(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-20
(45)【発行日】2022-06-28
(54)【発明の名称】推定装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
F16D 48/02 20060101AFI20220621BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20220621BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
F16D48/02 640U
F16H61/02
F16H59/14
F16D48/02 640P
(21)【出願番号】P 2019045822
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】矢作 修一
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-90179(JP,A)
【文献】特開平10-153256(JP,A)
【文献】特開平7-35229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/00
F16H 59/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の回転動力を変速機に伝達するクラッチ装置の特性を推定する推定装置であって、
前記変速機の変速進行過程のイナーシャフェーズにおける前記動力源の回転速度が一定である定速期間中の前記動力源の発生トルクを平均した発生平均トルクと、ドライバの要求に基づくトルクであるドライバ要求トルクとを取得するトルク取得部と、
前記トルク取得部が取得した前記発生平均トルク及び前記ドライバ要求トルクのトルク差が閾値以上である場合に、前記クラッチ装置の伝達トルクを調整する油圧を制御するバルブに通電するバルブ電流を、前記トルク差に基づいて補正する電流補正部と、
前記電流補正部が補正した前記バルブ電流を用いて、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示すクラッチ特性を推定する特性推定部と、
を備える、推定装置。
【請求項2】
前記特性推定部は、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示す特性マップにおいて、一の伝達トルクに対して前記電流補正部による補正後の前記バルブ電流から、他の伝達トルクに対応するバルブ電流を推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記特性マップは、少なくとも前記伝達トルクを示す軸を含む複数軸で規定されたマップであり、
前記特性推定部は、一の伝達トルクに対して前記電流補正部による補正後の前記バルブ電流から、前記特性マップにおいて予め定められた複数の格子点での前記バルブ電流を推定する、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
動力源の回転動力を変速機に伝達するクラッチ装置の特性を推定する推定方法であって、
前記変速機の変速進行過程のイナーシャフェーズにおける前記動力源の回転速度が一定である定速期間中の前記動力源の発生トルクを平均した発生平均トルクと、ドライバの要求に基づくトルクであるドライバ要求トルクとを取得するステップと、
前記トルク取得部が取得した前記発生平均トルク及び前記ドライバ要求トルクのトルク差が閾値以上である場合に、前記クラッチ装置の伝達トルクを調整する油圧を制御するバルブに通電するバルブ電流を、前記トルク差に基づいて補正するステップと、
補正した前記バルブ電流を参照して、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示すクラッチ特性を推定するステップと、
を有する、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置の特性を推定する推定装置及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、動力源の回転動力を変速機に伝達するクラッチ装置が設けられている。変速機の変速中に、動力源からクラッチ装置を介して変速機に伝達されるクラッチ装置の伝達トルクを適宜制御することで、変速ショックの発生等を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッチ装置においては、経年劣化等に起因して(例えば、クラッチ装置の摩擦部材が経年劣化して摩擦係数に変化が生じる)、クラッチ装置の伝達トルクの制御精度が低下してしまい、変速ショックを引き起こすおそれがある。