(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】タイヤの回転速度補正装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/192 20120101AFI20220621BHJP
B60C 23/06 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B60W30/192
B60C23/06 A
(21)【出願番号】P 2018136181
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠輔
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-137512(JP,A)
【文献】特開2008-249523(JP,A)
【文献】特開2019-018763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/192
B60C 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正装置であって、
前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出する比較値算出部と、
前記車両に加わる横方向加速度を取得する横方向加速度取得部と、
ホイールトルクを取得するトルク取得部と、
前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す
近似的な線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、
近似的な線形モデルを特定する線形パラメータを算出する線形関係特定部と、
前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出する回転速度補正部と、
を備え、
前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤであ
り、
前記近似的な線形モデルは、以下の式(1)または式(2)で表される、
補正装置。
H=(A×α+B)×WT+C (1)
H=(A×α+B)×WT+C+D×α (2)
ここで、Hは比較値、WTはホイールトルク、αは横方向加速度、A,B,C,Dは線形パラメータ
【請求項2】
前記比較値算出部は、前記比較値として、前記車両に装着された2つの前輪タイヤ及び2つの後輪タイヤのうち、一方の前輪タイヤの回転速度と一方の後輪タイヤの回転速度とを比較する第1比較値を算出するとともに、他方の前輪タイヤの回転速度と他方の後輪タイヤの回転速度とを比較する第2比較値を算出する、
請求項1に記載の補正装置。
【請求項3】
前記第2タイヤの回転速度及び前記回転速度補正部により算出された前記第1タイヤの回転速度に基づいて、前記車両に装着された4輪のタイヤのうち、任意の2輪の回転速度と、残りの2輪の回転速度とを比較する比較値である減圧指標値を算出し、前記減圧指標値と所定の閾値とを比較することにより、少なくとも1つの前記タイヤの減圧を検出する、減圧指標値算出部
をさらに備える、請求項1又は2に記載の補正装置。
【請求項4】
前記タイヤの減圧状態が検出された場合に、減圧警報を出力する警報出力部
をさらに備える、
請求項3に記載の補正装置。
【請求項5】
前記比較値は、前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度との比である、
請求項1~4のいずれかに記載の補正装置。
【請求項6】
前記第1タイヤは、駆動輪タイヤであり、前記第2タイヤは、従動輪タイヤである、
請求項1~5のいずれかに記載の補正装置。
【請求項7】
車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正方法であって、
前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得することと、
前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出することと、
前記車両に加わる横方向加速度を取得することと、
ホイールトルクを取得することと、
前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す
近似的な線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、
近似的な線形モデルを特定する線形パラメータを算出することと、
前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出することと、
を含み、
前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤであ
り、
前記近似的な線形モデルは、以下の式(1)または式(2)で表される、
補正方法。
H=(A×α+B)×WT+C (1)
H=(A×α+B)×WT+C+D×α (2)
ここで、Hは比較値、WTはホイールトルク、αは横方向加速度、A,B,C,Dは線形パラメータ
【請求項8】
車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正プログラムであって、
前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得することと、
前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出することと、
