(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20220621BHJP
H01M 50/358 20210101ALI20220621BHJP
H01M 50/35 20210101ALI20220621BHJP
H01M 50/114 20210101ALI20220621BHJP
H01M 50/392 20210101ALN20220621BHJP
H01M 50/342 20210101ALN20220621BHJP
【FI】
H01M10/12 Z
H01M50/358
H01M50/35 101
H01M50/114
H01M50/392
H01M50/342 101
(21)【出願番号】P 2018135578
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017144473
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】大木 信典
(72)【発明者】
【氏名】小島 優
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克実
(72)【発明者】
【氏名】藤森 智貴
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-43586(JP,A)
【文献】特開2010-267507(JP,A)
【文献】特開2005-276741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/04
H01M10/06-10/34
H01M50/60-50/77
H01M50/30-50/392
H01M50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
第1の方向に並ぶ複数の収容室が形成されるとともに前記複数の収容室のそれぞれに連通する複数の貫通孔が形成された筐体と、
前記複数の収容室内のそれぞれに配置された正極および負極と、
前記筐体に形成された前記複数の貫通孔のそれぞれに装着され、互いに異なる前記収容室に連通する連通孔が形成された複数の液口栓と、
前記筐体の表面上に配置された一体のシートと、を備え、
前記シートの前記筐体に対向する対向面は、
前記筐体に接合されていない一体の非接合領域であって、少なくとも、前記複数の液口栓の前記連通孔の全てに対向している前記非接合領域と、
前記筐体に接合されている一体の接合領域であって、少なくとも、前記筐体の前記第1の方向の一方側の第1の端から1つ目の前記連通孔より前記第1の方向の他方側において、前記非接合領域の周囲を全長にわたって囲んでいる前記接合領域と、を含んでおり、
前記非接合領域の一部分は、前記対向面のうちの前記接合領域とは異なる位置において前記シートの縁部まで延びている、鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記第1の方向に間隔をあけて配置された正極端子と負極端子とをさらに備え、
前記負極端子が前記第1の方向の前記一方側に配置され、
前記正極端子が前記第1の方向の前記他方側に配置されている、鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉛蓄電池であって、
前記非接合領域の前記一部分は、前記1つ目の前記連通孔から前記第1の方向に沿って前記第1の端側の前記シートの縁部まで延びている、鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記非接合領域は、前記複数の連通孔の並び方向に延びる第1の部分と、前記第1の部分から、前記並び方向に交差する方向に前記シートの縁部まで延びている第2の部分とを含む、鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記シートは、撥水層を有している、鉛蓄電池。
【請求項6】
請求項5に記載の鉛蓄電池であって、
前記シートは、前記非接合領域を含む領域であって前記複数の液口栓を封止する封止領域と、使用者に対して注意を喚起する文字および/または図形が印字された領域である表示領域とを含み、
前記撥水層は、前記封止領域に設けられている、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、例えば、自動車等の車両に搭載され、車両の動力源や車両に搭載された電装品への電力供給源として利用される。このような鉛蓄電池は、開口部を有し、内部に所定の方向に並ぶ複数のセル室が形成された電槽と、該電槽の開口部に接合された蓋と、各セル室内に配置された極板群とを備える。このような鉛蓄電池の中には、各セル室に電解液を補充するための複数の液口栓が設けられているものがある。各液口栓には、各セル室に連通し、鉛蓄電池の充電時に各セル室内の極板で発生したガス(酸素ガスや水素ガス)を鉛蓄電池の外部に排出する排気孔が形成されていることが一般的である。
【0003】
鉛蓄電池では、電解液中の水分が減少する現象(以下、「減液」という)が発生することがある。この減液の発生原因としては、例えば、次のことが考えられる。鉛蓄電池は、例えばエンジンルームなどの高温環境下で使用されると、電解液中の水分の一部が蒸発して発生した水蒸気が液口栓の排気孔を介してセル室の外部に放出されたり、電解液がミスト状になって液口栓の排気孔を介してセル室の外部に放出されたりする。これにより、各セル室において減液が発生する。減液が発生すると、電池容量の低下や極板群に接続された集電体の腐食等の問題が生じるおそれがある。