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、クラッチ装置の特性を効果的に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、動力源の回転動力を変速機に伝達するクラッチ装置の特性を推定する推定装置であって、前記変速機の変速進行過程のイナーシャフェーズにおける前記動力源の回転速度が一定である定速期間中の前記動力源の発生トルクを平均した発生平均トルクと、ドライバの要求に基づくトルクであるドライバ要求トルクとを取得するトルク取得部と、前記トルク取得部が取得した前記発生平均トルク及び前記ドライバ要求トルクのトルク差が閾値以上である場合に、前記クラッチ装置の伝達トルクを調整する油圧を制御するバルブに通電するバルブ電流を、前記トルク差に基づいて補正する電流補正部と、前記電流補正部が補正した前記バルブ電流を用いて、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示すクラッチ特性を推定する特性推定部とを備える推定装置を提供する。
【0007】
また、前記特性推定部は、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示す特性マップにおいて、一の伝達トルクに対して前記電流補正部による補正後の前記バルブ電流から、他の伝達トルクに対応するバルブ電流を推定することとしてもよい。
【0008】
また、前記特性マップは、少なくとも前記伝達トルクを示す軸を含む複数軸で規定されたマップであり、前記特性推定部は、一の伝達トルクに対して前記電流補正部による補正後の前記バルブ電流から、前記特性マップにおいて予め定められた複数の格子点での前記バルブ電流を推定することとしてもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、動力源の回転動力を変速機に伝達するクラッチ装置の特性を推定する推定方法であって、前記変速機の変速進行過程のイナーシャフェーズにおける前記動力源の回転速度が一定である定速期間中の前記動力源の発生トルクを平均した発生平均トルクと、ドライバの要求に基づくトルクであるドライバ要求トルクとを取得するステップと、前記トルク取得部が取得した前記発生平均トルク及び前記ドライバ要求トルクのトルク差が閾値以上である場合に、前記クラッチ装置の伝達トルクを調整する油圧を制御するバルブに通電するバルブ電流を、前記トルク差に基づいて補正するステップと、補正した前記バルブ電流を参照して、前記伝達トルクと前記バルブ電流の関係を示すクラッチ特性を推定するステップとを有する推定方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クラッチ装置の特性を効果的に推定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一の実施形態に係る車両1の構成の一例を説明するための模式図である。
【
図2】制御装置90の機能構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】特性マップの更新方法の一例を説明するための模式図である。
【
図4】特性マップの更新処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<車両の構成>
本発明の一の実施形態に係る車両の構成について、
図1を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、一の実施形態に係る車両1の構成の一例を説明するための模式図である。車両1は、例えばトラックである。車両1は、
図1に示すように、エンジン10と、クラッチ装置20と、変速機30と、油供給部70と、検出センサ80と、制御装置90を有する。
【0014】
エンジン10は、車両1の動力源であり、例えばディーゼルエンジンやガソリンエンジンである。エンジン10は、クランクシャフト11を有する。クランクシャフト11は、クラッチ装置20を介して変速機30(具体的には、第1変速機入力軸31及び第2変速機入力軸32)に接続されている。
【0015】
クラッチ装置20は、ここでは油圧作動式のクラッチであり、エンジン10の回転動力を変速機30に伝達する。クラッチ装置20は、エンジン10のクランクシャフト11と一体回転するクラッチハブ21を有する。クラッチ装置20は、ここではデュアルクラッチ装置であり、第1クラッチ22と、第2クラッチ26を有する。
【0016】
第1クラッチ22は、例えば湿式多板クラッチである。第1クラッチ22は、第1クラッチドラム22aと、第1クラッチプレート22bと、第1ピストン22cと、第1油圧室22dと、第1リターンスプリング22eを有する。第1クラッチドラム22aは、変速機30の第1変速機入力軸31と一体回転する。第1クラッチプレート22bは、複数枚のフリクションプレート及びセパレートプレートを交互に配置したものである。第1ピストン22cは、第1クラッチプレート22bを圧接している。第1油圧室22dには、油供給部70から作動油が供給される。第1リターンスプリング22eは、第1ピストン22cを付勢している。なお、第1クラッチプレート22bのフリクションプレートには、不図示の摩擦部材が設けられている。
【0017】
第1クラッチ22においては、油供給部70から第1油圧室22dに供給される作動油の圧力(以下、作動油圧と呼ぶ)によって、第1ピストン22cが出力側(