前記車両に加わる横方向加速度を取得することと、
ホイールトルクを取得することと、
前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す
近似的な線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、
近似的な線形モデルを特定する線形パラメータを算出することと、
前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出することと、
をコンピュータに実行させ、
前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤであ
り、
前記近似的な線形モデルは、以下の式(1)または式(2)で表される、
補正プログラム。
H=(A×α+B)×WT+C (1)
H=(A×α+B)×WT+C+D×α (2)
ここで、Hは比較値、WTはホイールトルク、αは横方向加速度、A,B,C,Dは線形パラメータ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着された1つのタイヤ又は複数のタイヤの回転速度を補正する補正装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、乗り心地や燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。従来より、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
タイヤの減圧を検出する方式には、タイヤに圧力センサを取り付ける等して、タイヤの空気圧を直接的に計測する方式の他、他の指標値を用いてタイヤの減圧を間接的に評価する方式がある。このような方式では動荷重半径(Dynamic Loaded Radius;DLR)方式等が知られている。DLR方式は、減圧タイヤは走行時につぶれることで動荷重半径が小さくなり、より高速に回転するようになるという現象を利用するものであり、タイヤの回転速度からタイヤの減圧を推定する(特許文献1等)。
【0004】
特許文献1は、DLR方式の検出装置を開示しており、DLR方式において減圧を評価するための減圧指標値として、DEL1~DEL3と呼ばれる3つの指標値について言及している。特許文献1では、DEL1~DEL3は、以下のように定義されている。ただし、V1~V4は、それぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪タイヤの車輪速である。
DEL1=[(V1+V4)/2-(V2+V3)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL2=[(V1+V2)/2-(V3+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL3=[(V1+V3)/2-(V2+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
【0005】
タイヤが減圧すると、回転速度が増加するため、DEL1~DEL3のような減圧指標値も変化する。従って、検出目標となる減圧量だけ減圧したときの減圧指標値を閾値として設定しておくことで、減圧の検出が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記に挙げた減圧指標値を決定するタイヤの回転速度は、タイヤの減圧のみならず、タイヤのスリップの影響を受ける。スリップは、ホイールトルクが大きいほど増加する。つまり、タイヤの回転速度は、減圧の影響を受けるだけでなく、ホイールトルクに応じて変化するスリップの影響によってもばらつく。よって、ホイールトルクといった走行条件によっては、タイヤの回転速度から算出される減圧指標値に基づく、減圧の検出精度が低下することがある。そのため、タイヤの回転速度からスリップの影響をキャンセルすることが望まれる。なお、タイヤの回転速度からスリップの影響をキャンセルすることは、減圧指標値に基づいてタイヤの減圧を検出する場面だけではなく、ブレーキの制御を行う場面等、タイヤの回転速度に基づく各種制御が行われる場面においても望まれ得る。
【0008】
本発明は、ホイールトルクに応じて変化するタイヤのスリップの影響をキャンセルして、タイヤの回転速度を補正する補正装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係る補正装置は、車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正装置であって、回転速度取得部と、比較値算出部と、横方向加速度取得部と、トルク取得部と、線形関係特定部と、回転速度補正部とを備える。前記回転速度取得部は、前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得する。前記比較値算出部は、前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出する。前記横方向加速度取得部は、前記車両に加わる横方向加速度を取得する。前記トルク取得部は、ホイールトルクを取得する。前記線形関係特定部は、前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、線形モデルを特定する線形パラメータを算出する。前記回転速度補正部は、前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出する。前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤである。