【0004】
そこで、従来から、減液抑制のために、複数の液口栓の排気孔を覆うように蓋上にシートが配置された鉛蓄電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来の鉛蓄電池では、シートにおける蓋との対向面は、複数の液口栓の排気孔の全てに対向するとともにシートにおける上記所定の方向の両端まで延びている一体の非接合領域と、非接合領域の周囲のうちのシートにおける両端を除く部分に位置して蓋に接合される接合領域とを含んでいる。すなわち、従来の鉛蓄電池では、各液口栓の排気孔からのガスを外部に放出するため、シートにおける両端は、蓋に接合されておらず、開放されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、複数の液口栓が設けられた鉛蓄電池では、複数のセル室のうち、減液量が最も多いセル室における電解液の液量によって鉛蓄電池全体の寿命が定まる。このため、各セル室内の電解液の有効利用の観点から、セル室間における減液量のバラツキを抑制することが好ましい。ところが、上述の従来の鉛蓄電池では、シートにおける両端が開放されており、電解液から発生した水蒸気が、ガスとともに、シートにおける両端のそれぞれから外部に放出される。このため、シートにおける両端のそれぞれの近傍に位置する2つのセル室において、減液量が特に多く、また、セル室間における減液量のバラツキを抑制できないという問題が生じるおそれがある。
【0007】
本明細書では、セル室間における液量のバラツキを抑制することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される鉛蓄電池は、鉛蓄電池であって、第1の方向に並ぶ複数の収容室が形成されるとともに前記複数の収容室のそれぞれに連通する複数の貫通孔が形成された筐体と、前記複数の収容室内のそれぞれに配置された正極および負極と、前記筐体に形成された前記複数の貫通孔のそれぞれに装着され、互いに異なる前記収容室に連通する連通孔が形成された複数の液口栓と、前記筐体の表面上に配置された一体のシートと、を備え、前記シートの前記筐体に対向する対向面は、前記筐体に接合されていない一体の非接合領域であって、少なくとも、前記複数の液口栓の前記連通孔の全てに対向している前記非接合領域と、前記筐体に接合されている一体の接合領域であって、少なくとも、前記筐体の前記第1の方向の一方側の第1の端から1つ目の前記連通孔より前記第1の方向の他方側において、前記非接合領域の周囲を全長にわたって囲んでいる前記接合領域と、を含んでおり、前記非接合領域の一部分は、前記対向面のうちの前記接合領域とは異なる位置において前記シートの縁部まで延びている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】鉛蓄電池100のXY平面構成を示す説明図である。
【
図3】
図2のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図4】サンプル1~3の性能評価の結果を示す説明図である。
【
図5】サンプル4,5の性能評価の結果を示す説明図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における鉛蓄電池500の平面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池は、鉛蓄電池であって、第1の方向に並ぶ複数の収容室が形成されるとともに前記複数の収容室のそれぞれに連通する複数の貫通孔が形成された筐体と、前記複数の収容室内のそれぞれに配置された正極および負極と、前記筐体に形成された前記複数の貫通孔のそれぞれに装着され、互いに異なる前記収容室に連通する連通孔が形成された複数の液口栓と、前記筐体の表面上に配置された一体のシートと、を備え、前記シートの前記筐体に対向する対向面は、前記筐体に接合されていない一体の非接合領域であって、少なくとも、前記複数の液口栓の前記連通孔の全てに対向している前記非接合領域と、前記筐体に接合されている一体の接合領域であって、少なくとも、前記筐体の前記第1の方向の一方側の第1の端から1つ目の前記連通孔より前記第1の方向の他方側において、前記非接合領域の周囲を全長にわたって囲んでいる前記接合領域と、を含んでおり、前記非接合領域の一部分は、前記対向面のうちの前記接合領域とは異なる位置において前記シートの縁部まで延びている。
【0012】
本鉛蓄電池では、シートの対向面は、非接合領域と接合領域とを含んでいる。非接合領域は、筐体に接合されていない一体の領域であって、少なくとも、複数の液口栓の連通孔の全てに対向している領域である。接合領域は、筐体に接合されている一体の領域であって、少なくとも、複数の収容室が並ぶ並び方向(第1の方向)の一方側の第1の端から1つ目の連通孔より並び方向の他方側において、非接合領域の周囲を全長にわたって囲んでいる領域である。また、非接合領域の一部分は、シートの対向面のうちの接合領域とは異なる位置においてシートの縁部まで延びている。すなわち、本鉛蓄電池では、シートにおける並び方向の一方側の縁部は開放されているが、他方側の縁部は閉塞されている。ここで、このよう構成では、シートにおける両縁部が開放された従来の鉛蓄電池に比べて、並び方向の一方側に位置する連通孔からシートの開放された縁部までの排気経路の長さと、並び方向の他方側に位置する連通孔からシートの開放された縁部までの排気経路の長さとの差が大きいため、セル室間における減液量のバラツキが大きくなるとも考えられる。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、セル室間における減液量のバラツキの要因は、各セル室の連通孔からシートの開放された縁部までの排出距離だけに限られないことを突き止めた。本発明者らは、シートにおける一方側の縁部が開放され、他方側が閉塞された構成では、シートにおける両縁部が開放された従来の鉛蓄電池に比べて、セル室間における液量のバラツキを抑制できることを初めて知見した。そこで、本鉛蓄電池によれば、上述したように、シートにおける一方側の縁部が開放され、他方側が閉塞された構成とすることにより、セル室間における液量のバラツキを抑制することができる。
