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特許7092041薄膜トランジスタアレイおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタアレイおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20220621BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
H01L29/78 612D
H01L29/78 616A
H01L29/78 627C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018568112
(86)(22)【出願日】2018-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2018003676
(87)【国際公開番号】W WO2018150916
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017026005
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 誠
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-207704(JP,A)
【文献】特開2015-065390(JP,A)
【文献】特開2005-340771(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極間に形成されたチャネル領域とを含む薄膜トランジスタ素子をマトリクス状に並べた薄膜トランジスタアレイであって、
絶縁性材料を用いて、複数の前記薄膜トランジスタ素子にわたって形成されたストライプ形状の断線用パターンと、
前記断線用パターンに直交するとともに、複数の前記薄膜トランジスタ素子の前記チャネル領域にわたって形成され、前記断線用パターンとの交点において断線したストライプ形状の半導体パターンとをさらに含み、
前記断線用パターンは、最大膜厚が200nm以上かつ3000nm以下であり、
前記断線用パターンに用いられる絶縁性材料は、表面エネルギーが30mN/m以上である、薄膜トランジスタアレイ。
【請求項2】
前記断線用パターンは、前記断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、1つ以上の頂部を有する、請求項1に記載の薄膜トランジスタアレイ。
【請求項3】
前記断線用パターンは、前記断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、2つの頂部を有する、請求項2に記載の薄膜トランジスタアレイ。
【請求項4】
前記断線用パターンは、前記断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、前記断線用パターンの幅方向中央以外に1つの頂部を有する、請求項2に記載の薄膜トランジスタアレイ。
【請求項5】
前記断線用パターンは、前記断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、前記頂部の、その両端側の最も近い2つの変曲点に対する角度が100°以下である、請求項2から4のいずれかに記載の薄膜トランジスタアレイ。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の薄膜トランジスタアレイの製造方法であって、
絶縁基板上に、少なくともゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、及びドレイン電極を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜、ソース電極、及びドレイン電極上に、絶縁性材料を用いた印刷によってストライプ形状の断線用パターンを複数形成する工程と、
印刷によって、前記断線用パターンに直交するストライプ形状の半導体パターンを複数形成する工程とを含み、
前記半導体パターンを複数形成する工程において、前記半導体パターンは、前記断線用パターンと直交する部分において断線する、薄膜トランジスタアレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタアレイおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機、無機問わずインキ化した機能性材料を用いて、印刷法によって機能性を持った素子を作成するプリンテッドエレクトロニクスについての研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
プリンテッドエレクトロニクスについては、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子や有機太陽電池、有機薄膜トランジスタなどの有機機能性素子の開発が盛んに行われている。これらの有機機能性素子は、一般に数nmから数μm程度の膜厚を有する有機機能層を基板上にパターン形成する必要がある。