【0010】
本発明の第2観点に係る補正装置は、第1観点に係る補正装置であって、前記比較値算出部は、前記比較値として、前記車両に装着された2つの前輪タイヤ及び2つの後輪タイヤのうち、一方の前輪タイヤの回転速度と一方の後輪タイヤの回転速度とを比較する第1比較値を算出するとともに、他方の前輪タイヤの回転速度と他方の後輪タイヤの回転速度とを比較する第2比較値を算出する。
【0011】
本発明の第3観点に係る補正装置は、第1観点又は第2観点に係る補正装置であって、減圧指標値算出部をさらに備える。前記減圧指標値算出部は、前記第2タイヤの回転速度及び前記回転速度補正部により算出された前記第1タイヤの回転速度に基づいて、前記車両に装着された4輪のタイヤのうち、任意の2輪の回転速度と、残りの2輪の回転速度とを比較する比較値である減圧指標値を算出し、前記減圧指標値と所定の閾値とを比較することにより、少なくとも1つの前記タイヤの減圧を検出する。
【0012】
本発明の第4観点に係る補正装置は、第3観点に係る補正装置であって、前記タイヤの減圧状態が検出された場合に、減圧警報を出力する警報出力部をさらに備える。
【0013】
本発明の第5観点に係る補正装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る補正装置であって、前記比較値は、前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度との比である。
【0014】
本発明の第6観点に係る補正装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る補正装置であって、前記第1タイヤは、駆動輪タイヤであり、前記第2タイヤは、従動輪タイヤである。
【0015】
本発明の第7観点に係る補正方法は、車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正方法であって、以下のことを含む。
(1)前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得すること。
(2)前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出すること。
(3)前記車両に加わる横方向加速度を取得すること。
(4)ホイールトルクを取得すること。
(5)前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、線形モデルを特定する線形パラメータを算出すること。
(6)前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出すること。
なお、前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤである。
【0016】
本発明の第8観点に係る補正プログラムは、車両に装着された第1タイヤの回転速度を補正する補正プログラムであって、以下のことをコンピュータに実行させる。
(1)前記第1タイヤ及び前記車両に装着された第2タイヤの回転速度を取得すること。
(2)前記第1タイヤの回転速度と前記第2タイヤの回転速度とを比較する比較値を算出すること。
(3)前記車両に加わる横方向加速度を取得すること。
(4)ホイールトルクを取得すること。
(5)前記比較値、前記横方向加速度及び前記ホイールトルクに基づいて、前記ホイールトルクと前記比較値との関係を表す線形モデルであって、前記ホイールトルクに対する前記比較値の傾きが前記横方向加速度に依存する、線形モデルを特定する線形パラメータを算出すること。
(6)前記第2タイヤの回転速度及び前記線形パラメータに基づいて、前記ホイールトルクが前記比較値に与えるスリップの影響がキャンセルされた前記第1タイヤの回転速度を算出すること。
なお、前記第1タイヤ及び前記第2タイヤの一方は前輪タイヤであり、他方は後輪タイヤであり、前記第1タイヤは、前記第2タイヤよりも大きな駆動力が加えられるタイヤである。
【発明の効果】
【0017】
ホイールトルクが大きいほどタイヤのスリップは増加するが、スリップのし易さは、通常、前輪タイヤと後輪タイヤとで異なる。より具体的には、前輪駆動車又は後輪駆動車の場合、駆動輪タイヤにはホイールトルクによりスリップが発生する。その結果、ホイールトルクの増加に伴って、前輪タイヤの回転速度と後輪タイヤの回転速度とのバランスが徐々に変化するため、両者の比較値とホイールトルクとの間には線形関係が成立し得る。四輪駆動車の場合には、より大きな駆動力が与えられるタイヤにホイールトルクによりスリップが発生し、前後輪のトルク配分が一定である場合、上記と同様に線形関係が成立し得る。さらに、スリップのし易さは、車両に加わる横方向加速度が異なる直進時と旋回時とでは変化する。言い換えると、ホイールトルクが比較値に与えるスリップの影響は、横方向加速度が大きいほど大きくなる。このことは、比較値とホイールトルクとの関係を表す線形モデルにおいて、ホイールトルクに対する比較値の傾きを、横方向加速度に依存するものと表現することでモデル化される。本発明によれば、このような線形モデルが特定され、これに基づいてタイヤの回転速度が補正される。よって、タイヤの回転速度から、ホイールトルクに応じて変化するタイヤのスリップの影響をキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る補正装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図3】回転速度補正処理の流れを示すフローチャート。
