のステップS5)。また、電流値(図3(b))と制動力(図3(c))は時刻t9から時刻t10まで減少する。
【0052】
次に、EPB-ECU9は、所定液圧(P)とステップS5で取得したモータ10の電流検出値Iに基いて、特性情報(図4)を補正する。
【0053】
このように、第1実施形態によれば、EPB-ECU9によって、ブレーキの構成部品の個体差や経年劣化や環境温度等を加味した現状の駆動特性に基いて特性情報を補正することで、高い制御精度の電動制動力を実現することができる。
【0054】
また、所定液圧(図3(a)のP)として段階的な複数の液圧を設定しておいて、EPB-ECU9によって、複数の液圧それぞれに対するEPB2の駆動特性値(電流値)に基いて特性情報を補正するようにすれば、さらに制御精度を向上させることができる。
【0055】
なお、一般に、EPB-ECU9とブレーキの構成部品は車両の組み立てを行う前は別々に扱われる。したがって、車両の組み立て完了までは、EPB-ECU9によるEPB2の制御に関する校正を実行できない。しかし、第1実施形態によれば、車両の組み立て完了後に、校正用の各種センサを別途使用することなく、上述のようにして特性情報を補正することで、高い制御精度の電動制動力を実現することができる。また、左右の車輪で駆動特性が異なる場合にも容易に対応できる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の事項(図1図2を参照して説明した事項等)については、説明を適宜省略する。
【0057】
第2実施形態では、EPB-ECU9は、所定液圧が発生している状態でEPB2を駆動して推進軸18を規定位置からブレーキディスク12側に移動させてピストン19に当接させたときの推進軸18のストローク量(ストローク量に対応するモータ回転数でもよい。)を駆動特性値として検出する(特性情報を補正する)。
【0058】
以下、図6図8を参照して、特性情報の補正について詳細に説明する。図6は、第2実施形態において特性情報を補正する場合のW/C圧等の経時的変化の様子を示すグラフである。図6(a)のグラフにおいて、縦軸はW/C圧(MPa)を表し、横軸は時間(ms)を表す。また、図6(b)のグラフにおいて、縦軸はモータ10の電流検出値(A)を表し、横軸は時間(ms)を表す。また、図6(c)のグラフにおいて、縦軸はピストン19のストローク量(mm)を表し、横軸は時間(ms)を表す。また、図6(d)のグラフにおいて、縦軸は推進軸18のストローク量(mm)を表し、横軸は時間(ms)を表す。
【0059】
また、図7は、第2実施形態における特性情報を示すグラフである。図7のグラフにおいて、縦軸は推進軸18のストローク量(mm)を表し、横軸はW/C圧(MPa)を表す。また、図8は、第2実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。以下の処理は、例えば、車両の停車時に、ユーザによる操作SW23の操作に応じて開始する。
【0060】
まず、ESC-ECU8は、サービスブレーキ1を制御することによって所定液圧を発生させる(図8のステップS11)。このとき、W/C圧(図6(a))は時刻t21で増え始め、時刻t22で所定液圧(P)に達する。また、それに応じてピストン19のストローク量(図6(c))は時刻t21から時刻t22まで増加する。
【0061】
次に、EPB-ECU9は、所定液圧が発生している状態でEPB2を駆動して推進軸18を規定位置からブレーキディスク12側に移動させてピストン19に当接させる(図8のステップS12)。このとき、モータ10の駆動が開始された時刻t23で突入電流によって電流値(図6(b))が急増し、その後、電流値が安定した後、推進軸18がピストン19に当接したこと(つまり、図2のクリアランスC1がゼロになったこと)によって時刻t24から時刻t25まで電流値が増加する。このとき、推進軸18のストローク量(図6(d))は時刻t23から時刻t24まで増加する。なお、最初に推進軸18が規定位置になかった場合は、推進軸18を規定位置まで移動させ、その後にブレーキディスク12側に移動させるようにすればよい。
【0062】
次に、EPB-ECU9は、モータ10の回転数に基いて、推進軸18のストローク量を算出する(図8のステップS13)。
【0063】
次に、EPB-ECU9は、所定液圧(P)とステップS13で算出した推進軸18のストローク量に基いて、特性情報(図7)を補正する。
【0064】
次に、ESC-ECU8によるサービスブレーキ1の制御によって液圧をゼロまで減少させる。このとき、W/C圧(図6(a))は時刻t26で減り始め、時刻t27でゼロになる。
【0065】
次に、EPB-ECU9は、EPB2を駆動して推進軸18をブレーキディスク12と対向する側に移動させる制御を実行する。このとき、モータ10の駆動が開始された時刻t28で突入電流によって電流値(図6(b))が急増し、その後、時刻t29で突入電流による影響が無くなる。また、ピストン19のストローク量(図6(c))と推進軸18のストローク量(図6(d))は、時刻t29から時刻t30まで減少する。
【0066】
このように、第2実施形態によれば、EPB-ECU9によって、ブレーキの構成部品の個体差や経年劣化や環境温度等を加味した現状の駆動特性に基いて特性情報を補正することで、高い制御精度の電動制動力を実現することができる。
【0067】
なお、所定液圧(図6(a)のP)として段階的な複数の液圧を設定しておいて、EPB-ECU9によって、複数の液圧それぞれに対するEPB2の駆動特性値(推進軸18のストローク量)に基いて特性情報を補正するようにすれば、さらに制御精度を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0069】
例えば、上述の実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPBの場合を例にとって説明したが、ドラムブレーキタイプのEPBにも本発明を適用することができる。
【0070】
また、第1実施形態における特性情報を表すグラフの形状は、図4に図示した直線状の形状に限定されず、他の形状であってもよい。また、第2実施形態における特性情報を表すグラフの形状は、図7に図示した曲線状の形状に限定されず、他の形状であってもよい。
【0071】
また、検出値に基いて特性情報を補正するとともに、記憶しているマップ、テーブル、数式等と検出値とを対比して、記憶値と検出値との間に所定以上の乖離がある場合に異常であると判定してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド(制動部材)、12…ブレーキディスク(被制動部材)、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8