【0013】
(2)上記鉛蓄電池において、前記第1の方向に間隔をあけて配置された正極端子と負極端子とをさらに備え、前記負極端子が前記第1の方向の前記一方側に配置され、前記正極端子が前記第1の方向の前記他方側に配置されている構成としてもよい。
【0014】
例えばエンジンなどの熱源の近くに配置されることが多々有り、その熱源からの熱によって減液が助長されることがある構成としてもよい。また、熱源の位置は、複数のセル室のそれぞれから等距離の位置ではなく、複数のセル室の上記並び方向の一方側に偏った位置である構成としてもよい。例えば車両のエンジンルーム内では、鉛蓄電池は、正極端子がエンジン側に位置し、負極端子が車両のボディフレーム側に位置するように配置される構成としてもよい。この場合、シートにおける両縁部が開放された従来の鉛蓄電池では、熱源に近い側のセル室において減液が顕著に進行し、セル室間における減液量のバラツキが大きくなるおそれがある構成としてもよい。これに対して、本鉛蓄電池では、シートにおける、熱源の近くに配置される正極端子側の縁部が閉塞されており、熱源から遠くに配置される負極端子側の縁部が開放されているため、熱源に近い側のセル室における減液を抑制することができる構成としてもよい。したがって、本鉛蓄電池によれば、従来の鉛蓄電池に比べて、セル室間における減液量のバラツキを抑制することができる構成としてもよい。
【0015】
(3)上記鉛蓄電池において、前記非接合領域の前記一部分は、前記1つ目の前記連通孔から前記第1の方向に沿って前記第1の端側の前記シートの縁部まで延びている構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、非接合領域の一部分は、1つ目の連通孔から第1の方向に沿って第1の端側のシートの縁部まで延びているため、生産性の高いシートを備えた鉛蓄電池を提供することができる構成としてもよい。すなわち、一般に、シートは、シートの基材を、例えばロール状に巻くなど、移動させながら、非接合領域と接合領域とが形成される構成としてもよい。ここで、仮に、非接合領域の一部分が、1つ目の連通孔から第1の方向に対して交差する方向に沿ってシートの縁部まで延びている構成では、非接合領域の一部が、基材の移動方向に直交する方向とは異なる方向に延びているため、移動中の基材に対して非接合領域と接合領域との形成方法が複雑になり、シートの生産性が低下する構成としてもよい。これに対して、本鉛蓄電池によれば、非接合領域全体が基材の移動方向に直交する方向に沿って延びているため、移動中の基材に対して、非接合領域と接合領域との形成方法が比較的に簡単であり、シートの生産性が向上する構成としてもよい。
【0016】
(4)上記鉛蓄電池において、前記非接合領域は、前記複数の連通孔の並び方向に延びる第1の部分と、前記第1の部分から、前記並び方向に交差する方向に前記シートの縁部まで延びている第2の部分とを含む構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、非接合領域は、複数の連通孔の並び方向に延びる第1の部分と、第1の部分から、並び方向に交差する方向にシートの縁部まで延びている第2の部分とを含む構成としてもよい。これにより、非接合領域が全長にわたって一直線状に延びている構成に比べて、水蒸気等が外部に排出され難くなる構成としてもよい。これにより、非接合領域において液口栓の連通孔から放出された水蒸気等が滞留し易くなるため、熱源に近い側の収容室における液減の発生をより効果的に抑制することができる構成としてもよい。
【0017】
(5)上記鉛蓄電池において、前記シートは、撥水層を有していてもよい。これにより、シート上に付着した水滴が、シート上に留まり難くなり、筐体とシートの非接合領域との間から筐体の内部に水滴が侵入することを防止することができる。
【0018】
(6)上記鉛蓄電池において、前記シートは、前記非接合領域を含む領域であって前記複数の液口栓を封止する封止領域と、使用者に対して注意を喚起する文字および/または図形が印字された領域である表示領域とを含み、前記撥水層は、前記封止領域に設けられていてもよい。これにより、シート上に付着した水滴が、非接合領域を含む封止領域に留まり難くなり、筐体とシートの非接合領域との間から筐体の内部に水滴が侵入することを防止することができる。
【0019】
A.第1実施形態:
A-1.全体構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
図1では、便宜上、鉛蓄電池100が備える後述の筐体101の一部分が破断され、内部構造が示されている。
図2は、鉛蓄電池100のXY平面構成を示す説明図であり、
図3は、