【
図4A】直進時のホイールトルクと比較値をプロットしたグラフ。
【
図4B】直進時のホイールトルクと比較値をプロットしたグラフ。
【
図5A】横方向加速度による荷重移動を説明する図。
【
図5B】横方向加速度による荷重移動を説明する図。
【
図6A】旋回時のホイールトルクと比較値をプロットしたグラフ。
【
図6B】旋回時のホイールトルクと比較値をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る補正装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0020】
<1.補正装置の構成>
図1は、本実施形態に係る補正装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。車輪FL,FR,RL,RRには、それぞれ、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRが装着されている。本実施形態に係る車両1は、フロントエンジン・フロントドライブ車(FF車)であり、前輪タイヤであるタイヤT
FL,T
FRが駆動輪タイヤであり、後輪タイヤであるタイヤT
RL,T
RRが従動輪タイヤである。よって、タイヤT
FL,T
FRには、タイヤT
RL,T
RRよりも大きな駆動力が加えられる。補正装置2は、ホイールトルクに応じて変化する駆動輪タイヤT
FL,T
FRのスリップの影響をキャンセルして、測定された駆動輪タイヤT
FL,T
FRの回転速度を補正する機能を備えている。また、補正装置2は、こうして補正された駆動輪タイヤT
FL,T
FRの回転速度と、測定された従動輪タイヤT
RL,T
RRの回転速度とに基づいて、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧を検出する機能を備えている。補正装置2は、動荷重半径(DLR)方式に基づく減圧指標値を算出し、これに基づいてタイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧が検出されると、車両1に搭載されている表示器3を介してその旨の警報を行う。駆動輪タイヤT
FL,T
FRの回転速度を補正する処理(以下、回転速度補正処理ということがある)を含む、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧を検出する処理(以下、減圧検出処理ということがある)の流れの詳細については、後述する。
【0021】
本実施形態では、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧状態は、車輪速(回転速度)に基づいて検出される。タイヤTFL,TFR,TRL,TRR(より正確には、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRが装着されている車輪)には、各々、車輪速センサ6が取り付けられており、車輪速センサ6は、自身の取り付けられた車輪の車輪速情報(すなわち、タイヤの回転速度情報)を検出する。車輪速センサ6は、補正装置2に通信線5を介して接続されており、各車輪速センサ6で検出された車輪速情報は、リアルタイムに補正装置2に送信される。
【0022】
車輪速センサ6としては、走行中の車輪FL,FR,RL,RRの車輪速を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、車輪速の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0023】
車両1の一方の駆動輪FLである左前輪には、ホイールトルクセンサ(以下、WTセンサ)7が取り付けられている。WTセンサ7は、車両1のホイールトルクWTを検出する。WTセンサ7は、補正装置2に通信線5を介して接続されており、WTセンサ7で検出されたホイールトルクWTの情報は、リアルタイムに補正装置2に送信される。
【0024】
WTセンサ7としては、車両1の駆動輪のホイールトルクを検出できる限り、その構造も取り付け位置も特に限定されない。ホイールトルクセンサとしては、様々な種類のものが市販されており、その構成については周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、WTセンサ7によらず、ホイールトルクを検出することも可能であり、例えば、エンジンの制御装置から得られるエンジントルクからホイールトルクを推定することもできる。
【0025】
車両1には、車両1に加わる横方向加速度を検出する横方向加速度センサ4が取り付けられている。横方向加速度センサ4の取り付け位置は特に限定されず、適宜選択することができる。横方向加速度センサ4は、補正装置2に通信線5を介して接続されている。横方向加速度センサ4で検出された横方向加速度の情報は、車輪速情報及びホイールトルクWTの情報と同様、リアルタイムに補正装置2に送信される。
【0026】