図1の右側)にストローク(移動)する。これにより、第1クラッチプレート22bが圧接されて、動力を伝達する係合状態(接状態)となる。一方で、第1油圧室22dの作動油圧が解放されると、第1ピストン22cが第1リターンスプリング22eの付勢力によって入力側(
図1の左側)にストローク(移動)する。これにより、第1クラッチ22は、動力伝達を遮断する解放状態(断状態)となる。
【0018】
第2クラッチ26は、例えば湿式多板クラッチである。第2クラッチ26は、第1クラッチ22と同様に、第2クラッチドラム26aと、第2クラッチプレート26bと、第2ピストン26cと、第2油圧室26dと、第2リターンスプリング26eを有する。第2クラッチ26においても、第1クラッチ22と同様に、第2油圧室26dの作動油圧によって係合状態又は解放状態となる。
【0019】
油供給部70は、
図1に示すように、オイルストレーナ72と、主供給ライン73と、オイルポンプ74と、第1供給ライン75と、第1電磁バルブ76と、第2供給ライン77と、第2電磁バルブ78を有する。オイルストレーナ72は、オイルパン71内の作動油に浸漬されている。主供給ライン73は、オイルストレーナ72に接続されている。オイルポンプ74は、主供給ライン73に設けられている。第1供給ライン75は、第1油圧室22dに作動油を供給する。第1電磁バルブ76は、第1供給ライン75に設けられており、第1油圧室22dへの作動油圧を制御する。第2供給ライン77は、第2油圧室26dに作動油を供給する。第2電磁バルブ78は、第2供給ライン77に設けられており、第2油圧室26dへの作動油圧を制御する。
【0020】
変速機30は、クラッチ装置20を介してエンジン10から伝達されるトルクや回転数を、車両の走行条件に合わせて増減等させる。変速機30は、
図1に示すように、第1変速機入力軸31と、第2変速機入力軸32と、変速機出力軸33と、副軸34と、副変速部40と、主変速部50を有する。
【0021】
第1変速機入力軸31及び第2変速機入力軸32は、入力側に配置された副変速部40に設けられている。変速機出力軸33は、出力側に配置された主変速部50に設けられている。変速機出力軸33は、デファレンシャルギヤ装置等を介して車両1の左右駆動輪に連結されたプロペラシャフトと接続されている。副軸34は、第1変速機入力軸31、第2変速機入力軸32及び変速機出力軸33に平行に設けられている。
【0022】
副変速部40は、第1入力主ギヤ41a及び第1入力副ギヤ41bを含む第1スプリッタギヤ対41と、第2入力主ギヤ42a及び第2入力副ギヤ42bを含む第2スプリッタギヤ対42とを有する。第1入力主ギヤ41aは、第1変速機入力軸31に一体回転可能に設けられている。第1入力副ギヤ41bは、副軸34に一体回転可能に設けられ、第1入力主ギヤ41aと常時噛み合っている。第2入力主ギヤ42aは、第2変速機入力軸32に一体回転可能に設けられている。第2入力副ギヤ42bは、副軸34に一体回転可能に設けられ、第2入力主ギヤ42aと常時噛み合っている。
【0023】
主変速部50は、複数の出力ギヤ対51と、複数のシンクロメッシュ機構55とを有する。複数の出力ギヤ対51は、それぞれ、出力主ギヤ51aと、出力副ギヤ51bとを有する。出力主ギヤ51aは、変速機出力軸33に回転自在に設けられている。出力副ギヤ51bは、副軸34に一体回転可能に設けられ、出力主ギヤ51aと常時噛み合っている。複数のシンクロメッシュ機構55は、それぞれ、例えばスリーブやシンクロナイザリング、ドグギヤ等を有する。シンクロメッシュ機構55は、スリーブをシフト移動することにより、変速機出力軸33と出力主ギヤ51aを選択的に係合状態(ギヤイン状態)又は非係合状態(ニュートラル状態)に切り替える。
【0024】
検出センサ80は、車両1の状態や動作を検出する。検出センサ80は、ここでは複数のセンサを含む。例えば、検出センサ80は、エンジン10の回転数を検出するセンサ、アクセルペダルの踏み込み量に応じたエンジン10の燃料噴射量を検出するセンサ、第1変速機入力軸31と第2変速機入力軸32の回転数を検出するセンサ、変速機出力軸33から車両1の車速を検出するセンサ等を含む。また、検出センサ80は、第1油圧室22d及び第2油圧室26dに供給される油温度を検出するセンサを含む。検出センサ80の各種センサの検出結果は、制御装置90に出力される。
【0025】
制御装置90は、エンジン10、クラッチ装置20と、変速機30等の各種制御を行う。制御装置90は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を有する。本実施形態では、制御装置90は、クラッチ装置20の特性を推定する推定装置に該当する。
【0026】
図2は、制御装置90の機能構成を説明するためのブロック図である。制御装置90は、
図2に示すように、記憶部91aと、制御部91bを有する。
記憶部91aは、制御部91bにより実行されるプログラムや各種のデータを記憶している。例えば、記憶部91aは、クラッチ装置20の特性を示す特性マップを記憶している。