【0004】
プリンテッドエレクトロニクスの分野において用いられる印刷方式には様々なものがあるが、代表的なものとしては、昔からある凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、孔版印刷などに加えて、インキジェット印刷を代表とする比較的新しい方式などがあり、用いられるインキや基材などによって多種多様に選択される。凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、孔版印刷などは、目的とする印刷パターンに対して版を作成、使用するため有版印刷と呼ばれる。一方で、インキジェット印刷などは所望の位置に直接インキを転写させ、パターンを問わず版を用いないため無版印刷と呼ばれる。
【0005】
また、それぞれの印刷方式のなかでも使用部材などによってさらに細分化される。例えば凸版印刷法では、樹脂やゴムなどで形成されたフレキソ版と呼ばれる印刷版を用いる印刷方式をその他と区別してフレキソ印刷と呼ぶこともある。
【0006】
他にも、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等の比較的簡易な膜形成方法もある。しかしながら、これらは一般的には基板全面もしくはほぼ全面に均一に成膜することに長けており、一方で機能性素子に求められることが多い高精度のパターニングや材料の塗り分けを行うことには向いていない。
【0007】
このように、単に印刷方式といっても種種多様な方法があり、それぞれに長短が存在するため、プリンテッドエレクトロニクスにおいては目的とする構造、材料、機能性などからより適した印刷方式を選択することが必要である。
【0008】
凸版印刷法、その中でもフレキソ印刷法がプリンテッドエレクトロニクスにおいて優位である点としては、連続印刷が安定であること、インキ選択性が広いこと、比較的低粘度インキの印刷が可能であること、柔軟な版を用いるため基材等に傷をつけづらいことなどが挙げられる。
【0009】
凸版印刷法のプリンテッドエレクトロニクス分野への活用法を、近年注目されている有機半導体インキを用いた有機半導体を例として述べる。例えば、凸版印刷法の中でもフレキソ印刷を用いて有機半導体層を形成する技術(特許文献1参照)などが既に開発されている。
【0010】
凸版印刷装置の一例を、図11を用いて説明する。図11に示した凸版印刷装置では、印刷用凸版8が装着される回転式の版胴7と、凸版8の版面にインキ5を供給するためのアニロックスロール6と、アニロックスロール6にインキ5を供給するインキチャンバー3と、アニロックスロール上の余剰インキを掻き落とすドクター4と、被印刷基板2が載置される基板定盤1、を有している。ドクター4としては、金属板や樹脂板などからなるブレードや、樹脂やゴムなどを外周に形成したロールなどを使用することが多い。
【0011】
フレキソ印刷ではドットのような独立パターンを形成する場合、印刷物が版上インキの流動や乾燥の影響を強く受けるために膜厚や形状にバラツキが生じやすい。そのため、有機半導体層を複数チャネル間にまたがって形成するストライプ形状とする技術(特許文献2参照)などが研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2006-63334号公報
【文献】特開2008-235861号公報
【文献】特開2005-210086号公報
【文献】特開2015-207704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、複数のトランジスタ素子が配置された薄膜トランジスタアレイにおいては、複数チャネルに半導体材料がまたがって形成されると、トランジスタ素子間やトランジスタ-画素電極間の半導体中を電流が流れることでオフ状態での電流値が大きくなり、オンオフ比が低下してしまう。
【0014】
また、チャネル領域外の半導体層内に同一素子内のソース電極とドレイン電極を形成してしまうと、想定外の領域がチャネルとして機能してしまうため、ソース電極およびドレイン電極形成可能な範囲が狭まくなり、電極設計の自由度が低くなってしまう。
【0015】
このため、インキジェット法を用いることで所望の箇所のみ半導体層を形成し、素子分離を行うことなどが模索されている(特許文献3参照)。しかしながら、インキジェット法については、溶媒に対して溶解性が悪いことの多い有機半導体材料ではノズル近傍で材料の析出による吐出不良が起こりやすい。また、素子毎に印刷を行うため、スループットの悪化は避けられない。
【0016】
また、ストライプ形状に半導体層を形成した場合においても、オンオフ比が良好なトランジスタ素子の作成方法として、各素子間に撥液性の層を形成し、その上から半導体層をストライプ形成するトランジスタについて開発がなされている(特許文献4参照)。しかしながら、用いる半導体インキによって撥液性材料の選択や撥液性を調整する必要があることや、撥液性が強すぎる場合にさらに上部層を形成する際の邪魔になるなどの問題がある。