図2は、補正装置2の電気的構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、補正装置2は、ハードウェアとしては車両1に搭載されている制御ユニットであり、I/Oインターフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインターフェース11は、横方向加速度センサ4、車輪速センサ6、WTセンサ7及び表示器3等の外部装置との通信を行うための通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム8が格納されている。プログラム8は、CD-ROM等の記憶媒体や書き込み装置からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム8を読み出して実行することにより、仮想的に回転速度取得部21、トルク取得部22、横方向加速度取得部23、比較値算出部24、線形関係特定部25、回転速度補正部26、DEL算出部27及び警報出力部28として動作する。各部21~28の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム8の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0027】
表示器3は、減圧が起きている旨をユーザに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子、液晶モニター、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。例えば、表示器3は、四輪タイヤTFL,TFR,TRL,TRRにそれぞれ対応する4つのランプを、タイヤの実際の配列に併せて配置したものとすることができる。表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(補正装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを表示器3として使用することも可能である。表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0028】
<2.減圧検出処理>
以下、
図3を参照しつつ、駆動輪タイヤT
FL,T
FRの回転速度を補正する回転速度補正処理を含む、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧を検出するための減圧検出処理について説明する。
図3に示す処理は、車両1の電気系統に電源が投入されている間、所定のタイミングで(例えば、10分に1回等)繰り返し実行される。本実施形態に係る減圧検出処理では、四輪のタイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRのうちのどのタイヤが減圧しているかが特定される。より具体的には、以下の14個のパターンで、減圧タイヤを検出することができる。
(1)T
FLのみ減圧
(2)T
FRのみ減圧
(3)T
RLのみ減圧
(4)T
RRのみ減圧
(5)T
FL,T
FRのみ減圧
(6)T
FL,T
RLのみ減圧
(7)T
FL,T
RRのみ減圧
(8)T
FR,T
RLのみ減圧
(9)T
FR,T
RRのみ減圧
(10)T
RL,T
RRのみ減圧
(11)T
FL,T
FR,T
RLのみ減圧
(12)T
FL,T
RL,T
RRのみ減圧
(13)T
FL,T
FR,T
RRのみ減圧
(14)T
FR,T
RL,T
RRのみ減圧
【0029】
ステップS1では、回転速度取得部21がV1~V4を取得する。ここで、V1~V4は、それぞれタイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度、すなわち、車輪FL,FR,RL,RRの車輪速である。回転速度取得部21は、所定のサンプリング周期ΔTにおける車輪速センサ6からの出力信号を受信し、これを車輪速V1~V4に換算する。
【0030】
続くステップS2では、トルク取得部22が、車両1のホイールトルクWTを取得する。トルク取得部22は、WTセンサ7からの出力信号を受信し、これをホイールトルクWTに換算する。なお、このとき受信されるWTセンサ7の出力信号は、直近のステップS1で受信された車輪速センサ6の出力信号と同時刻又は概ね同時刻のデータである。
【0031】
続くステップS3では、横方向加速度取得部23が、車両1に加わる横方向加速度αを取得する。横方向加速度取得部23は、横方向加速度センサ4からの出力信号を受信し、これを横方向加速度αに換算する。なお、このとき受信される横方向加速度センサ4の出力信号は、直近のステップS1で受信された車輪速センサ6の出力信号と同時刻又は概ね同時刻のデータである。
【0032】
続くステップS4では、比較値算出部24が、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度V1~V4から、前輪タイヤの回転速度と後輪タイヤの回転速度との比較値H1,H2を算出する。比較値H1,H2とは、前輪の車輪速が大きいほど小さくなり且つ後輪の車輪速が大きいほど大きくなる値、あるいは、前輪の車輪速が大きいほど大きくなり且つ後輪の車輪速が大きいほど小さくなる値である。
【0033】
比較値H1,H2は上記特徴を有する限り、様々な方法で定義することができるが、本実施形態では、H1及びH2は、以下の式に従って算出される。すなわち、本実施形態では、比較値H1は、一方の駆動輪タイヤである左前輪タイヤTFLの回転速度V1と、該駆動輪タイヤTFLと同じく車両1の左側に装着された従動輪タイヤである左後輪タイヤTRLの回転速度V3とを比較する比較値であり、前者に対する後者の比の形式で表される。比較値H2は、他方の駆動輪タイヤである右前輪タイヤTFRの回転速度V2と、該駆動輪タイヤTFRと同じく車両1の右側に装着された従動輪タイヤである右後輪タイヤTRRの回転速度V4とを比較する比較値であり、前者に対する後者の比の形式で表される。
H1=V3/V1
H2=V4/V2
【0034】
他の実施形態では、以下のように定義することもできる。
H1=V32/V12
H2=V42/V22
【0035】
あるいは、H1及びH2は、次のように定義することもできる。