図2のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。また、以下、正極側の構成要素の符号の末尾に「P」を付し、負極側の構成要素の符号の末尾に「N」を付すこととし、両者の構造が略同一である場合、負極側の構成要素の説明を省略することがある。また、各図において、後述のシート400は、該シート400の対向面400A(
図3参照)が透過して示されている。
【0020】
図1から
図3に示すように、鉛蓄電池100は、筐体101と極板群104とを備える。筐体101は、電槽102と蓋106とを含む。電槽102は、上面が開放した略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。筐体101の内部の収容空間は、隔壁103によって所定方向(X軸方向)に並ぶ6つのセル室Sに仕切られており、各セル室Sには、電解液Uと極板群104とが収容されている。電解液Uは、例えば希硫酸である。以下、6つのセル室Sの並び方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。また、6つのセル室Sを区別して説明する場合には、後述の正極側の端子部150Pに近いセル室Sから順に、第1のセル室S1、第2のセル室S2、第3のセル室S3、第4のセル室S4、第5のセル室S5、第6のセル室S6と呼ぶものとする。セル室Sは、特許請求の範囲における収容室に相当し、セル並び方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0021】
(極板群104の構成)
極板群104は、複数の平板状の正極板110Pと、複数の平板状の負極板110Nと、正極板110Pと負極板110Nとの間に配置される複数のセパレータ120とを備える。各極板110P,110Nは、格子体に活物質が充填された導電性部材である。複数の正極板110Pは、正極側の集電部材112Pによって連結されており、複数の負極板110Nは、負極側の集電部材112Nによって連結されている。セル室S間では、互いに極性が異なる集電部材112P,112N同士が接続部材130を介して接続されることによって、複数の極板群104が電気的に直列に接続されている。
【0022】
(蓋106の構成)
蓋106は、下面が開放した略矩形の部材であり、電槽102の上端開口部に対応したサイズであり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋106が電槽102の上端開口部に嵌められて、蓋106と電槽102とが例えば熱溶着されることによって、各セル室Sが密閉状態になっている。
【0023】
蓋106には、正極側の端子部150Pと、負極側の端子部150Nとが設けられている。正極側の端子部150Pと負極側の端子部150Nとは、セル並び方向(X軸方向)の両端付近にそれぞれ配置されている。正極側の端子部150Pは、特許請求の範囲における正極端子に相当し、負極側の端子部150Nは、特許請求の範囲における負極端子に相当する。正極側の端子部150Pと負極側の端子部150Nとは、構成が略同一であるため、以下、正極側の端子部150Pを例にとって構成を説明する。
【0024】
図3に示すように、正極側の端子部150Pは、ブッシング152Pと、極柱154Pとを含む。ブッシング152Pは、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金等の金属により形成されている。ブッシング152Pの下側部分は、インサート成形により蓋106に埋設されており、ブッシング152Pの上側部分は蓋106の上面から上方に突出している。なお、ブッシング152Pの先端部分は、負荷等(図示せず)に接続される正極側の外部接続端子として機能する。極柱154Pは、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金等の金属により形成されている。極柱154Pは、ブッシング152Pの孔に挿入されている。極柱154Pの上端部は、ブッシング152Pの上端部と略同じ位置に配置されており、極柱154Pの下端部は、ブッシング152Pの下端部より下方に突出し、さらに、蓋106の下面より下方に突出している。極柱154Pの上端部は、ブッシング152Pに対して溶接により接合されており、極柱154Pの下端部は、上述の正極側の集電部材112Pに接合されている。
【0025】
また、
図3に示すように、蓋106における各セル室Sの直上には、蓋106を上下方向に貫通する装着孔106Aが形成されている。装着孔106Aには液口栓160が装着されている。なお、本実施形態の鉛蓄電池100は、液口栓160の上面が蓋106の上面と略面一になっている、いわゆるフラットタイプの鉛蓄電池である。装着孔106Aは、特許請求の範囲における貫通孔に相当する。以下、筐体101(蓋106)におけるセル並び方向(X軸方向)の両端のうち、正極側の端子部150P側の端を「筐体101の正極側の端101P」といい、負極側の端子部150N側の端を「筐体101の負極側の端101N」という。
【0026】
(液口栓160の構成)
図3に示すように、液口栓160は、液口栓本体200と防沫体300とを備える。液口栓本体200は、筒状部210と、頭部220とを含む。筒状部210は、上下方向(Z軸方向)に延びる円筒状である。筒状部210は、下端が開放している。頭部220は、円形平板状であり、筒状部210の上側を封止するように配置されている。頭部220には、該頭部220を上下に貫通し、筐体101の内部の収容空間と筐体101の外部とを連通させる連通孔222が形成されている(