【0027】
制御部91bは、記憶部91aに記憶されたプログラムを実行することで、クラッチ装置20の特性を推定する処理を実行する。制御部91bは、クラッチ特性を推定するために、変速制御部92と、クラッチ制御部93と、回転制御部94と、トルク取得部95と、電流補正部96と、特性推定部97としての機能を有する。
【0028】
変速制御部92は、変速機30の動作を制御する。変速制御部92は、エンジン10の回転状態や車両1の走行状態等に基づいて、変速機30を適切な変速段にシフトアップ又はシフトダウンさせる。変速制御部92は、変速シフタ58(
図1)を動作させることで、変速機30を適切な変速段にシフトチェンジさせる。
【0029】
クラッチ制御部93は、クラッチ装置20の動作を制御する。クラッチ制御部93は、変速制御部92から送信される指令に応じて、第1クラッチ22及び第2クラッチ26の係合/解放を切り替えるクラッチ架け替え制御を行う。なお、クラッチ制御部93は、後述するクラッチ特性を示す特性マップに基づいて、第1クラッチ22及び第2クラッチ26の制御を行う。
【0030】
回転制御部94は、変速機30の変速進行過程でのエンジン10の回転速度を制御する。例えば、回転制御部94は、変速機30のトルクフェーズ後のイナーシャフェーズにおいて、エンジン10の回転速度を所定期間に亘って一定に制御する。ここで、トルクフェーズ及びイナーシャフェーズは、それぞれ自動変速の進行途中で生じる変速過程の1つである。トルクフェーズは、現ギヤ段の第1クラッチ22及び第2クラッチ26が係合状態から解放状態に徐々に移行すると共に、次のギヤ段の第1クラッチ22及び第2クラッチ26が解放状態から係合状態に徐々に移行するフェーズである。イナーシャフェーズは、解放側の第1クラッチ22及び第2クラッチ26が完全に解放されると共に、係合側の第1クラッチ22及び第2クラッチ26がスリップ状態から完全に係合され、その間にシフトアップの場合にはエンジン回転速度を低下させる一方、シフトダウンの場合にはエンジン回転速度を上昇させるフェーズである。
【0031】
トルク取得部95は、エンジン10の発生トルク(エンジントルク)や、ドライバの要求に基づくトルクであるドライバ要求トルクを取得する。例えば、トルク取得部95は、車両1の状態を検出する検出センサ80から検出結果を受け、発生トルクやドライバ要求トルクを求める。例えば、トルク取得部95は、検出センサ80が検出したエンジン10の燃料噴射量等から、発生トルクを求める。また、トルク取得部95は、検出センサ80が検出したアクセルペダルの開度及びエンジン10の回転数等から、ドライバ要求トルクを求める。
【0032】
本実施形態では、トルク取得部95は、トルクフェーズ後のイナーシャフェーズにおいて、エンジン10の回転速度が一定である定速期間中のエンジン10の発生トルクを平均した発生平均トルクを取得する。なお、上記の定速期間は、実際には、エンジン10の回転速度が若干変動(一例として30rpm)することを許容する期間である。なお、定速期間中のエンジン10の発生トルクは、トルク装置20の伝達トルクと同じ大きさである。また、トルク取得部95は、定速期間中のドライバ要求トルクを平均したドライバ要求平均トルクを取得する。すなわち、トルク取得部95は、同一の定速期間中の発生平均トルク及びドライバ要求平均トルクを取得する。
【0033】
電流補正部96は、クラッチ装置20の接断を切り替える油圧を制御する第1電磁バルブ76(
図1参照)及び第2電磁バルブ78(
図1参照)に通電するバルブ電流を補正する。具体的には、まず、電流補正部96は、トルク取得部95が取得した発生平均トルク及びドライバ要求平均トルクのトルク差が閾値以上であるか否かを判定する。そして、電流補正部96は、トルク差が閾値以上である場合には、バルブ電流をトルク差に基づいて補正する。一方で、電流補正部96は、トルク差が閾値未満である場合には、バルブ電流を補正しない。
【0034】
例えば、電流補正部96は、下記の式(1)又は式(2)を用いて、バルブ電流を求める。
Iclt(t+1)=Iclt(t)-αΔT ・・式(1)
Iclt(t+1)=Iclt(t)-sgn(ΔT)×γ ・・式(2)
上記の式で、Icltはバルブ電流を示し、ΔTはドライバ要求平均トルクに対する発生平均トルクの引き算を示し、α及びγは設計パラメータを示し、sgnは符号関数を示す。
【0035】
特性推定部97は、電流補正部96が補正したバルブ電流を用いて、クラッチ装置20の伝達トルク(クラッチトルク)とバルブ電流の関係を示すクラッチ特性を推定する。特性推定部97は、クラッチ特性として、伝達トルクとバルブ電流の関係を示す特性マップを更新する。
【0036】
図3は、特性マップの更新方法の一例を説明するための模式図である。特性マップは、少なくとも伝達トルクを示す軸を含む複数軸で規定されたマップである。ここでは、
図3に示すように、特性マップの横軸は、クラッチ装置20の伝達トルクであり、縦軸は、クラッチ装置20の第1油圧室22d及び第2油圧室26dに供給される油の温度(以下、油温度)である。油温度は、前述したエンジン10の定速期間中に検出センサ80によって検出された温度である。特性マップは、伝達トルク及び油温度に応じたバルブ電流を示している。なお、特性マップは、3軸以上で規定されたマップであってもよい。また、縦軸が油温度であることとしたが、これに限定されない。