【0017】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、電極設計の自由度が高く、さらにオンオフ比が高く、安定的なトランジスタ特性を得ることができる薄膜トランジスタアレイの構造と、その薄膜トランジスタアレイを高スループットで製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための発明の一局面は、絶縁基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、ソース電極と、ドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極間に形成されたチャネル領域とを含む薄膜トランジスタ素子をマトリクス状に並べた薄膜トランジスタアレイであって、絶縁性材料を用いて、複数の前記薄膜トランジスタ素子にわたって形成されたストライプ形状の断線用パターンと、断線用パターンに直交するとともに、複数の薄膜トランジスタ素子のチャネル領域にわたって形成され、断線用パターンとの交点において断線したストライプ形状の半導体パターンとをさらに含み、断線用パターンは、最大膜厚が200nm以上かつ3000nm以下であり、断線用パターンに用いられる絶縁性材料は、表面エネルギーが30mN/m以上である、薄膜トランジスタアレイである。
【0019】
また、断線用パターンは、断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、1つ以上の頂部を有してもよい。
【0020】
また、断線用パターンは、断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、2つの頂部を有してもよい。
【0021】
また、断線用パターンは、断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、断線用パターンの幅方向中央以外に1つの頂部を有してもよい。
【0022】
また、断線用パターンは、断線用パターンの延伸方向に直交する断面において、頂部の、その両端側の最も近い2つの変曲点に対する角度が100°以下であってもよい。
【0024】
また、本発明の他の局面は、上述の薄膜トランジスタアレイの製造方法であって、絶縁基板上に、少なくともゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、及びドレイン電極を形成する工程と、ゲート絶縁膜、ソース電極、及びドレイン電極上に、絶縁性材料を用いた印刷によってストライプ形状の断線用パターンを複数形成する工程と、印刷によって、断線用パターンに直交するストライプ形状の半導体パターンを複数形成する工程とを含み、半導体パターンを複数形成する工程において、半導体パターンは、断線用パターンと直交する部分において断線する、薄膜トランジスタアレイの製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電極設計の自由度が高く、さらにオンオフ比が高く、安定的なトランジスタ特性を得ることができる薄膜トランジスタアレイの構造と、その薄膜トランジスタアレイを高スループットで製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、一般的な薄膜トランジスタ素子の一構成例を示す概略図である。
図2図2は、一般的な薄膜トランジスタアレイの一構成例を示す概略図である。
図3図3は、一般的な薄膜トランジスタ素子の一構成例を示す概略図である。
図4図4は、一般的な薄膜トランジスタアレイの一構成例を示す概略図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る薄膜トランジスタ素子を示す概略図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る薄膜トランジスタアレイを示す概略図である。
図7図7は、断線用パターンの断面形状の一例を示す断面図である。
図8図8は、断線用パターンの断面形状の一例を示す断面図である。
図9図9は、断線用パターンの断面形状の一例を示す断面図である。
図10図10は、凸版印刷法による印刷物挙動の説明図である。
図11図11は、一般的な凸版印刷装置の一構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ、説明する。なお各実施の形態において、同一または対応する構成要素については同一の符号を付け、実施の形態の間において重複する説明は省略する。
【0028】
一般的な薄膜トランジスタ素子100を図1に、複数の薄膜トランジスタ素子100をマトリクス状に並べて構成された薄膜トランジスタアレイ101を図2に示す。図1の(a)は、薄膜トランジスタ素子100の断面図を示し、図1の(b)は、薄膜トランジスタ素子100の平面図を示す。薄膜トランジスタ素子100は、絶縁基板11上に、ゲート電極13、キャパシタ電極(図面では省略)が形成され、その上にはゲート絶縁膜12が積層される。薄膜トランジスタ素子100は、ゲート絶縁膜12上層に、平面視においてゲート電極13と重なる領域にソース電極14とドレイン電極15との間にチャネル領域16’が形成される。チャネル領域16’に半導体層16が形成されることで薄膜トランジスタ素子100となる。必要に応じて、さらに上層に保護層や層間絶縁層、上部画素電極などが形成される(図面では省略)。
【0029】