図1,2も参照)。頭部220の外径は、筒状部210の外径より大きく、頭部220の周縁部が全周にわたって筒状部210より外周側に張り出している。筒状部210と頭部220とは、例えば樹脂により一体的に形成されている。
【0027】
防沫体300は、筒状部210内に収容されている。防沫体300は、複数の防沫板330を有する。防沫体300が複数の防沫板330を有することにより、筒状部210内におけるガスの排気経路が迷路状になっている。これにより、液口栓160では、電槽102内で発生したガスを比較的容易に通すが、電解液Uが頭部220の連通孔222から容易に漏れ出ることが抑制されている。なお、
図2に示すように、筒状部210内において、頭部220と防沫体300との間には、円盤状のフィルタ360が配置されている。このフィルタ360は、例えば、頭部220の連通孔222から排出された水素ガスに引火し、筐体101内の水素ガスに引火して爆発することを防止する防爆フィルタである。
【0028】
(シート400の構成)
図1から
図3に示すように、蓋106の上面には、シート400が接合されている。シート400は、セル並び方向(X軸方向)に延びている矩形のシート状であり、例えばポリプロピレン樹脂等の樹脂材料により形成されている。以下、シート400におけるセル並び方向の両端辺のうち、正極側の端子部150P側の端辺を「シート400の正極側端辺400P」といい、負極側の端子部150N側の端辺を「シート400の負極側端辺400N」という。負極側端辺400Nは、特許請求の範囲における第1の端に相当する。
【0029】
図2に示すように、シート400のうち、蓋106の上面に対向する対向面400Aには、非接合領域410と接合領域420とが含まれている。非接合領域410は、蓋106の上面に接合されていない一体の領域である。また、非接合領域410は、少なくとも、6つの液口栓160の連通孔222の全てに対向している連続した領域である。換言すれば、非接合領域410は、上下方向(Z方向)視で、6つの液口栓160の全てを覆う連続した領域である。具体的には、非接合領域410は、セル並び方向に直線状に延びており、非接合領域410における正極側の端子部150P側の端部(以下、単に「正極側の端部410P」という)は、シート400の正極側端辺400Pまで延びておらず、非接合領域410における負極側の端子部150N側の端部410N(以下、単に「負極側の端部410N」という)は、シート400の負極側端辺400Nまで延びている。
【0030】
接合領域420は、例えば接着剤を介して、蓋106の上面に接合されている一体の領域である。また、接合領域420は、非接合領域410の周囲のうち、負極側の端子部150N側の端部以外の部分を全長にわたって囲んでいる連続した領域である。本実施形態では、接合領域420は、シート400の対向面400Aのうち、非接合領域410を除く領域全体である。
【0031】
以上の構成により、鉛蓄電池100では、シート400における非接合領域410は、6つの連通孔222に連通し、非接合領域410の周縁のうち、負極側の端部410Nのみ開放された排気経路を形成している。シート400の負極側端辺400Nは、特許請求の範囲におけるシートの縁部に相当し、セル室S6の連通孔222は、特許請求の範囲における1つ目の連通孔に相当する。また、非接合領域410のうち、セル室S6の連通孔222から筐体101の負極側の端101Nまでの部分は、特許請求の範囲における非接合領域の一部分に相当する。
【0032】
なお、
図2に示すように、シート400には、各液口栓160との対向部分にスリット224(具体的には十字の切り込み)が形成されている。スリット224は、セル室S内の内圧が所定の圧力以下であるときには閉じており、セル室S内の内圧が所定の圧力を超えると、その内圧によってスリット224が押し上げられることによって開口する。これにより、筐体101内のガスが、連通孔222とスリット224とを介して放出されるため、セル室S内の内圧上昇を抑制することができる。
【0033】
A-2.性能評価:
シートの構成が互いに異なる鉛蓄電池のサンプル1~5について、性能評価を行った。なお、後述するように、サンプル3は、上述した本実施形態のシート400を備えた鉛蓄電池100と同一の構成であり、サンプル1,2,4,5は、サンプル1に対して、シートの構成のみ異なり、その他の構成は共通である。ただし、以下では、サンプル1,2,4,5のシートについても、便宜上、本実施形態のシート400と同一の符号を付すものとする。
【0034】
(評価方法)
本性能評価では、サンプル1~5のそれぞれについて、電解液Uの液面測定試験を行った。液面測定試験は、各サンプルを所定の環境下に配置して、6つのセル室Sのそれぞれにおける電解液Uの減液量を測定することにより、セル室S間における減液量のバラツキの程度を評価するための試験である。具体的には、液面測定試験では、各サンプルを、エンジンを動力源とする車両(図示せず)のエンジンルーム内において、正極側の端子部150P側がエンジン(図示せず)側に位置し、負極側の端子部150N側が車両のボディフレーム(図示せず)側に位置するように配置する。このように鉛蓄電池の正極側の端子部150Pを、アースされたボディフレームから遠ざけることにより、例えば車両の衝突時に、正極側の端子部150Pとボディフレームとが接触してスパークが発生して引火するといった事態になることを抑制することができる。また、エンジン駆動時にはエンジンが熱源になるため、エンジン側に位置する正極側の端子部150Pに近いセル室Sほど、高温環境下に晒されることになる。
【0035】