H1=V4/V1
H2=V3/V2
【0036】
以上のように定義される比較値H1は、2つの前輪タイヤTFL,TFR及び2つの後輪タイヤTRL,TRRのうち、一方の前輪タイヤの回転速度と一方の後輪タイヤの回転速度とを比較する比較値である。また、以上のように定義される比較値H2は、2つの前輪タイヤTFL,TFR及び2つの後輪タイヤTRL,TRRのうち、他方の前輪タイヤの回転速度と他方の後輪タイヤの回転速度とを比較する比較値である。
【0037】
ステップS1~S4で取得された、同時刻又は概ね同時刻における車輪速V1~V4、ホイールトルクWT、横方向加速度α及び比較値H1,H2のデータセットは、RAM14又は記憶装置15に蓄積される。ステップS1~S4は繰り返し実行され、蓄積されたデータセット数が予め設定した数N以上になると、処理はステップS5に進む。
【0038】
ステップS5では、線形関係特定部25が、RAM14又は記憶装置15に蓄積されたホイールトルクWT、横方向加速度α及び比較値H1,H2のデータセットに基づいて、ホイールトルクWTと比較値H1,H2との関係を表す線形モデルをそれぞれ特定する。さらに、その後のステップS6では、ステップS5で特定された線形モデルに基づいて、タイヤのスリップの影響がキャンセルされた駆動輪タイヤの回転速度V1′,V2′を得ることができる。こうして得られた回転速度V1′,V2′は、本実施形態では、DLR方式のタイヤの減圧検出に使用される。回転速度V1′,V2′を用いることにより、タイヤのスリップの影響をキャンセルした減圧指標値DEL1~DEL3が得られるので、タイヤの減圧検出の精度をより向上させることができる。
【0039】
以下、車両1のタイヤの回転速度からスリップの影響をキャンセルするためのステップS5,S6の原理について、
図4~
図6を用いて説明する。
【0040】
まず、ホイールトルクWTが一定値以下の場合には、タイヤにはスリップが生じない又はほとんど生じないと考えられる。しかし、ホイールトルクWTが大きくなるにつれ、駆動輪タイヤのスリップが増加する。一方で、従動輪タイヤには、あまりスリップは生じない。よって、ホイールトルクWTが増加すると、車輪速センサ6によって検出される駆動輪タイヤの回転速度が増加し、これと従動輪タイヤの回転速度との差が大きくなる。従って、ホイールトルクWTと、駆動輪タイヤの回転速度と従動輪タイヤとの回転速度の比較値H1,H2との間には、線形関係が成立する。
図4A及び
図4Bは、このことを裏付ける車両1の実験データである。
図4A及び
図4Bは、タイヤが標準内圧である条件下で計測されたホイールトルクWTとH1,H2とをそれぞれプロットしたグラフである。ここで、H1=V3/V1、H2=V4/V2である。
図4A及び
図4Bに示すとおり、取得されたホイールトルクWTと比較値H1との関係、及び、ホイールトルクWTと比較値H2との関係は、それぞれ以下の直線M1,M2の回帰式で表すことができる。
M1:H1=a1×WT+b1
M2:H2=a2×WT+b2
【0041】
しかしながら、車両1が旋回している場合、タイヤに生じるスリップのし易さが変化する。より具体的には、
図5A及び
図5Bに示すように、車両1が旋回すると、車両1に横方向加速度αが加わる。その結果、車両1の左右で荷重移動が起こり、旋回の内側のタイヤに加わる荷重が減少し、外側のタイヤに加わる荷重が増加する。その結果、内側の駆動輪タイヤではスリップが増加し、外側の駆動輪タイヤではスリップが減少する。例えば、
図5Aに示すように、車両1が左方向へ旋回(左旋回)すると、荷重が車両1の左側から右側へと移動し、旋回内側の左輪タイヤに加わる荷重が減少する一方で、旋回外側の右輪タイヤに加わる荷重が増加する。その結果、タイヤT
FLのスリップは増加し、タイヤT
FRのスリップは減少する。反対に、
図5Bに示すように、車両1が右方向へ旋回すると、荷重が車両1の右側から左側に移動し、旋回内側の右輪タイヤに加わる荷重が減少する一方で、旋回外側の左輪タイヤに加わる荷重は増加する。その結果、タイヤT
FRのスリップは増加し、タイヤT
FLのスリップは減少する。このため、ホイールトルクWTとH1,H2との線形関係が、車両1の直進時と旋回時とで変化すると考えられる。
【0042】
図6は、このことを裏付ける実験データである。
図4A及び
図4Bのグラフは、車両1の直進時に計測されたデータに基づく。一方、
図6A及び
図6Bは、車両1が左旋回していること以外は、
図4と同様の条件下で計測されたホイールトルクWTとH1,H2と関係をそれぞれプロットしたグラフである。
図6A及び
図6Bのグラフを
図4A及び
図4Bのグラフとそれぞれ比較すると、回帰直線M1はより右下がりに傾斜し、回帰直線M2はより水平に近くなるように変化していることが分かる。すなわち、左旋回ではタイヤT
FLのスリップが増加し、これに伴いV1がより大きくなり、H1がより小さくなるので、M1の傾きa1が小さくなる(-5×10
-6から-1×10
-5へと変化)。一方、タイヤT
FRのスリップは減少し、これに伴いV2がより小さくなり、H2がより大きくなるので、M2の傾きa2が大きくなる(-5×10
-6から-2×10
-6へと変化)。このため、車両1に加わる横方向加速度αの影響を考慮せずにデータを回帰させると、回帰の誤差が大きくなる。その結果、回転速度V1,V2を精度よく補正できないことがある。
【0043】