例えば、インキジェット法を用いることで図1に示すように、半導体層16がチャネル領域のみに形成でき、図2に示すような薄膜トランジスタ素子100毎に半導体層16が分離された薄膜トランジスタアレイ101を作成することができる。しかしながら、上述した通りインキジェット法を用いた半導体層の形成は生産プロセス上の課題を抱えやすい。
【0030】
フレキソ印刷法を用いて半導体層16のストライプ印刷を行った薄膜トランジスタ素子200を図3、複数の薄膜トランジスタ素子200をマトリクス状に並べて構成された薄膜トランジスタアレイ201を図4に示す。この場合、半導体層16は、複数の薄膜トランジスタ素子200にまたがって形成されてしまう。この場合、インキジェット法に比べて生産プロセス上の課題は少ないが、上述した通り薄膜トランジスタアレイ201の機能上の問題を抱えやすい。
【0031】
本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタ素子300を図5、複数の薄膜トランジスタ素子300をマトリクス状に並べて構成された薄膜トランジスタアレイ301を図6に示す。
【0032】
図5に示すように、薄膜トランジスタ素子300は、絶縁基板11と、絶縁基板11上に形成されたゲート電極13と、絶縁基板11及びゲート電極13を覆うように形成されたゲート絶縁膜12と、ゲート絶縁膜12上に形成されたソース電極14及びドレイン電極15、18と、ソース電極14及びドレイン電極15間に形成されたチャネル領域16’とを含む。
【0033】
図5及び図6に示すように、薄膜トランジスタアレイ301は、マトリクス状に並べられた薄膜トランジスタアレイ301と、絶縁性材料を用いて、複数の薄膜トランジスタ素子300にわたって形成されたストライプ形状の断線用パターン17と、断線用パターン17に直交するとともに、複数の薄膜トランジスタ素子300のチャネル領域16’にわたって形成され、断線用パターン17との交点において断線したストライプ形状の半導体パターン16と含む。断線用パターン17は、最大膜厚が200nm以上かつ3000nm以下である。
【0034】
薄膜トランジスタアレイ301の製造方法は、絶縁基板11上に、少なくともゲート電極13、ゲート絶縁膜12、ソース電極14、及びドレイン電極15を形成する工程と、ゲート絶縁膜12、ソース電極14、及びドレイン電極15上に、絶縁性材料を用いた印刷によってストライプ形状の断線用パターン17を複数形成する工程と、印刷によって、断線用パターン17に直交するストライプ形状の半導体パターン16を複数形成する工程とを含む。
【0035】
半導体パターン16は、半導体パターン16を複数形成する工程において、断線用パターン17と直交する部分において物理的または電気的に断線する。具体的には、半導体パターン16が断線用パターン17に直交するように印刷されることで、半導体パターン16に、ゲート絶縁膜12上に印刷された部分と、断線用パターン17上に印刷された部分とが生じる。断線用パターン17は、所定の膜厚で形成されているため、2つの部分の間(断線用パターン17の幅方向端部近傍)において、半導体パターン16に薄膜トランジスタアレイ301の厚み方向にせん断力が発生する。この結果、半導体パターン16は、断線用パターン17と直交する部分、詳細には、図5に示すように、断線用パターン17の幅方向端部で切断する。半導体パターン16は、図5及び図6に示すように、断線した後に一部が断線用パターン17の上に残っていてもよい。
【0036】
薄膜トランジスタアレイ301では、半導体パターン16は、ストライプ印刷によって形成しても、断線用パターン17により断線するため、薄膜トランジスタ素子300を素子毎に分離することができる。このため、電極設計の自由度が高く、さらにオンオフ比が高く、安定的なトランジスタ特性を得ることができる薄膜トランジスタアレイ301を高いスループットで製造することができる。したがって、生産プロセス上の課題と、薄膜トランジスタアレイの機能上の課題の両方を解決することができる。
【0037】
断線用パターン17に用いられる材料は、十分な絶縁性を有したものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、断線用パターン17が半導体インキに対して強い撥液性を有していると、半導体パターン16を印刷する際に、半導体パターン16の延伸方向に対する膜厚が変動してしまうことがある。そのため、断線用パターン17と半導体パターン16とに用いる材料の濡れは良い方がよく、一般的な有機半導体インキに対しては、断線用パターン17の材料の表面エネルギーが30mN/m以上であれば、より安定的な効果が得られる。
【0038】
また、断線用パターン17は、複数の薄膜トランジスタ素子300にまたがる半導体パターン16を断線させるため、半導体パターン16の延伸方向に対して直交する方向に形成される必要があり、ある程度の膜厚が必要である。一般的に、有機薄膜トランジスタ素子の半導体層の膜厚は100nm以下であることが多く、その場合、断線用パターン17の最大膜厚は200nm以上でなければ断線形状をつくることが難しい。一方で、フレキソ印刷法により半導体パターン16を形成する場合、断線用パターン17の最大膜厚が3000nmを超えると、半導体インキがゲート絶縁層12に十分に接触しないため、転写性が悪化する。