また、液面測定試験の前では、各セル室Sにおける電解液Uの液面高さは、初期高さ(例えば電槽102において充填可能な電解液Uの液面高さの上限値であるアッパーレベル)に一致している。そして、各サンプルを搭載した車両に、次の(a)~(d)を40回繰り返す走行パターンを実行させる。
(a)約60(km/h)の速度で2時間走行
(b)アイドリングストップ状態を2時間維持
(c)上記(a)(b)を3回繰り返す
(d)停止状態を12時間維持
その後、各セル室Sについて、例えば定規やハイトゲージ等を用いて、電解液Uの初期高さからの液面距離(=初期高さ-上記走行パターン実行後の電解液Uの液面高さ(mm))を測定する。
【0036】
(評価結果)
図4は、サンプル1~3の性能評価の結果を示す説明図であり、
図5は、サンプル4,5の性能評価の結果を示す説明図である。
図4および
図5の上段には、各サンプルにおける蓋106の上面構成が模式的に示されており、同一符号について適宜省略されている。各図中の「+」マークは正極側を意味し、「-」マークは負極側を意味する。
【0037】
図4に示すように、サンプル1は、シート400の正極側と負極側との両方が開放されている点で、上記鉛蓄電池100とは異なる。具体的には、サンプル1では、非接合領域410における正極側の端部410Pは、シート400の正極側端辺400Pまで延びており、非接合領域410における負極側の端部410Nは、シート400の負極側端辺400Nまで延びている。サンプル1の評価結果では、最も正極側に位置する第1のセル室S1の減液量(6.4(mm))が最も多く、第3のセル室S3および第4のセル室S4の減液量(4.0(mm))が最も少ない。このため、セル室S間の減液量の最大バラツキ量は2.4(mm)である。また、最も負極側に位置する第6のセル室S6の減液量は5.2(mm)であり、同じようにシート400の開放端の近傍に位置する第1のセル室S1の減液量より少ない。このことは、セル室Sの電解液Uの減液量は、セル室Sの連通孔222からシート400の開放端までの排出経路の長さだけでなく、想定以上に、セル室Sと熱源との距離が大きく影響することを意味する。
【0038】
サンプル2は、シート400の正極側が開放され、負極側が閉塞されている点で、上記鉛蓄電池100とは異なる。具体的には、サンプル2では、非接合領域410における正極側の端部410Pは、シート400の正極側端辺400Pまで延びており、非接合領域410における負極側の端部410Nは、シート400の負極側端辺400Nまで延びていない。サンプル2の評価結果では、最も正極側に位置する第1のセル室S1の減液量(5.4(mm))が最も多く、第3のセル室S3および第4のセル室S4の減液量(3.3(mm))が最も少ない。このため、セル室S間の減液量の最大バラツキ量は2.1(mm)である。また、最も負極側に位置する第6のセル室S6の減液量は4.2(mm)であり、同じようにシート400の開放端の近傍に位置する第1のセル室S1の減液量より少ない。このことは、サンプル1の評価結果と同様、セル室Sの電解液Uの減液量は、セル室Sの連通孔222からシート400の開放端までの排出経路の長さだけでなく、想定以上に、セル室Sと熱源との距離が大きく影響することを意味する。
【0039】
また、サンプル2とサンプル1との評価結果を比較すると、サンプル2は、サンプル1に比べて、セル室S間の減液量の最大バラツキ量が減少しており、また、シート400の開放端の近傍に位置するセル室Sの減液量も減少している。このことは、シート400のセル並び方向の一方側が開放され他方側が閉塞された構成では、シート400の両側が開放された構成に比べて、セル室S間の減液量のバラツキと、減液量が最も多いSの減液量との両方を抑制できることを意味する。サンプル2では、サンプル1に比べて、シート400における開放箇所が少ない分だけ、鉛蓄電池100全体として、連通孔222から放出された水蒸気や電解液のミスト(以下、「水蒸気等」という)がシート400の外部に放出される量が軽減される。このため、減液量が最も多いセル室における減液量が軽減されることによって、鉛蓄電池100の寿命の長期化を図ることができる。
【0040】
サンプル3は、上記実施形態の100と同一構成であり、シート400の負極側が開放され、正極側が閉塞されている。具体的には、サンプル3では、非接合領域410における正極側の端部410Pは、シート400の正極側端辺400Pまで延びておらず、非接合領域410における負極側の端部410Nは、シート400の負極側端辺400Nまで延びている。サンプル3の評価結果では、最も正極側に位置する第1のセル室S1の減液量(4.6(mm))が最も多く、第3のセル室S3および第4のセル室S4の減液量(3.2(mm))が最も少ない。このため、セル室S間の減液量の最大バラツキ量は1.4(mm)である。また、最も負極側に位置する第6のセル室S6の減液量は4.6(mm)であり、同じようにシート400の開放端の近傍に位置する第1のセル室S1の減液量と同じであった。
【0041】