そこで、本発明者は、ホイールトルクWTと比較値H1,H2との関係を表す線形モデルを、ホイールトルクWTに対する比較値H1,H2の傾きが横方向加速度αに依存するものとしてモデル化した。すなわち、ホイールトルクWTとH1の回帰式L1及びホイールトルクWTとH2の回帰式L2をそれぞれ以下の式によって新たに定義した。回帰式L1,L2のホイールトルクWTの傾きは、横方向加速度αによって変化する要素を含んでいる。すなわち、回帰式L1,L2は、ホイールトルクWTと、実質的に横方向加速度αによらない比較値H1,H2との線形関係を表すと言える。なお、横方向加速度αを考慮するため、厳密には比較値H1,H2とホイールトルクWTとの間に線形性はないと言い得る。よって、ここでいう線形モデルとは、近似的な線形モデルである。
L1:H1=(A1×α+B1)×WT+C1
L2:H2=(A2×α+B2)×WT+C2
【0044】
ホイールトルクWTが0(N・m)である場合の比較値H1、すなわち回帰式L1の切片C1は、ホイールトルクWTの影響を受けない比較値H1である。同様に、ホイールトルクWTが0(N・m)である場合の比較値H2、すなわち回帰式L2の切片C2は、ホイールトルクWTの影響を受けない比較値H2である。また、ホイールトルクWTが比較値H1,H2に与えるスリップの影響は、横方向加速度αが大きいほど大きくなるが、C1及びC2は、横方向加速度αの影響も受けない。従って、スリップの影響がキャンセルされたタイヤTFLの車輪速V1′及びスリップの影響がキャンセルされたタイヤTFRの車輪速V2′は、タイヤTRLの車輪速V3、タイヤTRRの車輪速V4を用いて、以下の式で表される。
V1′=V3/C1
V2′=V4/C2
【0045】
また、ホイールトルクWTが0(N・m)である場合に限らず、タイヤのスリップが生じない又は殆ど生じない程度に小さいホイールトルク値を基準ホイールトルクWTRとして定め、基準ホイールトルクWTRにおける比較値H1、H2から車輪速V1′、V2′を求めることもできる。この場合、車輪速V1′及びV2′は、以下の式で表される。
V1′=V3/{(A1×α+B1)×WTR+C1}
V2′=V4/{(A2×α+B2)×WTR+C2}
【0046】
以上の原理に基づき、ステップS5では、線形関係特定部25が、回帰式L1及びL2を決定する線形パラメータA1,B1,C1,A2,B2,C2を算出する。なお、回帰式を特定するには(WT,H1,α)又は(WT,H2,α)のデータセットが各々、少なくとも3つずつ必要となる。本実施形態では、ステップS1~S4は、データセット数が所定の量N蓄積されるまで繰り返し実行される。そして、ひとたびデータセット数がNを超えた後は、新しいデータセットが1点得られるたびに、最新の所定量のデータセットを用いて線形関係が特定される。線形パラメータの特定方法は特に限定されず、例えば最小二乗法を用いることができ、演算の効率化のために、逐次最小二乗法やカルマンフィルタを用いることもできる。これにより、実質的に横方向加速度αによらない比較値H1,H2と、ホイールトルクWTとの線形関係がそれぞれ特定される。
【0047】
ステップS6では、ステップS5で特定された回帰式L1及びL2に基づいて、回転速度補正部26が、タイヤTFL,TFRの補正後の回転速度V1′,V2′を算出する。回転速度V1′,V2′は、上述のように、従動輪タイヤの回転速度V3,V4と、ホイールトルクWTが0(N・m)である場合又は基準ホイールトルクWTRである場合の比較値H1,H2とから算出することができる。
【0048】
続くステップS7では、DEL算出部27が、タイヤの減圧状態を判定するための減圧指標値DEL1~DEL3を算出する。DEL1,DEL2,DEL3は、それぞれ、以下に示す特徴を有する指標値である。
DEL1:車輪速V1,V4が大きい程大きくなり且つ車輪速V2,V3が大きい程小さくなる、或いは、車輪速V2,V3が大きい程大きくなり且つ車輪速V1,V4が大きい程小さくなる指標値
DEL2:車輪速V1,V2が大きい程大きくなり且つ車輪速V3,V4が大きい程小さくなる、或いは、車輪速V3,V4が大きい程大きくなり且つ車輪速V1,V2が大きい程小さくなる指標値
DEL3:車輪速V1,V3が大きい程大きくなり且つ車輪速V2,V4が大きい程小さくなる、或いは、車輪速V2,V4が大きい程大きくなり且つ車輪速V1,V3が大きい程小さくなる指標値
【0049】
なお、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧が進むと、それぞれの動荷重半径が小さくなるため、それぞれの車輪速V1~V4が増加し、減圧指標値DEL1~DEL3の値が変化する。本実施形態に係る減圧検出処理では、後述するステップS8において、減圧指標値DEL1~DEL3の基準値からの変化を検出することで、タイヤの減圧状態が検出される。
【0050】
DEL1~DEL3は、上記特徴を有する限り、様々な方法で定義することができるが、本実施形態では、DEL1~DEL3は、以下の式に従って算出される。
DEL1=[(V1+V4)/(V2+V3)-1]*100(%)
DEL2=[(V1+V2)/(V3+V4)-1]*100(%)
DEL3=[(V1+V3)/(V2+V4)-1]*100(%)
【0051】
他の実施形態では、例えば、背景技術の欄で述べたとおり、以下のように定義することもできる。
DEL1=[[(V1+V4)/2-(V2+V3)/2]/(V1+V2+V3+V4)]*100(%)
DEL2=[[(V1+V2)/2-(V3+V4)/2]/(V1+V2+V3+V4)]*100(%)
DEL3=[[(V1+V3)/2-(V2+V4)/2]/(V1+V2+V3+V4)]*100(%)
【0052】
あるいは、DEL1,DEL2,DEL3は、以下のように定義することもできる。
DEL1=(V12+V42)-(V22+V32)
DEL2=(V12+V22)-(V32+V42)