【0039】
また、断線用パターン17は、断線用パターン17の延伸方向に直交する断面における断面形状(以下、便宜的に断面形状という)が、緩やかな凸形状や矩形形状であると、半導体パターン16を断線できないおそれがある。図7乃至図9に、断線用パターン17の断面形状の例を示す。図7乃至図9に示すように、断線用パターン17の断面形状は、頂部19の、その両端側の最も近い2つの変曲点20に対する角度θが重要である。(ここで、変曲点とは、断面形状の輪郭線における、曲率の変化率の極大点、または、端点を意味する。)すなわち、半導体パターン16の形成時における断線を確実に行うためには、頂部19と、頂部19の両側において頂部に最も近い2つの変曲点20のそれぞれとを結んだ仮想的な直線のなす角度θは100°以下であることが望ましい。それより大きい角度では、半導体インキの粘度やレベリング性によっては、一部半導体パターン16がつながったままになってしまう場合がある。
【0040】
断線用パターン17の断面形状は、図7に示すように凸型形状であっても良いが、図8に示すように、2つの頂部19を有する凹型形状であってもよい。また、図9に示すように、頂部19が断面形状の幅方向中央以外に位置するような形状の方が、より容易に半導体パターン16を断線することができる。
【0041】
このような断面形状を形成する方法の一つとして、凸版印刷法が利用できる。凸版印刷法による印刷のインキの形状変化を図10に示す。まず、図11に示した凸版8上の凸部10のインキ5が基板2に押し付けられる(図10の(a))、その後凸部10が基板2から離れることでインキ5は凸部10と基板2とに分かれて転写され、インキ内の溶媒が乾燥することで図10の(b)のように印刷物9が形成される。印刷速度や環境、乾燥状態等を調整することで、図10の(a)の状態を維持したまま図10の(c)のような印刷物9を形成することができる。
【0042】
絶縁基板11に用いられる材料は、特に限定されるものではないが、ガラス基板やシリコンウェハなどが利用しやすい。フレキシブルなトランジスタを形成したい場合にはフレキシブルな基板を用いることが必要である。その場合、一般的にはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネートなどのプラスチック材料が用いられやすい。材料によって強度や耐熱性が異なるため、各製造プロセスに適した材料を選択すると良い。
【0043】
ゲート電極13、ソース電極14、ドレイン電極15などの電極材料に用いられる材料は、特に限定されるものではないが、一般的には金、白金、銀、ニッケル等金属や酸化物膜、導電性高分子などがある。また、各電極の形成方法は、特に限定されるものではなく、他層への影響を鑑みて蒸着やスパッタなどのドライプロセスや塗工、印刷などのウェットプロセスなどを用いることができる。
【0044】
ゲート絶縁膜12に用いられる材料は、特に限定されるものではなく、ゲート絶縁膜12として十分な機能を果たすのであれば自由に選択できる。一般的には、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂などや、PETやPEN、PESなどを用いても良い。
【0045】
半導体パターン16に用いられる材料は、特に限定されるものではなく、有機半導体材料として一般的に用いられるものとして、ポリイオフェン、ポリアリルアミン、フルオレンビチオフェン共重合体、およびそれら誘導体といった高分子系材料、ペンタセン、テトラセン、銅フタロシアニン、ペニレン、およびそれら誘導体といった低分子材料などを用いることができる。
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、有機薄膜トランジスタアレイ301は、複数の薄膜トランジスタ素子300にわたる断線用パターン17を有することで、複数の薄膜トランジスタ素子300をまたがる形でストライプ形状の半導体パターン16を印刷しても、半導体パターン16を各薄膜トランジスタ素子300で断線できるため、各薄膜トランジスタ素子300を電気的に独立させることができる。そのため、でき上がった素子のオンオフ比は高く、トランジスタ特性は安定的である。また、半導体パターン16及び断線用パターン17は、パターニング方法が比較的簡易なため、有機薄膜トランジスタアレイ301を高スループットで製造することができる。
【実施例
【0047】
(実施例1)
絶縁基板11としてガラスを用いた薄膜トランジスタアレイ301を作成した。薄膜トランジスタアレイ301には、縦100個、横100個の薄膜トランジスタ素子300が等間隔に配置されている。
【0048】
薄膜トランジスタ素子300の作成について説明する。ガラスを用いた絶縁基板11上に、銀インキを印刷、ホットプレート上、180℃で1時間乾燥を行い、膜厚100nmのゲート電極13及びキャパシタ電極を形成した。
【0049】
次に、ポリビニルフェノールをスピンコート法により塗布し、ホットプレート上、180℃で1時間乾燥を行い、ゲート絶縁膜12を形成した。
【0050】
ゲート絶縁膜12上に、銀インキを印刷、ホットプレート上、180℃で1時間乾燥を行い、膜厚100nmのソース電極14、ドレイン電極15を形成し、チャネル領域を画定した。