【0037】
ここでは、電流補正部96がバルブ電流を補正した際の伝達トルクTa及び油温度taは、
図3の点Aのときの値であるものとする。特性推定部97は、点Aのときのバルブ電流から、点Aの周囲の点B1、B2、B3、B4におけるバルブ電流を推定する。例えば、特性推定部97は、伝達トルクT1及び油温度t1である点B1のバルブ電流を推定する。上記のように、特性推定部97は、特性マップにおいて、一の伝達トルクに対して電流補正部96による補正後のバルブ電流(点Aのバルブ電流)から、他の伝達トルクに対応するバルブ電流(点B1、B2、B3、B4のバルブ電流)を推定する。
【0038】
点B1、B2、B3、B4は、特性マップにおいて予め伝達トルク及び油温度が設定されていた格子点であり、点Aは、特性マップにおいて予め伝達トルク及び温度が設定されていなかった格子点である。例えば、特性推定部97は、公知の正規化LMS(Least Mean Square)法により、点B1、B2、B3、B4におけるバルブ電流を推定する。すなわち、特性推定部97は、一の伝達トルクに対して電流補正部96による補正後のバルブ電流から、特性マップの予め設定された格子点におけるバルブ電流を推定する。
【0039】
特性推定部97は、特性マップの点B1、B2、B3、B4以外の格子点に対しても、同様にバルブ電流を推定する。これにより、特性マップ全体のバルブ電流が、完成する。なお、特性マップにおいて点B1、B2、B3、B4に対応するバルブ電流が既に存在する場合には、特性推定部97は、点Aのバルブ電流から推定したバルブ電流に変更する。これにより、最適なバルブ電流に更新できる。
【0040】
<特性マップの更新の流れ>
制御装置90が実行する特性マップの更新の流れについて、
図4を参照しながら説明する。
【0041】
図4は、特性マップの更新処理の一例を示すフローチャートである。本フローチャートは、変速機30が変速を行うところから開始される。
【0042】
まず、制御装置90は、イナーシャフェーズに移行したか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102でイナーシャフェーズに移行したと判定された場合には(Yes)、回転制御部94は、エンジン10の回転速度を定速にする(ステップS104)。
【0043】
次に、トルク取得部95は、エンジン10の回転速度の定速期間中の発生トルクであるエンジントルク(具体的には、発生トルクを平均した発生平均トルク)と、定速期間中のドライバ要求トルク(具体的には、ドライブ要求トルクを平均したドライバ要求平均トルク)とを取得する(ステップS106)。
【0044】
次に、電流補正部96は、発生平均トルクからドライバ要求平均トルクを引き算したトルク差が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS108)。そして、ステップS108でトルク差が閾値以上であると判定された場合には(Yes)、電流補正部96は、第1電磁バルブ76及び第2電磁バルブ78のバルブ電流を、トルク差に基づいて補正する(ステップS110)。一方で、ステップS108でトルク差が閾値未満であると判定された場合には(No)、電流補正部96は、バルブ電流を補正しない。
【0045】
バルブ電流が補正されると、特性推定部97は、伝達トルクとバルブ電流の関係を示す特性マップを更新する(ステップS112)。例えば、特性推定部97は、
図3に示すように、補正した一の伝達トルクに対応するバルブ電流から、他の伝達トルクに対応するバルブ電流を推定して、特性マップを更新する。
上述した特性マップの更新処理は、その後、変速機30が変速すると再度行われる。
【0046】
<本実施形態における効果>
上述した実施形態の制御装置90は、変速機30のイナーシャフェーズにおけるエンジン10の定速期間中の発生平均トルク及びドライバ要求平均トルクの差が閾値以上である場合には、バルブ電流を補正する。そして、制御装置90は、補正したバルブ電流を用いて、クラッチ装置20の伝達トルクとバルブ電流の関係を示す特性マップを更新する。
上記のように特性マップを更新することで、伝達トルクとバルブ電流の関係を高精度に求められる。特に、バルブ電流と伝達トルクの関係は非線形の傾向を示すが、上記のように更新された特性マップを用いることで、クラッチ装置20の制御精度が向上して、変速ショックを効果的に防止できる。
【0047】
なお、上記では、クラッチ装置20がデュアルクラッチ装置であることとしたが、これに限定されない。例えば、クラッチ装置20は、シングルクラッチ装置であってもよい。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0049】
10 エンジン
20 クラッチ装置
30 変速機
76 第1電磁バルブ
78 第2電磁バルブ
90 制御装置
95 トルク取得部
96 電流補正部
97 特性推定部