DEL3=(V12+V32)-(V22+V42)
【0053】
以上のとおり、DEL1は、4輪のうち、一方の対角線上に存在する二輪の車輪速が大きい程大きくなり、且つ、他方の対角線上に存在する二輪の車輪速が大きい程小さくなる指標値である。また、DEL3は、4輪のうち、左側又は右側の二輪の車輪速が大きい程大きくなり、且つ、残りの二輪の車輪速が大きい程小さくなる指標値である。一方、DEL2は、4輪のうち、前輪又は後輪の二輪の車輪速が大きい程大きくなり、且つ、残りの二輪の車輪速が大きい程小さくなる指標値である。
【0054】
ステップS7におけるDEL1~DEL3の算出が終了すると、DEL算出部27は、減圧状態の判定を行う(ステップS8)。具体的には、DEL算出部27は、まず、ステップS7で算出されたDEL1~DEL3を用いて、上述した14個の減圧タイヤのパターンのうち、一輪減圧(1)~(4)、二輪減圧(5)~(10)及び三輪減圧(11)~(14)の検出を行う。より具体的には、DEL1~DEL3のそれぞれが閾値以上増加したか、閾値以上減少したか、或いは変化量が閾値以下であるかを判定し、これらの結果の組み合わせに応じて、いずれのパターンでタイヤが減圧しているかを判定する。DEL1~DEL3の変化のパターンと、減圧タイヤのパターンとの関係は、例えば、表1の通りである。なお、ここで用いられる上限閾値及び下限閾値は、車両1を用いた実験、或いはシミュレーションにより、DEL1~DEL3のそれぞれに対し定められ、ROM13又は記憶装置15内にあらかじめ格納されているものとする。
【表1】
【0055】
DEL算出部27は、(1)~(14)のいずれかのパターンでの減圧が検出されたか否かを判定し、いずれのパターンでの減圧も検出されなかった場合には、ステップS1に戻る。一方、いずれかのパターンで減圧が検出された場合には、ステップS9に進む。
【0056】
ステップS9では、警報出力部28が、表示器3を介して減圧警報を出力する。このとき、表示器3は、どのタイヤが減圧しているかを区別して警報することもできるし、いずれかのタイヤが減圧していることのみを示すように警報することもできる。また、減圧警報は、音声出力の態様で実行することもできる。
【0057】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0058】
<3-1>
車両1の横方向加速度αのデータの取得方法は、上記実施形態で説明されたものに限定されない。例えば、車両1にヨーレートセンサが搭載されている場合、横方向加速度αは、ヨーレートセンサの出力値から取得することもできる。
【0059】
<3-2>
上記実施形態では、ステップS6で求めた車輪速V1′及びV2′は、タイヤの減圧検出処理に利用された。しかしながら、ステップS1~S6の処理はタイヤの減圧検出処理に限らず、例えば車両のブレーキの制御等、タイヤの回転速度に基づく各種制御においても採用され得る。
【0060】
<3-3>
上記実施形態では、ステップS4でH1及びH2を算出したが、車両の特性や必要に応じてH1のみ、或いはH2のみを算出することとしてもよい。この場合はタイヤTFL又はTFRのいずれかの車輪速が補正される。
【0061】
<3-4>
本発明に係るタイヤの回転速度を補正する機能は、後輪駆動車にも適用することができる。その場合には、上記実施形態と同様の処理により、駆動輪タイヤである後輪タイヤの回転速度V3,V4を補正することができる。また、同機能は、四輪駆動車にも適用することが可能であり、前輪タイヤ及び後輪タイヤのうち、より大きな駆動力が加えられるタイヤの回転速度を補正することができる。さらに、同機能は、四輪車両に限られず、三輪車両または六輪車両などにも適用することができる。
【0062】
<3-5>
比較値H1,H2は、以下のように定義することもできる。
H1=V1/V3
H2=V2/V4
この場合、下式に従って、補正後の回転速度V1′,V2′を算出することができる。
V1′={(A1×α+B1)×WTR+C1}×V3
V2′={(A2×α+B2)×WTR+C2}×V4
【0063】
或いは、比較値H1,H2は、以下のように定義することもできる。
H1=V1/V4
H2=V2/V3
この場合、下式に従って、補正後の回転速度V1′,V2′を算出することができる。
V1′={(A1×α+B1)×WTR+C1}×V4
V2′={(A2×α+B2)×WTR+C2}×V3
【0064】
或いは、比較値H1,H2は、上記実施形態でも言及したが、以下のように定義することもできる。
H1=V4/V1
H2=V3/V2
この場合、下式に従って、補正後の回転速度V1′,V2′を算出することができる。
V1′=V4/{(A1×α+B1)×WTR+C1}
V2′=V3/{(A2×α+B2)×WTR+C2}
【0065】
<3-6>
ホイールトルクWTと比較値H1,H2との関係を表す線形モデルは、上記実施形態に示したものに限られない。例えば、以下の回帰式によってもモデル化することができる。
L1′:H1=(A1×α+B1)×WT+C1+D1×α
L2′:H2=(A2×α+B2)×WT+C2+D2×α
【符号の説明】
【0066】
1 車両
2 補正装置
3 表示器
4 横方向加速度センサ
6 車輪速センサ
7 WTセンサ
21 回転速度取得部
22 トルク取得部
23 横方向加速度取得部
24 比較値算出部
25 線形関係特定部
26 回転速度補正部
27 DEL算出部(減圧指標値算出部)
28 警報出力部
FL 左前輪
FR 右前輪
RL 左後輪
RR 右後輪
TFL 左前輪タイヤ
TFR 右前輪タイヤ
TRL 左後輪タイヤ
TRR 右後輪タイヤ
V1~V4 車輪速
α 横方向加速度
DEL1~3 減圧指標値