【0051】
断線用パターン17として、エポキシ樹脂材料のペーストをフレキソ印刷によって形成した。フレキソ印刷に用いた印刷機は図11に示したものを用いた。印刷後、ホットプレート上、200℃で1時間乾燥を行った。印刷速度を調整することで、断線用パターン17の断面形状を調整した。形成された断線用パターン17の膜厚は3000nmであった。断線用パターン17の断面形状は、図8に示すような凹型になっており、一方の頂部と、頂部の両側において頂部に最も近い2つの変曲点のそれぞれとを結んだ仮想的な直線のなす角度は約70°であり、他方側は65°であった。使用したエポキシ樹脂材料の表面エネルギーは30.9mN/mであった。
【0052】
半導体材料として、TIPSペンタセンをテトラリンで1.0重量%になるように調液した半導体インキを用い、フレキソ印刷によって印刷を行い、半導体パターン16を形成した。フレキソ印刷に用いた印刷機は図11に示したものを用いた。凸版として、ストライプ形状に感光性樹脂凸部が形成されたものを用いた。断線用パターン17と直交し、かつ複数の薄膜トランジスタ素子300中のチャネル領域16’を跨ぐ方向に半導体材料を、膜厚が55nmのストライプ形状になるよう印刷した。印刷後、オーブンを用いて150℃で1時間、1から4hPa下にて乾燥を行った。薄膜トランジスタアレイ301中では、1つの半導体パターン17ストライプが100個薄膜トランジスタ素子300を跨ぎ、100列の半導体パターンパターン17が並ぶように印刷を行った。
【0053】
保護層材料として、含フッ素化合物であるフッ素系樹脂を用い、フレキソ印刷によって保護層を形成した。フレキソ印刷に用いた印刷機は図11に示したものを用いた。凸版として、ストライプ形状に感光性樹脂凸部が形成されたものを用い、保護層が半導体層を全面カバーするように印刷した。印刷後、ホットプレート上、150℃で1時間乾燥を行った。
【0054】
層関絶縁膜材料として、エポキシ樹脂材料のペースト用い、スピンコート法およびフォトリソグラフィー法によって形成した。
【0055】
上部画素電極として、銀ペーストをスクリーン印刷によって形成した。
【0056】
(実施例2)
断線用パターン17の膜厚が1500nmになるよう印刷したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0057】
(実施例3)
断線用パターン17の膜厚が200nmになるよう印刷したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0058】
(比較例1)
断線用パターン17形成工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様とした。
【0059】
(比較例2)
断線用パターン17の膜厚が3300nmであること以外は、実施例1と同様とした。
【0060】
(比較例3)
断線用パターン17の膜厚が150nmであること以外は、実施例1と同様とした。
【0061】
(比較例4)
断線用パターン17に用いたエポキシ樹脂材料の表面エネルギーが、28.5mN/mのものを用いたこと以外は、実施例1と同様とした。
【0062】
<評価>
こうして作製した実施例1~3及び比較例1~4に係る薄膜トランジスタアレイ201、301内の薄膜トランジスタ素子200、300を無作為に100個選び、トランジスタ特性を測定した。測定されたオン電流値、オンオフ比について、それぞれ比較を行った。
【0063】
実施例1、実施例2、実施例3の素子のオンオフ比は、良好な値が得られ、アレイ内における分布も安定的であった。比較例1の素子は、実施例1に比べてオンオフ比が悪かった。比較例2、比較例3、比較例4の素子は、一部実施例1の素子に比べてオンオフ比が悪い素子がアレイ内で点在していた。また、比較例2の素子は、一部半導体層が形成されておらず特性測定ができない素子がアレイ内で点在していた。
【0064】
以上の結果から、本発明に係る薄膜トランジスタアレイの製造方法によって、良好なオンオフ比と、安定的なトランジスタ特性とを有する薄膜トランジスタアレイが得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、電極設計の自由度が高く、オンオフ比が高く、安定的なトランジスタ特性を得ることができる薄膜トランジスタアレイを高スループットで製造したい場合に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 ステージ
2 基板
3 インキチャンバー
4 ドクター
5 インキ
6 アニロックスロール
7 版胴
8 凸版
9 印刷物
10 凸部
100、200、300 薄膜トランジスタ素子
101、201、301 薄膜トランジスタアレイ
11 絶縁基板
12 ゲート絶縁膜
13 ゲート電極
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 半導体層、半導体パターン
17 断線用パターン
18 断線用パターンに隠されたドレイン電極
19 頂部
20 変曲点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11