サンプル3とサンプル2との評価結果を比較すると、サンプル3は、サンプル2に比べて、セル室S間の減液量の最大バラツキ量が減少しており、また、シート400の開放端の近傍に位置するセル室Sの減液量も減少しており、さらに、シート400の両端部側のそれぞれに位置する2つのセル室Sにおける電解液Uの減液量の差も減少している。このことは、シート400の両端部のうち、熱源に近い側の端部を閉塞し、熱源から遠い側の端部を開放することにより、非接合領域410の両端部側のそれぞれに位置する2つのセル室S間における減液量の差を抑制できることを意味する。また、サンプル3では、熱源に最も近いセル室S6の連通孔222からシート400の開放端までの排気経路は、他のセル室S1~S5の各連通孔222からシート400の開放端までの排気経路を経由しており、該排出経路にはセル室S1~S5の各連通孔222から放出された水蒸気等が存在している。このため、セル室S1~S5の各連通孔222からの水蒸気等の圧力によって、セル室S6の連通孔222から水蒸気等が排出されにくくなる。このため、熱源に最も近いセル室S6の減液を、より効果的に抑制することができる。
【0042】
図5に示すように、サンプル4は、第6のセル室S6の連通孔222がシート400の開放端に最も近い点で、上記鉛蓄電池100と共通するが、第6のセル室S6の連通孔222からシート400の開放端への開放方向が、セル並び方向(X軸方向)と異なる点で、上記鉛蓄電池100とは異なる。具体的には、サンプル4では、非接合領域410は、6つの連通孔222を覆うとともにセル並び方向に直線状に延びる第1の部分411と、第6のセル室S6の連通孔222から、第1の部分411に直交する方向にシート400の縁部まで延びている第2の部分412とを含む。サンプル4の評価結果では、最も正極側に位置する第1のセル室S1の減液量(4.4(mm))が最も多く、第3のセル室S3および第4のセル室S4の減液量(3.0(mm))が最も少ない。このため、セル室S間の減液量の最大バラツキ量は1.4(mm)である。また、最も負極側に位置する第6のセル室S6の減液量は4.4(mm)であり、同じようにシート400の開放端の近傍に位置する第1のセル室S1の減液量と同じであった。
【0043】
サンプル4とサンプル3との評価結果を比較すると、サンプル4は、サンプル3に比べて、さらに、セル室S間の減液量の最大バラツキ量が減少しており、また、シート400の開放端の近傍に位置するセル室Sの減液量も減少している。このことは、非接合領域410における負極側の端部410Nの開放方向をセル並び方向と異ならせることにより、セル室S間の減液量のバラツキと減液量が最も多いSの減液量との両方を、より効果的に抑制できることを意味する。サンプル4では、排出経路が折れ線状であるため、排出経路が直線状であるサンプル3に比べて、各連通孔222からの水蒸気等がシート400の開放端から外部に放出されにくいからであると考えられる。
【0044】
サンプル5は、第6のセル室S6の連通孔222からシート400の開放端までの排出経路の形状が上記鉛蓄電池100とは異なる。具体的には、サンプル5では、非接合領域410は、上述した第1の部分411と、第6のセル室S6の連通孔222から、折り返すようにしてシート400の正極側端辺400Pまで第3の部分413とを含む。サンプル5の評価結果では、最も正極側に位置する第1のセル室S1の減液量(4.1(mm))が最も多く、第3のセル室S3および第4のセル室S4の減液量(2.9(mm))が最も少ない。このため、セル室S間の減液量の最大バラツキ量は1.2(mm)である。また、最も負極側に位置する第6のセル室S6の減液量は4.1(mm)であり、同じようにシート400の開放端の近傍に位置する第1のセル室S1の減液量と同じであった。
【0045】
サンプル5とサンプル4との評価結果を比較すると、サンプル5は、サンプル4に比べて、さらに、セル室S間の減液量の最大バラツキ量が減少しており、また、シート400の開放端の近傍に位置するセル室Sの減液量も減少している。サンプル5では、サンプル4に比べて、第6のセル室S6の連通孔222からシート400の開放端までの排出経路が長い分だけ、さらに、各連通孔222からの水蒸気等がシート400の開放端から外部に排出されにくいからであると考えられる。
【0046】
なお、
図4および
図5の評価結果は、自動車用バッテリの一般的なサイズ(セル並び方向の幅が100(cm)~200(cm))の鉛蓄電池では共通であった。したがって、このようなサイズの鉛蓄電池に対して本発明を適用することが特に有効である。
【0047】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0048】
上記実施形態において、シート400の長手方向の端の位置は、筐体101(蓋106)の端の位置に一致していなくてもよい。例えば、シート400の負極側端辺400Nは、筐体101の負極側の端101Nよりも蓋106の中央側(X軸負方向側)に位置しているとしてもよい。上記実施形態において、シート400の接合領域420に微小な孔が形成されているとしてもよい。また、上記実施形態において、スリット224が形成されていないとしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、接合領域420は、シート400の対向面400Aのうち、非接合領域410を除く領域全体であるとしたが、これに限らず、例えば、シート400の対向面400Aは、接合領域420の外周側に配置され、かつ、非接合領域410とは別の非接合領域を含むとしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、鉛蓄電池100は、熱源としてエンジンの近くに配置されるとしたが、これに限らず、例えばヒータなど、他の熱源の近くに配置されるとしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、鉛蓄電池100は、フラットタイプの鉛蓄電池であるとしたが、これに限らず、例えば、液口栓160が筐体101の上面から上方に突出する摘まみ部を含む、いわゆる摘まみタイプの鉛蓄電池であるとしてもよい。また、上記実施形態において、筐体101内のセル室Sの数は、6つに限らず、複数または3つ以上であればよい。また、本実施形態において、電槽102と蓋106とが一体形成されているとしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態において、筒状部210は、円筒状に限らず、例えば、角筒状などでもよい。
【0053】
C.第2実施形態:
本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、第1実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0054】
図6は、本実施形態に係る鉛蓄電池500のXY平面構成を示す説明図である。
図6に示すように、鉛蓄電池500の蓋106の上面には、シート450が接合されている。シート450は、非接合領域410と接合領域420とを含み、液口栓160を封止する封止領域430と、表示領域450とを備えている。封止領域430と表示領域440とは、一体に設けられている。また、封止領域430と表示領域440との間には、例えばミシン目等が設けられ、作業者が、シート450のうち封止領域430のみを蓋106から剥がすことを可能としている。
【0055】
シート450には、封止領域430に撥水処理が施されている。換言すれば、封止領域430には、表面に撥水材料を含む撥水層(図示せず)が設けられている。撥水材料は、特に限られるものではなく、公知の材料を用いることができるが、例えば、シリコーン系の撥水剤を用いてもよい。また、撥水層を設ける方法としては、基材の表面に撥水材料が塗布されたシート450を使用してもよく、また、基材が撥水材料であるシート450を用いてもよい。
【0056】
表示領域440は、鉛蓄電池500の使用者に対して注意を喚起する文字および/または図形が印字された領域(コーションラベル)である。なお、表示領域440には、撥水層は設けられていない。
【0057】
本実施形態に係る鉛蓄電池500は、シート450の封止領域430に撥水層を備えている。ここで、鉛蓄電池500の使用時においては、雨水等の水滴がシート450に掛かることがある。シート450上に付着した水滴は、鉛蓄電池500のセル室S内の温度が低下し、セル室S内が負圧となった場合に、非接合領域410と蓋106との間へと吸い込まれ、筐体101の内部に水滴が侵入する可能性がある。水滴が筐体101の内部に侵入すると電解液が薄まる形で電解液量が増え、液漏れを起こし、鉛蓄電池500の周囲の車載部品を腐食させるという問題がある。
【0058】
一方、本実施形態に掛かる鉛蓄電池500においては、シート450の封止領域430に撥水層を設けることで、非接合領域410を備える封止領域430に水滴が留まり難くなる。その結果、非接合領域410と蓋106との間から筐体101内に水滴が入難くなる。
【0059】
また、シート450の全面にではなく、封止領域430にのみ撥水層を設けることで、シート450上に付着した水滴が、撥水層が設けられていない表示領域440へと移動しやすくなり、その結果、非接合領域410と蓋106との間から筐体101内に水滴が入りにくくなる。
【0060】
さらに、蓋106の上面106Uと、封止領域430と、表示領域440との撥水性を比べると、封止領域430の撥水性が一番高く、次に、表示領域440の撥水性が高く、蓋106の上面106Uの撥水性が一番低くなっている。撥水性がこのような順となっていることにより、蓋106の上面106Uに付着した水滴がシート450へ移動し難く、また、シート450上に付着した水滴が、蓋106の上面106Uへ移動し易い。これにより、非接合領域410と蓋106との間から筐体101内に水滴が入りにくくなる。なお、本明細書において、「撥水性が高い」とは、水滴に対する接触角が大きいことを意味する。
【0061】
なお、本実施形態においては、シート450が、封止領域430と表示領域440とを備えている例を示したが、これに限られるものではない。シート450は、撥水層が設けられた封止領域430のみを設けていてもよく、封止領域430と表示領域440との両方に撥水層が設けられていてもよい。また、封止領域430と表示領域440とが別体で設けられていてもよい。
【0062】
さらに、上述した実施形態において、非接合領域410の負極側の端部410Nの開放方向が、セルの並び方向と異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
100、500:鉛蓄電池 101:筐体 101N:筐体101の負極側の端 101P:筐体101の正極側の端 102:電槽 103:隔壁 104:極板群 106:蓋 106A:装着孔 106U:上面 110N:負極板 110P:正極板 112P,112N:集電部材 120:セパレータ 130:接続部材 150N:負極側の端子部 150P:正極側の端子部 152P:ブッシング 154P:極柱 160:液口栓 200:液口栓本体 210:筒状部 220:頭部 222:連通孔 224:スリット 300:防沫体 330:防沫板 360:フィルタ 400、450:シート 400A:対向面 400N:負極側端辺 400P:正極側端辺 410:非接合領域 410N:負極側の端部 410P:正極側の端部 411:第1の部分 412:第2の部分 413:第3の部分 414:第4の部分 420:接合領域 430:封止領域 440:表示領域 S(S1~S6):セル室 U:電解液